阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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……ひひっ
……ひひひ、ひひっ

……あはははははははははははッ!!

いやぁ、参った参った、参りましたよ!
こいつぁすごい、こいつぁ驚いた!
こりゃまたえらい事になりましたねぇ……ひひっ
さてさて、手前様は如何なさるおつもりですかねぇ?

───ヒフミちゃん




アビドス防衛戦(1)

 

 アビドス自治区。

かつてはキヴォトス内でも最大を誇った自治区面積とそれに見合う人口によって隆盛を極めた大都市。

自治区に存在するアビドス高等学校もまた、古くは現在の三大学園であるトリニティやゲヘナに並んで称された由緒正しき学校。

 

 だが数十年前から突如として発生した砂嵐とそれに伴う砂漠化の進行によって衰退の一途を辿った。

最早、嘗ての栄華は遥かに遠い。

アビドスの街に人の営みを感じる灯火は微かに過ぎない。

 

 当然、そこに住まう人がいなければ学校も寂れ、今では全校生徒がたったの五名。

他自治区のような自治区の規模に見合った()の治安維持部隊すら用意できないのが現状。

無いもの尽くしとはよく言った事だ。

 

 それ故に、大軍なぞ押し攻めいって来よう物なら。

それもシャドウサーヴァントの群れなぞ来た日には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ成すがままに蹂躙され、辱められるだけの運命にある土地。

 

 それがアビドス。

誰からも見捨てられた、名前だけ死んでいないだけの砂の国。

嘗て在りし繁栄を蜃気楼のようにキヴォトスの歴史の片隅で語られるだけの亡都。

 

 

 

───否、断じて否だ。

 

 

 

 だが、()()()()()

まだアビドスは生きているのだ。

過酷極まるこの故郷を愛してやまない少女達がいるのだ。

生まれ育ったこの街を、友と共に過ごした思い出深いその場所を。

守りたいと願う少女達がいるのだ。

ならば、誰が勝手に終わらせてやるというのだ。

 

 過去から積み重ねられた債務。

砂漠化による人口の減少。

奪われた土地の利権。

欲望尽きぬ大人達の老獪なる陰謀の数々。

未だ地中深くに眠る神秘と大砂海を蠢く鯨蛇。

これまで多くの問題があった。

今もまだ多くの問題が残っている。

けれどそれら幾多の困難に膝を折らず、踏破せんと戦い続ける少女達がいるのだ。

 

 だからこそ今日この日。

アビドス自治区史上でも久方振りとなる()()()を受けてもなお、彼女達『アビドス廃校対策委員会』はいつもと変わらず銃を手に取る。

シャドウサーヴァントなどという人外の暴威が軍勢となって押し寄せる現実(問題)に真っ向から挑まんとする。

決して蹂躙なぞさせないと、己が愛した故郷に無粋な真似はさせないと牙を剥く。

 

「それで、よ」

 

 そうして立ち上がった少女達の一人。

長い黒髪を揺らす猫耳の乙女、黒見セリカはうんざりして声を吐く。

 

溜め息混じりは最早慣れもあったのだろう。

探照灯に当てられた夜闇の向こう。

眼前に広がる光景を見て、セリカは恐怖や後悔などではなくいっそ呆れた感情が湧いてきて、憚る事なく愚痴を吐いた。

 

 

 

「なんで()()()()()()こんな数が多いわけ!?」

 

 

 

 数時間前、内通者の捕縛へ乗り出しついにその()()を突き止めた対策委員会の面々の耳に飛び込んできた情報。

砂漠より進軍する部隊あり、数不明。

その便りを受けて、攻勢に対して急ぎ連携して迎撃をし終えたのがつい先ほど。

 

 そして今セリカ達が見つめる先。

第二波として新たに砂漠の向こうからやって来る存在こそが溜め息の正体。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

「敵に文句を言っても仕方ない……私もちょっとこの数はびっくりだけど」

 

 中隊規模のシャドウサーヴァントの軍勢。

肩をすくめるシロコは知らぬ事であったが、その実、彼らは意思を持たず言葉すら発せない張りぼて。

然りとて侮りも無視も出来る筈もなし。

 

 腐ってもサーヴァント。

幾ら霊基(その身)が形骸化した劣化品のシャドウサーヴァントとはいえ、危険なのだ。

宝具の使用どころか劣化した霊基に見合った出力と、培った戦闘経験すらまともに発揮できない状態であってもまともに練兵されていない生徒ではという話なのだ。

 

 何より意思なき敵兵に誇りも()()もない。

はいどうぞと素通りさせればアビドス自治区がどうなるか、アビドス自治区と呼ばれた場所が明け方にどのような様相になるかは語る必要もないのだ。

 

『ホシノ先輩が不在でかつ、私達が()に包囲網をかけようとしたタイミングを見計らったように……って考えると偶々とは言い難い面もあります』

 

「やはりあちら側に私達の動きは筒抜け、という可能性は捨てきれませんね……それに例の内通者の件もあります……」

 

 ノノミが気落ちした声を出すのも仕方なかった。

渦中とは言い難く、自治区内にマスターもいないアビドス高校だが、これまで幾度も聖杯戦争の余波を受けて来た。

 

『居て欲しくはありませんでしたが、やはりホシノ先輩の連絡であった通り、私達の間には()()()()()()()()()()がいました』

 

 始まりはあの列車事故。

そこからセリカへ接触を図ったアーチャー、次いで夜間に現れたライダーとの戦闘。

果てはトリニティ、そしてゲヘナでも存在が確認されたシャドウサーヴァントの出没。

嫌がらせのように突発的に発生する事件を考えればとても無関係とは言えず、無関心でもいられる現状でもない。

 

「ミレニアムのユウカ、だっけ?その子の反応が合ってるならあっちにも居るかもしれない」

 

 幸いだったのは聖杯戦争2日目という早い段階からシャーレを通してトリニティと協力関係を構築済みだった事。

そのおかげもあって、対策委員会とトリニティ上層部の共通の友人である阿慈谷ヒフミをフォローする取り決めにもアビドスはトリニティやミレニアムというマンモス校に並んで加わる形となった。

 

「七人で優勝目指して競い合う、そんなもう少し単純なお話であって欲しかったですけど、やはりそういうわけにはいかないのでしょうか……聖杯戦争、とってもきな臭いです」

 

 その後も二校と協力しつつ、()()()の解決に当たっていた対策委員会だったが、今回ホシノが直接ヒフミと会った事で前々から疑問視されていた問題がついに現実となってしまった。

 

「折角、ヒフミの力になれてると思ってたのにぃ……あいつらめ……!」

 

『まさかこちらがまとめてたシャドウサーヴァントとの戦闘データどころか日報まで、何から何まで通信を阻害されてるとは思いませんでした……』

 

 

 

───内通者。

その存在をつい先ほど、アヤネ達はその目で確認し終えてしまっていた。

 

 

 

「モモトークだと記録に残るから、って気をつけたのが裏目だった。次からは私も遠慮せずどんどんヒフミに連絡する」

 

『忙しいでしょうし、何より戦争の当事者。私達が不必要にストレスをかけちゃいけないと思って聖杯戦争の話題とかも電話で話さないようにしてたのもミスでしたね……』

 

「うぅ……私はショッキングです……」

 

 だからこその落胆、そして懸念。

()()()()()()()()()()を受けてミレニアムが催した『聖杯戦争非常対策会議』にも参加したというのに、その実、自分達が後手に回り続けているというのを改めて知らされてるいるとノノミ達が錯覚してしまうのも無理はなかった。

 

『とはいえ、今回の騒動で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()については粗方分かりました。少しばかり()()()()()()はありますけど、今はそれだけでも大きな成果です』

 

 努めて、明るい声が静かにノノミ達に届く。

それぞれが得意を活かし互いを支え合う対策委員会の面々の中でも取り分け冷静なアヤネは、自分達が思い描いていた想定より遥かに悪い現状を理解した上で、尚も言い切る。

 

『時間の問題は聞きました。そして私たちにもまた、時間は残されていません。だからこそ迷う必要なんてないんです───戦いましょう、みんなで』

 

 まだ、大丈夫だと。

冷静で、けれど希望に満ちている。

ひょっとしたら楽観視やもしれない。

けれど。

 

「十分。それさえ分かれば問題ない……これで私達は一人じゃない。アビドスもトリニティもミレニアムも、ここから巻き返しが()()()

 

「……そうね。とにかく目の前のあいつらぶっ倒して、さっさとヒフミに!それからホシノ先輩にも連絡つけなくちゃ!」

 

「……ふふっ、はい!くよくよ悩んでちゃ仕方ありませんでした!……セリカちゃん達の言う通り、まずは目の前の問題を片付けるところからですね!」

 

 シロコ達にはそれで十分。

頼もしい後輩に促されるように、少しだけ想像してしまった暗い未来を払拭する。

張り詰めつつあった澱んだ空気はさらりと爽やかな夜風に攫われた。

 

「やるべき事は決まった、なら後は……」

 

 憂いはなし。

それに合わせるように、通信が飛び込む。

 

『す、砂狼先輩!こちら第七班です!防衛ラインの押し上げ、完了しました!』

 

 一瞬、シロコは瞠目した。

時間にしてほんの一秒にも満たない逡巡。

何を思ったか、何を考えた、誰に想いを馳せたか。

それは分からない。

 

「……よしっ」

 

 けれどすぐさま目を開き、鋭い眼光に覚悟の色を乗せる。

迷ってる暇はもう何処にも居場所がないのだ。

 

「ん、グッドニュース。みんなもありがとう。そのまま無理せずにお願い」

 

『は、はいっ!』

 

 緊張した声を労ったシロコに続いて、いつも優しげに細めているノノミの瞳にも力が宿る。

心なしか愛銃のキャリングハンドルを握る手に熱が籠った。

 

「……先輩」

 

 先の連絡、それは合図。

言わずもがな、()()

これより始める戦いの準備が整った事を知らせる物。

そしてそれを聞いて、シロコは覚悟を決めた。

ならば、他ならぬノノミがそれに続かない訳にはいかないのだ。

 

「アヤネちゃん、そっちはどうですか?」

 

 ピリリとした雰囲気を纏う二人の先輩。

その頼もしくも気が引き締まる臨戦態勢を見て、後輩二人も気持ちを切り替える。

いよいよなのだ、と。

 

『自治区住民の避難とアビドス校舎に開設した臨時避難所の防衛ラインの設置、いずれも問題ありません』

 

今作戦における立案者はノノミに尋ねられた内容、現時点のアビドスの状況についてを話す。

 

『先ほどの散発的な攻勢には後手に回りましたが、なんとか戦線の拡大は食い止められました』

 

 これから敵を迎え撃たんとするは砂漠の入り口。

市街地と砂塵の海原を分つ 最終境界線(レッドライン)

 

『今確認されている第二波は中隊規模と予想。恐らくは本隊、物量に言わせて防衛戦を突破し市街地を制圧する作戦と推測します。対してこちらは最前線(此処)()()()も完了。迎え撃つ支度は十分です』

 

それこそが、今も迫り来る雲霞の如き敵の影を前にしてシロコ達が立っている場所であった。

 

「ふんっ!数で押そうだなんて雑なやり口するからよ!こちとら()()()()のせいで毎日毎晩トリニティにまで頼んで警備してるってのに!」

 

「前回は市街地戦に持ち込んでなんとか避難所エリアがある場所への侵入は防げましたけど、このままじゃやっぱりジリ貧ですね」

 

 ノノミの目線の先にあるのは、敵襲の連絡を受けた段階で自治区中からかき集めて作ったバリケード。

蛇籠、大型輸送コンテナ、果ては廃車や土嚢まで。

自治区住民も含めて全員で用意して積み上げた防護壁は、疎な様相とは裏腹に月明かりに照らされて雄々しく聳え立つ。

 

 悲しいことにアビドス自治区は広いがその大半は砂漠と廃屋。

だが今回に限ってはそれがシロコ達の味方をした。

居住可能面積でかつ実際に住民達の生活圏に絞れば防衛戦を敷きつつ、各道路を封鎖する形で主戦場を限定する事も可能。

だからこそ、こうしてバリケードも用意したのだ。

 

「うん、このままだとすり潰されておしまい……そろそろ手を打つべき、かな?」

 

 だが、それだけで何とか凌げるという簡単な話でない事もまた事実。

 

『セリカちゃんの言う通り過激ではありましたが、とても分かりやすい正面突破だったお陰で今は余裕があります。ですが包囲網を敷かれるなりすればその余裕も瓦解する、というのもまた避けられない現実です』

 

 最初の侵攻が市街地へ直進する形だったのもあって防ぐ事は出来た。

これから来る第二波に対しての備えもまだ余裕がある。

だが、このまま第三波、第四波と続いていけば限界は必ず来る。

 

 待っているのは悲惨な敗北。

ならばどうするのか。

決まっている。

 

 

 

「じゃあ……()()()()()()()()()()

 

 

 

 ()()()()()()()()

ノノミは決まりだと言うように両手を叩いた。

 

この場にいる誰もが分かっているのだ。

このままではノノミの言う通り、ジリ貧。

ただ迫って来る敵を迎え撃つのではなく、敵の首魁を討ち取って早期決着が求められるのだと。

 

「ん、賛成。多分それも()()()()だしね」

 

 シロコの脳裏に浮かぶのここ数日、特に力をいれていたトレーニングメニュー。

五人での連携だけでなく、四人での、そしてより多い人数での戦闘訓練を課された日々のこと。

中には時間制限ありの一体多やその逆、多対一での訓練もみっちりメニューに組み込まれていた。

 

「(ん……まだ遠い、な)」

 

 それを思い出して、口元を緩めた。

どうやらまだまだ自分は後輩としてあの小さな背中を追いかけなくちゃいけないな、と。

 

「あーもうっ本当に……!()()()私は聞いたのに!」

 

 シロコが考えに耽っている隣では、ようやく意図を察したとセリカは昼間の会話を振り返っては憤った。

そういう意図があるのなら初めからそう言ってくれ、とここにはいない先輩へ届くように叫ぶ。

それを咎める者はいない。

 

『あはは、仕方ないよ。折角良い機会だったんだし』

 

「それにセリカだって心配してた」

 

「うぐっ、そ、それは……」

 

だが、揶揄われはする。

所謂図星、というやつだったのもあってセリカは思わず顔を横に逸らす。

実際のところ、急な事とは言え自分も気にしていたの事実なのだ。

 

『私達みんな、不安な気持ちは一緒でしたからね』

 

 友達(ヒフミ)が、自分の意思を無視する形で殺し合いに参加させられている。

それを止めようと必死に戦っている。

そんな物、不安でしかなかった。

 

「……また変なことに巻き込まれて……っ。これだからヒフミは!本当にもうっ!」

 

 だからセリカも含めて全員が小鳥遊ホシノの不在を受け入れて、ミレニアムへと向かうのを笑顔で見送ったのだから。

 

「はいっ☆だから今回は間が悪かった、で話はおしまいです!……問題ないですよ、セリカちゃん。私達4人ならバッチリできますから!」

 

 そう、間は悪かった。

ホシノという最高学年であり自分達のリーダーと呼ぶべき存在の不在。

その中で不幸にも起こってしまったアビドスへの侵攻。

 

 それも含めて、いやある程度この事態を()()()()上で自身の留守を任せたのだ。

流石にここまで大規模とは想定していなくても、敵であれば自分がいない時を狙って来る可能性はしっかり考慮していた。

 

─── まっ、おじさん()()()行ってくるよ

───留守の間、よろしくね

─── みんなのこと、守ってあげてね

 

 そしてホシノは信じていた。

今の四人なら。

そして今のアビドスの戦力であれば。

ここのところ、毎晩のようにシャドウサーヴァントとの戦闘を行ってきた経験があれば。

嘗て、大企業相手に大立ち回りをして自分を助けに来てくれたみんななら。

 

─── よぉし、それじゃあ行ってこようか

 

たとえ自分が不在な時に何があっても()()()だと。

信じて、ホシノの世界(アビドス)を託したのだ。

 

 

 

「なら───指揮をお願い、アヤネ」

 

 

 

 であれば、だ。

応えなくては後輩の名が廃る。

シロコの、そしてノノミ達の心臓に火が入る。

赫赫と燃える意欲は熱を帯びて武者震いとなる。

 

『了解しました、シロコ先輩!……各班に通達』

 

 その熱を抑え付けながら、穏やかに。

けれど、通信越しのシロコ達からは見えなかったが確かに口元に笑みを浮かべてアヤネは吼えた。

 

 

 

 

 

 

私達、アビドス廃校対策委員会はこれよりに出ます!』

 

 

 

 

 

 

 力強い号令。

戦端を開く合図。

常の穏やかで心優しく、まとめ役を買って出る事も多い少女のそれとは違う。

戦いを前に抑えきれない激情をぶつけるように、高らかと声を張り上げる。

 

『各班は作戦通り防衛線の維持及び避難所の防衛を!皆さんも含めて人命最優先を徹底!物資と建造物被害についての考慮は不要です!』

 

 守るんだ。

この街を、この自治区を。

悪辣な侵略者になんか負けてたまるものかと。

アヤネは叫ぶ。

 

熱く、暑く、篤く。

過酷な土地を生きるアビドスの少女らしい灼けるような生命力と闘志に溢れた号令。

その声に応える者達もまた、伝播されるように力強く熱を口にする。

 

()()()()()()()アビドス方面派遣部隊第一班、了解しました」

 

 声がして、シロコ達が振り返った先に並んでいるのは皆一様に同じセーラー服を纏った少女達。

一糸乱れぬその立ち姿には焔のように確かな闘志が揺らめいている。

 

「同じく第二班!こっちも準備オッケーです!」

 

 隣に並んでいた少女、先ほどの生徒と同じように一歩前に出て笑ってみせる。

砂漠によく似合うからりとした爽やかさの中には隠しきれない緊張があった。

 

『第三班並びに第四班、配置に着きました。いつでもどうぞ!』

 

 通信越しに聞こえて来るのは前方から。

顔をそちらへ向けたシロコ達へと手を振る彼女達はバリケードの傍に立っている。

夜だというのもあってシロコ達からは遠く、よく見えない。

それに彼女達は安堵する。

格好つけてシロコ達へと振った手が震えているのだなんて気づいて欲しくないから。

 

『パヒャヒャ!第五()()班!準備よし!ばっちり動けるよー!』

 

 先ほどまでとはまた違う、一際明るい声がする。

いっそ戦場には似合わない軽薄さだ。

だがその娘が、意外と義理堅く面倒見が良いことを対策委員会の面々はこの数日を通して知っている。そんな頼れる娘達が必ず()()()()()()と確かに言葉にしてくれる。

 

『こちら第六()()班。あの時と変わらず十全な支援をお約束します』

 

 あの日自分達を助けに彼女と共に駆けつけてくれた少女達は、今夜もまた力を貸すのだと通信越しに約束する。

通信主は無線機を力強く握り締めていた。

 

『第八班も同じく。準備完了しました』

 

 端的に、第七班と同じく他の防衛ラインを任された少女達は少し声を硬くしてそう言った。

そうしないと口から恐怖が溢れてしまうから。

そんな見っともない姿を、黒い制服を纏っておきながら守るべき人々も聞いているこの無線で晒すつもりはないのだ。

 

『第九班です!避難所はお任せください!』

 

 万が一があった場合、最悪の事態で最も負担を強いることになる班を率いる少女は強く言う。

任せてくれと、必ず役目を果たすと。

自分にそう言い聞かせるようにして、遥か後方から敵がいる方角を睨みつける。

 

『あーなんだ、第十班って言えば良いんだったか?こっちは問題なしだ、婆様方も気合い入ってらぁ!……美味いラーメン、作って待ってるからよぉ!ちゃんと腹ぁ空かして帰ってこいよぉ!』

 

 若い声がする。

戦場になぞ似合わぬ、けれど温もりに満ちた言葉。

待っていると。

必ず帰って来いと。

子ども達に任せる事に感じる己の感情なぞ、何一つ少女達に感じさせないようにして、ただ静かに背中を押す声がしたのだ。

 

 誰もが言うのだ。

一緒に戦おうと。

あんな奴らなんかに私達は絶対負けないんだと。

今宵アビドスにいる全ての人々が一丸となって同じ気持ちを、対策委員会と同じ想いを抱いていた。

 

「……ありがとう」

 

それをシロコ達は聞き届けてから、向き合った少女達に声をかけた。

 

「……迷惑かけちゃう。ごめん」

 

 ()()()()()

それは交戦を想定した上での内通者の発見と捕縛だった。

今の状況は恐らく派遣された彼女達にとっても完全な想定外。

そして与えられた任務を越える内容である事は明白。

意図した物でなくとも巻き込まざる得なかった事にシロコは頭を下げようとして。

 

「いいえ、砂狼先輩」

 

 他ならぬ、少女達がそれを止める。

乾いた風に揺れる黒髪から透けるその眼差しは静かでいて、優しかった。

 

「これが私達の、正義実現委員会の役目です」

 

 い制服、いスカーフ、お揃いのベレー帽。

身に着けるのはシスターフッドを除き、トリニティで唯一纏う事を許された黒い制服。

悪を正す黒羽の天使達は淡々と告げる。

何も迷惑などではないのだと。

何も気にする必要はないのだと。

 

「ティーパーティから正式に受理された依頼です。確かにここはいつものトリニティじゃないですけど」

 

 彼女達はトリニティ総合学園正義実現委員会。

聖杯戦争開始2日目にアビドスで起こったアーチャーとの戦闘。

その際に()()()()とティーパーティ、そして正義実現委員会との間で行った協議の末にアビドス方面派遣部隊としてこの地に降り立った精鋭達。

 

「それでもこのアビドスでも()()()()()()()()に私達は働きます」

 

その任務はアビドス自治区で発生した異変の調査及び自治区内のパトロール。

彼女達を送り出した少女から言われたのは、『いつも通りに』。

 

「この黒い制服に誓って、私達は私達のなすべき事をします」

 

 だから少女達は誇りを口にする。

正義実現委員会の名に恥じぬ働きをすると。

普段と変わらずトリニティでそうしているように。任された場所の治安を、人々の暮らしをいつも通りに守るのだと胸を張る。

 

「それに……私達、結構このアビドス気に入ってるんです」

 

 ふいにまとめ役の少女の固い空気がほぐれた。

自分達のリーダーのそれを感じ取って、隣に並んでいる少女達も口々にシロコ達へと伝えだした。

 

「柴関、美味しかったもんねー!」

「サンドボード楽しかったです!」

「小鳥遊先輩とお昼寝したり色々相談聞いてもらえて、私、肩の力が抜けたんです」

「戦闘訓練、たくさん勉強出来ました!」

「私は屋外演習で気兼ねなくぶっ放せるのが……!」

「セリカちゃんと単発バイトしたけど私、接客って初めてで!すっごく楽しかったの!」

「私、実はこっそり秘密基地作っちゃって……」

「あ、それ私もした!良いよねー、空き家あるし色々教えてくれる親切なお姉さんもいたし」

「またツーリング、シロコさんとしたいしさぁ」

「ノノミとダンベル買うの約束したからね」

「パトロールの度に自治区のおばあちゃん達がお菓子くれるんだー」

「じゃんねじゃんね」

「夜のパトロールとかでさ、詰所で待ってる時にみんなで飲んだココア、美味しかったよね」

「サバクトカゲ探し、あれ意外と奥深いよね」

「のんちゃんとひーちゃん達も呼んでみんなで各校対抗トロッコレースしたのも最高だったよね!」

「砂漠でお紅茶……これもまた淑女の嗜み……!」

「アヤネちゃん達と放課後遊んだりするの楽しかったしね!」

 

 派遣されて一週間。

何もパトロールをしていただけではない。

アヤネに誘われて観光をした事もあった。

セリカと共に柴関でバイトをした生徒もいた。

ノノミとショッピングに、シロコとツーリングをした者もいた。

みんなで放課後遊んだ事も、訓練を共にしたりも、昼食や夕食を囲んだ事もあった。

自分達で散策に出かけて、物珍しい格好もあってかよく自治区の住民達に声をかけられ、感謝もされた。

 

「砂埃は毎日のお手入れが大変だったけど……」

「小鳥遊先輩の扱きはきつかったけど……」

「パトロールは怖いこともあったけど……」

 

そんな楽しい思い出を、たくさんこの地で作ったからと少女達は言う。

 

「でもこの街で過ごす時間はとっても優しくて楽しかったから!」

 

そして揃って彼女達は微笑うのだ。

だから私達は。

 

「ですからお気になさらず。皆さんは皆さんの、私達は私達の役目を」

 

その思い出を守る為に、己が務めを果たすのだと。

 

「……ん、ありがとう」

 

「こちらこそ、どういたしまして……皆さんも御武運を」

 

 目深かにかかった前髪を揺らしながら黒い少女達はシロコの礼を今度こそ受け取って頷く。

自分達以上の危険な務めを果たしにいく、この土地に住むシロコとノノミ(先輩)の、アヤネとセリカ(後輩)の、対策委員会(同級生)の───新しい友達の背中を押す。

彼女達が駆け出す先を、そしてその轍を守り抜くと誓う。

 

「ん、私達の背中とアビドスを、貴方達に託すね」

 

 だからもう、

憂いは、なし。

シロコの愛銃を握る手に力が籠る。

多くの人が支えてくれる。

その事実が勇気を、力をくれる。

 

 シロコは、前を向いた。

 

 

 

 

「みんな───行くよ

 

 

 

 

 静かに、けれど荒野を駆ける狼が喉を鳴らすように低く、強く、宣言する。

 

「はいお任せを!」

 

 力瘤を作ってノノミは笑う。

安心してシロコ達が、そして力を貸してくれる人達が前だけを見ていられるように。

 

「こうなったら、とことんやってやろうじゃない!」

 

 耳を立ててセリカが勝気な啖呵を吐く。

恐れるものなどないのだと暗闇を睨みつける。

 

『えぇ!みんなでいましょう!』

 

 通信越しにアヤネが毅然と告げる。

皆んなで一緒なら何も怖い事なんてないんだと。

それに合わせて遠くからスラップ音が聞こえる。

主人の想いに応えんと回転翼が空気を切りつけているのだ。

 

「ふぅ……っ」

 

時は───来た。

 

 

 

アビドス廃校対策委員会……出動っ!

 

 

 

「「「応ッ───!」」」

 

 

 

 シロコの言葉に少女達は皆一斉に駆け出した。

敵陣へと前進する者。

それぞれの持ち場に付く者。

役割は違えど誰もが夜の風を振り切って、砂を蹴飛ばして、前へと前へと進んでいく。

それはシロコ達もまた同じ。

前衛を担当する対策委員会は誰よりも前に出て戦端を開かんと駆けていく。

 

そして今。

シロコ達は皆で協力して用意したバリケードを一跳びで越える。

 

 

 

 

 

 

さぁ───反撃開始だ

 

 

 

 

 

 

 並んで宙を踊るシロコ達の眼下に広がるのシャドウサーヴァントの軍勢。

黒き靄のような影を纏う悪鬼にして亡霊がこちらへと向かうシロコ達の姿を視認して知性なき唸りを上げる。

 

対に負けない……ッ!」

 

 地面へと着地したシロコもまた牙を剥くようにそう吠える。

そして今、その足が境界線を踏み越えて。

今宵、最後にして対策委員会発足から初となる中隊規模でのアビドス防衛戦が始まったのだ。

 

 

 

 





1じゃんね☆
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
しかも中々進まないじゃんね……でもなんとか、なんとか!今回合わせて3、4話ぐらいで納めたいなぁ、なんて思ってますじゃんね☆

こぼれ話じゃんね☆
実はちょいちょいアビドスに正実ちゃんがいるのは書いてたじゃんね☆
来てるのは全員非プレイアブルの所謂モブちゃんじゃんね☆
ヒフミちゃん達主人公陣営が動いてた裏側でもこんな風に色々動いてたよーってお話だったじゃんね☆

ちなみに本スレの序盤でアビドス行くのも実は考えてたじゃんね☆
というか本来1が想定してたのはそっちじゃんね☆
これもまた安価スレの醍醐味!じゃんね☆
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