「「ただいま~」」
有馬と一緒に家に入るも……誰からも返事が返って来なかった。
時間的には22時を丁度指しており、一般的な家庭ならば親が居てもおかしくない時間帯ではあるものの……この家の住人は基本的に忙しいから仕方が無い訳だけど……カナンさんの靴はあるので、恐らく寝ている可能性が非常に高い。
何故なら彼女はYouTuberだから日中よりも深夜に活動している事の方が多いのだ。
「父さん達は仕事かな?」
「今回の映画製作で営業周りだったり、各種方面に手を回してるようだから忙しいみたいよ? そもそもこの映画を作る原因だってアイさんのやらかしだし」
「……猫の名前をアクアとルビーにして誤魔化したところで、苺プロに役者として僕がいる以上は邪推されてもおかしくないからね」
休止中に猫を飼ったととある番組で言ってしまったのは、仕方が無いけど……アイの休止期間中と僕の年齢を見れば想像出来てしまうし、もしやと思う人が出てもおかしくなかったけれど……
「アイのファンって……何て言うかファンを超えてもはや信者なんじゃない?」
有馬の言う通りで、アイのファンはアイの言葉しか信じておらず、アイが内緒♡と言えばどんなに可笑しい内容でツッコミどころ満載でも『内緒かぁ~。じゃあ仕方ないなぁ~』で諦めてしまうのだ。
だからこそ、暴露系YouTuberなんかがこぞってアイの発言を考察してたりするが……結局の所”人は信じたい物を信じて嫌な所は見ない”生き物である。
芸能界で生きているからこそ僕は強く実感してしまうし……そしてこれを逆手にとっての自主製作映画であるのだ。
そして、ここからが面白いのだが……
苺プロは映画に関しては何一つ宣伝しておらず、様々なYouTuberが世間に発信しているので、宣伝費はタダで行われたおりネットニュースにもなっているのだ。
本当にバレたくない
バレたとしてもアイなら『あちゃ~バレちゃったか~実は今うちの事務所のアクアって子役の子と親子関係の映画を撮ってるんだよね~♪』とか言って上手く切り抜けられるし、寧ろ今のタイミングこそが一番ベストのお年頃なのかもしれない。
まー炎上商法と言えばそれまでだけど……しかし、仮にアイドルに子供が居たからなんだって言うのだろうか?
世の中に女性なんて幾らでもいる訳だから、やれない女に固執せず目先の女に飛び着いた方が健全だと女たらしの父さんなら首を傾げながら言いそうだし……僕自身もアイドルと関係なんてそもそも普通の一般人にはかなりハードルが高いと思うし遊ぶだけに留めて居れば良いのに……と思っている。
「……子供の存在を隠す為に自主製作映画とは言え普通は作らないし、そもそもそんなお金を用意した父さんが可笑しいんだけどね」
「確かに……普通はやらないわよね。今の時代バレたら炎上してその後は謝罪会見でグループ解散みたいな流れだし、事務所だって潰れる可能性があったのに……よく事務所は許可出したわよね?」
有馬は感心してるようだけど……実際は相当の修羅場だったみたいで、斎藤社長やミヤコさんといった一部の人にとうとう父さんの存在をバラした訳で、斎藤社長なんかは特に怒っていたが……そもそも父さんはアイの念書を持っており、それを見ればやらかしたのはアイの方だった訳だから何も言えなくなったようだ。
「まー色々と話合いをした結果……苺プロに今回の件でこれ以上迷惑をかけないように色々と契約をしたみたいだよ」
「……カミキが不憫でならないわね」
「僕もそう思うけど……父さんは父さんなりにやっぱり責任を感じていたみたいだしね」
「少なくともそれはアイじゃなくて、アクアに責任をかんじてるんじゃないかしら?」
どうなんだろう? それはそれでアイが不憫な感じなんだけど、あの念書を見せて貰ったら分かるけど……
「……一方的にアイから別れを告げられた内容だから、同情の余地は無いんだけどね」
「それはそれで興味が湧くわね。私も見せて貰えないかしら?」
意地悪な顔をし始めた有馬を見てなんだかなぁ~って思ってしまう。
「人に見せる物じゃないんだけれど……」
しかし、もしを考えてしまうけれど……もし、仮にアイが父さんとその時結婚していたら僕達家族は一体どうなっていたのか気になってしまう。
その時はゴローさんはまず居ないのは確定しているし、ルビーは僕が物心ついた時からアイの厄介限界オタクで見た目は可愛いのに全てが台無しなおバカだし……アイは芸能人としては正解かもしれないけれど、人としては駄目な部分が大きいから……父さんはアイと結婚してたら苦労が絶えなかったかもしれないな。
果たしてそれが父さんにとって幸せなのか疑問だけど……
「有馬は何か食べる? お腹空いたから何か作るけど?」
「え……? アクアは何か作れるの?」
「一体家庭科の授業で何を習って来たのさ!」
「うるさいわね! 今時はウーバーなんかも有る訳だし、そっちの方が便利なのよ」
「……ニノさんやカナンさんの為にも何かやってあげたら?」
「……私だって分かってるんだけど、カミキの家って人を堕落させる天国なのよ。基本的に当番とかそんなの無いけれど……ニノとかカミキが家事を率先してやってくれるから私とかカナンなんかは甘えちゃうし……」
そんな事をリビングで喋っていた時だった。
「おはよ~。あれ? アクアとかなちゃんだけ? カミキとニノは?」
カナンさんがあくびをしながら部屋から出て来た。
寝起きなのか髪の毛が所々撥ねているけれど……薄着の所為か肌が露出しており、女子アスリートみたいに引き締まっており目が吸い寄せられる。
「二人ともまだ帰って来てないわ(です)」
「あ~じゃあご飯は作らないとかぁ~」
カナンさんは唇を尖らしながら思案して、冷蔵庫を開け始めた。
「あっバターチキンカレーがあるし!」
カナンさんは嬉しそうにカレーを取り出した。
「あの……こんな時間にカレーなんて食べたら太りますよ?」
「毎日42.195キロ走れば嫌でも痩せれるし問題無いわね」
「毎日フルマラソンしてるんですか!?」
体力お化けにも程があるよ!
「……それでもカミキには負けちゃうんだよね」
ぼそっと言った言葉の意味は良く分からないけれど、父さんが凄い事は良く分かった。