阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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死んだ方が楽だったのに

 

 宵はとっぷりと暮れた頃であった。

遂に死闘は決着と相なる。

平安の大妖はゲヘナの大翼に敗北を喫したのだ。

 

「……私達の勝ちよ」

 

 憤怒のライダーの胸部にある核たる臓腑、霊核は終幕を飾るヒナの一撃によって見事に撃ち抜かれていた。

最早、憤怒のライダーに立ち上がる余力はない。

 

「先生、どうするの?」

 

“……ヒナ。悪いんだけど、少しだけ時間をくれるかい?”

 

「……もう、仕方のない人なんだから」

 

 申し訳なさそうに頭を掻いた先生が見つめる先にいるのは憤怒のライダー、否。

その遺骸と言うべきが正しいだろう。

 

 最早霊基を構成する何かが泥のように溶け出すそばから粒子となって消え始めている。

死に体に違いない武者へ、先生は近づいていく。

仰向けになって転がる武者も、先生の隣に恭しく添い立つ少女も咎めはしない。

勝者は間違いなく先生なのだから。

 

 彼には()()()()()()()()()()()()()()()()()

気掛かりな一つ目と偶然気づいた二つ目。

聞くべきことを、知りたい事を。

その隠された聖杯戦争の。

 

“一つ、聞いても良いか「あれぇ?」……っ”

 

ふいに、間延びした声がいつの間にかそこに流れた。

 

「もしかして遅くなっちゃった?いやぁ、ごめんごめん」

 

戦場にはとても似合わない、いっそ軽薄なほど明るく平坦な音。

 

「トリニティからゲヘナに来るのは骨が折れたよ。これでもミルクセーキみたいに急いできたんだけどね?」

 

 ライダー陣営、シャーレ陣営、そして憤怒のライダー。

三者が入り乱れた激戦。

未だ怪性がゲヘナに襲う戦場に聞こえる筈のない声。

 

 

 

 

 

 

「やあやあ、先生。会えて嬉しいよ。今夜もキャンディみたいなあまーいひと時にしようね?」

 

 

 

 

 

 

柚取ナツが嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生の隣でヒナは息を呑んだ。

柚取ナツという少女と面識があるかどうかなぞ関係ない。

ただ、警戒したのだ。

ただ、覚悟したのだ。

目の前にいるこの少女の形をしたナニカが、途方もなく危険であるということを。

 

「おやおや?それが例のわるーい大人?でもまだ死んでないみたい。じゃあしめ作業、いってーみよー……ああ、これでも私怒ってるんだ。なにせアイリの友で私の友、偉大な()()()()()を傷つけたっていう」

 

 

 

“───()()は誰だ?”

 

 

 

 先生が今まさに問うたヒトの形をしたナニカを前にして、果たして自分は先生を守り切れるかどうかを。

 

「……へぇ」

 

 オンナの返答は一言の後に、態とらしく並べられていった。

 

「やだなぁ、私だよ。柚取ナツ、トリニティの一年生で放課後スイーツ部の“違う、お前はナツじゃない”……いいのぉ?先生が生徒に向かって、お前だなんてさ……なんてね

 

 分かりきった返事に寧ろ胸中の悦びを隠そうともしない。

オンナはただ嗤いながらずるりと輪郭を溶かした。

 

 

 

 

 

 

「───どうして分かったのかしら?

 

 

 

 

 

 

 口調が変わる。

見目が変わる。

白く、ただ白く。

くすみの一つもない純白に指した紅色だけがやたらと生々しい。

そんな姿に成り果てる。

其処()にいたのは、白い髪と白いコートを着た、そんな形をしたオンナだった。

 

“教え子の事を間違える先生がどこにいるかな?”

 

 語気を荒げず、態度を変えず。

先生は目の前で文字通り変態したオンナの様には目もくれてやらず、淡々と問いただす。

 

「それもそう……なのかしら?ごめんなさい、世俗には疎くって。こう見えて私、箱入り娘なの……そうだわ!とりあえず自己紹介でもしましょうか?」

 

“結構だよ。私はお前と話がしたいわけじゃない”

 

 対してオンナもまた嗤いを絶やす事はなかった。

どこまでも先生然とする大人の姿に感涙するほどの愛おしさを抱きながら、恍惚とした溜め息を漏らす。

 

「もう!誘いを袖にするだなんて意地悪な方ですこと!……どこまでいってもその思考は愛し子の為に、ですか」

 

“……先生だからね、私は”

 

「ふふっ、天上の視座とはよく言ったものだわ。つくづく貴方のそれは教師の価値観ではないわね。まるで保護者気取り。素敵だわ、()()()

 

“それはどうも。だけど先生なんていうのは大なり小なりこんな物だよ、お前の狭い価値観じゃどうか分からないけどね。それで───ナツはどうした?

 

 熱を帯びて火照るオンナの吐息に、どこまでも冷淡な態度のまま先生は今一番に心配しなくてはならない可能性を潰そうと言葉を重ねる。

目の前の女がただ姿を真似しただけならば良かった。

 

 だが、先生には()()()()()()()()と、先生だからこそ気づく物を知覚してしまっていた。

 

「もうっ!慌てないで、良い男。其の煮え滾る視線は心地良いけど、向けるならベッドの中だけにしてちょうだい……けど、やっぱり素敵ね」

 

何せ目の前の女の姿形は、変わり果ててなお、柚取ナツの気配そのままなのだから。

 

「事ここに至っても、貴方の思考を埋めるのは私達じゃなくて生徒のこと。嫉妬はあの子にあげてしまったというのに、妬けちゃうわ」

 

 それを理解して今度こそオンナは手を叩く。

渇いた拍手は虚なほどに未だ炎が揺らぐ戦場に響いた。

だが、表情を見れば分かるだろう。

まるで恋する乙女のように浮かされるその瞳は、目の前の男が察してしまった真実に。

 

 

 

だからその視線を独占しちゃいましょうか?

 

 

 

 他ならぬ自分が一瞬でも、目の前に現れた柚取ナツではない筈のオンナを教え子だと認識しかけた事実から、既に何が起きたのかを。

最悪の事態に備えていることを。

 

「柚取ナツさん、彼女ね。そうそう、彼女とっても親切だったわ。傘をささないで歩いていたらすぐに声をかけてくれたのよ!」

 

 とっても親切な子、と笑いかける顔に浮かぶのは喜色ではない。

無論、表情は間違いなく笑顔だ。

だが、それを構成している筈の全てのパーツが、決定的にズレている。

 

 目が笑っていないだとかそういう次元ではない。

作り笑いだとかそんな話ではない。

笑顔なのに、読み取れる感情が根本的に違う。

 

「それから私達とお喋りまで。でも今の子って凄いのね。ちょっと話しただけで警戒もして、他の子に助けを求めて。本当いじらしいったらないわ!……だからね」

 

 だが、先生の胸に湧き立つ不安感なぞオンナは見向きもしない。

だって今、オンナは純粋に敬意を露わにしている真っ最中。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからオンナは、至極真っ当に、何が起きたのかを先生に教えてやった。

先生の視線も思考も独占する為に、悪意の一つもなく。

 

 

 

 

味見してしまったの、だってあんまり可愛らしいんですもの

 

 

 

 

 

 

ヒナ───ァッ!

 

 唇に人差し指を当てながら、美味しかったの一言を添えた時には先生の指示を待つ事なくヒナは動いていて。

 

「(駄目だ、駄目だ、駄目だ……ッ!コイツだけは、絶対に先生の前に立たせちゃ駄目だ!)」

 

 けれどその銃弾はただの一発も意味をなさなかった。

 

「其の翅、其の角……嗚呼、ゲヘナの娘か。涙ぐましいのね、カナンの塵拾い。相も変わらず惨めに楽園の端で暮らしているからかしら?そんなに私が……いいえ」

 

早撃ち。

 

「先生を取られるのが怖いのね、可哀想に。でも」

 

間違いなくキヴォトス最高峰に君臨する空崎ヒナの全力を叩き込んだ銃弾は砲撃と呼ぶべき威力。

 

「大人同士の話に子供が割って入るのは」

 

高められた神秘は黄昏を染める夜闇のように深い色を纏って、オンナの全身を食い破らんとした。

 

ッ!先ッ「───感心できないわね」……が、ぁ───ッ!?」

 

そんな一撃を、憤怒のライダーを倒して見せた至宝を。突然の雨に降られたかのような動作でその身を腕で抱きしめるように隠した、ただそれだけで。

 

“ヒナ……ッ!”

 

全て受け止めきった挙句、ヒナが知覚するよりも前に目の前に移動していたオンナは埃でも叩くようにして腕を振って、ヒナを叩き飛ばした。

 

「が……っ……に、げ……っ」

 

 倒れ伏した駆け寄った先生はすぐさま判断する。僅か一撃。

たった一手。

ほんの一撫でが戦局を傾けた。

 

 先生の視界に映った容態。

受けたのが空崎ヒナでなければ、ともすれば致命傷に、そう想起するのも止む無しというもの。

手持ちの手札では、何をどう切ろうとこの場すら切り抜けられるか危ういという現実が先生の思考にちらついた。

 

「歓待も抱擁も、憎悪を嘲笑も。なんだって良いわ。なんだって嬉しいの。貴方がくれる物ならどんな物でも天上の法悦。この肌も肉も心も、貴方が望むように貪ればいいと、貪ってほしいと私は想う。この髄も胎も好きなだけ貴方が弄べばいい、弄んで陵辱の限りを尽くしてほしい」

 

アロナッ!プラナッ!……ぐぅッ!?”

 

 動揺はあれど指事にも選択にも誤りはなかった。

だが打つ手より早く、警告でもするように先生の肩を影が浅く抉る。

 

「でも、ごめんなさい。レディの支度は時間がかかるの……だから今すぐに貴方と踊るのは無理なのよ」

 

 オンナの足元に広がる影から蠢いて伸びた影の帯。

剃刀の如き刃と礼服の如き柔らかさを両立させた妖しく揺れるその刃は先生の肩を切り裂いてから、まるで恋人にでもそうするように彼の頬を撫でる。

無粋な真似を、無駄な抵抗を咎めているとでも言いたげに。

 

「でも信じて?私達、これでも操を好きな殿方に捧げる尽くすオンナなの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、貴方以外に私は私の生命を誰にも渡さない。お母様にもお祖父様にも、決して。それだけは間違いないのだけれど」

 

オンナは嗤う。

 

 

 

「───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 君臨者としてキヴォトスにおける絶対的な法則を先生へと突き告げながら。

 

「ああ、そうそう!お母様が取り揃えた中には色々あったのだけど、やっぱり可愛い子が良いでしょ?とにかく若い雌が殿方の好みかと思って急いで誂えたの!でもその所為で貴方を悩ませてしまったのなら、ごめんなさいね」

 

 ちろりと赤い舌を出す淫靡な姿は悍ましいばかりの凄艶な色香を漂わす。

酒精と見間違うような娼婦の艶姿が放つ薫香は、これまでの聖杯のサーヴァント達の怨嗟に満ちたそれとは方向性がまるで違う。

 

「母胎というのは触れざる物、子宮というのは見えぬ腑なのだから。ましてやまだ産まれていないのならば尚のこと、概念として私に勝ちや負けはあり得ないの。もっとも、貴方が私を肉欲にかられて褥で洗礼をして下さるのなら……話は別でしょうけどね?」

 

 彼らのはどこまで行っても極限の憎悪。

赦し難い、認め難い、決して受け入れてなるものか。

そんな絶望の果てに生まれた罪咎なぞとは似ても似つかぬ。

オンナのそれは、秘める事も忘れた剥き出しの獣性であった。

 

「でもこれだけ熱烈なアプローチを殿方から頂きましたし、そうね。折角だから、私達も贈り物。安心して私達だけを見てほしいから、ね!……柚取ナツさん、だっかしら?可愛いくてとっても良い子だったわ」

 

“……答えろ。あの子に何をした”

 

「慌てないで、愛しい人。本当に可愛いんだから……大丈夫、ちゃんと話すわ!……あのね?はしたない話だけど、確かに柚取ナツは味見してしまったの。でも安心!何日かすれば生体機能はちゃんと回復するんですもの!」

 

 食べたと言っておきながら、オンナは惚けてはにかむ。

 

「生徒達は大事な大事な私と貴方の子供。これからの戦争で使い潰して大事な贄だものね!無駄遣いなんて出来る奥さんはしないわ!だから安心してちょうだい!……あ、ただ」

 

頬に手を当て照れるような仕草は言葉にすれば愛らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体は無事でも魂を貰っちゃったから、廃人にはなってしまったかもしれないわね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが実態はどこまでもどこまでも深く堕ちていく、真っ黒な悪意の泥濘。

 

……おッ、前ェェェッ!

 

「でも気になさらないで!言ったでしょ?安心してほしいって。もしも聖杯戦争にあの子が参加する事になったらちゃんとお返しするわ。体型管理は大事だもの!」

 

 オンナの狂った語りに、先生は何も返さず。

ただ服の内側へと無事な右手を伸ばす。

何をするつもりかなぞ、言わなくても分かるだろう。

 

「今まで餌にしてた他の子だってそう!えすでぃーじーず、でしたっけ?ふふっ、環境に配慮してちゃんと使い潰すなんて無駄な事はしてないわ!私の子宮で眠る子達であればちゃんと、《必要なその時まで》、ね?」

 

 シャーレの先生だけがこの世界で持つ、奥の手。

己が身も魂も時間をも削り、凡ゆる盤面をひっくり返す究極の一。

 

 

 

大人のォッ!?っ!?ぎぃ……くッ……ッ!”

 

 

 

それを取り出さんと伸ばした手を、服の上からオンナは影の刃で咎めた。

 

「……連れない方。そういう下らない真似、やめて頂戴。だって私、これでも貴方のことを気に入っているんだもの。たかが子供の為なんかに貴方の魂と時間をを削って欲しくなんかないの」

 

何をしたかは、服の下にある手を庇いながら膝をついた先生の足元に流れ始める真っ赤な水溜りを見れば分かるだろう。

 

「幾らこれから二人、死すら別てぬ永久を添い遂げるとしても、その前に貴方が自分を使い潰しちゃうだなんて……そんな悲しい結末、伴侶として認め難いわ!なんだったかしら、そうそう」

 

 もっと自分の身体を大事にしてと、若い伴侶に言い聞かせてみせるような反吐が出る光景。

 

 

 

「───まだまだ続けていくんですぅ、でしたっけ?

 

 

 

 小馬鹿にして、どこまで嘲り侮辱する言葉。

だが、今この場でそれを訂正出来る者は誰もいない。

オンナの独壇場は続く、続いてしまう。

 

「シャーレの聖者、シナイ山の落とし子、聖なる只人、そして私のアダム・カドモン。ミデヤンでムーサがそうしたように、貴方が世界を裁くのを私は今か今かと待っているわ」

 

 恍惚と頬を熱らせ、目を潤めて、まるで思い出して絶頂するようにオンナは謳う。

 

「血と肉を糧に病める者への祝福を。邪なる不浄の一切に裁きを。灰は灰へと還すのでしょう?たとえばそう、あの時貴方が」

 

そう、あの日見た光景を。

シャーレの先生が成し遂げた偉業を。

 

 

 

 

 

 

「───プレナパテスを壊したように

 

 

 

 

 

 

 瞬間、先生から溢れ出るのは最早怒気ではなかった。

大人として、先生として、子ども達を見守る者としての怒りではない。

 

“───もう、良い。それ以上……口を開くな

 

 純粋な、誇りを傷つけられたが故の、殺意。

 

お前がッ……彼を、語るなッ!”

 

 生徒を傷つけられ、誇りを貶められた。

一人の人間が、たとえどんな聖人であれ耐えられる筈もなく。力無く垂れ下がり、今も血を流す手の甲で握り潰すほどの勢いで大人のカードを取り出して。

 

「あら!生徒だけかと思っていたけど……あんな()にまで感情を表に出してくださるだなんて。予想外だけど、でも、やっぱり貴方って優しいのね。私、貴方のそういうところを見ると」

 

『先生ッ!駄目でs───ッ!』

 

「思わず子宮が疼いてしまいそうよ。けど、そう考えるとやっぱりベアトリーチェは呆れるほどに愚か者ね。こんな良い男を捕まえて脅威だなんて」

 

 次の瞬間にはカードとタブレットが呆気なく地面に叩き落とされて、渇いた音を鳴らした。

再び蹲る先生は痛みに呻く。

 

 今度は刃ではない。

影の帯は鉄槌のようにして先生の腕を砕き、袖の下では皮を突き破った骨を無理矢理引き摺り出していた。

 

「男なんてのはこれぐらい強引な方が胎が悦ぶというのに、ねぇ……ライダー?」

 

 その姿を、嫣然としつつもじっとりとした目線で見下ろしては胎の奥を熱くしつつ、けれどオンナは名残惜しみながらも足元へと目をやった。

視線の先にあるのは崩れかけた霊基。

その身に留めている魂が、座に還るのも時間の問題といった様子であった。

 

「はあ……本当に貴方って駄目な子ね。一番使い難いから一番分かりやすい権能を上げたっていうのに、全然使えてないじゃない!」

 

 死に瀕した従僕に向かってドレスの裾を翻したオンナがしたのは、あまりにも冒涜的と呼ぶべき行為。

 

「アーチャーもランサーも役立たずだし、貴方だってそう。アサシンは壊れちゃったし、バーサーカーは相変わらず娘の尻ばかり追いかけてる。もう!揃いも揃って死んだ女が忘れられないのかしら?」

 

自らの足元で蠢いて影の帯を幾十と束ねてからまだ残る憤怒のライダーの霊基を侵すようにして傷口へと注ぎ込み始める。

 

「……やっぱり廃品は駄目ね、おさがりはこれだから。でもセイバーはよく働くし……元の違い、かしらね?」

 

 悲痛な絶叫はすぐさまに戦場に響き渡った。

魂そのものを凌辱されるような汚染によって、霊基の消滅は停止させられる。

 

 回復ではない。

修復でもない。

壊れた細胞が出鱈目に分裂していくようにして、ただ無理矢理消えていた四肢と、空いた穴に肉が満ちて塞がっていく。

 

「はぁ……あの時もそうだったみたいだけど、お前って本当女々しいわね。セイバーをご覧なさいな!あの子ったらもう泣く事だって忘れちゃったのにお前はどうしてそんなにいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもォッ!……って、あら?」

 

 あまりにも傲慢不遜。

如何に汚染された霊基とはいえかつての英霊の記録たるサーヴァントに対する仕打ちとは思えぬ悪逆。目の前で繰り広げられる背徳に満ちた癇癪に、唾棄すべき邪悪を前にして、痛む右腕を庇いながらも先生はオンナを睨みつけた。

 

「まあっ!まぁまぁまぁ!貴方ってほんと可笑しな人なのね!見ていて本当に飽きない、心の底から愉快な人!どうして壊れた玩具を直しているだけなのに怒っているのかしら?でも良いの?そんなに怖い顔して。だってこれから」

 

 オンナはまた嗤う。

なんと雄々しい男なのかと。

なんと優しき男なのかと。

なんと気高い聖人なのかと。

 

 たかが死体を弄り回して手慰みに弄ぶだけで、もう立ち上がってその手に()を持つのかと。

その上で、オンナは憤った。

何故この男は、何度も誘っているというのに袖にするのかと。

だからまた、嬌声を上げることにしたのだ。

 

「大事な大事な生徒さんを傷つけて、顔と身体を掠め取った話をして、もっと貴方に夢中になってもらいたいと思ってるんですもの!」

 

だが、またしてもオンナの願いは叶わない。

 

!?ヒナッ……!”

 

 空崎ヒナ、激憤。

ゲヘナが誇る単体最高戦力は先ほどの衝撃によるダメージと影の接触による⬛︎⬛︎汚染すら完全に跳ね除けて果敢にもオンナへと強襲した。

 

「あら、また貴女?ゲヘナの何某なのは分かったけれど、やけに元気ね。いいわ、特別よ?彼の手前だから貴方の名前、思い出してあげる。あの人にちゃんと母親が出来るんだってとこを喋るッ、なぁアッ!もうっ!早速反抗期かしら?」

 

先っ……せぇ!ここは……私がッ!」

 

「ええっとなんだっかしら?……そうそう、ウガリットの。ふふっ、ああ思い出した!貴方アレでしょ!無様で醜い蝿の王!いと貴きって、一体何をその小汚い翅で積み上げるのかしら?

 

 砲撃、砲撃、砲撃───ッ。

最早リロードすら惜しいと長銃を振り回して叩きつけていく破壊の嵐は、彼女の焦燥を現していた。

 

 届かないのだ、空崎ヒナの攻撃が。

先生の指揮下であれば並のサーヴァントが単身であっては抗うことすら難しい暴力の乱気流が、何一つ致命傷に繋がらない。

まるで子供を頭ごなしに抑え込んで力の差を見せつけるように悠然と、オンナは影の帯を伸ばしてはヒナの攻撃を受け止めていく。

 

「それで今は確か、宵のバア……いいえ。空崎ヒナ、だったわね?確かに貴方なら頑丈なのも納得、お母さん、感心しちゃった!でもね。ちょっと減点よ」

 

 嗤う、嗤う、嗤う。

ヒナの攻撃は最早抵抗に変わっていた。

必死に怒鳴りつけて頭を殴る親の暴力から身を守るようにして縮こませる童女のように。

ただただ懸命に弾幕をばら撒いて、銃で薙ぎ払って、いつの間にか涙すらこぼしながら。

それでも先生を守ろうと立ち塞がって。

 

 

 

「だって、よりにもよって素敵な殿方の前で無駄にお人形さんを使い潰すのを私達にさせるなんて……娘としてなってないわ

 

 

 

「せ……ごめ……い……」

 

 全身を帯に貫かれて、彼女は呆気なく倒れた。

 

“……ひな……?”

 

 痛む腕すら忘れて、横抱きにした教え子に開いてしまった虚な孔を、ただ茫然と先生は見た。

変わり果て、今にも命の灯火が消え掛かったその姿を。

 

「さて、なんの話だっかしら?嗚呼そうだわ!これから益々こわーい顔になるって話!ふふっ、楽しみね。こういうのって浪漫に溢れるじゃない?古今東西、いつだってそう」

 

 ひたりと裸足を一歩分前に出したオンナは両手を広げて廻る。

先生と、そしてキヴォトスそのものへと告げる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 己が忌み名を。

このキヴォトスが産んでしまった極大の絶望を。

 

「改めまして、皆々様。他ならぬ柚取ナツさんとの語らいで見つけた私の名前は───ユスティーツァ

 

 何人にも冒せぬ神聖なる呪詛を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キヴォトスの、ユスティーツァリズライヒフォン・アインツベルン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決して大きくない声だというのに。

雨音に消されてしまいそうなほど高い音だというのに。

 

「貴方達が求めてやまない、大聖杯の意思であり聖餐の徒」

 

その醜い情動の果てに高らかに宣言されたその声ははっきりと世界に届けられた。

 

「このキヴォトスに住まう全人類が平等に望みを叶える機会を闘争によって齎す奇跡の果実。これから永遠に繰り返される聖杯戦争の運営者よ」

 

キヴォトスの終わりを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ……こんな物ね」

 

 瓦礫の上に座り込んで、真っ白なオンナは足をぶらつかせていた。

オンナの身体に汚れは一つだって付いていなかった。

 

「ヒエロニムスもアンブロジウスも駄目ね、結局集まってきたあの子達にぜぇんぶやっつけられちゃった!おまけにライダーは、あっちのロートルにやられてしまう始末」

 

 オンナは嗤う。

咲き誇るように。

真っ白なキャンパスにペンキをぶちまけるように。

罪人の首を刎ねるように。

恋した男との初めての夜に歓喜するように。

今も遠くから響く怒号と悲鳴に鼻歌を鳴らして嘲笑う。

 

「まぁ、でもどっちにしても子が母には勝てない、というのは分かったんじゃないかしら?」

 

 座ったままぐるりと首を真後ろに向けたオンナは、暫く待ってから肉欲に満ちた生温い溜め息を吐いた。

 

「……お返事はなし、と。良いわ、逃がしてあげましょう。此処はキヴォトス、どこまで行っても私の箱庭。逃れる術なんてないんですから」

 

 既にこの場にヒナも先生もいない。

黒ずんだ足跡が教会とは反対へ、ゲヘナの方へ伸びている。

 

「それにしても、使えない子。一度も二度も変わらないだろうに、まだあんなモノにしがみついて」

 

 オンナはまた嘆息してから自身の足元に転がる、焦げた塊に目を向けた。

 

「どの子もほんっと役立たず!親が殺して良いと言ったんだから、殺してしまえば良かったのよ。我慢は身体に悪いわ、特に貴女達は、ね?」

 

 苛立たしげに微かに呼吸する焦げたソレへ一蹴り入れてから、オンナはそれを汚いものでもみたかのように顔をしかめてから影の裡に呑み込む。

 

「ほんと、つかれちゃった……」

 

 オンナは立ち上がり、伸びをする。

ソレに合わせて遠く遠く、遥か先まで影は伸びていく。

 

「うぅん、でも良いわ!だって素敵な一幕だったもの!恋に焦がれた愛しの伴侶をやっと見つけた生娘の気分っていうのはこういう物かしら!素敵ね、アイリスフィール!幼いままに組み伏せられた貴女もこんな気分だったのかしら!」

 

 調子外れの嗤いはすぐに鳴り止まない。

夢で覆われたその眼には、嘲りしか映らない。

 

「まあ良いわ!どっちだって良いの!なんだって良いの!楽しい楽しい戦いはまだ始まったばかり!何せ私達はようやく形を成したばかりなんですから!折角超人だっていないんです、しっかり羽を伸ばして数を重ねていかなくちゃ!」

 

 そして目は、舐めるように足跡を見た。

必死に籠から飛び出した憐れな小鳥の行末にほくそえんで。

 

「いつまでも良き闘争を、そうでしょ?シャーレの聖人様。貴方の健闘は、既に始まってしまった聖杯戦争を思えば小指の先ほどの抵抗でしょうけど」

 

 籠から出ても、外の世界にはいけない事を知らない無垢さに愉悦して。

 

「もしかしたら私達に届くかもしれませんから。そうなったら、とても素敵ね。貴方と私、奇しくもへその緒を同じくする者が仲良く殺し合うなんて……」

 

 そうしてオンナは軽やかな足取りで歩き出す。

 

「まるで経典をなぞるみたい。その為に、私も貴方に見合う素敵なレディにならなくちゃね」

 

けれどその足音が聞こえる事はない。

 

「二週間で七人。次の二週間でもう七人。貴方が七人育てたなら、私はその七人殺しましょう。繰り返し、繰り返し、十四日目の夜が明ける度に七つの仔羊を荒野で殺し、朝日と共に七つの贄を用意しましょう。甘い蜜を餌にしてこの地上を欲望の坩堝に変えましょう」

 

一歩踏み締める度に。

 

「果てもなき闘争の末に辿り着く場所こそを楽園と呼びましょう。

 

一つ歌う度に。

 

「夜は明けず、円環は終わらず、始まりに至らず、王笏はその手になく、月の裏は見えず、煉獄は今も燻り、鎮魂歌は流れず、外典は燃やされ、極光は沈んで、偽りは偽りのまま、可惜夜は揺蕩う。そうして蒼銀の欠片を私達は掲げるの」

 

ゆっくりとオンナの身体は影へと沈んでいく。

 

「用意したのは花の魔術師も月の蝶も、ましてやあの超人も邪魔は出来ない特等席。お母様が手にした奈落の底。那由多の向こうで万難は廃され、幾星霜の闘争が万願を成就する。欲望の爪で虚構の平穏を剥がされていくキヴォトスこそ、貴方と私、二人が誓う式場に相応しい」

 

そうして胸まで影に沈んでから、オンナは振り返って唇を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

さあ───私と貴方で戦争よ?主人公

 

 

 

 

 

 

 最後の言葉は誰にも聞かれる事はなく、けれど星だけがそれを知ってしまって。

静かな悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 酷い、映像でした。

あまりにも情報量が多くて、どうしたら良いのか分からなくて、何をどう処理すれば良いのか、情報も感情もめちゃくちゃで。

 

 心臓が痛いぐらい叩かれて。

喉の奥が張り付くような感触と一緒に鉄の味もして。

耳鳴りのようにさっき聞いた悲鳴や嗤い声がずっと響いては頭痛を誘ってくる。

もう、何も分かりません。

どうしたら良いのかの検討だってつきません。

 

 

 

 

 

 

 

「───ナツちゃんの魂はどうやったらり戻せますか

 

 

 

 

 

 

でも、真っ先に聞くべき事は分かっていました。

 

「魂だけの分離、それも肉体がある状態での干渉……無理ね、魔術じゃなくて魔法の領分に近い。なら裏道がある筈」

 

「契約の類だ。出し入れ可能なら道がある。当たりをつけるならば母胎、なぞと宣った話から探るか」

 

「なら古書館へ。あの子達なら、何か心当たりに触れられるかもしれません。人手が足りないなら警備はいらない……暫く篭らせて。必ず何か拾ってみせる」

 

「調査の方、よろしくお願いします。黒服さんには連絡しました。今日であれば午前でも午後でもいつでもどうぞとの事です」

 

 私達の目に、絶望なんて映ってない。

()()()()()()()()()()()()()()

あのユスティーツァという人が何を話していたのかなんて内容の半分も分からない。だけど、もう関係なんかないんです。

 

「ウイ、チヒロ。アインツベルン、キシュア……それから沙条の家系を探して欲しい。このキヴォトスに彼らが存在するのかどうか、それが今どうしても確認しておきたい」

 

「任せて。百だろうが二百だろうが全部探してやる」

 

「ウイさんがトリニティに行くなら古聖堂を経由するのも、別グループが行くのも出来ますね」

 

 ナツちゃんが奪われた。

先生が傷つけられた。

ヒナ風紀委員長が痛めつけられた。

他にも、きっとたくさんの人が苦しんだ。

 

 アイリちゃんやレイサちゃんにモモトークをしたけれど、既読だって付きはしない。

今どうなってるかなんて容易に分かって、だから私たちが何をしなきゃいけないのも分かりました。

 

「セイア。トリニティの被害者を洗い出してほしい。私達の手が届かなかった犠牲者がいるかもしれない。それからキヴォトス全域の地図を出して欲しい。ゲヘナ経由で避難できる箇所からサオリ達が脱出していた場合の場所を割り出したい」

 

『……承知した。こちらで資料をまとめておく、ハナコ』

 

「……ええ、検討はこちらで。この際、流出がどうのこうのは言っていられません。個人端末にお願いします。それからシスターフッドに連絡を済ませてあります。返事は無視でいいでしょう」

 

『こちらからも通達を送った。炊き出しにも出ないで家に閉じこもっているようだ』

 

「地図ならお任せ下さい!すぐに用意しますっ!」

 

 先生を探して、アリウスのみなさん達「聖杯戦争対策部」を見つけ出す。

そしてナツちゃんの魂を取り戻す方法を探し出して、必ずあの人から奪い返す。

 

「バーサーカー、覚えはあるか?」

 

「ないな、だが見覚えはある。嘗て見た奴僕、ホムンクルスなる者達と姿形はよく似ていた。だが、ミノリよ。見えただろう?アレこそが裏に潜んでいた圧制者。おお、待ち望んでいたぞッ……悍ましき毒婦め……ッ!身なりを整えようと奴の腹底から匂い立つ腐臭は隠しきれないッ!」

 

「ああ、くそっ!もう少し分かりやすい奴が出てくるかと思えば、とんだ化け物が出てきたな……シャーレの情報が欲しい。連邦生徒会に私からコンタクトを取るが、構わないな?……リオ、セイア、ホシノ。お前達からも頼む……っ」

 

『うん、任せて』 

 

『無論だとも……ああ、必ず』

 

『ええ、任せなさい。最悪セキュリティぐらいこじ開けるわ』

 

『『それはやめて』』

 

『ど、どうして……』

 

 必要なの物は多いです。

とにかく並行で動いていかなきゃいけません。

ナツちゃんの魂を取り戻す方法。

怪我をして今も行方が知れない先生達にコンタクトする方法。

そしてこの情報を他の陣営にも提供して協力を仰ぐ事です。

 

「ウタハ先輩、()()()()も使えるようにしておいて───どこでいつ見つけてもぶちのめしてやる

 

「任せろ。セッティングは済ませてある」

 

「ヘリの指示出しました!いつでも出られます!」

 

『エンジニア部のヒビキちゃんだっけ?悪いんだけどさ』

 

「用意しておきます。その……お気をつけて」

 

『お世話になります、それじゃあ私達は一度。またこの後の行動が決まったら連絡をお願いします。百合園生徒会長』

 

『言質は預かっている。ハイランダーにも連絡しておくから君達の良いようにしてほしい』

 

『……ありがとう。必ず助けになるよ』

 

 アーチャー陣営に対してはもう情報は十分に手に入りました。

黒服さんとの交渉が済み次第、結果がどちらであってもコンタクトがいります。

勿論、バックドアを使うのも考慮してです。

 

 ランサー陣営に関しては黒服さんとの取引の前後、どちらでも問題ありません。

まずは急いでサクラコ様に会いに行きます。

マリーちゃんが抱えている物で現状調べられる物を全て受け取った上で、彼女を説得してみせます。

 

「病院に連絡したよっ!いつでも面会出来るって!ヒフミさん、鬼怒川部長には!?」

 

「お昼に来てもらいます。リオ会長」

 

『言ったでしょ、午後からよ。ヘリで横付けしてやりなさい』

 

 そして、ライダー陣営に関しては午後からならゲヘナに飛べます。

もうこの際、自治区がどうのこうのは全てお任せして最速で移動するしかありません。

午後イチ以降、万魔殿に行けるようセッティングしてもらったらそのまま現地調査も視野に入れていきます。

 

「コハルちゃん、よ、用意できたよ!」

 

「予備の弾薬、たくさん持って来ました!」

 

「ありがとう、アリス!ユズ!……ヒフミ!ハスミ先輩とも連絡取れた!必要ならいつでも会えるって!」

 

「ありがとうございます、コハルちゃん……みなさん」

 

 次はやるべき事を決めなくてはいけません。

足踏みしてる時間がないんです。

私のお友達が、私の大好きな先生が、私のお友達の家族が、傷つけられた。

挙げ句の果てにこれからずっと聖杯戦争をする?そんなの。

 

『(絶対に認めません……ッ!)』

 

 

 

「───きますよ

 

 

 

「「「「「「「「─── ッ!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
というわけで今回こそガッツリしっかり自己紹介してくれたユスティーツァ()じゃんね☆
最初はもうちょっと性格違う予定だったけど色々考えてみた結果、絶対に先生に惚れてるだろうなって思って先生大好きメンヘラ悪趣味激ヤバ女が爆誕したじゃんね☆


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)

  • ハーリングのセイバー
  • フィレンツェのアーチャー
  • 楽劇のランサー
  • 維新のライダー
  • 白備えのキャスター
  • キラキラのアサシン
  • 民話のバーサーカー
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