阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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やられましたね。
まさか此方が外れとは……
完全に裏を掻かれる形に持ってきたとなれば、本命は別。
……いいえ、私も心配です。
でも、最早猶予も迷う時間も、免罪を乞う資格も私にはありませんから。

急ぎましょう。
思ったよりもずっと事態は深刻ですが……やはり備えて来て正解でした。

───では、突破を。

一切合切、諸共に。
塵は塵へとお帰り願いましょう。



Agnus Dei

 

 分厚い霧が、重たい雲が晴れる。

陰鬱な空気を祓う星空の下、ミカは翼を広げた。

 

「……おばさん、か。ふむ……」

 

未だ咳を続けるナギサを庇って前に出たミカへ向かって一人言のように呟くのは、一人。

小首を傾げて悠然と校舎から現れた女。

聖杯、そして暴食を冠するセイバーであった。

 

「あれ?もしかして自覚ない感じ?」

 

「いいや、考えていただけだ。余の肉体はこの地上における至極の芸術。それを如何にして貴様の矮小な脳は理解できるか、とな」

 

「んー、よく分かんないけど。でもさ、見たまんまオバサンじゃん☆」

 

 けらけらとミカは気持ち良さそうに嗤う。

苦心して若作りしたであろう目の前に立つ無様な()()を心から嘲りながらミカは続ける。

 

「もしかしてお外寒かった?ごめんね!年寄りに無理させちゃって!あっ、でも更年期なら涼しいぐらいでむしろちょうどいいかな☆」

 

 聖園ミカ、という少女へのトリニティ新入生からの第一印象。

綺麗、可憐、可愛い、美しい。

その外見を形容し讃える物が多い事は予想するに難しくないが、その詳しい内容を聞いてみれば意外と一致するのだと言う。

 

曰く、『夢見がちなお姫様』。

曰く、『スイーツのように甘くてふわふわしてる』

曰く、『とっても優しそうで意地悪なことなんて何も知らなさそう』。

 

甘やかなパステルカラーに身を包むその姿は可憐。

まるで誰もが幼い頃に夢見たお姫様を、今まさに現実で見ているようだと。

そう、誰しもが口を揃えるのだ。

 

「なんと。余の玉体、その美貌を理解できんとは愚かな娘よ。おまけに言う事欠いてオバサンとは」

 

「あれ?なんだか思ったより気にしてる感じ?だったらごめんね☆もう全然十代に見えないからさ!」

 

「良い。間違いは赦してやろう。この玉体はやつの全盛期、即ち十六歳のソレに遠くはない」

 

「えっ!?それで私より年下?あ、ごめーん☆今の気にしないで!」

 

 そんな風に語られる少女は、その本質を知らない者達からの前評判をそっちのけにして愉しげに嘲笑う。

そう、聖園ミカを知る者に彼女のイメージを聞けば分かること。

ナギサも、ここにはいないもう一人のティーパーティの長も、そして古書館の女主人もこういうのだ。

 

 

 

『聖園ミカは結構、イイ性格してる』と。

 

 

 

海千山千、腹の底なぞ見えないのが自治区政治。

自治区の内外に亘って行う様々な交渉を必要とし、それを成して自治区と学園を運営するのが生徒会の構成する生徒達。

ましてやトリニティともなれば生徒数も自治区面積は並大抵ではなく、比例するようにその運営も困難を極める。

そんな巨大な学園と自治区を支えるのがトリニティ総合学園生徒会───即ち、ティーパーティ。

その頂点の一つ、生徒会長の席に座る少女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

トリニティ仕込みのトラッシュトークなぞ。

 

「……随分と口が回るではないか。うむ、良いぞ。所詮は只人、所詮は子供。見当違いも甚だしい言葉で

必死に取り繕うその姿、寛大な余は聞いてやろう」

 

「わーお。すっごーい。若作りなおばあちゃんに感謝だね☆」

 

 ご覧の通り、手慣れた物。

何よりトリニティはやや迂遠な言葉遣いを好む土地。

挑発、皮肉は淑女の嗜みだ。

 

 時に諸君。

女性との会話において、絶対に話すべきではない話題を知っているだろうか。

多種多様ある上に人によってウィークポイントは様々。

ふとした話の種が地雷だったなんて事もあるだろう。

性別が同じだからといって、全員に共通する禁忌というのは珍しいのだ。

 

 だが、たった()()

こと、年齢と外見に関しては文字通り話が別。

それは勿論、話題に出す事すら。

 

「……愚かな。事実として余の外観は老婆にあらず。挑発が苦手だと言うならやめておけ。貴様の足らない知性をこれ以上晒す事はあるまいて」

 

やめておいた方がいいだろう。

何せ、ミカの目の前にいる人間と称す事すら烏滸がましい女ですら、今のように青筋を立てるほどのタブーなわけなのだから。

 

「余を見よ!正に美の極地!ヴィーナスすら平伏するローマの至宝!」

 

 それとも頑なに自身の容姿を侮蔑するミカに対して苛立ちがきたのかもしれない。

どちらにせよ、女にとって不愉快なのは変わりなかった。

なにせ、女が言う通りなのだから。

()()()()()()姿()()()()()()()

化粧いらずの肌、黄金比と呼ぶべき顔立ち、愛くるしい声。

いずれも喉から手が出るほどに羨ましがれる要素を詰め込んだ美の結晶。

それが女の美貌なのだ。

だからミカが言う、若作りや老婆なんて言葉は甚だ見当違いだと女は語り。

 

 

 

「これこ「だって肌死んでるじゃん、お前」……は?」

 

 

 憐れむように女が見向きもしていなかった真実をミカから叩きつけられた。

 

「なにそれ粘土?それとも厚化粧?どっちにしても私達みたいな十代の肌じゃないよね。あ、あと普通に口臭い☆喋るな」

 

 地雷。

それも特大。

故に踏み抜く。

聖園ミカは止まることなく、適当に思った事を言っただけの単語に思ったよりもずっと過敏に反応した馬鹿な女を嘲弄する。

愚かにも現役女子高生を相手に、 美容関係の話題(自分の土俵)にのこのこと入ってきた女を憐れみすら抱かずに馬鹿にする。

 

「肌ケアもしてない。口から腐敗臭するから食事にも気を遣ってない。髪を汚してもへっちゃら。おまけに歯も汚ければ爪も血で汚してる。私ならそんな姿で出歩くなんて恥ずかしくて出来ないよ!」

 

 みっともないとはっきり笑顔で言い切るミカに対して女は醜く顔を歪ませる。

お前は女を捨てている、そう言われた事に歯を慣らして獣のように威嚇するもそれすらミカの目には滑稽に映る。

なにせ、こんなに分かりやすく挑発に()()()()()()とは思わなかったから。

 

 とはいえ、腹立たしいのは小馬鹿にされる女だけに限った話ではない。

ミカもまた、その内心の荒れ狂いようは凄まじかった。

 

「清潔感って言葉知ってる?SNSも知らないおばあちゃんだからもしかして分かんない?じゃあ教えてあげるけどさ……あれってね、日頃から誰に見られても恥ずかしくない格好をちゃんとする《意識》の有無について言ってるの。綺麗な格好だけ真似しても、意味ないんだよ☆だって今のお前みたいに不潔が透けて見えるからさ!」

 

 けれど、肩を振るわせる女に対してミカは変わらぬ調子で講釈を続ける。

話し続ける、その分だけ。

()()が費やされていく。

その必要があったのだ。

怒りを押し殺してでも()()()()()()()があったのだ。

 

「あーあ、勿体ない!元の顔の作りとスタイルはいいけど後はそれだけ。手入れの一つもしてない人形なんてゴミ同然でしょ?あと顔!作りって言ったけど人間性っていうの?それで全部台無しにしてる。ほんっと、そういうぜーんぶ含めてすっごい小汚いから老けて見えるよ。だからごめんね、ちょっと十代には見えないかな☆いいとこ……やめとこっか。真実って残酷だもんね!」

 

聖園ミカの異能。

高過ぎる神秘性の発露。

それはキヴォトスでも極めて珍しい特異な現象を引き起こす。

 

 

 

「……下らん。言わせておけ「あとさ」……ッ!?」

 

 

 

 其は空間すら捻じ曲げ、物理法則すら越える一つの神秘。

宙より放たれる美しい夜空の輝き。

聖園ミカと一度でも戦った人間ならば誰もが知るだろうその神秘の銘は。

 

「戦うのも初めてなの?オバサン」

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

 

「頭上注意、ってね☆」

 

開幕の咆哮を上げたそれは即ち、隕石による砲撃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃。

スクエアに響くは轟音。

拳大の隕石がその質量を乗せた速度のままに全部で3発、女へと降り注いでいた。

 

「あは☆耳も遠いんだね?オバサンだから、かな☆」

 

 星の呼び声。

それについてミカ自身、よく分かっていないのだ。

なにせ理屈や理論、果ては道理まで通り越して、聖園ミカが命ずるだけで隕石は落ちてくる。

たとえそこが室内であってもだ。

最早ミカにとって、隕石という物は()()()()()なのだ。

 

「降ってくる瞬間まで反応できないんじゃ、私にオバサン呼びされても仕方ないんじゃないかな?ねぇどう思う?ナギちゃん」

 

「……いつも言ってますが、ソレを無闇矢鱈と乱用しないで下さい。修繕に幾らかかると思っているのですか?」

 

「もー!大丈夫だよ!今回はちゃぁんと微調整してるから!ほら、テラスに穴も開けないようにしたし!」

 

 背中越しにかけられた文句にひらひらと手を振りながらも隕石の直撃を受けて蹲る女の様子を、ミカは注意深く観察し続ける。

 

「(演技っぽくはないかな。じゃあ単純にフィジカルが弱い。でもまだ粘っこい殺気消えてない。うーん、よく分かんないや。何考えてるんだろ)」

 

手持ち無沙汰にくるりと手元の愛銃を回す。

目の前の女は倒れたまま沈黙を続けている。

あれで意識を飛ばしてしまった、そういう話なら簡単だった。

だが、未だ伏せられている筈の視線が滑りを帯びて注がれているのをミカは感じ取っていた。

 

「……ミカさん。今、救援を連絡し終わりました。すぐに正義実現委員会が駆けつける筈です」

 

「んー……ツルギちゃん?」

 

「……()()()。ハスミ副委員長と二個小隊」

 

「……わーお、大人数。ってことはあれかな?セイアちゃんのとこも、かな?」

 

「……おそらく、は……」

 

「ツルギちゃんいるなら大丈夫だろうけど、あんまり良い予感しないし。とりあえず、こっちもちゃっちゃと終わらせなきゃね」

 

 意識があるのは分かりきっている。なのに起き上がらないのはこちらの隙を狙っているかそれとも援軍でも来るのかとミカは考え油断なく銃を構え続ける。

 

「えぇ……よろしく、お願いします、ミカさん……」

 

「……ナギちゃん、大丈夫?やっぱりまだ調子悪いの?」

 

「いえ……ミカさんが来て、なんだか、少し緊張が解けたと言いますか……力が……」

 

 だが、不可解。

意識がある事を悟らせる。

隠そうともしていない。

隙を狙うにせよ違うにせよ、それは敵に対して警戒して下さいと言っているような物。

本当にど素人なのでは、なんて考えがミカの思考に浮上する中。

ナギサとの会話で後詰の確認も取っていよいよと思っていた。

 

「もーっ!無理しちゃダメだってば!大丈夫。私がしっかりコイツ見とくから!……ナギちゃんは座って見てて」

 

「……ありがとう、ミカ」

 

「えへへ。どういたしましてっ」

 

その時だった。

 

 

 

……けひっ

 

 

 

女が、地の底から這い出すような下卑た笑いを上げた。

 

「……ッ。やっと起きる気?いいよ。何考えてるんだか分かんないけど、今度は不意打ちなしで「……う゛……ぉぇ……」……は?」

 

これが訓練された兵士であればそうはならなかった。

少なくとも得体の知れない状況、相手を前にして視線どころか身体まで反転させて背を向ける。

そんな事はしないだろう。

 

 だが聖園ミカはあくまでもティーパーティの生徒。

けっして特別な訓練を受けた治安維持組織の人間ではない。

だから咄嗟に後ろを。

 

 

 

「なぎ、ちゃん……?」

 

 

 

振り向いて、そして見てしまう。

心から大切な親友が、家族のように育った幼馴染が。

今目の前で、目鼻から血液を流して崩れ落ちようとしたのを。

自分自身何が起こっているのか理解しきれない顔をしながら呆然として、そのまま目の光を失っていく様を。

 

「ナギちゃッ……ッ!?」

 

 当然、その身体はナギサの元へと駆け寄ろうとして、止まる。

ミカは己の身体へとぴたりと触れた殺気に気づく。

 

 顔のすぐ下、肩の上。

即ち、首。

冷えた感触、さながらそれは処刑刀か。

ミカの首には背後から伸びた刃が。

女が剣という形で悪意を向け、その刃が今ミカの首へと添えられていた。

 

「……お前。ナギちゃんに何したの?」

 

「何も」

 

 振り向く事は出来なかった。

必要もなかった。

いつの間に立ったのか、そしていつ近づいたのか。

ミカが振り返ったその瞬間、確かなその『隙』に背後を取った女がした行動は明白。

 

 ミカの首筋へと当てられた幅広の刀身こそがその結果。

血に濡れたように赤いその刃はミカが身じろぎ一つでもすればすぐにでも白い肌を食い千切り頸動脈を断つだろう。

ヨナカンがそうであったように、このままいけば、ミカのその美しい首は銀盆に置かれてしまうだろう。

 

「何もしていないとも。桐藤ナギサは勝手に倒れた。ただそれだけであろう?」

 

「……良いから早く言いなよ、聞いてあげるから」

 

「くっくっ……なんだどうした?先ほどまで随分愚弄しておった口が重いではないか?なぁ?小娘」

 

ミカは、動けない。

下手に動けば背後の女に首を断たれる。

かといって目の前で倒れ伏すナギサも放っておくなど不可能。

 

「まあ確かに余の口より溢れるは呪詛に近い。半端な神秘持ちではすぐに毒される……だが、それだけではないだろうなぁ」

 

事ここに至って、ミカは焦る。

ナギサの救出に成功し、安定していた精神にぐらつきが生まれる。

 

「応とも!そうだとも!余は何もしておらんよ!ただなぁ……すこぉしばかり、自分で無理したのだろうよ」

 

 自分は何もしていない、そう語る女の顔を見ずに済んだのはある種ミカにとって幸いであったかもしれない。

そんな物を見たら最後、少なくともミカは冷静さを保つのはもう無理だっただろうから。

 

「……訳わかんない」

 

「良いか?無知蒙昧たる娘よ。寛大な余が教えてやろう。余は皇帝。余の黄金、余の金言、余の行動。これ即ち神意、それ故に権能!……であれば、だ」

 

 それは、あちらの世界の魔術師であれば。

或いはこの地であればゲマトリアか明星ヒマリ、そして古関ウイならば理解できる話。

 

 

 

 

 

 

「余が与えんとした恐怖、余が定めた終幕、余が愉しみにしていた晩餐。それに抵抗するのは神意に、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

───『権能』。

ごく一部の例外を除き、神霊に分類される超常存在のみに許された『理』にして『法則』。

 

 ライターで火が付くのは可燃性のアルコールに浸した紐へと火花を飛ばすから。

それは正しく物理現象というルールに従った結果。そして権能とはそのルールその物だ。

ある種、星の呼び声(ミカの神秘)もまたこれに似ているのかもしれないだろう。

 

 だが、女のソレは───()()()()()

世界をどんな形であれ侵食する権能は、時に念じただけで国や島すら作り上げる。

因果関係すら破綻させる。

物理法則を捩じ伏せる。

女の使う呪詛と呼ぶべき権能もまた同じ。

贄と看做されたが最後、女と対象との関係は捕食者と非捕食者と定義される。

神秘を、キヴォトスを冒す毒。

 

 そして、それこそが桐藤ナギサに今起きている現状の原因。

起こして()()()()奇跡に対するあまりにも大き過ぎた代価。

 

「つまりはほれ、この通り。嗚呼なんと健気か。我らが阿慈谷ヒフミを哀しませんが為に立ち上がって叛骨、誠に見事。だが余は余の夕餉となるよう伝えたのだ、それに歯向かうというのは理に反するという事。如何にお前達が神秘で守られようと、権能で定義された概念を力技で打ち破らんとすれば……死に瀕するなぞ道理に他ならん」

 

 時に罠に嵌められた野の獣が、毛皮も肉も突き破って食い込む枷を引きちぎらんとして命をすり減らすように。

半矢を受けた鹿が必死に逃げた先で、そのせいで命を落とすように。

 

 あの時、女の権能によって贄の仔羊という概念がナギサには当て嵌められていた。

捕食者と被捕食者。

その関係性が成立してしまったが故に、ナギサは狂乱するように必死に逃げようとした。

 

 だがナギサは、その概念を打ち破ってみせた。

友を想い、恐怖を拭い払って、奮起し立ち上がった。

心持ち一つでその権能を打ち破って抵抗したのだ。

だが、その事実は、本人の自覚すら置き去りにする莫大な負担を身体に掛けた。

その結果が臓器からの少なくない出血とそれによるショック───過剰とも言える神経や臓器への負担へと至った。

 

「可哀想な桐藤ナギサ。美しい羽を血に濡らして倒れ伏した姿は野鳥の死骸によく似ている。だが余は赦そう。なに、血抜きは必要だ。些か香水の匂いもあったからな、臭み抜き、というやつだな」

 

 女は気持ちよさそうに、けれど剣先は微動だにせず口を動かす。

さながらそれは舞台女優。

誰も彼もが自分を見ている、自分こそが世界の中心、自分だけに全ての視線は集まるのだと。

肥大化していく()()()を抱いて女は嗤い続ける。

 

「さて。戦いを知らぬ、そう言ったな。褒めてやる。正解だ、聖園ミカ。故、余もお前に贈ろう」

 

 一頻り嗤い、語り、そして。

ナギサが刻一刻と死に近づいていくという現状を明かして女は満足したように息をついて、ミカの背中へと微笑んだ。

数瞬後に泣き別れるその身体を見つめてから、艶然と唇を吊り上げ、目を細め。

 

 

 

 

 

 

───包丁で首を斬られるのは初めてか

 

 

 

 

 

 

一言、そう言ってから腕を振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミカさんの強さ、ですか?』

 

───ああ。幼少から一緒にいるのだろう?よく知っていると思ってね

 

『随分と急なお話ですけど……そうですね。昔からミカさんは元気な子でしたよ』

 

───そうだろうとも。見なくとも想像するに容易いよ。彼女の隣はさぞ賑やかだろうさ

 

『またそんな風に言って……ミカさんに聞かれたら怒られますよ?』

 

───構わないさ。こうして揶揄ってやらないとそれはそれで拗ねるんだ。それぐらい、君も知ってるだろう?

 

『もうっ、セイアさんったら』

 

───すまないね。それでナギサ、実際のところはどうなんだい?我らが秘密兵器の実力というのは

 

『……難しいですね。私は戦事には不慣れです、特に白兵戦については……ですからどう評価すべきか悩みますが。そうですね』

 

───ああ、聞かせてくれ給え

 

『仮にこの学園のどの戦力がティーパーティに反旗を翻したとしても』

 

───我らがお姫様の実力を

 

 

 

『私はミカさんが隣にいればそれら全ての問題を完膚なきまでに制圧できる───そう、信じます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sword , and Youth

EXTRA BATTLE 1/3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

女は、その現実を理解できなかった。

 

「(衝撃ッ、爆破かッ!?あり得んっ、なんだ、何が起きたッ!?)」

 

 宙へと投げ出され、アスファルトに転がる中で思考は疑問で埋め尽くされていく。

 

 数瞬前まで確かに女は優位に立っていた。

無理をした桐藤ナギサは倒れ、聖園ミカは背中を向けた状態で首に剣を当てられていた。

どう考えても逆転なぞあり得ない状況だった。

それが、どういうわけだろうか。

女がミカの首を刎ねる為に剣を振った次の瞬間には、何故か自分が吹き飛ばされていた。

 

「(何故ッ!?何故だッ!何故、余が地面を舐めているッ!?)」

 

 そう、女は確かに首筋に添えた刃を滑らせた。

腰をしっかりと入れ、振り抜いた。

サーヴァントの膂力、女のそれはステータスで言えば上位に数えられる『B』。

剣の風圧だけでも通常の人類であれば肉片に変える暴力。

 

 その暴力を以て間違いなく剣を振り切った。

故に、当然の結末として聖園ミカは間違いなく死ぬ筈だった。

目の前で命の灯火を失っていく光景を前にして何も出来ない無力感を抱えたまま、その光景を目に焼き付けて生意気な小娘の首は断たれる。

 

 そうなる確信が、女にはあったのだ。

それに愉悦を抱いて、期待に下腹部を濡らして。

そうして剣を振るった。

その結果、女は何故か顔面に走る痛みを感じながら、地面に這いつくばっていた。

 

「……ちょっと待っててね、ナギちゃん。すぐ救護騎士団の子も来るから」

 

 聖園ミカの首から上と胴体は今も繋がっている。

あまつさえ、スマホを片手に救護騎士団へと連絡しながら、スクエアにある噴水の側へと歩いていくと、横にして抱きかかえていたナギサを降ろす。

そうして、回復姿勢を取らせてから自分のボレロを横たえたナギサへとかけているのだ。

 

 そう、ミカは生き延びた。

背後を取られた致命的な状況、それを脱した手法は言葉にすれば単純。

 

 

 

 

 

 

 自身の首へ押し当てられ、そのまま振り抜かれた刃と寸分違わない()()()()で体を後方へと下げた。

 

 

 

 

 

 

 剣は、刃物は。

()()()()()()()()()()のだ。

切断とは刃筋が物体の分子同士の結合を解く現象。

分子間の結合は圧力、摩擦によって変質し、触れた物体に引き摺られる事で引き裂かれる。

 

 それが切断という現象だ。

刃を当てただけでは、早々に切れはしない。

刃物は引かなくては斬れない。

 

 だからミカは、背後にいる女が振り抜く動作、太刀筋を完全にトレースした上で同じよう速さ、方向で身体を動かして刃を引かせなかった。

 

 そうして女が剣を完全に振り切った瞬間に、隙間なく添わせた刃から身を離し、振り向きざまに顔面へと裏拳を叩き込んだ。

ただ、それだけの事。

 

 言葉にすれば実に簡単だ。

一つ、刃が身体に触れている。

一つ、太刀筋が分かりきっている。

一つ、身体能力に大きな差がない。

あの窮地にあって、この三点の条件が揃っていたが故に。

聖園ミカは完璧に危機を脱してみせたのだ。

 

 そしてそれを女は知る由もない。

当たり前だ。

全身を動かすより腕を振った方が先端速度は明らかに速い。

 

だからこそ。

あり得ないのだ、ミカの挙動は。

そもそも後ろにいて見えてもいない人間の動きを。

幾ら想定される太刀筋が一つしかないとはいえ、それを完全に当てて動いてみせるなど。

最早それは絶技という他、ない。

 

 そんな常識破りの手段で危機を脱したミカは振り返り。

 

「……もう、いいや

 

一言呟いて、女を見た。

 

「ぐぅ……ぶッ……ッ!?」

 

 姿がぶれたのは、次ではなく正しくその瞬間だった。

なんとか立ちあがろうとしていた女は反応出来なかった。

一瞬で距離を詰められそのまま女の身体がくの字に折れる。

 

 正拳突き。

打撃が文字通り突き刺さる。

辛うじて親指を拳の中に入れない、その程度の知識しかない素人からの一撃。

だがそれは耐久にしてB+、サーヴァントという極大の神秘に匹敵する女の強固な身体に確かなダメージを与える。

 

「色々聞こうとかさ、思ってた。ほら、私これでもまだ一応ティーパーティの一員だからさ」

 

 女は返事をしない、出来ない。

殴られた衝撃で再度、地面に付く膝。

そうして体勢を崩して苦悶の声をあげる喉へとミカの履くパンプス、そのアーモンドトゥの先端が深々と突き刺さり、そのまま蹴り抜く。

 

「お前が、先生と一緒に私がさっきまでやり合ってた()()()の仲間かどうかとかさ、なんでナギちゃん狙ったかとかさ、そのペラペラ、ペラペラうんざりするぐらい口の回る小物具合ならどうせ黒幕いるんでしょとか。聞きたい事は山ほどある」

 

 硬質な音がタイルを伝わり夜のトリニティに響く。

一歩、また、一歩。ミカは女へと歩いていく。

 

「……貴様ァァァッッ!!」

 

 女は剣を頼りに今度こそ立ち上がり、それを発条としてミカへと駆ける。

速い、間違いなく。

僅か一秒もかからずに間合いを詰めて横薙ぎ。

大振りで稚拙な一撃。

だが、その速さも相まって常人では反応すらゆるせれない。

 

 

 

「───で?

 

 

 

金属音は場違いに華やかだった。

 

「言わなかったっけ?───口臭いから黙れって」

 

ミカの愛銃。

夜空で染め上げたような美しいそれが剣を確かに止めきっていた。

 

 結果から言うのなら、これは当然であった。

女が持つ剣の元となったそれは、そもそも宝具ではない。

星の涙と称される貴重な隕鉄を使用して皇帝自ら打った正しく宝剣、その模造品。

()()()()()、担い手の技量がより要求されるというに、今はただの薄汚れた人斬り包丁に成り下がっている。

 

 それに対してミカの愛銃はただのトリニティ製サブマシンガン。

だが、ミカが心から愛情を込めて飾りつけたそれには直向きな神秘(祈り)を宿している。

そうやって大切にされてきた銃がだ。

応えない筈がない。

よりにもよって主人の前で錆びついた剣如きを相手にして折れる道理など、何処にもない。

 

「げ……ァッ!」

 

「ふぅん。心が不細工だと悲鳴も下品なんだね」

 

 そしてそのまま横蹴り。

毎日丁寧に手入れされた質の良いパンプスは、常ならば地面を蹴るが今日は主人の命に恭しく従い敵を撃つ。

まさに一蹴。

またも互いの距離は離れる。

だが女も負けじと剣を床へと突き立て蹴り飛ばされた衝撃を殺してそのまままた駆け出す。

 

「あー、そうそう。なんだっけ?聞きたいことはあったんだ。でももうなんか、面倒くさいや。ナギちゃん早く安全なところ連れて行きたいしこれから救護騎士団の子が来るし」

 

「二度も……余を、皇帝を……ッ!」

 

「だから目障りなの。分かる?……早く消えちゃってよ、私達の前からさ」

 

 背にいるナギサを庇うように佇んで真っ直ぐにその動きを見つめながら静かに引き金を引く。

荒々しく縦横無尽に駆けては剣閃を繰り返していく女の初動を潰していく。

対する女もその意図を読んで、急所以外に当たる弾は無視して幾度も剣を振るう。

その度に一歩、また一歩と下がり、進み、避け、銃身で捌く。

 

「二度も余を足蹴にするかッ!?この下郎がァッ!」

 

「……貴女がね」

 

 激昂してか大振りな太刀筋。

それでもその威力は最早人間大の旋風。

炸裂するように叩き込まれる連撃。

暴力的な殺意の焔。

触れれば即座にぶつ切りに、そして何時しか刀身に宿った赤黒い炎がミカの身を灰とするだろう。

無論、それは()()()()()()()()()()()

 

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 

「あは★そっちの頭の出来が?それならご愁傷様」

 

 だが、当たらない。

一度とて掠りはしない。

もしナギサが起きていればこの一連の戦闘を眺めながら、はっきりとこういった事だろう。

───当然の結果、だと。

 

「(あり得ん……そんな事は起きる筈がないッ!たかが英霊でもない生徒が、子供が……ましてや一介の政治屋気取りに過ぎない小娘がッ!小鳥遊ホシノや空崎ヒナ達でもあるまいに!こんな……こんな動きをッ!?)」

 

 サブマシンガンの連射、それに匹敵するのではと見ている物に恐怖を抱かせる超高速の剣戟、その応酬。

地面へと、銃撃と剣戟の傷痕を深々と残しながら攻防は続けられる。

 

「(あんまり良くないかな。流石にこれだけドンパチしてたら救護騎士団の子も入ってこれないだろうし。おかげで巻き込んじゃう心配はないけど……それじゃあナギちゃんが……)」

 

 一見して劣勢なのはミカだろう。

背後にいるナギサを庇う形での戦闘。

相手の懐に潜り込んでのインファイトが出来ず、かといって銃撃だけでは決め手に欠ける現状。

 

 だが一方で女もまた攻めあぐねていた。

 

「(……ッ。スキルを使う隙を潰される。剣術かそれに類するスキルでも取得すればと思ったが……かくなる上は仕方あるまいか)」

 

 元より女の身体、その知識、その技量はヒフミと契約したセイバーのような歴戦の剣士のそれではない。

自称するようにどこまでいってもその肉体は『皇帝』。

勿論、それを補い得る手段はある。

 

───スキル『皇帝特権(⬛︎)』。

 

自身が持っていない能力を持っていると主張することで本当に手に入れるスキル。

彼の帝国にあって皇帝とは神そのもの。

ならば()()()()()()()()()()

もちろん、その規格外のスキルランクから基本的なスキルから肉体面に依存した物すら獲得が可能。

 

 だが、それをさせてくれる暇なぞ、ミカの猛攻には何処にもない。

剣戟での決着が、終止符を打つ事が出来ない。

それは女にとって、今この場で最も困る事。

 

「……つくづく目障りな羽虫だ」

 

 神とはある種、その権能に、性質に縛られる。

本質的な変性は基本的に信仰によってのみ起こる。

気まぐれに見えるそれには人とは違うより強固なルールがある。

つまり、ある種不自由なのだ。

そう、この場で女が困るのはただ一つ。

 

「どうも。で、いい加減諦めてくれた?ほら、ぶんぶん、五月蝿いでしょ?」

 

「何度も言ったであろう?余は、皇帝だ」

 

 それは増援が来る事ではない。

たとえこの場に他の生徒が来たとしても女は()()()()()()()()()()()()()()()()

⬛︎⬛︎のライダーと同様に、女は生徒という存在に対して著しい優位を取れる絡繰がある。

その権能の性質から一度嵌めてしまえば、余程がなければ確実に贄とすることができる。

その殺傷力は、⬛︎⬛︎のランサーにも並ぶだろう。

 

では、時間がかかる事か。

否、それも違う。

なにせ、他の自治区にも同じように派遣されているのだ。

ここでどれだけ時間がかかろうと、最悪桐藤ナギサの生命を確保できなかったとしても。

何処か一箇所でも。

 

ライダー戦後で疲弊したシャーレの先生。

神聖の萌芽でありイレギュラーである砂狼シロコ。

セイバー陣営の協力者である早瀬ユウカ。

ライダー陣営の中核である陸八魔アル。

預言の大天使たる百合園セイア。

 

 このうち一人でも暗殺しておけば次の動きが格段にスムーズになる。

ただ、それだけ。

女にしても道中、道案内した少女達を摘み食いした程度には気楽な仕事。

だからどれだけ時間がかかろうが、今挙げた名前のうち、誰か一人でも殺せておけばいい。

 

「余はな、決めたのだ。今宵の晩餐、そのメインディッシュは桐藤ナギサにすると」

 

そう、問題は。

時間がかかって、このまま()()()()()()()()()()()()()

女は皇帝を自称する。

女は己を神のように考える。だからこそ自身の『食事』として定義した桐藤ナギサが死んでしまう自体を避けようとしていた。

生き残るならいいのだ、また別日に食べるだけなのだから。

だが、この手で喰らうという過程を経ずに命を落とされては()()()()のだ。

 

融通を利かせて別の手段に切り替える、なんて賢いことは()()()()

そんな事は、そんなまるで自分が口にした事を現実の前に妥協するなどという敗北を認めるわけにはいかないのだ。

 

「そうだ。欲しいのは桐藤ナギサである。分かるか?つまりだな」

 

死んではいけない(食せねばならない)

甘く蕩ける恐怖と絶望を舌に乗せられない。

それは避けなくてはいけない。

 

 だからこそ、女が選んだ手段はより苛烈となる。

 

 

 

「─── お前はいらんぞ、聖園ミカ

 

 

 

 一層に『魔力』が渦巻き、毒々しい焔が轟々と気炎を吐く。

その魔力たるや最早セイバークラスが扱うそれにはとても見えない。

 

⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。

ミカは知らない事だが、汎人類史におけるかの帝国、その五代皇帝であった彼女は魔術師としての才覚すら持ち合わせていた。

 

 そう、万能の人。

それが世界でも絶大な知名度を誇るローマの皇帝ネロ。

その魔力が、聖杯による増強もあってかミカの周囲を取り巻くようにして渦を巻く。

それはさながら、煉獄の檻。

 

「ッ!……あはは☆」

 

 だがミカの目に、極端な焦りはない。

これしきの事態で、たかが自身の生命を脅かされる状況程度で。

ミカの精神はブレない、揺れない。

確かにナギサの命が危機に瀕するこの状況だ、普段より火力は目に見えて安定はしていないだろう。

それでも。

 

「(わーお、嫌なカンジ。流石にあれあたったら大怪我かな?)」

 

 確実に女と渡り合わんと気力を漲らせる。

今も強大な力を見せつけられてなお、平静に状況を見据え、目の前の汚い焔より遥かに熱い純白の怒りを心に灯す。

 

 そして、一歩。

果敢にも爆炎を宿した刀身を構えその背に劫火を背負った女へと吶喊する。

この場に水はない。

防火服なんて物もない。

火傷のリスクは間違いなかった。

だが、ミカには最早関係はない。

 

「(あーあ、ここで実は私狙い……とかだったりしたら楽なのになぁ……気持ち悪いなぁ。本当にナギちゃんの事しか見てないや、コイツ)」

 

 迫り来る熱波。

手掌、そして刀身を振るうことで操られる業火はミカを嬲らんと襲い掛かる。

避ける事は不可能。

躱してしまえば後ろのナギサに当たるだろう。

ならばどうするか、決まっている。

 

「ナギちゃんッ、セイアちゃんッ……ごめんッ!」

 

走りながら即座に跳躍。そのまま女を見据えたまま背後に、ナギサのいる方向へと弾丸を叩き込む。

吸い込まれた弾丸は目的通り、長い間トリニティの生徒達を見守ってきた噴水を破壊して瓦礫の山と、大量の水を夜のスクエアに広げる。

 

「こういうの……どうっ!?」

 

「……チッ。小癪な」

 

そのまま空中で指揮するように腕を振り下ろす。

星の呼び声。

再度、隕石を叩き込む。

 

 今度は女もそれを躱していくが最早関係ない。

降り積もるそれは先ほどよりも多く大小様々なその数は合計19発。

瓦礫と隕石、そして壊れた噴水から噴き出した大量の水。

それらによってミカは、自身の背後に即席のバリケードを用意する。

炎の熱だけでもナギサの身体から遮断する、そういう判断であった。

 

 だが、それでもなお女の視線が変わらないのを見て、ぎりりと奥歯を鳴らしながらミカは今度こそ吶喊する。

 

「(ナギちゃんは気絶してる。とりあえずバリケードは用意したから今はいいけど)」

 

 爆炎を纏った剣戟を躱しながらの状況分析。

女の炎はただ剣閃に沿って直線的に、若しくは女を中心に放射線状に噴き出すというのを視界全てが炎に包まれるという極限状態で理解する。

 

 通常、生物は火に恐怖する。

それは人間とて同じ。

周囲全てを炎で囲まれれば恐れだけでなく酸欠、そして喉を焼く恐れすらある。

それを理解し、今度はミカが縦横無尽に駆け回りながら銃撃を重ねていく。

 

「そぉ……っ、れッ!」

 

 無論、ただ駆け回るにしても行く先を炎で塞がれる。

だからこそ、備え付けられたベンチで身を守る。

砕いた路面を蹴り飛ばしては動きを邪魔する。

打ち上げた瓦礫に飛び乗っては、三次元的な動きでより鋭角に素早く別の場所へと移動する。

 

「はっずれ!私はこっちだよー?」

 

 トリニティ総合学園3年生、ティーパーティ所属聖園ミカ。

政治は得意じゃないと嘯く彼女は事実、パテル派の首長でありながら政治闘争という物に本腰を入れたのはこれまで一度限り。

どちらかと言えばゲヘナに対して以外は穏健派な人間だ。

 

 だからこそ、彼女に対して流行りに敏感でお化粧やショッピング、SNSが好きな可憐なお嬢様という人物像で認識している生徒は多い。

それも間違っていない。

それも確かに聖園ミカだ。

 

「じゃ、これはどうかな?」

 

「……ぐ、ぅぅッ!」

 

 だが、今、炎を影にして姿を隠したかと思えば突然女の前に振ってきては剣戟を捌きながら拳打と銃撃、果ては銃床を眼窩目掛けてフルスイングで叩き込むミカを見て同じ感想を抱けるだろうか。

 

 そう、聖園ミカは間違いなくキヴォトス内でも有数の、そして()()の実力者だ。

天賦の才。

主に愛された肉体美。

 

 治安維持組織に所属したり特殊な訓練をしたわけではない。

それでありながら恵まれた身体能力。

先ほど首を絶たれそうになった時に見せた曲芸染みたボディコントロール能力。

浮き沈みの激しさはあれどクレバーな思考。

そして他者と隔絶した神秘。

 

 鍛えたわけではない、誰かから学んだわけではない。

否、いらないのだ。

本人も自覚がある、『力が足りないと思った事はない』と。

 

 つまりは、生まれながらの強者。

純粋に生物としてステージが遥か高みにいる生徒。その身と魂に秘められた神聖が意味するままに凄まじき力を体現する少女。

それもまた、聖園ミカに間違いないのだ。

 

「こういうカンジ……どうっ!」

 

 三角跳び。

速さで炎の舞台に風穴を開けていく。

フィジカルで魔術というオカルトを突破する。

 

 冒涜的な赤がバルコニーを包み延焼する戦場。

巨人が腕のように掴みかからんと襲いかかる焔の軍勢。

炎で刀身を包みながらその下に氷のような凍てる殺意を隠す剣。

その波状攻撃を燻んだ血色よりなお鮮烈な純白の翼を翻して躱し、さらにはその翼で()()

 

 天使の羽根、それを支える腰の筋肉は飾りではない。

鳥類の発達した胸筋が秘める筋量が凄まじく、翼で打つという行為が時に天敵を迎え打つ武器となるように。

 

「しつこい小蝿が……ァッ!」

 

 ストレッチとヨガ、それから先生の奥さんを目指しての日課のスクワットだけ。

だか天賦の肉体を有したミカの広背筋、大臀筋、そして腸腰筋から放たれる翼によう殴打もまた、拳に匹敵するほどの威力を弾きだす。

 

 そしてその動きは止まる事なく滑らかにまた空中へ。

女が振るう返す刀をバク転をしつつ羽根で弾きながら、その勢いを殺す事なく落ちてくる瓦礫へと飛び乗ってまた鋭い機動を見せる。

 

「猿か、貴様は……ッ!」

 

「私は可愛いお姫様!それから今はッ!」

 

 気炎は周囲の焔よりなお激しく。

再度、女の前に立ったミカは。

 

「……ガッ!?」

「ナギちゃんを守る王子様だよ。あといい加減さ」

 

鎧袖一触。

否、一蹴。

女の放った横一線をしゃがみ込んで躱し、そのまま両手と左足を軸にパンプスを放った。

 

 

 

 

 

 

「───気持ち悪い目でナギちゃんを見るな

 

 

 

 

 

 

 三点倒立背面蹴り(エスコルピオン)

蠍と呼ばれる一撃は女の顎を打ち砕きながら女の身体を数メートル先のフェンスへと叩き込んだ。

 

 





1じゃんね☆
投稿遅れてごめんなさい……
普通にインフルエンザになってたじゃんね☆
今日からまたぼちぼち投稿再開じゃんね☆
土日でひーこら言って書き上げるじゃんね☆
もし良かったら読んでやって下さいな!……じゃんね☆

あ、今回ナギちゃん吐血してぶっ倒れたのはダイス結果で重体になったからじゃんね☆
当初の予定?そんなもんは1話の時点でプロット崩壊したから今更じゃんね☆
加筆版で迫撃砲喰らったりしたのはそこら辺の調整も兼ねたじゃんね☆
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