阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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【1日目】
夏の夜、運命の日


 

 聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望器。

過去の英雄をサーヴァントとして召喚し、最後の一騎になるまで争う。そしてその勝者は、聖杯を用いてすべての願望を叶える権利が与えられます。

あらゆる時代、あらゆる国の英雄がキヴォトスに蘇り、覇を競い合う殺し合い。

それが、聖杯戦争。

本来であれば誰もが願いかけて殺しあう、そんなお話。

でも貴女なら。

きっと、先生が信頼した貴女なら。

そんな未来も変えられる筈ですから。

どうか、どうか頑張って───。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ───走る。

息が詰まる、胸が苦しい、喉の奥から迫り上がる血の味を噛み締める。

 私は、阿慈谷ヒフミはその痛みを無視してひたすら足を動かして、先の見えない路地裏を駆けていく。

一体どうしてこうなったんだろう。

 

 今日はこれといって何かあったわけじゃない。

いつものように補習授業部の皆と放課後に遊んで。

アズサちゃんは先生に呼ばれて、ハナコちゃんとコハルちゃんは寮の門限があって。

 だから解散した後に一人でシラトリ区にあるペロロ様*1ショップを見に行って。

その帰り道、少しだけ近道しようとして路地裏に入って。

 そうしてその先にいた()()を魅入ってしまった。

月明かりに照らされて、燐光を纏わせて物憂げに一人佇む彼女。

それを惚けたようにほんの数秒、見てしまい。

 

 

 

ッ!誰だ……ッ!

 

 

 

振り返った彼女から叩きつけるような力強い怒鳴り声を掛けられて。

それに得体の知れない恐怖を感じて逃げ始めて。

 

「はっ……はっ……」

 

 今、路地を必死に走っている。

こうしている間も、背中に感じる酷く冷たい視線が、殺気が、捉えたまま決して離してくれない。

 だから走る。

走らなければどうなるかなんて、()()で理解してしまう。

私が通うトリニティ*2や時折訪れるブラックマーケット*3と違ってこの辺りの路地はあまり慣れていない。

それでも走る。

もつれる脚を無視して必死に駆けて、駆けて、駆けて。

 でなければ、きっと私は彼女に殺されてしまうのだから

 

 息が、荒い。

辛い、苦しい。

こんなに一生懸命、どうして走ってるんでしょう。

決まってる、怖いから。

 

「……っ!」

 

 思わず立ち止まって肩を抱きしめてしまう。

怖い、熱を帯びた鋭い殺意。

それはこれまでこのキヴォトスで何度も味わってきたものともまた違う、異様なほど痛々しくて。

 お前を殺す、言葉にしなくても伝わってくる。

上手く、呼吸ができない。

浅い息を繰り返すのは恐怖からなのかそれとも走ったからなのか。

歯がなり、無意識のうちに涙が溢れてくる。

それでも振り向かずに前へ、前へと縺れそうになる足を懸命に動かして。

 路地裏を抜けた先、普段は立ち寄らないスラム街へと脚を向ける。

目の前のその場所は張られた幾つかのテントや古びていたり建築途中だったりのビルが左右に並んでいる。

大通り、目の前の道をこのまま進めば確か駅があった筈。

そこまで一息で駆け抜けて……それともビルの物陰に入った方がいい?

もしかして下手に動かずに、どこか隠れられる場所で一晩過ごしたり……それとも先せ……

 

「それは、きっとダメです」

 

心から信頼する一人の大人の姿を思い出して、だからこそその考えを否定する。

いつもなら呼べる、お願いできる、助けてと言える。

だけど背後のアレは。

アレだけは。

どうしても駄目なのだ。

 

「時間がありません……どうしましょう……」

 

逃げなくてはいけない。

けれど、この先どうすればいいのか。

恐怖でパニックになりそうな頭を抱えて、思わず立ち竦んでしまった。

 

 

 

***

 

 

 

「おい、そこのあんた!」

 

「その制服、トリニティだな?」

 

「じゃんねじゃんね!」

 

「いけねぇよなぁ、トリニティのお嬢様*4がこんな時間にこんな場所来たらさぁ!」

 

 砂利と、音を鳴らして現れたのスケバンのような格好をした5人の少女達。

恐らくはこのスラム街を根城にしている、文字通りスケバンの人達。

トリニティでも普段から時折見かける彼女達だ、今更こんなところで会うのだって可笑しくはない。

けれど、今は状況が拙い。

 

「ま、まままず、まずいいですー!」

 

 普段ブラックマーケットやトリニティの自治区境界線で出会う時もまずい手合い。

 

「へへっ……ついてるなぁ」

 

「アンタ、わるーいお嬢様なんだろ?視線で分かるさ」

 

「痛い事はしないじゃんね」

 

「そうそう。ちょぉっとあたしらと遊んでこうぜ……な?」

 

 だけど今はもっと『まずい』。

 

「い、今はダメです!ほんとにダメなんです!」

 

そう言ってから背中に感じる目線に感覚を研ぎ澄ませば。

 

「(あれ?少しだけ……強さが減った?)」

 

あのナイフのような殺意が僅かに減ったような、どこかこちらを観察しているような目線になったような……。

 

「なーに、ほらこっち来いって」

 

「な?仲良くしようぜ、お嬢様?」

 

「(ど、どうしたら……!?)」

 

 

 

***

 

 

 

「(こうなったら……!!)」

 

意を決して銃を構える。

 

「……はぁ?」

 

「おいおい……気でも狂ってんのか?」

 

「1対5だぜ!分かってのかよっ!」

 

「えらいハリキリ☆ガールがやってきたじゃんね!」

 

「こりゃあ慰謝料もたんまり貰わなくちゃなぁ!」

 

 焦る、心臓はバクバクと早鐘を打ってる。

でも今ここでなんとかしないと。

あの声と視線が、この子達へ向かってしまうかもしれないから。

 だから、

 

「そこを……退いて下さいー!!」

 

 構えるのはマイ・ネセシティ*5

いつも私が使っている、トリニティに入学した時からの相棒。

これまで何度もブラックマーケットの鉄火場を潜り抜けてきた戦友。

その引鉄を躊躇うことなく指で引く。

決して正義実現委員会*6の方達やアズサちゃんのようには戦えなくても、目潰しのように乱射してしまえば、切り抜けられる筈。

だから相手の頭部目掛けて気にせず闇雲に撃ち鳴らす。

 

「あだだだ……!ほんとに撃ってきやがった!」

 

「いってー!ほんとにトリニティ生かよ!?」

 

とにかく撃ち込むその合間。

叫びながら遮蔽物へと身を隠そうと必死になる彼女達へ向かって駆け寄り。

 

「ペロロ様……後はよろしくお願いします!」

 

そのまま通り過ぎる。

振り向きざまに後ろへ向かってデコイ*7を放り投げて、後は一直線に走り出す。

 

 走る、走る、走る。

 

 トリニティでも取り分け体育の成績がいいわけじゃない私だけど、それでもたかが1000m程度。

私であっても、3分もあれば走り切れる。

だから全力疾走を。

後ろで騒いでる人達には目もくれず、スラム街の通りを全力疾走する。

この1キロを走り抜ければ架道橋、その少し先には駅もある。

きっとそこまで行けばもう大丈夫。

確かあそこにはヴァルキューレの駐在所もある。

だから走って、走って、走って。

薄暗がりの架道橋に脚を踏み入れて。

 

 

 

───音が死んだ。

 

 

 

まだ暑さが残る時間だというのに、背筋を凍らせる空気が流れる。

今更気がつく。

そっか、あの視線は私だけを、目撃者だけを見てたんだ。

だから他の人がいた時は圧力が減って、今また私は一人になったから……。

 

 

 

「驚いた。随分遠くまで逃げたものだ」

 

 

 

小気味良い音が黒塗りの空間に反響する。

切れかけの電灯の光ではその姿は伺えない。

ただそこに、影があった。

 

「キヴォトスだったか、この地のヒトは誰も彼もが随分と変わった形をしているが」

 

風切音がして何かが地面に軽くぶつかった。

そうして。

 

「よもや中身まで()()とは、この私でも読めなかったぞ」

 

断末魔のように地面がその細く長く、そしてきっと鋭いナニカと擦れて引き裂かれる音がする。

 

「だが運がなかったな、娘。これも契約者からの命でな」

 

火花と共にヒールを叩く音がする。

死が、一歩、また一歩と近づく。

 

()()した者は一人の例外もなく、必ず殺すように言われている」

 

音が、止まる。

そこにいたのは、

 

「故、許せ。お前は此処までだ、

───楽園の霊長よ」

 

血色の槍をこちらに向けて静かにそう告げる美女であった。

 

 

 

***

 

 

 

 

 蛇さんに睨まれた蛙ってこんな感じなんでしょうか。

ぺたりと、腰の力が抜けてしまう。

私という人間が逆立ちしても勝てないと、感覚で理解できた。

長い、槍。その矛先が一点のブレもなく私の心臓を真っ直ぐ狙っているのが理解できる。

槍。

刃物。

武器。

キヴォトスで出回る銃器よりも遥かに旧時代的な、それでいて酷く血生臭い物。

百鬼夜行とかで出回ってるらしい銃剣とかとはまるで違う。あまりにも長くて、無骨なまでに()()()()()()()()

 そんな真紅の槍が、凍るような冷気を纏ってそこにありました。

 

「ぅ……ぁ……や……ぁ」

 

 声にならない。

歯がガチガチと鳴るばかりで叫び声を上げられない。

怖い。

怖くて仕方がない。

どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!

嫌だ。嫌だ。嫌だ!!

なのに、

 

「ぃげな……きぁ……」

 

なのに……!

 

「ぁ……あ、れ?……ぁんで……?」

 

 身体が動いてくれない。

身体中の血が凍っているように。筋肉が全て壊死したように。

万力で全身を締め上げられたかのように。

動かない。

動いてくれない。

 

「憐れな。どれ、見えていれば怖かろう……案ずるなすぐ済ます……まずは」

 

その眼を───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ヒフミに何をしている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が奔った。

 炸裂する光の衝撃。

音も臭いもないそれは、視覚そのものへと強烈な痛撃を叩き込む。

その光に瞬間、私は恐怖を忘れた。

 そして、

 

「待たせてすまない、行こうヒフミ……!」

 

誰かの温もりを感じたと思えばそのまま、引っ張られて抱かれ、その勢いのまま風を切る感覚を肌が伝えてくる。

柔らかくて、暖かくて、優しい匂い。

それが誰のものかだなんて、すぐに分かった。

 

「ぁずさ、ちゃん……!!」

 

思わず、力のこもらない手で、それでも縋るように彼女の袖を握った。

私を横抱きにして暗闇から連れ出してくれたのは、大切な親友だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「遅くなってごめん、ハナコから連絡があった」

 

ヒフミがいつになっても帰ってこない、何かあったに違いない……と。そう言いながらもアズサちゃんは私を抱えたまま走り続ける。

 

「シャーレで夜勤当番の欠員が出ていたんだ。それでこの近くに私がいた」

「でもハナコから連絡があったから、先生に断りを入れて……よかった仕込んでおいて」

「マシロに頼んで正実の分を分けてもらって正解だった」

 

やはりミレニアム製*8は優秀だなと呟く声とは裏腹に、いえ何か今すごく聞き流しちゃいけない単語があった気がしますが、とにかく!アズサちゃんの表情は優れない。

 

「…ぁずサちゃん、あの……」

 

「……ごめんヒフミ」

 

ちらと私の方を見たきり、アズサちゃんはただ謝るばかりでした。

 

「怖かったんだ、よね……ごめん……もっと早くっ、私が来ていればっ」

 

軽く、それこそその綺麗な羽も使ってフェンスを超えて跳ぶように駅へ侵入。そのまま列車の中へ、ではなく上へ。屋根へと着地すると同時にそのまま、列車は動き出しました。

 

「少し罠を用意していた。駅校舎内に入って来たのならそれなりに効果がある」

「それに……ハナコ」

 

『はい、感度良好♡ですよアズサちゃん』

 

『えっちなのは駄目!死k『はぁい♡コハルちゃんはちょっと待ってて下さいねぇ』むぅぅぅ!!』

 

 繋げっぱなしだったのだろうか、電話越しにハナコちゃんの声が聞こえる。

 

「そちらはどうだ?」

 

『既に正義実現委員会の方達とトリニティ自警団の方達が動いてくれています。近い駅から順に迎えを、この様子ならあと二駅の所で合流が可能です』

 

「助かる……地下鉄は避けたかったから」

 

『……C、ですか?』

 

「考えたくはない、けど……あれは必要ならそういう事をする手合いかもしれない……今時、槍なんて旧時代の『異物』を持ち出す相手だ、何をしてきてもおかしくない」

 

それに、と僅かながらに口ごもりながらアズサちゃんは言葉を続けました。

 

「アレを相手にするのは。多分、今のトリニティで単独で対処できるのは万全のツルギとそれから……いや、後はゲリラ戦に持ち込んで辛うじて私でもなんとかだろう」

 

『そう、ですか……それほど、なんですね?』

 

「ああ、それだけ危険だ。必要なら先生だけじゃなく他の学園にも「それは困るな」……ッ!?」

 

声が、した。

 

「やれやれ、してやられた。私も耄碌したものだ」

 

再び音が、死ぬ。

 

「一人も二人も変わらぬ、か……確かにそうだが、童を甚振る趣味はなくてな」

 

列車の上だから響いている筈の轟音も、電話越しのハナコちゃんの声も、私を抱きしめるアズサちゃんの心音も。

 

「さて小娘共、死出の用意は万端か?」

 

何もかも、今この瞬間に、目の前の美女が握っているのだと確かに理解してしまった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「が……ッ!?」

「アズサちゃん……っっ!!!」

 

 攻防は決して一瞬ではなかった。

銃も手榴弾も的確に使っていると、素人目に見てもそうだと理解できるほど、アズサちゃんは()()()()()

 

 それでも、無理だった。

当たり前だったのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

恐らく手持ちの罠の多くは先ほどの駅舎に仕掛けていて、頼れるのはその手の銃だけ。

そもそもこんな不安定な場所で、爆薬も使えなかった。

 対する彼女は正しく身軽で、だからこそその足場以外に不足な物もなくて。

 

 だからこの結末は必然と訪れてしまった。

 

 重たい一撃を撃ち込まれたアズサちゃんが悲鳴をあげて屋根の上を転がったのと、その一撃の衝撃で電車が両断された断末魔を上げたのは同時だった。

 

 今にも脱線しようと揺れる車体の上、その中でなんとかアズサちゃんを抱き止め。

そのまま宙へと投げ出される。

思わず眼をつぶってしまって、でもせめてアズサちゃんの身を守ろうとして。

 

「……ぃじょうぶ、だッ……!」

 

ふわりと、何かが包み込んで、私たちは線路に投げ出された。

 

「っぅ……」

 

 痛い。全身にくまなく痛みが走る。電車の上から投げ飛ばされたのだからそれは仕方ないと分かっているけれど、それでも痛いものは痛い。

 

「あ、アズサちゃん!?大丈夫で、す……え?」

 

痛い、痛かった。だけどその痛みが血の気と一緒に引いたと感じたのは錯覚じゃない。

羽が舞っていた。

白くてフワフワしていて、いつだって綺麗にしてる。

アズサちゃんの羽が赤色になって地面に落ちていった。

 

「あ……ああ……な、なんで……!?」

 

 すぐに分かった、線路に投げ出された。あの人が放った一撃で両断されて、崩れるように脱線した車両だってある。

それなのに、大した怪我もなく、血も流してないのは。

 

「……ひふみ?けが、は?」

 

「ないです!そんなの一つもありません!!なんで、なんでアズサちゃん!!!」

 

そんな私の声に、アズサちゃんは

 

「よ、かったぁ……」

 

そう言ってヘイローが、静かに光を喪った(意識を失った)

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

立ち上がる。

 

「ほう……逃げないのか?」

 

背には彼女がいるから。

 

「逃げません」

 

ばちりと、何かが爆ぜる音がする。

 

「お主にできる事なぞ、もう何もないだろう?」

 

あれだけ怖かった相手なのに。

 

「いいえ、あります」

 

今はただ、胸に熱く、燃えるような何かが灯る。

 

「ふむ……聞いてやろう」

 

目がちかちかと明滅を伝える。

 

「ここで貴女を倒してアズサちゃんと二人でトリニティに帰る事です」

 

急に力が抜けていく。でも、前を向く。

 

「……出来ると思ってか?」

 

気持ちは決して負けはしない。

 

「出来ます」

 

じくりと脈打ち、手の甲に灯が灯る。

 

「何度だって言います、私はアズサちゃんを連れてトリニティに帰ります」

 

キヴォトスでも見られるエーテル、それが渦となって周囲を照らす。

 

「貴女なんかに負けません」

 

かつて誰かが祈ったテクスチャが賛美する。

 

「いきなりやってきて人のことを殺そうとする貴女なんかに」

 

輝かしい命だ、青春の嬰児だ、と。

 

「私は絶対負けません!!!」

 

この娘がいい、この娘にしよう、と。

 

「私はこんな悲しい終わりなんて───」

 

故に、彼女は運命を掴み取った。

 

「絶対に認めません!!!!」

 

他ならない、彼女の想いの強さこそが世界最高の奇跡と接続される。

 

 

 

 

 

 

「───なるほど、確かにソレは大切な事だ」

 

 

 

 

 

 

声と共に。

風が、吹いた。

 

「ッ!……成る程そうか、その娘が2番目というわけか!」

 

興奮したように女は叫ぶ。

あり得ない、あってはいけない。

そんな常識の埒外な現象に相対してしまったように。

喜色すら浮かべた声を荒げる。

 

「……すまないが。僕は今、君と言葉を酌み交わすつもりはないんだ」

 

だが、男の返答は連れなかった。

銀の閃きか、空気を切り裂き騎士の腕は振るわれ。

僅か一合、槍ごと女傑を後ろへと追いやる。

その剛力もかくや、線路に二筋の轍を残すほど。

砂埃が舞う中、暫し静寂が生まれ。

そして女は身に溢れんばかりに溜まっていた闘気を、風船から空気を抜くように共に言葉を吐き出す。

 

「……いいだろう、今宵は退こう」

 

「感謝を、我らが古き先達よ」

 

「揶揄うな、聖剣使い……異邦の成りが透けて見えるぞ」

 

「それは失礼を」

 

 そういうや否や、女傑は音もなく近くのフェンスへ飛び乗る。そうして月を背にして静かに告げる。

 

「良い勇士を引いたなセイバー……いずれまた顔を」

 

そう言い、霞のように女は消えた。

 

 

 

 音が、静まり返る。

静寂が耳を伝う、そんな中で。

花が舞う。

アズサちゃんが大切な人から贈られたのだと恥ずかしそうに嬉しそうに言っていた、羽飾りの花。

それが風に吹かれて宙を舞い、月明かりに照らされて世界を彩る。

背を向けていた騎士はヒフミの方へと向き直った。

 

先の一閃でか、いつの間にかフードは外れ金紗の髪が風にそよいでいる。

柔らかげな表情はまるで御伽噺から抜け出してきた王子様のよう。

そんな男がそっとはにかむように、静かに告げる。

 

 

 

「問おう───君が僕のマスターかな?」

 

 

 

その日少女は、運命に出会った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

こうしてこの日、トリニティでも類を見ない今回の事件は静かに幕を閉じた。

明確な殺意を持って兇器を振るう「大人」の存在が現れた……それはトリニティのみならず多くの自治区で共有される事となる。

その中には当然、

 

“うん、うん……分かった、ありがとうナギサ”

“君も疲れているだろうから、無理しないで”

“大丈夫、この後、D.U.の方の処理が終わったら私もそっちに向かうから”

“それじゃあ、また”

「……トリニティのティーパーティーの方から、ですね?」

“うん、彼女もかなり心配しているようだし……私もここの処理を終えたらすぐにトリニティに”

「分かりました、そういう事でしたら残りは我々に……情報は迅速にそちらへ回します」

“助かるよ、カンナ”

「いえ、それが我々ヴァルキューレの勤めですから」

 

 

 

「キキキ……聞いたなイロハ?随分とまあ厄介ごとを抱え込んだようだぞ」

「……」

「だが、しかし解せんな。一体誰が何のためだ?これだけ大きな騒ぎを、トリニティもシャーレも敵に回して、必要以上に眼をつけられるのも厭わずにした?ん?どう思うサツキ」

「……」

「金銭でもなければ名でもなく、たかが一生徒相手に何を考えた?何が欲しかった?何が勝利条件だ?なぁチアキ」

「……」

「キヒ、キキキキキキっ!ふっ……全員寝てる」

※現在時刻23時

 

 

 

「もうっ!お姉ちゃーん!いい加減部屋でバタバタするのやめてよ!!」

「ごめんごめんごめん!!!分かった!!私が悪かったから!!ちょ!こら!動くな!!!」

「お姉ちゃんっ!!!」

「もー!ミドリに怒られたじゃん!あなたのせいだよー!!」

 

物語は次の舞台に進む。

そこにあるのは新たな運命の出会い、かもしれない。

 

*1
ヒフミがこよなく愛するモモフレンズのキャラクター。ペロロはその中の主役格であり、その外見は舌を垂らした鳥類

*2
トリニティ総合学園。伝統を重んじる、所謂お嬢様学校。巨大学園都市キヴォトスでも最大級の自治区面積を有する三大校の一つ。

*3
どの自治区にも属さず、キヴォトス内の行政を担う連邦生徒会も管理しきれていない治外法権が蔓延る闇市。ヒフミはたびたび訪れている

*4
トリニティに通う生徒達へのイメージとして富裕層の出という物がある。一般家庭から進学した学生も当然いるが、やはりその上品に紅茶を嗜む彼女達の姿は他校の生徒からは良いところのお嬢様という風に見られがちなのか、ちょくちょく身代金目当てで人質として攫われる事件が発生している。メキシコもびっくりである

*5
ヒフミちゃんがいつも持ち歩いているピンク色のアサルトライフル。他のお気に入りのグッズと同様に彼女が外出する際の必需品。この地の学生は皆一様に実銃を手にしている

*6
トリニティ総合学園の治安維持組織。トリニティでは珍しい黒いセーラー服を纏っている。

*7
ヒフミちゃんのEXスキル『助けてペロロ様!』で発動する円盤型のデコイ。発動すると中心部から防弾加工済みエアバルーン(ペロロ様モデル)が出現し挑発効果を付与する

*8
ヒント:Made in Otose

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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