阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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Ipomoea nil
山海経自治区に訪れた百鬼夜行の使節が種子を持ち帰ったのが始まりとして、百鬼夜行自治区で最も古くから愛され育てられてきた園芸植物の一種。
夏の早朝に鮮やかな花を咲かせる姿は優美であり、自治区を問わず夏季休暇の課題として花の観察が定番化しているなど、多くの学生にとって身近な存在。
種子にはファルビチンやコンボルブリンといった毒性を持つ一方、薬用植物としても用いられる。
花言葉は愛情、結束、あなたに絡みつく、安らぎに満ち足りた気分、そして。

───明日もさわやかに。



the battle is to the strong(3)

 

 落ちる。

一瞬の空白。

肩透かしのような間が破砕音と共に一拍置かれた後に、落下が始まった。

 

「(……晴れたか)」

 

少し前に、()使()()()()()()で吹き飛んだ暗雲の影響はついにツルギ達のいる郊外にまで及んだ。雨雲は遠ざかり、月明かりがついに硝子戸から降り注ぎ込む。

 

「(良い月だ、周りも見やすい)」

 

 豪邸らしく吹き抜けと錯覚するほど高い天井からの落下は 暫くの対空時間(約30秒)という名の猶予を与える。

無駄なほどに大きなテーブルの上に豪奢な燭台が備えられているのがツルギの視界に入る。

空中。

このままいけばツルギに押し込まれている騎士は燭台に向かって堕ちて、少なからずの手傷を負うだろう。

だが、そうならないのもまた、彼女は理解していた。

 

「(よく見えるついでに理解した。コイツは間違いなく私より強い)」

 

 目の前で押し込まれ続ける刃を屈強な両腕で防ぐ騎士は自分よりも遥かに()()()()()()()()()()だと。

そして、未だその底を、本来の得物を見せていないと。

ならばどうするか。

強く賢く、けれど未だ若く発展途上の剣先ツルギに何が出来るか。

 

「(手札の数が違う。踏んできた死線の数が違う。コイツは今までの盆暗共とは何もかもが違う)」

 

「arrrrッ!arrrrrrッ!」

 

 空中からの落下中、下手な攻防は一瞬で上下の取り合いに繋がる。

鎧を纏う騎士ならいざ知らず、背中の負傷も翼の骨折も完全に治り切っていないツルギが上を取られれば。

塞がりきらず開いた背中の傷をそのままに、燭台のあるテーブルへと堕ちればどうなるか。

貫通こそせずとも、もしかすれば内臓にまで先端は届いてしまうかもしれない。

 

 では、片手を離して銃撃を重ねていくか。

無理だ、落下中の空気抵抗で背後越しに手を伸ばすのはあまりにも大きな隙を作る。

白羽取りされる刃を上から押し付ける体勢が逆転したならば、今度は落下の加速ごと刃が剥く先は下にいるツルギとなる。

 

 ならば、ならばだ。

如何なる一手を打つべきか。

如何なる妙技を以て打開するべきか。

 

 そしてツルギの選択は、実に()()であった。

 

「(仕方ない───やるか)」

 

 ツルギはチェーンソーの前方持ち手(フロントハンドル)から左手を離す。

流れるような一瞬の動作は空気抵抗に邪魔されず、けれど所作の勢いを()()()()()()ソレは慣性に乗って応えた。

 

「……二つ目だ

 

 セーラー服の長袖。

手の内に滑り込んできた袖口に潜ませていた棒状のステンレス。

ペーパーナイフがあるなら、同じ場所にあってもおかしくないだろう。

ツルギが上の階に突入した際の短時間でかき集めた二つ目の()()()

ステンレス製のこれまた高そうなボールペンを。

 

「……⬛︎⬛︎ッ!?」

 

 ツルギは回転するチェーンソーの刃に差し込んだ。

瞬間、騎士の視界からツルギの姿が消える。

仕掛けは勿論ある。

やったことは先ほどと同じ、回転するスプロケットの繋ぎ目に異物差し込んでキックバックを発生させる。

違うのは、今回持ち手側にいるのがツルギであり、反動(キックバック)を起こしたのも意図的に彼女からであるということ。

 

 反動から振りかぶっていた右手は頭上へと跳ね上がり、その勢いに乗じてツルギもまた身体を丸めて廻る。

一秒にも満たない須臾の最中に回転運動が生んだエネルギーを解放するために。

 

瀉ァッ羅ァァッ!

 

  致死性蹴球前蹴り(サッカーボールキックバック)

その名の通り、寝転んだ相手の頭部をサッカーボールに見立てて蹴り飛ばす、ほぼ全ての格闘技において禁止指定される技。

それを振り子の要領でキックバックの反動で得た回転運動を乗せて、下にいる騎士の頭部に蹴り込む。

 

 然るに廻天。

騎士は頭部に受けた衝撃をそのままに受け身を取る事すら許されず、燭台の真上に叩き落とされる。

誰が見ても終幕。

決着へ導く見事な技前。

 

「(これだけやってもコイツは死なない)」

 

 

だが、歌劇は終わらず。

舞台の幕はまだ降りてはくれない。

蹴り上げた反動と折れた翼を酷使して一階の天井まで戻ったツルギは、床と騎士が衝突した際にからもうもうと発生した粉塵を見て確信していた。

足の指で握るようにして力を込めて梁にぶら下がってスターターの紐を蒸し終えた彼女は、奔る思考の早さに並んで次の一手の仕込みを始める。

 

「(死ぬ筈がない。次の瞬間には立ち上がったと思えばきっと次の武器を出す)」

 

 落下の衝撃で粉塵が吹き荒れる一階を天井から見据えた瞬間、ツルギの大腿四頭筋は悲鳴を挙げた。

限界まで張り詰め引き伸ばされるストレッチはまるで強靭なゴム。

蓄えられるのもまた、同じく絶大な膂力。

天井にぶら下がってしゃがむという異様な形で、ツルギは右手を大きく横に開く。

やる事は、まったく単純であった。

 

「(嗚呼、強い。私が相手してきた奴らの中でも白兵戦の技量も銃の腕前もピカイチだ。できる事なら真っ当な()()からサシで手解きを受けたかった)」

 

 貯める、溜める、蓄める。

力を、殺意を、迸る熱情を。

冷えた思考とは裏腹にどこまでも気高い、誰かを守るという義憤に満ちた激情を刃と全身の筋肉に乗せて。

ツルギは───今解き放った。

 

 

 

射ァァ───ァァァッ!

 

 

 

 有無を言わさぬ吶喊(チャージ)

差し向かうは黒漆の直剣。

否、剣先ツルギ。

自身の脚力を火薬にして、天井から一直線に粉塵のカーテン、その先にいる騎士目掛けて跳ぶ。

両脚に蓄えた脚力を発条のように天井を蹴って堕ちる勢いは、騎士が新たな銃や砲を取り出し狙いを定めて引鉄を弾よりも早く、チェーンソーの間合いへと舞い降りるのを予見させる。

 

 構え、そして間合いに入らば放たんす一閃。

振るうは技術もへったくれもない、ただ力任せに、けれど一切の太刀筋の揺らぎもない一文字である。

落下の加速を乗せて放つ横一閃。

吶喊し、右方脇構えから体重移動と腕の動きによる重心移動で放つ横薙ぎを想起させる突撃であった。

 

「……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎」

 

 だが、届かない。

届く筈がない。

大薙ぎが来ると分かっていたなら、騎士が迎え撃てない訳がない。

銃や砲よりなお手に馴染み、引鉄を弾くより、弾が届くより早く放てる武練が騎士にはあるのだから。

 

「……ハっ」

 

 今まさにツルギの視界の端に、既に体勢を立て直した騎士の右手に持った円柱がツルギ目掛けて振り抜かれるのが映った。

 

「(認めよう、サーヴァント)」

 

 惜しかった。

チェーンソーで騎士の首を刎ねる用意をしたとなれば、ツルギは刃が首に届くその間合いの直前まで振り抜く動作をしていない。

だから、ツルギが何かをする前に騎士の円柱が先に少女を捉えて、蠅でも潰すように叩きのめしてこの戦いは終わる。

それがこの一連の戦いの終幕になる自然な流れ。

 

「(お前は確かに強い、きっと多分私なんかよりずっと……だが)」

 

 高速化するツルギの思考。

走馬灯だろうか、最後に思い浮かぶのは仲間の声と姿。

 

───ッ。分かりました。此処は任せます……ツルギ。こちらの勤めは必ず、何があっても熟してみせます。だからちゃんと……ちゃんと帰ってきて下さいね

 

肩を並べる親友と今宵交わした別れ際の挨拶を思い出す。

分かっている、帰らねばならない。

帰ってこその勝利なのだから。

 

───ご武運をっす……大丈夫です、私らも頑張ります。だから安心して下さい、これでも私……貴女の後輩なんすから

 

少しやんちゃだが自慢の後輩の笑顔を思い出す。

分かっている、お前が頑張ってきた事を。

何一つ、疑いようもなく信頼しているのだから。

 

───正義を、貴女が背中で魅せて下さったそれを。まだ私は習っていたいです、だから

 

不安げにする年若い新入生からの言葉を思い出す。

分かっている、悩みながら邁進するお前達に行き先を。

だから、まだやるべき事があるのだ。

 

───い、いい行ってきます!ミレニアムに!あのその、留学……じゃなくて、私!友達を助けに……!

 

小さな身体を震わせてけれど力強い瞳で留学を申し出た少女を思い出す。

分かっている、あの子がしようとしてる事、しようと決めた事、言わなくてもなんとなく察していた。

だから、この地で帰りを待っておかなくてはいけない。

 

───はいっ!あの私、アビドスでも頑張ってきます!先生に、先輩方に教わってきた事を!ちゃんと!いつも通りに!

 

一週間前に見送った、今は遠い地で戦う少女を思い出す。

分かっている、初めての遠征に一年生ながら指揮を任されて不安と困惑があって、だけど奥歯を噛み締めて前を向いた勇気を。

苦手を克服し頑張ってる後輩がいるのを、その努力を知っている。

 

「(嗚呼、そうだな。そうだよね。だったら)」

 

 大切な友達の、後輩達の言葉と表情。

同じ正義実現委員会に所属して、同じように誰かの為にと日々励む同胞達のことを。

それを思い出してツルギは終わりを見届けるように筋肉と共に張り詰めていた表情筋を解きほぐし。

迫ってくる幕引きの確信を乗せた円柱(殺意)に対して末期を迎えるにはあまりにも似合わない、柔らかな微笑みを浮かべてから。

受け入れ抱きしめるように、その腕を振り終えて。

 

 

 

 

 

 

「───ばぁぁぁぁぁか

 

 

 

 

 

 

騎士の確信を嗤った。

 

「……giiiiiッ!」

 

 爆ぜる金属音。

ツルギの手に持つチェーンソーの刃と円柱が衝突する。

同じ宝具同士、砕けも壊れもせず。

故に鎖鋸は今度は確かに少女を守り切ったのだ。

 

「(今の私より強いのなら、話は単純(シンプル)だ)」

 

 そう、ツルギはすでにチェーンソーを振りかぶっていた。

当たり前だ。

ツルギの本命は最初から敵から奪った宝具なぞではない。

ここからの数秒がツルギの大本命。

 

「(今この瞬間にお前を、そして今弱い私自身も越えていけば良い。話なんて結局それだけだ)」

 

 宝具がぶつかり、その衝撃を殺さずまるで円柱を滑るようにして刃を滑らせ加速する。

振り抜かれ右方へと流されながら、右手を軸に身体を回転させてツルギは駆け降りる。

狙うは一つ。

吹き飛ばされる横方向に逆らう事なく滑らかに落ちて進めば、自ずと間合いは開くのだ。

ならばやる事(本命)は決まっているだろう。

 

「私はキヴォトスの学生だ」

 

 ()()

円柱を奔る最中に刃を捻れば、少女の身体は今宵三度目となる反動(キックバック)の要領で弾かれる。

円柱の間合いからの離脱と相成る動きに騎士は後手に回る。

奇策にして懐にまで潜り込んだ奇襲は成功する。

完全に宝具を使う風にしか見えない吶喊は、それ自体がただのブラフ。

騎士の魔の手から逃れ自由の身となった少女が構えるは()()

そうして振り向き様に放った2発のスラグ弾は。

 

 

 

「───なぞ手に馴染むかよ

 

 

 

騎士の胸部を今度こそ見事に射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 見事、騎士の胸部を撃ち抜き一階に降り立った天使。

その立ち姿は異様の一言に尽きた。

片手に銃、片手にチェーンソー。

一対の構えは千を超える学舎を擁するキヴォトスにおいてなお前例がない。

その痩身から血を垂れ流し、なれどぎらつき止まぬ煌めく紅眼。

黒い御髪を揺らす少女の姿は宵の辻路で狩りを勤しむ悪夢に似ていた。

 

 対峙する騎士もまた異様なソレであった。

全身に纏うは古めかしい全身甲冑。

だが手にするのは一対の銃火器。

どこから拾い集めたのか、トリニティでよく見慣れる2丁の自動小銃(L85A2)

一方は特徴らしい特徴もなく、もう一方にはアンダーバレルに擲弾発射機(L123A2)を備えている。

古風な騎士が銃火器を持つ姿はちぐはぐにも、娯楽小説のキャラクターのようでもあった。

 

 月明かりに照らされる一室で向かい合う両者。

仮に二人が物語の登場人物で、仮にこの場がただのワンシーンだったのなら。

どちらが主役でどちらが悪役か。

赤々とした眼光から気焔燃やし歯を剥き出して黒髪をざわめかせる黒豹の如き乙女。

赫然とする面貌の光から静かな吐息を漏らし鎧を微かに擦らせる偉丈夫の騎士。

言うまでもなく、特徴を挙げていけば後者を主役と捉える者が大半。

だが、この場に第三者がいたのならば話は別だろう。

違うのだ、放つ重みが。

 

 野趣な少女からは清廉なまでに強き自負と誇りが立ち昇る。

雨漏れの如き赤黒い流血で化粧をする身にあって穢れのない誇りが芯となって支えている。

故に、見た目ではない。

()()()()()()()()()()()()

彼女の誇り()が目の前の難敵を討ち倒す闘志に漲っている事を。

誰かの為に、命を賭ける(懸ける)覚悟に満ち満ちている事を。

 

 静謐なる騎士からは固着した泥濘の如き狂い果てた憎悪が迸る。

手負いであろうと芸術品の如き美しさを秘めた鎧の裡に濁り切った白痴の狂気を血肉として詰め込んでいる。

故に、見た目ではない。

()()()()()()()()()()()()

騎士の誇り()はとうの昔に踏み躙られてその手に握っていた筈のナニカはもう喪われている事が。

此処に居るのは死兵と化すまでの極大の絶望を他者に分け与える事でしか息の出来ない悪鬼でしかない事が。

 

 分かるのだ、両者の放つ空気から。

煮え滾る激情に似た闘志によって熱く少女の周りは焦げる。

煮詰まった悲嘆に似た狂気によって冷たく騎士の周囲は凍てる。

魔力でもなければ神秘でもない。

両者から吹き荒ぶ剥き出しの闘争本能が邸宅の一室を支配し、空間を捻じ曲げていると錯覚する程の濃密な空気を生み出している。

加熱し、冷却し、ぶつかり合い、ない混ぜとなり、反発する。

童の風船に千切れる寸前まで空気を注ぐが如く、焦れていく殺意。

膨張し爛々と張り詰めた空気は───。

 

 

 

瀉ァァァッ!

 

arrrrrrrrッ!

 

 

 

今、弾け飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

Bullet , and Youth

EXTRA BATTLE 3/3

 

 

 

 

 

 

 互いの咆哮は最早人のソレではなく、なれども野にある獣のそれでもなし。

啄木鳥を思わせるけたたましい銃声に並んで戦士の雄叫びが響いたのだ。

可憐な少女(剣先ツルギ)が何故喉を潰すほどに猛々しく叫ぶか。

狂した騎士(バーサーカー)が何故無意味な名乗り上げに似た咆哮をしたか。

理由は明白。

ひとえに、両者は理解したのだ。

 

「潰ゥゥゥゥすッ!」

 

 互いが銃口を向け合う相手が一角ならざる武辺者であり、この場この時に殺しておかねば必ず面倒になる、と。

死力を尽くして獲りに行かねばならぬ強敵だと、ここまでの戦いを通してはっきりと共通する想いを抱いたのだ。

故に、呵責も躊躇も踏み込む先にありはしない。

月明かりすら無情に返す火花の応酬が家主なきリビングを硝煙で彩る。

 

「(連邦規格……騎士だてらに使い慣れてるな。英雄だかなんだか知らんが、過去から甦った云々だというのなら銃の練度ぐらいは抑えてくれれば良いものを)」

 

 装弾数4発の散弾銃を軸にしたツルギの立ち回りは箱型弾倉30発の小銃を前にすると弾幕の量で言えば遅れを取っていた。

こちらの大粒弾(スラグ弾)より遥かに凌ぐ初速と伸びを有した 5.56x45mm弾(小口径高速弾)の疾風は苛烈なまでの鎌鼬となってツルギを襲う。

 

 重ねて恐ろしいのは避ける動きに合わせられた()()

矢鱈滅多な数撃ちではない。

囲うような精密な射撃はキヴォトスにおける中距離戦の手本を見ているようだった。

 

 銃弾が致命傷に繋がらないキヴォトスでの銃撃戦はイニシアティブの取り合いだ。

避けて、遮蔽物に身を隠して、撃ち返す。

人によっては銃の腕前よりも()が物を言うとまであるように、如何に 負傷の総量(ダメージ)を蓄積するかが基礎基本。

その為に狙いを定めた強烈な一撃(EXTRA)と同じだけ確実に削る技術が物を言う。

翻って騎士の技術は見事の一言に尽きた。

 

 武芸百般。

完璧なまでに銃器を操り用いる技量とそれに根差した戦術は豪邸のリビング程度の閉鎖空間、丸ごと全て必殺必中(キリングゾーン)へと変貌した。

指を数センチ動かす動作が今この瞬間ではなく次の、更にその次の一手に繋がる布石。

2丁の銃口を固めつつ僅かにずらす事でツルギが躱す先々を読んで銃弾を放ち終える。

遮蔽物足り得る壁を全て読んで跳弾を用いてすり抜けて襲わせる。

回り込んできたツルギが宝具(チェーンソー)の間合いに踏み込む時には既に半歩分足りない位置にいる。

避けて、遮蔽物に身を隠して、撃ち返すならば、避ける先を強要し、遮蔽物を無に帰し、無駄弾を消費させた上で撃つ。

美術館に納められるような古めかしい甲冑を身に纏う中世以前の騎士は、完膚なきまでに錬成された一流の兵卒のように現代戦の習わしを熟達し、精通していた。

 

「(しかし置きも上手いが……)」

 

 またも、間合いから外されるのをツルギもまた読んで次の流れを組み直しつつ、一本壁に立つ戸棚を蹴り飛ばす。

それすら読んで仕切り直しはさせぬと飛来した棚の木枠を空にした左手で掴み取り回転、そのまま投げ返す騎士に舌打ちを送る。

 

 再度、銃声。

壁と硝子に風穴を開けあう鉛の石投は余人が立ち入れば容易く肉片に変える死の遊戯。

銃撃戦の最中に砕かれた照明を跳弾で弾き、硝子片の鋒を礫として送りつけては距離を取りながら、ツルギは思案した。

今まさに兜のスリット目掛けて飛来した硝子片を、兜の飾り尾を巧みに操り流してみせた騎士についてだ。

 

「(何より反射神経が異常だな。技術の方は絡繰があるかもしれんがそもそもの資質が段違い。ミカ様と同じ、根っからの天才肌か)」

 

 騎士の技術にツルギは鼻白らむ。

自分の知る生徒をリストアップした際に真っ先に上に上がる少女と同じ、肉と骨、そして神経がヒトという生物の形に搭載できる中でも選りすぐりの高級品である人種。

ただただ純粋に人間という生物種の性能が高い。

純化された強さの理由に言い訳という逃げ道が存在しない個としての限界点(ハイエンド)

才能なんて言葉が陳腐に、努力なんて言葉が言い訳に聞こえる完成された 最上の天賦(エピファニー)

いるのだ、ごく稀にそういう人間が。

本当に時折、歴史上に綺羅星の如く現れる。

そして総じてこう称されるのだ。

───天才(バケモノ)、と。

 

「(おまけに聖園ミカ(あの方)と違ってどうやら()()()らしく練度も極まって戦慣れまで……ほとほと非才な己と比較して嫌になるな)」

 

 鍛錬も経験も必要とせず持ち前の才覚だけで強者に並ぶ天然自然の才能の怪物。

そんな、その分野の全てにおいて恵まれた天才肌がきっちり戦の作法を現代戦に応用できるレベルにまで備え、おまけに完璧な立ち振る舞いで常に戦闘を優位に運ぼうと(エスコート)してくるのだ。

いっそ嫌味にすら思える強さにツルギが呆れ返るのを誰が咎めようか。

 

「斬ィォ羅ッ!」

 

 いいや、いいや。

何を馬鹿な事をと、()()()()()()

叫びつつも内心では溜息を吐いて目の前の天才をツルギはつい羨みつつ、けれど少女は思索に邪魔される事なく迫ってきた弾丸を軽く鎖鋸で往なしていく。

自身目掛けて飛んできた無数の弾丸をソーチェーンの回転に合わせ、這わせ、滑らせて往なす。

挙句の果てに回転に這わせたまま跳弾させて撃ち返すなどという曲芸まで余技がてらに披露する始末。

宝具同士のぶつかり合いだから出来る、等という戯言は通用しない。

 

「チィ……ッ!」

 

 間違えてはいけないのだ。

剣先ツルギとて、そんな天才達に肩を並べてあまつさえ首を落としてのけるだけの、努力と経験を重ねた紛れもない強者なのだから。

 

「uuulululululu……ッ!」

 

 放たれた弾丸を刃節を以て往なし、あまつさえ跳弾を用いて返しながら隙間を縫って確実にスラグ弾で攻めるツルギ。

的確な弾幕を張る事で隙のない徹底した守りを維持して、さらには自身の機動性と感性によって確実に一手二手どころか十手先を奪わんと攻める騎士。

捨て身に近い攻撃的な両者の守りを軸とする鬩ぎ合いは一層の苛烈さを増していく。

 

 つい半刻前までは調度品に囲まれた品の良い高級住宅の一室は悲惨な様子。

足場すらへし折れた天井は元より、飛び交う弾丸とツルギの振るう鎖鋸によって、高い代金を支払ってまで施した防弾防爆加工の壁なんて物は初めからなかったように弾痕と裂傷を刻みつけられた無惨な姿へ変わり果てた。

一枚で中古車が買えるような値段の皿が悉く白い陶器の破片に成り下がる。

最早戦場は荒屋と称して誤りはない状態であった。

 

「(ああ、修繕費がまた嵩むな。胃が痛い……)」

 

 散々たる家屋の様子に愁眉となるのも止むなし。

如何に必要な()()、どれだけ潤沢な予算があるとはいえ組織を率いるツルギとしては極力無駄遣いをしたくないのだ。

無敵と名高い剣先ツルギは中間管理職だった。

ティーパーティ(上司)会計管理ソフト(予算)は怖かった。

だがそんな思考もなんのその、ツルギの動きは止まれない。

戦わねばもっと重篤な被害が出るのは目に見えていて、だから今も細かい隙をつけ狙い続ける。

 

「(敵と違って私の方は弾薬に限りがある関係上このまま中距離を維持し続けてもジリ貧。だが、もう最短最速で此奴を潰せない以上、それでいい)」

 

 硝煙のカーテンと粉塵は吹き抜けとなってしまったリビングを覆い隠す。

銃弾を押し返しながらの横薙ぎは敵に躱されるとも剣戟の風圧で硝子すらへし折る。

その勢いのまま虚空を振り抜いた刃は壁へと衝突し、触れたその瞬間に土も木も丸ごと呑み込むような一閃を壁に刻んだ。

またも広がるリビング。

最早吹き抜けどころの話ではない。

両者の戦闘によって、辛うじて保っていた家の形は時間を追うごとに柱のみを残して瓦解していく。

 

「(セイア様を狙っているだけなら今の状況は此奴にとって望ましくない、という前提なら……それでも付き合っている以上、此奴にとって私は避ける必要性が見当たらない程度には優先順位が高いと見ていい……ひとまずセイア様達の安全は確保される、それさえあればトリニティは問題ない)」

 

 互いが夜闇と煙に紛れながら、堰発する火花と眼光の怪しげな灯火を交差させていく中、ツルギの内心に宿ったのはある種の安堵。

己の戦いがしかと相手を引きつけ役割の半分を果たしている事への安息だった。

 

 現職生徒会長ホストという自治区運営のトップの安全を確保する事が出来た。

これまで偶発的に発見していたシャドウサーヴァントより遥かに格上の目の前の存在が敵の主戦力かつ数に限りがあるという予測ありきだが、その考えを持ったからこそツルギは襲撃に対してカウンターという選択に今打って出ているのだ。

今宵この場で勝利を掴み、明日の平穏を守る為に。

 

「ちんたら、ちんたらさぁぁッ、撃ってんじゃあねェぞォッ!」

 

 骨組みだけになり始めた無惨な家屋を踏み台にしてツルギが駆け出せばついに外と内の境界線は破棄される。

高速鋭利に飾り立てられ弾速にも勝る疾駆は重力すら踏み込みで踏み潰す。

中距離を維持した戦いは両者にある空間を丸ごと呑み込んで致死性の処刑場に至り、今その面積を世界を塗り潰すように複雑に広げていく。

 

 空気の流れが刃物の如き鋭さを得て、最早辛抱堪らぬと狭き家から飛び出した二匹の猛獣は広々とその手に握った殺意を振るう。

外に出た二匹は最初の戦いをなぞるように周囲一帯を巻き込んで破壊を齎していく。

 

「(身体能力で勝ろうと此奴と私との間には致命的になるほどの差は恐らくない。下手な格闘戦に持ち込むならそれこそ銃の間合いに引きづり込ませるやり口で()()()()()()()()。格闘戦を嫌って撃ち合いを続けるならそれでも良い、本命に届かなければ此奴の仕事は叶わない)」

 

 二丁持ちだというのに再装填の隙すら存在しない流れるような指遣い。

空白を一切生む事のない足運びは神速の域に到達した。

家屋を遮蔽物に間合いを測るツルギの動きを咎め、自身もまた一帯の家屋の壁を突き破りながら追い詰めていく。

猟犬の如き冷徹な駆けりは狂気が滲めど一寸の狂いもなし。

そうして宝具化した銃から放たれた弾丸が掠める度に肉を抉るというのに流血を伴う激痛にすらツルギは何一つ厭う事はない。

純粋な身体能力とはまた別、免疫力を含めた生理機能という人間の基礎基本が規格外であるが故に。

剣先ツルギは致命に至らぬ限り止まらない。

 

「(どちらであれ、やる事は一つ……精々このまま釘付けにさせて貰おう)」

 

 だが、追われているのは騎士もまた同じ。

宝具化したチェーンソーによって削られ割られていく鋼鉄の守り(全身甲冑)の下から少しずつ生傷を増やしていく。

振動と裂傷、爆発と銃創。

二段構えの二対構成。

締めて四弾、一刀一銃。

 

 逃げを選びつつも要所で隙を縫う少女からの攻撃。

身体能力と戦闘の余波だけで周囲を意図的に破壊し己にとって都合の良い環境を生み出す。

乱暴に見えてその実、美しいほどに洗練された戦術はこれまでの研鑽が生み出した中期戦から長期戦に長けた、騎士をして唸らせられる()()()()()()()であった。

 

「遅い遅い遅い遅いィィッ!それで女の尻を追いかけられるかよッ!?ええッ!」

 

 空間を掘削するはツルギの右手に収まって絶叫をあげる鎖鋸。

先を読ん置かれた騎士の発砲を更に読んで遮蔽物の影から飛び出す度に間合いを縮めて放たれる一閃。

 

「色男さんよォッッ!」

 

 屠殺場で麻酔なく嬲り殺された家畜とて出さぬであろう嘶きを掻き鳴らしてツルギの蛮剣は血を求める。

鎧を削り、肌を千切り、骨まで噛み砕かんと、その右手が振るわれ互いの距離がすれ違う度に騎士の身体に傷が増える。

 

 同じように血を流すツルギと同じく、夜空の下を朱で彩る。

終わりの見えない銃と鋸が嬌笑をあげる舞台。

主演女優は騎士の想定通り、決して踊りを止める事はなく戦いと血に溺れながら艶と嗤う。

 

「もらったァァァッ!」

 

 何合目か。

遂にツルギは吼えた。

それは重ね続けた時間の結果。

即ち、仕掛け時。

血を纏って滑りと固まりに濡れる黒髪を振り絞りながら、原型を留めることすら忘れた邸宅(遮蔽物)の影から飛び出した。

 

「(そうだ、見ろ。馬鹿正直に声を上げてやったんだ)」

 

 急加速。

真紅の円環を宿した黒豹は月夜を駆ける。

血に濡れて艶かしさを宿した烏の濡れ羽は夜闇に溶け足取りを追わせず。

騎士の視界にすら捉えさせないよう地を滑り、けれど声だけは張る。

 

「(だったら)」

 

 吶喊は疾風すら嘲笑う神速にて。

敢えて背中を取ったツルギは騎士の背後で既に次なる仕込みを済ませる。

カーテシーは優美に。

夜会のダンスに殿方を誘うのならば、楚々として控えめな色を品良く出す。

それがトリニティ生の慣わしなのだから。

故、踊りの誘いに応じる騎士は踵を槍の如く突き立て回転。

振り向き様にツルギへと銃口を向けて、見た。

 

「ぃぃぃいっひっひっヒィィィ!」

 

 

 

視界を覆う、純白の天幕を。

 

 

 

「(私のダンスについて来い)」

 

 背後を取り、鎖鋸を振りかぶったツルギは()()()()()()()()()()

土壇場で乱心か、否である。

阿呆め、 膝折礼(カーテシー)と言ったではないか。

ツルギがペーパーナイフとボールペンを調達した部屋で最後に潜ませた道具。

騎士がチェーンソーでベッド壊したその部屋は、寝室だった。

ならばあるのだ、その布が。

 

「踊って見せろよッ!騎士(ロートル)ゥゥッ!」

 

 必要な分を爪で引き裂いてスカートの内側に巻きつけておいた()()()は騎士の視界を一瞬奪い、この時ツルギは完全に優位に立った。

 

 

 

埋め尽くしちまおうぜェッ!わァッぴィィィィィィイッ!

 

 

 

 一瞬の事だ、一秒に満たない。

だがツルギにはそれで十分で騎士にとっては苛立ちを隠し切れぬ程に驚嘆を覚えた一秒。

チェーンソーの嘶きに邪魔されてか()()()()がシーツ越しに聞こえる。

それは死刑宣告。

この一閃でお前の首を断つという予告に他ならず。

 

 

 

───然して刃は放たれた。

 

 

 

 刹那の交差。

余人には及びもつかぬ武芸の応酬。

互いが先を取り合う読み合いは。

 

「糞が……女のあしらいは上手ってか?サーヴァント……ッ」

 

 騎士の正面、シーツの裏手で初太刀を振るった筈のツルギが、騎士が()()()()()()()銃撃を鎖鋸の腹で受け止めて、騎士の背後へと後退する結果に終わった。

 

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
ツルギちゃんがスカートめくり()して出したシーツで何をしたかはまた次回で説明するじゃんね☆

ちなみにプチ回想シーンで出たアビドスいってきます!って言ってた正実モブちゃんは、アビドス派遣部隊の部隊長でシロコちゃんを先輩呼びしてた子じゃんね☆
本当だったら責任ある立場だし3年生とかがいいんだろうなぁと思いつつ砂狼先輩って響きが可愛いから指揮官役なのに1年生にしちゃった……っていうちょっと裏設定というかメタい話があったじゃんね☆
なんでこれを今話したか?



部隊長に任命された正実モブちゃんは先生と連絡先を交換しててモノマネが得意じゃんね☆
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