阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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部長は大丈夫かって?
……大丈夫だよ、きっと。
必ず良い返事もらって帰ってきてくれるから。
だからみんなもさ、のんびり待ってよう、ね?


……本当、全部終わったら文句言って美味しいもの奢ってもらうんだから。
……だから、返事を返してきてよ……ハルナ、アカリ







【10日目・早朝】
Operation☆DOTABATA!


 

 鳴り響く警報。

金属板を叩く私達の足音。

さっきまでゆっくり、とは言わなくても悩みつつもその味を楽しんでいた珈琲や紅茶は白い破片ごと床に散らばっている。

 

「あーもうっ!なになになに!?またライダー!?」 

 

「あり得ん!奴らの出入り口は監視済みだぞッ!?」

 

「すまない!遅くなった!ウタハは避難しに地下へ潜ったぞ!」

 

「大丈夫です!助かりました!ミノリさん!」

 

「ヒビキとコトリは!?」

 

「安心しろ!叩き起こしてウタハに同行済みだッ!」

 

 急いで銃を、剣を手に取って私達はそれぞれの個室から飛び出していく。

状況はまるで分かりません。

なにせ、なんの前触れもなければ、通信すら出来ない状況でしたから。

 

「ユウカちゃん達との連絡はどうですか!?」

 

「む、無理です!?ユウカ先輩どころか誰とも……それどころかミレニアムにも外部にも……!何処とも連絡が取れません!!」

 

キンキュウメッセージをヨミアゲマス。このメッセージは2フンマエにキロクサレマシタ……ごめんなさい、通信妨害をミレニアム全域で受けてるわ。私もこのままセミナー本部に向かうからアバンギャルド君は好きに使って頂戴……なるべく早く戻るわ』

 

「リオ会長まで……ッ!お姉ちゃん!」

 

 リオ会長の通信を経由してくれていたアバンギャルド君さんも今はいつもの感情豊かさは消えてただのオートマタのように振舞っている。

 

「……ッ!キャスターッ!」

 

「分かっておるッ!セミナーに貸し出しているヘルタースケルターとも連絡が取れん……!あり得んのだ!こんな状況は……ッ!科学的なソレでは断じてないッ!魔術、それも極めて高度な儀式に相当するような術式での妨害だッ!」

 

「な、ななんですか!?起きたらコレ!?いきなり!?私まだ此処に来て1日経ってないんですが!?……というか、自治区全体に影響するほどの大規模な魔術をキャスター以外のクラスが!?()()()()()()()()()()いえ、幾らなんでも……第一、トリニティとも連絡が取れない!?そんな筈っ!……」

 

 ウイさんの叫び声に鎮痛な面持ち。

そして彼女の叫びに走りながら頷くキャスターさんの様子からここまでの事をした相手が只者でも、そして今の状況が只事でもない事がひしひしと伝わってきます。

 

 この現状が魔術による物なら、ライダーさんかアサシンさんあたりが浮かんできますが、果たして本当にその二人なのか。それすらも定かじゃないと『直感』が警告している。

気をつけてと、明確な『敵』が来たと。

私の中で不安と緊張、そして戦意を抱けと焦る感情が入り混じって警鐘を鳴らす。

 

「巡回から戻ってきていたアイギス7号の直前の映像記録から確認できました。通信妨害だけじゃありせん。恐らくミレニアム全体が大規模停電が起きてますッ!」

 

「うぅ、なんで、こんな……ハナコちゃん!アズサちゃんとセイバーさんは!?」

 

「アリスちゃんやスパルタクスさんと一緒に先に外へ!」

 

「あーもうっ!また先に行っちゃうんだから!」

 

 通信妨害、それに停電。

最初は私達だけを攻めて来ているのかと思いましたがミレニアム全体をまるでキヴォトスから孤立させるような立ち回り。

その事実が私達の焦燥を掻き鳴らし早鐘を打ち付けていく。

 

「(……ユウカちゃん!調月会長……!)」

 

 今もセミナー本部でお仕事されているユウカちゃん、そして一足早く彼女の元へと走ってくれている調月会長。

お二人の無事は勿論ですが、危険に瀕しているかもしれないのは彼女達だけじゃありません。

 

「(モモイちゃん……ミノリさん……っ)」

 

 モモイちゃん達ゲーム開発部のみなさんにとってミレニアムは母校、お友達もお知り合いの方だって沢山います。

ミノリさんだって元々は工事の為にこちらに来られていました。

まだ工事現場には工務部の方達が宿泊されておられます。

頭に過ぎる不安はけっして考えすぎなんて事はありません。

私達だけでなく、ミレニアム全体への襲撃を予兆させる動き。

現状が分からないからこそ迫り上がってくる焦燥に頭が眩みます。

けどそんな不安は。

 

 

「大丈夫、ヒフミ。その為に私達がいるんだから!」

 

「あぁ、安心しろ。まずは目の前の状況を把握して、頭を悩ますのはそれからにしよう。なに私もモモイも、それに頼れる仲間はまだこんなにいる。どんな危機的状況でも勝てるよ、ヒフミ」

 

 一番不安に思っている筈なのにしっかりと前へ向かって、そして私へと手を差し伸べてくださる頼れるお二人の姿を見て霧散していきます。

 

「……ッ!はいっ!行きましょう!みなさん!」

 

だから私達は拠点の外に飛び出したんです。

 

 拠点の出入り口を抜けると緊急用の誘導灯の赤色、それからアイギス7号さんやヘルタースケルターさん達がライトで照らす地表が見えました。

ただ雨が降っているのもあるでしょう、天候の悪さも相まってそれでも周囲全部が見えるわけじゃありません。

前方を辛うじて明るくしてくれる照明は、霧で曇ったビルの乱立する向こう側を怪しく照らして、まるで底なし沼か深い森のように演出してしまう。

悪天候な上に停電、光源も乏しい。

少なくとも状況把握も一苦労だと、霞む視界の中でセイバーさんやアズサちゃんを探そうとして。

 

 

 

「「……ヒフミッ!」」

 

 

 

 庇うように私の前に降り立ってくれた真っ白な羽、そしてその前から迫る黒い腕を切り飛ばして私達を守ってくれる頼もしい背中に思わず声をかける。

 

「ッ……ありがとうございます!アズサちゃん!セイバー……さん……?」

 

 無事、先に地表に出て迎撃をしてくれていたお二人と合流できた、そう安心したその時でした。

セイバーさんの風の鞘、その剣戟が霧がかった視界ごと巻き込むように薙ぎ払った一撃で吹いた疾風。

視界が、開けました。

 

「なん……ですか……?」

 

いいえ。

視界は確かに開けました。

でも。

 

「なんなん、ですか……!?」

 

目の前に広がるのは真っ暗闇だったんです。

 

 

 

「なん、なんですか……この数ッ!?」

 

 

 

 人、人、ヒト。

黒い影が伸びています。

ビルの隙間から、窓の向こう側から、アスファルトの裂け目から、霧が棚びく向こうから。

雨に濡れた軍靴を静かに鳴らして、私達の目の前に、いいえ。

 

「待ってよ……なにこれ……!?」

 

 私達が見ている視界全てを埋め尽くすように。

真っ黒な影と真っ黒な制服を着た()()がいたんです。

 

「な、なんで!?なんで正義実現委員会が!?こっちに派遣されてるなんて話!ハスミ先輩からは……!」

 

「……正義実現委員会だけじゃない。ヴァルキューレやゲヘナの風紀委員会、それにメイド服の連中も混じっている」

 

 数なんて、とてもじゃないですけど数え切れません。

まるでちょっとしたイベントでもあるかのように人が波のように地面に、廃ビルの中に知っている制服姿で顔が()()()()()()()()()()少女達で溢れかえっている。

 

「違います、コハルちゃん、アズサちゃん。よく見て下さい。彼女達は恐らく……」

 

「あぁ、ハナコの言う通りだよ。アレらは全て紛い物……生徒の振りをした下劣なサーヴァントの仕業だ」

 

「だが解せん。幾らスキルや宝具でもこの数だ。四百は下らん。これほどの規模を軍団を呼び出すとなれば……」

 

相応の英雄が、そう続けようとしたキャスターさんの言葉をセイバーさんは迫る銃弾の雨を弾くように風王結界を展開してから、呟かれた。

 

「……感じないかい?キャスター」

 

「ぬっ?セイバー、何を……なるほどコレは……」

 

「あぁ、魔力が薄くて捉え切れないけれど異質なのが何騎かいる。この数も驚異的だが、恐らくは4騎。この集団の中に」

 

 息を、呑む。

アズサちゃんやヘルタースケルターさん達に率いられてバリケードや隔壁のある場所まで下がろうとする中で静かに聞こえた言葉。

 

 

 

 

 

 

「───シャドウサーヴァントがいる」

 

 

 

 

 

 

 『直感』が教えてくれる。

『敵』なのだと。

これまで一度だって『明確な敵』と言わなかったソレが悲鳴のように知らせてくれる。

敵が来たのだ、と。

 

『(聞こえるかい?ヒフミ。僕たちはこのまま前線で露払いをする。無理のない程度で構わない、支援を頼むよ)』

 

『(分かりました!……お気をつけて!)』

 

『(ありがとう。ある程度数を減らしたら、自治区全体の様子を見て次の動きの指示を)』

 

 念話で伝えられた内容をしっかりと心の中に書き留める。

ユウカちゃん達の事も気になります。

でも、まずは目の前の敵をなんとかしなくてはその次の話にも繋がらないといけません。

 

 そう思って、遮蔽物越しに銃を撃っていくと薄らとまた漂い始めた霧を吹き飛ばしながら空から降ってくる人の影。

 

 

 

ぬぅぅんッ!

 

 

 

 強い唸りと共に猛々しく現れたのはスパルタクスさん。

その姿にミノリさんは安堵されたように遮蔽物から顔を出して声をかけられます。

 

「スパルタクス!無事か!?」

 

「問題なし!だが、我が同胞よ。これは些か以上に危うい状況にある。備えよ……悪しき圧政者の狗ッ!我らの宿敵が来たぞッ!」

 

 会う度に穏やかな微笑みを湛えている彼らしからぬ険しい表情を見て、ミノリさんはハッとした顔で何かを察する。

そうして私を振り返った彼女は吠えるように、狼のように唸り声をあげた。

 

「……なるほど。コイツらは走狗か……ッ!お前の直感、信じよう!スパルタクス!……ヒフミ!」

 

「は、はいっ!ミノリさ「コイツらだッ!」……ぇ?」

 

 信用しろと、今は聞いてくれと、彼女の目が言っている。

説明する暇がないのは彼女の様子を見れば、そして今の状況を考えれば理解できる。

なにより彼女は彼の直感を信じると言った。

 

()()()()が私達の敵だッ!コイツらこそ、今私達の目の前に存在こそがッ!私の、お前の、全てのマスターの」

 

ならきっと、その言葉は。

 

 

 

 

 

 

「───宿敵だッ!

 

 

 

 

 

 

間違いなく私たちにとって重要な物なのだと、頭を殴りつけられるように『直感』で理解したんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、戦いが昨晩あったわけです。

それからなんとか*1敵の攻撃を凌ぎつつ*2、回収したアイギス7号ちゃん達からの映像でD.U.やミレニアムビルが爆破されているのを確認して、急いで手分けして各地に援軍を出して。

なんとか敵が全員撤退したところで交代で仮眠*3して。

早朝《、みんなで起きてきてスムージーを流し込んでセミナー、ティーパーティ、そしてアビドスのみなさんと臨時会議を開いたわけなんですが。

 

 

 

 

 

 

そんな大事件があった次の日、私たちの前には。

 

うぅん!テイスティ!いいじゃないか、いいじゃぁないか、えぇ?トリニティの紅茶だって言うもんだから如何な味を出してくるかと思ったけれどこれは実にふくよかな香りが鼻先から抜けていくねぇ。いやはや良いな!うん!なんでもトリニティは紅茶風呂*4なんて物がぁ、有名だそうじゃないか*5!トリニティは硬水が多い*6から掘るのも少し考えていたが紅茶風呂!紅茶を愉しむというのならまたそれも大いに魅力的かもしれないなぁっ!泉質の確認をした上で別湯としての提供!いやはや楽しみだぞぅ!」

 

「あは……あはは……」

 

 朝から拠点の入口を爆破*7された挙句*8に、私が淹れた紅茶を飲んで満足そうにしておられる鬼怒川カスミさんが座っておられました。

い、一体、一体どうして……?

仕方ありません。

落ち着いて、冷静に。

ちょっと思い返してみましょう。

ほわんほわんほわんぺろぺろ〜*9

 

 

 

『やぁやぁ、おはよう諸君!目覚めは如何かな?あぁ、そのままに。剣を執らない英断、素晴らしきかな!』

 

『なにも私だって喧嘩を売りにきたわけじゃない。情報、それも売り込みではなくただ届けに来ただけさ。歓迎の一つでもしてくれたって罰は当たらないよ。だからその右手にはそのまま空気を掴んでいてくれたまえ!サーヴァントなぞ訳の分からん存在と取っ組み合いだなんて野蛮な真似、私は御免だね』

 

『というわけで、だ、ヒフミちゃん。私を案内してくれるかな?なぁに、安心していい。危害どころか君達に恩恵を約束するよ』

 

 

 

 

と、息も吐かせない勢いに負けた私達は押し切られちゃったわけですね。

そのまま拠点の中に入って来られた鬼怒川カスミさんはゆっくりと紅茶を飲みつつ、変わらぬ調子で私に語りかけてきていました。

 

「いやぁ!聞いたよ!檜風呂!良いじゃないか、素敵じゃぁないか!だが、そうとも!そうだとも!まだ足りない、まだ必要な物がある……分かるかな?」

 

「あは、あはは……ええっとシャン「即ち、そう!水質の問題さ!」ぷぅ……じゃないんですね……」

 

難問でした、さっぱり分かりません。

というかそもそもここの水質ってどうなっているんでしょうか*10

入ったら肌がすべすべする感じはあるんですけど、今ひとつわかってないんですよね

 

「あはは……お、お茶のお代わりは如何でしょうか?カスミさん」

 

「うん?ああ、気が利くね、ヒフミちゃん。ありがたく受け取ろう!いやぁ、しかし実にいいな!此処!地下を丸々使った広大な施設!大型の浴槽は取り付けてあるし、何より蒸気機関を採用しているからサウナなんかもいけそうだ!私も思わず小躍りしたくなるという物さ!」

 

「あは、あはは……」

 

 掘ってもいいかな!?*11、なんてちょくちょく聞かれるのに私も曖昧な返事をしつつ、頭を悩ませてしまいます*12

カスミさんと私に接点は殆どありません。

正直、シャーレのカフェで一度お見かけした事があったかどうかぐらいです。

そんな方がわざわざ早朝から、しかもミレニアム自治区の『廃墟』にある拠点へ私達を訪ねてきた。

来た理由は察するに聖杯戦争関係なのだとはっきりしていても、彼女が此処に来た理由が分かりません。

 

「……ねぇ、コハルちゃん。あの人、誰なの?」

 

「……多分だけど、その……ゲヘナの指名手配犯……前にイチカ先輩*13が色々あったとかいう……()()、温泉開発部の……」

 

「わ、わぁ……」

 

 ユズちゃんの呻くような声を聞きつつ、報告書や空崎委員長の話から彼女がライダー陣営との協力者だった話を思い出す。

 

 ただ一応、スパルタクスさんはこの場を離れて地上で拠点の防衛をしてくれていますし、この場にはセイバーさんもキャスターさんもいますから問題はない。

そう思いたいと考えているとカスミさんはコハルちゃん達の内緒話に尻尾を立てられました。

 

「おや?ほう、ほうほうほう!そうかそうか、君はそういう関係かな?トリニティのお嬢さん」

 

「ひぅっ!?……な、ななななな何よ!」

 

「いいや、怯えなくたっていいんだよ。幼気なお嬢さんに悪戯な感情を抱く、そぉんな趣味は私にはないんだからね。ハーハッハッハッハ!いやぁ、そうか君、()()!そう!()()だ!我らが朋友*14仲正イチカの後輩か!そうかそうか、うぅん。それはまたなんとも数奇というか」

 

 この場にいる私達を眺める彼女は尻尾の先を踊らせながら肘をつく。

まるで値踏みをするように唇をつりあげながら溜息するようにうっとりつぶやいた。

 

「うーん、素晴らしい。壮観な眺めだ。トリニティの生徒が淹れた紅茶を楽しみながら見つめてみれば、ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、果てはアビドスまでお揃いときた。良いじゃないか、麗しい光景だ。本当に、数奇な面子が揃っている。トリニティの眠り姫に失踪したミレニアムの会長、更には名高い暁の……ねぇ?まるで各校のスーパースターが揃い踏みした晄輪大祭もかくやと言ったところかな……もっとも」

 

 

ひたりと、彼女の尻尾が床を冷たく打った。

 

 

 

「私に関してはあまり歓迎されている、というわけじゃなさそうだけどね?」

 

 

 

 そう言う彼女の細められた瞳の奥に危険な色が灯った気がする。

どことなく加虐的な、悪戯っ子のようなその色と言葉に、なんて諌めるかと考えていると、モニター越しに静かな声が響きました。

 

『自覚があったとは驚きだね?温泉開発部部長、鬼怒川カスミさん』

 

「……セイアちゃん」

 

 ハナコちゃんがそう言って見つめる先、緊急会議だからとトリニティ側から出席してくださった現ティーパーティホスト。

三人いる生徒会長の代表者である百合園セイア様がいました。

 

「セ「おや?これはこれは、トリニティのお姫様じゃあないか!驚いた、通信越しとはいえ会えるとは……あー、なんだったかな?あまり身体が強くなくて人前に出ないんだったか?どうだろう?我が部が拵えたとっておきの秘湯で湯治なんて!腹によく利く泉質が湧く場所をちょうど見つけてね」……ぁ、ぁぅぅ……」

 

『遠慮しておこう。私は君達と違って湯船で煮込まれる趣味はなくてね』

 

「ぁ、あのぉ……」

 

 通信とはいえ早朝からお呼び立てする形になってしまいましたし、しかもまだ互いの自己紹介と昨夜のミレニアムでの戦闘の映像記録しか見てませんでしたから。

出来るなら先ほどのカスミさんが来られた時に慌てて席を立つ形になってしまったのをまず謝りたかったのですが、中々話に割り込めそうにありません。

 

「ハッハッハ!確かにそうだ、ゲヘナの湯船は少し暑すぎると聞くからね。あまり熱しすぎてグラーシュを作りたいわけじゃない。なにせジビエは臭み抜きが大変だからね、特に雑食は腹が臭くていけないな。あぁ、そういえばトリニティの西部には良い温泉地があるそうだね?なんでもまだ開発中だとか!如何だろうか!百合園生徒会長!私を頼ってくれたなら最高の温泉を掘り当ててみせるとも!」

 

「せ、セイ『結構だよ。我々の自治区の事は我々で済ますさ。それに君達、ゲヘナでも随分とやらかしているのだろう?あまりそういう企みは感心できない』ぁさまぁ……」

 

 駄目です。

笑顔でお話しされてますけど圧が強すぎです。

全然お話についていけません。

 

「負けないで、ヒフミ」

 

後ろから腰に手を当てながらそっとアズサちゃんが抱きしめつつ耳元で応援してくれますけど、心が折れちゃいそうです。

あとアズサちゃん?

脇腹揉まないで下さい、変わってないとは思いますけど最近ちょっと食べ過ぎかなって不安なんですから。

 

「おっと!良いのかい?君達のところの教えでは、ほら、なんと言ったかな?人と交わりをしない者は何とやら……賢き教え、箴言、だなんて聞いたけどもね」

 

『その続きは知っているかい?愚者は悟ることを喜ばず押し付けがましく自分の話をしたがるらしい。嗚呼、それから私()*15ミカと違って*16ジビエは苦手だよ。特にほら───()()()()()()()()()()()()()()

 

「おいおい、勘弁してほしいな百合園会長。今、()()()()という話をしたかな?あと好き嫌いは感心しないなぁ。夏も、もうじき終わるんだ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あ、頭が痛いです。

 

 頂いたお薬はちゃんと飲んでるんですけど効きが悪いんでしょうか*17

なんだってこんな喧嘩腰でお二人は急に話を始めてしまったのか、そう思っているとセイバーさんが耳打ちでもするように念話で尋ねてこられました。

 

『(ヒフミ……なぜあんな見目麗しい少女がこんな……君の学校の生徒は少し喧嘩っ早くないかい*18?)』

 

『(……そのぉ、ゲヘナの方とはですね……ちょっとこう……でも!普段のセイア様はもっとですね!というかトリニティはですね!とても穏やかな方が多い*19んですよ!)』

 

『(ん?それは勿論分かって……あぁ、そういう事か、いや、まぁ構わないんだが。しかし、困ったな。時間も有限だ)』

 

『(それはそうなんですけど……なんですかその微笑ましい物を見る顔は!?セイバーさん、私は今とっても悩んで、これからこの話にどう収拾を……セイバーさん!聞いてくださってますか!?もーっ!都合の良い時ばっかり!)』

 

 何故か納得して笑って言い合いを見つめ始めたセイバーさんに抗議しつつ。

 

「あ、あのぉっ!会議!会議の続きしましょう!」

 

私も諦めて手を上げました。

お二人の話合いを止めないといつまで経っても次にいけません。

 

「っと、悪かったね。ついつい口も軽やかになるという物さ。楽しかったよ、百合園生徒会長、いや本当に。ぜひ、今度はゆっくり湯船に浸かりながらなんて如何かな?貴女におすすめの源泉がある。温泉開発部の部長として自信と誇りを持って勧めよう」

 

『君が幸運の青い鳥になるというなら喜んで。得難い次の機会を君が一房手に取ったのなら、その時は私もお誘いを受けるとも。嗚呼、ヒフミも悪かったね。会議の途中だというのに』

 

「いえ!こちらこそ……ぁ、それにその……す、すみません、セイア様……会議の途中で抜けてしまって」

 

 頭を下げられるセイア様に私も慌てて別件の話で謝罪をする。

実際、始まったばかりでしたが会議の席を立ってしまいましたから。ただ。

 

『いいさ、いきなり珍妙な客人に拠点を爆破されたのだという。今日日、兎狩りだってもう少し穏やかにするというんだが……どうやらゲヘナではそこら辺の教育、いや躾はしてくれないみたいだからね。君達が席を外してしまったのも致し方ないさ』

 

「珍妙!結構、結構!いやぁ、これは参った!トリニティの眠り姫!ティーパーティの重鎮にそんな風に言われてしまうとは私も些か恥ずかしいという話さ。しかし今日は随分お加減良さそうだね?聞いた話では随分腰が重くてしょっちゅう会議は不参加、お隠れになったという話だけど、今日はいいのかな?お姫様」

 

『なに、目覚めに随分と騒がしくてしてくれたからね。嫌でも目が冴えるさ』

 

 どうしてまたこうなってしまうのか。

小気味よく二人が皮肉の応酬を始めてしまう。

それに慌ててまた軌道修正しようとしたところ。

 

「それは重畳!さてさてぇ!役者はそ『あのさぁ』……ひぇ」

 

なんだか、すごく情けない声が隣から上がりました。

 

『君、委員長ちゃんとこの子だよね?ゲヘナの。でさ、なんでそんな子がわざわざ来たわけ?しかも拠点に爆薬まで仕掛けて』

 

「は、ははーん!なんだい、なんだいお嬢さん?私の素性が気になるという話ならば『おい』……ひぅ」

 

 モニターに映るのは頬杖をついた姿のホシノさんとその後ろで困った顔で引き攣った笑みを浮かべるアヤネさん。

そんなお二人、というかホシノさんの声と姿を見た瞬間でした。

椅子からずり落ちそうになるカスミさんの姿がありました。

もうなんでしょうね、声にさっきまでの勢いがありません。

本能で天敵*20だと察知してしまった小動物、みたいな感じです。

 

『おじさんさ、理由を聞いてるんだよ?早く答えてよ───なんでセイバーのマスターなんて、そんな聖杯戦争の話も知ってるの?大体なんで拠点に来たの?必要なら……』

 

 そうホシノさんが言ったところで慌てて止めるようにモニターに向かって手を伸ばしながら、カスミさんが堰を切ったように話し始めました。

 

「いやいや、待った!ちょぉっと誤解があるんじゃぁ、ないかな?どうだい?それにほら!私が此処に来た理由なら君達の方が知ってる筈だよ。何せ私は他ならぬ君たちに呼ばれたんだからね?さぁさぁ、教えてくれたまえ!会議はどこまで進んだんだい?各地の被害状況の話は?ゲヘナについては勿論分からないだろう?だから私が来たんだよ!」

 

 カスミさんのその言葉はまさしくその通りなんですが、なんでしょうね。

これが噂に聞く貴方が言うな、というやつなんでしょうか。

 

『拠点の防壁を二割近く吹き飛ばした挙句に、百合園会長と皮肉の応酬を楽しんでいた貴女に言われるのは癪だけど……まぁでもそうね。話はしてしまいましょう。大体貴女の立ち位置も理解できたわ』

 

「おぉ、流石はミレニアムの生徒会長!お噂は予々!お会いできて光栄だとも、さぁさぁ調子はいかがか『おじさん。あんまりウルサイの好きじゃないなぁ』……ひぇぇ」

 

 同じことを思われたのか調月会長も眉間を揉んでおられますし、ハナコちゃんの笑顔も。

 

「とにかく会議を進めていきましょう。ミレニアムであった戦闘の一部は確認済み。次は」

 

『各地の被害状況とその際の戦闘で確認された気になる点を洗っていく形……だろう?ハナコ』

 

「はい♡まとめて下さってありがとうございます、セイアちゃん♡」

 

『ふふん。こんなこ「でも」……ん?』

 

完全にお怒りモードの時のです。

 

「話、というより会議が始まるの遅くなった原因はセイアちゃんにもあるので後でお説教♡ですね」

 

あの笑顔の時は長引くんです。

ちょっと前にセイバーさんとキャスターさん洗濯物をまとめて干そうとした時も大変だったんですから*21

 

『んんんん!?ま、待ちたまえ!いや、そのだね……!』

 

頑張って下さいね、セイア様。

では改めて。

 

「会議を始めましょうみなさん───昨晩あった事件について、もう二度と起きないように」

 

 私達補習授業部とセイバーさん。

モモイちゃん達ゲーム開発部のみなさんとキャスターさん。

ミノリさんとスパルタクスさん、

ウイさんも合わせた拠点にいる13人。

オンラインで参加して下さるのはトリニティからティーパーティを代表してセイア様、ミレニアムからはセミナーで復興の支持をされる中での参加となった調月会長、アビドスからはホシノさんとアヤネさん。

そしてたった今来られたカスミさんも合わせた19人での会議が再開しました。

 

 

 

 

 

 

*1
大変だった

*2
思い出すだけでも頭の痛くなる時間であった

*3
当然と言うべきかサーヴァント達は見張りを請け負い、拠点修復を担当する白石ウタハと目が冴えてしまったというモモイと資料作成の為に泣く泣く睡眠時間を削ることになった古関ウイの2名は徹夜と相なった

*4
その名の通り紅茶のティーパックや茶葉を浸したお湯でする入浴方法。紅茶に含まれるタンニンやポリフェノールの効果で美肌や髪のトリートメント効果が期待できる、らしいが。一番は恐らく紅茶の香りを楽しむリラックス効果だろう

*5
別に有名ではない。この手の奇天烈なトレンドなる物を発信するのは大抵ワイルドハントかミレニアムか百鬼夜行である

*6
トリニティ中心部は確かに硬水だが、自治区全体を通して見ると軟水も豊富である。トリニティは意外と水に恵まれた土地なのだ

*7
損耗度にして18%。鬼怒川カスミの発破の技量は確かだった。ちなみに昨晩から徹夜のウタハの目は笑っていなかった

*8
意外と辛辣なヒフミであった

*9
ミカさんっ!何してるんですかっ!?早くビデオカメラをっ!スマホで良い?何を馬鹿なことを言ってるんですかッ!?ヒフミさんが!ヒフミさんがほわんほわんだなんて言ってるんですよっ!事は大変重大な……聞いているんですか!早く!……ミカっ!

*10
ちなみにケセドが穿り返した現在の同盟拠点から湧き出しているのは非火山性のアルカリ性単純温泉である。何故廃墟からそんな良質の温泉が湧き出るのか、これから暫く鬼怒川カスミは頭を悩ませる羽目となったのは全くの余談である

*11
掘るな

*12
至極当然であった

*13
仲正イチカ。トリニティ総合学園2年生であり正義実現委員会に所属する生徒である。面倒見の良い生徒なのもあって後輩達から多く慕われている。なお、本人曰く鬼怒川カスミとは本当の意味で腐れ縁とのこと

*14
後日コハルに聞かれた際、断じてそんな関係ではないと笑顔で説明をする彼女の姿があった。ちなみに目はがっつり開いていたらしい

*15
うんうん☆

*16
は?

*17
残念ながらあの薬の副作用には偏頭痛があった。それはそれとしてメンタルに起因する頭痛を緩和する効能はそもそもなかった

*18
事実無根、とは言い切れないのが残念である

*19
間違ってはいない。トリニティは淑女たらんとする生徒が数多く在籍するのは主観的にも客観的にも事実だろう。問題はその事実と短絡的な血気盛んさが両立している点である。ゴリラが知的なのと力が強い事が両立するように、だ

*20
悲しいかな。小鳥遊ホシノは大変理知的かつよく考えて行動する少女だが、キヴォトスの生徒らしくと言うべきか、例に漏れず殴って解決するという手段が時に最短かつ最適解だとよく知っていた。つまり、鬼怒川カスミの天敵である

*21
それはもう大変だった





1じゃんね☆
というわけで10日目に突入じゃんね☆
ちなみにセイアちゃんとカスミちゃんのお話に他意は特にない、ただの戯れ合いレベルの挨拶じゃんね☆
うちのトリニティ生はどうしてこんなブリティッシュトーク大好きっ子になるんだろう……

というかこれ書いてた時はセイアちゃん実装してなかったから、まさかEXPOであんな可愛い姿を見せてくれるとは思わなかったじゃんね☆
セイアちゃん……明日もちょ時間で会えるの楽しみじゃんね……☆

123話記念?短編で読んでもいいよーっていうのを選んで下さいな、じゃんね☆

  • ①最新話までの内容でプチ一問一答
  • ②聖杯戦争終結後の日常(if)
  • ③ヒフミちゃんinカルデア(if)
  • ④ウイちゃんの聖杯戦線日記(続き)
  • ⑤おいでませ!エクストラクラス!(if)
  • ⑥アサシン師匠の気ままな1日
  • ⑦召喚されたのが○○だったら(if)
  • ⑧ある日のカヨコちゃんとムツキちゃん
  • ⑨ヒフミちゃんのお茶会(相手はアンケ)
  • ⑩アーチャー陣営の昼下がり
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