……失礼します。
容態は……芳しくありません、か。
致したかない、と言うのは歯痒さ以上に憎悪すら感じますね。
いいえ、構いません。
あるべき場所に救護を。
たとえ休学しようと、その後に私が然るべき処罰を受ける事になろうと私は私の誓いを決して揺るがす事はありません。
私は……患者を救わねばならないのです。
私達に提示された二つの勝利条件。
アビドスに侵攻してきたシャドウサーヴァントの軍団を指揮して、恐らく霊基が汚染、というのを受けていながらホシノさん達に大切なメッセージを残してくれた強欲のアーチャーさん。
彼が最後に残してくれたのがサーヴァント七騎を倒すことで現れる大聖杯の破壊、もしくは予備システムという物を起動する。
そのどちらかが私達の勝利条件だという物。
そしてそれをよく知っているだろう人物に、私達は一人だけ心当たりがありました。
「監督役……黒服さんですね」
キヴォトスで始まった聖杯戦争の監督役。
本名は存じ上げませんけど、黒服と呼ばれるアサシンさんのマスターである大人。
恐らく私達が知る中で唯一勝利条件について知っていると思われる人です。
「普通に考えればああいう如何にも怪しそーな人が黒幕、なんだろうけど……なんていうか、今一つ決定打に欠けるよね」
モモイちゃんが頭を掻いていますけど、私も同じ気持ちです。
黒服さんは怪しいです。
見た目も言動も真っ黒です。
でも、彼は私に対して誤魔化したり言わなかったりする事はあっても、嘘は吐いたことがありませんでした。
「実際、ケーキ奢ってもらったりアルさんとの戦いでも間一髪のところを助けてもらっちゃってますからね……個人的にはあんまり疑いたくない、って気持ちがあります」
「うん。あそこの店で食べたケーキは美味しかった。奴は話も真剣にしてくれた……けど」
聖杯戦争開始から五日目にトリニティのカフェで会った時も。
七日目の夜にモモイちゃんやアリスちゃん、アズサちゃんが倒れてヘルタースケルターさん達もやられちゃった中、アルさん達と正面衝突しそうになった時も。
そして二日目の時だって。
彼は直接私を殺す機会が何度もあったのに、素振りすら見せず必要な事を教えてくれました。
けれど、同時にもう一つ。
「私はヒフミほどはだな。現状、陣営として敵対はしていないだけで味方でもない。何より……アサシンはヒフミを一度殺そうとしている」
「アズサちゃん……」
俯いて唇を噛む彼女になんて声をかけたら良いか、私には分かりませんでした。
黒服さんと契約したアサシンさんに、私は殺されかけてそれを庇ってくれたアズサちゃんも大怪我をさせられました。
今思い出しても、苦くて、つらい思い出です。
そしてきっと、アズサちゃんにとっても同じなんです。
「僕がヒフミに召喚されたあの日の事だね。ここまでの話の中でもあったように聖杯戦争は秘匿される物だ。僕らがいた世界では魔術師社会の秩序に則って、そして此処キヴォトスでは聖杯戦争その物が社会に対する巨大な異物であるからだろう。目撃者への対応は各マスターや監督役に委ねられるけど……」
「口封じ、というのはまあ考えられる話というやつか。これだから監督役なんて役職にふんぞり返っている権力者というのは……」
理解はしたが納得は出来ないと怒ってくれるミノリさんに他のみなさんも頷いてくれています。
実際のところ、その事についての整理は私だってついていません。
聖杯戦争の目撃者を口封じする為に、手に掛ける。
そういう残忍で私からすると軽挙にしか見えない手段を取れる、というのは納得なんて出来ません。
何より、アズサちゃんは治りこそすれど大怪我を負いました。それが私の中でしこりになっています。
「ある意味で我らの知る聖杯戦争に最も行動が近しいのがあの男だ。聖杯戦争や魔術の秘匿、被害の隠蔽、果ては各陣営の状況を把握し必要とあらば調停。そして目撃者に対する口封じ。いずれも我らにしてみれば実に聞き慣れた立ち振る舞いだ……今回が初、いやそもそも土壌として聖杯戦争という概念すらなかった土地である……というのにな」
「職務に全う、というわけか?気に入らないな、本当に……ただ、確かに奴は仕事に対してはきっちりしていた。直接の関わりが薄いからあれだが、口封じなんて碌でもない仕事以外にまマスターへの説明、なんてのもしていたな。ヒフミ達だけでなく、たとえば私なんかには
キャスターさんの説明にミノリさんが頭から湯気が出ちゃうぐらい*1怒っている中、彼女がふと思い出したように口にしたのは黒服さんの仕事ぶりについて。
中身は違いますけど、やはり私にそうされたようにしっかり色んなことを他の方にも教えていて、マスターになってしまった生徒へのアフターフォローをしているんです。
なんというか律儀だなぁ、だなんて間の抜けた感想が頭を掠めたところでセイア様が疑問の声をあげられました。
『すまない、そのバックフローファンタズム、だっただろうか?それについての説明をお願い出来るかい?』
しまった、とはしたないですけど思ってしまいました。
セイア様は今朝の会議からの参加して下さっています。
一応ある程度の話、たとえば聖杯戦争のあらましでしたり、マスターの事でしたりはナギサ様やユウカちゃん達ミレニアムの方を通して聞いているというのは伺っています。
けど直近、昨晩あった会議で出た契約継承と呼ばれる特殊なスキルについてはお伝えできていませんでした。
「簡単に言えば、契約しているサーヴァントのスキルを一部共有出来るんだ。私であればスパルタクスの……まあそのなんだ、あるスキ「被虐の誉れである!」ええい!うるさい!言うなっ!隠そうとしてただろうがっ!私の性癖がお前と一緒だと勘違いされるだろうがっ!」*2*3*4
「おお、これもまた愛……」
「バーサーカー。年頃の少女との会話はっていうのは難しいね……」
なんでかセイバーさんとバーサーカーさんの二人して黄昏れますけど、無視しましょう*5。
キャスターさんも呆れてため息を吐いておられますし*6
「……バックフローファンタズム、類感性逆流現象はざっくりと言ってしまえば霊基と私達の肉体が契約を通して相互に干渉した結果、偶発的に発生した特殊事例らしい。召喚されたサーヴァントのスキルのうち、相性さえ合えばマスター側もスキルの恩恵が適用される」
ちょっぴり顔を赤くしつつ咳払いをされたミノリさんのお話は昨晩も聞いたものです。
私の場合は『直感』というスキルで、自覚はありませんでしたが私を助けてきてくれた物です。
『ふむ、偶発的……だとすると件の現象は、どうやらキヴォトス特有の現象、或いはシステムのようだね。そして黒服と呼ばれる大人は君にはその説明をしていたが、阿慈谷ヒフミさんと才羽モモイさんへは説明しなかった。そういう認識で捉えるが構わないかい?』
ここでセイア様が切り込むのは説明が私達にされたか否かについて。
監督役の務めだからと度々口にしていた黒服さんですが、確かに私には説明がありませんでしたし、彼とモモイちゃんが
ただそれについては何となく予想できます。
『(聞かれなかったから答えなかった、当たりだろうね)』
『(あはは……まあ、そうでしょうね。自分の身体とかに反映するスキルですから説明が欲しいですけど……)』
『(逆に言えば、自身の身体に起こる事ならいずれは何かしら違和感を覚えて聞きに来るだろうってとこか。本当になんというか……)』
底意地が悪い、というのともまた違うなんとも微妙な塩梅のやり口です。
この分だと私がタイムリミットについて知るのもトキさんから教えてもらわなかったら、多分拒絶反応を発症してから悠々と教えにきた感じですかね。
そんなありそうだった想像をしているとミノリさんのやたら低い小声が聞こえてきました。
「……不本意ながら私は聞いたからな、直接」
不本意を強調しつつ、直接聞いたと言うミノリさんはいつもと違って覇気もないです。
何より珍しく下を向いておられました。
『召喚された直後から心当たりがあったのかい?君に適用されたスキルは肉体の回復が主たる物だったから……たとえば怪我が突然治ったような』
モニターの向こうにいるセイア様も様子が気になるのか、心配そうに声を顰めておられます。
みなさんも、何故か手を口に当ててにこやかにしているハナコちゃん*7とにやにやしてるウタハ先輩*8以外、普段と全然様子の違うミノリさんに心配しておられます。もちろん、私も思わず彼女に声をかけようと思いましたけど。
「……不本意だ。不本意なんだが」
そこで声と一緒に伸ばした手は止まりました。
「……この筋肉ダルマと契約することで発生する肉体的な変化はあるのか、と尋ねたんだ……」
だって顔を上げたミノリの頬と耳は真っ赤にお化粧されていましたから。
「……同居をするとルームメイトと性格が似てくるとかあるだろ?たたでさえ魔術とかいうファンタジーな契約なんだ。正直こいつにつられて……
きょとんとしているセイバーさんと朗らかに笑って何のことかさっぱり理解してなさそうなスパルタクスさんは放っておくとして。
私達が涙目でぷるぷる肩を震わせておられる頬を赤くしたミノリさんへ思う事は一つでした。
「思った以上に切実な問題だったね……」「切実ですね……」「それはちょっと私も嫌だな……」「私も少しそれには抵抗が……」「ごめんなさい、ミノリ先輩……それは聞いても仕方ないです……」「細身ならまだ、いいんだけどね……」「今ある服着れなくなるのはほんといや……」「コスプレ関係は切実ですよね、そうじゃなくてもお気に入りの私服とかも……」「わ、わたしも……」「そうですよね、ミノリさん……」「気持ち、すごい分かるから。貴女も一人で大変だったのね」『おじさんもちょっとそれは……いや、だいぶやだなぁ……ところでみんな、今なんの『何勝手に通信開き直してるんですか!?まだお説教!すんっ!終わってないんですよホシノ先輩っ!*9あ!シロコ先輩!*10ノノミ先輩!*11セリカちゃん*12ちゃんにそれからハイランダーのお二人まで!*13ちょっとこっち来て聞いて下さいっ!』う、うへ〜』「くくっ、いやぁ改めて聞いてもだね、ミノリ。確かにその心配の種は……言葉にするのも恐ろしい話だよ……くくっ」
「みんな……あとウタハ、拠点裏」
訂正。
どうやら昨晩あたりにでも話を聞いておられたのかウタハ先輩は笑っていました。
「筋肉がつくのは悪いことじゃないぞ?身体は資本だ」
「はい!グラップラーにジョブチェンジが出来るチャンスです!」
『確かに不必要な筋量が増えるというのはコスト面を考えるとパフォーマンスに劣るわ。けれど総合的に見た時に労働力や健康の向上に繋がり、更に本来必要な運動をせずとも一定以上の筋量をノーリスクで得られるという利点があるのも無視できないのは事実ね』
「お前達……」
再度訂正です。
アリスちゃんはまだしも、アズサちゃんとリオ会長にはまたちょっと後でお話がいりますね。
ついでにショッピングにでも連れ出してスタイルと可愛いお洋服の相互関係を説明しなきゃですね。
『君が懸念した理由はよく分かったよ、ミノリ。そしてそこの三人に淑女としての
セイア様も嫌な事を思い出させて悪かったね、と謝罪をされてこの話はおしまいです。
ちなみに契約継承以外ではサーヴァントの方との契約によって起こる肉体の変化、というのは基本的にはないというのも、初対面の時に聞いたそうです。
「でもやっぱり……黒服さん、色んなことを知ってるんですね……」
「彼の話では聖杯戦争の仕組み自体には関与していないそうだけど、やはり監督役だからでは説明が付かないね。そもそも第一のマスターという話だし。……それに聖堂教会もないこのキヴォトスで、彼が一体誰から言われて何のためにその役職に就いたのか、それすらまだ分からないからね。全てにおいて推測が難しいと言わざる得ないな」
改めて話をしていても、まるで全てを網羅しているような感じだと思ってしまう黒服さんの言動。
セイバーさんも顎に手を当てて訝しんでしまうぐらいにはやはり怪しいと感じているようです。
ただ気になる言葉が一つ。
「セイドウ教会、ですか?」
『魔術協会』というのがセイバーさん達が元いた世界にはあって魔術師と呼ばれる方達が所属している、というのは以前伺いました。
けど今セイバーさんの話の中にあったセイドウ教会というのは初耳でした。
「魔術の世界には神秘の秘匿という規則がある。当然、取り締まる組織も幾つかある……という話は前にしたな?聖堂教会もその一つだ」
「通常、という区分が正しいか分からないけど、少なくとも僕が知る限り聖杯戦争の監督役には聖堂教会から派遣された人間が任に着くものだった筈だよ」
「許し難き圧制者の総本山!唾棄すべきは驕り高ぶっ「はいはい。分かったからそういうのは念話で私に伝えてくれ。話を遮って敵わん」……ぬぅん」
「あはは……御三方とも、ありがとうございます」
セイバーさん達な言うにはどうやら魔術協会とは別にある組織みたいです。
こっちで言うとちょうどシスターフッドのような組織なんだとか。
黒服さんがシスター服、はちょっとどころじゃないぐらい似合いませんね*14。
「教会……だったら黒服って人が通功の古聖堂を拠点にしてる事にも、もしかして意味がある……とか?」
そんな風にスーツ姿以外は想像できないと思っているところに飛び込んできたのは、ユズちゃん呟きでした。
「こ、こういうのって……RPGとかだとその……教会に隠されてるっていうか隠してるその……大切なアイテムとか……あ、ああるかも!……とか、なのかなって?そ、そその!意味がある!意味があるとしたらって意味で!」
慌てるユズちゃんでしたが、私達の中にあったのは納得です。
私達にとって通功の古聖堂は大きな意味を持っています。
とはいえ、あまりにもその印象が強くて拠点自体の意味というのを今日まで考えてこれませんでした。
確かに言われてみれば、わざわざまだ壊れたままになっている古聖堂を拠点にしている意味は一体何なんでしょうか。
「教会はどく消しやふっかつの呪文をかけてくれるところです!アリス、ドラゴンテスト*15とファイナルファンタジア*16で学びました!パラディンにジョブチェンジも出来ます!」
「聖杯戦争に関連した物が納められている、だから古聖堂を拠点している。筋は通る、な。そして私達が知る情報だと」
「聖杯、そして……」
黒服さんが古聖堂に拠点を置いた理由。
それが古聖堂自体にあるとすると考えられるのは二つ。まだ見つかっていない大聖杯かその魔術の式というのが刻まれている場所その物。
もしくは以前説明を受けた一時的に敗退したサーヴァントの方の魂を保管する小聖杯。
そしてハナコちゃんが、この場にセイア様がいるからこそ言い淀んでしまう。
『地下数十キロにも及ぶ巨大なカタコンベだね。話に聞く、ゲヘナが開発した例の地下坑道……そのオリジナルといういうべき物がアリウス自治区まで延びている』
ゲヘナとの戦争の引き金になり兼ねない、ゲヘナの旧カイゼリン・ブリッツ記念教会跡地から各自治区へと延びる秘密の地下通路。
その元になったらしい迷宮のようになっているらしいカタコンベの存在です。
「もう、聞いていたんですね?セイアちゃん」
『さて?今ここにいる私は確かに百合園セイアだが、あくまでこの場も含めて聖杯戦争に関連する全ての内容は非公式だったとティーパーティは認識している……それで良いかな?』
カタコンベの存在自体、別にトリニティ側では大きく風聴しているような物ではありません。
未だ調査中らしく、内部の構造も古い地図や私達が受け取った写しこそありますけど、まだまだ分からない部分が多いらしいです。
なにより、カタコンベと関わりが一応あるゲヘナの地下通路。
元々他自治区への侵攻用という話で、かなり政治的にもデリケートな物です。
それをセイア様は澄まされたお顔で静かに微笑んで流して下さいました。
その様子を見る限り、きっと私達が全部を終わらせた時には、丁寧に、そして秘密裏にこの問題を処理して下さるのだと確信を持てます。
「……ありがとうございます。では、話を戻しますけれどエデン条約の一件以降、通功の古聖堂の地下にはカタコンベが存在するのが確認されました。昨日サクラコさんが私達に渡してくれた地図がそれです……さて、みなさん」
セイア様の言葉を聞いてから一度目を伏せたハナコちゃんがもう一度前を向いた時、その瞳の色に私は驚いてしまいました。
いつだって優しい彼女の瞳が、この時はすごく痛々しさと強い覚悟を秘めた色に染まっていたからです。
「私達はカタコンベを利用していると思われる陣営に黒服さんとは別で心当たりがありますよね?」
カタコンベを利用しているかもしれない陣営。私達が調べた限り、それは一つしかありません。
「……ちょっと待って。じゃあなんなの?
ランサー陣営。
私達のお友達である伊落マリーちゃんがマスターで、ランサーさんの受肉を叶える為に戦っている彼女だけです。
「もしもカタコンベの存在の有無で通功の古聖堂を選んだというのなら、になりますが。ただ大聖杯という物が地下に隠されている可能性もありますし……それにコハルちゃんの考えに対する一応の否定材料を私は用意してあります」
驚いて、けどすぐに首を振ってから静かに尋ねたコハルちゃんへ、ハナコちゃんは唇を一文字にしつつ言葉を選ぶようにして答えていました。
「ただ根拠としてはとても弱い。少々、乱暴ですし希望的観測なんです……だから監督役がアサシン陣営として、聖杯戦争で何らかの目的を達成する為に他陣営と繋がっている可能性を私は否定しきれません」
「希望的観測で乱暴か。随分と気弱だな、ハナコ。思うに君は伊落マリーさんと黒服は繋がっていないと考えたいようだが、私は逆だぞ」
釈然としない、そう言いたげながらも何かを確認するように聞くミノリさんへハナコちゃんは頷きました。
ぐるっとこの場にいる私達を見てから話し始めてくれました。内容は監督役のお仕事について。
─── 聖杯戦争の監督役とはつまりその戦いが規範に沿って正常に運営されているかを監視する事です。
─── したがって、我々が規範として掲げているのは一つ、聖杯戦争の被害を最低限に留めること。
─── その役割は少なくとも今次に限っては被害状況や戦闘の実態を調査、補填し、極端に大規模な被害の発生を抑制する。
───何より、聖杯戦争というとびきりの異物がどういう形で推移し幕を閉じるのかを全て記録する。
かつてそう教えてくださった彼の役割の中で、ハナコちゃんが注目したのは事態の補填について。
「では……その前に。セイアちゃん、リオさん、それからもうそろそろお説教が終わってこの会話をこっそり聞いておられるでしょうホシノさん。自治区内で黒服さんの活動は確認できましたか?」
私達が頷いたのを確認してから次に尋ねるのは各学園の運営に携わるお二人と、さっきまでアヤネさんに叱られていて通信を閉じておられたホシノさんへ。
『ふむ、分かっているだろうから簡潔かつ次の質問についても答えようか。それは特定出来ないよ』
『残念だけど、うちも同じね。黒服と呼ばれる人物と彼の組織の活動について、私は聖杯戦争期間中の行動を自治区内で確認したのはあの一夜限りよ。それにチヒロにしても私にしても……いえ、ミレニアムに限定して《アレ》を使えば可能だろうけど……やはり貴女が聞きたいことについて調べるのは困難ね』
『うへ〜、みんなただいまぁ。やぁっと、うちのママからのお説教終わっ『ホシノ先輩……?』……お、おじさんが知る限りではあいつが自治区で何かしてるっていうのは知らないかな』
返事はみなさんいずれも、いいえ。
自治区内で黒服さんが確認できた事は、七日目の夜に私達と会った時だけのようです。
それを考えると。
『(君の考えている通り、四日目のカフェで遭遇した時のことはカメラ類だったりの監視網には引っ掛からなかったのだろうね)』
『(あはは……謎の多い方ですね……)』
『(さもありなんだよ。黒服にせよ、彼が契約してるアサシンにせよだ。神代の魔術を修めてるとなれば大抵の監視だっていとも容易くすり抜けられる)』
『(魔術って本当に便利ですね……)』*17
『(一応、色々と小難しい部分はあるんだけどね)』
つくづく魔術という物と、アサシンさんを擁する黒服さんの規格外さに頭を悩ませてしまったところで、話はセイア様の仰られた次の質問に移ります。
「ありがとうございます。ではもう一つ……そうですね。今回の襲撃、それからミレニアムで起きたモノレールステーション半壊の被害について。これらの被害へ金銭的な支援というのが届く予定はありますか?」
『(あ、ヒフミ。君がやらかした話が出てるよ)』
『(あはは……いやだなぁ、セイバーさんがドリフトして壊したんじゃないですか!)』
『(ははは……もう忘れたのかい?僕は───君のサーヴァントだよ)』*18
そんな念話越しに爽やかな感じで言ってもなにも感じませんよ、私は。
あと会議の邪魔にならないように念話してるんですからサムズアップとキメ顔もやめて下さいね、セイバーさん。
『合理的だからまとめて私がまとめて説明するわ、ハナコさん。貴女の考えているように、連邦生徒会を含めた複数の団体から支援金や補助金の打診が届いたりしている。だから特定が出来ないのよ』
リオ会長がまとめられた話について、ホシノさんもセイア様も異議なしという様子です。
それを見るに、どうやら色んなところから支援金や基金による寄付なんかはあるのだとホッとしたところで疑問も浮かびます。
特定が出来ないとは一体何のことか。
「……もしかしてだけど、ハナコちゃん。お金の流れが見えないから黒服さんが実際にどうやって補填してるか特定出来ない。もっと言ったら、そうやって流れを掴ませないみたいに……そもそも黒服さんについて調べたり特定するのが難しいとかって話なの?」
それを考える前にミドリちゃんが答えを言ってくれました。
「はい、私はそう考えています。考えて頂きたいのは聖杯戦争で発生する被害の規模です。彼がしていると考えられるのは金銭面での支援。起きた被害をなかった状態する原状回復こそが彼の言う聖杯戦争の補填になるのでしょう。ではそれがどのようにか、と言えば先ほど三人に聞いた支援金等による援助で、となります。そして、支援は複数の団体から届けられる」
ミドリちゃんの言葉に頷いたのハナコちゃんはいつの間にか取り出したペン*19*20*21で、これまたいつの間にか持ってこられたホワイトボードに矢印を書き始めました。
「黒服さん個人の資金を流しているのかそれとも、支援をする流れ自体を作っているのかまでは分かりません。ですが各学園の生徒会でも追えないとなれば……どうやら彼は表社会にもある程度融通が効くみたいですね。少なくともこの手の資金流しは一個人でやるにはあまりにも回りくどいですし、限界があるやり方です」
自治区に向かう矢印の始まりに描かれたのは黒服さんの顔とお金。
ですがその矢印が自治区に向かうまでの間を、ハナコちゃんはわざと消してしまいます。
つまり、どうやって、どんな経路で支援金が届いているのか分からないという図。
「でも……名義は個人じゃない。しかもどの団体に関わっているのかも分からない。そして百合園生徒会長さんが特定できないって言うなら団体や基金とかも色んなところ、それも有名な企業とか団体とかからも届いてる……ってとこかな?」
「はい♡というわけで黒服さんは各自治区への直接的な干渉ではなくキヴォトスという社会を維持、回復させる形での補填という手段をしている可能性が浮上しましたね♡……ではダメ押しに」
消された矢印の中間には幾つものビル、つまり会社が描かれていきます。
それを何度も経由したかと思えば別の場所に飛んだりと、とにかくスタート地点にいる黒服さんから複雑にお金が渡っていくのが描き込まれていきます。
「先ほどの話の中にもあった通り、聖杯戦争での被害というのはあのナギサ様も頭を抱える程度には頻発したり、或いは大きい物であったりします。それについて私は、一個人の資金で賄うというのには限度があると思うんです」
『そうね。ユウカのような資産運用が出来るレベルでないと個人では限りなく難しいと思うわ』
「……すみません、その話はすごく気になりますけど取り敢えず割愛しますね?では改めて」
どうしてユウカちゃんはお一人の資産で聖杯戦争関連の被害を補填できちゃうのか*22。
そして何故リオ会長はいくら仲の良い後輩とはいえユウカちゃんの資産運用の実態を把握しているのか*23。
謎は深まりますが一先ず置いておきましょう。
よく考えたら私も補習授業部のみなさんのお財布の中身とか知ってますし*24。
「この中で黒服さんが過去から今に至るまで公益法人や大きな企業……たとえばカイザー系列のような企業と付き合いがあったのをご存知の方はいらっしゃるでしょうか?カイザーからの侵攻を嘗て受け、黒服さんと古い付き合いのあるホシノさん?」
『もぉ……それ知ってて聞いてるよねぇ。というかウチの事までよく調べて』
「ヒフミちゃんが以前、対策委員会の皆さんとの思い出話をしてくださいましたから♡」
ほとんど決め撃ちの理由は以前したおしゃべりというわけで、つい私も照れちゃいます。
とはいえ、補習授業部のみなさんにも聞いてほしかったんです。
私とアビドスのみなさんが出会ってからこれまでの事を。
『(ヒフミ、ヒフミ。僕それ聞いてないよ?)』
『(あはは……まだセイバーさんが来る前でしたから。また今晩とかにゆっくりお話させてください!)』
『(違う、違う。君が昨日ホシノが来た時に言いかけたブラックマ……)』
はい、聞かなかったことにしましょう*25。
『うへー、ちゃんとおじさんのこと、かっこよく話してくれた?ヒフミちゃん……はぁ、合ってるよ。私が知る限りでは黒服とカイザーPMCは繋がりがあった』
まあ繋がりってだけで黒服自体はカイザーの人間じゃないけど、とホシノさんが続けたところでモモイちゃんが首を捻りました。
「あれ?カイザーってさ、ええっとなんだけど……あのほら!なんか名前出てた!」
「オクトパスエンジニアリング、それとオーベッドグラフィック。どちらもカイザーコーポレーションの系列企業でライダー陣営との関与がある」
「アズサ、ありがとっ!あれ……え、ちょっと待ってよ!じゃあ今度は……マリー達だけじゃなくてライダー達と黒服って人が繋がってるっていうか仲間かもしれないの!?」
『安直にはなるけれど三段論法で考えるのならそうでしょうね』
あわあわしだす可愛いモモイちゃんを見ているのでなんとか私達の方は落ち着いてますけど、飛び込んできた情報はあまりにも大きいです。
マリーちゃんとアルさん。
まだきちんとお話も出来てない二人が、もしかすると本来中立の筈の監督役も含めて三陣営で協力関係にあるかもしれない。
被害が拡大しちゃうって点から数の多さは弱点とはいえ、反面その分戦力層も数も多いのは間違いなく私達同盟陣営の強みです。
だというのに、もしアルさん達が協力関係にあった場合、私達の聖杯戦争における優位性と唯一性が一気に瓦解しちゃいます。
「ええ、ですからミノリさんはその方が楽と仰ったんです。私達がこれから早急に解決しなくてはいけない問題、聖杯陣営を含めた五つの陣営への対応。そのうちランサー、ライダー、アサシンの三つの陣営が既に協力関係を築いているというのなら……戦略として考えなくてはいけない攻略目標が五つから三つまで減りますからね」
とはいえ考え方を変えれば、攻略しなきゃいけない相手がまとまってくれた、という風に見えます。
だからミノリさんは逆が望ましいと仰い、ハナコちゃんもその方が楽だとまで言ってたんです。
「だが、ハナコ。君はそれを否定できる材料があると言っていたね?出来れば、教えてもらいたいかな。攻略目標が減るとは言ってもだ、ライダー、アサシン、ランサーが手を組んでいるとなれば少しなんてとてもじゃないが言えないほど厄介だからね」
「……単純に私達のような協力関係を結ぶ理由に乏しいんです。最終的な目標が一致している私達は手を取りあえますが、マリーちゃんにしても陸八魔アルさんにしてもそれぞれの願いを叶える事を第一優先にしています。第一、マリーちゃんは願い自体、陸八魔アルさんはこれまで確認できた苛烈なまでの攻勢から。少なくとも両陣営は相容れないと思います」
ウタハ先輩の質問にやはりちょっとだけ暗いお顔のハナコちゃんが答えます。
ライダー陣営とランサー陣営は度々トリニティとゲヘナの境界線近くでぶつかっていた、とナギサ様方のお話で伺っています。
そしてマリーちゃんとアルさん、お二人それぞれの戦った時の様子を思い返してみても、やっぱり手を組む姿というのがあまりピンときません。
それぐらい、お二人とも願いを叶えるのに必死な様子でしたから。
「たとえば聖杯戦争が終わるまでの同盟関係ではなく、強力な敵を倒す為、もしくはお互いを牽制しあってスムーズに他の陣営の数を減らす為……というのであれば分かります。とはいえこれも難しい話です。後者に関しては既に私達三陣営が同盟を組んでこれ以上放っておいても数は減りません。強力な敵、という事ですがこれも変です」
「ライダー陣営は聖杯戦争初期からタトゥーシールの販売という手段で撹乱をしていた。つまりかなり早い段階でカイザーと繋がっている。そして黒服さんに至ってはカイザーと聖杯戦争以前から関わりがあった。ましてや監督役という立場もあれば、両者が接触したのも恐らくかなり早いものだろう……となるとだ」
「ええ、疑問が一つ浮かび上がります。何故黒服さんは七日目の夜にライダー陣営を牽制したのか?ですね、アズサちゃん」
そう、黒服さんはあの晩私達を助けてくれました。令呪を切って宝具も使う、そういう覚悟を抱くぐらいの状況にあった私達をです。
もし仲間だとして、そして私達が邪魔なら、助けるメリットなんて私にはちっとも思いつきません。
「もし同盟を組んでいるとすると、あのタイミングでライダー陣営の凶行を止める理由が黒服さんにはないんです。同盟関係を隠す為にというのも考えられますが、そうなると今度は昨晩の動きに理由がつきません。先生ほどの戦力を相手に出し惜しみなんてしたら、下手をすればライダー陣営は敗北どころか説得されて丸ごと彼らの敵に回ります」
何より、昨晩のライダー陣営と先生が率いられた聖杯戦争対策部との衝突。
もしも憤怒のライダーの横槍がなければ、結果はどうなっていたかはわかりません。
けど、先生の生徒として、先生とこれまで過ごしてきた一個人として。
彼が負けるなんて、きっとないんじゃないかと思うんです。
そしてそれはアルさんやマリーちゃんだって知っている筈です。
先生は事前にアポイントメントを取っていたようですし、来るのもアルさんは知っていたでしょう。
だったら、備えないなんて私が同じ立場なら絶対にできません。
「そしてもう一つ。恐らくですが……いえ、黒服さんにもうひと『でもそれは仮定になる、そうでしょ?ハナコさん』……リオさん?」
ハナコちゃんが何かを言い掛けたところでリオ会長が珍しく話を遮りました。
どこか固い言葉の後で、キャスターさんの労わるような言葉も続きます。
「論証としてはここまで聞けば十分だろう。あくまでも仮定であるが故に、ハナコは否定材料として弱いと言った。だが黒服にせや、彼奴が所属するゲマトリアについても、本当にライダーやランサー達と繋がりがあるかの決定的な証拠もまたない……証拠が見つかるまであくまでもその可能性がある、程度に考えるべきだな」
それに対してハナコちゃん。
「……
静かに微笑んでからそう言ったんです。
「結論としてはあくまでそういう可能性が浮上した、という事で良いんだね?」
「うむ。奴と会う際、必要以上に敵視する事もないが全面的に味方や中立だと思うのもまた違う。我は警戒を怠る事なく会うのが肝要だと思う……如何か?陛下」
「……なら、結論も出たところで僕からも良いかな?ゲマトリアという組織についてだ」
キャスターの言葉を受けてセイバーさんは次の話題を口にされました。
1じゃんね☆
ミノリちゃんは本当にかわいいしメモロビは最高だって事を声を大にして言いたいじゃんね☆
あと今更だけどスレの方ではブローバックって言ってたけど正しくはバックフローファンタズムです、なんなら逆流性類感現象じゃなくて類感性逆流現象です……意味が全然変わっちゃうじゃんね☆
ちなみに次回はキリが良いからかなり短めになります、じゃんね☆
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)
-
ハーリングのセイバー
-
フィレンツェのアーチャー
-
楽劇のランサー
-
維新のライダー
-
白備えのキャスター
-
キラキラのアサシン
-
民話のバーサーカー