「まずは確認したい事から。まずはざっくりと各地の被害状況について」
ハナコちゃんが司会進行を買って出てくださったのでお任せする形になるかと全体を見渡します。
「その次に各自治区で確認されたサーヴァントの詳細な情報を。最後に彼らとの戦闘で確認された細かな疑問点等を共有。以上を踏まえた上で案を出し合って今日これからの動きを決める……でいいですかね?ヒフミちゃん」
「はい!ありがとうございます、ハナコちゃん!」
食堂の長机に今朝から備え付けられたホログラムディスプレイを取り囲む形で座る私達。
エンジニア部のみなさんは今回は昨日の戦闘とそれから今朝方の爆破の修復作業で出掛けておられます。
だから残るのは通信越しの調月会長、ホシノさん、アヤネさん、セイア様。
そして。
「いえいえ、それでは……そうですね、先に簡単な物から片付けてしまいましょうか?鬼怒川さん」
「おっと!いきなり新参の私かい?これは困ったぞ、こんなよく回る口をしているが私は小心者でね。一体全体何を聞かれてどんな相談事をされるか、果たして快刀乱麻を断った明哲な答えを私のチンケな「いいえ」……はて」
ハナコちゃんから名指しを受けて余った袖を振り回してから、今はもう、冷たい目をしている彼女だけ。
「確認したいのは簡単な話ですよ、鬼怒川さん。恐らく貴女は今回の騒動は勿論、聖杯戦争についての知識もあまり
「……ほぉ」
会議はハナコちゃんから、突然来訪されたカスミさんへ切り出す形から始まりました。
「各校の会長陣だけかと思えば、存外バレるのが早いね。いや驚いたよ、あれかな?君がブレイン、そういう理解で良いのかな?」
「さぁ、どうでしょうか。確証はなくとも私以外でも推理は十分可能かと」
「いやぁ!困ったな!……君の言う通り確証を持てない範囲でばら撒きはしたさ。だから直球勝負をさせるつもりはなかったんだけどね。だがそういうのもまた一興!では名探偵?推理をひけらかしてくれたまえよ」
余計な脂肪なんてないと言わんばかりに細くて綺麗な足*1を組んで机の上に乗せようとしたところで、モニター越しにホシノさんに睨まれて変な声を出されたカスミさんへ、ではなく。
「と、いうことなんですがどう思いますか?ミドリちゃん♡」
カスミさんが聖杯戦争についての情報をあまり持っていない、その解答を求められたハナコちゃんはにこやかにミドリちゃんへとバトンパスしました。
当の本人で急に話題を振られたミドリちゃんも、カップの中身を跳ねさせるようにして驚いてしまいます。
「わた!?私ですか!?」
「おいおい、そちらの双子ちゃんに解を求めるのかい?私は何もそこまで「えぇ、だって」……」
「私がブレインだなんて、私だけがそうだなんて。
「……結構。では粛々と聞くとしようか。いやしかしだね、どうして君達は私の会話を遮りたがるかなぁ」
自信たっぷり、そんな様子のハナコちゃんに促されて暫く悩んでから。
「鬼怒川先輩は……その、多分ですけど。セイバーのマスターが誰かなのかは知ってても、それ以外は知らないんじゃないでしょうか?」
ミドリちゃんは静かに語り出しました。
「他のマスターがいる事も含めて全く知らないから最初に拠点に来た時も確実に知っているヒフミさんにだけ話しかけた。スーパースターなんて呼びかけたのは各校の有名人だけなのも誰がマスターかまでは知らないからその話題含め聖杯戦争の話に触れない形を取りたかった。マスターではなく、知っている人間から
だからヒフミさんや百合園先輩とだけ話してた、そう言うミドリちゃんの言葉にカスミさんは何も答えない。
「……それはきっと私達の関係性だったり陣営の内情とかそういうのは知らないから、って理由じゃないかなって思います」
ただ怪しく尻尾を揺らしながら白衣の下で譲るように手を動かすだけ。
「コハルちゃんがふいに出した仲正さん、でしたっけ?その話題にも随分急に乗ってきましたよね。でもその割には
そうなの、と袖を引っ張って聞いてくるコハルちゃんの唇に*2人差し指を当てつつ*3、私は続きを静かに待ちます*4
「多分ですけど、コハルちゃんがいる事も彼女が本当に同じ部活の生徒かどうかも確信が持てなかったから、ですよね?ほとんど何も知らないという事を悟らせない為に、極力断定する形での物言いを避け続けた」
人の事をしっかり見ているミレニアムの名探偵は、カスミさんの言動に振り回されっぱなしになっていた私とは違って、彼女の意図を一つひとつ解き明かしてくれていく。
その姿に頼もしさをひしひしと感じます。
「だから、あの、ええっと「セイア様!百合園!」そうそう、百合園会長に喧嘩吹っ掛けるついでに情報収集できるように話の主導権を握り続けようとして、けど
『えぇっ!?ほ、ホシノ先輩!そうだったんですか!?』
『えー、どうかなぁ?おじさん、忘れちゃったよー……まぁ、アヤネちゃんはそのままで、ね?無理して人のこと見続けると、目が疲れちゃうから』
片目をつぶってそう言うホシノさんに、驚いた様子のアヤネさんと。
「……ふふ、今日までの頑張り♡、なんてそういう風には見て頂けませんか?ホシノ先輩」
何故か笑顔だけど、少しだけ苦みが走る影を宿したハナコちゃんがそう言う。
それにホシノさんは少しだけ驚いた顔をしてから、また溶けたバターみたいにじんわりと温かくなる柔和な表情を浮かべられました。
『んー、まぁ。本人達がそう思うなら、おじさんの思いすぎだね、ごめんよぉ……でも、無理はし過ぎないようにね。あんまりわるーいのばっかり見てるとさ、自分がしんどくなっちゃうんだから。無理、しないでね、ハナコちゃん』
「……うふふ、ありがとうございます。ホシノ先輩」
暫く二人だけが分かっている、みたいな何とも言い表しにくい空気が流れます*5。
そんな中をおずおずとミドリちゃんが声を上げてくれました。
「えぇっと……とりあえず結論ですけど、ヒフミさんがマスターなのは知っている、でもそれ以上の私達の陣営についての知識はない……でいいですかね?」
「あら、ごめんなさい、ミドリちゃん♡私も概ねその感じかと♡ちなみにユズちゃん、補足はありますか?」
「あえぇっ!?わ、わたし!?えと……ぁぅ、その……ゲヘナ、というかライダー陣営については知ってるけど、多分そんなに内情までは詳しく……ないんじゃないのかな……?陸八魔さんのところにいるサーヴァントがライダーかどうか知ってるかも微妙、なのかかな?話す内容が全部、同じゲヘナにいるのにライダーの話題に触れないないで恩恵とかそういう曖昧な言葉選びだし。サーヴァントについても危険なのはある程度は知ってるけど、具体的には把握しきれてない。あと爆破したのは本人の趣味の線もあるけど……そうだ、鬼怒川さんは私達への連絡手段がない。誰かに呼ばれたっていうならそれを経由して私達にコンタクトすればいい。けどしないなら、出来ないなら『仲介役』、そう考えたらお使いって言ってるの納得できる。でも昨日の騒ぎとかで神経質にならざる得ない私達にいくら被害が軽微でも拠点を爆破なんてそういうアクションをするのは悪手……あ、だからミドリは聖杯戦争や私達の陣営についての規模だって把握出来てないって言ったんだ。なら流れはこうかな?拠点を連絡手段がないのを良い事にいつものように爆破してみたけど、私達の動きや反応が予想以上に過敏で失敗と事態が思ったよりも深刻な事に
怒涛の勢いで並べられていくユズちゃんの推理。
その話自体はとっても長いですけど内容自体は的を得ているのが聞いていてよく理解できます。
そしてそんな詰将棋でもするような細やかな推理を受け取ったカスミさんもまた、白衣越しに両手を挙げられました。
「おーけー!ストップだよ、お嬢さん方。なんだい、どうした。これは一体、いよいよ私達の次の世代も安泰ってわけかな?驚いたよ、随分と
「えぇ。私の自慢の友達です……いかがですか?鬼怒川
「やれやれ、ソレは失敗したというのに。あぁ、素直に負けを認めようか。君達の言う通り、そして予想通り私は聖杯戦争についてちっとも知らない。そして私から伝えられる内容はコンパクトだから、出来れば話は後に回してくれるとありがたいね……私としても話が飛んで君達の邪魔をするというのはさ、あまり好ましくないし」
そう言って今度こそカスミさんは静かに紅茶に口をつける。
まるで暫くは黙っているよ、そう言外に伝えてこられる態度にハナコちゃんも頷きを返しながらこれからについての話を始めます。
「ではゲヘナについては後でまとめて。D.U.や他自治区に関しては」
『えぇ、なんとかチヒロに無理を言って収集してもらったわ。あまり得る物は多くないようだけど、私が話すから気にしないでちょうだい』
「分かりました、ならその辺りについてはリオ会長からお話し頂けるということで……それではみなさん、各自治区の被害状況の報告をお願いします」
『ミレニアムではセミナー本部から重症者が1名、治安維持部隊から20名、うち1名が重症。一般生徒への被害は少ない、けれど建築物等への被害ならそれこそ大小数え切れないわね。大きな所で目立つのは発電所はエントランス部分が、セミナー本部はその階が丸ごと爆破されたわ』
『トリニティは建造物の被害は少ないね。本校舎のバルコニーとその上の階が何層かぶち抜かれたぐらいさ。市街地は幸いな事にそれほど被害はなくてね、とりあえず私のセーフハウスとその周辺家屋がまとめて倒壊してその辺りが更地になった、その程度*7で済んでいる。住民や生徒のその件での被害はゼロだよ』
始まりは調月会長から。
ある程度、ユウカちゃんやC&Cの方が負傷された、そういう話は伺っていました。
そして続くセイア様からも、
詳しくは語られず心配いらないとだけ気遣って頂きましたが、それでも苛立ちに似た不安を感じずにはいられない現状について事前に聞いてからの話になりました。
『……ただ、残念なことに犠牲者自体は存在する。ティーパーティから2名、うち1名がひどい怪我でね。正義実現委員会からは1名のみ。そして意識不明の重体となった生徒も、
『……調べた限り、D.U.は生徒と自治区住民含めて重軽傷者が79名。幸い役職持ちの幹部は元気*8だそうよ』
幸いだったのかもしれません、カスミさんが来た事は。
彼女が来たおかげで熱くなりそうになった私達の頭は一度冷えています。
もしあのまま話を続けていたら不安や、悲しさから会議に集中するのだって大変だったでしょう*9。
ですから今、私の真向かいに座って欠伸を漏らしながら目を細めて話に耳を傾けている彼女には感謝したいと本心から思います。
拠点の入り口を二割ほど壊されてしまわれた件についてはなんとも、ですが。
『アビドスは今のところ問題なしかな?廃屋とかはちょっと*10吹き飛んだりしたけど、大体の戦闘は砂漠でだったしね……アイツ、この感じだとちょっと特殊なケースだったから』
『レッドウィンターについては静かな物だったらしい。影のような生徒についても確認できなかった』
『他自治区についても調べた限りでは同じような状況ね。特に百鬼夜行は夏祭りなんて開催していたようだから、よっぽど安全だったのでしょう』
ホシノさんの言葉に引っかかりつつも、それ以上に気になるのは今回の被害。
事前に確認した限り、重軽傷合わせてもかなりの数の犠牲が出てしまいました。
その事実が重く伸し掛かると共に、だからこそ疑問が湧くんです。
それはセイバーさんも同じようで、彼は単刀直入に口火を切りました。
「ただそれらの人的な被害も全てが敵の攻撃による怪我、というわけじゃないね?」
そう、怪我人は出ました。
大きな、本当に大きな怪我を。
「(……ナギサ様、ユウカちゃん……)」
命に別状はない、そう言われても心配と申し訳なさと無力な自分への不甲斐なさで転げ回りたくなるぐらい。
大きな怪我をさせてしまった人達がいる。
さっき聞いた時は熱く、今はただ重く冷たく伸し掛かり続ける事実。
でもそれを含めて違和感があるんです。
被害が予想よりずっと
昨晩あの時見た数の戦力に対して出た被害者の数が、思っていた数よりずっと少ない。
『……D.U.もミレニアムも避難時の転倒や、攻撃を受けた際に倒壊したビルの破片での怪我が主だった原因となるわ。実際に戦闘を受けての被害は、それこそ今回の負傷者のうち、全体の一割以下でしょうね』
「こんな言い方はしたくないが、侵攻の具合、いや揃えた戦力の割には怪我人があまりにも少ない。ここまでくると、最早あからさまだな」
『敵の数はこちらで確認出来た限り、D.U.、ミレニアム、トリニティに出現した例の影の数を合わせて二千に届く程だ。やろうと思えばもっと大規模な攻勢も可能だった、もっと大きな被害にもなり得ただろう。だがそうはならなかった』
「えと、それじゃあ……その数を動員して別の事をしたかった、って事ですよね……?」
コハルちゃんからの質問にセイア様は深々とした頷きをひとつ返されました。
『あぁ。あれだけの兵力を繰り出してきた理由自体は幾つか推測は挙げられる。たとえば純粋な示威目的なんかは分かりやすい。なにより今回の彼らの目的は明白になっている。トリニティ、アビドス、そしてミレニアムで実際に対峙したシャドウサーヴァントからその話を聞き出している』
その言葉を引き継ぎながら暗い面持ちで調月会長も呟かれる。
昨晩の敵の攻勢、私達の拠点まで大挙して現れた勢力も含めてその殆どは陽動。
本当の目的はもっとずっと、小さくて、陰湿で、何より許せない事でした。
『ミレニアムからはユウカ、アビドスからは砂狼シロコさん、ゲヘナは丹花イブキさん、シャーレの先生、そしてトリニティは貴女と……』
『ナギサ。桐藤ナギサが狙われたよ』
とは言っても本命となった生徒に関しては命に別状はないよ、そう言って安心させるように微笑むセイア様の言葉。
ですが、それでも胸の奥を掻きむしる痛みは忘れ難く鈍痛となって響いている。
ナギサ様、ユウカちゃん、シロコさん、セイア様。
更にはまだお会いしたことのない丹花イブキ
私たちの大切な先生。
たくさんの人達が狙われたその事実で打ちのめされる感覚を覚えてしまいます。
そして彼と彼女達は、怠惰のランサーというサーヴァントの話によれば。
私達の心を折る、ただそれだけのために狙われたというんです。
『幸いにもミカ、うちの肉体労働担当が間に合ってね。そうだね……二人とも少し検査入院にはなったけどなに、問題ないと思ってもらって大丈夫だ。ミカは午後には現場復帰できる*11し、ナギサも明日の午前には様子を見て退院、まぁ、心配しなくてもというところだね』
『ユウカは明日退院からの自宅療養、そちらのシロコさんは大きな怪我をせずに済んだそうね。いずれの生徒も命にまでは届かなかったとはいえ幸いな事だわ。怪我人なんて少ないに越した事はないもの』
『そうだね、多少疲れはあるみたいだけどアビドスに関してはそこまで被害は考えてもらわなくて良いかな……ただアイツらの目的が見えた以上、あんまり小回り効いた動きはおじさん達には難しいかもだけどね』
「だろうとも。一度狙われた以上、次がないとは決して言えない。警備体制については?」
ミノリさんの質問への返事は力強い答えとなって返ってきました。
『我が校なら既にツルギ委員長が復帰済みだよ。正義実現委員会が全力で警護に回ってくれている……問題はなさそうだ』
『ミレニアムも同じね。C&Cが主導になった要人警護態勢を構築済みよ』
「とりあえずその点については問題なさそう、なのかな?」
「一先ずはそう考えるべきだ。無闇に怯え過ぎて必要を越えた備えを追求する。待っているのは『より多く』という目に見えない不安に駆られた狂騒だけだ」
「えぇ、キャスターさんの言う通り。既に対策は取りました……次はありません。ですから今は改めて確認をしていきましょう───私達の敵について」
ハナコちゃんはそう言いながら、手元にある資料をめくります。
それに合わせて私達もそれぞれ配られた紙の束をめくり書き込まれている内容へと目を走らせる。
ドローンで撮影した黒い靄、そこにあったのは昨日対峙した『敵』の姿でした。
「まず私達が遭遇した敵、恐らくは敵の宝具かスキルによって発生した黒い生徒。そして4騎のシャドウサーヴァント」
「シャドウサーヴァントについてはそれぞれセイバーとバーサーカー、それから私とキャスターが倒した。いずれも、形が崩れて黒いの靄のかかった、ゲヘナの風紀委員長から聞いていたシャドウサーヴァントの特徴と一致した存在だった」
私達が相手にしたシャドウサーヴァント、セイバーさんがあの時拠点周辺に感知した『四騎』は、辛うじて人の形になっている不定形な泥のようなサーヴァントでした。
それはアズサちゃんの言う通り以前聞いていた霊基が『不完全』という特徴通り、セイバーさん達とは似ても似つかないほど不安定な様子です。
ただ、そんな私達が前々に想定していた存在とは全く別の存在が今回現れた。
『私達が前から確認していたのは前者になります。顔の部分が真っ黒に塗り潰された影のような生徒。それらの情報はこれまでミレニアム、そしてトリニティ側で共有していた……その筈でした』
それが今アヤネさんが話されて、昨晩ホシノさんがユウカちゃんと話そうとしていた内容。そして私達も目にした存在。
『だが我々は勿論、そちらの派遣しているパトロール部隊の所属先である正義実現委員会もそんな内容の話は聞いていなかった……誰かが握り潰していた、という事だね?小鳥遊対策委員長、奥空アヤネさん』
『そうだねぇ。いやぁ、ミレニアムの書記ちゃんの反応見た時は焦ったよ。内通者がいる可能性だってちょっとぐらいは頭の片隅に置いてたけどさ……それだって信じたくなかったよ』
『幸い、私達も自治区のパトロールはこれまで派遣された正義実現委員会のみなさんとご一緒してきた中で個々での交友関係を築けていました……その繋がりからシフト等を洗い直して、内通者と思われる存在が現れる時間に直接接触を試みたところ』
内通者。
情報が意図して握り潰されていたとなれば、あまり気持ちのいい話じゃないとはいえ普通に考えるならそれが筋でしょう。
ですが実際は違いました。
「戦った、感じですよね?奥空さん」
『アヤネで大丈夫ですよ、ミドリちゃん。彼女の言った通り、私達がその場を抑えた時点でその生徒2名は靄のような黒い影となって逃走。アビドス市街地内で撃破する形になりました』
内通者は
代わりにいたのはその時の通信を担当する生徒に成り代わっていた『ダレカ』。
シフトの隙間を縫うようにして、いつの間にか増えている『ダレカ』。
つまり影のような生徒がアビドスには、いた。
一体いつからかは分かりませんが彼らは私たちの生活にひっそりと気づかれないように潜り込んでいた。
「……あまり外に出ない私でもあの生徒によく似たナニカを一目見てその異質なのが分かりました。けどあくまでそれは戦闘時だから」
『だろうね。恐らくは諜報活動や妨害工作をするとなれば気づかれないよう立ち振る舞えるのだろう』
「……怖い、ですね……なんだか、その……ホラーゲームとかの……あ、いえその!ゲーム感覚で話してるとかじゃなくて!……ぁえと、そのぉ……」
『大丈夫よ、ユズ。ここにいる人間は貴女の言わんとしていることを理解できるわ』
気がついたら周りのお友達もみんな、違う『ダレカ』になってるんじゃないか。
そんな風な不安を口にするユズちゃんの気持ちは分かります。
だって、どこまで相手の手が伸びているのか分からないんですから。
同じ事を考えてか、一様にみなさんの顔が曇られます。
この場にいるのならまだ良いんです。
『直感』ですけど、多分実際にお喋りすれば相手が本物かどうかの見分けだって私だけじゃなく他の方でも出来ると思うんです。
だけど、さっきまで安全だと思っていた日常が『信用できなくなる』。
足元から崩れていく感覚は、純粋に怖い。
そんな私達の耳に、蒸気を噴かしながらいつもの低音が届きました。
「確かにどこまで奴らの宝具やスキルによる隠蔽が可能かは分かり兼ねる。とはいえ、だ。お前達の心配や不安は尤もだが、そう神経質になる必要はないと我は断言しておこう。少なくともユズよ、お前が心痛め不安に思うような事には、お前達の日常までが敵の手中にあるような事にはならんと我は計算している」
『……出来れば理由を聞いてもいいかな?ミスター』
「キャスターで構わん、金髪の娘よ」
その言葉は私たちに語られつつ、その実、不安に思う私達を気遣うように。
キャスターさんらしい気難しげな話し方の中に安心させるよう言葉を選んでおられる優しさが見え隠れされていました。
「サーヴァントには、そして宝具には
そう言ってモニターに映るのは今回被害にあった各自治区。
一つひとつが大きな面積を誇り、そしてその分離れてもいます。
「アビドス、トリニティ、ミレニアム、ゲヘナ。仮にマスターやその関係者が集まる自治区の手勢を忍ばせるとなってもこれだけ広大な土地全てをカバーしきるのは動員できる人数も、そして距離も難しいだろう。消費する魔力とて馬鹿にならん。少なくとも常時影の如き生徒を展開しておくなぞ出来んだろう」
『つまり、必要な時にだけ。たとえばさっきの話で言えば報告書を送るタイミングのようなそういう限定的な場合でのみ敵は間者を送っていた。そういう理解を私はしても構わないかな?』
「問題ない。奴らはいそいそと自分達に有利となるよう手紙を認めては帰っていく迷惑な輩という話でしかないのだ……お前達が己の居場所に不安を覚える必要はないのだ」
その言葉にユズちゃんだけでなく私も思わずホッとします。
やっぱり内通者はいなかった。
そして、敵は私達の日常の影に
誰が敵か疑わなきゃいけない、というのは辛いです。
たった5人のマスターを探す時だってそうだったのに今度はそれを複数の学園の全校生徒からだなんて。
私は想像もしたくありません。
『鼠らしい世知辛い事情だが、他人の物に手を出す愚者は往々にしてそういう剛毅に出れない吝嗇家という訳だ。とはいえ我々としては彼らの涙ぐましくも実らずとなった努力が影ながらであったのは朗報かな。膿出しに流血を強いる、その判断下すか否か今朝方まで考えていたからね。誰が敵か暗中に沈む中で掴むべき手を間違えたくはない』
「残りの日数だってある。これまで連携の邪魔をされてきた事は癪に障るが、誰が成り代りの偽物かどうか当てろだなんて面倒事がないというのは素直に喜ぶべきだろう」
そう言うミノリさんの顔にも少し安堵が浮かんでいますしセイア様も疲れたように皮肉を飛ばされつつ、一方で尻尾を揺らしておられました。
『しかしなんだい、想像に及ばぬ可惜物と聞いていただけに夢のような野放図かと思えば、宝具というのは思いの外縛られた物だね?』
「……宝具は決して万能な物じゃありません。むしろ単一的な機能を有した限定礼装、と呼ぶべき物です。確かにこの陣営にいるサーヴァント達のように多種多様かつ摩訶不思議な力を持ちますが……なんでもかんでも夢を叶えてくれる、それこそ『魔法』のような物ではないんです」
そう言えばセイバーさんの宝具も基本的にはビームを出すだけと仰ってたな、とウイさんの細く説明を聞きながら思い返しているとコハルちゃんの気持ちの良い声が駆けてきました。
「じゃあ、とりあえずは問題なしってことね!それなら次行きましょ、次!」
『んー、おじさんも賛成かな。とりあえず対処に関しては今後警戒してく形とかするにしても別個で私達が詰めなきゃだしね。そこの可愛い子の言う通り今はヒフミちゃん達もいるんだから、本題。優先しよっか?』
「えぇ♡では可愛い♡コハルちゃんに倣って、次の議題に移っていきましょう」
「一々かわいいってつけなくていいの!バカ!」
顔を真っ赤にするコハルちゃんについつい口元も綻んでしまいますが、まだまだ話さなきゃいけないことは山盛りです。
セイア様の咳払いを合図に私も気を引き締め直します。
『ひとまずの各自治区の様子は聞けたわけだ。次は交戦したサーヴァントについての報告になるが、如何だろう?このままの流れでアビドスから話すのかな?』
『……いえ、私達からの報告は後にさせて下さい』
「それは報告書に具体的な記載がないのと関係があるのかな?アヤネ」
『アヤっ!?え、えと……はい……そ、そうです』
引き締め直したんですけど、気を。
どっかの誰かさんがまぁた性懲りも無く女の子に王子様スマイルでいきなりファーストネームを呼ぶとかやり始めたせいで一気にぶち壊しです。
「あはは……どう思いますか?」
「死刑。適当に蹴っときましょう」
「そうですね」
「ははは……僕は文明的な話し合いを求めるよ、ヒフミ」
名前で呼んだだけだよね、なんて困った顔をしている唐変木さんは机の下で蹴っておきます。
見て下さいあのホシノさんの笑顔を。
完全にお冠ですよ、まったく。
そんな私達とセイバーさんを不思議そうに眺めつつお茶請けのカスタードタルト*12を口に運びつつ随分わき道に逸れていた話を元の路線に戻してくれました。
「もしかしてアビドスにポップしたアーチャーはとても強力なエネミーだったのでしょうか?」
『……んまぁ、強かった……かなぁ?ごめんね、アリスちゃん。おじさんもちょっと、うん、上手く説明できなくてさ』
「……随分と濁すな。聞けば実際に相対して倒してみせたという話だが。何か特殊なスキルや宝具の持ち主であったか?あとアリスよ、朝が軽かったからといってもあまり菓子ばかりつまんではいけない。腹が減ったというのなら冷蔵庫に昨晩の冷凍ご飯があるから温めてライスボールにでもするといい」
また脱線しそうになるのをアヤネさんは苦笑しつつ補足してくれました。ただその話は思っていたよりずっと複雑な物でした。
『自分はかなり特殊な事例なのだと、他のシャドウサーヴァント達とはレイキ、というのがそもそも違う作りだからオリジナルに性格等が近い、とりわけ性質については完璧に、と本人が仰っていました』
「……霊基が、ですか。それにオリジナル、性質、完璧……なるほど、完成というのはそういう事ですか。なら、どうやらシャドウサーヴァントとされる方達の中でもアーチャーさんは随分と状況が違うわけですね」
「……また厄介な。我としてはその点については詳しい確認をしたいところだが、恐らくは長くなるだろう。我やハナコの予想が正しいならば……お前達が聞いて気持ちの良い話でもあるまい」
ハナコちゃんが下唇を僅かに噛んだりキャスターさんが苦々しげに言われる様子やウイさんや調月会長が考え込む姿から、どうやらそう一筋縄ではいかない話なのだと思います。
ですが私にも、ちっとも答えが浮かんできません。
そんな私達にホシノさんはちょっと困ったような顔をしつつ話のバトンを渡されました。
『というわけで先に他自治区の報告を優先してもらえるかな?多分、私達のケースはかなり特殊だからさ。あの弓兵も
『……そうね。ならミレニアムの報告からしましょうか。と言っても話としてはさっきのでほぼ全て。ちなみに一応伝えておくのだけれど。対シャドウセイバー、シャドウランサーとの戦闘記録は既に鬼怒川カスミさん、貴方を除いた全員が閲覧済みよ』
「ハッハッハ、私は別にゲヘナの出だからと言ってウォーモンガーというわけじゃないさ。そこら辺の共有は結構、あくまで今回は
バトンの受け取り手は調月会長。
その彼女からの言葉に肩をすくめて答えたカスミさんへ素っ気ない返事をしつつ調月会長はおさらいをするように話し始めました。
『そっ、ならこのまま続けるわね。襲撃を受けたのはミレニアムビルのセミナー本部が入っているフロアへの爆破。それと保安部やC&Cへの直接的な妨害工作。そして発電施設への工作と……そこで行われたセミナー部員への攻撃と、彼女を守ろうとした生徒との戦闘が昨晩ミレニアムで起きた事になるわ』
カスミさんが来る前に閲覧した映像。
そこに映っていた二騎のサーヴァント。
怠惰のランサー、嫉妬のアサシン。
そう互いを呼称し合う彼らは、私達や空崎委員長さんが戦ったシャドウサーヴァントと違ってキャスターさん曰く『霊基が安定している』とのこと。
『出現したサーヴァントはランサーとアサシン。辛うじて予備電源で撮影できた監視カメラの映像、それから破壊されたドローンやオートマタから回収した記録からある程度の情報をまとめておいたわ。他のサーヴァントの情報も入れておいたから後で確認してちょうだい……交戦時の発言から影のような生徒はやはりアサシンの用いるスキルか宝具による物だと思われるわ』
「あれ?そういえば今回の大規模停電と通信妨害についてとかって調べ終わったんだっけ?」
『停電に関しては発電所のシステムダウン。通信妨害については……設備は勿論そういった電波も検知されなかったわ。魔術だったかしら、あまりこういう形で言い訳のように使いたくはないのだけれど……』
「その線でほぼ、間違いない……と思います」
疲れた顔をする調月会長の言葉を引き取りながらウイさんは、前に古書館で私達によくそうしてくれたように見覚えのある古書とウイさんらしかぬ電子タブレットを取り出されました。
「各校から提出頂いた資料を会議前に見させて頂きました。それらを拝見して手持ちの資料でにはなりますがある程度真名について当たりをつける作業を行いました。その結果になりますがセイバーさん、それから……キャスター、さん、とも相談の上で今回出現したサーヴァントの中でもランサーに関してはかなり正確に真名を特定できたと思います」
「ああ。幸い、僕が以前の聖杯戦争で見かけた事のある宝具の所有者だったからね。容姿は違ったがスキルや戦い方からある程度の推測が出来た」
「本当ですかっ!?」
思わず席から腰が浮きそうになりました。
サーヴァントの方にとって真名は宝具や自身の弱点にも繋がる重要な物。
それ一つ分かるだけでも格段に今後の動きが変わっていきます。
「ええ、まあ、はい。ランサーは宝具の真名解放してますし……一つの自治区を完全に通信妨害できるほどの魔術を行使するとなれば……まあ、ある程度はその……ぬひぇ」
しどろもどらに目線を慌ただしく逸らしつつ照れるウイさんを思わず微笑ましく見つめてしまったのがバレてしまったのか、ちょこっとだけ頬を唇を尖らせて不満を見せつつ彼女はすぐに咳払いしてから。
「……ランサーの真名は恐らくクー・フーリン」
静々とその名前を告げました。
1じゃんね☆
エンジニア部とヘルタースケルターちゃんは絶賛デスマーチ中じゃんね☆
話がひと段落したらにょきにょき会話に参加してくれるじゃんね☆
あとあと!アンケートまだの方がいたらよかったら選んで押してもらえるととっても嬉しいです!何卒、よろしくお願いします!……じゃんね☆
123話記念?短編で読んでもいいよーっていうのを選んで下さいな、じゃんね☆
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①最新話までの内容でプチ一問一答
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②聖杯戦争終結後の日常(if)
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③ヒフミちゃんinカルデア(if)
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④ウイちゃんの聖杯戦線日記(続き)
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⑤おいでませ!エクストラクラス!(if)
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⑥アサシン師匠の気ままな1日
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⑦召喚されたのが○○だったら(if)
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⑧ある日のカヨコちゃんとムツキちゃん
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⑨ヒフミちゃんのお茶会(相手はアンケ)
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⑩アーチャー陣営の昼下がり