阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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Juniperus chinensis var. chinensis
ヒノキ科ビャクシン属(ネズミサシ属)に分類される常緑針葉樹の1変種。
観賞用に植栽され、多くの園芸品種がある他、材は床柱や彫刻などに利用される。
2〜4月頃に花期を迎え、小さな黄色の花を咲かせる。
花言葉は───貴女を守ります。





幕引きはエレガントに

 

 序文はあくまで捨て石であった。

会話の流れを断ったのも自分という存在を意識させる為。

たった一言。

臆病者め(怖がりめ)』と罵るその一言だ。

今日日、戦場でもまず聞かない下手くそなそれ。

けれど、あまりにも。

 

「それだけ厚く着込んでもまだ踏み込む度胸がないなんて……そんなの宝の持ち腐れね」

 

一度、心という器に入った罅。

それを撫でるので開くのでもない、叩いて割るという空崎ヒナ本人の予想すら超えてしまった暴挙は。

 

「……あはぁ……

 

致命的なまでに、武者の急所を撃ち貫いてしまっていたのだ。

 

「……あは……あは……あはハはははハはハはハハハハハッッッ!───なるほど

 

 絶叫、後に沈着。

金板に当てた鑿を引き絞ったかの如き金切り声はライダーの鎧すら突き抜けて響いた。

魑魅魍魎が跋扈し、死体が都の道に投げ捨て重ねられ、餓鬼が練り歩く末法にあっても尚悍ましき嬌笑であった。

どこまでも艶めいているのに、どこまで死臭を芳醇に孕んだおどろおどろしい情念。

憎悪という感情を端正に研ぎ続けるに至ってなお、鈍り続ける蒙昧なまでの狂奔。

殺意を練り上げられた人間という生き物の情動の果て、或いは。

哀れなまでに後悔を両の眼から溢すような、そんな女の叫びを思わせる嗤いであった。

 

“……ヒナ”

 

 少女の名を呼ぶ彼の口は真一文字であった。

何を、想うのか。

慟哭の如き憤怒の絶叫に、彼は、シャーレの先生は何を感じ取ったのか。

それは少女には分からない。

ただ自分の一言が、目の前の武者を一層に狂わせた事。

そして、もう一つ。

 

「ごめんなさい、先生。でも、今は時間が惜しい。そうでしょ?」

 

 隣に立つ男が、優しすぎる事はしっかりと理解している。

小さく、名前を呼ばれたヒナは振り向かずに返答する。

判然とはしない。

だが、気持ちは分かる。

何を言いたいかも何となく理解している。

先ほどの会話の中で、シャーレの先生が憤怒のライダーに何かしらを見出したというのも、長い付き合いのヒナは勘づいている。

それを全て承知の上で、優しすぎる男に優先順位を突きつけた。

 

「構いません、構いませぬとも……!いいでしょう、良いでしょうともォッ!」

 

 眼前で猛り吼える魔性鬼神、彼女を討たねばならないのだから。

そして会話の中で動揺の波が生まれたというのなら、都合が良い。

細波を大きな波濤にしてやれば、これまでの戦いよりずっと分かりやすくなる。

動きが、太刀筋が。

今実際にそうなりつつあるように頭が逆上せて動きが単調に限定させた方がずっと良い。

そうすれば、ヒナとしても大技を出せるのだから。

空崎ヒナにとっては、それが正解だった。

 

“……そうだね、すまない。ちょっと足を止めたくなった……これは私の悪癖だ”

 

 そしてヒナの選択は、間違いなく先生にとっても正解に違いないのだ。

ならば、己の中に湧き上がった憐憫を捨てる事こそが望ましい。

彼はそう判断した上で、ヒナへと言葉を投げた。

出来るならば頭の一つでも下げたい気持ちを、戦場だからとぐっと堪えて、彼は年下の教え子に謝罪する。

 

「知ってるわ、そんな事。でも大丈夫」

 

 それにヒナは、唇を吊り上げた。

先生から貰った謝罪に対してではない。

心の底から信頼する男へこれから茶目っ気たっぷりにこれから告げる言葉を想って。

 

 

 

 

 

 

───だから私がいるんだもの

 

 

 

 

 

 

 頬を桜に染めて、戦場に似合わぬ声色で照れ隠すようにそう告げる。

駄目なところを知っている。

弱いところも知っている。

優しすぎるところだって、ちゃんと分かっている。

でも、そんなところは()()()()()()()()と。 他の誰でもない、誰よりも貴方から信頼されている私なら出来るんだ、と。

密やかで幼く柔い独占欲染みた喜びと自負を口にしてヒナは笑った。

 

「何を長く語らうかと思えば……つまりはそういう事。であれば是非もなし───鬼事は仕舞いに致しましょう

 

 対し、憤怒のライダーは怒気を孕む。

大気が揺れるほどに壮絶な雷電を迸らせ、唸りを上げて大太刀へと魔力を注ぎ込む。

 

 ヒナの挑発は上手くいっていた。

()()()()()()()()()()

虎の尾を踏むどころか、鬼の腑を突いていたのだ。

 

「えぇ良いですとも、良いですともッ!童の浅知恵、乗ってさしあげましょう、殺してさしあげましょう……ッ!」

 

 そうして莫大な魔力がライダーを中心に膨れ上がる。

魔力の余波で燃え盛る黒煙が立ち昇り、暗雲から重なるほどに雷鳴が鳴り響く。

 

“そうだね、ありがとうヒナ……どうやらあの子も切り札を使うみたいだね。それじゃあこっちも”

 

 先生もその兆候とヒナからの言葉で既に切り替えを済ませている。

相手が何者でどんな意図と目的から聖杯戦争に与しているかも先生達には分からない。

だが、どちらにせよここで倒さなくてはいけない相手なのだという事は理解しているのだから。

故に。

 

 

 

“───全力で勝ちにいこう

 

 

 

シャーレの先生とゲヘナの風紀委員長は共に()()()を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 丑御前、電母とならん。

祭囃子の太鼓は雷霆。叫ぶ合いの手は熱り立つ鳴轟。

ライダーから発せられた魔力は稲妻となりながら夜の闇も、それを赤々と照らしていた筈の戦火も見えなくするほど眩く輝く。

 

“ヒナ、()()()()

 

「了解、実力行使でいきましょう」

 

 対するは一言。

先生からの言葉を受けたヒナもまた短く返す。

ライダー比べて二人の様子に変わりは見られなかった。

空中から舞い降りた時からし続けている構え。

けれど、一つだけ。

明確に差異が生まれる。

 

“感覚合わせ。座標軸設定開始、射線そのまま”

 

さあ、参りましょう!詣りましょう!屍山血河の向こうへとォォッ!

 

 丑御前は気づいているだろうか。

二間程離れた両者の距離でのその変化はあまりにも小さく、起こりも動きとしては生まれなかった。

変わったのは、丑御前を見るヒナの()

 

「悪いけどそんな悪趣味な場所には」

 

花紫だったヒナの右眼が今は淡い空色に輝いている。

その煌めきはあまりにも小さかった。

だが、夜闇にも戦火にも、ましてや紫電にも負けぬほど鮮やかに澄んでいる。

 

「───勝手に一人で行ってもらえるかしら?」

 

 そんなヒナの瞳とは反対に先生の視界に広がるのは静まり返った

過集中か、はたまた何かしらの装置の影響なのか。発動待機、その一言を後に先生とヒナの視界はリンクして、視界に映る全ての光景は()()()()()()()()()()()()()()

 

左様ですか、けれど……嗚呼けれど!どうせこの世は地獄なればッ!彼岸も此岸も違いがありましょうかッ!───矮小十把、塵芥になるがいい!

 

 体感時間の延長。

ライダーの動き、攻撃の起こり。

環境の変化から動作の流れまでを全て把握して完璧なタイミングを知覚する、シャーレの先生の切り札の一つ。

一秒の差が生死を分つ戦場にあって、一瞬の隙を完全に己が物とする最強の瞳。

そして今。

 

 

 

牛王招力ィィィッ─── ッ!

 

 

 

ゲヘナが誇り、先生が信頼する生徒の視線と共有される。

 

“───撃って、ヒナ

 

 憤怒のライダー、丑御前が振るうは雷神の神楽。

左脚を曲げ、逆足を伸ばして背を向ける独特の構えを取り、体重移動と共に前へと剣を一度回転。

加速によって雷気は激しさを増し解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒髪ッ─── ッッッ!

 

───Elegante

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が世界を埋め尽くした。

雷電の稲光は天壌を焼き払いながら少女へと鋒を示した。

紫電の稲妻は荒ぶる雷神の神威をキヴォトスという大地に知らしめた。

 

 迎え撃ったのは、幕引きの一撃。

散々騒いでくれたのだからカーテンコールには頃合いも良いだろうと、どこまでも静かな面持ちで狂奔の雷撃へ差し込まれた。

 

「……貴女、随分と悲観主義なのね。私は」

 

斯くして此処に勝敗は決した。

真名の解放。

紫電は射線に存在する一切の生物を焼き払う熱量を太刀筋に乗せて放たれた憤怒のライダー渾身の一撃。

 

「地獄も嫌いじゃないわ。だってたとえこの世が地獄であっても」

 

そう、放たれた寸分違わぬその瞬間。

真名解放の隙間に差し込まれるようにして既に放たれていたヒナの()()、終幕:イシュ・ボシェテが。

 

 

 

 

 

 

───この人が傍にいてくれるもの

 

 

 

 

 

 

憤怒のライダーの霊核を撃ち抜いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《 ……映像データ11再生11終了シマス…… 》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カスミさんから渡されたUSBの中身を見終えた私たちは、文字通り圧倒されていました。

ハルナさんからのメッセージ。

ヒナ委員長と先生が憤怒のライダーという方と戦っている映像。

そしてその映像の背景にしっかり映り込んでいた、巨大になったライダーさんがあの大きな怪獣が戦っている姿。

もうどれから話し合えば良いかもさっぱり分かりません。

 

「前に見たペロロ様*1と同じぐらい大きかったです……」

 

 やっとの思いで絞り出せたのも、映像データの中でも合間合間に画面の端で映るライダーさんと憤怒のライダーという方が呼び出したとにかくインパクトのある牛さんの事でした。

 

「ああ、ライダーが変身した姿もあのウシゴゼンとか言うのが出した奴も、ヒフミと見たペロロジラにも匹敵する体格だった……カスミ、どちらでも良い。ライダーの最後については?」

 

「あくまで部員が夜が明ける前にSNSやモモトークで集めた情報で聞く限りはあの頭のない牛はライダーの拳で沈んだらしい。えらい騒ぎだったから遠目とは言え見た人間はそれなりにいたらしい……もっともその後に情報統制を敷かれたから今探してもさっぱりだけどね。そしてその後についても、という話さ」

 

 アズサちゃんからの問いかけに対して、私よりすらっとして細い足を組み直したカスミさんが肩をすくめて教えてくれました。

どうやら此処に来る前にも何かと調べていてくれたみたいです。

そんな彼女は何故か、というかわざとらしいぐらいに周りをきょろきょろとしてから声を顰めつつ私達に問いかけました。

 

「さて、如何だったかな?ゲヘナで起きた大怪獣バトルの様子は。あー……ちなみに言っておくが、私にはこれ以上の情報は()()()()()()()()()。良いかい?君らの魔術だとかいう訳の分からん物に関しては人並み程度、そして一般常識的なラインでの理解しか持ち合わせてない私が改めて言おうか。そう!───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もうこれだけでも十分な情報。

だというのに、念を押すような言い方に私やモモイちゃんは首を傾げているとセイバーさんが苦笑いしながらキャスターさんへと声を掛けました。

 

「……キャスター」

 

「……()()()()()。だが、問題あるまい。我は確かに精通しているわけではないが、如何であるか程度はこの距離で見れば分かる。カスミよ、()()()()()()()。だが、それに関しては案ずるな。少なくとも魔術的な監視や呪詛の類をお前は受けてはおらん」

 

 その言葉に、少しだけ目を丸くしてから肩の力を抜くようにカスミさんは息を吐かれました。

 

「そうかい、なら少しは安心したよ。あー……よければなんだが」

 

「昼間であれば構うまいな?」

 

「僕らはね。どうせ昨日の晩の時点で相手に居場所は割れてるとわかっているんだ。今更だよ、ただ一応確認し終えるまでは」

 

「相わかった。この件は人手もある我とそうだな、もう一人が預かろう。ただし、カスミよ。分かっているだろうが、まだ我らのマスターに確認は取れておらん。お前が気にするなら、頭を下げる相手を間違えるなよ」

 

 セイバーさん達がとんとん拍子で何事かを話されていくのを見守るしかない中、カスミさんは立ち上がってから頭を下げられました。

 

「勿論だとも。けれど、いいや。やはり感謝するよミスター」

 

 そんなカスミさんに通話越しでセイア様が話しかけられます。

 

『さて話は纏ったね。我々だからこその心配、というのはよく理解できるよ。その上で、こうして有益な情報を持ってきてくれた事には感謝したいところだが、確認させてほしい』

 

 その言葉にカスミさんは頷きながら着席して、またいつもの不適な笑みを浮かべられました。

さっきまでなんだかしおらしくてちょっぴり可愛い姿からは一転、今は映画『ゴッドブラザー』*2に登場するドン・ペロロ様*3みたいな貫禄ある感じです。

 

『君は確かシャーレが率いた特殊部隊、つまり聖杯戦争対策部は壊滅し先生を含めて行方不明と言ったね。それはつまり()()()()()()()?」

 

「……なるほど、なるほど。なら、答えるとしよう。()()()()()()()()()()()()。ちなみに私がこの中身を見たのも今が初めてさ」

 

『……朗報、でいいのかしら?ウタハ』

 

「承知した。ただデータの吸い出しぐらいならこちらでもなんとでもなるけど、流石に修復となるとそうもいかない。プログラマーが欲しいな、会長」

 

これまた、とんとん拍子で話がどんどん進んでいくのでちっとも状況が分かりません。

掻い摘むんじゃなくて、もう少し分かりやすく説明してくれないと私もモモイちゃんもさっぱりです。コハルちゃんなんかもう完全に目を回してハナコちゃんとユズちゃんに慰められてますし*4、アリスちゃんなんか分からなくてミドリちゃんとアズサちゃんを連れてお茶を淹れに行ってしまいました*5

 

「あの、皆さんいったい何を……?」

 

 一体全体、さっきの会話で何が分かったのか。

それを尋ねた私にセイア様はいつもとお変わりのない穏やかで知的な笑みを浮かべながら答えてくださいました。

 

『何、大した……いや、極めて重大な案件ではある。だが、それ以上に我々の状況というのは思ったほどは最悪ではなかった。そういう話さ』

 

『いい?ヒフミさん。さっきのデータには見た限り、()()()()()()()()()()()()()()。そしてそのおかしな部分自体が一つの重要なメッセージになっているの』

 

 調月会長の言われる事が思い当たらなくて口が思わずへの字に曲がってしまいます*6

確かに映像はヒナ委員長の攻撃で終わって、確かに憤怒のライダーという方の霊核?というのを撃ち抜いたところで終わってました。

それ以降のデータがない、という意味では確かに変かもしれません。けど、それ以外には何があるのでしょうか?

 

『無沙汰こそが無事な便りというやつだよ。短絡的かつ楽観的な思考は時に狭隘な思い込みに囚われるが、だからと言ってそれを廃し続けるというのは人としての面白みに欠ける。希望に縋るのは悪しき事だが、希望的な可能性すらないと断じてしまえば上手くいくものも上手くいかない。つまりだ、分かりやすく言おう』

 

そしてセイア様は一度息を吸ってから。

 

 

 

『行方不明になっている筈の人間、シャーレの特殊部隊。彼らの中には間違いなく無事な人員がいて、そして恐らく今もゲヘナで我々がコンタクトを取るのを待っている、という話さ』

 

 

 

歌うように、私達がすごく気になっていた先生が無事かどうかに関わる大事な事についてさらりと仰ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今回のメッセージは二種類あった。一つは黒舘ハルナから。そしてもう一つは彼女が危惧していた通りの物だ』

 

 行方不明になった先生達「聖杯戦争対策部」。

その中にはアズサちゃんの大切な家族も、私のお友達も。そして私達みんなをこれまで支えてきてくれた大事な先生もいます。

そんな彼らについて、セイア様は()()()()()とは話し始められました。

 

『ハルナちゃんっていうあの子のメッセージからして、自分が直接伝えられなかった時用だったもんねぇ』

 

─── ですから、このメッセージ《以外で》もし、この端末に何か別のデータがあった場合

 

 ハルナさんからのメッセージの中にあった不思議な言い回しをホシノさんの言葉で思い出しました。

確かに彼女は自分のメッセージ以外に何かデータがあったのなら、それは先生から私に宛てた物だと。実際中に入っていたのは。

 

『そう、そして彼女のメッセージはライダー陣営との戦闘前に録音した物だという。つまりだ、先生と空崎風紀委員長の戦闘記録に関しては黒舘ハルナが録音した後に撮影された物。もっと言えば、恐らく先生が撮影した物だろう』

 

セイア様の言う通り、ライダー陣営との交渉が始まった昨夜23時直後と戦闘が開始された翌0時直後、そして2時15分に憤怒のライダーという方が乱入してからの十数分間の映像でした。

 

『憤怒のライダーだっけ?あいつの目線や振る舞いを見る限りじゃ物陰に潜んだ誰かが……って感じじゃなさそうかな』

 

『小鳥遊委員長のお墨付きを貰えるとは有り難いね。では話をそのまま進めるが、先生が撮影したとするならここで二つ疑問が生まれる。その一つは一体誰が映像データの入ったSSD端末を届けたのか、だ』

 

 セイア様の細くて小さな指がちょこんと二つ立ちました。

モモイちゃんが「ピース、ピースだよ、ピースしてる」とか小声で突っついて来ますが無視です。

こら、アズサちゃんも「ピースだな」って話に乗っちゃダメですよ。

 

『黒舘ハルナから先生、もしくは届け人の手に渡った経緯は簡単ね。自身の万が一を考えて最も生き残る可能性が高い、もっと言えば鬼怒川カスミさんか下倉メグさんだったかしら?彼女のところに届けられる生徒に託したというところね』

 

「そしてその中の誰かっていうのを鬼怒川さんは知ら……あの、知らない、かも……ってその……でもまだ()のことが……」

 

 調月会長の言葉に続いてユズちゃんが言及するのは数。

握り拳を口元にあてて、悩んでいる様子に私達は『数?』と頭を傾げてしまいました。

ハルナさんと先生、それぞれ別の方が撮った映像を一体誰が届けたのかという謎があるのは理解できましたが数については検討もつきません。

 

 そうやって頭から煙を出したコハルちゃんとその頭を扇いでいるアリスちゃん達に微笑みながら、ハナコちゃんが口を開きました。

 

「セイアちゃん達が言ってるのと合ってますよ、ユズちゃん。そしてもう一つの方、数が合わない事も……そうですよね?」

 

『その通り。君の予想通りだよ、花岡ユズさん。そしてだからこそ先ほどの会話で君は心配していたのだろう?───鬼怒川部長?』

 

「ああ、正解だよ。私も、裸の端末を指定のコインロッカーで受け取ったメグも誰がこれを届けたのかは分からない。そして後半も正解さ、だから私達は危惧した」

 

 セイア様からの確認に、左頬だけ上手に吊り上げた皮肉っぽい笑みを浮かべたカスミさん。

結局誰が届けてくれたのか、という思考に待ったをかけたのはカスミさん本人ではなく。

 

「そこからの話は我が引き取ろう」

 

 意外な事にコトリちゃんとヒビキちゃんにタブレットを使って、機材の用意でしょうか、何か指示を出していたキャスターさんでした。

 

「鬼怒川カスミ、この娘が先の会話の中で態々言及した魔術云々について。我とセイバーは一般的な魔術に対する認識、つまりどちらかと言えば学問的な物ではなく非常に原始的なそれや中東やアジア圏……うむ、少々あれなたとえか。要は誰が届けた物か分からんこの端末を持ってこの場に運んできた事に対する魔術的な呪詛なりを受けたのではと懸念している、と推測した」

 

「確かに魔術に対する知識がなければ、一般的にフィクションでよく見かけるそういう曖昧模糊としたイメージを抱いてしまうのは仕方ないよ。実際にないわけではないしね……とはいえ今回のUSBに関して、そういう魔術的なトラップというのはないと考えていい」

 

 思い返してみるとお二人の言う通り、カスミさんがこれ以上の情報を持っていないと言った時、物凄く迂遠な言い方をされていました。

そして、USBは()()()()()()()()()()()()というのも確認できました。

それを考えると敵か味方か分からない誰かに監視されたり、魔術で攻撃を受けるんじゃという事を警戒されていたというのは言われてみると納得できる話でした。

 

「気にするというのならば、だ。モモイ、ヒフミ、ミノリ。ここにいるお前達全員がよければになるが、後で鬼怒川カスミが連れてきたという残りの部員達も一応魔力やその痕跡、或いは魔術的な影響がないかの確認を我がしてやっても構わないと思っている……というのがさっきの話だったわけだ」

 

 セイバーさんが言っていた昼間ならというのはそう言う事だったかと得心するとスパルタクスさんはゆっくりと首を何度か頷かせていました。

 

「おお!叛逆者達よ!目に見えぬ呪いに恐れるか!だが、怯える事はない。健全なる君達の……ふむ、なんというか少し暴力的で短絡的な活動に掲げる精神に何の翳りはないのだから!*7

 

「貴様は何も調べておらんだろうが、バーサーカー」

 

「おお……それもまた叛逆ぅ……」*8

 

「……まあ、狂化しながらも貴様の眼は随分と曇っていない。その眼で見て、そう感じるなら馬鹿に出来た話ではな「おお!圧制に立ち向かう同士よ!」ええいっ!貴様の判断基準はそれしかないのか!?」*9

 

「まあまあ、それもまたバーサーカーらしくて好ましいじゃないか。僕は好きだ「セイバーよ、そこまでだ。貴様はその話す度に一々歯の浮く台詞を吐くのを早々にやめるといい、モモイ達の教育に悪い」ひ、酷くない?」

 

 肩を落としたかと身を乗り出して熱い抱擁を求めるスパルタクスさんに絶対嫌だと蒸気を出して怒るキャスターさん。

あとにこやか爽やか王子様スマイルをしたところでキャスターさんとスパルタクスさんがそれぞれ、モモイちゃんとミノリちゃんをその背中に庇うようにして立つのを見てしょげるセイバーさん。

男性御三方で戯れあってるのは分かってますけど、これは後で慰めてあげなくてはですね。

仕方ないです*10

 

「話が逸れたな。とにかくセイアよ、魔術に関与しない形で誰かが情報端末を届けたのならばそれは聖杯戦争対策部、延いては先生なる男。行方不明になったと聞いているその者達の中の誰かが戦いが終わってから届けた、そう考えるのだな?」

 

『……まとめてくれて助かるよ、キャスター。サーヴァント間でも大変仲も良いようで何よりだ。さて、誰が届けたのかをここまでが一つ目の疑問。そして残す二つ目の疑問、これは花岡ユズさんとそこのハナコが言った通り───数だ』

 

 ちょっと困った顔から一転、セイア様は真剣な顔をなさって私達の目を見ます。

 

『可笑しいとは思わなかったかい?映像記録の中で挙げられた生徒の数。その中で明らかに一人足りなかった生徒がいた』

 

 一人足りない、と言われたところで私達は顔を見合わせました。

映像の中で作戦開始前に映っていた作戦メンバーの数。

私達が数えた限りでは十三人ちょうどだった筈でした。

そう思っているとセイア様は、

 

 

 

 

 

 

『───()()()()

 

 

 

 

 

 

私たちもよく知る彼女の名前を挙げられました。

 

『映像にはなぜか一切映っていなかった。だが私がこの会議の最初に伝えた通り、ミカはシャーレに協力、つまり聖杯戦争対策部のメンバーであり昨晩もちょうど他のメンバーと共に便利屋68との交渉と戦闘に赴いていたのさ』

 

 言われてみると映像を見る前にミカ様が、ハルナさんのメッセージにあった聖杯戦争対策部の実働メンバーの一人だったとセイア様が仰っていたのを思い出します。

 

『ミカは知っての通り思慮深さに些か欠けていてね。案の定というか病院にいる本人から確認した限り、直接教会で行われた交渉には赴かず、先生の指示から周囲で待機していたらしい。その後はライダーや便利屋68と戦闘し、途中でナギサからのSOSを受けて離脱という流れだったらしい』

 

 紅茶を一口飲んでから、小さく溜め息を吐かれたセイア様はモニター越しにはなりますがお疲れの様子でした。

恐らく昨晩から働き詰め、なだけではありません。

 

「(……ナギサ、様……)」

 

 今のお話の中にあったナギサ様の一件。

暴食のセイバーと名乗る敵との戦いで傷つかれたという話です。

私でも、そうなんです。

いつも共におられて長く共にトリニティを運営されてきたナギサ様の親友であり戦友であるセイア様にとって思い出すのも御辛い事なのだと思います。

 

『百合園生徒会長の言うのが正しい、となれば昨晩の作戦に参加した人数として映像内に映っていた13人の数は誤り、というか誤認を誘うような映像になってるわ。そしてそれ自体も不自然なのよ』

 

 それを汲んで下さったのか、少しだけ痛む空気が流れるのをさらりと流してしまうように、調月会長も疑問を口にされました。

 

『前半のメッセージは黒舘ハルナ、後半のメッセージは先生。もちろん撮影者は違うから意図が異なる可能性はあるわ、けど黒舘ハルナはメンバーの名前を誰一人として挙げなかった。なのに後半にはしっかり参加したメンバーが映っていた』

 

 アリウスのみなさん。

SRTのみなさん。

美食研究会のみなさん。

そして、ヒナ委員長と先生。

ハルナさんは敢えて言葉を濁して誰とは言わなかったのに、後半の映像ではしっかり姿が映っていました。

 

『……そもそも後半の映像は、黒舘部長が言うにはイレギュラーの映像を残す必要があると先生が判断して撮影した物になります。でもその映像には明らかに誤りがある。そしてそのメッセージを届けたのは無事なメンバーの誰か』

 

『第一これ先生が撮ったならまだ足りない部分があるよね?……便利屋ちゃん達と先生との交渉、映像自体は23時から始まって、なのにそこから1時まで急に飛んだ。要するに、その部分の映像がまるっと2時間分の映像がなくなってる』

 

 アヤネさんがまとめてくれた話とホシノさんから今挙げられた新しい不審な点。

それらを総合して考えると浮かび上がってくるのは。

 

「───誰かが意図して情報を書き換えた或いは消去した」

 

 ミドリちゃんの言う、私達が見た戦闘記録の映像には何か足りてない部分があるんじゃないかっていう疑惑です。

 

「先生か届けてくださった生徒さんか、それとも第三者の介入なのかは分かりませんが。前者ならきっとある筈です、オリジナルのデータか……」

 

ハナコちゃんは神妙な顔でそう言って掌に乗せるのは私達が気づいた疑惑の中に残される大切な手掛かり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしくは作戦メンバーの人数や誤りに気づいた、そして気づく事のできる達の生徒だからこそ調べる事で見つけられる……先生からのメッセージが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ秘密を隠しているかもしれない小さなSSD端末でした。

 

 

 

 

 

 

*1
ペロロジラ。ヒフミはこれまで何度かその実物を見ている

*2
モモフレンズアニメシリーズの外伝映画。熱烈なファンクラブが存在するビッグブラザーに焦点を当てた作品であり、家族の愛と絆、義理と人情、忠誠と裏切り、金と権力などが交錯するなかで揺れ動く人生の機微や人間社会の模様をモモフレンズ系の裏社会を通して描き出した名作映画である。作中ではカンノーリというお菓子が象徴的に使われたこともあり、カンノーリを頭に挟んだビッグブラザーやカンノーリを口に咥えているペロロの限定フィギュア等も製造された

*3
上記映画本編に登場する限定キャラクター。ヒフミは渋くてかっこいいと夢中になっていたがスーツと帽子を被っている以外は普通のペロロである

*4
コハルは早々に話からリタイアしていた。コハルは可愛い、可愛いとは正義であった

*5
天童アリス15才。分からない時は諦めも肝心だな、とゲームを通して割り切る気持ちを学んでいた

*6
ヒフミは気づかなかったが、飲み物を人数分淹れて戻ってきたアズサがその唇をどこか魅了されるように見つめていたのは内緒だ。本人も理解していない心持ちのようである、のでハナコは何も言わなかった。浦和ハナコは出来る女なのだ

*7
同業、ではないが同じ開発を専門とする部活。温泉開発部についても話は他の工務部部員達からスパルタクスは聞いていた。聞いていたからこそ彼なり目一杯濁しつつ励ました。スパルタクスは意外と気遣いが出来る男であった

*8
違う

*9
答え:ない

*10
なんだかんだセイバーにはだだ甘いヒフミであった





1じゃんね☆
ヒナちゃん&先生の戦闘はこれにて(ほぼ)しゅーりょー!
ここからは会議シーンが……多い、本当に会議が鬼のようにあるじゃんね……でも負けないじゃんね☆
とりあえず会議やりつつ午前中の行動まで4月中にはいきたいから更新頑張ってくじゃんね☆

ちなみにvs憤怒のライダー戦は 結果で完勝、戦闘イベント自体も2Tで決着と(1のキーパーリングは別として)めちゃめちゃスムーズだった記憶じゃんね☆
ヒナちゃんは強いじゃんね……

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