阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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バカなッ!
自己強制証明だと、そんな物ッ!
魔術回路もないこの世界で、なにより何故アサシンは……ッ!


後悔先に立たず

 

  自己強制証明(セルフギアスクロール)*1

黒服さんが所有する互いに命を賭ける事で絶対に破れない約束を交わす技術、若しくは魔術。

それについて彼は結論からと前置きをしてから話し始めました。

 

「貴方が私との取引や契約で命を賭けるなんて事は不必要です。そして言っておきますが、私が自己強制証明を用いるのは最後の時のみ」

 

 最後、と言う顔は相変わらず表情が読めませんでしたけど何処となく寂しそうで。

誰かを憐んでいるようにも見えました。

 

「それ以外で今次聖杯戦争において、私を含めた監督役は誰との契約も交わすつもりもありません。必要な事があれば聞いて頂ければ私の知る限りを教えましょう」

 

「優しいんですねっ、黒服さん」

 

「……これを優しいなどとあやふやな認識で捉えるのは紛れもない貴女の悪癖ですよ、阿慈谷ヒフミさん」

 

 直すのをお勧めしますと、素っ気なく言ってから彼は人差し指をぴんと立てられました。

 

「忠告ついでにもう一つ。貴女は自分の命の価値を安く見積もらない方が良いかと。その考え方は遠くないうちに貴女の首を絞めることになります」

 

「よく覚えておきます!」

 

「……それは結構。さて、私と契約は出来ない。私と協力関係を築く優先順位は限りなく低い。それは既に御理解頂けたと思いますが、まだ何か聞きたい事はありますか?それとも───」

 

 にたりと彼の口元にある罅が大きく裂ける。

いっそ挑発的なほど、彼は私達を前に笑みを深くされました。

 

「今の時点で私があなた方に協力したくなるような口車に乗せて頂く用意が御座いましたら、どうぞお話を。時間はまだありますので。どちらにせよ、まだあなた方は聞きたいことと成されたい事があって此処に来ら「あ、その前にシンキングタイム良いですか?」……れたのでしょう?」

 

 肩透かしを食らってる黒服さんはさておいて*2

 

「……お好きなように、私は構いませんよ」

 

ちょっとばかし、考えを整理しましょうか。

ね、セイバーさん!

 

『(ははは……それはそれとして今日の夜こそはお説教だからね、ヒフミ)』

 

『(あ、あぅ……な、なんでですかぁ!?)』*3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずですけど、ここまでの話の中で黒服さんのスタンスというのは見えてきました。

 

『(徹底的な、いっそ気持ちの良いぐらいの中立だね。僕の知る監督役とは大違いだ)』

 

 少なくとも彼という人間がここまで中立である事を表明してくれるというのはありがたい。

ですが反面、厄介な部分もあります。

というより、だからこそ恐ろしいと感じるんです。

 

『(中立という事は僕達へ危害を加える事はない、けれど逆を言えば決して味方になるという事もないって話だからね。厄介だし何より底が見えない)』

 

 同盟という形を取るのは難しいでしょう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

今の時点で彼と同盟は組めない、というとても分かりやすい彼からの()()()()()()です。

本当にもう、私だって怒る時は怒るんですよ!

 

 ですが、裏を返せば自分達にも同じこと。

彼らは最終局面に至っても監督役という職務から降りるつもりはない。

その上でアサシンさんが口にされた()()()()()()()()()()()という想いを汲んで命まで賭けて契約を申し出ると仰る。

違和感、いえどちらかと言えば。

 

『(納得できない感じだね。何せ、動機がまだ僕達には分かっていない)』

 

 それが黒服さんの願いに直接関係しているかどうかは分かりません。

ですが、今の段階で何故彼がこんなにも聖杯戦争という物とその監督役という職務に対して誠実に遂行されようとしているのか。

理由や動機が全く見えてきません。

 

 正直に言えば黒服さんは見た目からしてとっても怪しいです*4

直感だってうるさいぐらいに用心しろって教えてくれています。

 

 だからこそ、腑に落ちないんです。

明らかに厄介ごとだと思っておられる監督役というお仕事を、何故そこまで律儀に果たそうとするのか。

 

『(気になると言えば、聖杯陣営に対するスタンスもだね)』

 

 教えてくれなさそうな気配も感じつつですが、彼は間違いなく聖杯陣営について何か重要な部分を知っている。

それを知った上で問題ないと判断している。

 

 今後、聖杯陣営によって齎される被害を食い止めるのと同時にナツちゃんや他にも捕まっているだろう子達の魂を取り戻す事を考えれば。

私達はどうあっても聖杯陣営とぶつからなきゃいけません。

そして監督役である彼らは立場上、聖杯陣営に対して自分達からアクションを起こす事はないのだと言われます。

イレギュラーだと、予知していなかったと認めているのにも関わらずです。

 

『(整理しようか。黒服は監督役という立場と中立性を貫くスタンスだ。その監督役に特権はなく、監督すべき違反はあくまで聖杯戦争の参加者によってこの地に致命的な被害を齎す行為に限定される)』

 

 そして聖杯陣営による襲撃はイレギュラーではあるが、規則違反や対処すべき事案とは考えていない。

逆に予備システムを起動させて聖杯大戦を開催する事態に関しては断固として反対の立場を取られる。

 

 情報としては得られた物はありますが、ハッキリ言って余白が多すぎてチグハグに感じてしまいます。

多分これは黒服さん側の事情が全部明かされるでもしないと全部に筋道が通らないか、そもそも話してる事がまるっきり全部嘘のどちらかですね。

 

『(でも君は彼の話を信じてみるんだろう?)』

 

 まだ判断しきれない部分が多いですから。

嘘だったら、じゃあこの人は信用できないな、で切り替えてしまえば良いだけです。*5

 

 何でもかんでも疑ってたら発展性がありません。

だったら一つでも多くの可能性は抱えておいた方が得です。

それに一応彼は私達にヒントはくれています。

多分それがチグハグをちょっとだけ和らげてくれるとは思いますが、まずは聞かなきゃですね。

 

『(契約……いや、取引についてかい?)』

 

 黒服さんは私が契約を受けようとするのを拒否された。もしかすれば彼へのペナルティなんて物はなしで私の命だけ『───ヒフミ』、はダメですよね。

 

 とにかく彼は契約をするつもりはないと言われましたから。

恐らく彼の中で契約は大きな意味を持って線引きされています。

これ以上の収穫は多分ありません。

 

 だから黒服さんとの取引を受けるかどうか。

それを検討する時の為の判断材料集めとそもそもどんな取引なのかを聞く。

ここら辺も意識しておきたいですね。

それからあと残るのは。

 

『(まだ幾つかあるけれど、やはりね)』

 

 ええ、これだけはというのがあります。

そして聞いた上で深掘りしなきゃいけないの物が。

ここらはより、彼個人に踏み込んで行ってみましょう。

 

『(ああ。僕も微力ながら君の隣で応援しているよ)』

 

あはは……それは頼もしいんですけど。

 

『(いつも言ってますけど一人で考え事してる時に念話でちょくちょく合いの手いれるのやめてくださいよぉ!)』*6

 

と、セイバーさんに文句を言ったところでシンキングタイムはおしまいです。

 

 

 

 

 

 

 

Apologetics , or Break

NEGOTIATE EVENT 5/7

 

 

 

 

 

 

 

「考えはまとまりましたか?」

 

「えぇっとそのぉ……もうちょっと……あはは」

 

 折角シンギングタイムを設けてもらいました。

だけど、黒服さんからの問いかけには中々答えられません。

一応聞いておきたい事はありはしますけど、どう聞いたら良いかと悩んでいると軽く肩が叩かれました。

 

「それなら私から質問しよう。他の全陣営が敗北して残る陣営がお前達にだけになった場合、お前は何を願う?」

 

 振り向いた私に向かって軽く頷いてくれたミノリさんは、私の代わりに静かな声で質問を始められました。

 

「ハッピーエンド、でしたか?そんな夢物語を追いながら嫌に現実的な目線で尋ねられるのですね、貴女は」

 

「一人ぐらいは最悪の事態に備えておかなくてはいけないだろう。それで?お前はどう願う、いや。それともどう残った聖杯を扱うか聞いてやろうか?」

 

 万が一が起きて最後の一組になったのならどうするのか、という質問は結構私達としては聞かなくてはいけないことでしょう。

とはいえ聞く事自体がシビアの所にあります。

 

「そこまで分かっておられるのでしたらご期待に応えて監督役としての言葉を返しましょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何せ、私たちの目的を彼は知っている。

犠牲なしに終わらせると言っておきながら、一応の確認をする姿勢を勤勉と取るかそれとも不誠実と取るか、正直判断しきれません。

 

「強いて言えば、英霊七騎の魂を溜め込んで臨界状態となった聖杯を観察するというのは興味を擽られはしますがね」

 

けれど、生唾を飲み込んで待っていた彼の返事はどこまでも平坦でした。

 

「いずれにせよ、私とアサシンが生き残るような事態になれば聖杯に対して何も願わず、何も望みませんよ。それが監督役である私の役割ですので」

 

 彼は万一勝利しても何も願わない、はっきりそう言われました。

そこで浮かんでくる疑問は二つです。

一つは動機。

もう一つは結果です。

 

 前者はここまでの話の中でなんとなく察しがついてきました。

ですが、後者については少なくとも私達の知る情報では確たる物が見当たりません。

 

「……二つ、確認させて下さい」

 

 だからその本題を確かめる前に、私は聞いておきたい物を片付けることにしました。

 

「それは、もう貴女の中である程度得たい物を手に入れたという事でしょうか?」

 

「いいえ、まだ。でも聞くべき事や知っておくべき事は聞かないままにしちゃいけない気がしますから」

 

 ミノリさんが代わって聞いてくれましたけど、いつまでもおんぶに抱っこじゃいけません*7

私もとびきり最悪なパターンを想定して、その打開策を用意できるように、今から知っておく事が求められる。

そう思うんです。

 

「……なるほど、なるほど。では私の指摘は置いておきましょう。それで?阿慈谷ヒフミさん。貴女は何を確認なさりたいんですか?」

 

「自己強制証明について。これを貴方とアサシンさん以外で知っておられる方は私達以外にいますか?」

 

「同盟陣営を除く他の陣営という意味で、かつ私がキヴォトスのマスターの為に用立てた物、であれば私は誰にもまだお伝えしていませんね」

 

「……知っているのは私達だけ、なんですね?」

 

「ええ、貴女方同盟陣営だけが。勿論源流である魔術刻印を介する形式のそれに関しては言わずともサーヴァント達は知っているでしょうが。知っていたところで我々この地の人間には刻印どころか回路すら有りませんから使用する発想すらないでしょうが」

 

 まず一つ目はクリア。

他の陣営との交渉でそれを要求される事というのはなさそうです。

 

「どちらにせよ、自己証明強制は契約する双方の生命を焚べる事で成立する契約です。使う場面は限りなく限定され、その場面に陥ってそれしかあなた方に手が残されていないのなら……という話でしょう」

 

 使い所は難しいですし、私自身も積極的という基本的には決して使いたい案、ではありませんね。

なるべくそういう状況に陥って欲しくもありません。

 

「それで、残りの一つについては?」

 

「予備システムについてです。仮に予備システムを起動させる場合」

 

 さて、次です。

実際ここが分水嶺でしょう。

次の質問を聞けば自ずと私達のしたい事や黒服さんにお願いしたい事は時間をおかずにバレてしまいます。

言ってしまえば本命の目的を晒す質問です。

 

「アサシンさんの魔術で大聖杯に干渉する事は出来ますか?」

 

なら、そんな状況すら擬似餌にして釣り出してみせましょう。

 

 

 

「───なるほど。あなた方の考えについては凡その推測が出来ました。ですので、それについては私の口からではなく本人から聞くとしましょうか

 

 

 

 思った以上に混乱がなかった(返事が早かった)事にうめき声でも出ちゃいそうですけど、我慢です。

それより気になるのはアサシンさんからの答え。

 

「……業腹だが、限りなく不可能に近いと言っておく」

 

 期待を込めた私達の視線に彼女は心の底から不愉快そうにそう言われました。

不可能に近い、そう言わせてしまったのはご自分の力量に自信のある方にしてみればあまり良い気分はされないでしょう。

ですが、私たちにとってその言葉は蜘蛛の糸のように細くても、聞き間違えようのない希望でもありました。

 

「不可能、じゃないんですね?」

 

「そうだ。大聖杯についてお前達がどの程度知っているかは知らんが、そもアレはサーヴァント自体が干渉するというのが極めて難しい代物だ」

 

 詳しくはセイバーかキャスターにでも聞けと手を振る彼女をじっと見つめ続けると、観念されたように深いため息を吐かれてから説明を続けて下さいました。

 

「巨大な川に小石を投げても流れは変わらんように、ただの魔術師ではそもそも膨大な術理を前にして何をどう触れば良いのかも分からん代物だ」

 

「でも、貴女ならどうでしょうか?」

 

「此度の現界がアサシンの霊基でなければな。如何様にもしてみせたさ。だが現実はそうでない以上、些かばかり今の身では、お前達の考えている大聖杯に直接干渉して停止させるというのは、今の私の霊基が保たん」

 

 思わず顔が歪みそうになります。

ここに来て、霊基の問題という壁が出てきました。今のままではアサシンさんを犠牲にしなくては聖杯を停止させられないのだと言います。

 

 それじゃあ本末転倒です。

それを思って黙ってしまった私に、白くて一切の脂肪もない細い首筋を見せつけるように彼女は小首を傾けました。

 

「なんだ、違ったか?てっきりお前達の言う犠牲なしでとやらは予備システムに干渉して大聖杯自体を止める物だと思ったが」

 

「……いえ、合ってます。私達が今考えられる最良の手段はそれです」

 

「諦めよとは言わんが、些か分が悪い賭けである事は覚悟しておけ。それこそ令呪三画を注ぎ込めば、というところか」

 

「仮に私が令呪をお渡しするとなったら、黒服さんは協力して下さいますか?」

 

「御冗談を。令呪三画を渡されたところで我々の手元には何も残りません。もし仮に協力をとなればより魅力的な物か、或いはそもそも協力せざる得ない状況でしかあり得ませんね」

 

 やはり、()()()()()()()()()()()()

彼なりの妥協というべきかそれともそこも含めてお仕事なのかは分かりませんけど。

少なくとも黒服さんに協力をしてもらって今日今すぐに聖杯を止める、というのは出来ません。

そして恐らく協力関係にも()()なれません。

本当に、まったく。

 

 

 

「(それが分かったのが()()()()()()()()ですね)」

 

 

 

 取引の為の下調べ、と考えたら間違いなく良い成果です。

あとは予備システム周りの協力についてもう少し確約であったりが欲しいところですが、そこら辺はこのあと次第でしょう。

残すところはさっき考えていた動機、そして結末について。

 

 まずは動機から確認しておきましょう。

それさえ分かればもしかすると後者の方も予測できるかもしれませんから。

 

「さて、もう段々と考えはまとまったとは思いますが、いかかでしょう?まだ確認したい事がありますか?」

 

「……貴方の願いについて。黒服さん達が何を想って聖杯戦争に参加されているのかを」

 

 だからまずは動機について。

聖杯を手に入れても使わない選択肢を選ぶ彼らはどんな願いを持って聖杯戦争に参加して。

 

「それはそれは。また随分と突飛な話題ですね。ええ構いませんとも、お教えしましょう。けれど、このままはいどうぞと教えるのは些か芸に欠けます」

 

「なら、私がさっきみたいに当てるっていうのはどうです?」

 

 そして何故、自分の命も顧みずに監督役という役割を遂行し続けているのか。

 

 

 

「─── 出来ますか?

 

「─── やってせます

 

 

 

今日一番、絶対に今回で探り当てなきゃいけない本題に切り込んでいく事にしました。

 

 

 

 

 

 

 

Apologetics , or Break

NEGOTIATE EVENT 6/7

 

 

 

 

 

 

 

 正直なところを言えば、です。

黒服さんの願い自体の心当たりはあります。

ですがこの答えはちょっとと言いますか。

 

『(半分博打、って感じなんですよね……)』

 

 答えとして言い出しにくいんですよね。

何せ、ズルいと言いますか、逆説的に証明できちゃう答えですから。

何と言って切り出すべきかどうか。

もういっそ素直に口にしてしまうかと私がちょっと悩んでいると、ハナコちゃんが手を挙げました。

 

「はい♡聖杯戦争から無事に生還したい♡」

 

「なら私は順当に、聖杯戦争による被害の拡大を防ぎたい……あたりにするか」

 

 手を挙げたハナコちゃん*8

続いてミノリさん*9もそれぞれが黒服さんの願いについての予想だと思われる意見を口にされます。

お二人の言葉に驚いて思考を止めて彼女達を見れば今度はセイバーさん*10から。

 

「僕とバーサーカーは今回不参加でいこうかな?ヒフミ達に任せるとするよ」

 

「それもまた良し。己が叛逆を旗に託すのもまた時には必要である」

 

『(最悪、不参加なら黙ったままスムーズに念話も出来るしね。とはいえ、君はもう答えが出ているんだろうけど)』

 

 四人とも揃ってウィンクをして私に考える時間と、答えを絞る為の機会を用意してくださるみたいです。

スパルタクスさんのウィンクはなんか物理的に衝撃*11が出そうな勢いでしたけど、可愛らしいので良しとしましょう。

 

「ちょ、ちょっと二人とも!?急にどうしたのよ!ヒフミが答えるんじゃなかったの!?」

 

 コハルちゃんが慌てるのも無理はありません。

私だってちょっとびっくりしちゃったぐらいでしたから。

 

 何せ、また一対一で黒服さんと腹の探り合いをしながら彼の願いを特定する、そんな気でいましたしね。

けど考えてみればわざわざそんな事する必要もありませんでした。

 

「あら?コハルちゃんったら♡私達は別にヒフミちゃんが黒服さんの願いを当てるっていうのに参加してるつもりも邪魔しているつもりもありませんよ」

 

「そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、さっきまでしていた質疑応答の続きをしているだけだからな」

 

 お二人の言う通り、何もこの場にいるのは私と黒服さんだけじゃありません。

 

「そっ!そういうことはちゃんと言ってよ!急に話し出すからビックリしたでしょぉ!」

 

「うん、びっくりした。でも確かに良い案だ、ヒフミが答え出すまで───私達と話をする余裕ぐらいは見せてもらうぞ、黒服」

 

「聖杯戦争の参加者からの質問に対して嘘偽りの回答なんてしてしまったら、もっと言えば質問を受け付けないなんて監督役としての中立性に欠けますから♡」

 

私が当てるって大見得を切りましたけど、当てるまでに他の人が質問しちゃいけないなんて事は言われてませんからね。

 

「だから当然、私達の質問には答えて下さいますよね?それともマスター以外は参加者ではない、なんていうのは先ほどのアサシンさんの言葉から考えると……ちょっと無理がないでしょうか?」

 

「クックックッ……ええ、それは勿論。あなた方からの質問を返す事で私の願いとやらを探り阿慈谷ヒフミさんが正解を導き出せるとしても、です。数の利があるのですからこういう時に使わなくてはそれこそ勿体無いという話です」

 

 無事に黒服さんからの回答が頂ける形になって一息つけます。

ハナコちゃん達が話をして、それに黒服さんが答える中で、私も彼の願いを絞っていけますから。

 

「ですが少々時間を頂きますね、阿慈谷ヒフミさん。なにせまだまだ彼女達は聞きたいことがあるようですから……クックックッ……では質問への回答といきましょう」

 

 彼は私に言葉だけの謝罪をしてから、またすぐに目線をハナコちゃん達へと戻します。

こういうルールすれすれのやり方、私もそうですけど、どうやら彼も()()()()()()みたいですね。

監督役とはまた別に、彼個人は定規杓子な方ではないみたいです。

 

「まず、聖杯戦争からの生還についてはごく当たり前に願ってはいますね。私も無意に命を落としたくはありません。聖杯戦争の被害については」

 

 当たり障りのない言葉。

ですがまずは基本的なとこから潰していくのは学校のテストや試験と同じです。

 

「こちらも何度もお話したように被害や変化といった悪影響は極力減ればとは思っていますよ。なにせそれが監督役という立場ですから」

 

 分かる範囲から解いて点を稼ぐっていうのは大事です。

 

「なら聖杯戦争の情報を広めたくない、或いは独占したい……そういう気持ちはないのか?」

 

「ほう、それはまた……では、その心は?」

 

 アズサちゃんの鋭い指摘。

これもかなり気になるところです。

聖杯戦争は殺し合い。

その当事者が参加している事実や、マスターへの協力を自治区がしている事が明るみになるのは私達にとっては非常に困る話です。

 

「む……思いの外、理由まで言葉にするのは難しい「なら私が引き受けますね♡」ありがとう!ハナコ!」

 

 でも、監督役である彼にしてみればそこまで私達のためにする、というのがやや弱い気がしますからね。

私達の生活の保障やキヴォトスの社会的秩序の混乱、以外にも理由があってもおかしくはありません。

 

「うふふ♡では……たとえば貴方が聖杯戦争に関する全てを記録し具に観察し今後の実験に役立てたいから。研究者らしい願いではありますね。だから情報は秘匿して独占したいし、なんでしたら連邦生徒会を含めた外部からの干渉も防ぎたい……なんていうのは?」

 

「お答えしますがその前に……なぜ?どんな研究をするとお思いに?」

 

「それなら言える!……お前が言った事だ。聖杯陣営の正体を暴くなり聖杯戦争が起きた理由の解明、とか」

 

「今知られている物以外で聖杯戦争を終結させる方法、なんてのを探す為とかはどうでしょう?」

 

 監督役のお仕事に絡めた内容。

願いとお仕事が同じ向きなら動機自体は納得できますし、頷けます。

そう大きく外れていないと考えられますが。

 

「なるほど。ですがいずれにせよ、聖杯に願うような物ではありませんね。そして私の願いでもありません。私は聖杯戦争の解決手段をとうの昔に見つけています」

 

「……教えてもらうことは?」

 

「それをハッピーエンドに拘るあなた方に教えるつもりはありません。というより知った所で意味がないでしょうから。もっと言えば聖杯戦争という事故が起きた原因については()()()()()()です」

 

 残念ながらハズレです。

でも聞いた事自体はどうやら正解みたいですね。

 

「気になる部分が見え隠れしてますね、じゃあ」

 

 彼は聖杯戦争が開催された原因をやはり知っていている。

そして最後に止めるさえできれば、それ以降は起きないと確信しているようです。

 

「じゃあ……先生に可能な限り被害を出さないこと、なんていうのが黒服さんの戦う動機だったりしますか?」

 

 コハルちゃんからは先生について。

彼と先生との関係性というのが今一つ見えてきませんけど。

 

『(さて、敵か味方かで簡単に分けられないというのもまた人の世だよ)』

 

 セイバーさんの言う通り人と人のお付き合いや関係っていうのは複雑ですから。

それに直感も言ってるんですよね、この方と先生は()()()()()()()()()()()()()*12

 

「確かにそれは一つ、あるのかもしれませんね。とはいえ勘違いされては困りますが私は彼の保護者ではありません。私が口で言ってどうこうした所で結局選択するのは彼ですよ。これまで様々な問題に足を踏み入れてきたのと同じように、ね」

 

 実際、今も先生について語られる彼は幾分かさっきまでの雰囲気と違います。

苦笑いにも似た、呆れにも似た、けどほんのちょっと柔らかい物を感じるんです。

 

「だったら聖杯戦争を介して敵対勢力を炙り出してまとめて、なんていうのはどうだ?それこそお前の役目ならキヴォトスに致命的な被害を齎すような奴らは敵だろう?」

 

「敵ではありますね、ですがそれをするなら聖杯戦争の手綱に監督役である私が僅かなりとも指をかける理由がありません。なにせアサシンという強力な武力があるのです。多少の脅威が現れたのなら逐一排除すればいいとは思いませんか?」

 

 何よりわざわざ聖杯戦争を利用しなくても火種はありますので、と物騒な事をつけられてしまいます。

ぐうの音も出ません。

なにせここはキヴォトス。

トラブルなんて日常茶飯事ですからね。

 

「他陣営の物騒な願いを叶えさせないというのはどうだ?これならお前が聖杯を獲得しても使わなかったり、そもそも勝つ事に固執しない理由にもなる」

 

「それについては単純に監督役だから、でお答え出来ますね。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 監督役のお仕事に関連させた内容となるとやはり答えが似てきますね。

とにかく監督役だからの一点張りです。

細々とした部分ではない、もっと深い部分とか根本的な所に理由がありそうです。

 

「じゃ、じゃあ!お金!たくさんお金が欲しいとか!聖杯だってその……あんまり綺麗な話じゃなくても使わなくてもそのまま持ってるだけでお金っていうか財産になるかもしれないし……」

 

「持っているだけでもそれを誰かに融通しても、大聖杯を確保さえすれば絶大な資産にはなるでしょうから♡あとは大聖杯自体を手中に収めたらその土地も、でしょうか?」

 

「領土や人の獲得は戦争の常だからな」

 

 アズサちゃんが頷くように聖杯()()というだけあって、基本的にはそういった物が報酬として必要、なんていうのは前にミノリさんも言っていましたもんね。

 

「残念ながら、私はこう見えて清貧の徒でして。物質的な欲を満たす事にはあまり興味がありませんね」

 

 ですがこちらも違うようです。

でもまた一つはっきりしました。

彼は即物的なナニカが欲しくてこの聖杯戦争に臨んでいるわけじゃない。

となると残すは二種類。

 

「なら、方向性を変えましょうか───ゲマトリア」

 

 軽く私に視線を向けたハナコちゃんはすぐに黒服さんを見据えて呟いたのは彼の所属組織の名前。先に潰していくの二つのうちの一つ。

即物的なナニカでないのなら、求める物はもっと大きな物か細かい物のどちらか。

今回ハナコちゃんが話したのそのうちの大きい方。

 

「研究者を自認される貴方が所属する組織。その研究に関連した願いなんていうのはどうでしょうか?」

 

監督役から切り離した、彼個人に関する部分です。

つまり、本人の願望に根差した部分で聖杯が欲しいかどうか。

 

「魔術はキヴォトスにはない技術だ。そしてお前は実際にセルフギアスクロールという魔術をこちらの世界の技術に転用した……狙いはそれか?」

 

 実際のところアズサちゃんの言うように黒服さんは既に魔術をこちらの技術で再現した、そう仰られていました。

以前セイバーさんやキャスターさん達から伺ったように、魔術とは私たちが想像するふわふわしたファンタジーな物ではなく、もっと学術的な物らしいです。

研究者だとご自身について語られた以上、魔術そのものを魅力に感じている、なんてパターンもあり得ますもんね。

 

「なるほど。確かに私としても魔術という学問についての学びは興味深くまた関心と知的好奇心を唆られます。古きに立ち返るというのもまた実に私好みというのは間違いないでしょう」

 

 これまたイエスともノーとも言い難い表現です。

ただこの言い回しだと。

 

「あと!ミネシス!キヴォトスにはあんなのだってあるし、それを使って実験したいとか!」

 

 そう考えていた所でコハルちゃんが挙げたのはミネシス。

その存在については私たちも詳しく知っている、というわけではありません。

ただコハルちゃんとハナコちゃんは、いつだったかの夏の事もあってか私達の中でも特に馴染みがあるようです*13

 

「……良い推察ですね、下江コハルさん。確かに我々ゲマトリアの中にはミネシスという現象を通してこの地の真理に迫らんと探究する者がいる。それは紛れもない事実です」

 

 実際、そんなに外れてはいないというのが黒服さんの言い分です。

コハルちゃんも身を乗り出しちゃうぐらい、食いつきます。

 

「なら!「ですが」ぅぅ……」

 

「魔術にしろ、我々が求める崇高に至る道筋にしろ、そしてミネシスにしろ。他者にそれを叶えて貰うというのは如何な物でしょう?」

 

 ですがこれもまた違うらしいです。

ミネシスそのものはゲマトリアの方と関連しているようですが、別にそれ自体が彼の主目的ではない。

 

「皆さんにも心当たりがあるのでは?夢や将来的な展望は他者ではなく自身の手で成し遂げてこそ。研究職に就く身としては、聖杯に縋って叶えてもらうなど、とてもとても」

 

ただ、引っ掛かりはありました。

 

 

 

「───それだ」

 

 

 

 それが何かを考える前に、ミノリさんの鋭い視線が言葉を伴って黒服さんを咎めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
間違っても使うべきではない。絶対に使うべきじゃない。良いか?私は今お前に向かって言ってるんだぞ、ちゃんと聞いて、あ、おい!こら、逃げるな!

*2
黒服は溢れる十代のパワーを前にちょっと疲れてきていた

*3
なんでもへったくれもない。この時点でヒフミはまだ自己強制証明という物を正しく認識出来ていないのだから

*4
街で十人に聞けば十人が怪しいと答えるだろう

*5
良くないと言ってくれる仲間は誰もこの会話を聞いていなかった。似た者同士の主従は騙されててもまあこの人いるしなんとかなるか、ぐらいのノリが根底にあるのだ

*6
華の女子校生であるヒフミに最早プライベートはなかった。可哀想な事に、隠れてこっそり昨夜仮眠を取る前に食べたお菓子の内容まで大体ばれている

*7
これを後々聞いたミノリはどんどん頼ってくれて良いのになぁ、という気持ちだったとのこと

*8
それはそうと帰ったらヒフミに説教だな、と思っている

*9
それはそうと帰ったらヒフミを正座させるか、と思っている

*10
帰ったら説教する気だったけど自分はしなくても大丈夫そうだから、後でリオにヒフミを慰める為の菓子類でもねだろうかなと思っている

*11
男は瞼の筋肉までマッスルだった

*12
先に言っておくが片想いだとかそういう甘酸っぱい物ではない

*13
コハルとハナコ、そして古関ウイがシスターフッドの依頼を受けて探索した遺跡での事件。彼女達の一夏の思い出の中にはミネシスという存在が確かにあった





1じゃんね☆
使ったら、というか使わなきゃいけないような時点で多分このお話はノーマルENDじゃんね☆
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