꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱「うんうん、分かる分かる☆」
꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱「いやぁごめんね、うちの分派の子達によく言い聞かせておくから☆」
꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱「それでさ、その戦車、今どこにあるのかな?」
꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱「へぇ───ヒフミちゃん、かぁ」
時計台の短針がⅢの数字を示す頃。
彼女はそこで待っていた。
長い歴史を見てきた鏡面仕立ての大理石が敷かれたバルコニー。
白いガーデニングチェアに座る、白く美しい彼方。
「お久しぶりです、ヒフミさん」
その顔には気がつかないほど小さな疲れを滲ませて、けれど美貌に一片の翳りもなく、十代の瑞々しさに落ち着いた色香が混じり合っている。
白い翼、紅茶を想わせる淡い色の髪、この地を睥睨する琥珀の瞳。私の、憧れの人。
「お元気そうで何よりです。怪我をされたという話を
品位貴き彼女が纏うその純白の制服は、トリニティ生の多くが憧憬を向ける、歴史と誉れあるティーパーティの物。
「はいっ!……あ、あの入院だったりその間の警護だったり、色々手配して頂いてありがとうございました!」
キヴォトス三大校が一角『トリニティ総合学園』、その頂点たる最高権力者。
「気を病まないで下さい、ヒフミさん。その程度の事、我が校の生徒、それも他ならぬ『ヒフミさんとそのお友達』を守る為でしたら些事に過ぎません。
フィリウスの君主、生徒会長
「主が愛を説き、そうしたように。私もまた、それに倣うだけ。知識は誇りに、愛は徳に。受けるよりも与えることが幸である。───そう、愛は巡り巡る物なのですから」
桐藤ナギサ様は、静かな微笑みを浮かべて私を待っておられました。
「それにしても、なんだかこうしてお話しするのは久しぶりな気がしますね。つい先週もお話したというのに。そうそう、あの時はカップの温もりが残るほどゆったりとした時間だったでしょうか?」
先ほどよりほんの少しだけ咎めるような気持ちの乗った声色に思わず申し訳なさと苦笑いが溢れてしまう。
「あはは……なんだか、ご無沙汰しています。ナギサ様」
「はい、本当に。例の一件から中々時間が取れませんでしたから。こんな風にヒフミさんが急にお茶会へ来てくださるのも、いつ以来の事でしょう」
その通りで、私は補習授業部の活動やペロロ様グッズの収集活動が。
ナギサ様はエデン条約関係の後始末や普段の学校と自治区の運営、他校との折衝。
そんな風に互いにばたばたとしていてここ最近は以前ほど*1お茶会が出来ていませんでした。
「ナギサ様もお忙しいようでしたし、お邪魔してしまってはいけませんから」
「あら?それはまた、どうして?」
「わ、私なんかが急にお邪魔してナギサ様の大切な時間を使ってしまうのは……特にここ最近はエデン条約の事後処理だけじゃなくて謝肉祭や学園祭の運営とかもありますし……」
「ふふ、ヒフミさんは本当に面白い方ですね」
「───なら今日はどうして
一瞬だけ、喉の奥を空気が刺した気がした。
けれど、それは勘違いだと言わんばかりに柔らかな雰囲気を崩さぬまま、彼女は告げる。
「お土産まで用意して下さって、
言葉だけ取り出せば責めるような、問い詰めるような。
けれど目の前で柔和な微笑を浮かべる彼女にその意図がないのは、その揶揄うように細めた眼を見れば分かる。
「……ぅあ、いえ全然そんなことはなくて!!……あぁああの!私ほんとに!!」
それでも返答が、遅れてしまった。
思わず、取り繕った言い方になってしまったのを誰が責めれるでしょうか。
ナツちゃんの件の時もそうでしたけど、
普段ならなんて事もない言葉の一つひとつに僅かな足踏みが生まれている。
気をつけなきゃ……そう意識していたからこそ。
「いいんですよ、ヒフミさん。私の愛はいつだって、貴女への分を
その瞳と、言葉は私の中に強く刺さった。
力を貸してくれた
思わず吸い寄せられるようなどこまでも力ある御方の瞳、それが今は気心知れた友人へいじわるをする童女のように、そんな目線が自分へと向けられている。
「ナギサ様……」
胸が、高鳴る。
たった一つ歳が違う。
それだけなのにずっと大人っぽくて。
家柄も立場も遥かに格のあるこの天上の人は、いつもこうして私へ溢れんばかりの親愛を向けられるのですから。
「さぁ、こちらに来て、どうかお話を聞かせ「そういえばコハルちゃん♡そんなに短ぁいスカート♡で
一歩、ハナコちゃんが笑顔で床を踏む。
前へ、私の隣へ来て。
するりと、肩と肩が触れ合った。
「……随分とまぁ、
時刻はまた夕方にならない頃。
それなのに。
「あら?ありがとうございます、桐藤ナギサ様。でもお言葉に甘えてしまっていいのでしょうか?てっきり私、
何故だか寒いです。
あ、あれ……変ですね?季節はまだまだ暑い頃の筈なんですけど。
「それはそれは。大変申し訳ありません……お客様の下江コハルさんにも白洲アズサさんにも椅子をお勧めしないなんて、失礼な事をしてしまいましたね。嗚呼でもまさか、貴女
ちらとでもコハルちゃんやアズサちゃんの顔を見たいというか、このどうしてか居た堪れない空気から解放されたいのに。
「いえいえそんな。気になさらないで下さい。ナギサ様
し、視線が。
視線が圧で固定されて動かせないです。
「ふふ、遠慮なさらなくていいんですよ。そうそう、もしも必要なら貴女にぴったりのお
あ、ナギサ様がすごい勝ち誇った顔をしています。
普段通りに取り澄ましたお顔ですの分かりにくいですけど、私には分かります。あれはドヤ顔です。
「……折角のお申し出ですけど、私には今の席がちょうどいいので。なにせ、
僅かな無言、それがたまらなくこう、嗚呼踏み抜いてしまったな感が強いです。
た、助けて下さいセイバーさん!!!
「まぁそれはそれは。私もご相伴に預かっても?嗚呼、でもそうしたら……席が一つ足りなくなってしまいますね」
へ、返事がありません。
「いえいえ、あの席は……
何故でしょう。ハナコちゃんの目線がやけにナギサ様の、その、お、お尻を見ていられるような!?
いえ、そんな筈は……私の考えすぎな筈です。
でもその視線と言葉を受けたナギサ様の方から明らかに圧が、圧が増してます。
「……恥ずかしながら、風に吹かれて飛べる事ができればと幼子のように考えてしまう事もあります。えぇ、ですが、確か花の美しさは黄金にも引けをとらない、と聞きますからね」
な、なんでこんな事に。一体どうして……!?
「まぁ……うふふ♡」
「おや……ふふ……」
二人の笑い声が。
そしてその声から漏れる、そう錯覚させられる冷たい雰囲気が決して狭くない筈のバルコニーを支配していく。
これでは、話どころの騒ぎじゃありません。
そう思ってなんとか話題を逸らそうとした時、囁くような声が二人分、後ろから聞こえてきました。
(ちょっとアズサ。あの二人なに話してるの?)
(むぅ、私にも分からない……いや、確か桐藤ナギサはガーデニングが趣味だとアリウスの諜報部隊がまとめた資料で見た事がある。そうだとすると……)
(あ、もしかして!ナギサ様は今、お花の事ついてハナコとおしゃべりしてる……ってこと!?)
(ああ、恐らく間違いないだろう。ふふん、どうやら私の推理力も中々バカにならないらしい)
(エクター……僕は今切実に、この子達から目を離してしまうのを怖く感じているよ……もしかすると、こういう物もまた、親心と呼ぶのかもしれないね……)
二人の声は、確かにナギサ様達にも届いたようで。
「……やめましょうか」
「……そうですね、折角の時間が勿体ありません」
あっさりと。凍った空気が一瞬で溶けて無くなったのを私は感じました。
「では、改めまして補習授業部の皆さん」
「ようこそ、ティーパーティーへ」
「益のある時間を過ごせることを願っております」
「勿論───」
お互いにとって、ね───?
「では、今日はヒフミさんとアズサさんの入院時の事をわざわざ?」
トップコートだけ、なのに綺麗に整えられたその形の良さで気品すら感じさせる爪を魅せる指先で、ナギサ様は口を抑えてそう言われまひた。
「ええっと……はい、あの、ご迷惑だったでしょつか?」
冷戦と言わんばかりに冷え切った時間がアズサさんちゃん達二人のおかげで溶けてからすぐ。
私達は席へと案内されて、ナギサ様が手ずから入れてくださった紅茶と、私達が持ってきた『ミレニアムロールケーキ』を堪能しました。
「そんなまさか。元より、ヒフミさん達へ閉める扉など、ティーパーティーには準備しておりませんから」
ナギサ様から温かいお言葉に思わず胸がぎゅっとなる。
一度すれ違ってしまって、それを『先生』が橋渡ししてくれて、
「はいっ……改めてありがとうございました。ナギサ様」
今こうしてまたお話出来ている。
その事実がたまらなく嬉しい。
その気持ちと、それから私を、私達を心配して守ってくれた事を心からのお礼をする。
それに続くように、口いっぱいに頬張ってロールケーキを食べていたアズサちゃんも。
「もっ、もっ……んん……ふぅ、世話になった。ありがとう、桐藤ナギサ」
なんとか食べ切ってお礼を伝えるのでした。
あ、アズサちゃん、ほっぺのクリーム取りますから動かないで下さいね。
「構いませんよ。先ほども言ったようにすべて我が校の罪なき学徒を守る為なのですから」
そう言ってはにかんで。
ですがそのすぐ後にナギサ様の表情に翳りが生まれる。その指に支えられたカップの中、注がれた夏摘み特有の爽やかなオレンジ色。
それを見つめられる彼女の顔は物憂げで、長い睫毛が微かに揺れた。
「……本当はお二人のお見舞いにも行きたかったのですが、仕事の忙しさにかまけて、いえ違いますね。傷ついたヒフミさんの苦しむ姿を見るのはどうしても偲びなくて……私の不徳をどうかお赦しください、ヒフミさん」
そっと音を立てる事もなく置かれたティーカップ。主宰だからといって本来立つ筈もない彼女が、このお茶会の席で立とうとする。
それはきっと頭を下げる、そういう意志なのだと理解できたからこそ、私は慌てた。
「そんなナギサ様!モモトークだって沢山下さって、心配してるのはすごく伝わってきてて!だからあの「くすっ」……あ、あれ?ナギサ様?」
しばらく、軽やかな声が空気を揺らす。可愛いらしい声は鈴というけれど、彼女のそれはきっと温かい木管楽器のような、新緑に囲まれた柔らかみのある物でした。
ひとしきり笑って、そっと指で眦をさすり。
「ごめんなさい、ヒフミさん……少し揶揄ってしまいました」
ぺろりと舌を出したのだった。
「もうっ、ナギサ様……」
その仕草にも、それを私にしてくれる事にも怒るに怒れず。
結局私はそれだけ言って頬を膨らませる事しかできない。
それを微笑ましげに見つめてからナギサ様は口を開いて
「ふふっ、ヒフミさ「うふふ、今日
ハナコちゃんが会話に飛び入り参加されました。
いえ、別に間違ってはないんです。
これはお茶会ですから、みんなで和気藹々と楽しんでお話する。それが一番です。
一番大事なんです。
「ええ、大変気に入りました。今度是非、ゆっくり、静かに、この甘味を愉しませて頂きたいところです」
なんですが……。
「まぁ、それはそれは。うふふ……」
「えぇ、本当に。ふふふ……」
「あ、あはは……」
もう笑うしかありませんでした。
「そ、そういえば!最近は如何お過ごしでしょうかナギサ様!?」
空気を……。
この空気をどうにかしなくては、そういう想い。
その一心で放ったのは、当たり障りのない話題。
「ええ、そうですね。心穏やかに、とは少し言い難いでしょうか」
白磁のそれを、丁寧にケアをされた指で絡めてそっと掴み。
その蕾へと載せて、音もなくその中身は落ちていった。
「一昨日の列車事故によるヒフミさん、アズサさんの負傷から始まり」
少し濡れ、午後の陽射しを受けて慎ましげに輝く唇から音が続く。
「昨日は自治区内で、ええ、バスジャック事件に本日の幽霊騒動……謝肉祭を終えて後残すの大きな自治区行事も数えるほどになってきたというのに」
琥珀の瞳だけが語っている。
言われていなくてもそれが意味するところを察する。
たらりと冷たい汗が頬を伝う気がしたのを私は極めて懸命に無視した。
隣のハナコちゃんとコハルちゃんも視線が明後日を向いていた。
アズサちゃんだけは分かってないのか変わらずロールケーキのおかわりをしているかわいい。
「……まぁいいでしょう。……それだけでなく他校での連続爆破事件……果てはクレーター騒動まで。たった数日で我が校だけでなくキヴォトス全体で大小関係なく不審な事件が立て続けに起こっています」
爆破の二文字。
どこかで聞いた覚えがあると記憶の中で誰かが叫ぶ。
今日だけでも駐車場、古書館、果てはあの路地裏。
たくさんの情報を聞いているからか、頭の中でそれらが絡み合って中々解けてくれないどころか、記憶の引き出しにまで引っかかっている。
「当然、各関係者を集めて対応に当たっていますが正直なところあまり進展はしていませんね」
物憂げな視線はバルコニーの向こう。
眼下に広がる、このトリニティという自治区に向けられて。
「正義実現委員会はよくやってくれていますが、流石に自治区外までの情報。それも同時に複数の規模が大きい物をごく短期間でとなると中々……他自治区との折衝をしながらですからティーパーティー側での対処する必要があります」
痛いほどに伝わるのは、愛情。
この人の他者へ向けられる愛情は重いのではなくあまりにも大きい。
それは責任、そして庇護として形を成し、大切な物を守ろうとする。
だからこそ、現状をこんなにも憂いているのだろう。
「ですが、今回の事件のように命の危険までもが伴う情報収集を行えるだけの純粋な『戦力』も『人手』も、今のティーパーティにはとても足りません」
その言葉は未だティーパーティーという組織について然程知っているわけでもない、平凡な学生には漠然としか理解できない。
「その為の正義実現委員会も強化して行っている自治区内のパトロール活動や護衛も含めて、情報収集に専念できるほどの余裕はありませんしね」
正義実現委員会の方々には、今日のアズサちゃんの退院まで私の分を含めて病院での警護まで勤めて頂きました。
ですがそもそも正義実現委員会は自治区内の治安維持を目的とした組織です。
普段の活動もある以上は、捜査にこれ以上の人員は中々割けないのかもしれません。
「現状、連邦生徒会主導による他自治区との話し合いも検討されていますし、その際は私単独で赴く予定ですが……とはいえ前回を考えるとどうなる事か」
嘆息一つ吐き出す姿を眺めつつ、私の中で情報を整理していく。
ティーパーティーは正義実現委員会と協力関係にある。
その情報の収集はアサシンさんの存在とその危険性を考慮してか、それほど大きくは進んでいない。
そして各自治区でナギサ様が特別に例として挙げるような規模の大きな事件が起きている。
「本当に掴みどころの見えない事件です」
「私としてもこれ以上
決意は堅く。
その想いには気高い信念があると、違わず思わせる。
桐藤ナギサという物腰の柔らかな淑女がこの広大なトリニティ自治区で一つの派閥を率いて、頂点へと上り詰めた理由こそこれなのだと思います。
貴人。
誰もが憧れる地位にあって彼女は、それに驕ることも溺れることもなく、気高くあらんとするその姿と信念に、きっとフィリウス分派の人達はついていきたいと思ったのでしょう。
だって私も───。
「本当にお疲れ様です、ナギサ様。どうか、私にお手伝いできる事がなんでも仰って下さい!」
「ありがとうございます、ヒフミさん。そう仰って頂けるだけで、凄く楽になりましたから。───私こそ、こんな詰まらない話ばかりして……折角のお茶会の席だというのに」
そんな貴女だからこそ、友達になってみたいと。
そう思ったのは決して、嘘ではないのだから。
「わ、私から聞いた事ですし……それに!それでナギサ様のご負担を少しでも軽くできるなら!私!たくさんお話聞きます!」
つい意気込んでしまってそう宣言してしまう。
その勢いもあってか彼女はその大きな目をぱちくりとさせて。
「……もうっ、本当に。そんな風に言ってくださるなら、甘えてしまいますよ?……とはいえその一件を除けば、学内の課題は小粒が多いですし……」
小さな顎を人差し指を当てて思案しつつ、訥々と最近の様子を話して下さいました。
「そうだ、今なんでも1年生の間でロックバンド*2が流行っているとか」
「おかげでそういった音楽やファッションを好む学生も増えてきたようで……ほんとにもう」
「恥ずかしながらこういった物に少々疎いといいますか、どう制御すべきかと、少々頭を悩ませてしまいますね」
「あとは……そう。他には何か、『お聞きになりたい』事はありますか?」
彼女は問いかけてくれました。
「あら?幽霊騒動について、ですか?……ヒフミさんでしたら
からかい混ざりに探るような言い方の彼女に乾いた笑いを漏らすしかない。
そんな私の反応は当然織り込み済みなのか、はたまた別の理由か、ナギサ様は私の質問への解答を口にした。
「正義実現委員会もまだ調査中の話になりますが、生徒達の間で『幽霊を見た』という通報があったそうです」
幽霊、その言葉にぎゅっと机の下で拳を握る。
サーヴァントの特徴、彼らに与えられた特徴の一つ……『霊体化』。
「通報があったのは昨日の夜ことになりますね。確か対応したのはたまたま現場近くに単独でいたという……そう、『ハスミ』さんだったと報告書にはありました」
エーテル、この世界でそう呼ばれるオーパーツによく似たそれによって肉体を構築している、らしい彼らはその存在を物質的干渉能力を極端に低下させる代わりに自身の姿を消す事ができる。
「おそらく夜間パトロールの最中だったのでしょう……今度甘い物でも持って、それこそ今日お土産に持ってきてくださったロールケーキでも手土産に労わないといけませんね」
また買われた店舗をぜひ教えて下さいねというナギサ様に私は上擦った声で返事をするしかない。
夜間パトロール、なのかもしれないけど。
なんとなくてはあるが彼女が夜に一人で抜け出して何をしていたのか*3……あの日のこと*4を覚えている私達はなんとなく察してしまう。
「話が少し横道に逸れましたね。報告書によると現場に駆けつけたハスミさんが見たのは真っ赤な目で泣く少女《《》達》がいたそうです。なんでも」
「───『幽霊を見た』『襲われそうになった』『男だった』『女だった』『大人だった』『彼らは殺し合いをしていた』そして……」
「『見られたが私達には何もしてこなかった』と」
その言葉に、妙な、妙な引っ掛かりを覚える。
何かしっくり来ないが、その違和感がまるで小骨のようにして出てこない。
「実害こそありませんでしたが、よほど恐ろしかったようで……今回の被害者の子達は錯乱していてそのまますぐに病院へと搬送される形となったようです」
その言葉に心がぐっと痛みを覚える。
怪我はない。
けれど、また、誰かの心が傷ついた。
その事実が、酷く痛かった。
「ミネさんからの話によれば暫くは面会謝絶……というより今回の件についてはとてもではないが話せる状態ではないとの事です」
救護騎士団への搬送、そして面会謝絶。
それも私達のような政治的な判断、警護のためのものではなく。
純粋に治療の為、なのだろう。
ならきっと彼女達に話を聞くことは出来ない。
「『この席』でお話しできる事はこの件に関してはこれぐらいでしょうか……あぁそうそう。幽霊と言えば、今日もまたありましたね。なんでも戦車*5が勝手に動き出したとか」
どきりと、心臓がまた鳴った。
いいえ、いいえ。多分ありません*8。
「パテル分派のところにまで何故か苦情がきたようで……ミカさん*9、さっきまでその件についてかかり切りだったんですよ」
笑うしかない。
努めて朗らかに、溢れんばかりに、私は無関係です*10と心から思い込んで。
私は笑った。
「最近は妙に大人に関連した事件が多いですね。ヒフミさんも、くれぐれも、気をつけて。この前の『愉快犯』もそうですし」
「愉快犯、ですか?」
その聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまう。
少なくとも昨日、今日と集めてきた情報の中にそれは……。
─── 『いやなんか夜の街で、全身タイツのごりっごりのマッチョな大人の怪人がいてそいつがロボット軍団を指揮して練り歩いてるんだと。で、そいつを見たやつは干からびて死んじまう……らしい』
『あ、あたしも聞いた事ある!しかもなんかそいつ、戦車も乗りこなすらしいぞ!!』
……いや、そういうことなのでしょうか。
でも、そんな思いとは裏腹にナギサ様の言葉は
「あぁ、よかった。ご存知なかったのですね……。ええ、愉快犯。例のバスハイジャック事件の犯人です」
咽せる音がします。
コハルちゃんでしょう。
アズサちゃんはその背中を摩りながら「どうしたコハル?」「急いで飲みすぎたんだ。背中を丸めて回復姿勢を取るんだ」と声をかけてあげていますが返事はない、というか出来ないのだと思います。
……ごめんなさい、コハルちゃん*11。
「正義実現委員会との銃撃戦にまでもつれ込みながら、結局バスは傷一つなく乗り捨てられ。同乗していた運転手も『とても紳士的で素敵な殿方でした』などと言う始末。最後には先生からの取りなしもあって……」
先生への感謝が、天にも高く昇っていくようです。
「おかげでティーパーティーの中ではなんでしたか?『謎のヒーローX』なる胡乱な存在ついては有耶無耶、というよりただの愉快犯として扱う他ないんです」
疲れた声の彼女に今回は何もかけられない。
ただ今は、セイバーさんの件について無事に切り抜けられた、その感触だけを握りしめるのでした。
『(よかった……本当に良かったよヒフミ……)』
『(やりましたね!セイバーさん!)』
『(ああ、僕を救ってくれた先生という方に感謝を送りたい……!*12)』
そんな私達がしてる念話なんてナギサ様は知るよしもなく、彼女は話を続けられました。
「実際のところ、彼のことより遥かに処理をしなくてはいけない事はまだまだありますからね。ヒフミさん達の一件、そして昨夜被害に遭った彼女達の話。それもあってトリニティ自治区内での警備を強化して、少しでも早く皆さんの、そしてヒフミさん達の、……平和な暮らしを取り戻さなくてはいけません。実際に他所の自治区ではかなりの厳戒態勢を敷いている場所もあるとか」
「とはいえ、ツルギさん達にはかなり無理をさせてしまっていますからね。かといって、トリニティ自警団……これ以上彼女達に頼ってしまっては、何の為に彼女達を外様に置いているのか分からなくなってしまいますから」
そう言うナギサ様の顔に浮かぶの儚げなそれであって。
だからつい、俯いて言ってしまう。
「ごめんなさい、ナギサ様……そんなにお忙しいのに、私は「よしてくださいヒフミさん」……ナギサ様」
謝罪は、遮られた。
他ならぬ彼女の声で。
「忙しい、それは確かな事です……
「けれど、貴女に。大切な友人に会える。会ってこうしてお話が出来る」
「それは私にとってその時間は、どんな黄金より眩く大切で、喪いたくない大切な物なんですから」
そう言って微笑む彼女は、穢れを知らぬ眩い白百合のように。
真っ直ぐで気高い愛を私に伝えてくれました。
『それでは皆さん、お気をつけて。ヒフミさん、そしてアズサさんも、くれぐれもどうか、これ以上傷つかれませんように』
『では、また。次の茶会を楽しみにしています……ああ、そうそう。次は膝掛けを用意しておきます』
『座られるのだから必要でしょう?ね、浦和ハナコさん』
そんな会話をして、ティーパーティーのある本校舎から出た私達はシスターフッドの方達へ会いに大聖堂へと足を進める。
「うん、美味しかったな。ヒフミ」
「あはは……アズサちゃんいっぱい食べてましたもんね」
日は暮れだしてか、まだ高くともその輝きに僅かな翳りが見えるように感じてしまうのは錯覚だろうか。
「もうっ!アズサはちょっと食べすぎ!礼拝の時間に言われてるでしょ、節制を心がけなさいって!」
「しかしコハル、食べれる時に私は食べておきたいんだ。……ダメ?」
「ぅうう……仕方ないわね。今回、というかまあ次とその次と……その次からも私は特別に見逃してあげるんだから。特別!いい?!」
日が暮れるまで、あと二時間あるかないか。
黄昏時が顔を出し始めている夏空の下。
本校舎からそこまで離れていない、その目的地はもう見えていた。
「ああ、ありがとう。コハルは優しいな」
「あー!またそうやって年上ぶるー!」
賑やかな声を聞きながら、私達は歩く。
『(君達は本当に仲がいいんだね、ヒフミ)』
『(あはは……騒がしくしちゃってませんか?)』
『(まさか。穏やかで和やかで、どこか懐かしいこの空気を。僕は、そうだね。好ましいと感じるよ)』
見えはしないけれど。
彼はそう言って端正な顔を綻ばしている。
そんな風に感じる。
それはきっと間違いではないと信じたい。
思えば、彼とは知り合ったばかり。
まだまだ数日間の付き合い。
だけれど、少しずつ距離が縮まっている気がする。
それはまだまだ時間はかかるかもしれない。
だけど、話したり、遊んだり。
聖杯戦争のマスターとしては間違っているかもしれないけど、こんな風に穏やかな時間の中で、一歩ずつ確かめながら互いを知っていかれたら。
そうすればきっと、この聖杯戦争だって、『戦える』。
苦しいかもしれない。辛いかもしれない。また、痛い思いをするのかもしれない。
それでもきっとこの時間が進んでいく力をくれる。
時間はかかっても私達はきっと解決の道筋を歩いていける。
大切な友達と、頼りになるサーヴァントの彼が。
大事な仲間達がいるのだかは。
そう、私は願うのでした。
「あはは……」
どうやら、前途多難のようです。
1じゃんね☆
ようやくナギちゃんの話が書けたじゃんね☆
本来はもっとお政治やる予定だったけど1には書けなかったから結局ブリティッシュな会話になったじゃんね☆
ハナコちゃんとのやつは大体まとめると『私の方がヒフミちゃん/さんと仲良し』って言い合ってるじゃんね☆
次回はシスフの話をちょろちょろっとやるじゃんね☆
明日か明後日に投稿じゃんね☆
明後日はスレの方も復活していきたいじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる