阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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じゃあさ、約束
必ず、この先何があっても───




the battle is to the strong(1)

 

 ()()は影より這い出るようにして、いつの間にか其処にいた。

時代にそぐわぬ、古めかしい騎士。

誰もが目にしてまず思う印象は間違いなくそうだろう。

何故ならその男の総身は、一分の隙もなく甲冑に覆われていたのだから。

 

 騎士の鎧は黒かった。

精緻な装飾もなければ磨き上げた色艶もない。

刻まれているのは武勲()だけ。

絵の具を混ぜ合わせた果てに煮詰めた、そんな風にただただ底抜けに黒い。

面貌すらも無骨な兜に覆われて見えない。

細く穿たれたスリットの奥に、熾火のように爛々と燃える双眸の不気味な輝きだけがやたらと目立つ。

 

 そして、何よりも異様なのはその身が纏う()()であった。

どす黒く周囲の空気すら汚染していくように立っているだけで悍ましいほどの重圧感を見る者に与える殺気。

純然たる殺意が身体中から迸り、それが形として具現化でもしたかのように騎士は瘴気を纏っていた。

 

 騎士は邸宅の前に立つ。

戸が開く事はない。

家主の許しもなく夜更けに土足で踏み込むような不届きものを阻む為、その錠前は固く閉ざされているからだ。

 

 騎士は、剃刀と見間違う籠手の指先はあまりにも自然に戸のハンドルを握った。

 

 

 

「……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

 

 

 

 脈動

騎士が掠れた声で何事かをぼそりと呟けば真鍮のハンドルは変色する。

騎士の鎧と同じように黒く染まると共に、血管のように張り巡らされたい模様が施される。

 

 次の瞬間に、小さく硬質な音が啼いた。

騎士が力を入れて鍵を壊したのではない。

ただ主人が鍵穴に鍵を刺して回すように、ごく自然と戸が自ら鍵を開けたのだ。

 

 そうして騎士は音もなくその軍靴を邸宅の内へと踏み出した。

黒い靄と冥色の飾り羽根を不気味に棚引かせながら一歩ずつ澱みない足取りで前へ進んでいく。

目指す場所は分かっているのだろう。

よく訓練された猟犬のように静かに獲物が待つ寝室を目指している。

 

 邸宅は思いの外、小さかった。

騎士の標的である少女が密かに所有していたセーフハウス。

然程物も置かれず、取り立てて高価な調度品があるわけでもない。

昼間であればガラス張りの壁が開放的な空間を演出するだろう廊下を夜闇に沈んでいる。

誰一人の呼吸すらない真っ暗な道を騎士が鎧を鳴らして進むんでいるのだ。

何を壊すわけでもない。

誰を殺すわけでもない。

ましてや騎士自体も生者ではなく機械仕掛けのようにただ黙然と決められた道を歩くだけの時間。

 

 それが、唐突に終わった。

寝室を前にして騎士は足を止める。

扉がまた騎士の行手を阻んでいた。

 

 また騎士が戸に手を触れてみれば、扉自らが恭しく差し出すようにして()()

 

 見る者がいればこう言っただろう。

鍵が開いていたのだろうと。

この邸宅の構造を知る者がいれば憤りを覚えるだろう。

電子と物理のどちらにも対応した鍵をどうやって一瞬でハッキングしたのだと。

魔術を少しでも齧っている者がいれば事も何気に嘲るだろう。

たかが鍵開けの呪詛、初等で稚拙な魔術だと。

 

高位の魔術師が見れば。

そして多くのサーヴァント達が見れば額を抑えて呻くだろう。

 

 

 

───どんな逸話を基にしたらあんなふざけた宝具(神秘)が生まれるのだ、と。

 

 

 

 騎士は手にしたハンドルをゆっくりと回してから扉を引いて寝室へ足を踏み入れた。

朝日を取り入れる為か壁には大きな窓が嵌め込まれているのを、今はドレープカーテンが覆い隠している。

これと言って家主の趣味が反映されたわけでもない、無機質な部屋は仮宿といった雰囲気であった。

 

 騎士の視線は寝室の中央にあるベッドへと向く。

顔まで布団掛けているのか家主の姿はシルクの向こうに秘されている。

だが顔は見えずとも吐息と体温は漏れていて。

 

 だから騎士は、ただ役目を果たすべく小さな盛り上がりに向けて歩を進める。

言うまでもない。

邸宅の家主を殺す為に。

騎士を模る発条仕掛けの機械として、その凶刃を───。

 

「───⬛︎⬛︎⬛︎」

 

騎士が、哭いた。

狙いを定めて振り上げた手の内で渦巻くようにして形を成そうとしていた魔力が霧散する。

与えられた役目以外を果たせない白濁とした騎士の思考回路に差し込むの五感が認識する状況。

 

違う。

この布の下には、()()()()()

聞こえてくる一人分の音も温度も、まやかしなのだと騎士は気付く。

 

いるべき存在がいない。

いると踏んで殺す為に来たというのに標的がいない。

そう、この場に───。

 

 

 

「───セイア様は不在だ

 

 

 

 騎士の凶行と僅かな逡巡を()()か、咎める声がした。

下を向いてベッドを凝視していた騎士の兜がゆっくりと持ち上がる。

一人分の寝息しか聞こえなかった筈の部屋の中で、声と共に微かな息遣いと心音が響き始めた。

 

「捲るまでもないというのなら教えてやる。その下にあるのはただの機械だ」

 

 まるで初めから其処にいたように、カーテンの前に人影が立っていた。

 

染めの制服。

真紅のスカーフ。

長い黒髪を揺らし濡羽を床に降ろして佇んでいた。

 

「……何の用か、なんで馬鹿な事は聞かない。私はそんなに()()()()()()()()()

 

 あり得ない光景であった。

この邸宅に騎士が足を踏み入れてから感じ取った気配はただ一つ。

だというのに、いつの間にか少女は其処にいたのだから。

 

 だが、蓋を開けてみれば単純な話。

室内で心拍音も呼吸音も感知できなかったというのなら、()()()()()()()()()()()、ただそれだけの話。

 

 キヴォトスの小学生程度であっても聞き覚えがあるだろう。

冬眠、という生物のメカニズムが存在する。

季節的な外気温の低下を受けて動物が活動を休止し、冬季間をやり過ごす生態の事である。

体内の脂肪を燃料とするものや餌を貯蔵するものまで形態は様々だが、一般的にイメージされるのは死んだように眠る、そんな姿だろう。

そしてそういった冬眠を行う動物の場合、体温は限りなく低下し凡ゆる生理機能と代謝はほぼ停止状態となる。

 

 そう、息を潜めてこの部屋で待ち続けた少女がしていたのは冬眠と同じ自然界にはありふれたもの。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

呼吸は鈍り、心拍の勢いと脈拍のペースは自然と停滞する。

代謝が止まることで全身からは血の気と共に体温が引き、外気温と同程度にまで冷却される。

 

 騎士の索敵からも完全に外れる一手。

心拍音も呼吸音も、そして体温さえもないに等しい状態にしてただ待ち続ける、そういう絡繰(力技)だったのだ。

 

 確かに人間の肉体に冬眠という生理機能は備わってはいないが、現実として実例がある。

レッドウィンターの学生が冬季に自治区内で遭難し、代謝が極度に低下した生徒が飲まず食わずどころか雪中の酸素すら薄い環境で一ヶ月間生き延びたという報告があるのだ。

ならば、出来てもおかしくないのか。

()()()()()()()

 

 自らの肉体を意思一つで制御して無理やりに機能を低下させて気配を遮断する。

そんな暴論、通りっこない。

だが、この少女は。

百合園セイアの警護に就いた()()()()()はやってのけた。

 

「こんな夜更けに乙女の寝室に土足で踏み込んだ、お前のような暴漢に贈る言葉なんて一つで良い」

 

 ツルギは氷のように体を凍て付かせ今なお冷える肢体を緩慢と動かす。

右手に持つそのスイッチを押す為に。

 

 

 

───死ね

 

 

 

 そして、騎士の目の前で()()暴力的な爆発が引き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発の中心地。

掛け布団の下に隠されていたのは、百合園セイアの寝息と心音を再生し三七度前後に発熱するよう設定された人形。

その内部に潜められていたのは、正義実現委員会御用達のPE4爆弾であった。

 

 ツルギの押したスイッチによって起動した可塑性爆薬。

人形を吹き飛ばすどころか寝室を炎で埋め尽くす勢いで爆発したのを皮切りに、邸宅内に仕掛けられた大量の爆薬が建物の倒壊を引き起こしていた。

 

 コンクリートは砕け散り、硝子は破片を投げ出して、柱はひしゃげている。

瞬間的かつ限定的に発生した爆炎と爆風が引き起こした壊滅的な破壊の後。

未だ炎が燻る其処に、繭があった。

 

 爆発の余韻を掻き消すように開かれる繭の正体は翼。

既存の鳥類とは似ても似つかぬ鋸のような風切羽。

鴉よりなお艶やかな翼で自身の身体を抱くようにして爆発から身を守ったツルギであった。

 

「……多少は温まったな」

 

 掌を開いては閉じる。

生理機能を随意で停滞させたことによる体温低下の弊害は、末端に通う血潮が暖められたことにって完全に拭い去っていた。

 

 戦いを前にしたコンディションの確認。

ツルギの心臓が強く脈打ち全身に血が通いだす。

十全に近い。

 

 

 

「───⬛︎⬛︎」

 

 

 

 

 首を鳴らして調子をを確認していたツルギの前方から唸りが聞こえた。

がらりと、重い石が転がる音と共に立ち上がった全身甲冑の姿を視認してツルギの目が細く研がれる。

 

「……やはりこんな物では死なないか」

 

 家屋一棟を倒壊し尽くした爆発を受けてなお、傷一つない指先で握っていた起爆装置を弄んでから、ツルギはつまらなそうに空へと放り投げた。

 

 掌に収まる程度の大きさの機械は夜空へと吸い込まれるように上へ行く。

けれど万物が引かれるのと同じくして役目を終えた起爆装置もまた、上へと進む運動エネルギーが無くなれば力を失う。

そうなれば後はもう、地に堕ちるだけ。

くるり、くるりと回転しながら放物線を描いて騎士の目の前に降りようとして。

 

 

 

───銃声。

 

 

 

「目も逸らさない、避けもしない……面倒だな」

 

 何時の間に構えたのか。

銃口から硝煙を吐き出す相棒から放たれた結果を受けて、ツルギは気にした様子もなく事実を呟いた。

 

 早撃ち(クイックドロウ)

放り投げた起爆装置が騎士の目の前に落ちる刹那、視界に入ってきた異物によって焦点がブレるであろう一瞬に抜き放った()()()()()

並の不良であればどれだけ備えていたとしても何が起きたかも分からぬまま意識を刈り取られる四撃は、けれど騎士は何一つ動じる事なくツルギの抜き撃ちを見た上で動かないことを選択していた。

 

「……そこの。此処にセイア様はいない。他の生徒達も自治区の住民も避難させた。分かるか?残っているは私だけだ」

 

 そう、百合園セイアは騎士が来るより()()避難していた。

理由は単純。

トリニティ本校舎に砲撃が撃ち込まれたから。

即ち、自らの危機を悟った桐藤ナギサが無制限の砲撃命令を下したという事。

 

 ナギサは、ティーパーティは。

そして聖杯戦争非情対策会議に参加していた三校の生徒達は、初めからこうなる未来を予測していた。

 

『もしも阿慈谷ヒフミを害したいと考える敵がいたのならば必ず 協力者である自分達(補給線)を狙う』と。

 

その為、トリニティでは万が一本校舎に砲撃が行われた場合、ナギサの命令だと判断して即時臨戦体制と緊急避難訓練と称する形で自治区生徒達及び住民の避難誘導が敷かれる手筈になっていたのだ。

 

 そして今宵、未来視こそ失ったが高い精度を誇る百合園セイアの勘は、砲撃の合図があった同時刻に働いた。

 

『この場に、敵が来る』と。

 

 だから今、この場にはセイアはおらず囮役のツルギのみが立っている。

トリニティにおいて最強を冠する少女がいるのだ。

 

「返事はいらない。 喋らなくていい。動かなくていい。何もしなくていい。ただ」

 

 そんな自身の攻撃を、まるで子どもがする事だとでも言いたげに払いもしなかった騎士を前にしてツルギは確信する。

 

 今目の前にいるこの男は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───此処潰れていけ

 

 

 

 

 

 

 

 

間違いようもなく、強敵であると。

 

 

 

 

 

 

 

Bullet , and Youth

EXTRA BATTLE 1/3

 

 

 

 

 

 

 

 正義実現委員会委員長、剣先ツルギ。

対するは黒炭が如き闇を纏う騎士。

両者が見合ったの一瞬のことであった。

 

「けひッ……けひひィッ

 

 再装填(リロード)、後に呵々大笑。

密やかになぞ堪えられんと喉から振り絞って響くは絶叫。

 

いィィイッひッひッひッッ!戦いダァッッ!

 

開戦の号令は劈くようなツルギの喚声。

瓦礫の山に立って相対する両者のうち、先手はツルギからであった。

 

 踏み込み。

残像を窺う事すら許さぬ吶喊は余波で周りにあった瓦礫を吹き飛ばすほど。

50mはあるだろう彼我の距離なぞ、僅か数歩で瞬時に詰め終える。

 

 

 

邪ァ───ッ!

 

 

 

 二連射。

騎士の正面へと飛ぶように躍り出ると、先ほどと同じく銃口から火が噴く。

違うのは、()()()()

 

「……⬛︎⬛︎⬛︎」

 

 先ほどとは違い、騎士は放たれた弾丸を見て回避を選択。

瓦礫の上という不安定な足場にあって脅威的な脚力を発揮し、大きく飛び退いては射線から外れた。

 

「(なるほど、()()()脅威と判断するのか)」

 

 両雄の視線が交差する。

騎士は未だスリットの奥に怪しく火を灯し、少女は唇を吊り上げて嗤った。

 

アァッげッげッげッげェェッ!

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎a……」

 

 ツルギ、再びの吶喊。

翼と脚による高速機動は地面に稲妻が走るように駆けながらの撹乱。

対する騎士は荒ぶ颶風の軌道を見極めながら、隙を読んで放たれる弾丸を徒手で弾き、躱していく。

 

 中距離戦。

互いの攻防は激化し高速化していく。

その最中、ツルギの思考もまた奔る。

 

「(変わらず鹿撃ち(バックショット)には反応せず、単発弾頭(スラグ弾)だけは律儀に防いでいる……下手な弾を撃っても無駄というわけか)」

 

 戦闘開始から僅か二分。

弾薬を切り替えながら装填しつつ対象の反応をつぶさに観察したツルギは判断を下した。

 

しェィィィらァァァア───ッ!

 

 嘶き一つ。

ツルギと騎士はぶつかり合う。

焦らすように中距離を敢えて維持し続け一撃離脱を繰り返していくツルギ。

撃ち放たれる弾丸は空気を裂く、なんて生優しい物ではない。

 

 ショットガンと呼ばれる銃器で使用がされる弾丸は通常、大別して二種類。

一つは複数の鉛玉を薬莢に込める事で発射後、一定距離で弾が散開する文字通りの散弾。

そしてもう一つ。

薬莢に単発のみ込めた事でマンストッピングパワーを極限まで高める弾薬種、即ちスラグ弾。

 

 ツルギが今、轟音と共に放っているのは後者。

ショットガンの二丁持ちというキヴォトス全土を見渡しても極めて珍しいスタイルから放たれる二連撃のスラグ弾。

それは着弾地点にある尽くの物体を抉り砕く破壊力をもって騎士へと迫っていく。

 

「……⬛︎⬛︎」

 

対して、騎士は滑らかな動きでそれを避ける。

時には籠手や胸当て、果ては兜の曲面で向かってきた弾丸を滑らせる、などという曲芸染みた技までやってのけてだ。

 

「(……巧いな)」

 

 本来であれば、触れただけで容易く人体どころか鋼鉄すら砕きかねない衝撃をもたらすツルギの弾丸。

放たれた鉛の殺意に乗せられた質量たるや計算するのも恐ろしいほどだと言うのに、騎士はなんて事のないように既に放たれた弾丸を捌き続けていた。

 

「(スラグ弾ならダメージは通せそうだが、中距離戦だと埒が明かん。かといって近距離、となると……)」

 

 焦れ、逸りそうになる状況。

けれどツルギは、騎士を中心に旋回するようにして、フェイントをかけるようにスラグ弾と散弾を交互に撃ち込み続けていた。

 

「(あの見てくれ通り騎士(ロートル)だとするなら、それこそ今の動きは中距離戦を嫌っての誘いの可能性もある)」

 

 獣の如き哄笑とは裏腹に、驚くほどツルギの思考は澄んでいた。

とても戦いの高揚に身を任せ破壊の限りを尽くす今の姿からは考えられないほどに、彼女の内心は落ち着いている。

 

「(かと言ってこのまま続けてもな。あまり時間をかけるのは私としても望ましくない以上、早期決着といきたいが……)」

 

 だが、正義実現委員会の副委員長がその光景と思考を知る事があれば当然だと腕を組んで後方から頷く事だろう。

剣先ツルギはトリニティ総合学園の正義実現委員会の長である。

マンモス校と呼ぶに相応しい巨大な自治区と生徒数を有するトリニティ。

その軍事力の要である治安維持組織を正しく運用している、そしてそれが出来ると先代含めた委員達とティーパーティから判断された器なのだ。

その戦い振りで誤解される事はあるが、彼女の為人と働きぶりを知る者ならば口を揃えて言うだろう。

 

───あの少女は正しく委員長なのだと。

 

「(……どちらにせよか。まずは)」

 

 冷静かつ沈着。

戦いの熱を愉しみながらも常に俯瞰的に状況を確認しつつ、戦術・戦略だけでなく時には政治的な判断すら読んで組織を完璧に御して一個の武力として運用する。

 

 キヴォトス広し、猛者もまた多く。

だが、戦場にあって剣先ツルギという少女は間違いなく最優というべき実力者であった。

 

「(得物を出させるところからだな)」

 

 決めるが早いか、ツルギは()()()()()

何の為か、決まっている。

近距離戦(インファイト)の間合いに飛び込むのだ。

 

ひィィィィィッやハァァァァァアアッッ!

 

 甲高い嘶きは威嚇かそれとも鼓舞の為か。

どちらにせよ跡地になったとはいえ高級住宅が立ち並ぶ一画ではまず聞かないだろう絶叫を放ちながら吶喊。

今度は真っ直ぐに突き進む。

 

「(……しかし、やはりだな)」

 

 加速するツルギの視界。

その中で思考の中で大きく警鐘を鳴らす物がツルギにはあった。

構えを取る事なく、向かってくる騎士の様子にではない。

 

「(アイツを見ているとどうにも、()()()())」

 

 視認性の悪さ。

ツルギの視力が低いだとか夜間だから目が利かないだとかそういう単純な話ではない。

 

 見えないのだ、姿が。

確かに全身甲冑を着込んだ騎士という全体像をツルギは知覚している。

だが、どれだけ凝視したとしても騎士の容姿を正確に捉える事が出来なかった。

 

「(あれ会議で話に出ていた宝具、それかスキルというやつか)」

 

 瘴気を纏う騎士は、まるで焦点のズレた映写のように輪郭がぼやけ、霞み、時には二重三重にぶれて見える。

幻覚、或いはそれに類似した効果。

 

「(騎士らしい見てくれで嫌らしい手を使う)」

 

 見えにくいというのは銃撃戦、そして白兵戦において致命的である。

たった数センチの誤差が命取りとなる間合いに入っての近接戦ともなれば尚更のこと。

だが。

 

「(下らん……どうだっていい)」

 

 吶喊開始から僅か五秒。

両者の距離は三メートル。

互いが一息で詰められる距離で、近接戦闘が開始される。

 

「(スキルだの宝具だの、そんな物は私には分からない。だから今は)」

 

 間合いに入ると同時にツルギは引鉄を弾いた。

夜気を揺るがすほどの轟音を立てながら放たれるスラグ弾。

周囲の空気すら捩じ切る衝撃を放ちながら騎士へと殺到する。

 

あ゛ァァそォッびィィィまァッ!ショォォォォッ!

 

「(戦う以外私にすべき事はない)」

 

 中遠距離を主とし剣や槍より長い有効射程距離(間合い)を持つ銃において近距離の発砲と銃を用いての白兵戦に意味があるか否か。

無論、()()

 

じィィィべェッへェッへェェェッ!

 

 単純な話だ。

よーいどんで腕を振るのと指を引くの、どちらが速いかという事。

一瞬が勝敗を分かつ白兵戦において、()()は正義なのだ。

 

 勿論、たとえば剣であれば振る事自体が守りにもなり双方の距離によっては呆気なく銃が敗北するという事も起こり得る。

視認して腕を固めて引鉄を引くという動作が遅ければ簡単に斬り殺される。

 

 だが、この場にいるのはど素人ではない。

百戦錬磨、剣先ツルギだ。

 

げェッ!げッ!げッ!げッ!ゲェェッッ!

 

 ツルギは距離を詰めて、炸裂する閃光によって夜空を煌々と照らしながら装填と射撃を繰り返していく。

撃ち据えること一分、放った数は数十発。

構造上、装弾数が一般的な小銃の半分以下である筈の散弾銃ではあり得ない程の数を撃ち込んだと言えるだろう。

ツルギの脅威的な技量と動体視力、そしてこれまでの戦闘経験あってこその再装填と照準合わせが可能にした連撃であった。

 

「(……厄介だな)」

 

 だが、逆に言えば剣先ツルギがたった一人を相手に数十発を撃ち込んでいる異常事態とも呼ぶべき状況でもあったのだ。

 

「(こっちの想定より遥かにコイツは巧すぎる……ッ)」

 

 騎士は確かに防戦に徹した。

ツルギからの攻撃に対してあくまでも防ぐ事を選んでいた。

問題はその()()

 

 重厚な甲冑を身につけながら舞踏のように軽やかな身熟しで全ての弾丸を弾き落とす。

何か手に得物を持っているわけではない。

自身に弾丸が触れるか否かのタイミングで、側面の空気を叩くようにして籠手で弾いているのだ。

 

 それを見て、軋むような狂笑をあげるツルギの頬に知らず汗が流れた。

 

「(この前相手した奴らとも、例の報告にあった喋らない連中とは明確に違う……!)」

 

 最早、その技巧は一種の芸術。

確かに直進する弾丸は横からの衝撃に弱い。

だとしても、全ての弾丸を見てから徒手で弾いて落とすなぞ、常軌を逸しているとしか言いようがない。

それを、ツルギの目の前にいる騎士はやってのけたのだ。

 

「(……確かサーヴァントは出揃ったという話だったか……なら、やはりこいつらは)」

 

 撃っては距離を詰めてを繰り返す最中。

徐々にその間合いを見計らって狭めていくツルギ。

対して、少しずつ敷地の奥へと追いやられる騎士。

一見すれば優勢にも見えるツルギであったが、底冷えするような怖気を感じていた。

 

「(()()()()()()。私達やミレニアム、そしてヒフミも把握していない何かが裏で仕組んで……面倒な事だ)」

 

 闘争を好むが善性も倫理観も欠く事はツルギにない。

たたでさえ半ば強制的な殺し合いなぞという悪趣味を極めた儀式に友人どころかキヴォトス全土が巻き込まれているという事態。

新たに現れた、否。

ここに来てはっきりと存在が浮上した、マスターでも自分達協力者ともまるで違う第三勢力(イレギュラー)に、ツルギは嫌悪感すら抱きながら引鉄を弾き続ける。

 

 だが、終わらない。

騎士を仕留めきれない。

騎士の流麗な動きは、人体という形の限界と効率を突き詰めたように完璧かつ最低限の動作。

攻撃を回避する騎士に対して、ツルギは躱した先に既に弾丸を置くようにして狙いをつけて放っている。

にも関わらず、騎士はそれを完璧に把握し切って躱した先で触れた鎧の丸みで弾いてみせる。

お互いがお互いの動きを読み合い、次の手を殺し合う戦い。

即ち、千日手。

 

「⬛︎⬛︎……⬛︎⬛︎……a……」

 

 それを察したのか、それとも計算のうちだったのか。

騎士が銃撃から逃げ延びて邸宅の敷地の外に出た瞬間のことだった。

 

あ゛ァァァァァァんんッ……?

 

 追いかけて道路に出たツルギが目にしたのは、何とも奇妙な姿であった。

トリニティらしく洒落た装飾の施された街灯の下に立つ騎士。

ツルギに背を向ける形で立つ彼はそのまま徐に、()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?……ぎィィィッエェェェッッッッッ!

 

 瞬間、跳躍。

不味い。

そう、ツルギの脳裏に警鐘が鳴るのと身体が動き出したのは全くの同時であった。

 

 ただ街灯に触れただけ。

だというのに鳥肌を立てるほどに死の気配が匂い立ち始めるのを瞬時にツルギは察知する。

何をするつもりか、何を考えているか、何が狙いなのか。

そんなことはどうでもよく。

ただアレは不味いとだけ考えてツルギは飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「……が、ぁ……べッ……?」

 

 

 

 

 

 

 次にツルギが感じたのは、痛み。

続くのは、浮遊感。

 

 何が起きたのか、脳裏には真っ白な花火が上がる。

腹部に叩き込まれた強烈な圧迫感。

腹直筋越しに内臓が押し潰されながら、曲線を描く浮遊肋がへし折られるようにして軋む。

衝撃は臓器を突き抜けて脊柱を叩き折らんとする勢い。

その激痛の中で、それでも剣先ツルギは見たのだ。

 

───鉄柱。

中程から捥がれ騎士の手に収まった街灯のポールを横降りにして自身の腹を殴打している。

そんな光景を。

 

「ごォッ……ぉ……が、ぎぎ……ッ」

 

 見てから動いたわけではなかった。

ただ痛みに対して身体が自分の身を守る為に、そしてそもそも騎士が放った一撃があまりにも重かったが為に。

ツルギの身体は道路を文字通り飛んだ。

 

「ぁ、ぁぁァァァァァァガアアッ!」

 

 鳩尾諸共、腹部へと叩き込まれた一撃。

太さで言えばツルギの太ももほどもある鉄柱は、恐ろしい程の痛みを齎した。

思考が散り散りとなる中、それでも身を宙に流して衝撃をなんとか分散。

内臓が揺れ、締め付けられ、そして傷つけられた事による出血で口から赤色が漏れる。

 

 それでもツルギはゆうに五メートル近くを吹き飛ばされて地面に降り立ちながらも、倒れ伏す事なく片膝をついて耐えた。

その顔は既に上がり、騎士を捉えている。

 

「ぎ……ィィ……いッ」

 

 騎士に変わりはない。

横に薙ぎ払った姿勢からゆっくりと、柱を引き戻して構えを作っている。

ただ、手に持つ鉄柱。

 

「(……見てくれが変わった)」

 

ツルギに痛恨の一打を与えた兇器は、己の知るトリニティのどの街灯とも様子が違った。

騎士が触れるまでは何の変哲もなかったそれが、今は黒く塗りつぶされ、その上を真紅に脈動する血管のような模様が描いている。

異様。

騎士が何かをしたのは一目瞭然。

 

「(アレで殴られた……なるほど、たかが街灯如きにしては随分と()()()()わけだ)」

 

 未だ星か火花が幾度も弾ける思考を黙らせながら、ツルギは観察を続ける。

だが、思考は出来ても身体は動かない。

屋外用の街灯は平均して約十kg。

そんな重さの物体をフルスイングして柔らかい肉に打ち込めばどうなる事か。

ましてや仕手はサーヴァント。

今こうして意識を保って、あまつさえ倒れずに片膝立ちしているだけでも驚くべき事であった。

 

「はぁッ……か、アッ……」

 

 だが、ツルギの事情を騎士は汲むはずもなく。

ゆっくりと鎧を鳴らしながら歩き出す。

 

「(まずい……な)」

 

左手で鉄柱を引き摺りアスファルトを砕いて進む音がツルギにはよく聞こえた。

 

「……ぎ、げ……ッ」

 

 衝撃の大きさもあって未だ身体は動かず。

ツルギは立ち上がれぬまま、騎士が目の前に来るのをただ見守る事しか出来ない。

そして騎士はツルギの前に立って───。

 

 

 

 

 

 

 

「……くそ、が」

 

 

 

 

 

 

 鉄柱を引き摺る手とは反対。

いつの間にかその右手に握られた()()()()の引鉄を弾いた。

 

 

 

 





1じゃんね☆
喋らなくて全身甲冑の騎士で武器は鉄柱と銃……何者じゃんね?

とりあえず前哨戦だからお互い手札は切らずに、じゃんね☆
ちなみに次回で決着じゃんね☆



最後にお知らせじゃんね☆
本日2/22の20時頃に本作『阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです』の掲示板ver?な『ブルアカキャラがマスターの聖杯戦争』Part7スレ(新スレ)を建てるじゃんね☆

元々スレで安価してヒフミちゃんの行動とかを決めてもらって色々戦ったりしてもらった結果をSSにして、それを更に加筆修正したのが本作になります。
もし本作を読んでくださった方で一緒に安価に参加してヒフミちゃん達の行動を決めたりしながら物語が進んでいくのを見たいなぁって方がいらっしゃったら、ぜひぜひ遊びに来て頂けたら1はとっても嬉しいです!
そのほか詳しい内容や今後のハーメルンでの更新については活動報告の方で改めてご報告させて下さい。
みなさんが遊びに来てくださるのを楽しみにお待ちしております!……じゃんね☆
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