阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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酷な話をする。
お前達には無理をさせる事になるかもしれない。
不慣れな土地だ、不便もさせる。
任務自体、昼夜問わずとなれば負担も大きい。
それでも、()()()()()()
正義実現委員会にナギサ様と先生が託してくれた信頼(もの)を、他ならないお前達に私達は託したい。
そしてお前達から私達も、お前達の居場所(大切なもの)を託されたい。
……だから、安心して

───いつも通りに守ってこい(いつも通りにやってこい)





アビドス防衛戦(4)

 

 シロコ達が戦う砂漠(舞台)より離れた戦地でもまた、奮闘は続いていた。

 

「一対一が難しいなら二人掛かりだッ!」

 

銃火は激しく。

 

「怪我したら三班の子と交代してッ!早くッ!走ってッ───ェッ!」

 

けたたましい銃声は最早悲痛な叫びと遜色ない。

 

「一匹残らず絶対通すなッ!イチカ先輩に顔向けできないぞッ!」

 

黒髪から汗が玉のように転がって流れる。

誰もが頬や肩、脚から血を流し、制服には砂埃と硝煙に汚れている。

中には利き手を赤いスカーフで吊るして片手撃ちする者もいる。

 

「お前達なんかにぃぃぃッ!」

 

前衛を熟す第一班の少女は雄叫び一つで震える脚に喝を入れてひたすらに銃弾を吐き続ける。

別の委員会に所属する友達が、今どうして入院しているのかを知っていたから。

だから、負けられなかった。

 

「つるっ、つるぎ委員長なら……っ!ツルギ委員長だったらぁッ!」

 

尊敬する先輩から格闘戦を叩き込まれたからと第二班に配属を志望した少女は使い切ったマガジンを投げ捨てては果敢に白兵戦を挑む。

目から零れ落ちる物なんて汗に決まってると自分に言い聞かせて前だけ向く。

 

「あ、あぁ……あちっ、あっちいってよぉぉッ!」

 

戦いの恐慌に脳を揺らしながらまともに回らない舌して第三班の少女が無我夢中で引鉄を弾く。

この場所のパトロールをした時に、馬鹿みたいにはしゃいではかくれんぼして遊んだ事が脳裏に過ぎて、だから意地でも離れられなかった。

 

「まけ、負けないぞっ!だって、だってだっでぇ!こ、ここコハルちゃんとっ!こんど一緒にぃ!EXPO(えきすぽ)回るってやぐぞぐじだんだぁッ!」

 

左腕は力無く垂れ下がり足元には配給された銃が無惨にへし折られる中で、第四班の少女はどうにか動く傷だらけの片手に掴んだ小銃擲弾の取り付け棒を振り回して直接敵へと叩きつけている。

謝肉祭もEXPOも、この任務が終わったら照れ屋なあの子と一緒に回れるんだと自分を鼓舞して。

 

「ぜったいに負けるもんかァッ───!」

 

無傷の生徒はこの場にもう誰もいなかった。

誰もがボロボロで、今にも挫けそうで、けれど誰も前を向く事をやめはしない。

 

「(早く……早くはやく───はやくッ!)」

 

派遣部隊と第一班を取り纏める少女の心臓が早鐘を打ち続けて止まってはくれない。

誰もが、もう終わらせてくれと願い続けながら戦っている。

 

『用意完了ッ!部隊長ォッ!』

 

喉を破くほど強い声が無線機越しに届いた。

見え透いた作戦でしかなくて、でもそれでも痛恨の一打になると信じて。

 

「総員撤退ッ!ラインを下げてッ!」

 

少女は叫ぶ。

亡者の呻めきに負けじと声を張り上げて今共に前線を死守している仲間へ退がれと命じた。

 

「了解……ッ!」

 

「動けるッ!?無理なら担ぐからッ!」

 

「こっちッ!早くッ!開けたのッ!みちぃ!」

 

一人、また一人と呻めき前進し続ける群れから離脱していく。

もつれるように両足を頼りなく震わせながら、それでもその間も引鉄を弾く指は止まらず。

 

「まっ、まだッ!まだ後一人ぐらい押し込んでか「駄目ッ!」……ぅ」

 

「逃げるのッ!()()()()()()()()っ!」

 

四十余名の生徒が命からがらに逃げ仰たのを確認してから、部隊長の肩書を背負った少女は叫んだ。

 

「点火用意───今ァッ!」

 

『ぶっ倒れッ、ろォォォッ!』

 

 少女達の祈りに応えるように爆薬は炸裂し、古ぼけ廃れた無人の廃屋は最後の役目を果たす。

響き渡る地鳴りの正体。

それは中央の道を塞ぐように道路に面したビルが倒壊した音。

決して高層とは言えずともかつてはオフィスビルであったそれが敵勢を押し潰しながら砕け、倒れていく。

 

「げっ、現状報こ『部隊長ッ!』……ッ」

 

それでもまだ足りない。

倒れたビルの残骸から這い出るのは黒い影。

倒しきれない数という名の暴力がまた押し寄せんと少しずつ姿を現して。

 

「ほっ、砲撃用ォォ意ッ!」

 

「正義実現委員会を……ッ!」

 

「ティーパーティを……ッ!」

 

「撃って───ッ!」

 

「「舐めるなァ───ッ!」」

 

そんな無法は許さぬとティーパーティの 所属生徒(砲兵)と正義実現委員会の 第六合同班(混成部隊)による砲撃で足止めする。

何度も崩されては立て直したせいで疎に並ぶ105mm榴弾砲は、少女達の意地と誇りに応えるように咆哮を上げながら夜空を赤々と照らす。

 

「(でも───駄目だ)」

 

それでも、なのだ。

それでも足りない、あと僅かに届いてはくれない。

 

「(このままじゃ間違いなく防衛ラインを食い破られる……こいつら)」

 

もうどれだけの時間戦ったか。

もうどれだけの敵を倒したか。

今もこうして瓦礫に取り付いては必死の覚悟で銃撃戦へと縺れ込ませて掃討せんと励んでいても。

 

「(倒しても倒してもどこから同じ数が沸いてくる……ッ!)」

 

文字通り影踏みでもしているように次から次へと敵が出てくる。

 

「(せめてもう少し時間稼ぐ為に……やっぱり……残りの二班をこっちに回してもらおう……!じゃなきゃもう、この防衛ラインは保たない……ッ!)」

 

敵の進軍が始まって何時間か、その歩みはなおも止まらない。

けれどここまで敵の動きに変化はなかった。

第二波や別方向から進軍も想定して別働隊を備えていたが、これ以上兵を遊ばせておく余裕はない。

だから、その為の指示をと少女が無線に呼びかけようとして───。

 

 

 

『こちら第九班!第七、第八班より入電!西進する敵の部隊を確認!数ッ……ぁ……う、うそ……こんなの……』

 

 

 

 嗚呼、失敗した。

心の中でそう言って小さく蹲る自分を幻視しながら、それでも部隊長(少女)は唇を震わせながら毅然と指示を出す。

 

「……報告を」

 

それが託された己の役目だから。

 

「構わないから報告して下さい……ッ!」

 

『っぁあ……ぅ……に、ひゃく……二百ですッ!』

 

それは無線機越しの彼女も同じ。

耳と目を塞いで蹲りたい衝動を跳ね除けるように叫びながら、それでも務めだけは果たそうとする。

 

『第七、第八班からの報告では敵勢の数ッ!観測できる限り数は二百ッ!』

 

「(むりだ……)」

 

少女の中で立ち込めるの諦観。

既に最初の前衛後衛に分かれていた部隊運用は破綻して、この場にいる第一から第五班までの全員総出で防衛している状況。

5分か1分か、それとも1秒先か。

今この瞬間にも防衛ラインは瓦解してもおかしくない。

 

「(無理だよそんな数……こっちだってギリギリなのに……こんなっ、こんなのもうッ……ならもう、もうこうなったら……)」

 

それなのに今目の前にいる敵勢と同程度の規模が東側から市街地目掛けて押し寄せてくる。

 

「……ありがとう、ございます……第七から第十班に通達……ッ」

 

敗北だった。

 

「(ごめん、ごめんなさい、砂狼先輩……でもせめて……ッ)」

 

これ以上この場に留まっても、最早シロコ達の勝利を待つどころか自分達諸共アビドスは死ぬ他ない。

 

「現時点を以て避難所を破棄、すぐに……」

 

 だからせめて。

避難所に残る人々だけでも必ず逃す時間を稼ぐと。

せめてシロコ達から預かった後衛(背中)大切な人達(自治区の人々)を最後まで守り抜こうと。

間に合わせられなかったと項垂れる少女は、

 

「(ツルギ先輩……やっぱり私じゃ……)」

 

最後の指示を出そうとして───。

 

 

 

 

 

 

けっこう大変そうじゃん

 

てつだい、いりそー?

 

 

 

 

 

 

反撃の狼煙(F1ght Back)は撃鉄を降ろして鳴り渡った。

 

「……うそ」

 

隊列を組んで砂煙、そして硝煙と共に揺れるのは正義実現委員会の黒でも、ティーパーティの白でもない。

着崩すことなくぴんと揃えられた()()()()()

 

「貴方、達は……!?」

 

そして彼女達を率いるのは夜空のように深い藍色と鮮やかな緑髪。

少女達は二人並んで小悪魔のように艶然とした笑みを向けた。

同時に響くのは後方からの()()()

 

「間に合ったんですね……!」

 

それが意味する事を理解して、目に雫を湛えて少女は確かめれば、小悪魔達は笑みを深めた。

 

「パヒャヒャ!あったりまえ!こちとらプロだよ?」

 

少女へと語りかけながら、後方に待機する部隊に向かって白手で出すのはハンドサイン。

 

「あっちもこっちも済ませたしねー。それにー」

 

それに合わせて走り出すのは二人組が方々駆け回ってはかき集めた一夜限りの応援部隊。

各々荒々しい叫びをあげて日頃業務で溜め込んだ鬱憤晴らさんと防衛ラインの前に続々と躍り出ていく。

そして───。

 

 

「「ご乗車されたお客様を目的地まで届けるのは私達の仕事だよ」」

 

 

 

かつん、と。

アスファルトを叩く音が二人組の背後から聞こえる。

 

「それではお客様」

 

静かで、けれど止まる事なく。

 

「おおりのさいは足元におきをつけてー」

 

ふわりと髪を揺らすのに合わせて淡々と戦場に刻まれる。

 

「「弊学園のまたのご利用、お待ちしております」」

 

それは凱旋の勝鬨。

それは帰還の兆し。

 

 

 

 

 

───ありがとう

 

 

 

 

 

 

今、反撃の狼煙が風に吹かれて(そよ)いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビドス高校の倉庫。

そこで埃を被っていた一台のジープ。

嘗てアビドス生の最良の友とまで呼ばれた名車は今宵その役割を全うした。

無論、アビドスの敵を撃ち破り現アビドス生を守る為にだ。

 

「(これ……は……してやられた、ナ……ッ)」

 

 無機物故に男に殺気すら感じさせず、だが戦場に常に鳴り響いている雨雲号のブレードスラップ音に隠れながら迫っていた破壊槌。

 

「最初に乗り捨てて、その後は音で欺瞞し続ける……見えていた伏兵、か……よくぞここまで……!」

 

その正体は雨雲号に牽引される形で宙吊りになった装甲車(ジープ)

 

「隠したものだッ!奥空アヤネッ!なら次は───!」

 

 爆炎。

雨雲号にワイヤーで吊るされた装甲車は慣性の法則に従い、文字通り巨大な槌となって男へ()()()()()()()ごと叩き込まれたのだ。

 

「ん、どう?───私の自慢の後輩達は」

 

 黒煙と共に業火は立ち昇る。

積み込まれていた爆薬に

燃え盛る爆破の余韻に戦場が焼け爛れる中、炎を掻き分けて現れるのは白き閃光。

 

「ここで来るよナァッ!砂狼シロコォッ!」

 

死の神(アヌビス)───再び。

爆撃の爪痕が刻まれ未だ炎が燻る舞台へ上がったシロコは撹乱するように黒煙に紛れながら銃を撃つ。

 

「よく動くッ!」

 

 初手の飽和攻撃の再演。

違うのは、より高められた攻撃性。

複数の猟犬が獲物を追い立てる際に、ただ走るのではなく必要とあらばその牙と爪を振るうように、彼女達もまた銃弾に止まらず。

 

「当然。後輩が見てる前だから」

 

四肢を振るう。

 

「───格好つけさせてもらうね」

 

突き立てるは先の意匠返し。

 

「勢───ッ!」

 

断頭刃(踵落とし)

火の粉を撒き散らし、燃え上がる焔すら蹴った衝撃で吹き飛ばす。

振り下ろされた踵は宛ら狼の顎。

喰らわばただでは済まぬと判断し男は四股を踏んで盾を持ち上げる。

 

「ははッ!吾は好きだぞ……!その気概ッ!」

 

衝突は鐘の音のように夜空に響く。

とても生身の人間が繰り出したとは思えぬ重低音に見合った威力に顔を顰めつつ褒める男。

だが一度衝撃を地面に通して殺してしまえば後は空中で足を振り下ろして間抜けに身体を晒す娘が一人。

ならば。

 

「ん、褒め言葉としてもらっておく……ねッ!ノノミッ!」

 

「はぁ……いッ!」

 

当然、男が好機と判断して放つ一撃に対処すべくノノミが引鉄を弾いてシロコの離脱を助ける。

 

「くッ……」

 

 男は苦悶の声を漏らしつつ男が炎とノノミの砲撃から逃れようと身を翻すが。

 

『逃しませんッ!』「逃すもんですかッ!」

 

雨雲号の機銃とセリカの狙撃がそれを咎める。

一足でその場を離脱せんとした()()()に置くようにして放たれる弾丸。

隆起した砂原に身を潜めながら、男の逃げ場を的確に見抜いて動きを阻害するのだ。

 

「(前衛二人が攻め立て、一人を休ませつつ隙あらば礫を放ち、そして後衛が地の利を潰していく……上手く回す物だ。まったく、こうなると)」

 

思わず男は口の中で舌を打つ。

何が小鳥遊ホシノ頼りの弱小高校かと。

こうも面倒な狩人が揃っているとは吾は夢にも思っていないだろうと、臍を噛む。

 

「吾も加減なぞかけてはやれんなァッ!」

 

受けた狙撃の方向とそこからセリカの身体能力を考慮して次の移動先を男は演算。

すぐさまそちらを潰しに掛かろうと足を向ける。

 

「それはちょっと」

 

途端、男の脳裏に死が過ぎる。

 

「困っちゃいます……ねッ♧」

 

すぐさま離脱をと太腿に込めた力は放たれる事なく地面を踏み締める為に使われた。

迫ってきた数百を超える弾丸を盾で受け止める為だ。

 

戦い(踊り)は苦手か?十六夜ノノミッ!」

 

そして放つは突撃(チャージ)

盾を全面に翳して砲手へと迫る。

軌道は直線だけでなく揺らすように焦らしてはノノミの射線を散らばしつつ矛先を怪しく光らせる。

 

「私はショッピングの方が好きですね〜☆あっ、でもぉ」

 

ものの数秒で間合いを詰めた男が仕掛ける近接戦にノノミも剛腕で応戦する。

 

「貴方はショッピング、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

既に前回の一合で理解したのかノノミは守勢に入って打ち合うのではなく、己のペースを維持して時に銃器を振り回し、時に引鉄を弾く。

 

「ふッ……抜け目のない娘だな……!」

 

 必然と男の足はノノミに向く。

だがそうすれば対策委員会からの支援攻撃(二の矢)は苛烈に男の背中へ突き刺さらんと襲い掛かる。

 

「いえいえ、浅知恵ですから★」

 

「(陣を固められたか。下手に動けばその分だけ追い立てられる……若い(ナリ)して上手いもんだ)」

 

 一対一であっても今の自分相手に勝ちを拾える者が()()

胸中を驚きと微かな感傷に満たしながら、けれど男は油断なくシロコ達の猛攻を捌き続ける。

 

「(とはいえ吾もあまり時間はかけられん……それにトリニティ、D.U.、百鬼夜行は構わん。恐らく如何にでもなる、が)」

 

 弾丸飛び交う中で確実に仕留めんと果敢に白兵戦まで熟してみせる対策委員会の面々。

体力の限界を迎えるのは間違いなくシロコ達だがそれでに勝敗が着きかねない問題もある。

 

「(残りは不味い……か)」

 

何より男自身、あまり時間はかけられないのだから。

 

 

 

「───頃合いだな」

 

 

 

 故に男は()()()()()()

考えてみれば単純な話、だからと言ってそれを選ぶのはあまりにも大人気なかっただけ。

 

自動小銃、重機関銃、航空機関砲にミサイル。

果ては装甲車による破城槌(質量兵器)までが飛び交う戦場の中で男の隙を見抜き、誰一人誤射(Friendly Fire)の一つもなく白兵戦まで熟せたのか。

シロコ達の連携が巧かったのもあるだろう。

だかそれだけではないのだ。

 

「死ぬ気で避けろよ」

 

 態とらしいまで大袈裟に振りかぶってみせるのは警告。

 

「でないと───死んじまうからナ」

 

ここまで出していなかった技。

シロコ達にそれを探知する術もなければ、そもそも概念としてすら知らず。

 

 

 

アレクサンドリアの光芒よ───ッ!

 

 

 

()()()()()()()()が戦場に奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、っそ……」

 

やられた、というのがシロコの胸中を占める全てだった。

辛うじて身を捩り、転がるように丘陵の影へと回避は間に合った。

だが、間に合ったのは()()()()()()()という一点だけだ。

 

「痛っぅ……」

 

服を割いてシロコの脇腹に通った一本傷。

裂傷だけでなく火傷まで負っている。

それは彼女だけに限らず。

 

『応答して下さいッ!聞こえますか!?みなさんッ!!』

 

「……大丈、夫……こっちは、生きてるから……」

 

 呻きながらシロコと同じようにあの一瞬で死を免れたノノミとセリカも立ち上がれずとも生きて身を潜めていた。

 

 だが、三人共に片足を立ててしゃがみ込んでしまっている。

尻を浮かせようにも息を整えるので必死だ。

脂汗まで流れる始末。

 

「(槍が光ったと思ったら……矛先が伸びた)」

 

ほんの少し前まで優勢とまでいかずとも五分の戦いを演じてみせたのが一瞬でひっくり返された。

大振りの構え。

そこから振るわれた槍は()()()()()に包まれたかと思えば、その光で辺り一面を薙ぎ払ってきた。

 

「あれが……宝具って奴なのかな……」

 

 恐ろしい一撃であった。

自分達の振るう攻撃で果たして同じ事が出来るのか。

そもそもあれを防げるのか。

シロコ達の脳裏に焦燥が過ぎる中。

 

()()()()()()

 

砂を踏む音と共に声をかけられた。

 

「あれはただの余技、魔力を纏わせて放ったに過ぎん。宝具とは比べ物にもならんサ」

 

まあ吾の本来の戦い方はアレだがな、と続ける声の主はシロコ達が潜む丘より少し離れた場所に立つ。

片膝をついていたシロコ達もすぐさま立ち上がり、けれど顔を歪ませた。

 

「へ、ぇ……は、っぁ……サーヴァント、っていうのも……中々、色々出来るんだ……」

 

呼吸を少しでも整える為に、そして痛みが少しでも落ち着くように。

シロコはわざと時間稼ぎ(対話)を試みる。

 

「……()()()()()()()()()()()()

 

それに男は疲れたような潰れた顔をしてからどかりと砂地に腰を下ろした。

 

「それに言っただろう?槍は延びる物だと」

 

「どう、でしたかね……?」

 

ノノミが肩で息をし腹部を抑えながら答える様を見て暫く、男はつまらなさそうに告げる。

 

「……構えるのは良いが片手はやめておけ。多少距離があるなら、いざという時は殴り合いより距離を稼ぐのに徹するのも賢いやり方だ」

 

「……っ。ご指摘、ありがとうございます♧」

 

「素直さは美徳だ。だがまぁ……もちっと上っ面は整えとけ」

 

殺気は変わらず。

下手に動けばすぐにでも殺される、そういう圧は撓む事なくシロコ達は感じ取っている。

同様に手負の獣達も張り詰めた空気でいる。

 

「……サーヴァント相手にこれだけ戦えりゃ上等だ」

 

なのに男は困った顔で笑い続ける。

 

「どうだ?草臥も満足もして十分だろう。ここらで死んでくれる気にはなったか?」

 

「ざっけないでよッ……馬鹿なこと吹かしてるとぶち抜くわよ……ッ!」

 

「そりゃ残念だナ……嗚呼、本当に残念サ」

 

それがどうしてだかシロコ達には分からないまま、男は腰を上げた。

 

「さて、休憩は終いにするか」

 

軽く、槍が振るわれる。

だというのに空気を振動させるほどに殺気立つ圧力。

それにシロコ達も牙を剥いて強気に笑った。

 

「ん……もう、十分ッ……」

 

「……そうね、ここで私達を倒さなかった事……後悔させてやるわよッ」

 

「仕切り直し、ですね……!」

 

「そうか。なら話の続きは」

 

反応は想像通りだったのか、男は眩しいものを見るようにほんの少し目を細めてから。

 

「───戦場で語らうとするサ

 

槍に青黒い魔力を纏わせてからシロコ達の命を奪わんが為に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

Bullet , and Youth

EXTRA BATTLE 2/3

 

 

 

 

 

 

 

 魔力による攻撃を一度受けたシロコ達は確かに傷を受けた。

シロコは脇腹を、ノノミは腹を、セリカは肩を切り裂かれ灼かれた。

無論その他にも裂傷、擦過傷、打撲。

大小種類を問わずの傷を負っている。

満身創痍とまではいかずとも絶好調とは言い切れない。

 

「(魔力を使ってくる手合いなぞ初めてだろうに、もう対応し始めたか……キヴォトスにも機械仕掛けの砂蛇やらがいるとはいえ、まったくどうして)」

 

 だが、シロコ達の動きは精彩を欠かぬどころかより激しくなる。

 

「( 手負いのケモノ(若い連中)ってのはこうも恐ろしいもんかね)」

 

砂煙と隆起する地形に紛れたゲリラ戦。

アビドスで生まれ育った彼女達らしい戦い方。

その中でも少しずつ距離を縮めては男の懐に潜り込まんとする。

 

 無論男とてそれを良しとはしないが。

 

「良い目だッ!今のように不定形の魔力は形として捉えるなよッ!コイツはあれだこれだと喩えるな!魔力は魔力でしかない!」

 

 されど魔力を纏った槍は轟音と共に空を切る。

男が振るう槍の一閃を余裕を持って躱しては包囲網を狭めつつ確実に弾丸で射抜かんとする。

 

「生前に魔術を手習った、或いはその手のスキルを持ち合わせているサーヴァントであればこの程度は誰でも出来る。それは吾達にすれば常識だッ!」

 

 先ほどの焼き直しか。

いいや違う。

少なくとも、男の方は本来の戦い方を選んだ(手札を切った)

 

「そらッ!もっと足を動かせッ!撃ち抜いちまうぞ!」

 

 シロコ達にとってそれは、まるで出来の悪い御伽話でも読み聞かせられているようであった。

矛先から放たれる一条の光線。

かと思えば男の背後に備えるようにして現れた光弾が青黒い稲光と共に撃ち出される。

果ては着弾した地点から間欠泉のように噴き出す魔力。

 

 遠間からの攻撃という優位性はすでにシロコ達の手から離れてしまっていた。

 

「ん、それちょっとずるい」

 

「強欲なぞと大層な名前を冠しちゃいるが吾のクラスはアーチャー!遠矢の術なぞ持っていて当然だッ!」

 

 それに不満を垂れながら、腰よりも低い位置に滑り込んでは銃撃と足払いを放つシロコに男は。

否、強欲のアーチャーはからからと嗤った。

 

「こんな物は吾達にしてみれば当たり前、だがお前達は違う。この世界に、このキヴォトスに。魔力や魔術という単語はあってもその真なる意味を理解している人間は()()()()()()()()いやしないッ!」

 

シロコへと槍を向けようとすればそれを狙ってドローンが小型ミサイルを飛ばしてくる。

強欲のアーチャーがミサイルを叩き落とせば今度逆方向からセリカの猛攻が迫る。

 

「魔力という概念を理解し」

 

右に左に、薙いで払ってを繰り返すアーチャーに対して器用にそれを躱したと思えば、躱した先に放たれんとする光球。

 

「その正しい運用を知り」

 

飽和し弾ける紫電は込められた魔力の量を示す。

器用に肘後方転回で避けんとする場所にこそ置くように男が放つ瞬間に二人の間に割って入ったノノミが、引鉄を弾いたままアーチャーに銃身を殴りつけんとする。

 

「魔術という体系化された学問として掌握して己が理の裡に置く」

 

光球を消して一度盾で受け止めてからその衝撃を流そうと軽く跳躍するアーチャー。

明確な死に体()

見逃すわけもなくシロコも反対から飛びかかる。

 

「魔術世界の常識。それが必然として欠けているのがこの地の人間ッ!」

 

()()()()()()()()()()

アーチャーとシロコの間に生まれる空白地帯。

槍を差し向けても既に足を止めて動きを見据えているシロコの方が早く対処できるのは明白。

ならばさらに退くかと思考する男の頭蓋に警鐘は鳴り渡る。

 

「それこそがサーヴァント(助言者)なくして聖杯戦争に臨むお前達の最たる弱点だ!」

 

アーチャーは。

 

「(嗚呼、しかし本当に)」

 

嗤った。

 

「(厄介な娘子達だよ、お前らは)」

 

シロコと()()()の策を読んですぐに着地。

勢いを銃弾を受け続ける自身の盾を下方向へと傾ける事で自重と衝撃を相乗させながら体を地面へと押さえつける形で停止。

そのまノノミへと突進する。

 

「異邦の知識、異界の存在。お前達に致命的に欠けているのは 彼方の世界における常識(此方の世界の非常識)とそれが欠けているという認識だ。だからお前達は先のように警戒すべき物を警戒しきれない」

 

アーチャーが駆け出す瞬間。

刹那に交差したのはアヤネの雨雲号の機銃から放たれた弾薬とミサイルの雨。

爆発を背中の外套一枚分の差で避け、それに終らず衝撃を受けてアーチャーは加速する。

 

「大切なのは擦り合わせだ。何がおかしくて、何が違うのか。どこで間違えてしまったのか。これからの聖杯戦争で生き残りたいなら、そして真に友を想うなら」

 

最早、魔法が如き空間移動と見間違うばかりの高速機動。

 

「持って帰って魅せろよッ───小娘共ッ!」

 

勢いの乗った槍の一撃はこのままいけばノノミの胴体を喰い破るには飽き足らない。

突きという点の攻撃で半身は泣き別れとなる。

 

 

 

、そんなこと当たり前」

 

「悪いですけど

 

「端からアンタぶっ倒してきて帰る気よ───ッ!」

 

 

 

だが対策委員会が下策で終わる筈もない。

 

『ごめんね……ありがとう』

 

高速で物体が直線移動している。

ならば、横からの接触に弱いのは道理。

ましてやそれが()()()()()()()()()ならば尚更だ。

 

 

 

これが───二発目ですッ

 

 

 

 そう、一発目はワイヤーで吊るしたジープを振り子にした破城槌。

であれば、 二発目(残弾)は決まっている。

()()()()()()()()()()

 

「色々ごちゃごちゃ講釈垂れてノリノリだったけど」

 

高速でノノミへ迫るアーチャーは回避しきれない。

ノノミを殺す事を優先すれば全備重量約8tという圧倒的な質量に轢き潰されたながら、積載された火薬を叩き込まれる。

 

「いくらとってもお強い貴方であっても」

 

回避を優先すればノノミの離脱を許すだけでなく、体勢を立て直しながらシロコとセリカの猛攻を捌ききらなくてはならず、なにより回避場所もアヤネに目算されている。

ここまで徹底的に()()()()()()()()()()()女が誘い込んだ場所に何が仕掛けられているかなぞ、アーチャーも予測は出来る。

 

「───これは避けられない」

 

そしてアーチャーは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()───奥空アヤネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬が裂けるほどに唇を吊り上げて、嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場で気づいたのはギリギリまで男の視線を正面から受け止めていたノノミだった。

 

「ッ!」

 

男がしたのは第三の選択肢。

あと数秒で接触する最中にある雨雲号に背を向ける。

そして大上段に槍を掲げた。

 

「逃げて───ェッ!」

 

そう、アーチャーは()()()()()

この戦いが始まってから黙って支援と、そして上空からの戦況把握に徹して常にシロコ達に誤射の一つもなく指示と火器支援を行い続けた 奥空アヤネ(指揮官)

彼女がどこにいるのか。

 

「こんのォォォッ!」

 

シロコ達が傷つく中でそれでも己を出す事なく、アーチャーの隙を的確に狙い続ける。

並大抵の精神力ではない。

見事と言うべきだろう。

事実、アーチャーは 撹乱と揺動(三人による格闘戦)によってアヤネの位置を特定出来ないまま、戦況の支配を許し続けた。

 

『しまっ……ダメです!来ちゃッ!』

 

 だが、今この瞬間。

この刹那だけは違う。

致命の一撃。

間違いなくアーチャーを此処で撃ち倒す為に敷いたこれまでの策の締め。

それをする為にアヤネは攻撃に巻き込まれない為に自動運転中の雨雲号から最も離れていて。

万が一避けるようなら雨雲号をその瞬間に落下から引き上げる精密な操作ができて。

 

「とっておきだ───蝕め、我が光よ」

 

かつ雨雲号を確実にアーチャーへとぶつけるまでの進路を正確に観測できる場所。

即ち、 直進する雨雲号と相対する真反対の位置(アーチャーが槍を振り下ろした先)

 

 槍の一閃。

その軌道に従い、延長線上に光の帯が奔る。

奥空アヤネ(指揮官)を殺す為に。

青黒い輝きは、50m先の小高い砂の丘に隠れたまま指揮をしていたアヤネに逃げる暇も与えず。

雨雲号がアーチャーの体に接触するより早く、アーチャーは死の一撃を放ってしまった。

 

 

 

「ん、それは()()()()

 

 

 鈍い衝突音と炸裂する爆薬によって生じた大規模爆破の轟音に紛れて、だがその透明な声は風に乗って戦場に響く。

 

 爆風を受けての加速を可能としたのは何もアーチャーだけではない。

ちょうど真反対、ちょうど同じタイミング。

アーチャーがノノミへと高速で突進するのと同条件でアヤネの援護爆撃の余波を受けた少女がいた。

 

アビドス最速───砂狼シロコ。

その危険を察知した瞬間に爆破の衝撃を追い風として、音もなく駆け出し既に50mを走り切り。

 

 

 

 

 

 

 

「ギリギリセーフ、かな?」

 

 

 

 

 

 

 たった今墜落した雨雲号によって巻き起こされた火炎旋風の中にいるアーチャーが放った一撃。

それより早くアヤネを救い出して、シロコは後輩を横抱きにして無事に生還していた。

 

「アヤネちゃんッ!だっ、大丈夫だった!?」

 

そう、これは戦争だ。

 

「は、ぁっ……ん……はぁ……よ、よかったです……!」

 

シロコ達が強欲のアーチャー(指揮官)を倒して戦争の早期決着を狙うなら、同じようにアーチャーがアヤネを狙う事も当然だ。

一人倒せば片がつく。

実に分かりやすい勝利条件なのだから。

 

「……めです」

 

 だから隠れ続けていたのだ。

だから万一を想定して、セリカ達と合流してからは常にシロコは先陣を切らずアヤネの安全が確認されてから動いていた。

 

「ごめん、怖い思いさせたね」

 

 全力疾走で駆け寄ってきたセリカとノノミも合流する。

アビドス廃校対策委員会、四名が集結する。

シロコ達の表情は明るい。

こちらの策は見破られ、アヤネの存在も明るみとなった。

 

「もう大丈夫……ちょっと予定からは外れたけど、ノノミ」

 

 だが、これまでだってこの程度の逆境は乗り越えてきた。

何よりアヤネが無事だったのだ。

 

「はいっ!私がアヤネちゃんを」

 

 今こうして四人が集まっている。

なら負ける筈はない。

そう信じて───。

 

「で、私とシロコ先輩が「だめです……っ!」……アヤネちゃん……?」

 

集結、()()()()()()()()

 

「皆さん今すぐ逃げて下さいッ!私達はッ!」

 

 アーチャーは()()()()()

 

 

 

掻き毟れ……我が欲望……」

 

 

 

アヤネを狙えば、そしてどう考えても無事ではいられない雨雲号による吶喊を受けた状態の自身を見て、シロコ達が何を優先するか。

 

「私を釣り餌して誘き出されたんです!全員をまとめてッ!」

 

 

 

見えるもの全てに我が指を伸ばすが良いッ!

 

 

 

 瓏々と戦場に響き渡る呪詛に重なるようにしてアヤネの悲痛な声が裂ける。

友人を助けに、そして助けられた友人の安否を確認する。

人として当たり前で戦場には似つかわしくない彼女達の優しさは、今この瞬間に。

 

「私達をッ!確実に殺す為にッ!」

 

利用されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月は知らず、虚構の光(ファロス・ティス・ダクテュロス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極光。

青黒く、破片をかき集めて束ねたような光の奔流は砂の丘を消し飛ばしてアビドス砂漠を抉っては峡谷を作り上げていた。

 

「良い策だったサ。凡ゆる動きが吾を確実に殺し切る為の手として整然と並んでいる。拙いながらに盤面としちゃよくまとめ切っていた」

 

 全身に火傷を負い血を流しながらもふらつく事なく男は皮肉げに微笑っている。

宝具の使用。

それもB++という高ランクの神秘は正しく強大。

地形すらも書き換える絶大な破壊の一撃。

 

「だが、お前達は少しばかり先走り過ぎたナ。大方、吾の魔力運用を見て焦っただろうが……あの空飛ぶ鳥を寄越すのはもうちょい様子を見てからでも良かった」

 

 莫大な熱量によって峡谷となった場所。

つまりシロコ達が集まってしまった位置は砂すら黒く焼けてしまっている。

 

「結果こうして手傷を負わせられても、お前達は宝具を撃たれちまったってわけサ」

 

今度こそ逃げる隙は少女達にはなく。

間違いなく正面から生身で受ければ蒸発した事だろう。

 

 

 

 

 

 

「もっとも……間に合わせられちまったがナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただしそれは正面から生身で受けていたらの話だ。

 

「ごめんな、みんな」

 

アビドス高等学校。

誰もが忘れて去ったようなその学園。

 

「色々寄り道させられてさ、遅くなっちゃった」

 

けれど今宵、多くの少女達が自治区の垣根も越えて手を取り合った。

誰もが忘れて見捨てられていく筈だった枯れた地で、それでも力強く葉を広げる若葉達の輝きがあった。

 

「でも……約束守ってくれて。私の大切な物を守ってくれて、ありがとう」

 

全員が命を賭して()()()()()()

だから───間に合ったのだ。

 

「大丈夫、もうこれ以上」

 

()()()()()()()()煙を立てる盾を一払いして排熱。

燻る憤怒を口から吐き出すように深呼吸。

ぐるりと力強く回す愛銃は小気味良い低音が嘶く。

 

 

 

 

 

 

「───こいつの好きにはさせないから

 

 

 

 

 

 

アビドス高等学校三年生、小鳥遊ホシノ。

現時刻を以てアビドスに帰還。

並びに。

 

 

 

覚悟しろ───ここからは私が相手だ

 

 

 

アビドス防衛戦に参陣。

 

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
やっと……やっとホシノちゃんとアーチャーの宝具出せたじゃんね……☆
長かったけど次回かその次でアビドス防衛戦はおしまい!その次は……まあこれだけ名前連呼してるしあの子の出番じゃんね☆

とりあえず次回はばちぼこにホシノちゃん含めてフルメンバー対策委員会でアーチャーと戦うじゃんね☆

……バレンタインも考えてたけどそれはまた新スレ建てるぐらいまで落ち着いてから、じゃんね☆
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