阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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次の話。
次の話題。
次、次、次へ。
周り続ける環状線は停車はすれど仮宿に過ぎない。
真円を描くのは人類には不可能なのだから。
故に破綻は、唐突に訪れるんです。





必要な寄り道

 

 聖杯陣営についても一先ず話は片付きました。

となれば、残っているのはそれこそ私達にとって期待が持てるお話です。

 

「トキさんに関してはもうシンプルですね!黒服さんとの交渉が上手くいってアサシンさんに協力を取り付けられたら……!」

 

「予備システム経由で聖杯に干渉、そして稼働停止も現実的になってくるだろう。そうなれば、彼奴は願い自体を叶える必要がなくなる」

 

 トキさんの願いは恒久的な聖杯戦争の終戦。

もう二度とキヴォトスで聖杯戦争が起きないよう、出現した大聖杯に自分を管理システムとして組み込むというトキさん自身を犠牲にするものです。

 

 でも、黒服さんとの交渉、そしてアサシンさんが大聖杯へ干渉出来ればそれ自体しなくてよくなります。

 

「トキさんの願いが頑なだったのは現状、確実に聖杯を止めるプランが彼女のやり方以外になかったから。だからまずは彼女とは違う確かな方法を、私達が見つけたハッピーエンドへの向かい方を黒服さんとの交渉を成功させて手に入れる」

 

 思い出すのは彼女の言葉。

何を以て、どんな定義で、ハッピーエンドと呼ぶのか。

定義はできました、私はサーヴァントの皆さんも含めて誰も犠牲にしない。

方法も見つかりました、予備システム経由で聖杯に干渉して聖杯戦争を引き起こしている魔術式(システム)自体を停止させる。

あの夜に問われた質問にやっと私は答える事が出来るんです。

 

「そうしたらきっと、話し合いもそのために考えることもずっと単純になる筈です!」

 

「ランサー陣営についても同じだね。聖杯を止めてもキャスターが用意してくれる魔力炉があれば現界を続けられる。事実上、ランサーの受肉が叶うんだ」

 

「その上で聖杯さえ止められれば、ヒフミちゃん達にかかる負担の問題も解消される。どちらの陣営も、特にアーチャー陣営に関してはほぼ問題はありませんね」

 

 マリーちゃんの願いにしたってそうです。

聖杯からの魔力供給やその拒絶反応を解消しない事には説得が難しいと思われていました。

でも、今は解決の糸口が用意できそうなんです。

 

 アサシン陣営さえなんとか出来れば、そのまま残る二つの陣営の攻略も進む。

何より、彼女達がもうこれ以上辛い想いも苦しむ事もなくなるかもしれない。

そう思うと───。

 

 

 

「ねぇ、やっぱり何か気になる事あるの?……ハナコ」

 

 

そう沸き立ちそうになる中、ふいにコハルちゃんがハナコちゃんへ呼びかけたんです*1

 

「ハナコちゃん……?」

 

 私達の視線が集まったことに少し困った顔をしつつ、彼女は小さく俯いてから躊躇いがちに話始めました。

 

「……腑に落ちないんです」

 

「えっと……あ、もしかして黒服さんの事ですか……?なら今のうちに気づいた事を」

 

 話し合いましょう、そう呼びかけようとしてすぐに違うと気づきました。

だって彼女の険しい表情の中には切ないぐらいの心配の色があったからです。

 

「……私が腑に落ちないのは、サクラコさんの事です。彼女も他の上級生のシスターの皆さんも、私達への対応があまりにも過剰でした。もっと言えばシスターフッド全体がです」

 

「それは……確かにだけど」

 

 あの時一緒に大聖堂に訪れたミドリちゃんも思い返しながらそう言います。

実際、あの時はサクラコ様が私達にお声がけしてくださらなかったら一発触発という状況でした*2

 

「トリニティでシスターフッドという団体は、権威ある部活動であり社会的にも学内でも地位があります。現に、エデン条約の折、一時的にですがシスターフッドが全権を握れたのも、文句が言われないだけの地位と権威があってこそ」

 

 ただそれはマリーちゃんについての事を触れられたくない、もっと言えば彼女を想っての行動だと私達は思っていました。

 

「ですが、それでもシスターフッドはあくまでトリニティの一部活。一応の力関係はティーパーティの方が上なんです」

 

 シスターフッドという組織は確かに大きく、その影響力も私なんかでは計り知れません。

それでもトリニティ総合学園内の部活である以上、どれだけ権威があっても。

 

「だから、サクラコさんがするような何一つ喋らず黙秘を続けるというのはただ自分達の立場を悪くし続ける悪手と言えます。それこそ、幾ら正式ではなくてもティーパーティからの要請を無視する……そんな事、いつまでも続けられる筈がない。割に合わないんです」

 

『……そうだね。確かにサクラコは私達からの要請にも何も知らないの一点張りだ。あからさま過ぎて、いっそ笑ってしまったほどだよ』

 

 確かに聖杯戦争とそれに関連した内容を公にすることはどの自治区にしてもないでしょう。

サクラコ様の対応だって、マリーちゃんが席を辞した今、知らないという言い続けて有耶無耶に、というのももしかしたら可能かもしれません。

そう、もしかしたらです。

 

 そんな粗雑な対応を、いくら公的な問題にまで発展させづらいとはいえティーパーティがいつまでも許すはずがない。

だって、そんな事をしたらティーパーティの権威と秩序が本当の意味で崩れてしまいます。

誰かを引っ張って自治区を運営する立場にあるから持つ権威が意味をなくせば、待ってるのは誰も言うことを聞いてくださらない混沌だけ*3

 

 だからいつかは、知らぬ存ぜぬに対して強権が発令される。

そうなれば、シスターフッドと言えど、立場は危うくなる。

それぐらいの政治的な流れは、サクラコ様だったら百も承知の筈です。

なのに、今も沈黙を続けているというのなら。

 

「……サクラコさんは多分、何か大事な物を隠しています。いえ、より正確に言えば、隠したいわけではないのかもしれません」

 

 隠してる、けれど隠したいわけじゃない。

ハナコちゃんの不思議な言い方の真意を知りたくて、つい半歩前に出そうになった足と唇。

 

 

 

「───そこまで分かっていながら、貴女は暴くって言うの?」

 

 

 

それを止めたのは古関先輩でした。

 

「……ウイさんは、やっぱり()()()()()()()()()()?」

 

 哀しそうとは違う、どちらかと言えば傷を見るような辛そうな目で納得するハナコちゃんに古関先輩は鼻を鳴らしました。

 

「知るわけないでしょ、彼女の心情なんて……私はあくまで文献を漁ってあれこれ指示しただけ。伊落さんの直接的な治療を担当したのだって救護騎士団の団長」

 

 ハナコちゃんの向ける視線から逃れるみたいに、すっと横を向いてしまった瞳の先に映るのは今ではなくて過去。

古関先輩のその顔は、痛みに耐える人のように強張っている気がしました。

 

「結局はそんなに関わってない……ベットで血を吐いて呻いてるあの子の力になんかなってあげられなった。頼まれたのだってヒナタさん経由。伊落さん本人と何かを話したとかそういうのじゃない。だから今、伊落さんが離れたシスターフッドにいる人間が何を考えてるかなんて私には分からない。でも……」

 

少し間を置いて彼女はほんの少し羨ましそうに言われた。

 

 

 

「ヒナタさんも、歌住サクラコも……伊落さんも。仲は良さそうだった、お互いを大切にしてた」

 

 

 

 病床での話だけどね、と肩をすくめる彼女に私達は何も言えません。

私自身、拒絶反応の症状を体験しています。

そして、マリーちゃんの身を襲った症状についてもセリナちゃんから聞いています。

 

 だから、古関先輩の言う病床がどんな状況だったのか。

私の時のように対処が確立していないマリーちゃんの時、どんな悲惨な事になっていて、その中で彼女が何を見て大切にしていたと噛み締めるように言うのか。

想像も及びません。

 

「それなのに、伊落さんはそんな大切な全部を捨てた。誰かを殺してでも叶えたい願い。聖杯戦争に、全てを投げ捨てても臨むっていう覚悟があるからでしょう……けど」

 

 そんな彼女とマリーちゃん達を助けようと暗闇の中でもがき続けてきた1人が今、私達の目の前で小さな声で教えてくださいました。

きっと、彼女達と関わる中でとても大切なことを。

 

「それは何も捨てた側だけじゃない。()()()()()()()()()()()()()。捨てられた側にも……置いて行かれた側にだって、覚悟がいるの。覚悟を持ってるの。だから……他人がおいそれと踏み込むって言うのなら、私達にも同じように覚悟がいる」

 

─── さぁ、着きました。シスターフッド自慢のテラスガーデンです!

───今日の為にサクラコ様と何度も練習してみた自信作なのですが……

─── まぁ……嬉しいです

 

 あの日。

マリーちゃんが槍を向けてシスターフッドを辞した日。

それでもお茶会の時はあんなに嬉しそうにシスターフッドの事を、自分の大切な居場所についてお話してくれていました。

お菓子もお茶も、そしてテラスも。

全部、先輩の方達と一緒に用意した物だと。

それを彼女は一夜で全てを捨ててしまった。

 

 あれほど、嬉しそうに語っていたのに。

あれほど大切にしていたのに。

あれだけ、本当に心から。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「浦和ハナコさんだけじゃない、貴女達も。今のままでも解決できるかもしれない、なのにそれでも知りたいのなら」

 

 別にサクラコ様に聞く必要はない可能性だってあるんです。

黒服さんとの交渉、そしてアサシンの聖杯への干渉。

 

「相手の気持ちを知った上で勝つというのなら」

 

 これさえクリアしてしまえば、現状だってカタコンベの地図がありますからマリーちゃんに会いに行けます。

交渉が出来るんです。

もう必要な物はほとんど揃ってるんですから。

 

「有無を言わせぬ暴力で解決するんじゃなくて、相手が尊厳も何もかもかなぐり捨ててでも後生大事に抱えてる秘密を知った上でハッピーエンドに辿り着くというのなら……覚悟を持ちなさい」

 

 だけど、言葉を尽くして、そうやってハッピーエンドに遠回りになって向かうのなら。

 

「……手紙、あったんでしょ?」

 

まだやり残した事があると、まだ知らなくてはいけないことがあると。

そう直感が私に訴えるんです。

 

「手紙は誰かに届ける為に記す物です。今を生きる自分の届けたい想いを、未来の誰かに伝える為に。それが文字か鍵かなんて関係ない」

 

 ただそれをすれば、もしかするとサクラコ様を苦しめる結果になるかもしれない。悪手であっても必死に何かを守っている彼女達の想いを土足で踏み躙ることになるかもしれない。

それを古関先輩も分かっている。

だからこれは、()()()()()()()()()

 

「なら貴女達が持っている手紙と封筒を、きちんと送り主が伝えたいと願った相手に届けてやりなさい。そうすれば、ちゃんと鍵穴が見つかるでしょ」

 

 リスクを考えるならこれ以上不要な接触は控えたって良い。

時間だって浪費する必要もない。

だからこれは、()()()()()()()()

損得勘定であってはいけない。

 

 

 

 

「……みなさんにお願いがあります」

 

 

 

 

 

 

 その上で、ハナコちゃんが私達の方を見ました。

彼女が口にするお願いはただ一つ。

 

「もう一度、もう一度だけで良いんです……サクラコさんに会ってはもらえませんか?」

 

 トリニティの大聖堂。

そこにいらっしゃる歌住サクラコ様に、もう一度会いに行く事。

 

「居場所の見当はつきました。地図は手に入りました。マリーちゃんの願いだって分かりました。本当だったらもうサクラコさんと会う必要もありません。黒服さんとの交渉が成功次第、直接、カタコンベに乗り込めば話はきっとそれで済むのかもしれません。でも、どうしても私は納得がいかないんです」

 

 静かに、けれど深く。

腑に落ちない、という理由ではあるけれど、その内側にはハナコちゃんの痛いぐらい強い想いがある。

サクラコさんとも、そしてマリーちゃんとも仲が良い彼女だからこその想いがです。

 

「サクラコさん達はきっと大切な、マリーちゃんにまつわる何かを隠しています。私はそれを知ってからじゃなくては、きっと本当の意味で彼女の心に触れられない。そんな気がするんです」

 

 その言葉に私は、なんて一々考える必要はありませんでした。

だって答えはすぐに出ましたから。

 

 でも頭を下げるハナコちゃんに答えるのが遅くなったのは、周りを見渡したから。

みなさんの気持ちが同じ事を確認するのに、二十人もいるとちょっと時間もかかりますからね*4

 

「会いに行きましょう、ハナコちゃん」

 

「っ、ヒフミちゃん……」

 

 サクラコ様に会いに行きたい。

そう友達が言うのなら、私はそれを叶えたい。

だって目の前で苦しそうにしてるから。

 

 ハナコちゃんはサクラコ様を想って、ヒナタさんを想って、そしてマリーちゃんを想って辛そうにしてるから。

なら、私は応えたいんです。

 

「黒服さんとの話し合いは私達の目的を考えたら絶対に通し切りたい交渉です。そしてそれが叶えば、無理してマリーちゃん達の願いについてを考えたり悩んだり……そういうのしなくていいかもしれません」

 

 無駄、なのかもしれません。

効率を考えればもう他の陣営のことなんて見向きもしないでアサシン陣営との交渉に尽力する。

どの道、残された期間の中で最善手を尽くすとなればあれもこれもとやるのは、合理性に欠けるかもしれません。

 

「でも、私はそんなんじゃ納得できません」

 

───剥き出しのエゴをぶつけて願いを口にした君とこそ、共に戦いたいと思えたんだ。

─── 私はね、ヒフミ。その時、救われたと思ったんだ。

 

 私は私がやりたい事をします。

理屈だって大事ですけど、エゴに塗れた本心だって大切にしたいんです。

そしてそれは私だけじゃなくて。

 

「私が欲しいのはいつだってハッピーエンドです。誰かが悲しい顔をしたまま、辛い想いをしたまま」

 

みんなのエゴも、感情も、想いもです。

 

「ハナコちゃんの心にしこりを抱えさせたままだなんて、そんな形で迎えるハッピーエンドなんて絶対に嫌です」

 

 目の前で俯いて床を濡らす彼女が、サクラコ様に対して何を考えてどんな事を想像してるのかはまだ全部は聞けてないから分からない。

だけど私なんかよりずっと、何か大切な物があって。

そして今、もう必要ないかもしれない状況になって会う事だけは譲れないと言ってくれたんです。

 

「会いに行きましょう、サクラコ様に。会って、話をして、封筒を渡しに行きましょう。もしかするとそれに意義はないかもしれなくても」

 

 だったら、叶えたい。

ハナコちゃんの気持ちを大切にしたい。

私はお友達の心を大切にしたいと、大好きな人の願いに応えたい。

私は、そうしたいんです。

 

「きっと私達にとっては大事な意味があるんです」

 

 その後。

聞こえた小さな雨音混じりの返事に、私達全員は笑顔を浮かべたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残るはライダー陣営、ね』

 

『正直な話、彼女達については現状我々の持ち札ではどうにもという感じですね』

 

シスターフッドとサクラコ様についてのお話をしてから、少し休憩をして暫く。

最後の議題に私達は移りました。

 

 話す内容は一つ。

マリーちゃんやトキさん達と違って、今考えられる案ではどうにも解決できない問題。

それが『聖杯が欲しい』と言ったアルさん率いるライダー陣営についてです。

 

『残念ながら我々トリニティは介入が難しくてね。そこのところはどうかな?調月会長』

 

 申し訳なさそうに言われるセイア様の言葉に、やはりゲヘナとトリニティとの間にある溝を実感してしまいます。

私のような普通の生徒だとそこまで日常で感じる物はないんですが、自治区単位での関わりでとなるとどうしても両校は立ち入れない物があるようなんです*5*6

 

『……ユウカが万魔殿との会談を取り付けてくれているわ』

 

 ということで、期待の目が向くのはもう一人の自治区の代表者であるリオ会長です。

私達が向けた視線に彼女はすっと目線を外されてからぼそっと呟かれました。

 

 今入院しているユウカちゃんは、昨日の会議の後に早速あちらの生徒会の方とセッティングしてくださっていたみたいです。

そうと決まれば、といきたいところですが、話はそう簡単にはいきません。

 

「ええっと、それはすごい良いことだよね?じゃあリオ会長のテンションが絶妙に低い理由は?」

 

『……流れたわ』

 

「だと思った……」

 

残念ですが然もありなん、というやつです。

 

「この状況ですもんね。二割でしたっけ?」

 

 カスミさんの話では現在ゲヘナの中心部はインフラの二割が壊滅状態。

都市機能も完全にとまでいかなくても大部分が麻痺しているようです。

はっきり言って昨晩襲撃を受けた自治区の中ではゲヘナが断トツで被害が大きいですね*7

 

『おまけに情報どころか物流まで封鎖中だ、徹底しているね。我々もゲヘナの彼女から話を聞かなければ状況の把握にはあと半日は必要だっただろう』

 

「ですが、一度取り付けた約束自体は白紙になっていない筈です。あくまで流れたのは日付だけ、そうなんですよね?」

 

確認するのはまだちょっと鼻の先っぽが赤いハナコちゃん。

ちょっと弱々しい声に可愛いなと思っていると*8、頬を膨らませて気付かれてしまいました。

いけません、視線には気をつけないと。

 

 だから、アズサちゃん?

気をつけるのでスカートの裾を握るのはやめてくださいね、ずれちゃう、ズレちゃいます。

このままじゃ、セイバーさんの視界を奪う為に目潰ししなきゃいけなくなっちゃいます!*9

 

『(ははは……僕も見たくないから頑張ってね、ヒフミ)』*10

 

『(あはは……あとでパンチです)』

 

失礼しちゃいます、本当にもう*11

 

『ええ。あちら側からの申し出の際も、別にゲヘナに来ることや会談自体を拒んでいるというわけではなさそうだったわ』

 

「物流まで止めててそれなら、多分私達と話がしたいっていう気持ちはありそうですね。会長、再度セッティングは会長なら大丈夫そうでしたか?」

 

『……誰か*12*13のように無理を言うのね、ミドリ……彼方も不眠不休で現場の混乱を収めている筈よ。午前は無理でも今日の午後以降であればねじ込むわ。ただ直前に、というのは流石に難しいわね。申し込んで最速で三時間後……ぐらいに見ておいて』

 

 午後からならゲヘナにも行けると約束して頂けました。

午前中どう動くかも決まってませんけど、ゲヘナに行くのならどちらにしてもなるべく早く決めてリオ会長に伝えたいところです。

 

「どうせなら風紀委員会の奴らに頼めないわけ?ライダー陣営の調査とか監視とか、そういうの」

 

「既にしていると見た方が良いだろうね。何せ拠点は丸わかりなんだ。自治区のインフラを二割停止させた怪獣の監視はして然るべきだろう」

 

 怪獣、とウタハ先輩が言うのも頷けます。

ペロロジラのように大きな姿に変化したライダーさんは正しく怪獣、本当に大きくて強そうでした*14

 

「問題はその怪獣自体をどの程度の脅威として捉えてるかね。ゲヘナ側の意向が分からない以上、下手をしたら監視どころか、ライダー陣営を敵として排除する為の動きに発展してたって可笑しくない」

 

「わたし達はセミナーとか、ティーパーティとかアビドスのみなさんとかが協力してくれてるけど……」

 

「協力関係を結んでいない陣営からすれば僕らは大量破壊兵器となんら変わらないわけだからね。黒服が監督役だというのなら、生徒会の動きを牽制しているかもしれないけれど」

 

「最低でもライダー共が拠点を置く一帯は厳重な監視下にあるだろうな」

 

 復興作業にも人手を割かなきゃいけない筈ですが、反面監視体制にも力を注がなきゃいけない。

ゲヘナは恐らく今、てんてこ舞いの状況でしょう。その中で今日予定してた会談が流れるのはあり得る話です。

なんでしたら、今日中になんて普通は無理でしょう。

だというのに、そこからもう一度予定に組み込んでもらえるよう働きかけて下さるリオ会長には頭が上がりません。

 

「でも確か、アルって人はもう令呪を使い切ってたよね?……それなら、昨日見た怪獣みたいな姿にはなれないんじゃないかな?」

 

 ヒビキさんから出た質問は、言われてみればの物でした。

アルさんは私達との戦闘で一度、マリーちゃんとの戦闘で一度、そして昨晩の戦闘で一度。

()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

「……我らが以前対峙し、令呪を使用したタイミングでライダーの魔力が膨れ上がった瞬間のことだ。間違いなく奴の霊基自体の反応が跳ね上がった」

 

「令呪の強制力は非常に強い。さっき君達は僕の宝具を使うなと言っていたけど、まあ正しい反応だよ。そしてそんな宝具を持つようなサーヴァントを御するのが令呪だ、たった一言の命令で戦場覆すし、霊基の規模をあれほどに拡張させるというのも……説明できないわけじゃない」

 

 あの姿になるのに令呪が必要だった可能性は大いにあり得る、とお二人は含みのある言い方をされました。

それを聞いて実はもう警戒の必要はないんじゃ、なんて淡い期待は儚く潰えました。

 

「だが、隠し玉は隠しておくからこそというのはある。そこの軽挙な阿呆は緊急時でもないというのに令呪を使ったが「あれ?もしかして私のこと言ってる!?」セイバーの言うように令呪とは「しかも無視!?」ええい!うるさい!……ともかくだ」

 

 御二方の様子を見る限り、普通はあり得ないけど例外があるパターン*15というあんまり嬉しくない可能性があるみたいです。

 

「令呪とは本来一手で状況を好転させるほどの絶大な効力を発揮する切り札だ。これまでああも容易く令呪を使えたとなれば……奴らにとって令呪とは然程重要ではないと言い換えられる」

 

「つまり、令呪に頼らなくてもあの姿にライダーさんはなれるかもしれないし、そうでなくても別の切り札と呼べる物を持っているかもしれないわけか」

 

 頭が痛いと私の背中にぐりぐりしてくるアズサちゃんは大変可愛いんですけど、ちょっぴり力が入りすぎな気がします*16

可愛いから良いですけど、なんでしょうか。

 

『(猫のマーキングかな?)』*17

 

そんなわけないでしょ*18

 

「ライダー陣営に関してはまだ願いの方もよく分かってないんだよね。聖杯が欲しいって言うのはヒフミちゃんが聞いたけど、それだって聖杯で何をするかが分かってないし……」

 

「やっぱりアルさん周りの人に色々聞いてみるしかありませんかね?今だとカスミさんもいますし、どちらにしてもゲヘナには向かうわけですし」

 

 ミドリちゃんの言うようにアルさんの願いは聞きました。

だけど、それで何を叶えたいのかっていう具体的な部分に欠けているのは事実です。

案外アルさんの事ですからとりあえず聖杯が欲しいって言ってるだけの可能性が、いえ、そんな直感がしましたけど流石にそれはあり得ませんね。

というかアズサちゃん?

どうしてまたぐりぐりが強くなっちゃったんですか?*19

 

「そういえば前に自治区の境界線を調べた時の話はどうなったっけ?ほら、なんか爆発の後がどうのこうの……って!」

 

「あ……すっかり、でしたね。調べようにもアンプルとか私が倒れちゃったりでバタバタしてましたし……」

 

『爆破痕……ああ、資料の最後の方に載っているこの写真か。ここまでの話の流れから察するに君達はこの爆破痕がライダー陣営と繋がる手掛かりだと?」

 

「あはは……じ、実はそうなんですよぉ……ど、どうですか?みなさん、なにかこう……分かることとか……」

 

 セイア様がすぐに察して下さってモニターに拡大表示してくださった爆破痕。

七日目に私達がトリニティとゲヘナの自治区境界線、ちょうどその前日にライダー陣営とランサー陣営が衝突した場所で確認した写真でした。

 

 境界線の監視塔内部、壁一面を煤と破壊で真っ黒に焦がしている写真。

通信用の端末だったりが爆破を受けてか無惨に転がっているのが写っています。

 

「これだけだと、流石にね。爆発の規模からある程度どんな物を使ったかは試算できるが……」

 

「うちも解体工事自体はそこまでだしな。資料を見る限りじゃ他の探索箇所と違ってやたら手荒いやり方で痕跡を消してるからって話だが……流石に発破の跡を見て誰がどんな意図でかはな。トリニティに行くついでにもう一度現場に行って見て来るか?」

 

 けれどやはり写真から読み取れる物には限界があるようです。

ミノリさんとウタハ先輩が機材を持って確認しに行くと言ってくれてますし、お任せするのも手かもしれない。

 

『おじさん達も発破の専門家ってわけじゃないからなぁ。弾痕とかならまだしも流石に爆破痕だけだと……一応便利屋ちゃん達の中ならハルカって子とムツキって子が……アヤネちゃん?』

 

そう、思っていた時だったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『多分ですけどこれをしたの───()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

アヤネさんが静かに呟かれたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『C4やクレイモア、ハルカさんがよく使われる物であれば建物ごと更地にしてると思います。でもこれは、室内全体に爆破痕が残ってしまうぐらい、そして建物自体が壊れない程度に留められた爆破』

 

 便利屋68の方達で爆薬を主に使うのは二人。

 

『……これなら寧ろ、ムツキさんがよく趣味で購入されていた小型の爆薬であれば可能だと思います』

 

そのうち、こういった室内で使うような規模感の爆弾を所有してるのはムツキさんの方だという。

 

「じゃあ、浅木ムツキさんが……?でも、どうして……」

 

 ですが、そのアヤネさんの見解は聞いた時、私は信じ難い気持ちになってしまったんです。

だってムツキさんは私達に対してかなり好戦的な、それこそ。

 

───ここで殺さなきゃ駄目だよ、アルちゃん。アルちゃんがやらないなら、私がやる。

 

必死なぐらい私達を殺す事に躊躇のない姿でしたから。

アルさんの代わりに、と申し出るぐらいです。

とてもじゃないですけど、あの姿を見た私にはムツキさんがアルさんと彼女の方針に対して思うところがある、だなんて思えません。

 

「……確認した限り、この監視塔だけ痕跡の消し方が残りの三箇所と違って()()()()()()()()()

 

『……ええ、私もこの写真の爆発痕を見る限り、同じ印象を受けます』

 

「ですから私達はこの処理を行った便利屋68のメンバーは、陸八魔アルさんの方針や意向に対して反対意見を持っているのではと考えています……アヤネさん。貴女から見てムツキさんはそういった人物ですか?」

 

『……ムツキさんは、アルさんの事をとても大切にされていました。それは何も、彼女自身だけじゃない。彼女の生き方と彼女を取り巻く環境も大事にされてたんです』

 

でも聞いているうちに納得もできる部分がありました。

 

『気分屋なムツキさんですから、この爆破痕だけでアルさんの方針に対して思うところがあって、とは言い切れません。でも、少なくとも私の知る限り……彼女は今のような状況を望んでいるとは、とても思えません』

 

 それは、()()()()()()

確かにムツキさんはアルさんの意に反する可能性がある。

もし私が同じ立場で、そしてお友達が同じ決断をしたならば、きっとムツキさんと同じ行動をしたかもしれない。

この場にいる誰もがそう思ったんです。

 

『……ライダー陣営についてもここまでにしましょう。私達アビドス側からムツキさんにコンタクトをなんとか取れないかも、試してみます』

 

「よろしくお願いします、アヤネさん」

 

『……出来る限り、頑張ってみます』

 

 便利屋68の方達の中にはアルさんの方針に対して何か思うところがあるメンバーがいるかもしれない。

そしてそれはアルさんを除いて一番好戦的に見えた浅黄ムツキさんかもしれない。

今日は驚く事がたくさんありましたけど、意外さで言えば一番だったかもしれませんね*20

 

『これで一応全陣営について話したい事は粗方済んだかしら?他に何かあれば今のうちに話をしておきましょう、その方が合理的だわ』

 

「あ、それなら私、前にシュロちゃんが言って事が気になってて……」

 

 話がひと段落したところでリオ会長から他にあるかと聞かれたのを良い機会だと思って、私は一つ気になっていた事をみなさんに相談する事にしました。

 

───風情も解さず何もかも手遅れな鈍間、理念と心中するつもりの頭でっかち、法螺しか吹かない大嘘吐き、一人で歩く事すら出来ない臆病者、曇り硝子を覗いて良い気になる間抜け。

 

 それは昨日、病院にお見舞いに来てくれたシュロちゃんが言っていた言葉。

恐らく各陣営のマスターの方を彼女から見ての発言、なのだと思ってはいます。

 

 ただあまりにちょっと抽象的なのと悪意がたっぷりなので、どれが誰のことを指してるのか今一つ分からなかったんです。

いっそ、答え合わせをする気なんて端からないみたいに。

 

「……理念と心中なら私だな。ヒフミ達と同盟を組まなかったら変わらず率先して戦う事はないと決めていた。悪様に見るなら、心中と言われてもおかしくないだろう」

 

 そう考えているとミノリさんが眉間に皺を寄せつつ渋い顔で自分の事だと仰りました。

 

「あくまで悪様というのが肝だな。箭吹シュロと直接の関わりはないが、中々イイ性格をしているようだ。である以上、素直に言葉通りで捉えて良いとは言えんだろう」

 

「……視点、でしょうか。彼女の目線に立つのが肝心かもしれない。たとえば彼女が語った物の中から単語を抜き出して当てはめていく。その際にも箭吹シュロという少女の観客としての立ち位置だったり、特に風情や曇り硝子、それに……」

 

 続くキャスターさんと古関先輩からはシュロちゃんの言葉自体について考えて下さるのですが。

 

「いえ、やめておきましょう。そちらのバベッジ氏が仰られたように、どうにも悪様な内容ばかりです。あまり、躍起になって調べるのも変な話でしょうから」

 

 結局、このお話はシュロちゃんの悪趣味な視点で見てるからあまり本気で捉えなくて良い、という結論に落ち着きました。

けど、私は。

 

───……嗚呼でも、あの娘っ子だけは別ですね

 

 最後に私以外にシュロちゃんが好みだと言っていた誰かもわからない彼女のことが、どうしてだか気になったんです。

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、解析終わったけど?」

 

会議がちょうど終わったタイミングで欠伸が一つ。

 

「中身は映像データだった、見てないけどね」

 

チヒロ先輩が差し出して下さったのは解析済みのSSD端末。

 

「だけど、今見るなら気をつけた方が良いよ。だってこれ」

 

それに貼り付けあるのはチヒロ先輩が書いた付箋。そこに書かれている時間は。

 

「───多分、禄でもない物が記録してある」

 

私達の予想とは違ってちょうど先生が憤怒のライダーと戦った直後の時間が書かれてありました。

 

*1
そういう気づいてほしいサインに気付けるのが下江コハルという少女で、そういう不器用な少女が浦和ハナコだった

*2
事実として、シスターフッドの頑なな姿勢があった。それはヒフミ達だけにではない。ティーパーティに対してもそうであり、ほぼ同じ対応が取られたのもまた事実である

*3
そういったバランス感覚や舵取りに関して、ゲヘナという土地にあって羽沼マコトの才覚は間違いなく一級品だろう

*4
実に多い。ちょっと中規模ぐらいのサークル程度の人数はいる。おまけに各学園の重鎮が揃っているのだ。勘弁願いたい

*5
長い歴史が両校にあるからこそ、その負の積み重ねが深い溝となっている。それもまた歴史の裏打ちされた事実であった

*6
とはいえヒフミのように次世代の、かつての抗争を直接知らない世代もいる。そういった生徒達が両校の蟠りを溶かしていく未来を願っているトリニティ生がいるのもまた事実である

*7
羽沼マコト議長の陣頭指揮の元で復興と行方不明者の捜索が続けられているが、今なおゲヘナに落ち着きは戻らない

*8
???「……は?」

*9
どうかやめてあげてほしい

*10
この男の脳内辞書に刻まれたデリカシーの二文字は、ことヒフミとのコミュニケーションにおいては既に過去の遺物と化していた

*11
まったくである

*12
ヒント:ヌッ

*13
ヒント:ユウカちゃんには内緒ですよ

*14
それでもペロロジラなら、ペロロ様なら負けない。などとこっそり考えるヒフミも大概大物であった。なお、セイバーには筒抜けだった

*15
聖杯戦争、というよりサーヴァントと関わる事には大抵イレギュラーな事態が付きものだ

*16
アズサはまだジェラっていた。あとついで前回のライダー戦が尾を引いていた

*17
あながち間違ってはいない

*18
ヒント:節穴

*19
アズサは気づいた。ぐりぐりすると自分の匂いをヒフミにつけられると

*20
……





1じゃんね☆
会議おわりー!じゃんね☆
これ安価でもらった時はどうやってまとめるか結構悩んだりしたけどほぼ全部まとめきった時は満足感と達成感があったじゃんね☆
流石に20個以上の質問捌いたら次からは何が来ても怖くないぜい!……って……

1がその後どうなったかは、また後日の更新分で判明するじゃんね☆




さて、次の更新は本日の18:18になるじゃんね☆
お待たせしました、じゃんね☆
第二部はまだ終わってないのにフライング登場してもらうじゃんね☆

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)

  • ハーリングのセイバー
  • フィレンツェのアーチャー
  • 楽劇のランサー
  • 維新のライダー
  • 白備えのキャスター
  • キラキラのアサシン
  • 民話のバーサーカー
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