あいすぶれいく。
氷を溶かす、転じて緊張を解きほぐす手法。
緊張した空気を和ませて、その会議やイベントの参加者がリラックスした状態でコミュニケーションを取れるようにするための活動。
コミュニケーションを円滑にしその後に続く本題が充実したものにする為に行われる。
間違っても緊迫した空気でやるものではない、ないのだ。
なんとか無事に*1古聖堂に降り立つ事が出来て、アズサちゃん達やミノリさんも私の隣や後ろの長椅子に座ってくれる中はじまった黒服さんとのアイスブレイク*2*3。
目標は監督役である黒服さんが昨晩何をしていたか、それを当てる物です。
単純に考えれば答えは分かりきっています。
「まずは最低限の情報をお渡ししましょう。私は昨日18時頃に夕食を摂りました。入浴を済ませたのは19時半になりますね」
つまり、突然夜更けに、凡そ午前2時頃に各自治区を襲撃した仮称『聖杯陣営』、彼らへの対処でしょう。
まさか監督役だなんて名乗っておきながら寝てました、別のことをしていました、は流石にないでしょうからね。
「その後は思いの外ゆっくりと過ごしていましたよ、随分と楽しい余暇を過ごせましたね」
何をしていたか、これについては簡単に答えがでました。
次は何処で、こちらについてもそう難しくはありません。
ミレニアムは私達とユウカちゃん。
そしてC&Cのみなさんが防衛を。
トリニティはナギサ様とセイア様が狙われて、ミカ様とツルギさんがそれぞれ防衛されました。
混乱自体も正義実現委員会、特にハスミさんを中心に対処されたそうです。
アビドスについては対策委員会のみなさん、派遣されていた正義実現委員会とティーパーティの混成部隊の方達、そしてシャーレの要請で救援に来て下さっていたハイランダーの方達が。
最後にゲヘナについては言わずと知れたシャーレの先生と『聖杯戦争対策部』、そしてそのバックアップで風紀委員会と万魔殿のみなさんです。
単純に考えれば、
「さて、気になっていらっしゃるのは2時頃の私達の行動となりますが……そこは当てて頂かないといけません」
単純な答えを求めているなら、すぐに終わってしまいます。
今さっき考えたように、トリニティからゲヘナまで、私達が情報を持っている以外の自治区に出向いて聖杯陣営への対処をしていた。
大きめの自治区の名前を挙げていけばそれだけで答えは出ます。
なんでしたら襲撃にあった自治区で確認取れているのは残り1つだけですしね。
逆にもっと複雑な、それこそ私の持っている前提条件を覆すような事をしていた場合。
私が今まで考えてきた推理は全部無駄。
黒服さんから聞き出さなきゃいけない情報の選択肢は無限になります。
単純ですぐに分かる答えか、それともしっかり急所を見抜く探り合いをしなくては分からない答えか。
そのどちらを黒服さんが答えとして設定しているかを見極めないと3回どころか5回でも質問の回数は足らなくなります。
「時に阿慈谷ヒフミさん、読書はお好きですか?私は決して嫌いというわけではありません。こう見えて研究職。恥ずかしながら仕事柄、資料を読み耽っては時間を忘れるというのは何も実験のデータに限りません」
完全な無駄話、そう割り切る事は出来ません。
既にアイスブレイクは始まっていて、彼は『最低限の情報を渡す』と言われましたから。
「通功の古聖堂。かつてトリニティが未だ一つの学園ではなかった時代に第一回公会議を行ったキヴォトス史において重要なターニングポイントの舞台」
であるなら、この話を含めて彼が完全に話終わるまでこれらの話は全てブラフの可能性があっても無視できません。
「こちらを間借りさせて頂いている以上、一応は形だけでもと思い経典を改めて読み進めていますが、いやはやどうして面白い」
くつくつと笑う彼の姿をよく観察する。
細かな表情は分かりにくいですが目線の逸れや言葉の微かな震えといった物はありません。
「詩篇に曰く、悪しき者は胎を出た時からそむき去り、生れ出た時からあやまちを犯し偽りを語るのだとか」
シャツや黒いスーツも下ろし立てのように糊が効いています*4。
草臥れているのはどちらかと言えば、寝不足な私達の方ですね。
「賢人達がノモスを否定しフュシスを賛美した所で定められた人の本質はどこまで行っても人を追いかけてくるというのは、実に痛快でセンチメンタルだとは思いませんか?」
『(ふぅ……なるほど)』
『(あ、ヒフミ?今の話分かったの?ノモスやら詩篇やらは知っているけど、僕にはちょっと意味がよく分からなかったんだ)』*5
『(さっぱり分かりません)』
ヒフミ!?なんて頭の中に響く声は今はちょっと聞かなかった事にしつつ、私は曖昧な笑みを浮かべておきます。
大事なのは分かる範囲で見極める事。
もっと言えば相手の話が必要かどうかを判断して情報の取捨選択をする事です。
一々全部を受け止めて聞いていたら、話が進みません。
「さて、お返事もないようですしひとまずはこの程度にしておきましょう。では─── なんなりと質問を」
大事なのは、黒服さんが何をこの前情報で話したかったか。
それを考える事でしょう。
「全ての質問に対して監督役として嘘偽りなく答えることをお約束しますよ」
さて、質問をするとなればです。
まず第一にやらなくてはいけない事があります。
「ええっと……それじゃあ、一つ
「おや、聞き間違いでしょうか?質問ではなく、確認……そう仰いましたか?」
「あはは……いえいえ、だって
ジャブですけど確認しておかなきゃいけません。
何せ、最初を間違えると何度質問しても全部無意味になってしまいますから。
そんな私の意図を見透かして、いいえ。
初めからそれを待ってたみたいな余裕ある態度で彼は長い脚を組んで待っています。
「我々が何をしていたか、そう仰いましたけど。我々っていうのは黒服さんとアサシンさん、監督役であるお二人がという意味で良かったのかなぁって」
まず前提としてですが、彼が仰った達成条件は2つ。
『昨晩我々が何をしていたか』と『私達が昨晩の襲撃時にどこで何をしていたか』。
それを当てろと仰っていました。
「あ!それとも聖杯戦争の参加者としてお二人がって事なのかなぁ……なぁんて」
監督役という先入観、或いはアサシン陣営のマスターであるという先入観。
どちらか一方に傾いて考えを進めるより前に、そもそも彼がどの立場で動いていたのかをハッキリさせてしまうのが大切です。
「なるほど、なるほど。確かに私は
そしてもう一つ。
ハナコちゃんが言っていた言葉は今回のケースでもそっくりそのまま当て嵌りました。
「───
今朝の会議でハナコちゃんが話しておられた内容。
ハナコちゃんは『彼との会話を思い返してみて下さい。私達は既に監督役が一人でない事を知っています』と言っていました。
実際、今回も彼の一人称は我々や私達という複数形です。
だったら今ここでハッキリさせておいたほうが良いでしょう。
一体彼の後ろにはどんな組織や仲間の方が、どれぐらいの規模でいるのかを。
そして今回、
ましてやタイミングは昨晩の襲撃時という特大の緊急事態です。
そこで黒服さんがどんな風に動かれてたのかまで分かるこの確認は、間違いなく今だけに限らずこの後にも響く強力な一手に違いありません。
「抜け目のない事ですね、実に心地良い。私としても淡白なイエスノーでの受け答えより一手ずつを丁寧に指していく、そんな風に言葉を返して頂けるというのはとても愉しいですよ」
「あはは……喜んで頂けたならよかったです。えぇっと、ではお返事。お願いしますね?」
喉を鳴らす彼に動揺はありません。
それならそれで私も値切り切ってみせるだけです。
「私は昨晩、監督役として行動をしました。そして今回に限らず我々の定義としてしましては、私個人とアサシン。この二人のみに限定して頂ければと」
監督役として、しかも黒服さんとアサシンさんの行動にのみ絞れば良くなりました。
情報量としては最善のパターンではありませんが、今このアイスブレイクでは十分。
なら次は、と考えた所で気怠げな声が降って来ました。
「蜥蜴の尻尾、と言うやつだな」
「……アサシン」
声の主は、黒服さんから明かして頂けました。
食べ終えた串を軽く頭上に放り投げられたかと思えば。
「……わぁ」
瞬間、串が
そんな常識の全く外にある光景が現れて、最後には灰になって風に乗って外へと運ばれていきます。
「間抜け。今更こんなつまらん話を隠し立てして如何する?監督役、などという仕事を
「……はあ、貴方という人は本当に……」
疲れた溜め息に鼻を鳴らして応えるアサシンさん。
お二人の様子を見ていると仲が良いかどうかはさっぱり分かりません。
以前窺った時はビジネスパートナーという事でしか、どうにもこう、あんまり上品な言い方じゃないですけどおしりに敷かれてる感じがしますね*7
それはさておき、監督役という立場で昨晩動かれたのが確認できました。
少なくとも選んだ質問自体は間違ってなかった。
かなり手応えもありましたしね。
あくまでも私達っていうのが昨晩にのみ限定されちゃったのが残念ですけど……ひとまずこのアイスブレイクに関してはバッチリな筈です。
「(監督役さんのお仕事を考えて……あとはあのカフェでのお話を踏まえて……)」
残す確認すべき事。
より正確に言えば単純に聖杯陣営への対処をしていたという答えで良いのかを決める為に、確認するべき事は一つか二つです。
「教えて下さってありがとうございました、黒服さん、アサシンさん!それじゃあ次の質問なんですけど……」
ミレニアム、トリニティ、アビドス。
そして映像の限りゲヘナの記念教会一帯では姿を確認できなかった。
となれば、です。
ちょっと主流から外れてる気がしますけど……小突いてみましょう。
前提として黒服さんも、今何もない空間に手を伸ばしたかと思ったらアイスを取り出したアサシンさんも、昨晩は監督役としての立場にあったと仰います。
となればです、昨日の襲撃に対して監督役としてどう働くのか。
それが分かればこのお話は自ずと答えが導けます。
そして監督役の役目について話して下さった事があったのは五日目のカフェでの事。
「(あうぅ……やっぱりこれ、どっちかっていうと確認作業に近いです……うぅ、絶対三手でトドメさしたいです……!)」
もう完全にこれじゃあ、チェスの指導対局か何かですね。
前哨戦とは言いましたけど、目の前の大人の想定より一手でも早めに答えを出し切らないとなんだか悔しいです。
ですが、今は集中。
尋ねる事、聞くべき事はシンプル。
早速、二つ目の質問です。
「あのぉ……私が次に、えぇっと質問したいのは、監督役のお仕事についてなんですけど……」
「勿論構いませんよ、それが答えに繋がっている……そう思われるのでしたら、どうぞ?」
「うぅ……じゃあ、遠慮なく……」
黒服さんが昨晩どこにいたか。それを当てるとなれば、彼が気にしてる弱点に触れてみるとしましょう。
何せ、他の人も言及してたぐらいでしたから。
「昨晩のゲヘナ自治区であった大きな戦い、シャーレの先生が参加していたようですけど……ライダー陣営はルール違反に該当、いいえ」
さて、まずは一当てです。
多分当たってる、そう信じてもう少し踏込みますよ。
「黒服さん。それを
黒服さんに倣った、私の敢えて
「……これはこれは」
笑みを、その青白い亀裂を深くされました。
「言葉だけ聞くと」
以前カフェで会った時、黒服さんが話して下さった事をまとめると大体三つ。
一つ目は聖杯戦争における監督役のお仕事っていうのは、戦いが規範に沿って正常に運営されているかを監視し、聖杯戦争の被害を最低限に留めることだという話。
二つ目は聖杯戦争の参加目的が『キヴォトスの破壊』とするマスターについて聖杯戦争を監督する上での明確な『敵』と定義しているという話。
そして三つ目が。
「直接シャーレとの正面衝突が起きてしまったライダー陣営のみならず、まるで我々自体も重大なルール違反を冒している……そう聞こえますが?」
学園都市キヴォトスに対して大きな禍根を残す行為はルール違反であり、該当する行為の中には『聖杯戦争の情報漏洩も含めたシャーレへの過度な干渉』というのがあるという話でした。
「あはは……そうじゃないんですか?だって」
そして私の引っ掛けに彼は敢えてなのか、乗ってくれました。
なら、もうほぼ確実でしょう。
「先生と貴方は協力関係に、少なくとも聖杯戦争に対して何かしらの情報を貴方は先生に提供されてますよね?
黒服さんは以前、先生が聖杯戦争に関わる事を嫌がっておられました。
「黒服さんは以前聖杯戦争の運営という立場に関わらず、先生の生命と存在を保護する観点から私達に情報を漏洩するなと仰いました。でもその後、こうも続けましたよね?」
彼がその時にした説明の中にあった言葉。
「揉み消せないほど事が大きくなれば最悪、自分たち監督役にまで捜査の目がいく。そうなったら困る、と」
捜査。
シャーレの先生について話をされている流れで考えれば誰がする事なのかなんて分かりきっています。
各自治区の話ではありません。
連邦生徒会、延いてはその直轄機関。
連邦捜査部シャーレが捜査する事が困ると言っておられるんです。
けれど、実態は違いました。
「先生は独自に聖杯戦争について捜査を進めておられました。そして昨晩、実際にライダー陣営との接触を図り、結果としてゲヘナ全土に大きな被害が出るほどの戦いが発生しました。実際、貴方がそれをご存知かは分かりませんけど、先生は行方不明です。なら」
先生はもう聖杯戦争について捜査をしている。
そしてその結果、ライダー陣営のみなさんと接触して介入してしまう段階まで来ている。
情報が漏洩してるなんて状況じゃないです。
「貴方はその行動を把握してなきゃ可笑しいんです。だって貴方は監督役で、先生が聖杯戦争に関わる事自体がルールに抵触してる。そして昨晩の貴方はその役割に沿って活動されてたんですから」
だったら黒服さんはそれを防がなきゃいけません。
だってご自身の事を監督役だと仰られるのなら、その役割に沿ってルールを率先して遵守して、遵守するよう周りに説き伏せ続けなければ、他の誰もルールなんて守ってくれなくなります。
そうなれば、それこそこの人が一番恐れるキヴォトスという社会自体の破壊すら招くような事態にもなりかねません。
「普通は接触しようとする前に止めるか、遅れてもゲヘナの戦いに介入してる筈、でも貴方の姿は確認されていません。なら考えられるのは三つ」
でもそれなら。
もしも本当に先生の捜査や介入を嫌うなら。
もしも私が彼と同じ立場だったのなら。
聖杯戦争が開始された時点でやるべき事がある筈です。
「一つはそもそも知らなかった。もう一つは私達に話して下さったルール自体が嘘だったか」
前者は最悪のパターン。
予想以上に黒服さんが後手になっていて、昨晩の接触は偶然でしかなかった場合の話。
後者はこの話自体に関わってきます。
彼が話してくださったルールについて、それが嘘だったとなればこれまでとこれからの言動の全てに信用がなくなってしまう。
そしてその両方を想定すると、もう何をどうすればいいのか、少なくともこの場をすぐに立ち去るぐらいしか私には思いつきません。
であれば考えるの最後の一つ。
「貴方は先生とライダー陣営との接触を黙認していた。もっと言えば貴方は先生の動きをある程度予想したり誘導できる、把握できる立場にあったから昨晩の行動を許容範囲として判断した……違いますか?」
元々黒服さんは先生と繋がっていた。
もっと言えば先生にある程度、たとえば聖杯戦争のあらましや概略なんかの情報を絞った形で伝えていた。全くの情報がない状態ではどう先生が動くのかはわかりません。
思い返せば、先生はアルさん達のことも最初から探していたような話でした。
極論、色々な生徒の力や自治区の協力を受けて大々的に動くことだって先生には選択肢がある筈なんです。
なのに表立っての捜査を先生はされず、極秘裏に聖杯戦争対策部なんていう部活を立ち上げておられた。
それも聖杯戦争の初期段階から。
先生は常に水面下で動いておられたんです。
これは聖杯戦争自体を最初か、もしくは始まってすぐに知っていたからと考えると納得できます。
そしてそんな風に先生の行動を誘導できるのは。
「本筋とは些か外れますから不要な水掛け論はやめましょうか。ええ、その通りです」
監督役としてシャーレの介入と調査を防ぎたい。でも先生は必ず生徒を守ろうと、助けようと動かれるのを知っている。
だから、自分から限定的な情報を敢えて渡す事で、先生の行動がある程度予測できる範囲に収めようとした。
もっと言えば、聖杯戦争に介入するなと牽制していた。
「私とシャーレの先生は聖杯戦争に限っては協力関係にありました。もっとも、あくまで私がお伝えしたのは最低限の情報と聖杯戦争に彼が関わる事で起こり得る危険性について。そして昨晩の行動についても報せは受けていましたし、問題ないと黙認していました」
それが出来るのは黒服さんただ一人です。
「黙認、なんですね?では昨晩の会談について貴方は把握していた上で、ルールに抵触しないとお考えですか?」
「ライダー陣営についてはそれはもう。先生側から直接の申し出であり、彼女達が意図して情報をシャーレに漏洩したわけではありませんから。そして我々もまた健全な聖杯戦争の運営とルール保持の為の致し方ない範囲です」
「な、なるほど……」
「つまり、最低限の情報を提供していたに過ぎません。貴方が弾劾されるのでしたらお好きになさって構いませんが……ルールを取り締まる立場はあくまでも我々だという事をお忘れなく」
「あぅ……
ルールを取り締まる立場、とアピールをしてきた。
となればこれ以上ルール関係について触れても意味はありませんね。
なんでしたら、勝手にルールを付け加えたりそれこそルール違反しようが自分達はセーフ、そんな話まで詰めなきゃいけなくなります。
あくまでルールを取り締まる立場にある。
だからこれ以上の話は水掛け論になるから無意味。
そう先手を打って頂けるなら、もう考える必要はないでしょう。
だから確認するのは次で最後です。
「貴方は昨晩のシャーレの先生の行動を、ゲヘナに行ってアルさん達と話される事を知っていた……それは間違いありませんか?」
「ええ、事前に連絡を頂いていましたので」
「……ありがとうございます」
情報を整理しましょう。
当てなきゃいけないのは黒服さんとアサシンさん、このお二人が昨晩何処で何をしていたか。
黒服さんは昨日18時頃に夕食を、19時半に入浴を済ませた。
昨晩の行動については監督役としての立場にあった。
監督役を黒服さんとアサシンさんに限定しているのは、彼女の言葉では『蜥蜴の尻尾』でありそれを黒服さんとしては隠しておきたかった。
そして私が敢えて行動を把握していたのがライダー陣営ともシャーレとも言わなかったのに対して、黒服さんは明確にシャーレの行動を把握していたと仰った。
何より先生に情報を渡していた事も認めてくれた。
黒服さんにしろアサシンさんにしろ、私達の知る限りトリニティ、ミレニアム、アビドスでその姿は確認できませんでした。
それは自治区運営者側からの話を伺ってもですし、ゲヘナについては先生視点の映像を見た限り同様にお二人の姿は確認できなかった。
「それじゃあ、もう一つ質問をさせて下さい」
「どうぞ、ご自由に。まだ残り三回もありますからね」
それらを踏まえて考えるのならば。
「(情報はまとめ終わりました。そして黒服さんは先生がゲヘナに行くと連絡を受けていた。それを考えると恐らく昨晩、監督役として黒服さんとアサシンさんがいた場所は───)」
この一手で迫るも良し、もう少し詰めてみるのもよし。
どうしましょうか。
「三回、ですか……」
「おや?足りませんか」
「あはは……正直、私なんかじゃ足りるか心配です」
実際のところ、詰めるには後一手あっても足りません。
三回、だなんて大口叩きましたけど本当にこうやって考えると確証に至るほどの黒服さんに対する情報が足りませんね。
「それは困りましたね。ですがこれはアイスブレイク。肩に力を入れ過ぎても仕方ありません。回数を増やされますか?」
にやりと分かりやすいぐらい嫌味な笑みを浮かべる彼に私も微笑んでみせます。
勝気な表情も良かったんですけど、ちょっとそこまでの自信はありません。
ハッタリを効かせるというのも良いんですけど、今回は別の方法でいきましょう。
「わぁ、ありがとうございます。それじゃあ改めて質問をしてから回数が足りないかどうか《そちら》が判断して下さい」
だって私はトリニティ生。
上品に淑女らしく、常に余裕を持って優雅にいきたいところです。
ですから、銃を振り翳して恫喝なんて力技ではなく。
「私達は聖杯陣営と呼んでいる新しいサーヴァント。彼らの襲撃はどのタイミングで知られましたか?」
ここはひと匙、角砂糖を落とすように。
毒を潜めて美味しい
「……恥ずかしながら、本日になって。それこそ皆さんと同じ、彼らの襲撃があってからになりますね。言い訳がましい事を言えば、予測自体はしていなかったわけではありませんがね」
あまり面白くなさそうな黒服さんの声がしました。
ええそうでしょう。
さぞ、これ単品ではつまらない質問でしょう。
ですが、こちらは仕込み。
というよりこの後の展開を持ち込む為の布石であり、
今、このアイスブレイクでしくじればとんだ悪手になります。
だからこそ欲しかった情報。
だからこそ今が狙うべきタイミング。
それが今、揃いました。
では二の矢を揃えて、鹿撃ちに行きましょうか。
「じゃあ昨日はD.U.でホシノさんに見つからないようにされてたんですね!」
華やかな声でわざとらしく手を叩いてみせます。
まるで分かっちゃいましたとでも言いたげに。
相手が失言したのを拾い上げてみせたように、口にします。
「……我々がD.U.にいた、そうお考えに?」
表情は変わらず分かりにくいです。
動揺も驚きも、わざとらしく彼が演じてくれなきゃ分かりません。
ですが、言葉が少し遅れました。
こちらの意図を読んで、なのでしょうか。
ただどれだって構いません。
このまま出たとこ勝負です。
「ええ、だって黒服さんが仰ったじゃないですか。先生から連絡を貰ったと」
元々ピースは揃ってました。
気になっていたのは黒服さんを何処まで信じて良いのかわからなかった点。
だって最初にわざわざ経典を引用して嘘がどうのこうのという話までしてくるんです。
こっちとしてはやりにくいったら仕方ありません。
でも、仮に彼が話す内容が全て嘘偽りがないとこれまでと同じように信じるなら。
彼がわざわざ経典を引用した理由は明白になります。
何故ならそのタイミングでしか、彼は私に疑心を抱かせられる場面がない。
だって彼は私からの質問に対しては監督役として嘘をつけませんからね。
「ええ、確かに。私は先生から連絡を頂きましたよ?それで、答えはもう出たのしょうか?でしたら是非、貴方の推理をお聞かせ下さい───小さな探偵さん?」
「あぅ……そうやって言われちゃうと、照れちゃいますねぇ───では、お言葉に甘えて」
その過程を踏まえて、全て彼が話した内容は真実だとして。
私は勝負に出ます。
「話は単純です。昨日襲撃があったどの場所でも貴方の存在は確認できなかった」
前提条件として私達が持っている情報、そして映像の何処にも彼の姿はなかった。
この点が大事になります。
「トリニティはミカ様とツルギさん。ミレニアムは私達やC&Cの方。アビドスは対策委員会のみなさん。少なくとも私達の陣営が集められる情報の範囲で分からなかった」
ゲヘナに関してはいなかった事を私達の手元にある情報だけで立証するのが一番難しいです。
何せ、私達が知っているのはミノリさんから聞いた話と、現場の状況を恐らく先生が撮影されたと思われる映像だけ。
「残るのは、戦線が市街地まで拡大したゲヘナ。アビドスに向かう途中で通過したホシノさん、そして」」
なのにゲヘナの戦線はどうやら市街地付近まで広がっていたようですから、そちらにおられたとなればお手上げ。
「ミノリさんが到着した時点でミレニアムでも難しかった防衛戦が完全に敷かれていたD.U.だけです」
でも、D.U.の方は証明しやすいんです。
「情報がない、というのは間違い。そんなお話を聞いた事があります。正確には
彼は昨晩複数の自治区へ襲撃があった事を知っていた。
そしてそのタイミングは襲撃が実際に起きたタイミング。
監督役として動かれていたとみてほぼ間違いない筈です。
「そういえば、なんですけど黒服さん。ちゃんと伺った話ではありませんが、なんでもアビドスのホシノさんとはあまり仲がよろしくないみたいですね。それも」
明らかにルールから逸脱した行為で、キヴォトスに大きな混乱を招きかねないものでしたから。
なのに彼の姿は確認できなかった、いなかった。
─── だって私、アイツのこと『嫌い』だし
───そういう考えが混じるとさ、話もややこしくなっちゃうでしょ?
という事は
「その事情を話すと交渉に不利益を生むかもしれない、そんなレベルでだとか」
「これはお恥ずかしい。ええ、以前少し……不幸な行き違いがありまして。それからは如何にもですね」
「あはは……それは大変でしたね。だってホシノさん、昨日ミレニアムからアビドスに向かう途中でD.U.を通ったわけですし」
「そうでしょうか?たとえ彼女がD.U.を通っていたとしても、それと我々の行動に何の関係が?」
分かって聞いているのでしょう。
面白がるように尋ねてくる彼に私も思わず調子に乗っちゃいそうになります。
「ええ、だって……じゃないと説明できないですか」
久々の気楽で、気負うもののない腹の探り合い。
ペロロ様のグッズを買い漁る為に交渉してきた、純粋に手に入るかどうかだけを考えてた時のようです。
「ゲヘナかD.U.。昨晩襲撃があった中で私達がいなかったと断言しきれないのはその二つの自治区。そのうちD.U.は貴方が姿を隠す必要性があるんです。仲の悪さも、そして監督役としてお二人で行動していたというのなら。《アサシンさんがいたのなら》」
いなかった、姿が確認できなかった。
じゃあ逆に考えたら、
連邦生徒会に姿が見られたくないというのもあるかもしれませんし、アサシンさんの姿を見せたくなかったというのもあるかもしれません。
でも、昨晩の襲撃時にそんな理由で姿を隠して戦っていたというのはちょっと弱いんです。
だってアサシンさん、彼女は以前物凄く堂々とトリニティの病院で戦ってるのがバッチリ監視カメラに残ってますしね。
そういう隠れたりって意識はあんまりない気がします。
であれば別の理由、たとえば。
「ホシノさんに見られるわけにはいきません」
ホシノさんというとっても強い人に見つかって、誤解から三つ巴の戦闘になるのを嫌ったからとか、でしょうか。
それなら納得できます。
だってホシノさん、すごい強い方ですから。
なのに、黒服さんとは仲がとても悪くて、そしてアサシンさんにも良い印象は持っておられません。何せ列車事故、聖杯戦争初日に私達を襲った張本人ですからね。
そんなお二人と戦地でバッタリあったら、勘違いしてもおかしくないでしょう。
「なんだ。お前の不始末が根拠だと言っているぞ?ん?どうだ黒服、何か私に言うことはあるか?」
「これは手痛い。なるほど、それなら確かに私達がホシノさんに姿を見られないようにしていたという話にも頷きそうになりますね?」
「あはは……次に今度はゲヘナじゃない理由の方を詰めましょうか。こっちは簡単です。貴方は襲撃があるのは知らなかったけど、先生がゲヘナでアルさん達と接触するのは知っていた」
とはいえ、これだけでは足りませんからね。
そんな事はお互い承知の上ですから、次の一手にいきましょう。
「ええ、先ほどお伝えした通り。私は確かに彼がライダーとそのマスターに会いに行くのを知っていました。そしてそれを止めなかった」
「だったらゲヘナに貴方が
サーヴァントの方は強いです。
ましてあのライダーさんには石化の魔眼なんていう行動を阻害するスキルだってあります。
一瞬一秒あれば、それこそと言う話です。
「おや?限定されますか、ではそれは何処だと?」
「監督役として貴方は以前、先生への干渉を禁じたのは先生の生命と存在を守る為と言いましたから。だったらもし直接聖杯戦争のマスターと話し合う事態になったのら」
そんな相手との会談を先生がするのを黒服さんは見送った。
それでも黒服さんがあの時言った言葉を信じるなら。
「───先生の生命を確実に守れるのは彼の側でだけです」
彼が下すべき判断は二つ。
自分も会談に同席して先生を守れる立ち位置にいるか、もしくはそもそも
そのどちらかでしょう。
そして後者であるなら。
先生と仮にも消極的な協力関係を結んでいたなら。
「そして貴方に先生はこうお願いされたんじゃないでしょうか?不測の事態に備えて、夜遅くにゲヘナへ向かう自分達に代わってシャーレのある」
監督役という仕事を全うする大人に対して先生はきっと言うはずです。
「D.U.の防衛をしてほしい、と」
監督役だって自分で言うのならその分の仕事はきちんとやれ、と。
愉快そうに唇の端から笑い声を漏らす彼に私も最後の一手を撃ち込みます。
「ついでにダメ押しです。シャドウサーヴァント、という存在が以前から問題視されると共にゲヘナやトリニティで噂になっていました」
「……なるほど、確かにそれは私も気にするところの一つです」
「ですよね!実際、こちらで調べた限り、両自治区で存在が確認されていたみたいですね……でも実際にはアビドスにもいましたし、恐らくミレニアムにも潜んでいた」
私達だけじゃなくアビドスやトリニティ、そしてミレニアムとの定時連絡や報告を他の生徒に成り代わって嘘の情報を流していた顔のない生徒達。
「じゃあ、他の自治区はどうでしょう。実際、私達は昨晩D.U.というマスターが拠点を置いていない自治区に向けた侵攻を連邦生徒会への攻撃だと考えていました」
「……どうぞ、続けて下さい」
「そして私達の知る襲撃された自治区では以前からシャドウサーヴァントの存在が確認、もしくは確認し損ねていただけでいたと考えています」
彼女達がいた以上、シャドウサーヴァント自体がいたかどうかはともかく、聖杯陣営の介入というのは昨晩よりもっと前からあったんです。
「なら、こう考えるのが素直でしょう。私達が把握できていなかっただけで、D.U.にもシャドウサーヴァントは襲撃以前から他の自治区同様にその存在があって、けれどそれを誰かが倒していた」
スマートな解答とは言い兼ねますが可能性は大きいでしょう。
実際、昨晩D.U.は襲われた。
他の襲撃があった自治区は基本的にどこもマスター達が拠点を置いている自治区です。
狙われたのはマスターやその関係者が大半、というのも強欲のアーチャーさんの言葉で聞いています。
そしてそれらの自治区には襲撃以前からシャドウサーヴァントや顔のない生徒がいた。
だったら、D.U.にもいたと考えるのだって無理はない。
そうなると、その被害を誰が食い止めていたかという話になります。
実際にゲヘナでは生徒が路地裏で襲われそうになっていたりしてたとヒナ委員長が仰っていましたからね。
「先生が対処していた線もありますが、元々は監督役である貴方も請け負っていたんじゃないですか?だって明らかに聖杯戦争が原因で発生した問題ですから、貴方が対応して然るべきじゃないかなって」
こっちに関してはスマートですね。
だって聖杯戦争にどう見たって聖杯陣営は関わりがあるんです。その行き過ぎた被害を防ぐのは彼の役目でしょうから。
「さて、長々お話しちゃって
一呼吸置いてから、私はここ一番って顔をします。折角だから雰囲気を出そうと、人差し指で前髪を軽く一巻き。
さあ、これでぴったし三手、そして三回目の質問でフィニッシュです。
「先生がゲヘナに向かう前に夕食と入浴を済ませてからD.U.に向かって監視をしていた。目的は先生が不在の間のD.U.を防衛する為」
結局、一番肝心な部分は最初から変わりませんでした。
黒服さんが嘘を言っていないかどうか。
それだけが気掛かりではあったんです。
なにせ、アイスブレイクとはいえ、あまりにも私達の手元にある情報と比較した時に何処で何をしていたか分かりやす過ぎたから。
だから判断がかなり揺さぶられました。
本当に裏は、もっと調べるべきことがあるんじゃないか。
嘘や言っていない情報があるんじゃないか。
そんな風に悩んじゃいました、でも。
───ヒントはちゃんと最初にあったんです。
「そして襲撃が起こった直後、恐らく私達より早く聖杯陣営と交戦を開始。連邦生徒会が防衛戦の体制が整うまでの時間を稼ぎ、ミノリさん達が到着したのを確認してから速やかにその場を去った」
黒服さんが最初に話していた経典のお話。
そもそもあの言葉には続きがあります。
それは『まことに正しい者には報いがある。まことに地にさばきを行われる神がある』というもの。
要するにです。
「って感じですかね?えへへ……合ってますか?」
嘘はついちゃ駄目ですよって話なんです。
1じゃんね☆
これまだ前哨戦じゃんね☆
だからサクサク行くじゃんね☆
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の同行者を選択して下さい(〜4/30.1:23)
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ハーリングのセイバー
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フィレンツェのアーチャー
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楽劇のランサー
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維新のライダー
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白備えのキャスター
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キラキラのアサシン
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民話のバーサーカー