阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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私は子供たちに対するように言うが、どうか貴方も心を広くして、私に応じてほしい。
不信者と、つり合わないくびきを共にするな。
義と不義となんの係わりがあるか。
光と闇となんの交わりがあるか。
主と無価値なる者になんの調和があるか。
信仰と不信仰となんの関係があるというのか。
(コリントの信徒への手紙二 6:13-15)


幕間:アンチヒーローズ

 

 深夜、ゲヘナ自治区。

不良生徒達が屯するスラム街。

その外れにある、立ち入り禁止区域。

そこで今、荒々しい戦火が上がっていた。

 

「……アコちゃんっ!」

 

 苛立たしげに少女は地面を踏んでから、耳元に備えた通信機で上司へと指示を求める。

戦況は芳しくない。

けたたましい銃声に混じって苦悶の声が所々で聞こえていた。

 

『ッ!持ち堪えなさいっ!イオリ!』

 

 だが上司の甲高い声で下される命令は一つ。

()()()()()ように、ただそれだけ。

理不尽、ではない事を少女も理解している。

 あともう少し。

あと1時間。

それだけ持ち堪えれば()()が来る。

それまでこの戦線を維持すればいい。

最善策はそれであった。

 だからこそ。

 

「っ!あーもう!そうだと思ったけどさぁ!!」

 

少女は焦れるように叫び、今己が置かれている状況を確認する。

指揮を任された部隊は寄せ集め。

まだ練成を済ませたばかりの新兵達。

指揮官は少女一人、既に包囲網はぼろぼろとなり敵戦力の反抗によって後方にある少女の元にも銃弾が飛び込んできているほど。

そして援軍はまだ来ない。

それらを踏まえ、吟味し。

 

「……ここは任せるッ!危なくなったらお前達は逃げろよなッ!」

 

少女は愛銃を手に取り、後方での指揮を()()()

 

『イオリっ!何度も言っているでしょう!いい加減、上級生として下級生の後方指揮のやり方を覚え「アコちゃんごめーん!なんか通信悪いわー!」イオリっ!!』

 

 通信越しに叫ぶ上司の声を聞き流しながら少女はからりと笑い、駆け出す。

その背にいた少女達は急ぎ撤収の準備を始めているのを感じながら、判断力はしっかりしていると内心で評価を上げる。

 そうして前線にいる後輩達へと指示を出そうインカムに触れた少女の前方に壁となるオートマタ。

既にその手にはアサルトライフルが握られ、5つの銃口が少女向けて牙を向く。

 それを少女は走りを止める事な対処する。

 

「邪ッ魔だァッ!」

 

体格は2mは優にあろうかという大型のオートマタを踏み込み一つ。

しなやかな肢体を活かして飛び越える跳躍。

そのまま空中で反転、オートマタの襟首部にある外装と内装機械との隙間へと銃弾を叩き込む。

げに恐ろしきは命中精度。

ただの一つも無駄はなし。

 

 軽やかに少女が降り立つのと同時に崩れ落ちる3機のオートマタ。

それを見送る事なく駆け出すと共に、いつの間にか左手に構えたサイドアームで残る2機のオートマタのメインカメラを破壊していく。

 

 流れるような一連の動きにはその走りと同様に淀みはない。

むしろ清々しさすらある。

事実、少女はこの鉄火場を前にしてその足取りを軽くしていた。

 

「(やっぱり後ろであれこれ口出すより、私はこっちだよなぁ……!)」

 

 性分に合わない、というのだろう。

少女にとってこの1時間の攻防は正しく頭を悩ませる物だった。

出来ない事は決してない。

だがやはり、今も前線へと向かわせんと幾重にも襲いかかる巨体と銃撃を交わし、野生の獣の如くのびのびと戦場を駆ける銀鏡イオリにとってその肌に最も合う。

 

「(にしてもやけに数が多いな……こんな事なら先生に応援を……って何弱気になってるんだ私!)」

 

 前方の敵影を対処しながら走りつつ、イオリの脳内を過るのは彼の事。

眼鏡の奥に見える優しげな眼差しをした白衣の大人。

多くの生徒が信頼を寄せつつも何故かやたらイオリに対しては情緒が狂うシャーレの先生。

 

「(あ、ああんな足を舐めてくる大人なんかに頼らなくたって私一人でも十分……あ、そういえば今日の先生、足の事なんにも言わなかったな……どうしたんだろう)」

 

 考え事をしつつ飛び込み前転。

グレネードを構えた敵の足元へと潜り込み、接射。

ほぼ零距離からの射撃をマガジン一杯、打ち込んでその分厚い胴体に風穴を開ける。

崩れるオートマタを残心するように見送り、ここまで休憩なしで一息で走ったからだろう。

イオリは溢れるように息を吐いた。

 

 その背後。

続いて飛びかからんとオートマタが迫る。

如何にイオリが戦闘を得手としようと体格差がある。

しゃがんだままという不利な体勢でもしも飛びかかられたその拍子のまま組み合ったならば、押さえ込まれるのは必須。

そして敵は背後から迫っていたが故に彼女に立ち上がらせる猶予を与えはしない。

 

 ならばどうするか。

 

「こん……のッ!!」

 

 回し蹴り。

或いはカポエイラでいうコンパッソ。

その蜾蠃が如きくびれた腰、そしてそこに繋がる広背筋と大臀筋を最大限に絞って文字通り振り切られるのは踵。

先生もこよなく愛すその美脚は、鉄すら破断せんとす勢いで風を旋らし放たれた。

 

 狙い通り、一蹴。

体重と速度を乗せたソレは最早鉄槌の重力と破壊力を宿した鉞と言うべき踵は飛び掛かる巨体の腹部に深々と突き刺さる。

その勢いを殺さずイオリは全霊の力を込めて押し込む。

金属が砕ける悲鳴。

それとと共にオートマタは廃屋へと叩き込まれ、意識を喪失させる。

その蹴りの勢いで崩す体勢、否。

 再度、しゃがみ、蓄える。

発条がそうであるように。

 

「ふんっ!!」

 

 跳躍。

先ほどよりも高く、二階建ての廃墟なぞ飛び越える勢い。

砲弾のように弓形となってイオリは()()

行く先は無論、集団戦が行われる前線へ。

邪魔するように大挙する敵影を全てショートカットし、文字通り月の見えぬ夜空から、白銀が降り立った。

 

「イオリ先輩!」「イオリ先輩だ!」「やった!助かった!」「先輩お待ちしてました!」

 

俄かに沸き立つ少女達の声。

それをちらりと見てから応える事なく、吶喊。

まだ一年生、未熟な彼女達とはいえ。

 

「……この……ッ!」

 

血を流し疲弊させた事への責任を、イオリは重くその肩に乗せて。

だからこそ、奔る。

 

人喰い反社共めッ!!」

 

 打撃。

ストック、頬当て。

大きく振りかぶりストックを叩きつける、少々乱雑ながらキヴォトスでも比較的な白兵戦の技術。

 だが、彼女は並のそれではない。

その証左。

見よその銃床を。

乱杭歯かはたまた猛獣の爪か。

本来銃の照準を安定させ、衝撃を抑えるべき場所に四つ並んだ鉄杭を備えた狙撃銃。

何より狙撃が旨なそれには本人の実力からスコープすらないという徹底的なカスタムが施される。

 

 阿呆か、否である。

あの混沌ひしめくゲヘナ学園。

自由である事を由とし、故に実力こそが尊ばれるその学園でただ阿呆なカスタムをして治安維持を果たせるだろうか。

彼女の戦い方に最適化する形でカスタムされた愛銃『クラックショット』を振い、それを万全に扱える。

そのカスタムこそが、ゲヘナ最強に認められた実力者だからという証左に他ならない。

 

 故に。

鉄杭を大型タイプのオートマタへと叩き込み、着地。

返す刀でそのまま射撃。

その数、僅か3発。

瞬く間に、手こずる部下達の前面にいた4機のオートマタを戦闘不能へと追い込む。

そうして、指揮下にある下級生達の前でイオリは叫ぶ。

 

「全部隊に通達!!ここは私が引き受けるからとにかく逃げてく奴の捕縛に専念!!!」

 

 捕縛。

そう、それこそが彼女の役目。

今夜行われている大規模な『温泉開発部とカイザー系列企業によるタトゥーシールの密売』。

これを抑えればゲヘナの闇市にタトゥーシールが流通されるのを阻止できるばかりか、何より風紀委員による攻勢は抑制となる事が期待される。

そればかりか、昨日あった『オーパーツの闇オークション爆破事件』とも関連があるのではと情報部から諜報結果がイオリの上司である『天雨アコ』の元へ、つい1時間ほど前に齎されていた。

故に、別件で出動中の風紀委員長に代わり、パトロール中だった彼女が率いる部隊が緊急で捕縛へと乗り出していたのだ。

 

「一匹残らず逃すなッ!!全員豚箱にもう一度叩き込んでやれっ!」

 

大声で叫ぶ。

その声に下級生達は応え動き出す。

銀鏡イオリは単独任務をまだまだ好むきらいはあれど、それでも場数を踏んできた2年生。

部隊指揮も、後輩達への戦場での指示の出し方も十分だった。

 

 確かに数は多い。

だが、指揮官であるイオリが前線を張ったことで部隊の士気も高まる。

それは実力はもちろん、その見目麗しい容姿と世話焼きな性格も相まって彼女を慕う下級生は多い。

そう、その美脚も含めてイオリは人気だったのだ。

 

 とはいえ、時間はかかる。

取りこぼしは少ない数とはいえ出る。

当然だ。

イオリ達は即応できる部隊をかき集めてきたとはいえ、連日の警邏やゲヘナで日常的に発生する珍事件や銃撃戦、そしてここ数日多発しているトラブル。

 それへの対応に心身共に疲れ果てていた。

イオリはそれでもこの身こなしだが、まだ前線にいるのは場慣れしていない1年生が殆ど。

そして、護衛のオートマタのせいだけでなくそれを支援する温泉開発部員達や雇った傭兵達の数も反抗も予想されていたよりずっと多かったのだから。

 

 だが、それでも大多数は一網打尽に出来る、タトゥーシールも大部分を押収できる。

イオリの指揮と奮戦、それに応えんとするその勢いは今まさに昂りを魅せんとして。

 

 

 

その筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは困るわ。ねぇそうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ライダー?

 

 

 

***

 

 遠く、聞き覚えのある声がイオリの耳に触れる。

またあいつらかとそれが聞こえた方向を見てイオリは、ここに来て初めて()()を覚えた。

 

 ───女が、いた。

 

 長身。

真っ暗なライダースーツに夜だというのにサングラス。

その出立ちは少しばかり奇妙でも、このキヴォトスではその程度はおかしくもない。

ただしその手には銃ではなく大杭を握り、だらりと呆れるほどに長い鎖を垂らしている。

 

 ───女が、いた。

 

 立ち振る舞いは素人だ。

歩いてくる動きも戦闘の訓練を受けた兵士の歩みとはとても思えない。

だが、イオリの全身に鳥肌が立つ。

 

 ───女が、いる。

 

 あれは()()()と本能で理解する。

少なくとも後輩がいるこの場で他の敵を相手にしながらどうこうできる存在ではないと、肌に触れる死の気配(異質な空気)で察してしまう。

 

だからこそ、イオリは叫んだ。

 

「全員ッ、持ち場を捨てて下がれ───ッ!!」

 

短く、怒鳴る。

最早指揮ですらないだろうが、なりふり構っていられないとイオリは全ての命令を破棄して後輩へと指示を出す。

 

 女はその様子を見ている。

何をする訳でもない。

交戦していた少女達がイオリの突然の指揮に戸惑いながらも応えて、下がり始めるのをただじっと、まるで待っているかのように眺め続ける。

 

「(ごめん、アコちゃん……ッ)」

 

 下がる少女達とは逆に、イオリは前へと詰める。

向かうは黒い女。

今回の捕縛任務との関係性はまだ分からないまま、アコからの指示も待たずにイオリは駆け出す。

それは一重に直感。

今ここでこの女を倒さなくては、この場にいる後輩達の命の保障が出来ないと、イオリは判断した。

 

 故の吶喊。

未だ女以外の敵影も多く、周囲の遮蔽物も活かしにくい地形。

ましてやイオリの愛銃はボルトアクション方式。

連射に長けた銃ではない。

後輩達を背にしてこの瞬間にも女を抑えにかかる必要がある以上、イオリに求められるのは接敵しての白兵戦だった。

 

「(まずは……足を止めるッ)」

 

 爆ぜるように前進。

そのまま流れるように牽制射撃。

引き鉄を押し込んですぐさまボルトを引いて次の弾丸を装填。

それを繰り返す事、都度5回。

腹部と脚部、狙いを分けて手早く敵の動きを止めんとするが。

 

「……冗談、キツイって……ッ」

 

 女は踊るように弾丸を避けてみせた。

銃撃を避ける、という芸当は別段キヴォトスでは珍しくない。

ましてやイオリのそれのように連射して弾幕を張るのに向かない銃撃ならば尚の事だ。

だからこそイオリはそれを考慮して避けにくい位置に置くように撃ったのだ。

それを女は軽々と躱してみせた。

当たらない位置に移動するのではない。

足を引く、半身にする。

そうやってほんの数センチだけ身体を動かす。

ただそれだけで、()()()()()()()()に躱してみせた。

その身体能力の異様さを、彼女はしかと理解する。

 

「(身熟しだけなら私以上……ならッ!)」

 

 くるりと反転。

持ち手を変えて、ストックを女へと向けながら殴りかかる。

猛獣のそれすら凌ぐ鋼の牙が女を襲う。

 

 

「……い、ッ!」

 

 噪音。

鉄と鉄とがぶつかり合って悲鳴があがり、火花と共にイオリの手に響く振動となって防がれた事実を知らせる。

その一合で終わる彼女達ではない。

一対の鉄杭とクラックショットがぶつかり合う。

散らす火花で戦場を照らしながら、互いの力量を探り合うように鉄は吠える。

 

 踏み込み、振り抜き、また打ち込む。

アスファルトを、廃ビルを、瓦礫を足場に四方八方に跳び回る女の動きに追随しながらイオリもまた虚空を駆けてストックをぶつけていく。

 

 その最中にイオリは確信を持つ。

目の前の女の戦力が決して己で追い縋れないほどではないと。

 

「(確かに強い……でも全力出した委員長ほどじゃない……)」

 

長身ながら蛇のように柔らかな肢体は、時折織り交ぜる拳打や蹴りを華麗に交わし、その足捌きは間違いなくイオリの上をいく。

純粋な速さ勝負では女に軍配があがり、ぶつけあった際に掌に伝わる重さはみてもその細腕のどこにそれだけの筋肉を隠しているのか疑わしいと感じるほどに強烈。

だがそれでも、銀鏡イオリは女を相手に戦えている。

己より遥かに格上の身体能力を持つ相手なのを理解した上で、自分より二倍速く動くならそれを想定して。

自分より三倍強く殴りつけるならばそれを考慮して。

磨き抜いた白兵戦の技術、その真価をイオリは最大限に発揮し続けた。

 

「……埒があきませんね」

 

 その戦い方は防戦。

相手に追い縋り、爪を突き立てながらもその牙は喉笛を喰らいつかんと常に虎視眈々と狙い続けるカウンター。

身体能力で劣るイオリを相手に、確かに女は攻めあぐねていた。

 

 ───女の中で、ふつりと苛立ちが生まれた。

 

 互いに交差するように杭同士をぶつけ合っていた戦いに変化が生じる。

女が、立ち止まった。

 

「(好機、罠、どっちでも───!)」

 

 誘う罠かそれとも単に疲れたのか。

イオリにはその判断を放棄し、地面を滑るように駆ける。

腰定めに銃を構え敵を見据える。

駆け引きはなし。

最高速で振り抜く、ただそれだけをイオリは己の身体へと命ずる。

好機ならばよし、罠ならば打ち砕くのみ。

その意思を宿した横薙ぎは唸りをあげて女へと襲い掛かり。

 

 女はそれに、サングラスを僅かにずらして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止 ま れ」

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 漏れた疑問を誰が責められようか。

サングラスを外した女と目が合ったその時。

イオリの全身、その筋肉の動きは一瞬、()()した。

動いた物体が急に止まるなぞあり得はしない。

だが確かにイオリの身体は、腕は、振り抜こうとしたその瞬間を切り取ったようにイオリの意思を一切挟む事なく虚空で完全に一度止まった。

その奇怪な状況に身体同様、彼女の思考も停止する。

 死に体とは正にこの事。

無防備となったイオリ目掛けて女は横蹴りを放つ。

 

「……ぎ、ぁ……ッ!!」

 

 撫ぜるような柔和な動き。

されどその先端にあたる足刀に宿るのは鋭利なまでの暴威。

蹴りを押し込まれたイオリは強烈な加速感と内臓を押し潰されるような重い痛みを脳で認識しながら後方へと吹き飛ぶ。

 

 轟音。

瓦礫を巻き込みながらまるで吸い込まれるようにイオリの身体は廃屋の中へと叩き込まれる。

女の視線の先、そこには土煙をあげて倒壊する廃屋。

それほどの威力。

それほどの一撃。

 

 その上で女は呟く。

 

「……お見事です」

 

頬を伝うは温い赤。

それを親指でぬぐいながら女は険しい顔で煙を吐き出す建物だった瓦礫の奥を見据える。

 

 果たして、がらりと音を立てて煙の中から現れたのは。

 

「風紀委員会、舐めんな……!」

 

ぺっと血混じりの唾を吐き出す、銀鏡イオリ。

その手に握る愛銃からは土煙とは別に白く硝煙がたなびいている。

 

「あの一瞬、蹴り飛ばされて拘束から解放された瞬間で狙撃とは……。やはりこの地の生徒というのは末恐ろしいですね。まるで私の知る彼等のよう」

 

「なんの話か分かんないけど、手品は分かった……()()()()()()()

 

「嗚呼、なんて……本当に恐ろしい子でしょう」

 

 ぐるりとクラックショットを回し、油断なく構える。

だがその姿には先ほどまでの漲るような体力は最早ない。

破けた制服の下、その腹部にはくっきりと跡が変色と共に残っている。

頭部もぶつけたのだろう、額からだらだらとからは血が漏れでて、髪を赤く濡らしている。

左腕はひしゃげたように、あらぬ方向へと曲がっている。

一目で重症と分かるその姿。

 

 だが銀鏡イオリは立っている。

万全にはほど遠く、先ほどまでのように動く事は叶わない。

今も彼女の頭の中では警報のように今すぐ意識を手放したいと痛みに叫んでいる。

 

それでも、イオリは立って女を見据えていた。

その背に後輩がいるのだから。

故にこそ。

 

「イインチョウ以外は有象無象と聞いていましたがとんだ冗談ですね」

 

「ええ、私も驚いたわ───イオリ、貴女随分やるじゃない」

 

 真紅のコートを翻し、ヒールを鳴らして。

暗がりから現れた一人の少女が女の横に並び立った。

 

「でも残念。貴女の勇姿をもっと観覧したいところだけど、生憎私達もビジネス。時は金なのよ。だから───」

 

 その姿にイオリは大きな眼をこれでもかと見開き、内臓からの悲鳴すら無視して叫ぼうと口を開き。

 

 

 

「遠慮は要らないわ。この場を蹂躙なさい、()()()()

 

 

 

 その前に少女は指揮するように、その右手に刻まれた髑髏を見せつけてそう言い放った。

 

 

 

***

 

 

 

───そこから先にあったのは、確かに蹂躙であった。

 

 ただ一蹴にされる。

風に巻き上げられる木の葉の如く、風が吹き荒び。

戦場は魔物染みた業風によって瞬く間もなく、ただただ蹂躙されたのだ。

 

「ぐぅ……ぅぁ……痛ぅ……」

 

『イオリっ!イオリっ!?応答しなさいっ!!返事をっ!「うるさいよ、アコ」っ!?その声カヨ……』

 

 戦線は壊滅。

司令塔との通信は妨害。

取引をしていた生徒や企業の者達も、護衛として雇われたらしい便利屋68の攻勢に紛れて既に戦線を離脱。

正しく風紀委員会の敗北であった。

意識をまともに保ち、倒れ伏さないのは僅か数名。

その中には当然イオリもいて、その事実を悔やんでしまう。

意識がある以上、全身を襲う苦痛に耐えなくてはいけないのだから。

 

「(なんで……こんな奴が……っ!これじゃあヒナ先輩でもっ!先生なしじゃ太刀打ちがッ!!)」

 

間違いなく、最強だと。

そう信じ慕う、敬愛する委員長の姿を思い出してなお、恐怖が先に来る。

それほどの衝撃。

 

「べん、り屋……なんでぇ……っ!?」

 

「くふふ、すっごーい!まだ意識あるじゃん!!元気な子一名さまぁ、はっけーん!」

 

「む、ムツキ室長っ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!」

 

「あはは、なぁんでハルカちゃん謝るのさぁ」

 

鈍い音がなる。

ムツキ、そう呼ばれた少女が楽しそうにその小さな膝でイオリの顎を蹴り飛ばし。

 

「ごめ、ん……いいんちょ……あ、こちゃ……」

 

イオリはその意識を失った。

 

「さ、次に行きましょう。『ライダー』」

 

 

 

「ああ、その前に」

「必要なら『食事』を済ませなさい」

「ただし、アウトローらしく美しく残酷に、ね?」

 





1じゃんね☆
本日二回目の更新じゃんね☆
三日目が終わったからちょっとだけ主人公陣営とは別のお話じゃんね☆
謎の敵が出てきたじゃんね☆
聖杯戦争らしくなってきたじゃんね☆

次回は普通にヒフミちゃん達の話をやるじゃんね☆
また今回みたいに短めじゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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