阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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幕間:Trinity Urawa Flower point - Roll1

 

 深夜。合宿所のテラス。

 

「こんばんは♡お招き頂きありがとうございます」

 

ヒフミとアズサの退院祝いを兼ねた作戦会議が終わり、3人が寝静まった後。

ハナコは一人、寝室を出て外に向い誰もいない玄関で語りかける。

 

「……セイバーさん♡」

 

反応は少し遅れて返ってきた。

 

「……こんばんは、ハナコ。良い月夜だ」

 

ゆっくりと景色に滲むようにして、霊体化していたセイバーは姿を現した。

そんな彼へハナコは茶目っ気のある笑みを浮かべて揶揄った。

 

「あら、大胆♡でもごめんなさい、心の決めた方がいるので」

「……ああ、確かにそういう意味もあったね。これは失礼した。僕の失言で淑女に断りを言わせてしまった。これは()()として恥ずべき事だ」

 

騎士と、男は言い謝罪する。

確かにその堂々たる鎧姿に違わぬ言葉だ。

だが、それは聖杯戦争においては別の意味を持つ。

 

「いいんですか?セイバーさん」

 

即ち、真名の手掛かり。

騎士であると名乗ったならば、その時代や地域をある程度は絞る事が出来る。

ここキヴォトスは確かに外の世界における神話や伝承、つまりは人類史の足跡を辿る事はそう容易ではない。

それでも不可能ではない以上、たとえ味方とはいえマスター以外に不用意な発言は控えるべきだろう。

そんな手掛かりをセイバーはハナコヘと告げた。

 

 その意味をハナコは問い、彼は肩をすくめて答えた。

 

「勿論、君もそのつもりで確かめに来たんだろう?」

 

さあどうぞと言わんばかりのその仕草にハナコは一度目をつぶってから、意を決したように口を開き唱える。

その、貴き名を。

 

「なら、遠慮なく───ね、『アーサー王』陛下」

 

 アーサー王。

欧州に古く伝わり、アズサが古書館で手に取った『アルスル物語』、ここキヴォトスの今知られている呼び名であればそう。

『アーサー王物語』の主人公であり、外の世界にあったとされるブリテン島を統治した王。

そして汎人類史において最も名高い『星造りの聖剣』、その担い手。

 

「君は、君達は護るべき人であっても僕の国の民草ではない。ましてやヒフミの仲間で、アズサの言葉を借りるならそう……僕を()()()()()()()()()()()()、敬称は必要ないよ」

 

女がその言葉に、声を詰まらせた。

その理由がなんなのか、それは秘めた本人のみが知るのだろう。

 

「……そうですか。それならお言葉に甘えて」

 

「あぁ、ありがとう。ハナコ」

 

淡々とした会話。

見かけは年頃の男女だというのに色の一つもなく。

ただ昼間と打って変わって涼やかな風に言葉が流されていく。

 

「いつから気づいていたんだい?」

 

「内緒です♡……というのはフェアじゃありませんね。何人か候補に上がったのは昨晩食卓を囲んだ時です」

 

 昨日の夜。

鍋を囲んで話す中で、ハナコは真名への探りを既に入れていた。

騎士、であるなら中世欧州の出かはたまた中東地域でのあの戦いに参加した騎士団の何某か。

その智とこれまで記憶した事柄から、彼女は一つひとつの可能性を潰していっていた。

 

「そこからはとんとん拍子で♡ローストビーフにも反応されてたりとか?後は先程の質問への反応で、最後の二択を絞れましたから」

 

その二択、それにアーサー王であると認めた男はなるほどという納得と諦めに似た軽い笑いが胸中に訪れる。

部隊を率いたか政に関わったか。

核心をつくための誘いとは思っていたが、改めて聞かされて男は思わずその学説とあの大地を生きた自覚のある自分のちぐはぐさに笑ってしまった。

 

「なるほど、僕自身にはその自覚はないけれど……そういう『学説』がある、なんて事は聞いた事があるよ」

 

「……失礼、だったでしょうか?」

 

「いいや、これは英霊であるなら誰もが対面する事さ。それに───君はずっとヒフミを守ろうとしていたんだから」

 

「お見通し、でしたか……ごめんなさい、セイバーさん……私は」

 

セイバーは気づいていた。ハナコと呼ばれるこの少女が揶揄うその言葉が、どこまで信じられるか、どこまでならこの男は信用し信頼できるか、愛する友を傷つける事はないか、『私』にできる事はないか。そうやって懸命に言葉で測り、守ろうとしている事は、とうに理解していた。

 

「君が言ったんだろう?ハナコ。僕はセイバー、アーサー王だ。君の愛らしい守り方なんて、僕が相手にしてきた腹の底で何を考えてるかさっぱり分からない諸王達とは比べるまでもない」

「僕はこう見えて、そこそこの齢でね。だから君は、そして君達は子どもらしく若者らしくのびのびと自分らしく、そうあってくれれば良い。僕もそんな風にしながら大人になるまで『見守られた』のだから」

 

義父にも義兄にもそして師にもそうしてもらったのだと懐かしそうに語るセイバーは目線をハナコから離し、遠く星空を見る。

同じ大人であるのに、それは先生の姿勢とはまた違う。背格好もその顔も、何より『教え』『励まし』『その背を支えて』『きっと立ち上がるのを信じて見守る』先生とは異なる。

ハナコには、なんとなく彼は『先達』なのだと、心で納得した。

先を生きた者として『見守り』『伝える』、似ているようで先生とはまた違う形の、敬意に値するそういう大人なのだと。

やっと今、納得できたのだ。

 

 風が流れ、暫くの沈黙の後。

話題が転じた。

その音は、セイバーからであった。

 

「すまないけど、ヒフミには……」

 

「やはり……真名の事は?」

 

「そうだね、今でも初めての状況で見えない心労が増えているだろう。自分の使い魔が突然王族だなんて名乗り出して新しい情報を無闇やたらと増やして……これ以上の余計な負担を掛けたくないんだ」

 

 それは本人にも召喚されてすぐに伝えた事。

このキヴォトスにセイバーの知る魔術師がそのまま存在するかは不明だろう。だが、聖杯戦争には『キャスター』、つまり生前に魔術と縁あった者が招聘されるクラスもある。

少なくとも今分かっているだけでもこの聖杯戦争には『神代の魔術に精通した』アサシンという存在も呼ばれている。

魔術を知らぬヒフミが抵抗できないまま、情報を抜き取られセイバーの情報が早期に知られる事は、如何に常勝の王とされたアーサー王であっても敗退の要因になりかねず。

そしてそうでなくとも、まだ知り合って日が浅く、何より彼女はどこにでもいるような善良な少女だった。

そんな彼女に負担を掛ける、それはセイバーにとって忍びなかった。

 

「分かりました。ところでセイバーさん」

 

「なんだい、ハナコ」

 

納得、というよりも初めから分かっていたのか気にした様子のないハナコは次の会話へと移る。それは正しく、セイバーも予想していなかったものだった。

 

「これまで聖杯戦争で勝利したのは何回ですか?」

 

「……答えるのは構わないがその質問の意図は───僕達が()だと気づいたという事かな?」

 

魔術師ではない。魔術という常識とは異なる体系化された技術によって作られた聖杯戦争というシステム。

その一端、否、本質にハナコは気づいていた。

だからこその問い。

『聖杯が願いを叶える為の燃料がナニカを知っているのか?』という問いにセイバーは贄という答えと質問で応えた。

その応えに、ハナコは理解を示し。

だからこそ再度問う。何故?と。

 

「……はい。セイバーさんは全て承知の上で?」

 

「……僕は少し特殊でね。願いがあって聖杯戦争に呼ばれるのではなく、事情がある場所に『呼ばれる』んだ」

 

「……っ。それは、つまり……」

 

セイバーがいつかヒフミにも語った特殊な事情。

その中身こそ伝えられなかったそれを。

セイバーは触りにだけと言うように、短く伝えた。

 

「先に中長期目標と言ったけれど、そうだね。僕の最終的な聖杯戦争での目標を話そう」

 

「僕の目標はね、この聖杯戦争が発生した原因の究明、そしてその原因の破壊なんだ」

 

 

 

***

 

 

 

()()()()君は理解しているかもだけどね」

 

 くるりと手元のカップを掻き混ぜながら女は言う。

 

「世界とは一本の木のようだと語られる事がある」

 

注がれたミルクをティースプーンで伸ばしてやり、ぐるり、またぐるりと湖面に波を立たせてやる。

 

「大きな幹から分たれた枝葉は陽の光を求めて、上へ上へと手を伸ばしていく。だが、何もそれは一つの枝に終わる話じゃない」

 

琥珀色だったそれが細い指で弄ばれる銀食器が動く度、白濁と色を変えていく。

染まり、濁り、澱む。

元の色にはもう戻れない。

 

「それぞれの枝は競うように枝を伸ばし、我先と光のある方へと伸びる。当然、そんな事をすれば影は濃くなるし()()になる」

 

廻る速度は緩やかに、けれど取り返しはつかないまま。

澄んだ香気は甘ったるいソレへと堕ちていく。

 

「そうして邪魔となった枝は手折られる。枝葉の都合とは別の意図でね。()()の世界ではそれを剪定事象と読んでいるのだけど」

 

その様を見て、女は一人、くつりと笑った。

 

「世界が邪魔と、不都合であると判断されるのはどんな時だと思う?」

 

水面のの揺らぎを観察していた女の目線が前を向く。

花園に用意された円卓。

その正面に座る少女は向けて、女の唇は艶然と弧を描いた。

 

「行き過ぎた進化、閉じてしまった歴史、停滞した意思……私達の世界はそれを許さない」

 

揶揄うように、痛ぶるように、弄ぶように。

最良の結果を望んで直向きに努力するいじらしい学生に指南する教師のように。

意地悪く、愛らしく、美しく。

毒を孕んだ問を投げかけて、嗤った。

 

「理由は幾らでもあるけれど、結局のところね……」

 

明かす事が愉しいと言わんばかりに彼女は語る。

 

「もうこれ以上、この世界には()()()()。それが剪定される理由だ」

 

突きつけるのは事実。

問いただすのは真実。

何をもって証明してみせるかと、彼女は異邦の来客へ向けて語る。

 

「さて、問題だ───この世界に芽は()()()()()

 

それに少女は無言で何も答えはしない。

ただ黙って、静かにカップへと口を付ける。

解答の決まりきったそれに答える義理はないとでも言わんばかりに。

その様子に女は何が可笑しいのか、声を殺して笑いながら眦に溜まった涙をその白い指で拭う。

 

「いや、すまないね。少し意地の悪いことを聞いたよ。嗚呼そうだとも、君に、()()()芽があるかどうかなんて関係はない。だからこそ、君は今も走っている」

 

かちゃりと渇いた音が鳴る。

そのいじらしい抗議にまた女は笑った。

女にとって目の前の少女こそがとびきりのお気に入りなのだから。

或いはもしかすると阿慈谷ヒフミ以上に、彼女は気に入っていた。

だからこそ、そんな少女が憤ってこの内海から帰ってしまわぬように蜜のように甘い本心を語る。

 

「涙ぐましい努力だなんて、私は言わない。それは人間に与えられた権利だよ……諦めの悪さこそが君達の何よりの美徳であり、だからこそ人類は霊長に至ったのだから」

 

けれど少女は気づいているだろう。

目の前の女の瞳が蠱惑な色に染まっているのを。

その危険な色香は白い薔薇のように艶やかながら、棘のように痛みを齎すのを。

 

「だけど、阿慈谷ヒフミはどうだろう?」

 

君は大丈夫、君は折れない。

だけど彼女は?

そう、女は問う。

 

「第三の真実───絶望から始まったこの物語の起点を知った時、彼女は何を思うのか」

「諦めるのか、折れるのか、それともあの日青空を指し示したように……また輝きを魅せてくれるのか」

「それとも14日目を越えてしまうのか」

 

歌い上げる女の声には上ずるような期待があった。

これから見れる物語がどんな道を辿るのか、その果てにいかな選択をするのか。

楽しみだ、愉しみだと、愉悦に染まる声は春色に染まる花園にどこまでも響いて渡る。

 

「いずれにせよ、端役の私達に出来るのは見守る事だけ……なら面白おかしく愉しむとしよう」

 

 

 

「この重なり蝕む交差点の行く末を、ね?」

 

 

 





1じゃんね☆
今回はかなり短いから、夕方あたりにもう一回投稿予定じゃんね☆
次は本編じゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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