阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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……差し入れです。
あまり無理をしないように、とは私には言えません。
ですが、レイサさん。
それでも貴女を心配する人間も貴女の周りにはいる事を忘れないように。

……中々どうして、辛いものがありますね。
歯痒くままならない、だからこそ。
私もできる事をしなくては。





予備システム

 

 思わず、唾を飲み込んでしまいました。

 

「選択、しない……ですか……?」

 

 まだ拠点に来てから一日と経ってはいません。

だけど、スパルタクスさんという方がどんな風に私達と接してくださるのかはよく分かってるつもりです。

 

「そうだ、いずれ叛逆者に至るヒフミよ。君達は決してその結末を望まない。その選択をしない。君達の戦いに()()()()()()()()()()()()()

 

 バリトンサックスのような深みのある声。

だけど私達をびっくりさせないように大声を常に出したりとかせず、ゆっくりと穏やかに話してくれる優しい方。

絶やさない笑顔からは安心を、前線に出て見せてくれる大きな背中からは鼓舞を。

スパルタクスの霊基には狂化というスキルはあります。

 

 でも初対面で、まだ味方じゃなかった私が自分の気持ちに蓋をして悩んでいた事も見抜いて気遣ってくださった、そんな素敵な人です。

それぐらい人のことをよく見ておられる、しっかり者さんなんです。

 

「このスパルタクスの同士たる勇敢な君達が。我が同胞たるミノリが己が信念を託した君達が。これから歩み進んでいく戦場にそんな轍を残す筈がないのだから」

 

 そして、ミノリさんが、私達の新しいお友達で私達の目指す道を一緒に歩いてくれる大事な仲間が。

心から信頼して、信頼を返している英雄。

それが私から見たスパルタクスさんなんです。

 

「待ってほしい、バーサーカー。君は何を……いや、それよりもまずは説明が欲しい。君は予備システムについて知ってるのかい?」

 

 冷静に物事を見て、時には力強く前線に立つ私達の隣にいて支えてくれるミノリさんの相棒がよく似合う、スパルタクスさん。

ですが今、彼が纏う空気はいつもと違って堅く、剣呑でした。

冷えた鋼のように硬く、厳かなほどに纏う空気は張り詰めていました。

その様子を宥めるように言うセイバーさんも、突然のことからか困惑を隠しきれない様子です。

 

「不要だ、圧制と叛逆の狭間を突き進む我が盟友よ。セイバー、君もまた彼女達の旅行きを共するのならば語るまでもない」

 

「つくづく狂化というスキルは本当に……良いか、バーサーカー。貴様が何を知ってどう考えるのも自由だ。だがそうではない、そうではないのだ。まずは話を「否。そうである」こっ、の……はぁ……違うのだ……」

 

 狂化のスキルの影響もあって話される言葉は大変難しいところもあります。

けど、それでもいつも優しく見守ってくれている理性的で紳士な彼が、あまりにも強く言うんです。

 

 予備システムについて私達が語る、それ自体が不快だと言わんばかりに。

一体、彼は何を知っていて、どうして急にこんな展開を迎えてしまったのか。

私だけじゃなく、ミノリさんを含めたみなさんが思考がまとまらないぐらい混乱してしまいます。

 

「ごめん、すごい真面目ムードなのは分かってる。だけどさ、どうしても……一個いい?」

 

だから、モモイちゃんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパさん、予備システムについて知ってたの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな風に切り出してくれて正直助かりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て待て待て待て!?私も聞いてないぞっ!?」

 

 ミノリさんの慌てる様子なんて見なくても信じられます。

ミノリさんがもし予備システムについて知っていたのなら、余程の事情がない限り先に話してくれていたでしょうし。

 

「スパルタクス!どういうことなんだっ!」

 

「我が同胞よ、君が知らぬのも仕方ないのだ」

 

「……っ!理由が、あるのか……なら、言ってくれ。私だってお前のマスターで同胞だ。ちゃんと聞かせてくれ……どうして私が知らないのも無理ないのか」

 

 何より、彼女が聞いていないと言ったんです。

ミノリさんにだって隠し事ぐらいはあるかもしれませんけど、でもミノリさんはきっと嘘をつかない。

それぐらい、もうとっくに信じられてますから。

それに何か事情があって黙っていてこのタイミングで切り出したとなれば、スパルタクスさんに話を任せずご自身の言葉で話を進めるでしょうから。

 

「うむ。何故なら───私は言っていなかった」

 

「お前!お前ぇっ!それ言ってなかっただけじゃないかァっ!」

 

「言えたじゃんか」

 

「アリス、分かります!そりゃつれぇでしょ、ですね!」*1

 

「いや、そんなわけないでしょ」

 

「ドヤ顔で胸を張る話じゃないだろうがっ!あとモモイとアリス!うるさいぞっ!茶々を入れるなっ!」

 

 だってほら、今まさにこんな状況になってますし。

息を切らして肩を上下させるミノリさんの背をさするミドリちゃんとハナコちゃん。

その横でもう抑えられないとお腹を抱えて笑っているウタハ先輩とまた死んだ目になっている古関先輩*2

酷い絵面です*3

 

「大体スパルタクス!なんでお前は悪びれもしてないんだ!?私か!?私が聞かなかったのが悪いのか!?知るわけないだろ予備システムなんて!ヒフミに聞くまで存在すら知らなかったんだぞ!?というか少なくとももっと早く!この会議中に言う機会あっただろ!?報!連!相!現場の基本だ!知ってたならちゃんと言っておけっ!」

 

「ふむ?なぜ話す必要が?」

 

「話さないと!分かり合えないって!さっき!そこの!生徒会長が言ったばかりだろうが!!」

 

「うむ、良き話であった。若者よ、どうか君がその裡に秘めた叛逆の心根を忘れずに健やかに育ちなさい」

 

『あ、ああ……感謝する、よ……?』

 

「そうじゃなぁぁぁぁぁいっ!」

 

 魂の咆哮、ですね。

もういつも冷静なミノリ先輩とは思えないぐらいおっきな声です。

先輩らしい彼女のこういう可愛らしい面は見てるとこっちまで笑顔になれますね*4*5

 

「お前はいっつも!いっつも!私以外分からない事しゃべくり回す癖に!肝心な!話は!相変わらず!そうやって!大体この前もお前!重機の調子が悪いから工程組み直すぞって私達工務部で話をしてたから勝手に一人で相談なしに徹夜で作業して!*6

 

 もっとも、ご本人の事を思うと笑顔になれるなんて口が裂けても言えませんけど。

だって今完全にミノリさん頭から湯気出てますもん。

 

「ぬふっ。我が同胞達の喜びと感謝の声と共に浴びる朝日は実に法悦であった。レッドウィンターは良い、祖国の白き山を思い出させる凍てた朝焼けは我が身を切り裂くような快感を与え、そこに駆け寄る同胞達の笑顔。これぞまさに───整う」*7

 

「このマゾヒストめっ!!後輩の教育に悪いから黙ってろ!そもそもお前のそういう性癖を広めたせいでうちの部員達がっ!あぁぁ!もぉぉぉぉお!」*8

 

 ミノリさんも息を切らしてますしそろそろかなっと近くのユズちゃんと目配せしてから私は彼女に声を掛けました。

セイバーさんですか?彼ならミノリさんの雷が落ち始めたあたりでしれっと集団の輪から外れました。

 

「あはは……と、とりあえず話を聞かせてもらえませんか?スパルタクスさん、それにほら、ミノリさんも、ね?私達、話を聞いてみない事にはなんとも……」

 

「み、ミノリ先輩!あとでうちのモモイとアリスちゃんも叱って、あのちゃんと、怒っておきますから……あの、落ち着いて……」

 

「……そうだな、一旦落ち着くか」

 

 流石はミノリ先輩です。

どんなに荒ぶっていても私達が声をかければ、すぐに感情を整理してくださいます。

この場に私達だけでしたらきっとまた、このまま会議を再開ということになったんでしょう。

もっとも。

 

「うむ。烈しさは君の魂に宿る叛逆の輝き!だが、時に我々には冷静さが求められる。おお、びーくーる!」

 

 他意もなければ悪意もないスパルタクスの洗練されたダブルバイセプスと発言がなければでしたが。

ああ、もうミノリさんの目が据わっちゃってますね、これは長引きますよ。

 

「ミノリ先輩、多分特に意味はありません、あれは煽ってるわけじゃないですよ。深呼吸、深呼吸しましょう」

 

「私に続いて下さい☆はい♡ひっひっふー♡」

 

「ま、またラマーズほ「ラマーズ法!?……ユズから習ったわよ!ハナコ!あんたそんな如何わしい事言って!」……ラマーズ法はいかがわしくないよぉ、コハルちゃん……」*9

 

 ミドリちゃんが冷静になるよう呼び掛ける隣でハナコちゃんとコハルちゃんはいつもの調子ですし、コハルちゃんの発言にユズちゃんは顔真っ赤にしています。

 

「はあ……深呼吸ぐらい普通にやりなさい。何でもかんでもそっちに繋げるんじゃないわよ、脳内ピンク女」

 

「あら?あらあらあらあら♡なんですか古関ウイさん♡どうされたんですか古関ウイ先輩♡ヤる?誰とナニを?あとそっちってどっちですか?どっちに逝くんですか?私とっても気になっちゃいます♡ぜひぜひじっくり、ぬっちょり、親切懇切丁寧に、耳元で囁きながら説明してください♡」

 

「う、うるさすぎる……口を開けばそれしか出ないの貴女……」

 

 頼みの綱の古関先輩も完全にハナコちゃんのペースに巻き込まれてますし、リオ会長達は完全に静観ですね。

私も休憩にしましょう。

紅茶を淹れ直しても多分みなさん、はしゃぐのに夢中ですから飲む暇ありませんね。

後にして、私はアズサちゃんの羽でもブラッシングしましょうか。

 

「そうなんです♡ぱく、ぱく♡お口を人差しと中指でくぱ「エッチなのは駄目!禁止!拠点法違反!死刑ぇぇっ!」きゃー♡助けて下さい♡このままじゃコハルちゃんの手でウイさんの部屋に連れ込まれちゃいます♡」

 

「拠点法って何よ。大体私の部屋は留置所でもないし暖簾もかけ「暖簾!?つまりそういう事!やっぱり古書館にもあるのね!?摘発!摘発よ!」ち、ちがっ!?というかやっぱりってなにっ!?……ぅ、浦和ハナコぉぉっ!」

 

「いえ、今のは普通にウイさんの失言です」

 

 珍しいハナコちゃんの真顔ツッコミだと思いながら、正面を向き合って私の膝に座っているアズサちゃんの羽に手を伸ばします。

 

「あーもうっ!作業してるって言ってるでしょうがっ!?静かに会議も出来ないの!あんた達はっ!」

 

「待って、お願いだから待ってコハルさん。わ、私は別にそういう意図でもないです。あれは私は浦和ハナコ係になった覚え「係!?ま、まさか伝説のせ、せいしょ……えっっっっち!拠点法違反!死刑ぇぇ!」貴女の思考回路はどこに毎回繋がってるんですか!?コハルさんっ!」

 

「ついに拠点法違反者が出たか……ふんっ!連れて行け」

 

「うぅ……ハナコ、ウイ、お別れです。アリス、おつとめ?が終わるのをくさい飯を食べながら待ってます!」

 

『およよ、残念だねぇ……面会の時に差し入れ、考えなきゃ。アビドス饅頭で良い?』

 

 治療が終わって早一週間。

もうすっかりあの時の傷とかはありません。

けれど忘れられない、私を守ってくれた白くて眩しい翼。

今こうして羽を梳かしていく時に感じる温もりに安心感を覚えます。

彼女も同じ気持ちなようで、慣れた様子で私の胸元に身体を預けてくれる。

ちょうど頭一個分、下にいるからでしょう。

可愛らしいつむじと、いつも見ているのに驚きそうになる細くて小さな肩を見ながら、私は黙って静かに羽を梳かしていきます。

 

「混ざってるよ、アリス……モモイが変な事を教えるから……」

 

「すまぬ……うちの馬鹿娘共が油を注ぎ続けて本当にすまぬ……会議が終わったら必ず説教をしておく、許せミノリよ、ヒビキよ、ウイよ……」

 

『ホシノ先輩も一緒になって乗らないで下さい!』

 

「乗るなホシノっ!」

 

「ホーシノっ!」

 

『うへー、取り消しなよ……今の言『ホシノ先輩?』……う、うへー』

 

 みなさんの元気な声を聞きながら、こうやって休憩がてらのんびり過ごす。

昨日の夜から今まで戦闘や会議でずっと張り詰めた空気でしたから。

少しだけ、休憩です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『相も変わらず騒がしいね。本当に愉快な後輩達だ』

 

 アズサがヒフミのブラッシングを堪能し、ミノリが吼えスパルタクスが笑い、ハナコがまぜっ返してはコハルが叫びウイが死んだ目をして、そしてそれを周りがまた互いに茶化し合う喧騒。

そこから外れて、彼女達は静かに微笑んでいた。

 

 昨晩の襲撃に始まり随分と長くなった会議。

ずっと続いていた緊張の糸が目の前で緩やかに解かれていくのを、セイアは肩をすくめつつも目を細くしていた。

 

『……そうね。まだ朝早いとはいえ時間も限られる。無駄話はおしまいにして予備システムについて話を……』

 

 そんなセイアの言葉に一人が反応する。

ここまで嵐のように吹き上がった楽しげな笑い声にどうもせず、ただ見ていただけのリオだ。

 

 事実、彼女の言う事は正しいだろう。

ヒフミ達に残された時間はあと五日。

何より会議に挙がったのはこれまで誰も知らないと思っていた筈の予備システムの真相に近づく発言。

急ぎ確認して、一秒でも早く外へ出て聖杯戦争終結の為に動く。

それは間違いなく効率的で、合理的な行動だろう。彼女がそれを促そうとするのも、そして、それを口

にしようとして言葉が止まるのも仕方なかった。

 

「けれど、こういうのもまた大切な時間だよ、会長」

 

 そう、ウタハの言う通り。

彼女達は兵士でもなければ機械でもない。

どこにでもいる普通のキヴォトスの学生、ただの十代の少女達だ。

誰も何も、戦う為だけに生きて最善手だけを続けられない。

 

『それは……非合理的よ、ウタハ。片付けるべき議題はまだ残っているわ。次に進めなくては』

 

 だが、リオはまるで渋るようにそれを口にするしかない。

だって間違ってないからだ。

片付ける問題も考えなくてはいけない事も山積み。

だというのに時間は迫っている。

本人達は誰も口にしないが、迫り来る自身の、そして友の命が潰える時間が刻一刻と迫っている。

 

『の割に、口を挟まないでいたじゃーん』

 

『……ホシノ。それはあくまでも……』

 

「ずっと肩に力が入っていたからね。聖杯戦争だからと言って、常に真面目でいるだなんて疲れてしまうさ。それが分かっているからこそ、だろ?リオ」

 

 だが、分かっていた。

分かっていたからウタハ達の言う通り、リオは後輩達がふざけ合うのを止めなかった。

 

 寄り道なんてしない、ただただ合理的にというのは望ましい。

けれど彼女達は機械ではない。

今を生きていて、感情に振り回せる不完全な生き物。

だから、今のようにはしゃいでいるのも、そしてリオ自身、それを見るのも。

楽しかったから止められなかったのだ。

 

『君も中々難儀な性格のようだ。だが、良いじゃないか、休憩がてらたまにはこうやって後輩達がはしゃぐのも……そして私たちがそれを見守るのも』

 

「小規模とは言え、戦争である以上はこうやって他愛ない戯れ合いでのガス抜きの時間も必要経費、ある意味で合理的とも言えるんじゃないかな?それに何より、君たちの時間は今しかない。振り返った時、一つでも楽しかったなと思える時間をどうか子どもでいるうちに……なんて年寄り臭いけどね」

 

 照れくさそうにするセイバーの微笑みに、思うところはあって。

けれどリオは顔を背けてから、小さく告げた。

 

『……まだ時間はかかりそうね。折角トリニティのティーパーティもいるわ。モニター越しではあるけれど、どうかしら?』

 

『おや、それは良いね。なら彼女達の笑顔を観覧しつつ一服といこうか』

 

『さんせい〜。ちょぉっと、休憩しよっか?』

 

「なら、私も珈琲なりを入れてくるとしよう。ミノリはそうだし、チーちゃんもいるだろ?」

 

「……濃い目」

 

「はいはい」

 

 聖杯戦争開始から十日目。

戦いは佳境に差し掛かり、もうすぐ彼女達は現実と向き合う時間が訪れる。

どうにもならない、第三の秘密に直面する時が来る。

けれど、だからこそ。こうやって───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を戻すぞ」

 

 ミノリさんの咳払いから再開する会議。

しっかりふざけて、お喋りして、お茶も飲んで、元気は万端。

話すことは、もう決まってます。

 

「はい!二つある勝利条件の一つ、スパルタクスさんが知っている予備システムについてですね」

 

「ああ、話がだいぶごたついたが……まずは確認といこう」

 

 ミノリさんが視線を向ける先に悠然と立っている彼。

大自然の中にぽつねんと座る大きな岩のように荒々しさと丸さが共存してる、そんな大らかな人。

 

「何かな?我が同胞、ミノリよ」

 

 彼、スパルタクスさんはどこまでも静かにミノリさんを見つめていました。

張り詰めているわけではなく、どっしりと、ただ待つように。

 

「……お前が私達の事を信頼して、お前の目に映る私達がそれを選択しないとそう思っているなら……多分そういう事なのは分かる。だけどな、スパルタクス、私の同胞」

 

 そんな彼にミノリさんは一瞬迷われてから、けれどスパルタクスさんの真っ直ぐな目を見て応えました。

 

「頼む。私達はお前と違って未熟なんだ。知って、聞いて、見て。それからちゃんと考えて結論を出したい。お前の中で私達が何を選択するか決まっていたとしても、それでも私達は自分達で考えて決めたい。だから……予備システムについて教えてくれないか」

 

 ミノリさんからのお願いに、やっぱり彼は微笑んで。

それからじっくりと噛み締めるようにゆっくりと、口を開かれました。

 

「無論だとも、我が同胞。僅かでも私の言葉が君たちに混乱を招いたのなら謝罪しよう。私は君達の胸に掲げられた叛逆の闘志が燃え尽きぬ限り、否、消えて倒れてしまったとしても、その灯の燻りを雨からも風からも守るのだから」

 

 スパルタクスさんは私達のお願いを聞き届けてくれました。

話す必要はない、何故なら議論する余地がないから、と。

そう仰って、そして狂化というスキルを受けて思考が定まっていても、やっぱり彼は私たちに応えてくれました。

 

「予備システムとは私の知る大聖杯に用意された徴兵令、即ち───追加のサーヴァントとマスターを選定するシステムである」

 

 そして私達は、彼がどうして言う必要がないと言ったのかの意味を知る事になったんです。

 

「七騎のサーヴァントが一堂に与した時、更に七組。サーヴァントとマスターを招聘し闘争を加速させる取り決め。是こそが我が懐かしき聖杯大戦である」

 

 以前仰られていたスパルタクスさんが参加されたという聖杯戦争の正体。

七体七のサーヴァントとマスターによる大規模な戦争。

それが聖杯大戦で、それを起こす為のきっかけが予備システムの起動。

 

「聖杯大戦、か。言い得て妙だね、とはいえまさか君が参加していたのがそんな大きな戦いだったとは……七組のマスターとサーヴァントが一つの陣営に、か。僕らが知らないわけだ、そんな事はまともな聖杯戦争じゃまず起こらない」

 

 セイバーさんの口振りから聖杯大戦が本当にイレギュラーなのだと分かります。

考えてみたら当たり前なのかもしれません。

 

 私達のように()()()()()()ならともかく、自分の意思で参加されるマスターの方には譲れない願いが最初からあってでしょう。

聖杯を使わなくては叶えられないほど大きな願いが。

だったらきっと、それを譲り合ったり一つの陣営に七組全員が足並みを揃えるなんて事は起きない。

 

「戦場一杯に杭を生やすだの、弓兵の矢は心地良かっただの、挙句に宇宙から焦土作戦をしてくる権力者に立ち向かっただの。聞いてもお前の話はスケールが大き過ぎて参考にならんと判断した私が愚かだった……悪かった、スパルタクス。よかったら今度またお前の戦いを一から聞かせてくれ」

 

「不思議な事を言う。ミノリ、君は私の話を楽しそうに聞いてくれた。そして今も確かに覚えている、違うかな?」

 

「……はあ、お前と話すと自分が情けなくなるな」

 

 意表をつかれたようにしてから微笑うミノリさんに、不思議そうな顔をしているスパルタクスさん。

変わる事なく仲の良さそうなお二人の姿を見ていると、今の話を忘れちゃいそうになりますがそうもいきません。

なにせお話は、まだまだこれからなんですから。

 

「しかし聖杯に組み込まれた魔術に斯様な物があるとはな……だが、言われてみれば納得する他あるまい。我らが考えの外にあった、傲慢な物とは言えな」

 

「なんでそこで傲慢なのさ?」

 

「前に話した通り、聖杯戦争は敗北したサーヴァントの魂を聖杯に貯めて燃料とする事で願いを叶える物だ。当然、七騎の誰も欠けないという事は誰も聖杯で願いを叶える事ができず、用意した燃料は無駄になる」

 

 キャスターさんはそう言って憎々しげに蒸気を吹かされます。

でもその気持ちもすごく納得できるんです。

 

「サーヴァントも、マスターの願いも、ありとあらゆる物を聖杯起動の糧として見ているからこそ用意されたシステム、と考えれば用意した人間を傲慢とも捉えようよ」

 

 七組の陣営が手を取り合わないと起動しない。

つまり逆に言ってしまえば、召喚した時点で必ず殺し合ってくれないと困るから用意された物が予備システムなんです。

 

「予備システムはつまるところ、停滞し願いを叶えられない状況、聖杯が起動できない状況を打破するカンフル剤……と言ったところでしょうね。たたでさえ負担が大きい英霊召喚を追加でだなんて、土地が枯れかねないのに」

 

「……仕方あるまい。聖杯を使う事が目的であるならば、だ。どうあっても戦局が停滞する自体なぞ許容出来んだろう。その保険もまた必要であった、そういう話だ」

 

 何より、セイバーさん達の事を文字通り燃料としてしか見てないんです。

少なくとも、聞いただけの私はとてもじゃないですけど良い気持ちはしません。

 

 そしてそれが強欲のアーチャーの話だと今回の聖杯にも用意されているのだと言います。

そうなってくると、浮かんでくるのは一つの疑問。

それをモモイちゃんが代表して聞いてくれました。

 

「あのさ、聞いてもいい?じゃあなんで、その予備システムが勝利条件になるわけなの?だって話聞いてる限りだったら」

 

「そうですね……あくまでもサーヴァントとマスターがもう七組追加されるだけ。ですが勝利条件として挙げられたもう一つは大聖杯の破壊という物でした。現状、予備システムを起動させる事が大聖杯の破壊と同列に並べられて語られるというのには違和感がありますね」

 

 ハナコちゃんが言うように予備システムを起動する事で起きるのは、事実だけに目を向ければあくまで新しいマスターとサーヴァントが七組選ばれるだけです。

とてもじゃないですけど、私達の勝利条件には。

 

 

 

 

 

 

───何せ時間は待ってくれない!

───そう、中途半端な結末なんて

───あのシステムの起動だなんて幕引きだけは手前は勘弁です

 

 

 

 

 

 

「……開催期間の延長でしょうか?」

 

 

 思い出したのはシュロちゃんが以前話してくれた事。

彼女は『時間は待ってくれない』と言う中で、何かのシステム、恐らく予備システムを起動させる事を嫌った。

もしそれが時間に関わるのだとすれば。

 

「なるほど、確かにそれはあり得そうですね。たとえば、サッカーには既定試合時間内で発生した空白を合計し試合時間に合算するアディショナルタイムがあります。その根本にあるのは試合時間の公平性を保つ事です。翻ってキヴォトスで開催される聖杯戦争にも十四間という制約があります。待っていても……です。だからカンフル剤として意味がありません。この問題が発生するのは十四間というマスターに課された制限です。これがありながら追加で七組が選ばれるとなれば逆説的なその制限を解消する物なのではないでしょうか?ただ恐らくは、完全に取り除かれる、というのは考えにくいですが……」

 

 私達が抱える問題はたくさんありますけどその中で一番厳しいのは時間制限。

だとすれば、それを一時的にでも解消できるメリットもあって強欲のアーチャーさんは勝利条件の一つとして挙げられたのでしょう。

シュロちゃんからすれば、確かに彼女であれば時間を延長するというのは、あまり()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『予備システムの存在は強欲のアーチャーによって示唆されている、存在すると考えて動いた方がいいでしょう。そして存在するならば、どんな整合性を持つか。今ある情報からならコトリの推測は確かに納得がいくわね』

 

「どっちにしても勝利条件って言うんでしたら、多分何かしら私達に有利になる事なんだと思います……ただ」

 

 とはいえ、謎は残ります。

確かに制限時間の延長はありがたいですし納得いきます。

でもそれだけでは勝利とは呼べません。

 

「……スパルタクスさんが、私達が予備システムを使う事を選ばない、そう仰られた意味は」

 

何より、大きな問題が一つ。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()から……って事ですよね?」

 

 

 

 

 

新しいマスターが選ばれる、選ばれてしまうという問題が残っています。

 

「そうだとも、小さき友よ。君達は犠牲を良しとしないと私とミノリに言った。君達は自分達のような苦しみを他の民や友に味合わせたくないと言った。そして私もミノリも、君達の言葉に嘘偽りも裏もないと信じている。ならば議論の余地はない筈だ」

 

 スパルタクスさんの仰られた意味も頑なに見えた態度のわけもようやく分かりました。

確かに私達は予備システムの起動なんて選べません。

 

 誰にも殺し合いなんて悲しい事をしてほしくない。

傷ついて、痛い思いなんてしてほしくない。

そして私達のように時間制限を与えたくなんかない。

だから、私達は自分達の手で予備システムを起動するなんて、あり得ないんです。

 

 でもそうなったら、いよいよ私達は打つ手が何もありません。

強欲のアーチャーさんが言う私達の勝利条件の残り一方。

そちらもまた、サーヴァントの方を七騎倒して大聖杯を顕現させる、そういう犠牲を伴うやり方ですから。

どうしたら、どんな方法を取れば良いのか、また振り出しに戻る気分です。

 

「……僕も、そしてこの場にいる子達も同じ想いだよ、偉大な解放者───だけど」

 

 そう考え込んでいると、セイバーさんがスパルタクスさんに話しかけ始められました。

 

「これから先の時間を考えれば考える際の判断材料は多いに越した事はないんじゃないかな?」

 

それは暗に、予備システムの起動を視野に入れてみてはどうかとも取れる言葉でした。

勿論、彼の本意ではなくあくまで議論を交わす必要がない、そこまで言う事はないんじゃないかって話なのは分かります。

でもスパルタクスにとっては。

 

 

 

「……セイバー。私の前でその言葉の先を続けるならば、ならばだ。汝は少女達を惑わすつもりはないと誓った、私はそう認識している───今も、そう今もだ

 

 

 

 お部屋の空気を揺らす静かな声の中に、微かですけど煮え滾るような熱が込められていました。

 

 怒り。

スパルタクスさんが、戦場以外で初めて、私たちの前で強い怒気を見せられる。

言葉は決して大きくない、語気だって荒くない。

なのに思わず、心臓がきゅっと縮こまるぐらい強い感情が込められていました。

 

 誓ったと認識する。

つまり違えたとなれば、その手にまだ握られていない剣先がセイバーさんへ向くのは容易に想像できました。

 

()()()()()()()。言った筈だ、僕はヒフミを明日に返す。その誓いに嘘偽りは決してない。けれど……狂してなお高潔な先人の配慮に感謝を、耳を傾けてくれてありがとう」

 

 それを分かった上で、彼はしっかりと頭を下げてくれた。

いっそ首を差し出すほどに深く、スパルタクスさんに感謝する。

 

「僕らは辿り着く場所をハッピーエンドに定めた。けれど歩き方は一つじゃない。色々な可能性を踏まえて、机の上に凡ゆる思索を並べて語らい、そうして行き先への向かい方を決める。運命に恭順せず、自分達で考えて道を選んでいく。彼女達にはそんな自由があって良い筈だ」

 

「……恭順なき、自由」

 

「その為に、結果が分かり切っていても予備システムという手段について話し合い、考え、策を練る……そんな時間を君に許してもらえないかな」

 

 たっぷりとした沈黙は流れませんでした。

ほんの僅か、セイバーさんの言葉を聞いてからスパルタクスさんは隣にいる彼女の方を見られる。

 

「……ミノリ」

 

 もういつもの優しくて穏やかな、けれどいつも違ってどこか戸惑っているようなスパルタクスさんの呼びかけ。

それにミノリさんはたった一言だけ返された。

 

「私に聞くな。お前はどうしたいんだ?」

 

 はにかみと共に帰ってきた答え(応え)

それにスパルタクスさんは。

 

「……おお、それもまた叛逆」

 

 同じように頬を綻ばせられました。

ゆっくり振り向いて私達の方を見た彼はそのまま、さっきセイバーさんがしたように頭を下げられる。

 

「君達に手間を取らせた。怯えもさせただろう、謝罪する。そして───どうか自由

 

 頭を上げてください、とそう言う前にミノリさんに背中を叩かれて顔を上げた彼は、優しげな眼差しで。

 

スパルタクスは君達の叛逆を尊重する。嘗て己の魂に誓った叛逆を、絶対的な不条理に抗うと決めた君達の心根を違えぬ限り、いつまでも私は()()()()()()()()()()()味方

 

けれど真剣な表情で、そう私たちに語ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 

*1
キヴォトスを代表する大作RPGファイナルファンタジアの15作目に登場する名言……であり、現在はネットスラングとして多用されるセリフ。大抵は言えたじゃねぇかという言葉の後に相槌のようにして使われる。アリスは今ひとつ意味は分かっていないが、使うべきタイミングはしっかり理解する娘であった

*2
古関ウイはもう疲れていた。昨日は突然ミレニアムどころか立ち入り禁止区域の廃墟くんだりまで連れてこられた挙句に徹夜なのだ。もうそろそろキャパオーバーだった

*3
いつもの事である

*4
などと呑気なことを言っているヒフミは、これ幸いと茶菓子と紅茶をユズとコハルと楽しみ始めていた。暫くは時間がかかる、無駄によく働く直感のおかげでそう悟ったのだ

*5
ちなみにセイバーはせっせとお湯を沸かしに行った。彼はなんやかんやで気遣いが出来る男なのだ

*6
翌朝彼女達が見たのは、重機でする予定だった工程を己の肉体一つでやり切った男の背中であった。とりあえずその報連相をしなかった背中にミノリが蹴りを入れた後、全員で朝食を食べたのだがその時彼の更には山のような食材が積んであったという

*7
そんなわけあるか

*8
どんな事になってしまったか、それについてここで詳しく語るのは控えよう。ただレッドウィンターが誇る工務部には己の肉体をいじめ抜くことに悦びを覚える生徒が爆誕してしまった、とだけ

*9
ユズの言う通りである





1じゃんね☆
予約投稿してたけど前書きと後書き入れ忘れてて焦ったじゃんね☆

スパさん的にはこれ以上子どもに望まない殺し合いを強制させるのは認められなかったじゃんね☆
だからこそ、じゃんね☆
ちなみにスパさんが持ち込んでる()()は本編で書いた通りじゃんね☆

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)

  • ハーリングのセイバー
  • フィレンツェのアーチャー
  • 楽劇のランサー
  • 維新のライダー
  • 白備えのキャスター
  • キラキラのアサシン
  • 民話のバーサーカー
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