阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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【前回の物資選択で施設が強化されました】
拠点改修檜の大浴槽new!


珈琲と盟約

 

 室内に響いた洒落っ気の一つもない無骨なブザー音を聞いて、暫く。

手を止めたウタハが来客が来た事に気がついたのは数瞬の時間を要した。

 

 工具を握ったまま周りを見渡す彼女は誰か出てはくれないかと淡い期待を持ったが、今この作業室兼エンジニア部臨時部室*1にヒビキとコトリの二人はいないことを思い出す。

シャワールームもとい、ついに完成した檜風呂での入浴を二人揃って楽しんでいるからだ。

 

 どうせだったら()()()()()()()()

もう少しばかり部室にいてくれたがありがたいという気持ちの反面、今日は特にまだ幼い1年生の二人に無理をさせてしまった自覚と自責をウタハは感じていた。

 

「(自分が情けないと感じるほど、強い子達ではあるけれどね)」

 

 坑道の調査。

道中で失神したコトリも、モニタリングをしていたのもあり酸い香りを漂わせて青褪めた顔で出迎えたヒビキも。

既にメンタルのコンディションを持ち直している。

負けてはいられない、と。

モモイ達が頑張っているのに直接戦場に赴かない自分達が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと、気力一つで先ほどあった会議にも参加した。

困難に挑戦する友の為。

それはミレニアム、延いてはセミナーの前身となる研究者の互助組織がその創設期に掲げたと伝え聞く在り方その物。

これからのミレニアムを担っていくに正しく相応しい自慢の後輩だ。

休めれる時ぐらいはゆっくりさせてやりたいと思うウタハの親心だった。

 

 とはいえ、いないというのはそれはそれで寂しいもの。

そんな頼れる後輩の姿がないことにため息を吐きつつ、それでも気を取り直して扉の向こうで待っている少女へと声を掛けた。

 

「やぁ、いらっしゃい。きちんと挨拶を交わすのはシャーレの当番でご一緒して以来かな?ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部部長、白石ウタハだ」

 

 現れたのは、いっそ獰猛なほどに力強い微笑を讃える烈女。

 

()()()()()()()()()()()()()()。カフェですれ違う事はあってもお互い、中々ね。レッドウィンター工務部、安守ミノリ。これから厄介になる、よろしく頼むよ」

 

今日ヒフミとモモイの同盟に加わったばかりの安守ミノリ、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械油の香りに混じって、深みのある独特な芳香が室内を漂う。

適度に効かせた空調の恩恵を受けながらジャケットを脱いでくつろぐミノリへと、ウタハは話を切り出した。

 

「しかし君から話がしたいと切り出させるとは、あぁ、珈琲でいいかな?……結構。正直思ってもいなかったよ。折角拠点に住まいを移した最初の夜だ。てっきり、今夜はヒフミさんかモモイ辺りと話すかと考えていたものさ」

 

「ヒフミとはゆっくり話をしておきたかったけれど、なに、これからまだ時間はある。あの子の胸の内はしっかり聞けているんだ、ゆっくりやるさ……うん、良い味だ。ビーカーというのがまた憎いな」

 

 視線の先。

エンジニア部だというのにわざわざ用意したカットリングを備え付けたスタンドと並々の黒い液体を湛えたビーカー。

普通科高校でいう理科室あたりで見るそれに苦笑しながら、ミノリは爽やかな酸味と香ばしいアロマに舌鼓を打った。

 

「おっ、分かる口かい?ヒフミさん達は紅茶党でね、しかも割ときっちりしているからさ。ヒビキ達もあまり理解してくれないし、子ども舌なモモイ達は言わずもがなでね。こういう女学生にしては少々枯れた趣向を共有できるのは素直に嬉しいよ」

 

 自身の出来栄えを確かめつつ、思いがけないところで自分の趣向を理解してくれる者をみつけたウタハも機嫌良さそうにマグカップに口をつける。

 

 トリニティ育ちのヒフミ達は当然のように日に四度は紅茶を口にするし、そうでない時は最近導入したコールドプレスドリンクのような健康に良さそうな物ばかり。

セイバーは大食漢な割に食の好みという物は薄く出された物を喜んで食べる人種だし、ああ見えてキャスターは英国紳士でヒフミ達と同じ紅茶党。

ヒビキ達は飲みはするが、わざわざ薬学部からちょろまかした*2使用済み*3のビーカーを使用するのを嫌がり、モモイ達はジュースの方が好き。

チヒロはともかく、時々訪れるヴェリタスの面々も大抵はエナジードリンクを好むというようにあまりウタハの淹れた珈琲を喜ぶ面々というのがこれまでいなかったのだ。

コハル?

あの子はカッコつけて意気揚々と飲んで涙目になった。

下江コハルは可愛い、それでいいのだ。

 

「これを飲んだだけでも、今日の夜に君のところを尋ねた甲斐があるというものさ……交渉に検査、それに会議と中々バタバタしたからね。この一杯が命の恵みさ」

 

 そう言ってマグカップから漂う白い香気を楽しんでいるミノリにウタハは恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。

 

「そうも褒められると照れてしまうな。近場のスーパーで揃えたような安い豆だよ?」

 

「なら腕と道具が良い。それも掛け値なしに、ね」

 

 目を瞑ったまま口の中に残る余韻と香りに浸りつつ、ミノリは軽やかに冗談めかして言う。

けれどウタハにはそれが本心からの言葉だと分かって、不意をつかれたように押し黙った。

 

 暫し、沈黙と深煎りのアロマだけが部屋を支配して。

それからウタハは肩をすくめた。

 

「やれやれ、随分と褒め上手に彼女達は声をかけてきたようだ。そんなに煽てたって私が出せるのは……ふむ、精々が機械弄りの腕ぐらいだよ?」

 

「それは有難い、ぜひ聖杯戦争が無事に終わったらうちの工具をメンテナンスでもしてやってくれ。長い事使ってる分、我々は出来る限りはしているが餅は餅屋。腕が良い人間に見てもらうのが一番だろう?」

 

目を開いてから真っ先に視界に映った頬の色には触れないままミノリがそう言うと、今度こそウタハは目を丸くしてから。

 

「……嗚呼、そうだね。何かもかも上手く終わったら.必ず君の工具を最高の状態に仕立てる。ミレニアムのマイスターとして約束しよう」

 

 己の銘を賭けて約束をする。

それは誇り。

そして、誓い。

必ずやハッピーエンドへ辿り着く。

自分達が信じた友を、後輩を。

彼女達が目指す場所まで共に歩いたその先で約束を果たすのだと、二人だけの秘密が交わされた。

 

 どちらからともなく、静かな笑いが漏れる。

不思議な話であったのだから、それも仕方はない。

片やミレニアムが誇るマイスター。

片やレッドウィンターにその名を轟かす烈女。

通う学校も、住まう自治区も違う二人が、聖杯戦争という最悪とも呼ぶべき事態があったからこそ。

こうして出会い、同じ夢を掲げて、約束を結ぶ。

それがどうしてか、面白くて二人は囁くように細い声を鳴らしてから。

 

「……贅沢な約束だ、本当に。嗚呼、もう暫くこうして話をしていたがったが……」

 

 ぎちりと互いの歯車は回し始める。

その目に、その表情に。

先ほどまでの余韻はない。

 

「我々には()()()()()()()。やるべき仕事を始めようか、ウタハ」

 

ウタハには静かな湖畔のような冷静さが。

ミノリには赫赫とした燎原の如き勇猛さが。

それぞれの瞳の色に乗る。

 

「ああ、本題を進めていこう。ではミノリ、君は今日の会議、どう思う?」

 

 やるべき事が二人にはあった。

わざわざ、会議終わりに『話がしたい』と声をかけてきた理由に。

そして()()()()()()()()()()()()()()()()にも、ウタハはある程度の察しがついていた。

 

 

()()()()()。まとまった結論を出すには時間が足りなかったが、少なくとも明日以降の動きにメリハリは出る……だけど、あまり()()()()()()

 

「会議の内容()()、か……いや、私もこれでそれなりの人数を抱える部活の部長だ。人を見る目もあるしプロジェクトの主導をした経験もある。本当は来たばかりの、それも君にこんな話をさせるというのは申し訳ないんだが……」

 

「構わないよ。私も立場が立場だ。同じ三年生の誼、上手く使ってくれ」

 

 学年、そして部内での立場。

少なくとも同盟内で見てみると、ウタハとミノリはよく似ている。

それでいて、マスターとその協力者という違う角度で俯瞰的に見ている視点。

ミノリが話をしたかった理由は、ウタハが一歩引きつつ同盟を見ている事に気づいたからだった。

 

「ありがとう、ミノリ。なら率直に」

 

 まず最初の話題に上るのは。

 

 

 

「───()()()()()()()()()()()?」

 

 

意外にもミノリと同じ今日から同盟に力を貸さんと拠点に現れたトリニティ生の名前だった*4

古関ウイ。

古書の専門家であり、先ほどの会議でもその蔵智から、魔術的な概念がなく多くの伝承が喪われたキヴォトスの住民でありながら確かな知見で会議の導となった少女。

 

()()()()()()。何を隠しているか分からないが、随分と繊細な娘のようだ。あまり追い立てても仕方ないだろう。それに抱えている悩み自体、相応に脆いとみた」

 

「良い見解だ、私もそう思うよ。個人的には、私たちが感じた彼女への疑念は……そうだね、まるでさも怪しんでくださいとミスリードを敷かれている気もするんだ」

 

「……例の魔術師というやつか。なんでもウイを頼るといい、だったか?物見櫓から見ているだけ知った気とは恐れ入る。最悪なのは知った気になっている事が、恐らくほぼ()()()()()()ことだがな。全くもって、私が気に食わないタイプだ」

 

 二人の中にあるウイへの疑念はひとまずと置いて、話題に上がるのは一人の女について。

ふんと鼻を鳴らしたミノリにウタハは苦笑しつつ、内心で同じように歯噛みする。

 

 マーリン、そう呼ばれる阿慈谷ヒフミの夢の中に現れては意味ありげなメッセージを残していった女魔術師。

その存在の話を聞いて、ウタハの胸の内に残ったのはただ一つでたり一言に尽きた。

 

「安全圏から見ている()()()。なるほど普通に見れば、そいつこそがこの聖杯戦争の黒幕だ。疑ってかかりたいところだが……それも計算尽くしだろうな」

 

 ずばり()()()

キヴォトスの人間でもなければ、サーヴァントですらない、完全な部外者であり観測者

ヒフミは信頼のようなものを感じているらしいが、二人からすればマーリンに対して薄気味悪さを覚えるしかない。

 

 一体全体、何のために阿慈谷ヒフミに協力したのか。

そしてヒフミの夢枕で味方だと嘯くのか。

はっきりとしないにも関わらず聖杯戦争に精通するその姿にウタハは勿論、ミノリも何とも言えない気味悪さを感じているのだ。

 

「マーリン個人について知っている人間やサーヴァントはなんとも思わず、私達のような外野でかつ彼女本人について何も知らない人間は聖杯戦争との関与を怪しむ構図。そうなる事を分かっていて接触している節があるね。抽象的なヒントは与えて、実際は観客気取りっていう面倒な愉快犯の類だね」

 

「それを考えると古関ウイ個人を指名して助力を受けろといった発言についても気になるな……ミレニアムは情報系にも強かったと聞くが」

 

()()()()と言いたいところだけど、聞くに君達は中央と仲が悪いという話だったかな?」

 

 にやりと唇の端を上げるミノリの言いたい事が分かってかウタハもまた冗談半分に返す。

それにミノリもまた、降参だと両手と笑い声をあげた。

 

「言ってくれるな。私個人の依頼でうちの髭チビ*5を動かすのは骨なんだよ……頼めるかい?」

 

「ヴェリタスに古関ウイの調査を依頼しておこう。過去数年遡れば何かしら見つかるだろうさ」

 

 唐突に少しだけ冷えた室内で白い湯気を踊らせながら、笑みをこぼしたウタハにミノリは訝しむように彼女を見た。

 

「いやしかし、案外心配しなくてもいいかもしれない。ミノリの言う通り、古関さんの抱えている秘密は存外そう大きな物じゃないだろう。どうにも隠し事は苦手なようで会議中も随分ボロを出していたわけだし」

 

 その視線に気づきウタハは悪戯っ子のように笑みを深めた。

 

「それになんだい、彼女はどうしてだか()()()()()()()()()()()()のようだ。きっと隠し事だって、モモイ達を傷つけるような物じゃない筈さ」

 

「ふむ……趣味か?」

 

「まさか!……いや実際ちょっと外れている気がするんだよな。どちらかというとリオはもう少し……っといやいや!本人がいないところで下世話な話は止しておこう」

 

「全くだ。本人がいないんじゃ、面白みに欠けるな」

 

 二人揃って似たような顔をしながらくつくつと湯気と共に笑い声を燻らせる。

片や聖杯戦争のマスター。

片やその協力者。

お互い、生徒の命が掛かった状況の中で毅然と立つ姿がヒフミ達の目には映っていた。

 

「いいね。次は会長と古関さんも呼ぼうか。予定さえ合えばチヒロも呼んでおこう」

 

「それはいいな。折角だ、3年生組で交流といこう……ああ、惜しいな。そういえば一人帰してしまった」

 

「なに、次の話さ。あの様子じゃ随分ヒフミさんの事を心配しているようだったからね、きっとすぐ会える。そうしたら彼女も交えて3年生組で夜更かしと洒落込もう……パジャマパーティなんて、どうかな」

 

「悪くないな。実に明日からが楽しみになる」

 

 だというのに、今はただ、年頃の少女の通り華やかに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

「話を戻すが」

 

3年生、2人。

 

「あくまで個人的にだけど、アズサも気になるな」

 

少しずつ世界が静けさを帯びていく中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど密談はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白洲アズサ。

トリニティ総合学園補習授業部の一員であり、あの列車事故でヒフミを庇って大怪我を負ったという少女。

 

 現同盟内でも愛らしい容姿とは裏腹に、保安部どころかC&Cメンバー内でも上層、それこそキヴォトスでも上澄みと評すべき数字持ちの少女達を思わせる、そうウタハが考えているほど戦闘に長けている。

 

 ヒフミ達からの信頼も厚く、生徒達の中で総合的に見れば間違いなく同盟内最高戦力と言える。

そんな彼女に対してハッキリ『良くない』とミノリが言った事にウタハが覚えたの諦めに似た納得だった。

 

「齟齬があってはいけないね……確認しておきたい。理由を聞いても?」

 

「大方、セイバーかキャスター。少なくともどちらかは気づいているだろうが、()()()()()。表情にこそ出てないが、妙に発言が勇足だ。それも他のメンバーに比べてかなり……一応聞いておくがヒフミかモモイ、どちらかとの関係は?」

 

「ヒフミさんに命を救われた、そういう話を嬉しそうに教えてくれたよ。勿論、他の補習授業部の二人やさっきまでいたアビドスの彼女、それに先生にもね」

 

 無言、後に口を開いたウタハは頭を抑えるように片目に手を当てた。

せめて見たくない現実から目を逸らしたい、そういう細やかな抵抗すら感じるその所作にミノリもまた気まずそうに目線を逸らす。

 

「最悪なパターン、というわけだ。言いたくはないが、私がチームのリーダーならあの子は()()ぞ。ああいう子は必ず事故を起こす、いや。起きてしまう……正直な話、モモイじゃなくてあの子がマスターだったと言われた方がまだ納得できる」

 

 その言葉にウタハは今度こそ眉間に深く皺を寄せながら溜息を溢すようにして吐き出した。

 

「君から見てもモモイはそう見えるか……」

 

「あぁ、あれは飛び切りだな。あれが演技なら髭のところのトモエとも良い勝負が出来るよ」

 

 焦りを抱くアズサに対するモモイ。

後輩の様子に、今日来たばかりの少女が気づいている。

否、今日来たばかりで、同じ立場で、そしてよく人を見ているミノリだからこそだろうとウタハは考えを改めながら、項垂れるようにしていた顔を上げた。

 

「……どう見る」

 

「頼りにしてもらって悪いが()()()()()……どちらであってもよろしくないな」

 

「やはりね……いやはや、どうしたものか」

 

 空になったマグカップにもう一度珈琲を注ぐと、今度は香りを楽しむ事なくウタハは煽るようにして内臓へと黒い液体を流し込んだ。

食道にじわりと突き刺さる熱さが、乱れる思考に喝を入れてくれる事を期待していた。

 

「キャスターは?」

 

「流石に気づいているよ。むしろ彼が気づかない筈がない。既にこちらでバイタル診断機をこっそりつけておいた……少なくとも体調面は問題なかった」

 

「その口振りなら別の問題はあったわけだ」

 

 ミノリもまた労しく思いながらも、話を止めることはない。

いずれにせよ、今のうちに話しておかなくてはいけないという気持ちがあった。

聞いておかなくては最悪の事態に対応できないという予想があった。

 

「分かったのは一つ。魔力量というより反応が確認できない物があった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───令呪が()()足りないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれは、思ったよりも苦い形でミノリの耳に届く形となった。

 

「……使用済み。私のところで使ったのは当然別で、か。なら問題は、どのタイミングで切ったかだけだな」

 

「察しがいいね。そう、内容は大方予想できる。そして使ったタイミングは、恐らくはあの夜だね。私達が不在でかつモモイとアリス、あの二人と教授だけだったのはあの晩の事だと私も、そして」

 

 目の前に座る沈痛な面持ちの少女に確かめる事は憚れた。

 

「令呪を使われた記憶のない教授自身もそう推測している」

 

 だがそれでもミノリは重々しい空気の中を櫂を漕ぎ出す。

そうでもしなくては、()()()()

僅か一日、たった数度関わっただけ。

それでも安守ミノリにはその()()を果たすべきだと己に課していた。

 

 

 

 

 

 

───安守ミノリは阿慈谷ヒフミと才羽モモイを守らなくてはいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

「気づいているのは?」

 

「私と教授。アリスもまぁ、知っているかもしれないね……やるせない話だ。後は反応を見る限り、会長、それからハナコと古関さん辺りもかな。あの三人も薄々察していそうだよ」

 

 疲れ切ったように背もたれに身体を預けて天井を仰ぐウタハ。

そんな彼女の空になったマグカップにビーカーから珈琲を注いでやりながら、ミノリは顔を顰めて言う。

 

「私達も合わせれば半数、あまり()()()()な」

 

「私の推測で良いなら、動く場合は明日にでも。動かないなら……恐らく墓場までというやつだ」

 

「縁起でもない、と言い切れないあたりが苦しいな。とはいえ、ヒフミと彼女の身内が気づいてないなら、まだ救いがある」

 

 暫し沈黙。

互いの呼吸と小さく唸る機械音だけが耳に触れる時間。

 

「さて、最後にだが……どう見る?」

 

 それを破ったのはミノリからのあまりにも唐突な一言。

だが、僅かに肩を震わしたウタハにはその意味がしっかりと伝わっている。

だからこそ、彼女はこの場で議論すべき()()についてを口にした。

 

 

 

「考えたくはないな……()()()というのは」

 

 

 

 先の会議。

あまりにも可笑しな話が紛れ込んでいた。

こと聖杯戦争という緊急事態において起きてはいけない事が発生していた。

 

 それを理解していたからこそ、ミノリはこの場に訪れて、ウタハもまた話し合いの場を設けた。少なくともこの陣営内に関しては問題ない、そう判断した上でもっとも冷静かつ建設的に話し合えると踏んでの決断だった。

それこそが今ウタハが口にした内通者という存在の有無について。

 

「だが()()が言った言葉は致命的だ。重要案件の書類が届かなかった?出すべき書類が代表者の目が届かないところで書き換えられて提出された?通るわけないだろうが……っ、そんな話」

 

「だが現実ではそれが起きた」

 

「……だからこそ問題だ。それも致命的なね」

 

 そう、小鳥遊ホシノの話は可笑しかった。

アビドス、ミレニアム、そしてトリニティで秘密裏に交わされた協力関係。

その一環であり、シャーレからの依頼もあって先週から行われてきた正義実現委員会のアビドス自治区への派遣と警邏活動。

 

その報告内容が正確に伝わっていない。

 

そしてホシノが伝えたいと思っていた内容をこの場で話さず()()()で済ませた。

 

 明らかな違和感。

ミノリもウタハも疑ったのは一つ。

現在のアビドス自治区には無視できない『聖杯戦争に関わる問題が発生していて。

 

 

 

───その情報を握りつぶしている何者かがいる。

 

 

 

 一口、ウタハは珈琲を啜る。

少し温くなり始めたそれは苦味がうるさくなったように感じた。

 

「言わずもがなだよ……流石にユウカも気づいている。恐らく今頃セミナーに戻って事実確認をしているところだろう。幸いあそこにはトリニティとのホットラインもある。手前味噌だけどユウカは頼りになる子だ。必ず何かしらの返答は捥ぎ取ってくる」

 

 信頼している後輩なら大丈夫だとそう思いつつも、やはりウタハの顔色は優れない。

そしてそれはミノリもまた同じだった。

 

「……だが分からないな。誰が何のために、誰にとって利があってそんな事をする?……そもそも()()()()()()()()()()()

 

 一人言のようにミノリは呟く。

そこにはこびりつくような聖杯戦争その物への()()()が宿っていた。

 

 

 

「得をする人間は聖杯を獲得したマスターとサーヴァントだ。だから聖杯を用意した人間にはなんのメリットもない。なのに回数だけは何度でも発生する。聖杯戦争を降りる事すら許されない。最後の一組にならなければ必ずマスターは死亡する……事故と言っても限度がある。まるで聖杯戦争を……いや、監督役をおかなくてはいけない理由はなんだ。何の仕事をアイツはしている?大体、()()()()聖杯を作った?そもそも何故キヴォトスで聖杯戦争を起こさなきゃ()()()()()()?」

 

 

 

 不可解、そして違和感。

それはミノリが聖杯戦争に巻き込まれた始めからずっと抱えていた物。

何かが違う、どこか道理が合わない。

 

 

 

「……この聖杯戦争には必ず()()がいる。私達マスターとサーヴァントを出汁にして甘い蜜を啜る強欲な輩が……権力者がいる筈だ」

 

 

 

 だからこそミノリは聖杯の存在すら疑っている。

スパルタクスと何日も共に過ごし、共に汗を流し、共に戦い、サーヴァントという存在をしかと刻みつけられてなお。

 

この聖杯戦争のマスターで唯一、『どの真実にも到達していない』ながら聖杯戦争という仕組みに対してだけはずっと引き摺るように不信感を抱き続けていた。

 

 ふと、耳を打つ鈴のように軽やかの音を聞いて、いつの間にか思考の海に沈んでいた顔をミノリは上げた。

 

「……なんだ?何かおかしい事を言っただろうか?」

 

声の主は、茶目けを込めて微笑うウタハで。

 

「いや、なに。君もちゃんとそうなんだと思ってね。私達マスター()サーヴァント、か」

 

「……忘れてくれ」

 

ミノリはバツが悪そうに視線を逸らした。

 

「いいじゃないか、私達は花も恥じらう女子高生だ。大切な者を想って少しばかり照れるぐらいがちょうど良い。それにだ」

 

 ウタハは今度こそ、柔らかくはにかんで。

 

「そういう風に真っ直ぐな君は、私としてもやりやすい。ヒフミさんもそうだが、君の内心もしっかり見れて私は……あの子達の先輩として安心したよ」

 

嬉しそうにそう溢した。

その一言に、ミノリもまた渋面を崩して目元と唇を緩めた。

 

「そうか、ウタハ。君にとっては、それか」

 

 ヒフミにも聞いた胸の内。

殺し合いという場に加担するというのなら、正であれ負であれ相応の()()()()がある。

 

ミノリにとってそれは『スパルタクスとの賭け』であり、ヒフミであれば『ハッピーエンドを見たい』という清廉なほどに真っ直ぐな我欲。

そして彼女達に力を貸すウタハもまた。

 

「ああ。どうなっても、どうあっても。可愛い後輩は見捨てられないよ……駄目だろうか?」

 

「いいや、そんなわけがあるか。そうでなくてはこのキヴォトスで先輩だなんて名乗れやしない」

 

「全くだ」

 

 可愛くて、慕ってくれる大切な後輩達を失いたくない。

それこそが彼女が戦う理由なのだと聞けて、ミノリは笑った。

 

「良い友を得た。これから苦労をかけるが、よろしく頼むよ」

 

 手を伸ばしたのは、意外でもなんでもなく二人同時にだった。

後輩を守る、そしてその後輩達が夢見たあまりにも遠いハッピーエンドを見届ける。

志を同じくした二人は互いに手を握り締めた。

互いの掌に伝わる力強い熱。

それは正しく二人の心に宿った決意の灯。

守るのだ、その為に戦うのだ、と。

自分にできる全力で聖杯戦争という難題に、悪徳に挑むのだという熱を帯びた誓い。

好きだから、大切だから、尊いと感じたから、約束だから。

そして、彼女達にはあるのだ。

この学園都市で最上学年である先輩としての誇り(プライド)が。

 

「こちらこそ。あれでヒフミもモモイもまだまだ未熟だ。3年生らしく、私達で頑張るとしよう」

 

 ヒフミもモモイも知らないでいた話。

たった2人だけの盟約。

何があっても信じた後輩を支えてハッピーエンドに辿り着くのだと2人は誓う。

 

 

「願わくば、そうだな……次はもっと楽しい、生徒らしい、可愛げのある会話がしたいところだな」

 

 

 そんな約束を外の雨が聞こえない部屋で、静かに珈琲の霞んだ湯気だけが見守っていた。

*1
好きにしていいというモモイの言質をとった彼女達はそれはもうウキウキとした心持ちでデッドスペースを部室にした。結果、騒音の問題と不定期かつ高頻度な爆発と閃光から地下第三層エリアから地下第二層エリアへの引っ越しを余儀なくされたという経緯がある。残念でもなく当然であった

*2
薬学部はキレた

*3
洗浄済み

*4
厳密には本人の意思ではなかった事をここに記す。哀れ、ウイ

*5
粛正の時間だ!





1じゃんね☆
というわけでここから暫く安価で決めてもらったペアでのコミュじゃんね☆
一発目はウタハちゃんとミノリちゃんから、安価もらった時は絡み全然ない……って頭抱えたけど書いてみたらすごい楽しかったペアだったじゃんね☆
またどこかで3年生組のお話、やりたいとこじゃんね☆

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