……ミカ様、病室内でバットの素振りはおやめ下さい。
ナギサ様、先ほど拝見しましたが送られるメッセージはもう少し分かりやすくてもいいかと。
ミカ様、暇だからといってゴムボールを片手で握り潰すのはやめて下さい。
ナギサ様、メッセージを送っても今は恐らく会議中ですからヒフミも見れない筈です。
……はぁ、ハスミでもイチカでもいいから誰か代わってくれ
シャーレの先生。
これまで何度も私達を助けてくれた、心から信頼できる大切な方。
けれど、今は行方が分からなくなっている人。
そんな先生から私達に向けられたメッセージが残っている可能性がある。
ハルナさんが保険をかけて、それを下倉先輩という方が無理してでも引き受けてくれて、そして今カスミさんから渡してもらった大事なSSD端末。
その中には希望が残っている。
「(先生、ありがとうございます……)」
昨晩から後手に回ってしまって、ナギサ様も、ミカ様も、ユウカちゃんもノアさんも。
他にもたくさんの方が傷つかれた。
悲しさも苦しさ、何より悔しさとこれからを思っての怖さもある。
ですが、もしかすると。
いいえ、きっと。
先生はどんな形であれ私達に逆転の目を残してくれていた。
それを想うと震えるぐらい勇気が湧いてきました。
「(まだ、負けてない。まだ、終わってない。私には託された物があるんですから……!)」
皆さんの目を見れば同じ気持ちの様子。
私の掌にあるこの小さな箱の中には、先生からのメッセージが残ってる。誰もがそれを見つけて、必ず次の一歩を踏み出すぞと俄然やる気が溢れた目をしていました。
『ええ、というわけで有識者を呼んできたわ』
していた所でさくっと調月会長が言うものですからちょっとずっこけそうになりましたが。
『あーはいはい、呼ばれたから来たけどまた厄介なことになってるみたいね、モモイ』
心なしかちょっと胸を張ってるモニター越しの調月会長の隣に立たれたのは、これまでもう何度も私達がお世話になってる方。
「ち、チーちゃん先輩!」
電子戦のスペシャリスト集団、ヴェリタスの副部長である各務チヒロ先輩でした。
『それやめてって言ったでしょうが……あんた達は元気そうね、正直ホッとした』
「先輩もね!……昨日の晩、ユウカ達と一緒に戦ってくれてありがとう」
『……おバカ。後輩が気合い入れて仕事してるのに私達が働かないわけないでしょ?』
優しく目元を緩める彼女の姿は、頼れる先輩の姿としてすごくかっこよくて温かったです。
各務チヒロ先輩、モモイちゃんがよく出入りしてるというヴェリタスの副部長さんは、やっぱり彼女が懐いているのが良く分かる素敵な方でした。
『チヒロを呼んだのは他でもないわ。昨晩の件を考えるに敵と想定すべき存在について私達はまだ知らない事が多過ぎる』
二人の会話を黙って見守っている調月会長。
そんな彼女に咳払いをしてから肘で軽く脇腹をつついたチヒロ先輩に対して、調月会長は不思議そうな顔をしてから話し始めました。
『ランサー、ライダー、アサシン……そしてアーチャー。彼ら四騎が残っている中で現れた新たなサーヴァント達。けれどその目的や勢力の大きさについても含めて』
そう、私達はまだ多くの課題を抱えています。
第一にすべきだと考えていた残る四陣営との対話。
第二に聖杯戦争を完全に停止させる手段の確立。
それらの課題がある中で現れた新たな脅威。
『私達
確かに、と頷こうとしたところで待ったがかかりました。
誰かからではありません。
私達全員から、です。
「あ、あの調月会長……?」
『あら?どうかしたかしらヒフミさん。何か疑問や気づいた事があったら教えて頂戴。現場のメンバーである貴女達の気づきは重要な事に繋がる可能性が極めて大きい……私はそう思うの。だから報連相はしっかり行なっていきましょう』
優しい目をしている調月会長。
本来の物よりかなり小型化された廉価品とはいえかなり高級かつ来年どころか再来年まで予約でいっぱいというDXアバンギャルド君*1を私達の為に準備してくださったり、連邦生徒会にもアクションをしてくれてたすごい人です。
なにより、私達同盟陣営にも実際に足を運んでこれまで色んな会議で知恵を出してくださった大切な仲間、だと思っています。
だから私は、勇気を出して聞いてみたんです。
「あはは……では、そのなんだか聞き慣れない陣営の、そうえっと、さん『ああ、サンダー陣営ね』あはい」
ああ、聞き間違えじゃありませんでした。
サンダー陣営という謎の名前が私達同盟陣営の名前ですよーって直感が教えてくれます。
一体その名前はいつから、と私達が困惑する中、調月会長は気にした様子もありません。
『質問は終わりかしら?そちらは地下ですし通信状況によっては聞きとり辛い事もあるかもしれないわね』
なんでしたら私が聞き取れなかったと思ってかフォローまでしてくれました*2
『サンダー陣営の拠点として今後はその点につ「待って待って。何その名前!?」どうかしたの?モモイ』
「いやいやいや!違うよ会長ぉ!名前!その聞いた事ない発電所にいそうな*3陣営の名前はなんなのさ!?」
そう思って誰がつっこむか一瞬私達の視線が交差したタイミングで、それより早くモモイちゃんが豪速球で疑問を調月会長に投げつけました。
『なにってサンダー陣営よ。「いやだから待って何それ!?だからどこの陣営なの!?」分からないかしら?私達の同盟陣営の名前よ「あー!やっぱりウチかー!……って、いやいやいや!?私達聞いてないよ!?」ああ、昨日の夜思いついた「あ、思いついただけならまだセーフ……」の。今日みんなに命名した「しちゃった!?しちゃったの!?過去形じゃん!?」……もう、一体どうしたというの?』
調月会長が『もう』なんて言うのは珍しいのでしょうか、隣におられるチヒロ先輩が目を丸くしつつ笑っておられました。
『良い?よく聞いてちょうだい。私達のメンバーにはサーヴァントが《三》騎がいるでしょ?そこから着想を得たの。三、三だ、サンダー。ふふっ、実に分かりやすく合理的な名ま「はい!はい、おしまい!この話はまた後で!!」……一体何だと言うのかしら。まぁいいわ」
いつの間にか私達同盟陣営の名前がサンダー陣営になっちゃうところでしたが、モモイちゃんの機転もあって間一髪で保留になりました。
危なかったです、別にサンダーでサイダーでも良いですけど流石に駄洒落っていうのはちょっと、可愛いけど恥ずかしいですね。
『敵がどの程度の勢力かの確認も取れていない以上、データといえど情報の取り扱いには注意がいる。だからこの後、チヒロには拠点に向かってもらう手筈になったわ』
『いや、今呼び出されて今聞いたんだけど、それ。あとまだシステムの復旧と点検終わってないんだけどそっちはどうするわけ?』
チヒロ先輩が来てくださる、というのは勿論ありがたい事です。
ですが、昨晩の大規模停電だったりで発電所周りや防衛関係のシステムを臨時点検しなくてはいけないという事らしく、チヒロ先輩はそのリーダー役を引き受けつつご自身も点検作業をされているそう。
幾ら拠点に来てもらえたら、と思っても大事なそこに穴が空いてしまってはいけないと考えていると思わぬ。
というか想定しない形で調月会長は返答をされました。
『それは私が引き受けるわ。もし私の腕では不安でも、コタマやハレあたりがいればなんとでもなるでしょう?』
あんまりにもさらっと言ってのけるので、びっくりしてかチヒロ先輩の眼鏡が少しずれてしまいました。
『は、はぁ?なに、寝惚けてるわけ?技術的な話で出来るできないじゃないの、というかそれぐらい出来るのは知ってる。そうじゃなくて、会長はセミナーの指揮してるでしょうが。私の仕事まで請け負ったら、今やってるセミナーの指揮は誰がするっていうのよ』
『どちらも私がするつもりよ』
ばっさり言い切られましたけど、多分そういう事じゃないんだろうなぁと私は恐る恐るチヒロ先輩の顔を窺いました。
その顔色は案の定、モニター越しにも分かるぐらい真っ赤です。
『はぁぁ!?馬鹿なの!?どんだけ仕事背負う気!?』
『ノアやユウカがいない今、現場の指揮は私がするしかないわ。あと私は馬鹿じゃないわ。これでも前回の定期考査の『そんな事今話してないでしょ!?』あ、貴女が言ったんじゃない……そ、それにこの手のシステム復旧やその指示出しの経験がないわけじゃない。昔貴女と一緒に……いえ、そうじゃなくて。とにかく、貴女ほどじゃなくても今日の夜までには一人でも終わらせられるわ』
『それって結局コタマ達に頼らず一人でやるつもりだったんでしょうが!?』
『ち、違うわ。ちゃんとAMASを『おばか!』……な、なぜ?』
あ、私なんだかこの方についてちょっとだけ分かってきたかもしれません。
そう思ってハナコちゃんを見ると頬を引き攣らせつつ肩を震わして、目元に小さく涙を浮かべていました。
『あんたは!その指揮を今もしてるから!昨日から徹夜で!缶詰で!働きっぱなしでしょうが!?自分で仕事増やして自分の首を絞めてるんじゃない!』
調月会長という方はどうやらすごく頑張り屋さんな方のようです。
責任感もあって、賢くて。三大校の、それもミレニアムという最先端科学を担う学園の生徒会長。
スタイルだって抜群ですごく大人のお姉さんな感じで隙のない凄い人。
『ふふ、それについては問題ないわ。カフェイン錠剤で覚醒レベルは保っているし、バイタルと血中酸素濃度を確認して必要な栄養や薬剤を点滴で流しながら働けば効率の低下は最小限に抑える事も可能よ』
『ああああ!このバカリオ!こんなだから私も部長もあの時あんたの事をっ!大体昔っから!……あーもうっ!ウタハっ!』
だけど本当は優しくて、そして実はちょっと不器用。そんな可愛らしい人なのだとなんだか今になってやっとこの人について私は分かった気がしました。
「あー、ほどほどにしてあげてくれ。それじゃあ……
『ちょっと、ちょっと待ってちょうだい。チヒロ、貴女は今過剰な興奮状態にあるわ。何を怒っているか分からないけれど良いかしら?事は重要な……』
そう言って通信が切れてしまいました。
最後に見えたのは角を生やしたチヒロ先輩に、ちょっと困った顔をしながら慌てている
「と、とりあえずSSDの中のデータは再確認するって流れで良いですかね?」
リオ会長からの通信が切れて一分。
ようやくちょっと落ち着いたところで私はそう提案しました。
「そうだね。リオ会長は見なかったことにしよう」
ですが、すぐにモモイちゃんがそう言うのでつい吹き出しそうになります。
「アリスは感動しています。リオ会長はもしかすると先生と並ぶ伝説のボクネン人!主人公属性なのかもしれません!」
追い討ちをかけるように続いてアリスちゃんまで目を輝かせるんですから困っちゃうと思ったところで、ウタハ先輩がくしゃっと笑いながらアリスちゃんの頭を撫でました。
「リオは昔からあんな感じだよ。あと先生は朴念仁、というのは少し違うかな。彼のあれは分かった上でさ*4」
「分かった上、ですか?」
「もう少し大きくなったら分かるよ、アリス」
アリスちゃんの疑問に近くに来たミノリさんもそう言われますけど、アリスちゃんは不思議そうな顔です。
『(彼も中々、罪作りな男のようだね)』
『(あはは……セイバーさんに言われたら先生も泣いちゃいますよ)』
『(ははは……僕も泣くよ?ヒフミ)』
と念話越しに嘘泣きするセイバーさんを放っておいたところでアヤネさんから提案がありました。
『ひとまず話が落ち着いたところで皆さん、一度話をまとめるというのはどうでしょうか?』。
頷いて返すのはミドリちゃんとアズサちゃん。
「アヤネちゃんが言う通り、私達も昨日から山ほど情報もらってパンクしちゃいそうだもんね」
「正直私もかなりいっぱいいっぱいだ……サオリ達の事もある、動き出したい気持ちはあるけど何をどう動いて良いのかすらまとまらない」
その声と顔に思わず、彼女の名前を呼んでしまいました。
俯いて前髪を落とした彼女の表情は今もまだ陰っています。
「アズサちゃん……」
出来るなら今すぐにゲヘナへ、そう逸りそうに気持ちになりますけど現実としてそれは厳しい。
カスミさんが言うにはゲヘナは今、入るのも出るのも検問があるとの事です。
それに恐らくサオリさん達や先生が最後に確認されたという場所も、今知る限りではアルさん達の拠点周辺。
つまりゲヘナ自治区が立ち入りを禁止している旧カイゼリン・ブリッツ記念教会跡地です。
いきなりそこへ、となると地上からでも地下からでも難しいという現実の壁が立ちはだかります。
どうするべきか、ひとまず情報をまとめてそれから話し合って、と考えているとふいにカスミさんが手を上げました。
「そういうことなら私はここらでお暇しようかな」
軽く袖を振ってそう言うと彼女はニヒルな笑みを浮かべました、が。
『あれー?もう帰っちゃうんだ』
ホシノさんが何の気なしに驚いた声を上げると喉の奥の方で高音を出されてから言い訳するように早口で捲し立て始められました。
「も、勿論さ!言っただろう!私はもうこれ以上の情報は持ち合わせてなんかいないとね。嗚呼、それとも私から何かまだ温泉『そういうのは今良いかなぁ』……ひぇぇ」
なんと言えば良いのか。ハブとマングース、もっと言ったら蛇に睨まれた蛙。
多分今日が初対面だと思うのですけれど、どうにもホシノさんには強くは出られない様子なカスミさん*5。
そんな彼女にため息を吐きつつ、ホシノさんは頬をかきました。
『……はぁ。別に泣かしたいわけじゃないけどなぁ……まぁそれは、良いんだけど。あのさ、カスミちゃん?』
そう前置きしてからホシノ先輩は寝る前の読み聞かせみたいに、ゆっくりと話し始めました。
『無駄に、というか無理してそうやって喋らなくて良いよ。君の処世術なのか気質かは知らないし、そこは別に良い……でも、少なくとも今の君は、ここに来てからは虚勢張ってるってのはなんとなく分かってる。君の頑張り、っていうのかな?そういうのをバラしちゃうのは良くないかもだけど……でもね』
カスミさんは少し驚いてか目を丸くしてから、でもいつもの笑顔に戻しています。
けどそれを見たホシノさんも気づかれたのでしょう。
笑顔に戻る一瞬、ちらりと見えた彼女の剣呑な瞳の色。
それに困ったように苦笑いしながらホシノさんは続けました。
『ここにいる子達はね、カスミちゃん。君が届けてくれた情報と申し出に真摯に答えて守ってくれる子達だよ。それはおじさん……ううん、私も保証する』
私たちもホシノさんの言葉に頷きを返します。約束を交わしたっていうのも勿論あります。
きちんと、約束を果たしたいって思いますし、きっとティーパーティもセミナーの皆さんも彼女達温泉開発部の立場を守ってくれる筈です。
『だからさ───お疲れさま』
でも、それ以上に。私達は思うんですが。
『貴女がここを頼りにした選択は、そしてハルナちゃんって子との約束を守って届けてくれた行動は、きっと良い結果に繋がってるし、私達が繋げるよ』
魔術っていうキヴォトスには存在しない物に対してすごく警戒されて、サーヴァントっていう存在がゲヘナで起こした事件も昨晩目にして。
アルさん達に図らずも協力した事で聖杯戦争に巻き込まれて自分たちの居場所がなくなるかもしれない、そんな状況で。
それでも私達に会いに来てくれた。此処にはいない下倉先輩とハルナさんの約束を守るために、約束を果たしに来てくれた。
「カスミさん」
「……ああ、なんだい?」
ホシノさんからの言葉を受けて、虚をつかれたように固まっていた彼女は、私の呼びかけから少し間を置いて小さな返事をしてくれました。
「改めて、お礼を言わせて下さい」
「……いやぁ、聞き間違えかな?私にはお礼だなんて抜けた言葉が聞こえてきたよ?……言った筈だよ?トリニティのお嬢さん。私はあくまで君達に取引を申し出ただけ。君達の心象を良くしたかったからリップサービスをしただけ。悪いけどさっき言ってた魔術だの魔力だのの確認のお願いだってこれからするから、君らに少しでも「そうかもしれません、だけど」……っ」
彼女の言葉を私は遮りました。この人はきっと、お喋り屋さんな方なんでしょう。
とってもたくさんの事を一度にお話ししてくれます。
けど、今日この場にかぎっては、その言葉は全部自分達の居場所を守る為。
それは間違ってません。
「私達に情報を届けてくれたこと、サオリさん達アズサちゃんの家族のことを教えてくれたこと。今日ここに来るまで、色々手を尽くして調べてくださったこと」
でもその為に、彼女は持ち得るカードを全部使って
そうするしかなかったなんて事はないでしょう。
でも彼女はまず私達のところに来て下さった。そしてたくさん大切な情報を何一つ偽りなく教えてくれた。
「嬉しかったです。貴女は今回の件についてどう思っているかは分からないですけど、私は」
何より居場所を守りたい。
私達補習授業部も、モモイちゃん達ゲーム開発部も、ミノリさんも。
その気持ちは痛いほど分かるから。
だからお礼を伝えたい、そう思ったんです。
「貴女に会えて良かった、貴女に届けてもらえて良かった……そう、思うんです。だから、あり「……聞きたいこと」え……?」
しっかり最後に伝えようとした五文字を、今度はカスミさんが遮って、静かに背中を向けました。
わざとらしく大きな声はちょっと濡れている気がしたけど、それは聞かなかった事にします。
「これから情報をまとめるなり、会議をするなりとなれば部外者の私がいては不都合だろう。だから私はここでお暇する……だから、ゲヘナに関することで聞きたいことや我々にやって欲しいがあれば無言って欲しい。良いかい?先ほどの『校則違反の品物の裏取引に関する罰則は受けるが聖杯戦争に携わった件については擁護と立場の保証をしてもらえる』、それとは無関係かつ一切の無条件で、そうだな二つほど」
だって振り返りながら私を見た彼女の顔は。
「君と、それからあちらの銀髪のお嬢さんにえらくキツい事を言ったからね。せめてその分の借りを、ここで返させてはくれないかい?そうでないと……いや、それを返してからでないと恥ずかしながら頼む物も頼めないという面子の話さ」
温泉に入ったみたいにほんわりと温かな笑みを浮かべていましたから。
「ライダー陣営攻略の手伝い、かい?」
「はい!もちろん無理にとかじゃなくって、その調べ物とか一緒に攻略の時の会議に参加してもらって話だけでも!そ、そしたら弁護とかする時もさっきの情報提供だけじゃなくて私達に協力してたって実績にも……だ、だめでしょうか……?」
「……いや、勝手に身構えていたからね。少し……そうだな、肩透かし……いや、肩の荷が降りた気分さ」
私からのお願いに、少しだけ目を丸くしてから片頬を上げたカスミさんは大きく頷いてくれました。
「勿論、協力しよう。なにせ、それで更に私達の立場を確約してくれるとなればそれはもうしっかりと働くさ」
なんだったら入浴施設の補修も請け負うぞ、なんて大きな声で調子良さそうに話されるので私も吊られてホッとしちゃいます。
そのままカスミさんと連絡先を交換して検査の日取りはまた連絡するとお伝えしていると。
「しかし有り難いね。君らはあの名高い温泉開発部だ。君達だからこそ見えてくる物が、特に対ライダー戦では必要になってくる」
「ちなみにその名前はミレニアムでは良い悪いのどちらで通っているのか聞いても良いかな?ミレニアムの有名なエンジニア部の部長さん」
ウタハ先輩が揶揄うようにカスミさんに話しかけられました。
肩をすくめたカスミさんは半ば揶揄うように彼女へ質問を返します。
それにウタハ先輩も同じようにしてから、にやりと笑いました。
「さて、それこそ君も私もこれからの働き次第で幾らでもじゃないかな?」
今度こそきょとんとされてから、カスミさんは大きな笑い声を上げました。
「……結構!結構!いやぁ……本当、底抜けにお人好しな取引相手達な事だ……本当に」
眦に涙を溜めるぐらい大きな声は、けど不思議と嫌な気持ちとかにはなりませんでした。
だって彼女から私達を馬鹿にしたりだとか、そういう感情がちっとも感じてきませんでしたから。
「あはは……こういうのはお嫌いですか?」
「取引相手としては不合格だろうね。取引とは貪るような食欲を隠して確実に己の利を一手ずつ通していく物さ」
なるほど、確かにとブラックマーケットでの戦いを思い出している私にカスミさんは頬を緩めてから私にだけ聞こえる声で。
「……私もそうだ。君が取引相手で、君達に会えて私達は幸運だった」
最後にそう仰ってから帰っていかれました。
『それでは司会は私、アビドス廃校対策委員会書記の奥空アヤネが担当します』
モニターに映ったアヤネさんが挙手をしてから始まった会議。
この場にいる全員の注目を集めた彼女は気にする事なく堂々と司会を進めてくれます。
『まず今回の参加者はセイバー、キャスター、バーサーカーの同盟に所属する各マスターとサーヴァント。そして各マスターが所属する部活動のメンバーである6名。聖杯戦争非常対策委員会からは、アビドス高等学校より私と小鳥遊の2名』
ホシノさんが「よろしくね〜」っていう気が抜けちゃうぐらい可愛い声で挨拶したところで自己紹介はバトンタッチ。
『トリニティからはティーパーティホストの百合園セイアと』
「へ?あ……ぉ……同じく図書委員会委員長の古関ぅウイです……」
セイア様、続いて拠点にいる古関先輩も自己紹介をして下さいました。
昨日は帰ってきてからもバタバタしてしまってちゃんとした歓迎会も出来てませんし、こうやって自己紹介を皆さんにして頂ける機会があった、というのは素直にありがたいです。
『ミレニアムからセミナー臨じ『現っ!』……会長の調月リオ、ヴェリタス副部長各務チヒロ、エンジニア部3名が出席するわ』
『以上21名でこれより第二回聖杯戦争非常対策会議を行います』
リオ会長がチヒロ先輩に注意されるのを見てほっこりしつつ、改めて今回出席する全員の顔合わせが終わったところで会議は進み始めました。
『議題に入る前に状況を整理していきましょう。まず時系列。昨晩23時頃に先生達が便利屋68の皆さんと接触、1時間の交渉の末に翌0時から交戦』
昨晩、私達がそれぞれお布団に入ったりお風呂に入ったり、私やモモイちゃんで言えば通路の一画で2人きりのお疲れ様会をしていた頃ですね。
『そして交戦開始から1時間後の同時刻にゲヘナは勿論、トリニティ、ミレニアム、アビドス、そしてD.U.でもシャドウサーヴァント達の出現と彼らによる各自治区への侵攻が確認されました』
4つの自治区とD.U.への侵攻。
普通に考えたらあり得ない戦術です。
広大な自治区を4つ、しかもそれぞれが戦力を保有した場所へ攻め込むだなんて、真っ当な物量では足りません。
だというのに、彼らはそれを成し遂げた。
連邦生徒会が静かなままでいるのが不思議なぐらい、彼らという存在は脅威です。
『昨晩侵攻してきた敵陣営、暴食のセイバーの発言から仮称「聖杯陣営」であると認定。彼らの戦力は3種類に分類できます』
3つ、そう言って指を立てるアヤネちゃんに合わせて映し出されるのは今回確認された敵の姿。
『まずD.U.、ミレニアム、アビドスで確認されたシャドウサーヴァント。ゲヘナの空崎ヒナ風紀委員長やトリニティからの報告にもあった、これまで度々撃退が確認されてきた存在です。特徴は全身の霊基が影のようなガス状に近い魔力で構成され不安定。自我も乏しく、スキルや宝具が使えません。アビドスで確認されたアーチャーからは亡者、と呼称されていました』
セイバーさんから習った限り、シャドウサーヴァントという方々は霊基が万全でなかったり召喚に失敗した事による弊害で生まれる存在らしいです。
でも強欲のアーチャーさんの口ぶりでは、どうやらただのシャドウサーヴァントじゃないのかもしれませんね。
『次に顔のない生徒。出立ちは確認された限りヴァルキューレ、正義実現委員会、C&C、風紀委員会の制服に酷似した黒い制服を着用。アビドスでは少数でしたが、昨晩、ミレニアムとD.U.で最も多く確認されたタイプです。この敵のタイプに関して、同盟陣営のキャスターさんは宝具かスキルによって召喚された存在である可能性が濃厚と予測されています』
キャスターさんが頷いておられますし、どうやらこちらに関してはシャドウサーヴァントではないみたいです。
『この顔のない生徒に関してはその他にもアビドス、ミレニアム、トリニティ間で締結された聖杯戦争への協力協定及び聖杯戦争非常対策会議に対して、定期連絡を傍受、また連絡担当者に成り済まして妨害工作を行っていた事が三校で確認できました』
急拵えですが対策は打ち出したので今後は遅れを取りません、とアヤネさんが言ってくださったので一安心です。
とりあえず、いるだけで必ず妨害される、みたいな反則染みた存在ではないのだけは幸いでした。
宝具の中にはそういうルールを敷いてくるタイプもあるって話でしたから。
『最後に……新たに現れたサーヴァント。ヒフミさん達が契約されている方達に酷似した、思考し、スキルや宝具を使う事が強力なサーヴァント達になります』
そして新しいサーヴァント。
私達の中ではまだモモイちゃんとキャスターさんしか交戦していませんがとても強いと聞いています。
『出現したサーヴァントはそれぞれ、トリニティに暴食のセイバーと推定になりますが色欲のバーサーカー、アビドスに強欲のアーチャー、ミレニアムに怠惰のランサーと嫉妬のアサシン、ゲヘナに憤怒のライダーの計六騎。強欲のアーチャーの発言からキャスターは召喚されなかったと思われます。真名が把握できているのは怠惰のランサー、憤怒のライダーの二騎。それぞれ、クー・フーリン、丑御前……という英雄だそうです』
真名に関しては大急ぎで古関先輩が調査中という事です。
午後までにまだ分からない強欲のアーチャーさんとや残る二騎についても当たりはつけておく、と仰られていました。
『彼らの最大の特徴としまして通常のサーヴァントとは違い宝具やスキルとは違う権能、と呼ばれるスキルを所持しているようです』
権能。
これについてはまだセイバーさん達からしっかりとは習っていません。
ただ少なくとも、とんでもなく恐ろしい物である事は直感が教えてくれていました。
警戒しなさいって言ってくれてるんです。
『聖杯陣営の長期的な目的は現在不明……ですがこれもまた私達が確認した限り、聖杯戦争の円滑な運営こそが彼らの目的であり、今回の侵攻は我々の戦力を削る目的の他に今後行われる聖杯戦争において不都合な存在の抹消……』
アヤネさんはそこで一度言い淀んでから瞼を閉じて、けどすぐに開いてしっかりと言い放たれました。
『つまり標的を殺す事を求めてだと思われます……狙われたのは各サーヴァントの発言からトリニティは桐藤ナギサ、百合園セイア両生徒会長。ミレニアムでは早瀬ユウカ会計。アビドスでは砂狼シロコ委員。ゲヘナでは丹花イブキ役員と現地にいたシャーレの先生の以上6名。今挙げた人達を……排除する事が彼ら聖杯陣営にとって利のある行動のようです』
「……多いな。そしてレッドウィンターがないという事は、別に私達だけが理由じゃないってわけか」
『ええ、恐らくはですが。また強欲のアーチャーの発言に陸八魔アルさんへの言及もあった事、同盟陣営の拠点への奇襲が確認された事。以上2点から不確定事項にはなりますが、上記6名に合わせて各マスターへの接触ないし攻撃を加える事も昨晩の侵攻目的だった可能性もあります。その他にもランサーの魔術によって大規模な通信妨害も行われ、自治区を越えての連絡が途絶される状況になりました』
怠惰のランサー。
真名は本物であるなら、セイバーさんやキャスターさんが小さな頃にお伽話として聞いていたという大英雄クー・フーリン。
そして黒服さんが契約されているアサシンさん、彼女のお弟子さんです。
『次に昨晩の被害について。幸いな事に死者はまだ確認されていません。ですが交戦時や避難時に負傷者が発生、建造物やインフラ関連なども大きな被害を受けています。それにあたり各校の復興状況と今後の目処を教えて下さい』
『トリニティは本校舎にかなりダメージを受けたがそれ以外は軽微だ。復興等は気にしなくて良い』
『ミレニアムは今晩までに電気等インフラのシステム再構築を目指すわ。市街地も通常の銃撃戦で受ける程度の被害だから問題なし。幾つかフロアを爆破されたミレニアムビルも既に修復工事を始めているわ。ただ発電所』
ユウカちゃん達がなんとか電力を復旧させようとしたその場所は戦場になったと聞いています。
それについて触れるリオ会長の顔はいつになく暗くされておられました。
『あちらに関してはしばらく稼働が難しいわね。向こう半月は節電等を指示するつもりよ』
『お二方、ありがとうございました。アビドスについては既に避難所も閉鎖。元々戦闘も市街地外でしたので当面は瓦礫の撤去等ぐらいで、自治区の運営としては大きな問題はありません』
ゲヘナは市街地のうち二割がライダーさんと憤怒のライダーの宝具が戦った関係で機能停止。
アビドスは既に元の日常に戻りつつあるようですが、トリニティはナギサ様、ミカ様、ツルギさんが入院中。
そしてミレニアムについてはまだ電力の供給源が限定されている状態。
幸い拠点は大型魔力炉があったり地下発電設備もあるので稼働できますけど、それでも自治区の防衛って点で見るとかなり厳しい現状です。
『続いて、各自治区で収集した情報についてです。映像を見て頂いた皆さんもご存知のように》、アビドスは強欲のアーチャーとの戦闘で今回の聖杯戦争の勝利条件について本人から直接聞くことが出来ました』
『いやぁ、よく喋る相手だったよー』
『強欲のアーチャーは聖杯陣営内のサーヴァントでもかなり特殊で与えられた権能を限定的かつ方向性を絞ることで自我を保っている、とありました。その事から権能には強化だけでなく思考汚染の効果もあるのかもしれません』
権能。
セイバーさんが言うには、彼らの世界にいゆ神様が持っているすごい力、なのだとか。
そして本来であればサーヴァントの霊基で、そして彼らの世界ではもう
そんな物を一体どうやって手に入れていたのか、私達にはまだ分かりません。
『話を戻しますが……彼曰く聖杯戦争の勝利条件は二つ』
ここで私たちの意識が強くアヤネさんの方に向かいました。
聖杯陣営の中で唯一、自我が正常に近いという強欲のアーチャーさん。
彼が、自身が亡くなる際に最後にシロコさんへ伝えたというメッセージ。
『一つ目は予備システムの起動、二つ目は七騎のサーヴァントを撃破する事で出現する大聖杯の破壊』
それは私たち同盟陣営が喉が手から出るぐらい必要としていた情報でした。
『どちらも私達同盟陣営がサーヴァントの方から聞いていた通常の聖杯戦争における勝利条件とは異なります……恐らくは私達の目的に近しい所にある形で勝利する為の手段、と考えて良い筈です』
予備システム。
黒服さんに聞いてみようかなんて話も少し上がっていた、シュロちゃんが起動するなと言っていたシステムです。
『前者は妨害が発生せず、また過半数以上のマスターが同意すれば起動できるそうです』
でも、まさかまた聞くことになるだなんて、思ってもいませんでした。
『後者に関しては……現状では必ず一騎のサーヴァントを犠牲にしなくてはいけない、と。またこちらの場合は聖杯陣営からの妨害が行われる可能性が極めて大です』
後者に関しては難しい、という側面が強いです。
サーヴァントの方の犠牲を許容しなくては達成できない勝利条件。
ですが、情報を細分化してみると大きな手掛かりに繋がっています。
何せやっぱりあったんですから───大聖杯が。
【条件①:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は人類最後の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎である】
【条件②:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に求められるのは観測である】
【条件③:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の役割は固定された】
【条件④:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は主役ではない】
【条件⑤:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は試練を超克していない】
【条件⑥:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は七つの異聞帯を旅した】
【条件⑦:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の目的は特異点の修復である】
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)
-
ハーリングのセイバー
-
フィレンツェのアーチャー
-
楽劇のランサー
-
維新のライダー
-
白備えのキャスター
-
キラキラのアサシン
-
民話のバーサーカー