阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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狂気に堕ちろ。
定められた形に沿う為に。
ただそれだけが、唯一己の誓いを果たせる在り方と知れ。
そうでなくてはいけないのだ。
そうしなくてはいけないのだ。

何故なら私は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の騎士。
貴方の従卒であるが故に、この不甲斐なき身で贖える最後の勤めを果たさなくてはいけない。
いいえ、浅ましくも私は。
果たしたいと願うのです。
その為に、私は。

「───アーサー王を殺すのです」



the battle is to the strong(2)

 

 騎士のサーヴァントが握るは9mm短機関銃。

後継機も含めてキヴォトスでも広く流通し、トリニティだけでなくミレニアムやゲヘナでも多くの生徒が使用している名機。

しかし今、銃身は鉄柱と同じく黒く塗り潰され、真紅の血管が這っている。

 

「ar……」

 

 ツルギの推察通り、騎士の宝具と思わしき異能。この場に魔術に精通した者がいない今はまだ知られずとも、効果は単純かつ明快。

なれど畏るべき神秘の集積である。

 

「arr……」

 

 騎士の支配下に置かれた機関銃。

その銃口から光が迸る。

鉄の焼ける匂いが周囲に漂い、硝煙が霞んで棚びいた。

絶え間なく銃口から吐き出される弾丸は実に三十を超えて、その全てがしゃがみ込むツルギへと撃ち込まれていく。

 

k……arr……ッ!」

 

 撃つ、弾く、穿つ。

ひたすらに、けれど確実に。

死に体となって倒れ伏す少女の背中に向けて念入りに弾丸は撃ち込まれ、引鉄は止まらない。

ワンマガジンを撃ち終えても留まる事を知らぬ、純然たる殺意。

真っに染まる狂気の中で冷えた指先だけを動かして、騎士は引鉄を弾いては血化粧を柔肌に穿ち込んでいく。

止まらない、止まることは決してない。

たった一人を殺したところで騎士の歩みは止まれないのだから。

 

 狂気に堕ちた騎士は、最早かつての面影を()()()のだ。

正しく清廉であった彼はもういない。

ここにいるのは餓鬼の如く飢え痩せたただの怪物。

裡より迸る狂気に酔い浸りながら、現実から目を塞いで少女を甚振り嬲る事も良しとする悪漢である。

そうでなくてはならないのだ。

そでなくては悪鬼は務まらないのだ。

 

 引鉄を弾く音が軽くなった頃には、ツルギはアスファルトを舐める形で這いつくばって地へと伏せていた。

受けた背中の傷からは溢れんばかりに血が流れていく。

誰が見ても頷かざる得ない決着。

キヴォトスの生徒であろう見紛う事なき致命傷。

剣先ツルギは此処に、敗北した。

 

「───⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

 

 なおも嬲るか、悪漢よ。

誰もいない住宅街にがしゃりと、鉄が地面を打つ音が短く流れた後、鈍い音がした。

打ち切ってしまった機関銃を惜しみもせずに騎士は放ってから、騎士の爪先がツルギの脇腹を突き刺した。

 

 足蹴にされてなお、声はなかった。

蹴り上げるようにして傷口を下へ向けられ仰向けとなったツルギは空を仰ぐもその瞳は暗く沈んでいる。

再度言おう。

剣先ツルギは、トリニティが誇る最強の盾は敗北したのだ。

血溜まりに沈むツルギの身体の横をすり抜け歩き出す。

 

 騎士は、人気のある方へ向かって進む。

決着は既に遠く後ろへ、一騎は静かに夜の帷を縫う。

行き先なぞ決まっている。

すべき事もまた定まっている。

百合園セイアと⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の抹殺、それこそが騎士に与えられた役割であり勤めなのだから。

本来ツルギとの交戦はどこまでいっても無駄な作業でしかなく、ツルギが凶弾に倒れ伏した今、元の役目を果たす以外の機能も思考も騎士にはない。

 

 ただ、殺す。

なんの罪もないか弱い少女を、英霊に至るまで語り継がれた逸話の象徴たる宝具を以て確実に首を刎ねて殺さなくてはいけないのだ。

そこに善悪はない。

ある筈がない。

たとえ。

 

───ばい、ばい……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

 たとえ、それが愛した時間を裏切る行為だったとしても。

騎士は勤めを果たさなくてはいけない。

徹頭徹尾の邪悪を。

狂気を孕んだ⬛︎⬛︎衝動を猛らせ、幼き少女達の首を手折る。

青き春を凌辱し尽くす唾棄暴虐たる邪悪を担う悪鬼として。

それだけが騎士の誓い。

三千世界に生きる全ての生徒を殺さんとする悪しき聖杯の傀儡となる。

その為に生きて死ぬのだ。

 

「……kar……」

 

 それに、だ。

百合園セイアは騎士の霊核に刻まれた存在意義(罪咎)にとってあまりにも無視できない存在であった。

もしかすれば聖杯に辿り着き兼ねない、未だ揃う事のない欠けた欠片(chip)を除けば間違いなく、その本質に刻まれた残滓は無視するには余りある危険性を有していた。

殺さなくてはいけない。

確実に、無慈悲に。

触れさせてはいけない、真相に。

茹って何も見えない思考の奥底で唸りを上げて嘆く甘い憎悪に脳を焼かれる感触を無視しながら騎士は歩みを進めていく。

全ては殺し尽くす為に。

主命を叶える為に。

歩いて、歩いて、そして。

 

 

 

 振り向くことなく別れを告げるように挙げた左手の甲で、遥か後方より飛来した兇器を弾き落とした。

 

 

 

「───⬛︎⬛︎、⬛︎」

 

 げに恐ろしきは()()の威力か、それともその勢いすら完全に殺して流す武練か。

無論の事、両方。

 

 突然にして恐るべき急襲。

けれど騎士に侮りも驚きもなかった。

あるのは感慨。

受け流してなお己の手甲に受けたその感触に。

否、鎧さえ貫いてなおその下の骨すら砕かんと響く恐ろしき衝撃に。

驚く事はなく、けれど幾百の戦場を越えた勇士の顔が兜の奥で初めて歪む。

手甲についた()()が、風に攫われる。

 

 

 

るるルるるルるぅぅ……

 

 

 

 そう、騎士を襲ったのは銃弾ではなかった。

音もなければ気配もなく、ましてや銃声すら聞こえない。

となれば()()()()()()()のは言わずもがな、瓦礫の破片。

真っ当な人類の膂力を大きく越える広背筋が齎す破壊力は壮絶の一言だろう。

 

「……はぁぁぁぁあっあっあっ……あ゛ぁ゛あはぁ

 

 だが、然もありなん。

原始の時代より変わらぬ人類が身体に備えた武器。

爪も牙もなければ、二足という不安定かつ非合理極まりない歩行法。

あまりにも脆弱な彼らがなぜ、霊長と呼ばれるまでに至ったか。

 

 一つは、文明。

立ち上がった事で手にした重く大き過ぎる頭蓋は思考し、祈り、想像する機能を人類に与えた。

空想を描く事が出来るという唯一無二の特性はいずれ成長し、文化を発達させる為の考える力へ長じたとされる。

ならば、もう一つは何か。

 

プレぇぇぇぇぇイぃぃぃぃ……

 

 上体を常に起こした完全二足歩行が成立させた引き絞り放つという単純な動作こそが人類最古の兵器。地上の生物を悉く駆逐し自らの生存圏を広げ、霊長の座に至った武力の象徴。

牙も爪も持たず腕力も脚力も手放した上で、知性と共に人類が手にした始まりの闘争技術。

飛ぶのでも走るのでも、ましてや牙を剥くのでもない。

人類以外のどの生物も有さない、空へと手を伸ばして遠くへと届けるための技術。

 

ボオオォォォォォォルゥゥ───ッ!

 

 

 

即ち───()()

 

 

 

「……ar」

 

 腕より長く、脚より遠く。

人類の叡智が生み出した一番最初の発明にして野蛮なる獣性の発露。

大胸筋、ローテーターカフ、広背筋、 背筋、腹直筋、内外腹斜筋、 腸腰筋、大腿四頭筋、大腿二頭筋、大臀筋、ふくらはぎ、 ハムストリングス。

数えるの馬鹿らしくなる数の筋肉領域を有無を言わさず総動員する究極の多関節運動(コンパウンド・マニューバ)

最新鋭の武器を備えた古代の騎士を相手取るにあたって今を生きるツルギが選んだ手段は、投擲という原初の選択肢。

 

「まぁぁずぅはぁ……スゥトレェェェイトォォォォォッ!

 

 騎士との闘争で砕け剥がれた外壁。

拳大のコンクリートを投げる、投げて殺しにかかる。

単純極まる質量攻撃は原始より変わらず効力を発揮した。

シンプル故に誤魔化しはない。

たかが投石と侮るなかれ。

我らが先人達はそんな石投げで時に巨大な生物を狩り、時代が進めば城さえ落としたのだ。

 

「投ぅッあぁぁッ!」

 

 投石攻城兵器(カタパルト)

全身の筋肉が絶叫と共に一つの機械的最適解に至る。

フォーシームから撃発(リリース)される飽和攻撃は息つく暇もなく、ツルギの振り抜かれた腕に導かれて騎士へと襲いかかる。

 

「gi、ii……ッ」

 

 再度言おう、たかが石投げ。

されど、一発の弾丸がそうであるように瓦礫には微小だが騎士が無視できない神秘が宿っていた。

まるで神秘溢るる土地はツルギの味方をするかのように。

貴き神聖を宿す彼女の暴威を支えんと、キヴォトスの大地が、大地より削り出された石が、地中より汲み上げられた脂が。

勝てと、こんな阿呆に負けてくれるなと、頼むからもうこれ以上傷つけないでくれと、だからお前達が勝って生き残れと、そう祈っているかのように。

彼女が手にして()()()()()()()()()()()()全ての質量には神秘が宿っていたのだ。

 

「しぃぃぃぃいんかぁぁぁぁあッ!」

 

 土色の彗星は砲弾にすら並ぶ猛威を得て空間を穿つ。

反撃を許さぬ傲慢不遜な凶つ星の軍勢は堕ちた大地に自身よりも大きな孔を作るほど。

瓦礫の大小はあれど、どれか一つでもまともに当たれば深手を与えられる機会に繋がる。

歴戦の騎士がそう判断した程の猛攻。

故に騎士は正面を向いて跳躍し、走り、時に耐える。

両腕を交差して霊核を守りながらの後ろ走り。

三十秒にも満たない天王山。

 

「ちぃぇぇぇぇええんじッ!」

 

 ジリジリと縮まる彼我の距離にして50mが彼らにとっての致命判定領域(ストライクゾーン)

ピッチャーズマウントは常に移動しているのだ。

何故、ツルギの手の持つ瓦礫が尽きないか。

何故、走りながら姿勢を崩す事なく手に瓦礫を持てるか。

両者が打ち砕いた壁の破片はとうに投げ切っている。

ならば今彼女が手にしているのは何か。

()()()()()()()()()()()()()

 

「ぁあああぁぁぁあッぷぅぅぅぅぅッ!」

 

駆けたるために踏み込む一歩。

ただ走るだけで足裏はアスファルトを砕く。

足裏を用いた破砕。

破壊行動(踏み込み)によって吹き飛び浮き上がった破片をキャッチアップ、そのまますかさずと投げる。

ただそれだけの話であった。

 

デェッドッ!ボゥォォォォォォルッ!

 

 つまりだ。

ツルギが走れば走った分だけ残弾が増える、そういう寸法であった。

 

「投ぉぉぉぉお射ぁぁあっじゃっじゃっ邪ァッ!」

 

 さらに150秒。

両者最早、退路も進路もなかった。

コンクリート壁をぶち破り、アスファルトを荒らし、家屋を薙ぎ払いながら道を広げて戦場(マウンド)を作り上げていく。

剣先ツルギ()()()破壊を伴う制圧戦術。

嵐の如き勢いは殺意の礫を撒き散らしていく。

 

「しょぉォォオッ、羅───ァァッ!」

 

「……ru……i……」

 

 激しさを増すツルギからの攻撃。

鉄柱で撃ち返し、打ち砕くことで捌く。

だが本塁打には至らない。

騎士が、古き時代にあって最高とまで謳われた男が打ち返せない。

如何に長大な円柱を握っているとはいえ騎士の腕前でも肉骨を喰らう殺傷能力を宿した瓦礫を、壊さずに、それでいて自身が傷付かずに防ぐには丁寧な振りが必要。

だというのに、それが出来ない、させない。

それほどまでの矢継ぎ早。

長大なポールで捌いている現状すらあり得ないの一言で片付けるには余りあるのは騎士の技量の高さを物語る。

 

 とはいえ飽和攻撃を前にして、騎士のそれは決め手に欠けた。

機関銃ではとてもやり合えない戦場。

必要なのはツルギからの猛攻すら凌ぐ()()()()()

ならばと騎士は()()を取り出した。

 

「……はぁぁぁ、あはぁっ」

 

下段投擲(アンダースロー)を振り抜いたその最中にツルギもまた()()を視認して熱い吐息と笑みを溢した。

 

「……ar、rrrrr

 

いつだって戦争は新兵器の登場によって旧世代を駆逐する。

ならばこれも必定。

これにて攻守は逆転と相成る。

 

「きひぃっひっひっ……ォォォォいィィッ!

 

次なる第二幕(イニング)は。

 

arrrrr……ッ!」

 

騎士が取り出した 航空機載20mm口径機関砲(JM61A1)の号砲によって開戦した。

 

 

 

 

 

 

 

Bullet , and Youth

EXTRA BATTLE 2/3

 

 

 

 

 

 

 

 攻守は逆転した。

追う者は騎士に、追われる者は少女へと役割が入れ替わる。

キヴォトスで流通しているミニガンより遥かに巨大な機関砲による掃射はツルギが放った砂礫の雨を悉く打ち砕いた。

正面から迫る毎分6,600発の 鋼鉄の嵐(20mm口径弾)

操る騎士の腕前もあってか驚くほど正確にツルギへと迫る。

 

「(上手い。うちに欲しいぐらいだ)」

 

 足を止めるなぞ以ての外。

ほんの僅かにでも擦れば皮も肉も骨まで抉られるのを想像するのは容易。

致命傷に至らずともほんの刹那、痛みに気を取られてでもすれば、足元どころか半身丸ごと掬われる。

だというのに。

 

「(おまけに弾薬も無尽蔵。益々惜しいな、この人一人で予算が丸ごと浮くというのに)」

 

 残弾なぞ何一つ気にすることなく、散らす為に左右への連続回避先へ正確に()()にくるのは、枯れる事なき弾丸の群れ。

無限の弾丸と機関砲を軽々と片手で操る腕前。

銃社会であるキヴォトスにおいて、否。

銃があまりにも身近で銃撃戦が日常であるキヴォトスに身を置くからこそ、剣や槍での合戦を見るより遥かに騎士の異質さが浮き彫りとなる。

その事実を前にしてツルギは、どこまでも冷静であった。

 

「(……しかし、随分血が抜けたな)」

 

 これが宝具、これが宝具による負傷。

ミレニアム自治区で規制されている拡張弾頭(ダムダム弾)ですら酷い内出血程度だというのに、騎士の射撃はツルギの守りも強靭な肉体をも撃ち貫いた。

 

 射入創十二箇所、射出創八箇所、皮下組織挫傷五十二箇所、背部浅達性Ⅱ度熱傷、右肩甲骨亀裂骨折、左右第二から第七肋骨完全骨折。

素人が診ようと、口が裂けても随分などとはとても言えない重体。

 

 通常の人類であればまともに呼吸をして歩いているだけで奇跡、ましてや戦闘行為ともなれば最早御伽話の類。

それは如何に頑強かつ銃弾自体に耐性のあるキヴォトスの生徒であっても変わらない。

立って戦うなぞ夢のまた夢、あり得ない話。

だが、だがである。

 

「(頭も冷えた。おかげでよく見える)」

 

 剣先ツルギはその あり得ない(現実)を捩じ伏せる。

 

 がりりと噛んだ気休めの造血剤を飲み込みながら、翼をはためかせて少女は風となった。

転がり込むのは手近な邸宅。

跳ぶのすら面倒と外壁をぶち破り、庭へ転がった先に既に狙いを定めた弾丸が迫る。

それを宙返りで避けながらそのまま窓硝子へ。

 

「チィ……ッ」

 

 破片で薄く頬を切ったかと思えばそれを気にせず屋内へ駆け出す。

そうしなくては機関砲の脅威から逃れるなぞ無理なのだ。

そもそもキヴォトス広しと言えどツルギと同じ状態で戦闘が出来る生徒は僅か一握り、その内でも常と変わらぬポテンシャルを万全に発揮できるとなれば剣先ツルギを置いて他にはいない。

今こうして走って逃げている事自体が異様の光景。

事実、頬だけでなくツルギの足跡は滴る血で赤く跡を残しているのだ。

 

「鬼さぁぁんこぉぉちらぁぁああああッ!」

 

 だがそれこそ剣先ツルギの特異性。

荒々しい戦闘スタイルを実現させる飛び切りの天賦の才。

キヴォトスの全生徒の中でも群を抜いた自然治癒力(ホメオスタシス)

簡潔に述べるならば───回復力である。

 

 より正確に言うならば極限状況下での生理機能の活性化。

もとより頑健かつ屈強な肉体なのはさることながら、怪我を受けた際の線維芽細胞や表皮細胞といった傷を治す働きが通常の人間より格段に()()のだ。

それを一度目にした少女は嘗てこう言った。

『怪我した側から治り始める』と。

 

 聖園ミカとはまた違う形で、そしてキヴォトスの強者らしく、ツルギもまた生物としてのステージが一段階上にある。

現に今負っている怪我も、その皮膚の下では血小板は血を粗方止め終え、既に毛細血管がその指を伸ばし始めている。

規格外の自然治癒力。

特異すぎる生物由来の()()()()がツルギの強さを支えるのだ。

 

「(しかし機関砲か、聞いていたサーヴァントの宝具とやらとは様子が違うが……ああ、いや良い。瑣末な事だ、私が真面目に考えるだけ無駄だな。そういうのは得意な人間がすれば良い)」

 

 空対空機関砲の暴威を住宅そのものを守りにして避けながら、壁を突き破って更に次の家へと飛び移る。

この一帯の避難を既に完了しているからこそ十全に、良心の呵責一つなく取れる戦法。

環境を破壊しながら自分にとって都合の良い形で戦いこそ、ツルギの得手であった。

負傷し攻め手まで譲っている形とはいえ、ツルギの動きに澱みはない。

そして視界(思考)もまた決してブレず、超高速の夜間戦闘と騎士の宝具(迷彩効果)にも惑わされない。

 

「(身長は190cm前後、体重は目方だが鎧抜きなら90kgはないな……ハスミよりデカいな、おまけに重い。酷い肉だ、質の良さはミカ様のそれが一番近いのに、私より鍛えてある。おまけに前腕の重さ)」

 

 見抜く。

通常の聖杯戦争で魔術師のマスターがそうするのとは訳が違う。

古関ウイがそうするように、宝具やスキルから伝承を辿り真名を探っていく基本的(スタンダード)な手法。

それとは全く別種、自ら戦場に立ち武をぶつけ合い、そうして相手の体格や筋量を探って武練を量る。

マスターのソレではなく、武人の観察眼。

 

 ほんの少しの交戦だけで、大凡ではあっても騎士の全貌に迫りつつある。

本人は血が抜けたから冷静に判断できただけというが、それが出来るのは剣先ツルギという少女の才覚(センス)とこれまで培ってきた膨大な戦闘経験、それらを元にした上で具に現状を観察して判断出来る情報処理能力あってこそ。

剣先ツルギはただ腕っ節が強いからトリニティの武力を任せられたのではない。

広く周りを見れるからその視野があってこそトリニティの軍事力そのものを統括する立場に選ばれたのだ。

 

「(筋肉のつき方が私達と全く違う。恐らく棒振り……いや、あれが剣士の腕か。面白いな、現代戦とはこうも肉体の発達からして違いがあるわけだ。それに喃語もどきの唸り声の割には知性もある、ただの阿呆というわけでもない。そして銃の腕前は……言うまでもないか)」

 

 銃を撃ったら穴が開くというのなら、ツルギが今置かれている状況はそれこそ嵐の中だとでも言うのか。

家屋を紙屑のように吹き飛ばして蜂の巣どころか土砂崩れ跡にして見せる砲撃を建物を盾とし回避を続けて凌ぎながら、ツルギの思考は深まる。

 

「(おまけに銃も厄介だがやたら守りが固いのも面倒だ。小粒じゃ()()のに骨が折れる。かといってスラグ弾の残りも気になる……用意した 弾薬の半分(散弾)が無駄になったのはデカいか……)」

 

 単純な話だが、散弾銃と機関砲。

状況に応じて利があるのは、などという机上の話は今ツルギが直面している事態では出来ない。

真正面からぶつかろうものなら、どちらに分があるなぞ分かりきった話。

現に今、ツルギは()()()()()()()()()()機関砲の掃射を前に防戦を強いられている。

その事実に顔を顰めたタイミングで轟く低音とは違う、濡れた高音が背中越しに鳴いた。

 

「(今ので最後、全部抜けたな……しかし面倒だ。 相手の得意(近接白兵戦)をやりたい訳じゃないがこのままじゃ埒が開かない……失敗したな、こんな手合いと分かっていたらハスミに残ってもらうのも択だった)」

 

 傷を塞がんと盛り上がり始めた肉によって体内より排出率され背中から溢れた銃弾を拾ってしげしげと見つめてからツルギはため息を吐き、次の瞬間には隣の家へと駆け出した。

 

「(また修繕費が嵩む。臨時予算の当てはあるが、あまり無駄にするのもセイア様はまだしも)」

 

 一歩目、壁を突き破る。

二歩目、見抜いていた騎士の砲撃がその空間を塗り潰すように襲い掛かるのを跳躍。

 

「(ナギサ様からお叱りを受けてしまう。上手い事、全て使い潰す前に)」

 

 三歩目、富裕層特有の無駄に広い邸宅の芝生を踏み込みで陥没させる勢いをつけて地を滑るように駆ける。

 

「(───()を打って出る、か)」

 

 四歩目、追い縋って迫る弾幕を左右に振って狙いを散らす。

 

えすッ!でぃィッ!じぃぃィィイずッ!

 

 叫びと共に進んだ五歩目で跳躍。

空から落ちる小雨を引き裂いて宙で無体となり、迫る弾幕と爆風の()()()()()翼で受ければ。

 

「……効くな、やっぱり」

 

 20mm口径弾4発を受けて吹き飛ばされた勢いで、羽根を撒き散らしながら邸宅の2階へと窓硝子を突き破って入り込めた。

 

「ふぅぅぅ……よし、治った」

 

 奥歯を噛み締め静かに息を吐く所作。

空手の息吹と呼ばれる技法にも似たそれで翼に受けた開放骨折のダメージを()()し、ツルギは首を鳴らす。

暗い羽根と突入した勢いの衝撃で散乱した部屋をざだと見渡し手当たり次第に使えそうな物を物色する。

理由は音を聞けば分かった。

 

「(……止んだか)」

 

 牛舎の肥溜めにでも叩き込まれたかと思うほど煩く鳴いていた銃声が一つも聞こえなくなった。

外からツルギが感じていたどす黒く捩じくれた殺意も今はしんと静まり返る。

引き出しを漁り、ガンロッカーを素手でこじ開け、必要な物を揃えていき。

 

「(なら相手も同じ、私と同じ結論に至った……つまりは、だ)」

 

 敵もまた遠距離からの砲撃ではどれだけ弾を消費してもツルギ相手には埒が開かないと判断した、そう悟り少女は部屋の中央で立ち止まる。

己の分以外聞こえてこない呼吸を整え、愛銃にスラグ弾を装填し直し、僅か1分足らずの間で見つけたつの道具をスカートのポケットに捩じ込む。

 

 準備は、今整った。

ツルギは廊下へと通じているであろう洒落た扉を正面に見据える形で、目を閉じて立ち尽くす。

 

 一秒か、十秒か。

一人分の呼吸音だけが響く昏い一室。

先程までの闘争が嘘のように静まり余韻が夜の暗がりに吸い込まれていく時間は。

 

嘴ィィ───ッ!

 

「───arrrrrrr!

 

()()()()()()()()()と共に唐突に終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代、そしえキヴォトスで剣は術理も含めて最早過去の異物(遺物)だ。

対刃物と言えば包丁やナイフ、精々が刃渡り30cm程度までを想定するのが現代戦闘術の基本となる。

つまりだ、一般家屋にそれ以上の刃物は()()()()()()()()()なのだ。

包丁やナイフはあっても刀や剣を備える家屋なぞたとえ豪邸を構える家であっても珍しい、そもそも購入する機会も場所も一般的ではない。

好事家なら、或いは美術館か骨董品店にでも押入り強盗でもすれば話は別だが、基本的には刃渡りが腕ほどもあるような、そんな騎士達が振るうに値する武器足り得る物は。

 

「(あるわけだ、ここに……ッ!)」

 

 否、ある。

絶叫を挙げて己を主張する兇器は確かにキヴォトスに存在し、()()()()している。

 

「げぇぇぇはっはっはっはっあぁああぁッ!」

 

 退路も進路も封じる為か。

部屋の扉を壁越し引き裂いて現れた騎士からの急襲。

迫り来るは()()()()()

狂気の黒染めを這って真紅に脈動する筐体と刃は、目にすることは少なくともホームセンターのような誰しもが足を運ぶ場所では当たり前のように並ぶ。

 

()()()()()()()!救護の一年かッお前はァナァッ!?」

 

 小型2ストロークガソリンエンジンを搭載した動力工具の一種であり、林業や製材業で用いられる超高速の刃。

ごく普通に流通している、刃渡り500mmのガイドバーに支えられて回転する鎖で大木すら両断する現代の剣。

 

───カゼヤマ社製回転式鎖鋸(チェーンソー)

 

 登場してから100年以上世界に貢献してきた現代技術の叡智が今、千年以上前の騎士の古めかしい古流剣術を元にして唸りと共にツルギへと向けられていた。

 

「……a、rr……!」

 

 机が、()()()

壁が、()()()

ベッドが、()()()

剣閃が奔る度に須くが無惨に断末魔を挙げて両断(きれ)る。

 

 名剣、魔剣の類とは違う。

ただ高速回転する事によって最低限の力で最大限に効率化が図られた 科学の名刀(チェーンソー)

それなりに広い筈の部屋に逃げ場一つ許す事なく片手で悠々と振るわれる太刀筋。

宝具化に伴い()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()刃は、一度でも触れれば肉も骨も抉り裂いて赤い花を咲かすだろう。

ましてや担い手は歴戦の猛勇、狂気に閉じこもった騎士。

重心の狂いなぞ何一つ瑕疵とせず、チェーンソーに合わせた引き裂く剣技を披露する。

ならば何故、手負いの剣先ツルギは未だ生き残っているのか。

 

「はぁぁぁくッ兵戦だぁぁぁアッ!」

 

「……ッ!arrrrr!」

 

 悪魔の呻きに天使が品の良い交戦の意思を示して、昏い部屋に火花を散らす。

ツルギの右手。

白銀に煌めく鋼鉄の()

刃渡り15cm足らずの小振りなソレこそ、彼女が見つけた一つ目の探し物。

古めかしい外見。

高価な調度品らしい無駄に凝った装飾。

頼りないまでに細い刃。

今では殆ど見かけない、使われない無駄の極み。

チェーンソー持つ騎士を相手取るには役不足な骨董品の銘は───ペーパーナイフ。

 

「(嗚呼糞、重いな。鎧の隙間越しにでも差し込んでやるかと思っていたが……想定内とはいえこれは流石に私でも堪える)」

 

 掠り当て(グレイズ)

鎖鋸と刃引き短刀が火花を散らしては幾度も交わりぶつかり合う。

入り込んだ部屋が書斎兼寝室だったのが幸いして見つけることが出来た文房短刀具。

近接戦闘用では決してない刃が今、ツルギの胴や首を狙って放たれる唸りを防いでいた。

先端こそ鋭利な流葉形状だが、ペーパーナイフに刃は磨られていない。

握りも申し訳程度。

弱く、軽く、心許ない斬り合いに向かない骨董品。

当然だ、ソレが切るのは書簡。

人を斬るどころか鍔迫り合いなぞ想定外。

騎士の猛攻を防げる筈もなし。

 

「嘴ィィィィ───荒ァッ!」

 

 だが忘れるなかれ。

此処にいるのが誰なのか。

誰がペーパーナイフを手にしているのかを。

 

「埋め尽くしちまおうぜェッ!わァッぴィィィィィィイッ!」

 

 ナイフ術は現代戦闘術の必修科目。

ならば出来るのだ。

剣先ツルギなら出来るのだ。

たとえその手に持つ古き鋼だとしても、担い手が正義実現委員会という組織化された治安部隊の頂点に立つ彼女ならば。

脈々と受け継がれ、多くの先人達が体系化してきた技術と経験を日頃の訓練によって継承した生徒達の中から選ばれた剣崎ツルギならば。

僅か数合、束の間とはいえ鋼を折る事なく防いでみせるのだ。

 

「ばぁぁらめけェェェッ!」

 

 刃が閃き白銀と赤き熱を翻す。

一合ずつに鋼は悲鳴を挙げていくのはツルギも承知の上。

故に、幸運だった。

 

「わッ!ピィィィィィィッ!」

 

 騎士が手にした武器がチェーンソーだった事である。

チェーンソーは切断機であるが本質は切るではなく抉り割く事にある。

鎖鋸とはよく言ったもの。

縦刃は鑿、横刃は鋸。

両刃を備えたスプロケットを高速で回転させる事で抉りだした切り込みを割いていく仕組みは確かに凄まじい切れ味を発揮する。

だがあまりにも()()()()()()()

 

キィィィックッ!バァァァァァックッ!

 

 刺突。

光明が闢く。

ツルギの一振りは最後の一合を交えた後に目にも届かなぬ早さで放たれた。

一瞬の事故はその時起きたのだ。

 

「gu……arrッ!?」

 

 ───反作用(キックバック)

チェーンソーという工具における最大にして最も重篤な事故である。

刃筋が立っていない、鋸刃の劣化など様々な理由が存在する中で今回の原因はわかりやすいだろう。

ツルギが放った刺突に導かれた短剣の鋒。

やや丸みを帯びながらも人体を貫くには十分な鋭利さを宿した先端が、回転するスプロケット機構()()()に突き刺さった。

 

 まさに超絶技巧。

閉所での騎士との斬り合いの最中に研ぎ澄まされた全神経は開眼し、構造上5mmほどの隙間を設けられている回転する刃節を確かに貫いたのだ。

 

「───げひッ」

 

 起こるは反動。

当然回転が止まった刃に残っている運動エネルギーは行き場を失い、反発し、振り抜いたその騎士の膂力諸共反転する。

結果は、全ての運動エネルギーを溜め込んだ宝具の刃が騎士へと跳ね返ったのだ。

 

「gi……iiiッ!」

 

 最優と呼ばれた騎士に()()()()()()()

それは狂気に浸る白痴を許しているからか、それとも赦されぬ憤怒に身を焦がす獣性に心を預けて揺蕩うからか。

 

 いずれにせよであった。

凡ゆる武器を初見で使い熟し支配下に置く宝具を持つ彼をして、そんな彼の膂力と異能を全て受け止めていたからこそ。

一瞬の攻防で起きた()()は交わしきれず、超絶的な反射神経で避けようと退がった彼の左半身を鎧ごと噛み砕いた。

まるでチェーンソーがそうしたいと言うかのように鋭く、惨たらしく。

血潮と共に火花を散らして黒騎士は()()()()()()()()()()()扉まで後退する。

 

 そして、そんな好機をこの少女が見逃す筈はない。

 

「バァァァァァッハッハッハッハッハッ!」

 

 騎士が蹈鞴を踏んだのとツルギが駆け出したのは、後者の方が気持ち半分、速かった。

仮初の主人から一人離れて宙に投げ出されたチェーンソーの持ち手を握る。

黒豹を思わせる身熟しは跳躍に近かった。

手に取ったチェーンソーを振り上げ、体勢を崩した騎士目掛けて振り下ろす。

絶対絶命とはこの事であろう。

落下に合わせた加速を伴う質量(斬撃)は、思わぬ事故で負傷し衝撃を与えられて騎士へと───。

 

 

 

「⬛︎⬛︎……」

 

 

 

 なれど届かず。

誰がこの地で知ろうか。

剣先ツルギほどの強者が大上段から振るう一撃。

音すらとうの遥か後方へ置き去りにする剣速。

それを防いでみせる武の極みが世界にはある事を。

 

「───⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎」

 

 無刀取り。

遠き東方の地で奥伝とされる、自身へと振るわれた剣撃を両手の平を重ねて押さえ込む妙技。

低ランクとはいえ宝具による負傷を負った中で全くの翳りを見せない技の冴えが閃いた。

膂力で言えば狂騎士に軍配が上がるのだ。

膝をついて三点で支える騎士の姿勢もあって押し切れず、既に刃は捉えられた以上はこのままいけば形勢はまた逆転する。

ツルギの渾身の一撃は完全に抑え───。

 

 

 

 

 

「───めるなよ、騎士(ロートル)

 

 

 

 

 

られる筈がない。

 

「gi、ga、a……arrr!?」

 

 ツルギの着地。

同時に更にとツルギは力を込める。

ミカと同じ、有翼の生徒特有に発達したしなやかな背筋と大臀筋が漲る。

なおもまだ騎士の方が上とはいえ、ここに来て更に力が上がる状況は慮外。

予想を見誤らせたツルギの膂力は、狂った騎士の思考に小指の爪ほどの思考の逡巡(余白)を生んだ。

 

 だが、まだ足りない。

まだ形勢は逆転しない。

たとえツルギの手に持っているチェーンソーが宝具化していようと、そもそも押し切り込むだけの要因がまだ欠けている。

ならば、どこから持ってくるか。

 

「まぁッだまだァァァァァァァァァ!」

 

 決まっている。

ソレ自体が動けばいいのだ。

 

「斬ィィヱェェェェェェッ!」

 

 それはもしかすると奇跡だったのかもしれない。

止まっていた筈の動力。

宝具化しようと確かに働いた安全機構によってペーパーナイフ(異物)が差し込まれたことを契機に止まっていた回転刃。

それが今再び、ツルギの意思に応えるかのように息を吹き返す。

 

「(土壇場の逆転劇か……悪くない。だったら、だ。私に応えてみせろ)」

 

 回る、周る、廻り出す。

唸りはそれでこそと満足する歓喜の産声に似ていた。

噴き上がる重低音と共に雄叫びを夜半の住宅街に響き渡らせるや否や走り出した刃。

構造上、騎士が掌で挟んだのは幅広の刀身(ガイドカバー)だったからこそ、何に阻害されることもなく刃の回転は勢いを増す。

それに伴い、ツルギ自体にも力が加わるようにして刃は騎士の腕を押し返した。

然もありなん。

チェーンソーとは刃が回っている状態が正常に稼働しているということだ。

 

 つまり、だ。

今この瞬間、宝具化した物言わぬ機械は新たな主人を手にあって、共に戦う事を決めて最大稼働しているという事に他ならない。

 

「こんじょうぉぉッ……魅せろォォォォォッ!」

 

 そんな事は起こり得ないと誰がこのキヴォトスで道理を説けるというのだろうか。

此処はキヴォトス、神秘溢れる学園都市。

こんな分かりやすいほどに御膳立てされて説明が付くような奇跡を。

───うら若き乙女達の気概一つで起こせない道理はない。

 

「逝ィィィッ、けェェェェェッ!」

 

 気概は常識を超える。

想いの丈は熱量を伴う。

魂の咆哮に筋肉は躍動する。

結果を述べよう。

騎士の腕より、ツルギの背筋より、尚早く。

 

屈したのは、ツルギの目論見通り部屋の床であった。

 

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
ご無沙汰じゃんね☆……はい、ごめんなさい……遅くなりました……
と、とにかく更新再開じゃんね☆
詳しい今後についてはまた活動報告に!とにかく上半期での完結目指して頑張るじゃんね☆

とりあえず野球イべ期間中に今回のお話出す事が出来てよかったじゃんね☆
文字数限界突破してたから分割大変だったじゃんね……
ランサー戦はもうちょい短くなるじゃんね☆
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