そういえば、リオ会長ってご飯とかどうしてるんですか?
……は?
え?は?
いや、いやいやいやいやいや、『少し落ち着きなさいミドリさん』とか言われても落ち着けませんけど?
え、その食生活でそのスタイル維持してるんですか?
いや食事なんてって……。
……はぁ、リオ会長。
ユウカ達も呼びますから、その……良かったらなんですけど。
───今度、私達と一緒にご飯食べませんか?
第二フロアの踊り場で、二人で段差に腰掛けて。
食堂に備え付けたドリンクバーから持ってきたグラス*1を彼女とぶつけ合う。
硝子のように透き通ったそれが鳴らす音は見た目に反して、樹脂で出来てるから鈍い音が鳴ってモモイちゃんと二人だけのお疲れ様会が始まります。
「つっかれたー!」
「あはは……お疲れ様です」
会議の後に始めた明日の朝御飯の仕込み。
パン生地の用意や使う予定の魚の下処理だったりでバタバタしちゃいましたけど、ミドリちゃん達にも手伝ってもらってなんとか終わらせることができました*2*3。
「ヒフミもおつかれー。いやー準備も、大変だったでしょ?」
「あはは……でもこうしてみなさんとお料理するのは楽しいですから」
明日の朝食はショプスカとプリンシェチっていうお名前の料理。
珍しい物でしたけどウイ先輩が古書館から持ってきてくださっていた古いレシピ本に乗っていました*4。
なんでもスパルタクスさんの御出身である土地の家庭料理だとか。
フェタチーズは用意出来ませんけどカッテージならストックがあります。
「ほんと、ヒフミ達のおかげだよ。いつもありがとねー!」
「いえいえ、どういたしまして!……あ、明日の朝ごはんのスープ、もう用意してますけど食べる時は温めます?」
「うんそーしてー……今は蒸しあっついけど、今日から急に雨降ったから朝は寝冷えしそうだし!」
それから、モモイちゃんの言う通りどうにも天気が良くありません。
夏のこういう夜雨は明け方にぐっと冷え込みますし、空調を使うことも考えたら朝は少し温かいものを用意したくなります。
今回は身体を変に冷やさないように、レッドウィンターのウハー*7なんて料理にもチャレンジです。
デザートも乳製品で合わせるということでヨーグルトに決定です。
折角ミノリ先輩とスパルタクスさん、そしてウイ先輩が拠点に来て初めて朝ですから。
ちょっと豪勢にですね。
「しっかしさー……もぉぉぉぉ!ほんっとに!考えることが多すぎるよぉぉぉ!」
「あはは……そういえば、モモイちゃんは新作ゲームのシナリオを書くのも進めなきゃですねもんね」
「あー!忘れたかったのにー!ヒフミが言うから思い出しちゃったじゃーん!
「いけませんよ、モモイちゃん。聖杯戦争中でもしっかり部活動はこなさないと予算減額、ってユウカちゃんもぷりぷり*8してましたから」
「もぉぉ!そうやって、すーぐ私のこといじめるぅぅっ!」
「あはは……」
モモイちゃんが項垂れるのを見ながらドリンクバーから拝借したグラスに口をつけます。
新しく拠点に導入して頂いたコールドプレスジュース専用の物ですが。
「(おいし……)」
流石はミレニアムの科学力。
カットした果物を入れておくだけでいつでも新鮮美味しいジュースの謳い文句、フレッシュ感たっぷりの美味しさと導入して正解だったことを飲むたびに改めて証明してくれます。
試しにと入れてみた炭酸はグレープフルーツとレモンの爽やかな酸っぱさを口いっぱいに広げてくれます。
その後を追いかけてくるのは、炭酸の刺激を淡く宥めるリンゴの甘さ。
最後に生姜の野生味のある辛さが余韻を残して薫ってきます。
「そういえばモモイちゃん。聞いても良いですか?」
「えー!?なになにー?何知りたいー?」
「ふふっ。何だったら教えてくれます?」
「んーどうしよっかなー?どれなら教えちゃおっかなー?……でん!スリーサイズ!」
「あはは……結構です」
「なんだとー!」
私はまだ1年生だから来年にはハナコとかユウカみたいにー、なんて憤慨してるモモイちゃんを見て思い出すのはさっきみなさん達と一緒に入ったお風呂でのこと。
「あはは……」
「こらっ!なんで笑うの!あるでしょ!未知の……未知の可能性が!」
「お、応援してますよ?」
「疑問系!ってこら!目を逸らさない!」
来年のことを言うとなんとやら、という諺が百鬼夜行にはあるようです。
それは私も同じなようでついつい可笑しくて笑ってしまい、余計にモモイちゃんを怒られせちゃいました。
「もうっ、ヒフミの意地悪……んでさ、なに聞きたいの?」
そんな戯れ合いを一頻りしてから、息を落ち着けてまた段差に腰掛けたモモイちゃんは私の方を見て言いました。
唇を甘酸っぱいピンク色で濡らしながら、悪戯っぽく目を細めた彼女に私も期待と、少しばかりの茶目っ気を乗せて口ずさんでみる。
「モモイちゃんのシナリオ。どんなお話作ってるのかなって?」
思った通り、オーバー気味に肩を落としてモモイちゃんは項垂れました。
「うわーそれかー。それなー……」
「あはは……やっぱりまだ内緒ですか?」
「ううん。ぜーんぜん!ライターなんていうのは、自分のお話聞いて欲しくて書くんだよ?そりゃあ
こちらに向くのは自信たっぷりといった様子で胸を張りました。
「この天才ゲームシナリオライター才羽モモイのファンからの質問だからね!」
言い切ってから恥ずかしそう足をパタつかせて、でもはにかむモモイちゃんの表情は本当に大輪の花のようです。
いつも難しそうな顔をしてメモパッドやモニターに向かっていますけど、それもきっと大好きなゲーム開発の為だから。
普段の様子とは打って変わって知恵熱が出るんじゃないかってぐらい一生懸命だったり、今みたいに晴々しくゲームや自分の書くシナリオを語る姿は、
とはいえやはりその進み自体はミドリちゃん達から聞いていた通り緩やかなようで、モモイちゃんは困ったように頭を掻きました。
「ただあんまり進んでないんだよね。いやーまいった、まいった!」
「……お互い、このところずっと忙しいですもんね」
「そうだよねー」
普段だったら授業に出ている時間。
モモイちゃんならゲーム開発部の活動を、私なら補習授業部のみなさんとお茶をしたり遊びに出掛けたりする時間。
そんな自由時間なんてもう暫くありません。
あの夜から常に何かを探したり、誰かと戦ったり。
そんな風にして過ごしてきました。
「いやさー、正直バタバタして走り回って、気づいたら同盟組んで何日だっけ?」
「もうあとちょっと6日ですね」
「あり?まだそれぐらいだっけ?おっかしいなー、もっと経ってるかと思ったよ」
「本当ですね。私も、なんだか随分長い時間、モモイちゃんとご一緒してる気がします」
まだ一週間も経っていない、というのに。
けれど随分長い時間を一緒に過ごしてきた、そんな気持ちになります。
その理由はきっと、彼女の側がとても
「なんだかほんと……ふしぎだねー」
居心地が良くて、温かくて、ホッとする。
忙しかった、辛かった、確かにそういう事はありました。
けれどそれ以上に楽しくて、どんどん新しいお友達が増えて、そして今隣にいる彼女と過ごす陽だまりのような日々。
いつもの日常が、まだ8日前の話だというのに気づけば
だから私は、いいえ。
私達は今この瞬間を愛おしく思うんです。
「あはは……はい、ほんと。不思議な時間です」
それを私たちは言葉には、敢えてしません。
言わなくては分からない事が世界には沢山あります。
でも今この瞬間は言う必要なんか、確かめる必要なんかどこにもないのだと思うんです。
「(だって私もモモイちゃんも、きっと同じ気持ちだから)」
ご飯も済ませて、お風呂も入ってみなさんが自由に過ごされる寝る前の時間。
それをモモイちゃんと2人、のんびりと朧げに時計の針を刻んでいく。
お互いにグラスを傾けながら、少し蒸し暑い踊り場で、黙って時間が刻まれていくのを座って見守り続ける。
なにかするでもない、何もしない時間。
そんな静けさが暫く流れてから。
「あー……餡蜜食べたーい!」
唐突に、モモイちゃんは私の方を向かずにそう言いました。
「ど、どうしたんですか?急に……明日のお昼かお夕飯のデザートで良かったら用意出来ますけど」
「えっ!?ほんと?ってそうじゃなーい!ほら、私達会ったのってさ、百夜堂でしょ?私あの時抹茶パフェ食べてたけどさ、実は気になってたのあったんだよね!」
力一杯手を伸ばすように伸びをしてからごそごそと取り出したのはスマートフォン。
慣れた手つき何度かタップして彼女が見せてくれた画面には美味しそうな餡蜜と和風なフォントが踊るまとめ記事でした。
「ほら!これ!」
「えぇっと、この夏おすすめ?一日限定二十食、百夜堂特製季節の水菓と三種の白玉全部載せクリーム餡蜜……ですか?」
「ねっ!美味しそうでしょ?」
「あはは……はい、とっても」
全部載せの文言はその通りで、画面には百夜堂らしく贅沢に旬のフルーツを沢山使った大盛りの餡蜜が映っていました。
そういえばあの時メニュー表で見たかもしれないと思い返してみますが、どうにもその
そんな私にモモイちゃんは目を輝かせて教えてくれました。
「あの時もさ、ちょっと文字見て気になってはいたんだけどもう売り切れだったんだよねー、それに帰りの電車賃が……っていうのはいっか。とにかく!だから別の選んだんだけどさ、今更食べたくなってきちゃったんだ」
「限定食だと、早めに行かないと売り切れちゃいますもんね」
「そう!いやさぁ、私もこんな美味しそうなのあるって知らなかったから売り切れの文字も気にしてなかったんだけど……なんとなく気になって帰ってきてから調べたらこんなすごいやつ!もうほんと、くやしーって感じなの!」
スマートフォンごと腕を回すモモイちゃんの姿に危ないですよと声をかけながら私も想像する。
両手一杯でも足りないぐらい大きな器に入った餡蜜。
それを目に前にしたら、きっと彼女はどれだけ目を輝かせるだろうかと。
そう思った時には私は誘いを口にしていました。
「ふふっ、なら今度食べに行きましょうか?」
「おおっ!いいねー!行こ行こー!」
箒星のように彼女の髪が揺れて私の方を見る。燦々とした笑顔に私もこれ以上溢れたりしないのに口元が緩んでいく。
互いに口遊むのは
「百夜堂行ってー!餡蜜食べてー!それから持ち帰りでゼリーとか買ってさ!」
「なら折角百鬼夜行にまで行ってますし、そのゼリーは展望台の所で食べましょうか?あそこは見晴らしが良いと以前シャーレの当番で一緒になった方*9から伺ったんです」
「いいじゃん!ならさ、ならさ!ついでにお弁当も持っていこうよ!サンドイッチとさ、唐揚げとさ、あとはそれから……よしっステーキだ!」
「あはは……作るのは全然良いですけど、食材を用意してくれるのはユウカちゃんですよ?」
「ぐぇー。絶対無駄遣いするなってユウカ怒るじゃん!大っきいお肉とかお外で食べたいのに!」
「それはもうバーベキューになっちゃいますね」
前回、合宿所でバーベキューをした時はどこからかアズサちゃんが引っ張り出してきてくれた夜行炭*10がありましたけど、今回は買わなきゃと皮算用を楽しんでいれば、モモイちゃんがわざとらしく声を顰める。
それがおかしくてつい、私も掌で自分の口を押さえてしまいました。
「あー!バーベキュー!私、バーベキューもしたい!……ねぇ、ヒフミ。知ってる?」
「……何でしょう?こっそり教えて頂けますか?」
「あのね、実はね……」
何を言うかなんてわからないけれど、あぁきっと、楽しい話になるのなんてわかりきっていて。
「キャスターの鎧でお肉焼けるらしいよ!」
そのあんまりなお話に私は堪えきれなくて肩を震わせて目に涙を溜めてしまいました。
「あはは!もうっ!またそんな事言って、キャスターさんに怒られちゃいますよ!」
「だいじょーぶ!なんとー!今!この場に!キャスターいませーん!」
「知ってまーす!」
馬鹿みたいにはしゃいでしまう。
はしたないぐらい口を開けてしまう。
嗚呼、でも。
そうだけれど。
「(やっぱり、楽しいな……)」
そんな風にお友達とお喋りできる今が楽しくて仕方ない。
「あっ、どうせバーベキューするなら自然たっぷりなとこがいいなー」
「ミレニアムも都市部を離れるとそういう地域があるんでしたっけ?」
「そう!東アルプス!いいとこだよー!多分。麓のキャンプ場は予約一杯って話だし、あとあと!登山もできるし!きっと!それから、ま、まいなすいおん?とかいうのも盛りだくさんだよ!めいびー」
「あはは……適当すぎますよ」
仕方ないじゃん山なんて滅多に行かないしさ、と胸の前で両手を握って怒ったふりをする彼女はそのまま良いことを思いついたと手を打つ。
ころころと表情を変えるモモイちゃんの話に耳を傾けながら私はのんびりと少し炭酸の抜けたジュースで唇を湿らせる。
泡の抵抗は控えめでつるりと喉に冷たさが滑っていきます。
「あっ!あと川!山もいいけどバーベキューするなら川辺とかもどう?」
「ふふっ。とっても素敵です。川魚を塩焼きで、なんていうのも、実はやってみたかったんですよね」
「あれ?ヒフミ、釣りとかできるの?」
「あはは……勿論そこはー……セイバーさんにお任せです!」
2人で顔を見合わせてくすくす囁き合う。
声を忍ばせる必要なんてないのに、わざとらしく密やかに、内緒話をする。
そんなふざけ合いっこを、頭を空っぽにして口にしていました。
「あとは水着も持ってきて、それからスイカも用意して……」
「スイカ用意するなら海にも行きたい!」
でも、モモイちゃんは。
「もー……行きたい所ばかりじゃないですかー」
そう言う私に何故だかハッとした顔をしてから、くしゃりと笑った。
「ほんっと、行きたいとこばっかりだ」
さっきまでとは打って変わったその呟きに私は首を傾げた。
だってその言葉は、気怠い暑さを感じさせる此処にはあまりにも似合わない。
まるで儚げな硝子細工のようだったから。
「……私ね、それが書きたいんだ」
けれど彼女はその余韻を振り切るように、呆気に取られて何も言えないでいる私に怒って言う。
「なんだよもー!ヒフミが聞いたんじゃん!私のシナリオのこと!」
モモイちゃんは胸の前で両の掌を重ねて、指を組む。
たったそれだけの所作、なにげない動作。
なのにどこか、神聖なぐらい清廉な感じがします。
彼女が組んだ掌を見てまるで祈りのようだと思ったのは直感のおかげでしょうか。
「あのね。私、百夜堂にまた行きたいし、今度は餡蜜食べたい。それから次は百鬼夜行でみんなとピクニックもしたい」
紡ぐ言の葉は、蒸気が巡り機械音が唸る拠点の中ではあまりに小さかった。
「バーベキューだってしたいしまともな遊園地にも行きたいし、それから川にも海にも遊びに行きたい!」
語気は朗らかで、春めいた萌黄に染まっている。
麗らかな日差し。
優しい陽気。
「やりたい事、行きたい場所。うんとたくさんあるんだ!……それを、みんなで。キャスター達も一緒に」
溢れるような期待を一つひとつ大切にラッピングした言葉。
モモイちゃんが話すのはそんな
「私はそんなお話を書きたいの。全部ぜんぶ終わらせて、真っさらになって、それからみんなで遊びに行く」
いつかそうなったらいいな、なんて小さい頃に夢見た物を唱えるように彼女は明日を口にする。
それはきっと晴々とした話なのに、私にはどこか遠く、寒く、寂しく聞こえました。
そんな私の表情に戸惑い以外が混ざったのに気づいたのでしょうか。
モモイちゃんはまるで切り替えるように、でも今思えばそれを感じさせないほど自然に。
自分の書いているシナリオの内容を打ち明けてくれました。
「私が今書いてるシナリオさ、実は実体験?エッセー?よく分かんないけど……聖杯戦争のことをテーマにしてるんだ。突然異世界の英雄同士の戦いに巻き込まれた主人公!数々の困難を乗り越えて掴み取ったのはハッピーエンド!……ならさ」
立ち上がって彼女はくるりと踊る。
「ちゃんとご褒美、欲しいなって。ううん、あげたいなって思ってるんだ」
非常灯の明かりぐらいしかなくて、ちょっと暗くて静かなこの踊り場。
それなのに彼女が満面の笑みでターンをすれば、ここが舞台の上なんじゃと思わせる。
それぐらい明るくて晴れやかで。
けれどラウンドトゥが軽やかに円を描くけれどそれは最後まで繋がらないまま、途中で私の方を向いてしまいました。
「だからまだ私の書いてるシナリオは途中なの。この聖杯戦争を最後まで走り抜けて、それからやりたい事ぜーんぶやって!……それでやっと書き上げられると思うんだ」
眩しいばかりに輝く彼女が描く物語。
それはきっと苦難に満ちても必ず最後には笑ってエンディングを迎えられるお話に決まってます。
そしてそれがまだ書き終わってない、これからなんだとモモイちゃんは照れくさそうにしてから。
「……それはきっと私一人じゃ、きっと無理だったんだよ」
寂しげに、不安げに、私を見た。
「ねぇ、ヒフミ?覚えてる……?」
瞳の奥で細波が微かな息を立てている。
桃色のそれがゆっくりと開いて閉じてを繰り返しては小さな子が隠れん坊でもするように見え隠れする。
「初めて会って、お喋りして、関係ない事たくさん話して……その中でヒフミは自分がマスターだってちゃんと言ってくれた」
私は、息を、呑んで待ちました。
覚えてない、そんなわけがありません。
だってそれは決して忘れる事はない私にとっての大事な想い出。
私と彼女との初めての出会い。
頭が真っ白になるぐらい考えて、嫌な未来を否定するように必死にもがいて。
これで良いんだろうか。
この選択で間違ってないんだろうかって。
直前で自分は人殺しになるんだぞと突きつけられたからこそ、どこか焦りもあって。
まだまだ自分一人で頑張らなきゃってすごい張り詰めていたからこそ。
虚勢を張ってでも本心から言い切ったあのの時
そしてそれを嬉しそうに受け入れてくれた彼女の顔は。
絶対に私が忘れない大切なあの時と同じように、お日様みたいにほころんでいました。
「私さ、前の日にアサシンと戦ったりして結構落ち込んでたんだよね。今までとは全然違う、本当に自分の願いを掛けて殺し合う戦い。私はそれを聞いた時、止めなきゃって思ったけど、実際はもっと怖い物だった」
だからこそ、モモイちゃんの言葉を聞いて最初に心に訪れたのはやっぱりと言うべきでしょうか。
驚き、でした。
モモイちゃんは強い人です。
どんな時でも前向きで天真爛漫で、挫けないで顔を上げて立ち向かっておられます。
私にとっての彼女、隣にいてくれて、私の夢に向かって共に走ってくれる。
そんなホッと安心できるお友達。
だから彼女が見せた弱々しい姿はなんだかすごく新鮮です。
勿論立場を置き換えれば想像は出来ます。
でも、私の知っている普段の彼女の姿から結びつかない物でした。
「自信がなかった。自分を信じれなかった。マスターって立場が怖かった。私は、私はね、ヒフミ。あの時まで、本当にこのまま戦えるのかなって、すごく不安だったの。でも」
辛かった。
苦しかった。
心が折れかけた。
でも、と彼女は言って。
真っ直ぐに私の目を見つめました。
「───ヒフミがいてくれた」
そう言うモモイちゃんの目は、決して翳ることのない光が瞬いている。
折れそうだったと強い後悔を滲ませていたのが嘘みたいに力強い輝きを放っています。
そしてその光が今、私を真っ直ぐに見つめて離さない。
「敵が味方かも分からない筈の私にちゃんと聖杯戦争のマスターだって自分から明かして、聖杯戦争を止めたいって言ってくれた。私はね、ヒフミ。その時、救われたと思ったんだ」
そんな事ない、と叫びそうになりました。
初めて会った時に私がマスターだと明かした時も。
「辛いし暗いし苦しいし、もう投げ出したくなっちゃってた。でもヒフミがいた。聖杯戦争なんて間違ってるって真っ直ぐに言ってくれたマスターが、アリスの友達が、他にもいてくれた」
私が本当に頑張れるのかなって揺らいでたあの夜だって。
「何度だって言うよ。何度だって言えるよ。あのね、その時からね───ヒフミは私の希望なんだよ」
今までだってずっと、私は、いいえ。
私の方こそ、何度だってモモイちゃんに助けてもらってきたから。
「だから、ありがとう。私に希望を見せてくれて。私に諦めないでいられる時間をくれて。私に頑張る力をくれて。ヒフミがいてくれて、ヒフミがマスターになってくれて、ヒフミと友達になれて。私、すっごく幸せ!」
「わっ……私だって!」
思わず、いえ、やっぱり。
私は立ち上がってしまいました。
目頭が熱くなるのなんて気になりません。
形振りなんて構っていられないんです。
だってそれぐらい、嬉しかったから。
目の前の友達が言ってくれた言葉で胸に温かな火が灯ったんです。
「私だってモモイちゃんと会えて!一緒に戦おうって言ってもらえて!そばにいてくれるのが嬉しくて!」
「……えへへ。じゃあ……おあいこだ!」
「……もうっ。なんですか、それ?……ふふっ、はい、おあいこです!」
溢れる気持ちが同じだとそう言ってくれて。
ただただ嬉しくて、彼女と手を握り合う。
「約束だよ、ヒフミ。必ず、私達にこの物語の結末を」
約束。
守るべき大切なこと。
紙に書いたわけじゃありません。
ただ口にしてお互いの気持ちに誓っただけです。
───ハッピーエンドを書かせてね
でもこの約束は絶対に違えない。
必ずモモイちゃんを、そしてみなさんを。
みなさんと一緒にハッピーエンドに辿り着いて、その最後にモモイちゃん達が作るゲームをプレイする。
そういう約束を私達は2人、夜の拠点で誓いました。
「勿論です!必ず、必ず!私達で!」
「……うんっ!」
握った手から伝わる温度が私達の約束を確かに証明してくれている。
そんな風に、私は思ったんです。
「素晴らしきかな友情は。いやはや、いつ見ても実に愛らしい、好ましい」
囀りに似た春風が花園をくすぐった。
そんな場所に、ガーデニングチェアに腰掛けながらその妖艶な口元に微笑を浮かべる女が一人。
「ボクは君のそういうところが一等気に入っている。嗚呼本当に君達は」
女はその在り方を嗤わない。
ただ泰然と見守るだけ。
「涙ぐましいほどに麗しいね」
だがしかしそれは優しさでもあり、時にどうしようないほどに残酷な事でもあるのだろう。
女はこれ以上、阿慈谷ヒフミに手を差し伸ばさない、差し伸ばせない。
何故ならそれをしてしまえばきっと気付かれてしまうから。
「だけれど時計の針は止まってはくれやしない。キヴォトスの運命はまだ変わらない」
世界に、星に、⬛︎⬛︎に。
そうなってしまえばきっともうどうしようもなくなる。
観測してはいけないのだ。
この世界を、でなければ。
最悪の場合、アレが起きてキヴォトスとこの星は割れてしまう。
「勿論、シャーレの彼も備えはしている。彼という鬼札は上手く使えば、嗚呼確かに。何もかもを御破算にはできるだろう。誰かにとってのハッピーエンドは、しかし当然、誰かにとってのバッドエンドさ。だけどね、この世は有限。それをするならエンディングとは別に代償が必要さ。何かだなんて言わせないでほしいかな。分かりきった話だろう、そう」
女は囁く。
決まっているぞ。
知っているだろうと。
「───阿慈谷ヒフミという一人の少女の命」
贄の名前はきっとそうなるに違いないと。
「だからこそ、見たいんだ」
それを知った上で女は微笑むのだ。
「君達だけではこのバッドエンドしか残されていない世界でそれでもゴールに辿り着くのを」
見たいと、恋に焦がれる生娘のように熱に浮かされて蕩けた吐息を女は漏らす。
それは決して女の趣味ではないけれど、そうなったなら。
「さあ、導いてごらん。我らが王、アーサー」
この何一つハッピーエンドなんて物が用意されていない狂った運命の中で彼女達がそれを掴んだならば。
「かつてブリテンの終わりに辿り着いてしまった君が今度こそその手で導くんだ」
それは堪らなく美しい物に違いないと期待に胸を膨らませるのだ。
「そうだね、贈るのならきっとこれが良い。そう、彼の言葉を借りるなら」
アーサー王と阿慈谷ヒフミ。
お気に入りの二人が描く未来を夢見て。
「───完膚なきまでに完全な勝利を」
女は微笑うのだ。
女は瞬きをした。
何気ない動作だろう。
だがどこか機械的で。
「さて、そろそろ舞台は次の幕へと移るだろう。生憎私の目ではそこまで見通せないけれど」
まるでテレビのチャンネルを変えるような仕草だった。
「ちょうどたった今、また犠牲者が一人増えた」
風に泳がせた髪を漉きながら女は遠くを見る。
「肥えた彼女はきっと手強い事だろう」
そこにあるのはどこまでも広がる花の庭園だけ。
「だというのに、終わりは見えないんだから本当に呆れるほどこの世界はどん詰まりだね」
けれど女には見えている。
「それでも君が見守り続けるというのなら、私は君のことも応援するとも。この遥か遠くの理想郷からだけどね」
もう一人のお気に入りがその脚を震わせながら走り続けている姿が。
「頑張ってくれたまえ、ヒフミちゃん。そして」
うっとりと、悦に浸り女は囁く。
静かに、艶やかに、しっとりと。
───我らがサポートシステムちゃん?
その声は恋する乙女のようであった。
1じゃんね☆
前回、前々回と打って変わって良い雰囲気で終わったじゃんね☆
本スレと違って1だって毎回不穏なところで終わらせたりなんかしないじゃんね☆ミーカミカミカミカミカミカミカ
ヒフミちゃんにとってモモイちゃんとの出会いとこれまでマスターとして一緒に傍にいてくれた事は大きな支え。
同じようにモモイちゃんにとってもあの日の出会いは大事だったじゃんね☆
2人が全部終わらせて楽しくピクニックしたりBBQしたり、そんな日常をまた過ごされたら……いいじゃんね☆
拠点での話は残すところあと1話!
次回はまた似た者同士でお話しするじゃんね☆
明日もよかったら読んでやって下さいな、じゃんね☆
1話ごとの文字数で望ましいのは?
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3000文字〜4000文字
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4000文字〜5000文字
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6000文字〜7000文字
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8000文字〜90000文字
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9000文字〜10000文字
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10000文字〜12000文字
-
12000文字〜15000文字
-
15000文字以上