む、繋がったか。
モモイよ、ミドリよ。
どうやら……む?
……リオよ、お前もつくづく心配性だな
「ええっとあの……私の名前でしょうか?」
ハナコちゃんが返したのは当然の反応。
ですが、アサシンさんは変わらず不思議そうに、というかさも当たり前だろうと言いだけに鷹揚に頷かれます。
「そうだ。私はマスターでない貴様のような娘なぞ知らん。そして貴様は私に武を見せたわけでも勇を示したわけでもない。だから貴様なぞ知らん」
ハナコちゃんの顔が思いっきり引き攣ってます。
いえ、私もそうですしセイバーさんどころかミノリさんと黒服さんも頭を抱えてます。
「見るからに柔らげなその四肢だ、決して武辺者とは言えぬだろう。ハッキリ言おう、貴様は私の好みではない……だが」
忘れていましたけど、アサシンさんってこういう方でしたね。
「私もケルトの女だ。言葉という武器の在り方を知っている*1そして貴様はあろう事かマスターでもないというのにこんな
けど、そんな私達の反応なんて彼女は見向きもしません。
アサシンさんはただ口角を上げて、ハナコちゃんだけを真っ直ぐに見ています。
「ならば名を示せ、言葉を紡ぎ思案を働かせて見事に私に力を示してみせろ。これから先、お前という輝きを魅せてみる為に、このスカサハに向かって名乗りをあげよ!」
驚いたのは私だけじゃありませんでした。
スカサハという
それ自体は見当をつけていましたから知っていました。
「そうでなければ貴様と交わす事なぞ言葉なぞ私には持ち合わせておらん。見てくれ通り私は貞淑、身持ちが固いのでな」*2
けれど、ご自分から、しかもこのタイミングで名乗って下さるとは思ってもみませんでした。
自己紹介をちゃんとしなさいって仰られただけに、ちゃんとご自分の名前も明かして下さる。
なんというか本当に武人気質な方です。
「……失礼しました。私はトリニティ総合学園二年生の浦和ハナコです。アサシンさん、どうか私とお喋りして頂けませんか?」
「聞こう。その舌に貴様の首が乗っている、その覚悟の上で紡ぐというのならば。私はお前を視界に入れて戦場に立つ一人の戦士としてお前を扱おう」
「ありがとうござい「いらん、要件だけ言え。面倒だ」……貴女が厄介ごとと仰るのもそうですが、以前ヒフミちゃんと話された時も黒服さんは監督役という職務について望んで得た地位ではないように言っていた伺っています」
「長いな、それがどうした?」
「あなた方監督役には特権のような物はないのでしょうか?少なくとも、その地位について得をするという物は」
改めてハナコちゃんがした質問。
それは先ほどのアサシンさんの言葉がきっかけでした。
彼女が厄介ごと、と仰るように以前からどうにも黒服さんも含めて、彼らは監督役という仕事自体に対してあまり思い入れのような物や固執する感じがありません。
「知らん。おい、そんな都合の良い話はあるのか?それともまた私に黙って隠し事か?ん?」
「……まずはアサシンに代わって監督役として謝罪を、浦和ハナコさん。申し訳ありません、どうにも彼女の価値観は我々とズレた部分にありますので。
「っ……なら」
「ええ、
黒服さんはさっきのアサシンさんのちゃんと自己紹介しなさいって言葉に対して、わざわざ言い方が悪かったと謝罪までしてくださいました。
それから彼は咎めるようにアサシンさんの方を向かれました。
「貴女の気位の高さとそれに見合った実力は僅かでも理解しているつもりです。そしてその現代からやや外れた価値観も。ですが、この場では些かばかり控えて下さい。
「間抜け、性根だけでなく眼まで腐ったか?戦場に立つなぞと抜かしてこんな場所にまで来てみせた娘子だぞ?儂の言葉なんぞで一喜一憂されては敵わん。私は
対してアサシンさんも黒服さんの注意に鼻を鳴らされるばかり。
なんというか本当に不思議な関係です。
「つまり、お二人の立場はどこまでも監督役だと?」
「ええ、先ほどの話にも戻りますが私共は聖杯戦争を文字通り監督する役目です。その参加者が著しく逸脱してキヴォトスへ致命的な被害を発生すると判断しない限り、何もしない」
とはいえ、分かった事が一つあります。
「聖杯陣営についても同じです。何せ彼らは確かに聖杯戦争をきっかけに生まれた存在ですが、参加者ではありませんから」
「でも昨日は聖杯陣営への対処をされておられました。それは先生からの依頼があったから、そう解釈して良いですか?」
「ええ、依頼の範疇でしたので対応したまでです」
黒服さんは彼ら聖杯陣営を脅威と認識していても、ご自身で対処する必要がないと線引きされています。
そう判断するだけの材料が彼にはあるんでしょうか。
「……では、依頼であれば黒服さん。貴方は私達に協力して頂く事は可能でしょうか?それも口約束ではなく、それこそ契約を結ぶ、なんていうのは如何ですか?」
ですが、彼が言った依頼という言葉。
気になる事はまだありますし深く聞く必要があると思います。
でも、とにかく今はその一点に光明が見えました。
「ふむ。誤解があってはいけませんから、お伝えしておきましょう。私は監督役、聖杯戦争に対して中立の立場にあります。ですので、どこか一つの陣営に協力するというのは限りなく難しいですね」
「ではどうしたら……いいえ、どのラインまでなら協力して頂けますか?」
「おや、お分かりになりませんでしたか?私は聖杯戦争のどの参加者に対しても平等な立場にあります。逆に言えばアサシンという戦力を一つの陣営に対して振るう事は規則違反以外ではありませんし、一つの陣営に肩入れするつもりもありません」
なるほど、と頷いちゃいます。
どうやら黒服さんに協力して頂けるのは難しい、
どの陣営対しても平等に接さなくてはいけないから、どれか一つの陣営には肩入れ出来ない、ですか。
「あぅ……じゃあ今の段階で黒服さんに協力して頂いて……」
だったら───このタイミングが良いでしょう。
「───予備システムを起動させる事は難しいんですね」
わざと起動したい、その旨まで伝えてみます。
私の考えが正しければ、間違いなくこの情報と私の言葉は。
「……予備システム、でしたか。私からも質問をしても?」
彼にとって無視できない物になりました。
「勿論です!ちなみに誰から聞いたかでしたら、強欲のアーチャーさんからですけど……違いましたか?」
「クックックッ……なるほど、本当にあなた方は恵まれておられるようだ」
「当然であろう?でなければという話なのだ。文字通りこの娘は天運に恵まれていたという「─── アサシン」……ほう?儂の言葉を遮るか、小僧」
「……茶々入れが目に余ります。貴女という一個人もそれに付随する価値観も、そして英雄と謳われるスカサハという存在についても。私は尊重をしているつもりです。ですが、契約は守って頂きたい」
「ふむ……まあ良かろう。未熟な若造を立ててやるの良き女故な」
ごく僅かです。
でも確かに言葉の本当に端っこには苛立ちがありました。
やっぱり彼にとって、そして監督役という立場にとって、予備システムという存在を知ってそれを起動させる意思を見せる事は。
「予備システムについてはどこまでご存知ですか?阿慈谷ヒフミさん」
「大まかには。大聖杯には元々戦況が停滞した時の為に予備システムが組み込まれている。そしてその起動には過半数のマスターの同意が必要で、起動する事でもう七組のマスターとサーヴァントが追加されると」
「結構、私が知る物との差異はありません。では次に確認をさせて下さい───そんな物があなた方は必要だと?」
─── では何故貴女は。先生のもとで学んだ筈の生徒である貴女はどんな理由でこの殺し合いに参加されるのでしょうか?
かつてあのバス停でそう尋ねてきた彼にとって、認め難いことなんでしょう。
「予備システムの起動は本来の聖杯戦争の規模を著しく逸脱した、文字通り聖杯大戦と呼ぶべき事態にまで発展します」
もしも違ったらと思いましたけど、今朝古関先輩が言ってました。
七騎のサーヴァントを追加で呼ぶなんて事をするのは土地を傷つけるほど大きな負担を強いる行為だと。
「現時点でも大きな被害を齎すサーヴァントが七騎いるというのに、それを同時にまだ七騎喚ぶと貴方は仰る」
それがどの程度かまでは分かりませんでしたが、実際の反応を見る限り監督役としては認められないレベルなのでしょう。
「その場合、我々はキヴォトスへの致命的な被害を齎す可能性が大いにあり得るとして、あなた方同盟陣営を
「ええ、たとえ貴方が立ちはだかっても……それが誰も犠牲にしない未来に繋がってるのなら」
少なくとも
「犠牲とはサーヴァントの消滅及び退去。それとマスターとなった生徒の死。そう貴女は考えているのでしょうか?どういう理屈を考えておられるかは分かりませんがその為なら新しいマスターとなる人間を、殺し合いの舞台にあげるのは割り切ると」
「いいえ、私が欲しい未来はハッピーエンドだけです。私が戦う理由は私みたいに苦しい思いを誰かにしてほしくないからです。同じようにマスターになって辛い気持ちも苦しい事になる人を増やしたいだなんて、まっぴらごめんです」
「ではなぜ?なぜ予備システムを起動させたいと仰られますか?」
「それが現状たった一つ、誰も犠牲にしないで済むやり方だからです。予備システムを起動しても、今回で聖杯戦争を終わらせられる。これ以上傷つく人のないハッピーエンドに繋がる手段を、私達はもう知っているんです」
まだ、何をどうするか、どうして予備システムの起動がハッピーエンドに繋がるのかまでは伝えていません。
なにより黒服さんは確かに
これを私達に
それに彼は聖杯戦争による被害自体を憂慮している。
少なくとも聖杯大戦自体は起きてほしくないと考えている。
さて、結構情報が集まりましたね。
このまま一気にでも良いでしょうし、話題を変えて外堀からっていうのも良いでしょう。
情報は一つでも多い方が良いですから。
既に彼の動揺はおさまって、むしろ私の言葉に興味を持ってくれています。
少なくとも悪い雰囲気では決してありません。
実を言えばまだ本題に入れていなかったりします。
何せ黒服さんはどこまでも私達の質問に答えるというスタンスばかり。
肝心の
「取引しましょう。私たちが持つ情報全てを教えますので、大聖杯について詳しく教えてください。もちろん対価として黒服さんとアサシンさんの願いに出来るだけ協力します」
なのでもう少しだけ遠回りに行ってみましょうか。
「なんて、もし私がこの場でそう言ったら……黒服さんとしてはどうされますか?」
まずは彼が以前から仰っていた取引。
それがどんな物なのか当たりをつけつつ探りを入れていきましょう。
一応、私達の戦力そのものかもしくは情報だなんていうのは想定していますが、実際の所はまだ分かりませんからね。
「ふむ……難しい質問ですね。正直に言えば両手を上げて歓迎したい」
私が提示した仮定に対して彼はかなり難色を示しました。
私も同じように難しいなと思ってしまいます。
「ハッキリと言えば我々が持ち得る情報だけでは分かり兼ねる部分というのが実態として聖杯戦争には存在します。」
何せ私が伝えた大聖杯や願いについて教えて欲しいという要望はかなり重要な、それこそ話しにくい内容だと思っていましたから。
「ですがそれは我々が知る必要がない、もっと言えば調べた所で無駄でしかないと判断した物になります」
そう考えていましたが、どうにも雲行きが怪しいです。
「たとえばあなた方が……そう、それこそ昨晩キヴォトスを襲った軍勢の中で一際強力な霊基を有した存在達について知っていたとします」
「あはは……どうでしょうか?」
「さて、私は昨晩D.U.で下働きに勤しんでいたので。ですが、それを知っていたとしても我々にとってその情報は利益になり得ません」
例の聖杯陣営のサーヴァント。
彼らの情報は利益にならないと黒服さんはハッキリと言い切りました。
不味いのはそれが例のユスティーツァと名乗った女性の事についても含まれているかどうか、その点ですかね。
その情報もいらないとなったらお手上げです。
「あなた方
「……なるほど。噂に違わぬ聡明振りですね、浦和ハナコさん。ええ、監督役である私達にとって彼らという存在は然したる問題ではありません。所詮やる事は同じです。注視すべきその最奥にして始点。重要なのは本質、その一点」
一呼吸置いた彼は眼窩の光を妖しく揺らめかせて低い声で呟かれました。
「─── 我々が知りたいのは彼らの正体と背景です」
幸い、だったのかもしれません。
先ほどの会話にしろ今の話にしろ、どうにも聖杯陣営に対する興味が黒服さんは非常に薄い。
監督役という立場にあってそうなんですから、何か彼らの存在について思う所があるのかもしれません。
ですが一つだけ、聖杯陣営その物の
あまり腑には落ちていませんが、だとするとやはり。
「ですから個々の情報を知った所で大きな利益にはならず、精々が遭遇した際の戦闘で優位に立てるかどうかと言った話でしょう」
聖杯陣営、特にサーヴァントによる被害自体を黒服さんはキヴォトスにとって致命的だとは考えていない。
そんな風に感じます。
「そうである以上、あなた方が集めてきた情報なんていう物にはあまり興味は引かれません。ですが対価、でしたか?そちらは素晴らしいですね」
「あは、あはは……」
「我々の願いについて既に心当たりがあって、それに見合うものを支払えるからこそ協力すると?」
「ええっと、それはそのぉ……」
分かっているでしょうに口角を上げて私がさっき言った仮定に突っ込みを入れられます。
ええそうです。
黒服さん達の願いなんてまだ全然予想もつきません。
「どうやらその様子ですと調べはついていない様子。勿論あくまで仮定の話ですからこれから次第でしょうが。あまり
「はい……気をつけます……」
なんでしょうね、本当に。
やり難いと言いますか、どうにも採点されているみたいで妙な違和感があります。
「黒服。僕からも良いかな?」
「これはこれは、勿論ですよセイバー。
「謙遜も過ぎればだよ。それはそうと、君達がこの古聖堂を拠点にした理由を聞かせて欲しい。勿論、監督役としての方だけで構わない……カタコンベ、だったかな?そういった物も地下にあるようだが?」
「ふむ……理由、ですか」
私がしょぼくれた所で次の質問はセイバーさんから。
気になっていた古聖堂を拠点した理由という事でしたが、またも黒服さんは少し困った様子でした。
それこそ、聞かれると思っていなかったみたいな。
「立地的な条件ですね。此処はエデン条約での一件以降、様々な理由から未だ修復工事が行われていません。言ってしまえば誰が責任を取って直すのか、そういう話ですが……それが私としては都合が良かった」
ここら辺は難しい話です。
面子といえば良いんでしょうか。
政治的な問題から誰が直したかがかなり重要なのだとかで、今も古聖堂も含めたこの周辺はエデン条約の一件で受けた被害からあのままになっています。
「周辺一帯も含めて早急な工事の手が入るわけでもなく、各自治区からマスターが訪問したとしても人目につくわけでもない。そして中立地帯である以上、保護を求めるマスターが出てくる可能性もあります。そうなった場合、可及的速やかに避難できる退路が求められる」
「カタコンベはそれだと?」
「ええ。あれはそういった事態において大変便利ですので」
「……それ以外の理由はないのか?」
「ありませんね。強いて言えば此処は歴史ある建造物。キヴォトスでも稀に見る一大事件である聖杯戦争の中立地帯を置くには相応しい場、その程度には考えていますが」
何というか予想以上に大きな理由がないというのが分かりました。
なんだか肩透かしな感じです。
「マスターとして一つ、確認をさせて欲しい。黒服、お前は監督役として中立の立場を貫くというのは分かったが、残る陣営がお前達を除いて一つになったらどうするつもりだ?」
続いてミノリさんからの質問。
こちらは言われてみればです。
私としては
そこまで考えが至りませんでしたから助かりました。
「さて……どうしましょうか?アサシン」
そんな言われてみれば確認しておきたい内容について、黒服さんはやはり困り顔って様子で傍のアサシンさんに尋ねておられました。
「なんだ、私に聞くのか?」
「私としてはできる限り終盤であっても監督役という立場を降りたくはありません。そうである以上、必要ならば契約という形を取って退場、というのを考えてはいますが……」
意外、でもないかもしれません。
少なくとも私にしてみればこの人は個人としては警戒に与えはすれど、監督役としては信用できる言動をされてきましたから。
いえ、アサシンさんのマスターである事を隠していた事に関してはかなり苦しいですが。
それを差し引いても、監督役という立場そのものに彼は誠実であるという印象を持っています。
だから、退場という選択が聞こえてきたのはそれほど不思議ではありませんでした。
「前にもお伝えしたように私と彼女はビジネスパートナー。彼女が最後になって戦う意思と聖杯を所望されるのであればマスターとして共に戦うというのもやぶさかではありません」
「ふむ……つまり漁夫の利になるな、それは」
「ええ。戦場にあって卑怯なんて言葉は弱者の遠吠えでしかありません。そしてそう言った戦法もまた実に合理的とも言えるでしょう」
「だが───つまらん」
「では、我々は敗退ですかね」
負けたら死ぬわけでもありませんしと、あっけらかんと黒服さんは言ってしまいます。
つまり彼は最後の最後まで監督役という立場をこの聖杯戦争で全うされる、そう仰ったんです。
「うむ、まあ最後に残った益荒雄と手合わせ程度は望むがな」
「その程度であれば相手の便宜も図って頂けるでしょう。先ほども言ったように契約を交わせば自害ということにもならないでしょうから」
「契約、ですか……?」
「おや、興味がありますか?阿慈谷ヒフミさん。……良いでしょう、これは余談。監督役の職務からは外れますが少しばかり御教示しましょう」
サーヴァントの方は自害できない。
厳密には自害を命じても次のサーヴァントがそのマスターには宛てがわれるから意味を成さない。
「私は日頃より契約という物を重要視しています。交わした言葉と文面は非常に重く、そして互いを強固に縛り付けます。時にそれは世界その物にも不変の記録として刻まれる」
それがこのキヴォトスでの聖杯戦争のルールの一つです。
それを掻い潜れる、そういう風に聞こえる単語が私は気になりました。
「契約とは極めて繊細で取り扱いの難しい物です。だからこそ曖昧さという不明瞭な変数が入り込む事はなく、確固たる形を伴った信用が生まれます。ですがこの聖杯戦争においては、更に大きな意味を持っているのです」
それが、と一呼吸を置いてから彼は小さく呟かれました。
「───
そう彼が言った瞬間にセイバーさんの顔が強張ったのが、私の視界の端に映りました。
あり得ない、そう表情が物語っています。
「今現在、この地で開催されている聖杯戦争の当事者同士のみで有効な絶対遵守の法です。アサシンから習った物を、魔術刻印なしで可能な限り再現した自流の物ですが……少なくとも効力についてはセイバーやバーサーカー。あなた方の知る物と同様だと思って頂ければ」
「互いが契約を交わす行為自体を呪詛とした魔術。解呪は決して叶わず、少しでも制約を違えれば命すら奪う物。君はそれは───この地の子ども達に強いると?」
あまり声に出したい代物というわけではなさそうですね。
ですが同時に、それは一つの証明になり得る物でした。
「私としても出来るならば使いたくはありません。当事者同士が命を賭けるというのならば、その互いの命は等価であると言っているような物。人によっては許し難い侮辱にもなるでしょう」
約束を違えないよう双方に交わす契約。
正直なところ私の願い、ハッピーエンドはこの聖杯戦争の当事者の方にとってかなり信じるのが難しい物だという自覚はあります。
なにせ、それに至る為の方法はあと少しといったところまで来ていますけど、まだ黒服さんの協力もアサシンさんが実際にそれを実行できるかの確認も取れていません。
そして確認が取れて協力が得られても、それを本当だと他のマスターの方に証明する術を私は言葉を尽くす以外には知りません。
でも───。
「───阿慈谷ヒフミさん」
そんな取り止めのない考えは、静かな声で遮られました。
「今、貴方が何を考えているか凡その察しはついてきます。ですが、間違ってもその命を貴方は安く見積もってはいけません。私が話した自己強制証明は文字通り絶対の物。ましてや貴方一人が命を賭けるのではなく、相手にも命を差し出せというのは……クックックッ……酷という物ではないでしょうか?」
「……それでも、最後の時に貴方は使われるんですよね?」
「それがアサシンの望みだと言うのです。私とてマスターですから、末期の願いは叶えて差し上げたい。有利不利でも、必要だからでもなく。相手にも命を天秤を乗せろと告げる行為がどれほど外法であったとしても」
自分の命を賭けるから貴方も自分の命を賭けろ、というのは物凄く難しい物でしょう。
お互いにそれを賭けるだけの価値がその契約になければ、成立する事はない。
それこそ黒服さんで言うと『契約さえすれば自分達は無理もなければ負ける可能性もなく聖杯戦争に優勝できる』という相手にとって圧倒的に有利な状況で漸くお互いの命をベットできるんです。
命を相手に差し出させるペナルティを相手が飲み込めるのは相手にとって有利でそれをする必要がある状況ぐらいなんです。
だったら同じぐらい自分にとっても利が、リターンがなかったらする意味がない。
「マスターであり監督役である私は、最後まで私の役目を全うしなくてはいけないのですよ、阿慈谷ヒフミさん」
だって言うのにそれを彼は《アサシンさんが言った最後に戦いたい》という願いを叶える為に自分の命を賭けると仰るんです。
だったら私は。
「……もしも、もしもです。黒服さんの願いを教えて欲しい、だから代わりに聖杯陣営の正体についての手掛かりを私も教えます。そう言ったら私と契約して頂く事はできませんか?」
「───貴方は今の話を聞いて、その上で命を差し出すと?」
厳かな声には詰問するような冷たさすら感じられました。
情報のやり取りに自分と、そして黒服さんの命を天秤に掛けるのかと彼は静かに問う。
彼だけじゃありません。
コハルちゃんもミノリさんもセイバーさんもすごい顔してます*3。
ハナコちゃんは無表情になっちゃいましたし、アズサちゃんは……ちょっと今は顔が見れません*4。
「……だって貴方はアサシンさんの願いの為に命を賭けると仰いましたから。そんな貴方の願いを聞くのなら」
でも、彼は命を賭けると言ったんです。
「そんな貴方の願いを聞くのだからこそ」
有利などころか自分から勝ちを最後に残った一組に譲る、そんな条件下で命を賭けてでもアサシンさんがたった今告げた願いを叶えようとされた。
お二人がどんな関係かは分かりません。
でも少なくとも、黒服さんはそういう風にご自分の責任を果たそうとされる方のようです。
「私だって私に賭けられる物を賭けたいんです。ちゃんと、知りたいって思うんです」
それが彼の責任でやり方だというのなら、正面から受け止めて私も同じように向き合いたい。
「───不用心が過ぎる」
対して、黒服さんの言葉は端的で、そして冷たかったです。
気のせいかもしれませんがどことなくつまらなそうで、それでいて不愉快そうにも聞こえました。
「これは貴方の入れ知恵ですか?セイバー」
「憤りを抑えて頂ければ幸いだ。だがこの子はこういう子だ、誰よりも願いの尊さについて悩んできた子だ。だからこそ、君がアサシンの願いの為に命を賭けるのならば、その君の在り方に応えたいとヒフミも願うんだ。サーヴァントとしては、非常に頭が痛い話だけどね」
「……まったく。彼も貴方も、とんだ娘を教え子に持ちましたね」
その言葉に対して呆れたように仰られた黒服さんは、最後に深々と溜め息を吐かれました。
1じゃんね☆
そろそろサブタイトルのネタが限界だなぁと思う今日この頃じゃんね☆
というわけでまた本編再開じゃんね☆