阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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……逃しましたか。
聖杯のバーサーカー……まさか顕現してしまう事態になるとは。
ですが問題ありません、此度の聖杯戦争。
キヴォトスに巣食うその病魔さえ討てば……凡ゆる合併症も根治となります。
ですから私は私の仕事を。

───救護を成しましょう。



dis-communication

 息を、吐く。

吸って、吸って、吸おうとして。

けれど恐怖に引き攣る喉は上手く空気を掴む事ができない。

喉の奥から迫る鉄の味、痛みを訴える脇腹。

それでも黒崎コユキは()()()()()()()ミレニアム自治区を走っていた。

 

 そう、明かりは一切なかった。

最先端科学の都ミレニアムにあってあり得ない事態。

街灯も道路標識も大型ビジョンも、それどころか立ち並ぶ家屋やビルからも生活の明かりの一才が消え失せている。

大規模停電、それも停電開始から既に30分以上が経過した現在も遅々として復旧が進まない異常事態であった。

 

 それもその筈で、そして理由を他ならぬ黒崎コユキは知っていた。

何せ彼女は起こった原因と起こした犯人と目される存在をこの目で見ているのだから。

だから今彼女は走っていた。

脇目も振らず、目に溜まった雫を落とす時間すら惜しんで明かり一つない孤独な夜道で足を動かしていた。

理由は一つ。

 

 

───ミレニアムビルが爆破されたからだ。

 

 

 

 ヒフミやモモイ達との話し合いが終わったあとの事である。

拠点からセミナーの部室があるミレニアムビルへと戻ってきたユウカがしたのは二つ。

一つは残っているセミナー所属の生徒達から仕事を引き継ぎ大急ぎで帰らせたこと。

もう一つは、既に事前連絡と根回しを済ませておいたトリニティ総合学園生徒会『ティーパーティ』とゲヘナ学園生徒会『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)』への連絡を取ることであった。

 

 問題があったのはその連絡。

万魔殿との話し合いは決してスムーズとは言い難かったが、なんとか明日以降のヒフミ達を連れての面会を受け入れられた。

 

だが、後者に関しては別であった。

ユウカがヒフミ達の拠点でその話を聞いた時、より正確には。

 

 

 

─── ユウカちゃん。私達が昨日送った報告書の件ってどうなったの?

 

 

小鳥遊ホシノが語ったあの言葉を聞いた時に頭に過った最悪の懸念。

外れて欲しいと藁にも縋る思いで連絡をしてみれば、()()()()ティーパーティとの連絡ができない。

何度連絡してもたらい回しにされる。

勿論、モモトーク経由での連絡は行った。

だが、それも遅かったからか返事はない。

ティーパーティの三名に関しては信用できると踏んでいるが、小鳥遊ホシノの反応からほぼ確実に何者かが自分達の行動や連携を阻害している。それをユウカは察していた。

 

───問題は一体()()()()()か。

 

 ユウカから見て、阿慈谷ヒフミ、才羽モモイ、そして今日新たに仲間に加わった安守ミノリが結んだ同盟の目的はキヴォトスに住まう者として歓迎できる。

つまり、その邪魔をするのなら反対勢力である残る三つの陣営と中立を謳う監督役になる。

 

 だが、トリニティ、アビドス、そしてミレニアム。

それぞれの連絡に介入できる人材を派遣するとなれば、それこそ生徒会クラスの権限でそれなり以上の人材や部隊の派遣が必要となる。

果たして自分達以外でそれをしている生徒会や自治区があるかと言われれば、はっきり言ってユウカ達には疑問がある。

なにせ、キヴォトスに住まう人間にとって聖杯戦争を穏便な形で終わらせようとしているヒフミ達の邪魔をするのはデメリットしかないのだから。

おまけにやり方がおかしい。

間者を潜ませるなんてやり方、いくら表沙汰に出来ない案件とはいえミレニアムとトリニティ、更にはアビドスまで敵に回す手法なのだ。

はっきり言って、労力に見合わない。

 

 だからこそ頭を悩ませて、事情を共有していてかつ信頼が置ける三名でのみ話し合いをしていた。

その中での事だった。

 

 才羽モモイを名乗る何者かがミレニアムビルに侵入したのは。

そして()()()()()()()()()()()にミレニアム全域に及ぶ大規模な停電とミレニアムビルが爆破されたのは。

 

 幸い、倒壊するほどの大きな爆発とはならなかったがそれでもセミナー始め、多くの部活が滞在するビルが爆破されたのだ。

深夜とはいえ、寮代わりに宿泊する学生だっている。

停電、その直後の爆破。

間違いなくミレニアムへの、否。

恐らくは同盟陣営かアーチャー陣営への攻撃だと判断したユウカとノアはモモイ達に連絡を取ろうとして。

 

 

 

───モモイ!なにしてるんですか!?モモイ!!

 

 

 

「……ぅぅ」

 

自分が堪えきれずに叫んだ言葉を思い出して、漏れそうになる嗚咽を堪えながらコユキは夜の街を走る。

走らなくてはいけない。

何故なら。

 

───逃げなさい、コユキ

───大丈夫ですよ、コユキちゃん

 

そうしなくては死んでしまうのだ、殺されてしまうのだ。

ユウカが、ノアが。

怖いけど大好きな自分の先輩達が。

 

───ここは私達に任せて貴女は行くの

───本物のモモイちゃん達のところへ、ね?

 

 自分を庇って殿を引き受けてくれた先輩達が、あの偽物のモモイ()によって殺されてしまうのだ。

 

 だからこそ、コユキは走る。

使い物にならないスマートフォンなぞポケットから出す事はなく、自動運転化されたバスは全て横転し軒並み事故を引き起こしている道路をすり抜けて。

 

「待ってて、待ってて下さいッ!ユウカ先輩ッ、ノア先輩ッ……!」

 

 そう、今現在、ミレニアムは。

全ての通信網が麻痺していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ……しつこい!」

 

 荒々しく息を吐きながら、早瀬ユウカは右手に持った小銃を撃ち鳴らす。

遮蔽物に身を隠しての戦闘は当然のように手慣れた物だった。

 

 早瀬ユウカ、ミレニアムサイエンススクール2年生。

誤解なきように言えば、戦闘能力、それに限っては特筆する才能がある少女では決してない。

類稀な演算能力は事務処理では目覚ましい活躍と数学という学問において発揮されるのであって、戦場で活躍するわけではない。

だが、()()()()()()()()()

 

「いつまでもッ!その顔でッ!」

 

 鉄火場なんて日常茶飯事、銃撃戦は少女の青春。

それがキヴォトス、千を越える学校と自治区が聳える巨大な学園都市で生きる彼女達の日常。

だから戦える。

生徒の形をした生身の存在を倒すなんていつもの事だから。

 

「喋らないでッ!」

 

しかし、その物量はいつもと違う。

 

「……ユウカちゃんっ!第七ブロックが突破を……っ」

 

「ッ!こんっのぉッ!」

 

 ミレニアムビルの爆破とミレニアム全域での停電。

更にはそれに伴うように発生した大規模な通信障害。

間違いなく緊急事態。

すぐにそれらについての説明を求める生徒は、けれど誰一人として現れなかった。

 

 事前の策。

聖杯戦争期間中、万一ミレニアムへの攻撃があった場合に備えておくのは当然。

深夜帯ではあったが、ミレニアムの保安部も虎の子のC&Cもこの一大事に、連絡手段こそなかったが無理矢理にでも出動し防衛ラインの形成に成功。

 

 また一般生徒達の動きも落ち着いていた。

一度世界が滅びようとしたキヴォトスの住民だ。

明らかに事故にしては出来過ぎた一連の事件にそれぞれが協力し合って避難所を設立。

自治区住民達を駆けつけた保安部と共に、自分達が徒歩で移動できる範囲にある比較的安全な場所で避難誘導を自発的に開始していた。

 

 安全は確保した。

だが、このまま電力が戻らなければ各種復旧すらままならない。

何より病院等の予備電源も心許なくなるというのは危険。

電子ロックの解除すら出来ないのだ。

万一の場合、ヒフミ達を支援する事すらできないどころか場所によっては死人が出る。

 

 そう判断したユウカは通信を後回しにして、電子面からのアプローチを行うヴェリタスと共に、自らの足で発電所に向かった。

ヴェリタス四名とセミナー生徒三名。

電力の復旧によって、夜の静けさに包まれたミレニアムの現状を打破すべく走り、発電所に辿り着き。

そして今に至るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ユウカ、開けてよユウカ」「来たよ、ユウカ」「大丈夫だよ、ノア先輩」「開けろ」「開けてよ、早く開けてよ」「入れろ」「マキ、遊ぼうよ」「開て」「コタマ先輩、願い」「ねぇねぇ開けてよぉ」「ハレ先輩、聞いてる?」「開けて」「チヒロ先輩、信てよ」「殺そう」「開けてほしーなー!」「ねーねーまだぁ?」「入れて」「まだー?まだー?まだー?」「早くしろ」「まだかかるの?」「早く早く早く早く」「まだまだまだまだまだまだまだまだまだかかるの?」「ミドリがいないけど私だよ」「開けてってばー」「私だよ、モモイだよ」「会え」「私会って」「開けろ」「ユズは壊れたけど私だよ」「入れろ」「私は死んじゃっけど私だよ」「ユウカ、ねぇ、開けてよユウカ」「会え」「私だよ」「入れろ」「入れろ」「私よ」「入れろ」「私」「私わたし私ワタし入れろ私私私私私私わ入れろたし私私入れろ私入れろ私私私ワたし私私入れろ私わたし私開けて私私ワタシワタシワタ助けてシワ死にたくないタシワタシ入れろ入れろワタシワタシ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ入れろ開けろ開けろ開けロ開ケロアケロアケロアケロアケロアケロ開ケろアケろ開けろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「─── ワタシに会エ(此処ヲ開ケロ)」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の襲撃に遭ったのは。

今も何重にも重ねって聞こえる才羽モモイの声。

硝子を何度も叩きながら、壁を下にいるモモイの死体を潰して土台にして攀じ登りながら、爪も肉も剥がれて骨が丸見えとなった指で扉を引っ掻きながら。

そしてそうまでしてもオートマタやドローンからの攻撃に無防備に晒されて何度も死にながら。

幾度も幾度も幾度も、発電所にいるユウカ達の元へと辿り着こうとする。

 

 それこそが発電所の建物内へと侵入を試みる『敵』の声。

発電所に到着したユウカ達一行が建物内に足を踏み入れたタイミングを見計らうように、施設一帯は300人近い才羽モモイの形をしたナニカによって取り囲まれていた。

 

『第一バリケード突破!ヤバいよユウカ!急いで下がって!』

 

『ごめん。こっちのドローン部隊も呑み込まれた……次陣、用意するから5分耐えて』

 

『ハレ!第三区画にもドローン回して!警備用のオートマタだけじゃ間に合わない!』

 

「……ッ。マズいわね」

 

 隔壁を起動させ、簡易バリケードを用意してドローンとオートマタで即席の迎撃態勢を整えてから既に三十分以上。

爆破が起きてからは一時間以上が経過している。

なのにも関わらず、ヒフミ達からのコンタクトもない。

ジリ貧な現状、そしてずっと連絡が取れていない彼女達を思い、ユウカの中で焦りが生まれる。

 

「想定『以上』ですね……やはり初めから狙いは」

 

「……私達とヒフミ達同盟陣営との分断、か……」

 

「とはいえこれだけの戦力を引き付けられたのであれば御の字でしょうか」

 

 そう、ユウカもノアも違和感があった。

わざわざたった一人で首脳陣がいる本拠地に残り込んで、しかも自爆テロを引き起こして言ったとはいえだ。

戦闘直後の混乱したタイミングで通信も電気も遮断してのけた手腕。

間違いなく致命的に、してやられたと思ったのだ。

だというのに、その筈なのに敵からのアクションがそれからなかった。

怖くなるほど静かな物であった。

狙いが分からなかった。

 

 だからこそ、敢えて囮のようにして自分達が大きな動きを見せた。

敵が遮断した電気を取り戻しに向かった。

その先で受けた襲撃。

自治区住民や他の生徒がいる場所にいつまでも残っていなくて良かったとユウカはホッとする。

あのままあそこにいて、痺れを切らした敵が襲ってきたらと思えば、今ユウカ達のしている行動は正解のように思えた。

 

「……コユキをあちらに向かわせたのは正解だったわね」

 

「セミナーの護衛用にお借りしているヘルタースケルターも10機全てコユキちゃんに預けました……最悪でも辿り着くまでは行ける筈です」

「その確率は100%よ、ノア。下振れしてでもそこまではしてもらわなきゃ、やってられないわ」

 

 施設内に侵入しようとするモモイの形をしたナニカをセントリーガンと共に二人は打ち返しながら。

 

「……本当にキツい。勘弁してよね」

 

 歯噛みする。

ユウカ達が守るのは発電所の正面入り口。

他の区画からの侵入はコントロールルームへと向かったヴェリタスの面々が遠隔での操作やドローン、果ては隔壁を使って凌いでいる。

 

 だがそれでも、どれだけの時間を保たせられるか。なにより、偽物だと分かりきっていても自分達の手で後輩の顔をした存在を撃ち抜くのだ。

気分ははっきり言って最悪だった。

 

『……通信、一部回復しました』

 

「……っ!ありがとう、コタマ!」

 

 そんな焦りと気持ち悪いモヤモヤとした感情が渦巻く戦況。

そこにコタマからの朗報が施設内の放送を通して伝えられる。

だからこそ喜びの声を上げたユウカに、コタマは苦々しく答えた。

 

『……悪い知らせが一つ。良い知らせが二つあります』

 

『こんな時にバカ言ってないで、さっさと報告!』

 

『……そうしたいですけど、副部長。多分聞いてもどうにもなりません』

 

 気取らずに優先順位を考えて早く伝えるよう叱るチヒロの声には焦りがあったが、唇でも噛み締めているようなコタマの声は諦念に似た苦渋に満ちていた。

 

『良い情報は監視カメラの映像からヒフミさん、ミノリさん、モモイの三名の姿が敵勢力と交戦する姿が確認できました』

 

「そう……やっぱりあの子達も……一応聞くけど、本物ね?」

 

『はい。三名ともサーヴァントに指示を出されていますから本物で間違いないかと。ヒフミさんはセイバーさんを連れて中心部、ミノリさんの方はD.U.方面へ向かって移動中です』

 

「……拠点と仮本部は!?」

 

『モモイ、それから白洲アズサさんがエンジニア部と共にヘルタースケルターと雷ちゃんの混成部隊を率いておられます。他の補習授業部の皆さんやゲーム開発部の子達の姿も確認できました。そして仮設避難所とセミナー臨時本部の方も敵からの侵攻はありません』

 

 ヒフミ達の無事、そして開設した避難所の方では被害が全く出ていない事も確認し、ユウカとノアは胸を撫で下ろす。

 

「マキちゃん。トリニティの様子、それからアビドスへの連絡はどうですか?」

 

『トリニティの方は静か、いやちょっと待って!?よく見えないけど高級住宅街で次から次に家が壊れてる!?それに本校舎もなんか煙出てないかな、これ!?あとあとアビドスは今見たらトリニティの正義実現委員会っぽい子達が市街地の端っこでドンパチしてる!』

 

「……そう、ですか。シャーレ、ゲヘナは?」

 

『先生にはコンタクト取れた!()()回すって!ゲヘナは駄目!連絡したら空いてる風紀委員がいないって断られた!』

 

「……やはり、先生も手が回らない状況ですか」

 

 ミレニアムで大停電が起きた事実なぞすぐにでも連邦生徒会側は確認している筈。

当然、そこに属するシャーレも。

だが対応が未だなく、また先ほど安守ミノリがD.U.方面へと移動した事を聞いた。

それはつまり。

 

『ここからは悪い知らせです……どうやらD.U.、いえ連邦生徒会とエリドゥも私達同様かそれ以上の攻勢を受けているようです』

 

「トキッ……チヒロ先輩、ヒマリ先輩や連邦生徒会本部からの連絡は?」

 

『ない。もちろんトキからもね』

 

 状況は最悪の一言に尽きた。

敵の狙いはこれでハッキリする。

各陣営の拠点への襲撃、そして各自治区やキヴォトスの政治執行機関への攻撃。

この両目標への同時攻撃こそが『敵』の狙い。

 

「(考えなさい、早瀬ユウカ。応援はまだ来ない。恐らくヒフミ達もC&Cも私達の状況に気づいていないし、連絡は取れない。先生からの応援もそう早くは見込めない。最後の手段で考えてたエリドゥへの生徒達の避難も潰された───なら)」

 

思考を巡らせ、現状の打破を考える。

間違いなく敵の狙いは自分達も含まれる。

このまま敵を引き付けられたのなら、ひとまずは他の生徒達への被害はないだろう。

 

 だが、この施設の防衛設備だっていつまで持つかは分からない。

何より、それを稼働させる予備電力だって限界がある。

そうなった場合、システムの復旧すら、ここまで掛けてきた時間と労力すら無駄になる。

だから早瀬ユウカは。

 

「ハレ。前線の様子は?」

 

覚悟を決める。

 

『……あんまり良くはないかな。でもドローンも次の子達出しちゃったし、防衛用のオートマタも残り40機。あと暫くなら……ただ確証はないよ。それぐらいなら此処を放棄して尻尾巻いて逃げた方がいい』

 

「チヒロ先輩。あとどれぐらいでシステムは復旧しますか?」

 

『電力だけなら15分で再起動まで漕ぎ着ける。でも駄目、通信は本当に一部、それもラグが激しきすぎるし何より原因が……っ』

 

 こちらからの送信が無理では、助けはこれ以上呼べない。

シャーレや同盟陣営からの応援を待つにもこれ以上は待てない。

状況を挽回する時間が、あと15分だけ足りていない。

 

「(良いじゃない、15分。たった900秒、大した時間じゃない……ッ)」

 

 だが、逆に考えれば。

15分。

それだけあれば逆転の目が生まれるのだ。

ミレニアム全域を襲う未曾有かつ後手に回った強襲へ、反撃に打って出る余地が生まれる。

だからセミナーの中でも取り分け数字と責任感が強く、その実、会長に似て情深い早瀬ユウカがその決断に至ったのは言うまでもなかった。

 

「……そう。なら……ノア」

 

「駄目です、ユウカちゃん」

 

だからやはり、彼女がそう言い出すのを生塩ノア(親友)もまた分かっていた。

 

「……お願い」

 

ノアは、潤んだ目でユウカの袖を掴んでいた。

その手をそっと、ユウカは外す。

細く白い、そして震える指をそっと壊れ物を摘むように。

どこまで丁寧に離してから微笑んだ。

 

「この後の事を考えて下さい。今ミレニアムの首脳陣が誰か一人でも欠けたら、たとえ電力が復旧してもその後をどうするんです?」

 

ノアは、抵抗したかった。

早瀬ユウカ(親友)が指を動かすのを止めたかった。

でも理性が囁くのだ。

それしかない、と。

だけど情が訴えるのだ。

それしかないのか、と。

結局少女の体は動いてくれなくて、喉を震わす他なかった。

 

「今出来る最善の一手よ。ここで電力が復旧しなきゃ出来る事も出来ない」

 

「ユウカちゃん」

 

「……応援が望めない以上、私達がすべきなのはこの施設を守る事よ」

 

「っ……ユウカちゃんっ!」

 

 ノアの言葉を背中に受けながらユウカは遮蔽物から前に出る。

その背に手を伸ばそうとしたノアの手を拒むようにユウカは使い慣れた電磁シールドを身に纏った。

 

「私が囮になる。15分……そうよ、15分だけなら稼いでみせる。そうすればこの施設の防衛システムだけじゃない、ミレニアム中のそれをフルで稼働させられる。今は私達だけだけど、いつ他の生徒にあの数の敵が矛先を向けるか分からないなら……確実に電源だけでも確保しなきゃいけないの」

 

 窓ガラスの向こうには黒いヘドロか靄のような血飛沫をあげながらセントリーガンを破壊して施設に侵入しようと迫るナニカが四方八方にいる。

才羽モモイと同じ姿をした、けれど全く違う存在が銃弾を受けて羽虫のように散って。

蛆虫のようにまたその死体に集るかの如く、底のない暗闇からぞろぞろと現れる。

その姿に迫り上がる胃液を堪えながら、力強く宣言する。

 

「……万一があっても大丈夫。その為にコユキをあそこに送り出しんだから。拠点には通信設備もあるし、ヒフミ達もいる。何より会長がいる───トップとコユキが健在ならなんとでもなるわ」

 

 やらなくては、いけない。

自分が、電力を回復させる為の時間を稼がなくてはいけない。

セミナー幹部という立場にあって、そしてミレニアムという街を愛している一人の生徒として、友達として。

事態の混乱を少しでも解決する為に、努めなくてはいけない。

 

「(……行くわよ、早瀬ユウカ)」

 

 ここで確実な15分を稼いでみせる。

そう意気込んで死地へ向かおうとするユウカ。

その姿に説得は無理だと判断して、せめて自分もと駆け出そうとするノア。

その二人の前に、救いの手が───。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───応、その必要はなさそうだぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

都合よく現れる筈がない。

 

『……ッ!?ユウカさんッ!今すぐその場を───』

 

爆音。

そして暴風。

周囲を揺るがすほどの一撃が劈くように這い寄るモモイの声に良く似た鳴き声を、一瞬だけ掻き消した。

 

 ユウカ達はその光景に何を思っていたか。

一瞬前の覚悟も思考すらも奪い去ってしまう暴力的な破壊。

あまりの衝撃、ただの余波だけでユウカ達の意識は破壊に呑まれ、吹き飛ばされて、身体を無防備に床へと投げ出す。

 

 

 

「な……に、が……っ」

 

「つぅ……ゆ、ウカちゃん……大丈夫、ですか?」

 

 

 

 それでも幸いだったのはユウカが電磁装甲を身に纏って、更にちょうどその背後にノアがいた事であろう。

衝撃で二人は倒れたが大きな怪我までは負わずに済み、星がちらつく視界をそっと開けて視界を確保しようとして。

 

「……うそ」

 

 視界一杯の曇天が広がり、今更自分達を冷えた雨が濡らしている事実に気づく。

そうだ。

施設内にいた二人が雨に濡れている。

天井がある筈の空間に空が広がっている。

土煙が晴れた先、あった筈の、自分たちが守っていた筈の発電所の入り口がまるで悪い冗談のようにごっそりと丸ごとなくなっていた。

 

「ッ!ハレ!マキ!コタマ先輩!チヒロ先……駄目ッ、放送機器もオシャカか……!」

 

「……っ、これが、宝具、なのでしょうか……ユウカちゃん、一度コントロールルームまで。そこで立て直しましょう」

 

「……えぇ。なりふり構っていられ……」

 

 最早施設を守る云々を言える状況ではない、それをユウカ達は理解する。

コントロールルームにいるヴェリタス四名と合流し、急いでこの場を離れるかそれともギリギリまで粘るか。

どちらにせよ今の一撃でドローンや警備オートマタで敷いた前面の防衛ラインは瓦解したと見ていい。今は何故か静かな物だが、いつ施設内に侵入してきてもおかしくないのだから。

そう思って、倒れた体を起こしたユウカ達は。

 

「なんだよ、逃げちまうのか?面倒くせぇ」

 

「……今のも、それにこれまでの。貴方の仕業?」

 

 小雨に当たって冷えた身体に奔る悪寒と伸し掛かる重圧に、自分でも分かるほど心が挫けそうになった。振り返るその先。

 

「あぁ。こういう小細工、()()()()()()んでね。だってそうだろ?戦う前に敵の戦力を削りゃ、少しは俺も楽になるってもんだ」

 

 先ほどまで入口があったその場所には青黒い戦装束で身を包んだ大人がいた。

その出立はヒフミ達が戦ったというあのアサシンにも何処か似ている。

そう。

 

「サーヴァント……ッ!」

 

「如何にも。怠惰のランサーだ。で、それが分かる嬢ちゃんは阿慈谷ヒフミの協力者で、俺の獲物って訳だ」

 

 陶器とも金属ともよく似た軽快な音を弾かせながら肩に乗せられた、その血色の槍もまた、アサシンが持つ宝具によく似ている。

 

「あーあ、でもつまらねぇな。折角、二騎目のランサーとして顔出して名乗りあげてやったってのに……嬢ちゃん達の動揺は誘えんときた。『聖杯大戦』でもあるまいに、異常性に気づかんか?それとも、魔術とも聖杯とも縁薄い土地柄だからクラス被りが可笑しい事も分からねぇか」

 

 気怠げに首を回してそういう男の眼には嫌悪と侮蔑を宿しながらユウカ達を品定めするように見つめる。

だが彼女達はそんな視線よりも気になる単語を耳にして、その意味に顔を歪めた。

 

「聖杯、大戦?……ッ……そう、そういうのもあるって事か」

 

「……貴方達の存在が、クラス被りがイレギュラーではないパターンもある。けれど少なくとも今回のケースは彼らの世界からしてもどうやらイレギュラー、みたいですね」

 

 前後の繋がりも薄い会話の中で見つけた言葉、そこから聡明な二人は聖杯戦争という物には別の形態が、今よりも多くのサーヴァントが存在するレアケースがある事に気づくと共に。

 

「……ほぅ。大したもんだ。何も分からねぇだろうからと、要らん情報を小出しにしてやりゃ煙に撒けると思ったが。中々どうして。要点だけは抑えてやがる」

 

 こと今回に至っては、『そうではない』と察してみせた。

それにランサーの内心で沸き立つのは僅かながらの驚き。

喩えて言うならば潰した筈の蟻が生きていた事に驚いた幼児のような、そんなつまらなげな驚きをみせる。

 

 だがその驚愕はすぐにランサーと名乗った男の中から薄れてしまう。なにせ男は『怠惰』。

 

「あーあ、失敗したなこりゃ。面倒臭がって」

 

今この瞬間にも。

 

「声掛けるんじゃなかったぜ」

 

さっさと早瀬ユウカを殺して帰りたいのだから。

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
ランサー戦はかなりサクサクいくじゃんね☆
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