阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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無事に行けた、かな……?
……やっぱり気づかれたかもしれない。
ふふっ……あんな仕草、今時流行らないよ()()
……名残り、なのかもね。

でも……これで良い。
あの人はあの人の場所で。
私は私の場所で。
互いにやるべき事をする、ただそれだけの話。

ん……だから私は今からやるべき事を
このアビドスを
あの人が最後に遺してくれたこの場所を守る為に



───お前達は一人残らず此処で潰す






アビドス防衛戦(2)

 

 アビドス防衛戦。

奥空アヤネを中心に練られた作戦内容は至って単純だった。

 

 市街地への侵入を阻む防衛ラインの死守を正義実現委員会が請け負い、その間に対策委員会が敵陣を突破して敵の指揮官を討つ。

本来アビドスにいる五人の防衛戦力だけではどうにもカバーできない数と波状攻撃を、幸いにもトリニティより派遣された正義実現委員会がいたからこそ可能だった戦術。

 

 アビドス自治区に残る余力は決して多くはない。

それは派遣された正義実現委員会の部隊という普段以上の戦力()があっても誤魔化しきれない事実。

長時間の防衛戦ともなればどうしても被害は大きくなり、天秤は攻め手に傾く。

人員も物資もかき集めて、それでも他自治区ほどに潤沢とは言えないアビドスでは当たり前の帰結だろう。

 

 対策委員会が先鋒となって敵の陣形を乱しつつ本丸を狙う。

少数精鋭で鳴らしそれぞれが高い戦闘技術と豊富な実践経験を有した対策委員会と部隊規模での運用を可能にする正義実現委員会が共に並んでこの地にいるからこその作戦であった。

 

めーにん、あえいで、てあー

 

 だが、蓋を開ければ単純という事はそれだけ崩されやすいという事でもある。

奇襲性のない正面からの吶喊。

幾ら理性すらないまでに通常の霊基から劣化したシャドウサーヴァントとは言え、たった三人、四人の寡兵が馬鹿正直に飛び込んで来たとして蹂躙されるだけなのだ。

 

ぺーれーいあでお、あきれおぉぉぉぉす

 

 市街地を出た先。

アビドス砂漠との境界線。

そのすぐ直近まで迫っていた 群れを成す影(シャドウサーヴァント)の一団へ、銃声と共に殴り込んだシロコ達は正しく寡兵。

シャドウサーヴァント達にしてみれば鴨が葱なんて話ではない。

当然、その手に持つ槍を、剣を少女達へと向けて振わんとする。

 

 

 

『させません……ッ

 

 

 

だが、それを奥空アヤネの雨雲号が対応する。

 

 市街地を飛び出したシロコ達を見つけて弓を放たんとする一団や正面から剣を抜いて迫って来る荒くれ者達目掛けて、アヤネの指揮で空対地ミサイルが惜しみなく叩き込まれていく。

 

ぃおぉ、てぃ、ぉぉ

 

 爆炎、迸る。

案ずるなかれ。

誰が巻き込まれようか。

誰を巻き込む事があろうか。

 

 アビドス廃校対策委員会書記、奥空アヤネ。

純粋な銃撃戦での白兵戦技術に()()限定すれば委員会の中で最も非力なのは彼女だろう。

そもそもの話、彼女が真価を魅せるのはこの様な戦場ではなく、平時の話。

故に、奥空アヤネの役割は最前線にはなく、その居場所も用意されない。

 

『火力支援!開始します!』

 

 そう、彼女が在るべき居場所は最前線の上空。

彼女の役割はオペレーター、そして火力と兵站を繰り出す後方支援。

否、言うなれば()()()()

 

 状況の把握力、そして冷静な思考。

その二つを両立させる彼女の目は遠く、ではなく広くを見る俯瞰視点。

誰がどこで何をしているか、どんな状況にあるか。

脳内で思考を加速させ、適切に支援を分配供給する。

それ故にアヤネの精緻な狙いは前進する対策委員会を巻き込むことなく敵のみを仕留めていく。

 

ぉぉぉ、おおぉぉぉぉ、ぉ……

 

火炎に巻かれる中からは悍ましい叫びと、なおも前に進み前進するシロコ達へと襲い掛からんとする亡者の声が聞こえてくる。

 

『シロコ先輩!ノノミ先輩!セリカちゃん!』

 

 だが誰が恐れて足を挫くというのだろう。

誰が前に出れずに足を止めて下を向くというのだろう。

シロコもノノミもセリカも、懸命に走りアヤネが開いた敵陣の中央を突き進んでいく。

 

 

 

前へ───ッ!

 

 

 

アヤネ自身も乗り込んだ雨雲号と共に前へと進んでいく。

アビドスが誇る唯一の航空戦力は今回もまたその力を遺憾なく発揮する。

 

「サンキュー!アヤネッ……ちゃんッ!」

 

 早駆け、黒見セリカ。

泥とも影とも分からぬ不定形の軍勢。

辛うじて人の形とその手に持った兇器だけが見て取れる亡者の群れへ我先にと飛び込んでいく。

 

「そこッ!退きなさいよッ!」

 

 スニーカーは砂を巻き上げながらするりと敵兵を抜けていく。

振り下された大量の剣を背中を丸めながら四つ足で跳躍。

見事に回避してのければ、矢継ぎ早に着地地点にいる敵を目掛けて銃撃。

 

「あーもうッ!ウザったい!何言ってるか分かんないしッ!」

 

 繰り返し群れ成す亡者の隙間を縫って跳ねるその姿は黒豹。

ツーサイドアップを靡かせながら戦女神はかく踊る。

 

「大体!どいつもッ!こいつもッ!」

 

 手に持つのは愛銃、シンシアリティ。

荒々しく唸りをあげて鳴らされるは乱射。

その勇猛果敢な姿に恐怖はない。

 

 理由は明白だった。

()()()()、ただその一点。

友を傷つけ今なお殺し合い等とふざけた事に連れ込んでいる。

故郷に潜んでは夜な夜な狩りに興じている。

挙げ句の果てが大軍率いての夜襲だというのだ。

そんな暴挙を許しておけるわけがない。

 

私達(アビドス)舐めてんじゃないわよッ!」

 

 手に持つ愛銃はその銘の通り、セリカの心情を代弁する。

掻き鳴らすは激昂。

曲がる事なき実直なセリカの心根通り、真っ直ぐな怒りであった。

 

「あんた達みんなッ!絶対にッ!」

 

 それは行動にも現れる。

荒々しく、若々しく。

 

 

 

許さない ───ッ!

 

 

 

ただ愚直なまでに()()()()()()()()

セリカの持ち味、ここに極まれり。

 

 だが、反面。

そうした向こう見ずな動きを咎める者はいないだろうか。

否、そんな筈はない。

当たり前のように前だけを見てがら空きになった背中目掛けて刃を向ける悪漢は枚挙に暇がない。

 

 では何故、無事なのか。

無論それは、()()()()()()()

 

 

 

「お仕置きの時間ですよ〜♧」

 

 

 

 雷鳴。

打ち鳴らされるは破壊の化身。

咲うは、十六夜ノノミ。

7.62×51mmという規格に揃えられた鋼の雨粒は嵐を伴いセリカとシロコへ迫る無粋な魔の手を一掃していく。

 

「いっえーい☆今日も快調ですね〜」

 

 戦場とは思えぬ穏やかな口調とは真逆の暴威は面制圧によって戦場を支配する。

7.62mm重機関銃(リトルマシンガンⅤ)

白地にライムグリーンの差し色が眩しいノノミの愛銃はその名前や色合いとは裏腹に、雄々しい地鳴りをあげて敵を平らげていく。

 

 だが、毎秒2000から6000発という規格外の射撃を可能とすれば必然起こり得る一つの問題。

それは排熱。

幾ら数千という数を理論上撃てると言っても弾薬には限りがあり、何よりそれだけ撃ってしまえば銃身に籠る熱によって発射不良や果ては故障を引き起こす。

故に、ノノミは戦闘の最中であっても 引鉄から指を外さなくては(クールタイムを設けなくては)いけない。

 

うーろめねーん、へー、みゅーり

 

 しかしそれは明確な隙。

それを見逃す事は戦場である筈も無し。

 

「あー!そういうのはぁ……」

 

一度鳴り止んだ雷鳴に、これを好奇と見た亡者達はノノミの柔らかな肢体へとその手を伸ばし八つ裂きにせんとする。

しかし、そんな事はノノミとて百も承知。

 

 

 

めッ!……ですよ〜!」

 

 

 

 

 打突(ストライク)

衝突音はまるで生身で自動車にでもぶつかったように重々しい。

悲鳴を上げる機能すらなく何事かを呟くだけの亡者達の腹部、そして顔面へと打ち込まれるは銃弾ではなく鉄塊。

銃身重量18kgのリトルマシンガンVその物である。

 

「え〜い☆」

 

 可愛らしい掛け声と共に響く肉を叩き潰し、鎧を割り砕く破砕音。

銃身前方に備え付けられたキャリングハンドルを()()で握り込んだノノミは、そのまま愛銃で亡者に向かって殴りつけていた。

 

「よいしょ〜★」

 

 焼けて赤熱化した銃身を冷ます、あり得ない程に原始的かつ隙のない手段。

その答えが全長1m近い銃本体を用いての白兵戦。

()()()()()()()()()()()()()

ついでと言わんばかりに灼熱を秘めた銃身で相手を殴り飛ばす事でクールタイムの隙を消しつつ、前を進むシロコ達を追いかけて走り出す。

 

 セリカの動きが野をしなやかに駆ける猫ならばノノミのそれは軽やかな童女の足取り。

戦場を花園でも走るようにふわりと足を運ぶ微風。

だがその背後にあるのは死屍累々の山となっては粒子となって消滅するシャドウサーヴァントの姿。

 

殴り飛ばす。

走り抜ける。

薙ぎ払う。

駆け抜ける。

叩き割る。

すり抜ける。

打ち砕く。

前へ、また前へと躍り出る。

 

18kgの銃本体を両手両足で支えて狙いを定めて撃ち放つ優れた膂力と体幹を遺憾無く発揮しては敵陣を優雅に突き進む姿は最早人間大のダンプカー。

 

「……こう見えて私も怒ってるんですよ?……だから、セリカちゃんの言う通り」

 

 右手に掴んだ愛銃を振るうたびに風と共に敵兵も宙を舞い地面を舐める。

そこに容赦が入る事はない。

アビドス存亡の危機なのだ。

確かに敵はこれ見よがしに人型だが、ノノミにははっきりと目の前の存在が亡者である事が理解できる。

()()()()()()()()()()のだと本能が、その魂に秘められた神聖()が告げるのだ。

 

 

 

「─── 全力で貴方達を斃します

 

 

 

 故にその熱界と雷鳴は鳴り止まず。

葬礼は荒々しくアビドスに響く。

 

「……ん」

 

 その音を背にして走るは閃光───砂狼シロコ。

彼女の吶喊は嚆矢の如く敵陣を貫いては後を追う者達の轍となる。

 

「遅い」

 

 ただの直進ではない。

槍を振るわれればそれは掠めるように進みながら躱わす。

剣が迫れば愛銃で弾きつつ、その角度に合わせて銃口の先にいる敵をまとめて撃ち抜く。

矢が降り注げば手元の手榴弾を投げつけながら爆風と防ぐ。

一歩迫らんとすれば間合いに踏み込むのを銃弾が咎める。

 

 一騎、二騎が襲い掛かろうが無為と帰す。

砂狼シロコの進軍は誰にも止められず、その背後にただ屍の山を積み上げては光の粒子となって散る幻想的な光景を生み出してちく。

 

お、ぉぉぉぉ……

 

 前傾姿勢のまま速度を落とさず、確実に敵を処理しながらの猛進撃。

亡者の呻めきすら置き去りにしてシロコは地面を蹴る。

早く、速く、疾く。

一駆けで地を縮めるように疾駆する。

 

あかいおいす、あるげ、えけーてん

 

 その歩みを止めるが為に壁となるは一際大きな体躯をしたシャドウサーヴァント。

シロコの正面に並ぶその数は実に四騎。

長槍、直剣、斧槍、手斧。

それぞれ昏い泥濘に浸かり切った色合いの獲物を月明かりに翳す。

 

 だが、今更の話である。

真っ当な霊基のサーヴァントならいざ知らず。

 

「邪魔」

 

 ()()()()()を劣化の酷いシャドウサーヴァント如きが止められる筈はないのだから。

 

ぽるらす、でいぷてむーす、ぷしゅかーす

 

 一手目、長槍。

放たれるは刺突。

返すシロコはその矛先が放たれる寸前に軽やかに空気を踏む。

走り幅跳びの要領で踏み込んだシロコの真下を貫いた槍、その上に()()

 

「こういうのは意外と得意」

 

一片の羽が空より降ってきたかのように音もない着地。

爪先のみで槍の柄に降り立ったシロコはそのまま槍持ちのシャドウサーヴァントへ制限点射(バーストファイア)

頭部へと吸い込まれた弾丸は敵を貫通してなお飽き足らず後ろに控えていた雑兵にも喰らいつく。

 

「……次」

 

はぁぁいでぃ、ぷろぉいあぷせん

 

 接敵から十秒経過。

二手目、直剣。

振るわれるは大上段。

真っ向斬り。

なるほど潔しと頷きつつ、シロコはそれを迎え撃つ。

 

「セリカに宙返り(アレ)を教えたのは私」

 

 銃身を用いての往なし(パリィ)

真正面から振り下ろされた剣戟に逆らうのではなく勢い受け流す形でその場で前宙。

空色のマフラーを靡かせながら風に踊る。

 

 日差しの強いアビドスの地でなお白く眩しい右脚。

引力に惹かれて加速するシロコの身体とは真逆に引き上げられた美脚は落下に合わせて振り下ろされる。

 

「せい ───ッ!」

 

 踵落とし(ハンマードロップ)

シロコの体重、回転からの落下による位置エネルギー、そして重力。

それらを重ねた必殺必倒の蹴技は影に塗り潰されたシャドウサーヴァントの頭部を粉砕する。

 

へーろーおーん、あうとぅーす

 

 接敵から二五秒経過。

三手目、斧槍。

振り抜くは薙ぎ払い。

剣使いを蹴倒し、着地したシロコに襲い掛かる三騎目の魔の手。

味方である筈の周囲にいるシャドウサーヴァントごと両断するのも厭わずに、豪音鳴り渡らせてシロコの胴を泣き別れさせんと追いかける。

 

 半径にしてその柄だけで約2.5m。

漏れ出す様に纏わりつく魔力を加味すれば目方でシャドウサーヴァントを中心に半径3mが 即死の間合い(キリングゾーン)

下手に動こうものなら、すぐさま捉えてシロコに痛手を与えるだろう。

ならば如何するべきか。

 

「大物だ、仕方ない」

 

 離脱。

後方へと跳躍。

危険と判断したシロコは今作戦が始まって初めて退く。

健脚は一息で間合いを稼ぎ見事に窮地を脱したように見えた。

 

で、へろぉぉぉりぁぁ

 

 だが、背後も見ずに跳ぶシロコが向かう先。

待ち受けるは、自ら狩場に落ちてくる哀れな少女へ両手を広げて我先にと群がる亡者達。

無手なんて事はなく、各々の手には兇器がある。

このままいけば、良くて重傷。

悪ければ、シロコの運命は百舌鳥の早贄となるだろう。

 

「ん、見え見え」

 

 見てはいない。

だが、そう動くだろうと相手を読むホシノ譲りの戦闘思考。

何より背中を粟立たせる悪寒(殺気)

背後が如何なっているかなぞ、分かりきった話で、ならば対応をしていないわけがない。

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 シロコの呟き。

銃声と爆撃が響く狂乱の渦中たる戦場にあってはあまりにも、か細く小さい。

だが、確かに主人が下した声に応えるようにして甲高い音共に現れるのは一機の一機のドローン(愛用品)

 

 シロコのドローンという直球な名前のそれは主人が降り立つ場所で待ち受けている破落戸へと全十発の砲弾を打ち込む。

小規模ながら高い破壊力を秘めた爆破の咆哮。

命じられたままにシロコの相棒は役目を果たし、亡者達が占めていた場所を主人の為の特等席に様変わりさせる。

 

「実は私、走るのも得意」

 

シロコは、相棒()を信頼して、斧槍持ちのシャドウサーヴァントとから目を背けないまま地面に着地。

すぐさま準備態勢へと移る。

 

 

 

On your mark

 

 

 

 愛銃を背負い、両手の指を地面へ。

利き足の膝を立て、後ろ足の膝は地面へ。

四つ這い(クラウチングスタート)

健康的な太腿にはち切れんばかりの力が蓄えられる。

 

「───勝負(Set)

 

開放の瞬間を待ち望む筋肉(エネルギー)

一流のアスリートや大女優がそうであるように張りと柔らかさを両立する柔軟性に富んだシロコの 大腿四頭筋(太もも)

脂肪なぞどこにも見当たらないように若々しく引き締まった 下腿三頭筋(ふくらはぎ)

しっかりとくびれを魅せつけるまでに絞られた腰を天高く上げるのは腸腰筋、そして脊柱起立筋。

 

 準備は整った。

目睫の間、必殺の間合いまで後僅か。

斧持ちのサーヴァントは既に手に持つ鋼を振りかぶらんと、走りながら腕を動かし始めている。

たった数秒の先手後手が生死を分つ状況。

このままいけばシロコの敗北は必至。

なれど動かず。

ただ待つ。

何をか、決まっている。

 

 

 

『今です───ッ!』

 

 

 

号砲、アヤネの火力支援(スタートの合図)をだ。

 

 

 

 

 

 

疾ッ───

 

 

 

 

 

 

 瞬間加速水平推進(ロケットスタート)

両手を支えに設地した足裏から最高効率で地面へと伝わる運動エネルギーを最大限に活かすクラウチングスタート。

人体力学上、最も走る事に適した姿勢から駆け出すシロコは弾丸の如し。

長距離ではなく初速のみに重点を置いたシロコの走り。

 

……ぴる、ぎゅねー

 

それはアヤネが放った全長163cmに搭載された火薬による爆発の熱風をも追い風としながらキヴォトスに住まう人類の限界値を叩き出す(マークする)

 

「飛び込む───!」

 

 構えるは外四つ。

斧槍の薙ぎ払いよりも尚早く、間合いを詰め切る。

危険領域を突破しての安全地帯に、即ち敵の手元。

ここならば斧槍の暴威を恐れる必要はない。

 

きぇ、たらっさぁぁ

 

狙うは敵の胴。

156cm(シロコ) 200cm(シャドウサーヴァント)の体格差は、シロコの狙いは難易度が極めて高い事を示唆している。

明らかな質量差。

軽く小さな硝子玉を指で転がしてもブリキの玩具は動かせないのは道理。

だからこそ、シロコは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん……今回は」

 

決まり手───もろ差し(テイクダウン)

体格差を覆すのはシロコの体重を乗せてぶつかる為の脚力、そしてアヤネの援護射撃が生んだ風圧。

爆風を背に受けた事で更なる加速に至ってシロコのタックルは見事に敵の胴体を捉えて砂原へと勢いそのまま押し倒す。

 

めー、ぱたーす、と、ふぃーでぃ、すてぃん、おうらぁ……

 

 衝突の勢いは破城槌。

そんな物をまともに腹部へと受けたシャドウサーヴァントは動く事すらままならず。

 

 

 

私の勝ちだね

 

 

 

勝利宣言と共にシロコは引鉄を引く。

乾いた弔砲の後、粒子となって消えていく霊基。

残心、シロコは見送るように敵の消滅を確認する。

万一起き上がって背中を刺される、そんな事は御免だからだ。

だが、そんな彼女を不粋にも咎める者がまだ一人残っていた。

 

てうけ、きゅ、ねすしん

 

 接敵から五十秒経過。

四手目、手斧。

襲い掛かるは、正面打ち。

未だ敵の消滅を確認していた為に銃口と共に下を向くシロコ。

 

 シロコがすべきなのは振り向き、敵からの攻撃を確認し、その後に然るべき対処。

如何あっても三手は踏まなくてはならず、だが既に刃は振り下ろされた。

然るに間に合わう事は通常ない。

このままいけば、シャドウサーヴァントの急襲は見事に叶う。

 

()()()

 

 だが、事前に見えていれば話は別だ。

奇襲とは敵の思考外から行う事にこそ意味がある。

不意を突くとはそういう事。

逆に、認識をされてしまったならば。

 

「───見えてるって言った」

 

意味を成さず。

左から迫る斧を半歩前に出した右を軸に回転(ターン)

結果亡者が狙いをつけた場所にシロコの身は既になく、振り下ろされた一撃は空を切る。

だが微かに残されたシャドウサーヴァントの思考がそれを認識する事はない

 

 

 

打ッ───

 

 

 

 

左旋回裏拳(バックブロー)

回避の動きに合わせて放たれた裏打ち。

サイクルグローブに包まれた拳頭は敵の顳顬へと吸い込まれる。

 

……えっ……ろー、すたい、せ

 

ジャスト一分。

砂狼シロコ、四騎の強化個体シャドウサーヴァントの制圧を完了。

 

えう……こまい

 

最後に、シャドウサーヴァントが呟いたその言葉。

言語はシロコ達が話す物とはまるで違う。

 

「ん……()()()()()()()()()()()

 

だというのに、シロコは目を細めて言った。

無意識であった。

理由なぞ分からない。

事実、言ってから本人も何故そう返したのか分からないというきょとんとした顔をしたシロコは、すぐに被りを振ってから駆け出している。

ただなんとなく、そう返答すべきだと思ったからであった。

 

「……行かなきゃ」

 

だが、今胸中を何故だか締め付ける微かな寂寞を無視してシロコは、シロコ達は進む。

戦闘開始から前衛3名はかなりの距離を進んでいる。

倒した敵は既に十や二十では利かないだろう。

敵の首魁との邂逅が後僅かまで迫ってきた。

その事実に、シロコは一層気を引き締め荒野を駆けた。

 

 

 

───強欲のアーチャーとの邂逅まで、あと僅か。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対策委員会三名が前進する中、後方でもまた戦闘は激化していた。

()()()()()()()、敵の進軍は止まらない。

 

土台からして当然のこと。

対策委員会はあくまで先陣を切って敵の陣形を食い破るのが役目。

撃ち漏らしどころか、そもそも敵陣を突破するのが最優先事項。

そうしてシロコ達の攻撃から逃れた敵は本丸を守りに行くわけでもなく、またぞろぞろと隊列を組み直して進むだけ。

なにせ元より考える頭がないのだ。

 

 

 

───あなばしす、あなばしす、あなばしす

 

 

 

朗々と響くのはただの呻めき。

そこに意味はなく。

そこに理性もなく。

ただただ目の前を蹂躙して屍の山を築くだけの人斬り包丁。

それがこのキヴォトスで確認されたシャドウサーヴァントと呼ばれる存在。

そして今、アビドスへと攻め入る敵軍の正体である。

 

 

 

「弾薬含め全ての物資はティーパーティが補填(工面)してくださってます!気にする事も!敵への情けも!全て不要です!───今ここで出し切りなさいッ!」

 

 

 

 

「「「「「了解───ッ!」」」」」

 

故に、彼女達が必要だった。

トリニティ総合学園実現委員会

シャーレ、トリニティ、アビドスの話し合いで小鳥遊ホシノとアーチャーの戦闘後に周辺一帯の治安維持を対策委員会と協力して行うよう派遣された()()()()()()()

 

「止めろッ!叩き落とせッ!」

 

 アビドス方面派遣部隊第一・第二合同班。

敵を迎え撃つべく、未だ慣れない砂地をお揃いの戦闘革靴(ローファー)で踏んで陣形を組む彼女達は、先陣を切るシロコ達の後詰。

防衛ラインに敷かれた前線の担当であり助攻。

 

「全員だ!全員やっつけろ!」

 

 たった二十人の生徒達は、人差し指にかけた正義実現委員会の制式ライフルの引鉄を弾く。

多勢に無勢。

幾ら劣化の著しいシャドウサーヴァントであれば一対一であれば安定して勝利できる彼女達であっても、百を越える敵の勢いに呑まれつつあった。

 

「ここで頑張ってイチカ先輩に褒めてもらうんだー!」

 

 キヴォトスの学生にとって銃撃戦も爆薬による爆風も慣れしたんだ物だ。

正義実現委員会に所属する彼女達であれば普段の任務もあって尚更の事。

だからこそ、余計な恐怖を感じてしまう。

 

シャドウサーヴァント。

全身を揺らめく靄のような影な物で構成された不定形の、そして人の形をした存在。

恐ろしいのは、彼らが人の形をしていて何より嘗ていた英雄の形だけは模していること。

 

「お前達みたいな大人に負けるかーッ!」

 

そう、()()

キヴォトスにおける概念的なソレとは、シャーレの先生が体現する在り方とは違うだろう。

だが、その体躯は間違いなく大人。

 

「アビドスに!私達に!近寄るなー!」

 

 大人が歴史の教科書や博物館のガラスケース越しにしか見たことのない剣や槍を持って自分達に殺気を向けている。

大人がとっくの昔に廃れ、銃に駆逐された筈の弓矢を自分達を殺す為に撃ってくる。

庇護されるべき子ども達にとって悪夢のような惨く悍ましい現実。

 

「一歩だって通さない!」

 

故に、彼女達は一歩も引かない。

こんな恐ろしい物を前にして恐怖し怯える心をかなぐり捨てて前を見据える。

 

「ツルギ委員長ぉ!トリニティで見ててくださぁぁい!!」

 

 いつこの侵攻が止まるかはシロコ達の戦い次第。

自分達がどれだけ耐えれば良いのかなんてこの場にいる彼女達には分からない。

 

「分かんなくても撃てばいい!全部!全部撃つのッ!」

 

 それでも。

それでもと彼女達は恐怖を噛み砕く(奥歯を噛み締める)

頼られたから。

頼まれたから。

預けられたから。

任せられたから。

 

その黒い制服を纏う事が許されたから。

だからアビドスに派遣された彼女達はその誇りに誓って戦い続ける。

 

「迷ってる暇なんかないんだ!私らが頑張るんだ!」

 

治安を守るとは誰かの生活を守る事。

誰かの平穏な日常とそれを過ごす為に存在する社会的な秩序を、力なき誰かに代わって守るという事。

良き隣人の平穏な当たり前を願った彼女達だから、誰かの住む場所を、たとえ自分達とは関係ない場所であっても守る事に異論はなく。

 

「トリニティ総合学園!ばんっざぁぁぁぃい!」

 

誇りを胸に叫び続ける。

肺の中を占める冷たい空気のような怯えを、空回るぐらい馬鹿みたいに叫んで吹き飛ばしていく。

 

「突撃ぃぃぃぃぃ!」

 

肩を斬られた。

気にしない。

槍が頬を掠めた。

そんなの知らない。

矢が雨のように飛んでくる。

うるさい、私の持ってる銃の方がずっと強い。

 

「砂狼先輩達を必ず向こうまで送り届けるんだぁッ!」

 

負けないと二十人の小さな少女達は懸命に足を、腕を、指を動かす。

走って、叫んで、銃を撃ち続けて襲い掛かる敵を一体でも多く倒そうと果敢に奮闘する。

 

 

 

『第六合同班!撃ち方ァ───始めェッ!』

 

 

 

そしてそれは彼女達だけではない。

既に戦闘が始まって二十分以上。

人数比で五倍を優に超える敵を相手取るのは前線の彼女達二十名では、鍛えていようと限界がある。

ならば何故、今もまだ拮抗しているのか。

 

『正義実現委員会とアビドスに!私達ティーパーティの意地をッ!』

 

答えは105mm口径の榴弾と共に降り注ぐ。

ティーパーティ直参、砲兵隊。

アビドス方面派遣部隊、その第六合同班である。

シャーレへの出向という体でアビドスでも活動していた()()()()()()()トリニティから派遣されたティーパーティ所属の少女達。

 

『彼の方()にこの地の守護を託された!その意味を!───見せつけろォッ!』

 

嘗てヒフミの願いからこの地で演習を行なったあの日と同じように、彼女達は白い制服をはためかせて後方より支援砲撃を続ける。

その中には正義実現委員会の黒い制服の姿もあった。

二つの組織。

上位に当たるのは生徒会であるティーパーティだが、戦場にあってそんな事は関係がなかった。

 

『装填!早くッ!』

 

『やってるッ!そっちこそとちらないでね!』

 

『おばか!誰に言ってるんですかッ!』

 

『あー!ばかって言ったー!』

 

通信越し、砲声の合間に聞こえるのは賑やかな声とかすかに聞こえる呻めき声。

敵が間近にまで迫っているのだ。

それでも彼女達は気にしない。

己の勤めを果たし続ける。

 

『気張りますよッ!───私達の支援で皆の負担を少しでも減らすんです!』

 

そうしなくては、この地で同じ釜の飯を食った友達を失う事になるから。

そんな事は絶対に嫌だから。

怖くても、砲撃の続けるのだ。

 

「だから負けるもんかぁッ!」

 

 時を同じくして、第一・第二合同班の後方で戦う姿があった。

彼女達はアビドス方面派遣部隊第三・第四合同班。

皆で協力して作り上げた全長100m近い仮設大型戦闘阻塞(バリケード)

それを死守し後方の安全を確保し続けるのが彼女達の役割。

 

「アビドスを守れー!ツルギ先輩にッ!みんなにッ!私達は託されたんだー!」

 

 対策委員会が、前衛の第一・第二合同班が、そして第六合同班が作り出した拮抗した戦況。

それでと撃ち漏らしは生まれる。

数が違うのだ。

小隊に対して相手は中隊から大隊規模と予想される。

どうしたって敵はすり抜けてくる。

 

「ハスミ先輩ぃぃ!!終わったらパフェ奢ってくださぁぁぁい!!」

 

その敵を撃ち抜いていく。

誰一人とて通すつもりはない。

誰か一人でも通してしまえば、自分達の背後で帰りを待ってくれている人達が傷つく事になるから。

誰よりも危険な役目(最前線での遊撃)を、自分達の自治区の事だからと笑って務める新しい友達の帰る場所がなくなってしまうから。

 

「そんな事ッ!そんな事させるもんかぁッ!」

 

させないと。

そんな悲しい現実、認めてたまるかと彼女達は目の前に迫る敵を撃ち落としながら戦い続ける。

 

「コハルちゃぁぁん!早く留学から帰ってきてぇぇ!!」

 

恐怖で震える体に、大好きな友人の名前を叫んで怖いという現実からだけは目を背けて。

 

「それかアビドスに遊びに来てぇぇぇぇぇ!」

 

ふざけてでも良い。

格好悪くても良い。

弱くても良い。

とにかく今だけ、今この瞬間だけ。

怯えて蹲るのでは前を見続けて引鉄を弾き続けられるように。

 

総員!黒い羽の何たるかを示しなさい!

 

全ては与えられた役割を熟す為。

黒のセーラー服を身に纏った責任を果たす為。

 

 

 

アビドスを死守せよ───ッ!

 

 

 

誰かの為に戦うと決めて委員会の戸を叩いた少女達は月下に吠えた。

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
ち、違うじゃんね……本当は今回で強欲のアーチャーとここでご対面!……の予定だったじゃんね……なんか気づいたらシロコちゃん達無双とモブちゃん達が頑張ってるシーンが生えて伸び始めていったじゃんね☆
こんなに引っ張るつもりもなかったし!次回こそアーチャー()には登場してもらうじゃんね☆

余談じゃんね☆
前回の喋ってたシャドウサーヴァントと違って今回登場したシャドウサーヴァントは別に名前というか真名とか特に考えてないじゃんね☆
とりあえず型月の作品のどっかには出てきたというか()()中の何人か……ってぐらいのふわふわじゃんね☆
武器が違う?全員槍は流石にお腹一杯になるってメタ的理由もあるけど、物語の設定的にもそうなったじゃんね☆ミーカミカミカミカミカミカミカミカ

しっかしセリフ探してくるのてーへんだったじゃんね……

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