【Tips】
黒服の願いが確認されました。
→なし
さて、質問タイムです。
早速聞いていきたいところですけど、あまりにも聞かなきゃいけないというか知りたい事が多過ぎます。
それにこの後サクラコ様のところに行きたいですから時間も気になるところです。
なので、今回は軽くジャブから入りましょうか。
「魔術について、そのぉ……教えてもらったりとかは?」
と思って、ちょっと個人的に気になっているところから聞いてみたんですけど、どうにも反応が芳しくありません。
「……セイバー。魔術回路の有無についての話は?」
「すまない、必要がないと思ってしていないよ」
「クックックッ……まあ、いいでしょう」
セイバーさんは額を抑えてますし黒服さんも思いっきりため息を吐かれています。
良いじゃないですか、私だってまだ十代の子どもなんですから。
ちょっとぐらいまほーとかマジュツに興味あったって。
「良いですか?阿慈谷ヒフミさん。根本的に魔術回路を有さないあなた方は魔術は使えません。それは私もです」*1。
「え?でもさっきセルフギアなんとかって……」
「あれはあくまでも魔術回路や刻印の代用に物理的以外には切り離せない令呪を介して他者の肉体に課した魔術モドキであり本質的には契約の部類です。そういったものでしたら使えますが代わりに令呪を消費しますよ」
残念ながら私達ではマジュツは使えない。
もし仮に真似事をしようとするなら私の手の甲に刻まれている令呪を使わなきゃいけないみたいです*2
しかも詳しく聞くと魔術一回につき一個どころか、変換効率が悪いとかで最悪全部消費してやっと一回できる、なんていうパターンもあるとか。
とてもじゃないですけど。
「じゃあそうポンポンとは……」
「他のマスターから譲渡されるか奪うでもしない限り令呪が増える事はありませんからね。それと何か勘違いを、いえ、そもそも理解が及んでおられないようですからハッキリとお伝えしましょう」
使えない、そう考えていた所で黒服さんの声が潜めるように低くなりました。
「自己強制証明は互いに嘘がつけなくなるファンタジーの産物ではありません。契約に沿わなければ対象は必ず死ぬ、そういう契約を交わす物ですスマートさに著しく欠ける最終手段、或いは脅迫と同義と私は捉えています」
少し軽率に考え過ぎていたかもしれません。先ほど伺ったセルフギアスクロール。
最悪私の、という考えが僅かに頭を掠めていましたけど。
「それを使えと相手に迫るという事は相手の命を限定的ではあっても支配するという事。そしてその契約はほんの僅かな余白も許しません。もし
とてもじゃないですけど使えた物じゃありません*3
「あなた方がそれをお望みであれば勿論私はお手伝いしますが……クックックッ……万一取り返しのつかない事態になったらどうなさるおつもりで?」
本当の本当に、どうしようもない状況でやっと使い道がある、かもしれない。
そんな代物です。
「ハッキリ言いましょう。安易な考えでそれを使えば、阿慈谷ヒフミさん。貴女は自分の首を絞めるどころか誰かの命を危険に晒す。そんな迂闊で愚かな人殺しになりたいのでしたら……他を当たって頂くか、今すぐマスターを降りることをお勧めしますよ」
殺さない、殺させない。
これは私が決めたハッピーエンドの根幹です。
それを揺さぶる一手ですから、あくまで知識として覚えておくに留めておきましょう。
セルフギアスクロール、それを使うという事の代償の大きさを。
そう考えているとにこやかにハナコちゃんから棘が黒服さんへと。
「お言葉ですが、凡ゆる手段を模索するというのはごく自然な流れでは?」
とはいえハナコちゃんだってわかった上ででしょう。
私達にアレは使えません。
「ええ、ですから大人として教えてさしあげたのです。アレはそんな優れた選択肢ではないと」
「……それはそれは。ありがとうございます」
「いえいえ、仮にも監督役ですので」
そしてそれは黒服さんとしても同じ。
だからそういう手段がある事は教えてくださってもそれ以上の事に触れさせるつもりはない。
「……それがお前達のスタンス、なのか?」
「お前達、がどれを指すのかは分かり兼ねますね、白洲アズサさん。ですが、監督役のスタンスというのはこういう物ですよ」
「ほ、他のげまとりあ?って人達は?そのどうなんですか……?」
でもそれをアズサちゃんやコハルちゃんが不思議に感じるのもまた仕方ない気はします。
黒服さんは怪しいですし、一度は殺されかけた相手。
それが今ここまで中立的かつ私たちを尊重するスタンスでおられる。
困惑しちゃうのも無理はありません。
「……良いですか?下江コハルさん。先ほどお話ししたようにゲマトリアは既に解散した組織です」
ですが、黒服さん個人の事を考えればそれも自然には見えてきます。
彼はどうやら、研究者である自認を違えるつもりがない。
道徳的にどうこうなんて事はないでしょうけど、少なくとも監督役として責任を果たす。
「監督役を私が請け負っているのも元所属していた人間が中途半端に投げ出した実験による被害、つまり聖杯戦争が私個人として望ましくない物であったから対処しているに過ぎません」
その一点については確かに信用できるとこれまでの会話の中で確信が持てます。
その結果が先ほどまでの会話、なのかもしれませんね。
「この際ですからこちらについてもハッキリとお伝えしましょう。ゲマトリアと今次及びこれから先に行われる大聖杯に起因した聖杯戦争はこれ以上の関わりと意味を持ちません。そして私はゲマトリアについて教えるつもりもありません」
「教えるつもりがない、か。それは監督役としての判断で、監督役としての職務に抵触しないという理解で良いか?」
ミノリさんの質問に黒服さんはわざとらしく肩をすくめられました。
言う必要があるか、とでも言わんばかりにキザな態度です。
「おや、それ以外にどう聞こえましたか?今お伝えした通り、聖杯戦争とあの日に潰走し解散したゲマトリアは文字通りの意味で関係ないのです。でしたら話す必要性も蓋然性もありません。何よりゲマトリアについて調べた所であなた方が聖杯戦争を有利に進める一切の情報は手に入りませんので」
「つまりゲマトリア側で何かしらの援助が聖杯戦争に対して行われるという事は?」
「今次聖杯戦争に限ってはあり得ませんね、そうでしょう?アサシン」
ハナコちゃんからの質問にもさっくりと返答がありました。
答えた当の本人は顔を横へ、今もカップの氷をストローでかき混ぜるアサシンさんの方へ*4。
「やれ、面倒な男よ。だがそれも契約だ、精々最後まで仕事はしてやるとも」
ですが彼女もまた、なんとも言えない返事です。
少なくとも
「……話をちょっと変えさせて下さい。大聖杯について、それがある場所を吹き飛ばすと先生と敵対する事になるようですけど、それは他のマスターであってもでしょうか?」
「庇いきれない、という話ですよ。大聖杯の起動式がある土地一帯を顕現前に全て破壊し尽くすとなれば文字通りその場所を今後百年にわたって不毛の地にする威力が必要になりますからね」*5
もう一つの方の質問もバッサリです。
やはり大聖杯を顕現させない形での対処はまず選択肢から外すべきですね。
「極々単純に、そんな事をして人も生徒も住めない場所にしてしまえば、公的機関との対立は避けられないというのは当たり前の話の筈ですが」
そうなると気になるのは別件に移ります。
「……フランシスさんの研究データを見せて頂くことは可能ですか?」
解散しているゲマトリア、なのに黒服さんが最後まで責任を果たそうとする理由。
その根幹であるフランシスという方について。
「お断りします、が……ふむ、一応なぜと伺っておきましょうか」
「彼の研究から聖杯戦争、延いては大聖杯への対策と対処の糸口が見出せないかと」
実際、聖杯戦争に黒服さんより前から関与していたようで、サーヴァントについても研究なさっていたという話です。
「でしたら見るべきではないでしょう。そちらにはキャスターがいる。たとえ近代以降……いえ、どちらにせよでしょうか」
それなら、彼の研究データには聖杯を解体する、なんて事も書いてあるかもしれませんし。
ですが黒服さんの反応は心苦しそうと言いますか、テストの空白を見た先生みたいな感じでした。
「魔術師であれば見た所で対して価値のある物ではありませんよ、現状の解決の糸口にもなり得ないと断言しましょう」
「それは……黒服。お前や他の人間も聖杯やサーヴァントについて研究していて見識があるからじゃないのか?違う視点からなら」
「断言する、そうお伝えしたのは何も我々が秘匿したい物があるからではありません。彼の研究はあくまで境界記録帯の再現性について」」
どうやら探した所で時間の無駄、みたいです。
「聖杯はアプローチであり、大聖杯や現時点で行われている聖杯戦争のシステムに何かしら寄与する物ではなかったですから。そしてそれは私の目ではなく、監督役としてアサシンが確認して判断した事です」
それが出来るなら最初から自分がしている、そう言外に仰られます。
「そもそも我々は協力関係にあってもそれぞれの研究に必要以上に口を出す間柄ではありませんでした。彼がしていた研究について知ったのも聖杯戦争が開始する直前になってからです」
だから、対応が後手に回ったのだと深々と溜息を吐かれる黒服さんに何も声がかけられません。
疲れが滲む背中は哀愁が漂ってます*6
「ちなみに、ですが。以前にもお話しした通りフランシスについて調べる事はお勧めしかねますよ。そもそも彼についてあなた方が足取りを追えるとはとてもとても」
「ええっと……それはその、どうして?」
「それが可能でしたらとうの昔に我々ゲマトリアの動きを捕捉できていたでしょう?」
ごもっとも、という他ありません。
なにせリオ会長達ですら足取りが掴めない、先生の報告がなければ名前さえ聞き覚えがない、そんな実態のない組織だったのがゲマトリアです。
メンバーであったフランシスという方も同様と考えていいでしょう。
「それでも容姿やフランシス個人について調べたという事でしたら止めはしませんが、監督役としてお伝えできる事は何もありません。ああ、力づくでという形でしたら構いませんが……それともフランシスに対して制裁でもお求めに?」
流石にそれを求める、というか求めたいっていう考えはありませんでした。
私達も揃って首を横に、こらセイバーさん。
そんな微妙そうな顔しちゃ駄目ですよ*7。
「クックックッ……結構。何せ彼は責任こそ果たせませんでしたが、同時に聖杯戦争という事故において紛れもない被害者でしたから。何よりサーヴァントの力を持ってマスターでない人間に力を振るう、許される行為ではありません。彼の責任を追及する、それは全ての罪が明らかになってからでしょうから」
「……じゃあ、あの。えっとフランシスって人がその、マスターになったりとか!後は……新しい聖杯を作ったり……とかその……」
コハルちゃんからの質問は私としても気になる所。実際、フランシスという人は聖杯戦争の始まりに一番近い所にいた人物ですから。万が一、なんていうのも考えます。
「あなた方が安心する為のリップサービスに聞こえるでしょうが……前者は流石にあり得ない、と断言しておきましょう。それをするなら第七のマスターという立場を譲る筈がありません。第一に、聖杯戦争のマスターという致命的なデメリットがある貧乏くじを引きたいなどと非合理的な考えを持つとも考えられません。我々は研究も観察もしたいですが、実験対象のモルモットになりたいわけではないのですから。そして後者についてですが」
けれど、人が少なくなった所で漁夫の利願いでマスターになり変わって願いを、なんていうのはあまりにもリターンとリスクが合わない。
「半年です」
そして後者、新しい聖杯の製造もまた同じ。
「彼が研究を始めてから約半年。たったそれだけの時間しか用意できないまま、もっと言えば限りなく再現性の低い実験に臨んだのも今回が初めてでした。次、となればそれこそ十数年は今回のデータを収集し、検算する事に掛かり切りですね。何度もお話しますが我々は特段、このキヴォトスを滅ぼしたいわけではないのです。何処までも研究をしたい、であれば当然ですがその運びは丁寧にあるべきですので」
どちらにせよ、
黒服さんの話からも、そして私の直感もそんな風に言っている気がしました。
「……サーヴァントの研究をしていた、そう言ったな」
そんなこんなでフランシスという人について聞きたい事は大体まとまったかな、と考えていたタイミングで切り出した声。
「ええ、それがどうしましたか?安守ミノリさん」
ミノリさんは少しだけ悩んだ素振りをしてから、いつも通り張りがあるのに落ち着いた声で尋ねられました。で
もその声が、少しだけ。
「
強張るように恐る恐る、そんな風に聞こえてなんだか不思議な感じでした。
「……ああ、なるほど。聖杯陣営についてですか。どうにも先ほどからフランシスについて気になっている様子でしたから確かに彼らという新たな出現したサーヴァントの存在は、そう勘繰ってもおかしくはありませんね」
「……勘繰り、か……なら」
「はい。重ねてお伝えしますがフランシスは聖杯戦争そのものを画策していた訳ではない。そしてまず間違いなく聖杯陣営なる存在を出現させる事も出来ない。
ミノリさんの質問に一瞬悩んだようにして、それから黒服さんは聖杯陣営とフランシスという人の繋がりを否定してくれました。
「そして追加でサーヴァントを出現させるような聖杯への干渉が出来るのであれば、もっと我々マスターにデメリットがない形式を取るでしょう。毎回二週間ばかりの短期間では取れるデータも限定されてしまいますからね」
ミノリさんの気になっている部分も解決して、話題は次へですね。それに今の話の中で、私が触れたい部分もありました。
「時間切れのリスクはやっぱり黒服さんにもあるんですね……そのもし、体調が……」
マスターへのデメリット。
殺し合いへの強制参加やサーヴァントの自害が実質的に禁じられている点を除けば、全員に共通しているのは一つです。
「お気遣いありがとうございます、阿慈谷ヒフミさん。貴女もそうであるように、私も同じ魔力供給による拒絶反応という致命的な枷を強いられている、それは事実であり変えようがありません」
「病院の紹介がいるなら一筆添えようか?」
「結構ですよ、セイバー。ありがたい事に聖杯戦争中の供給量によるダメージは深刻ではあっても対処できていますので。もっとも、残る五日間を越えてしまえば……私も同じように、ですが」
拒絶反応。
それは私達と同じように黒服さんにもあって、聖杯戦争開始から二週間を過ぎたタイミングで行われる聖杯から過剰供給によって命を落とす。
同じ条件で戦っているのだと言います。
「勝たなければ……いや、戦って勝敗を決めなければ死か。つくづく厄介なシステムだ」
「ええ、最悪ですよ。現状これよりも最悪な事態は一つしかありません」
落ち着いた口調に秘められた苦い感情に、思わず飛びついてしまいました。
彼にとって今よりも最悪な事態とはなんなのか。
「その、一つって言うのは?」
「……聞きたいのでしたら、いえ。お伝えしておきましょうか。私の考える最悪の事態と結末は至って単純です───聖杯戦争が無価値に終わる事」
答えは、ちょっと予想とは違う物でした。
「トラブルとは言えこうして参加していますからね。少しでも今後、私的な研究の益となるデータが欲しい、とは思っています。勿論私個人のそれとはやや趣旨がズレていますからあくまで参考程度になりますが」
ですが、やはり言われてみると納得できてしまいます。
「……全て、無に喫してしまう。このキヴォトスを嘗て襲い、空を染め上げたあの日と同じように何もかも残念な結果で終わる、というのは個人的にあまり嬉しい物ではありませんから」
研究者である彼にとって、研究場所であるキヴォトスを失う事自体が問題。
そして聖杯戦争にはそのリスクがあってそうなったら困る。
監督役というより彼個人の一面に触れた気がしました。
「逆に……逆に!最善の結果!……って……その」
「……今回」
「え……?」
「聖杯戦争で大聖杯を完全に停止させ、かつ先生の手をこれ以上煩わせずに済むとなれば……恐らくは今回か、或いはその次が最後の機会でしょう。ですから唯一の最善はそれとしかお答え出来ませんね」
コハルちゃんからの質問への回答はいたってシンプル。
私が考えているハッピーエンドにちょっと近いですね。
「そういう意味でも私はあなた方を全勢力の中で最も注視していますよ、同盟陣営の皆さん。監督役という中立を今後も貫く為、どれか一つの陣営に肩入れは出来ません。何故なら我々は
その言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまいました。この人は絶対に良い大人ではありませんが、個人的にこういう所は。
「……
決して嫌いにはなりきれません。
「こう見えて、私は目に掛けている人材への投資は惜しまない質ですので……アサシンもまた同様でしょうしね」
「どうだかな。勇士足り得る者には私なりの恩恵をくれてやるのもやぶさかではない……が。そうでない者が戦場に立ったとして、死以外の慈悲をくれてやるつもりもない」
「クックックッ……台無しですよ、アサシン」
軽い掛け合いは気の置けなさと言うのでしょうか。
お友達のような距離感や好き合っている者同士っていうのともまた違う、ちょっと冷めてるけどその空気自体を楽しんでいる。
そんな大人なお二人を見て、ふと口から納得が漏れちゃいました。
「……お二人はやっぱり仲が良いんですね」
キョトンとした顔のお二人に思わず失礼を言ったかと思って口を抑えてから謝ろうとしたタイミングで、苦笑いする彼が手を軽く振って止めてくださいました。
「……聖杯が稼働し聖杯戦争が開幕してからとは言え、長い付き合いになりますからね」
「こんな間抜けと知っていればマスターになぞ選ばなかったというのに。まったく、あの時の私はどうかしていた」
懐かしみつつ溜息を吐くお二人の姿にあれ、と思ってしまいます。
だってアサシンさんの言い方はまるで。
「……一つ確認したい。アサシン、君はまさか彼に召喚されたのではなく……」
「……さて、アサシンへの確認という事でしたが代わりに私が「ああ、気づかんかったか。私は所謂イレギュラーだ」……アサシン」
黒服さんが喋ろうとしたのを鬱陶しそうに手で振って止めさせたままアサシンさんが説明をしてくれました。
「五月蝿いぞ、マスター。分かっておるから黙っていろ……待たせたな。兎角、
「……君、
「さてな?……まあそんなわけで、そのまま聖杯戦争は異常事態で緊急性が高いだの秘匿しなくてはだの責任感だけは一丁前に喚く阿呆が頭を下げるものだ。それを憐れに思ってな。契約してやったところよ」
「……おかげで不用意に他の人間がマスターになることも、アサシンという隠密性の高く監督役が把握しにくいクラスを手元に置けたのは幸いでしたがね」
はしたないんですけど口が大きく開いちゃったのを、この場で咎める人は誰もいませんでした。この一瞬で飛び込んできた情報量の多さ。
そして何よりも。
「……あ、あの……
「クックックッ……私は構いませんよ。戦力的情報の開示は私達に不利益を齎さない。それに監督役として不慮の状況へ対応を任せて頂く以上、一定の説得材料はあって然るべきでしょう?」
もっともこれ以上の反則は流石に持ち合わせていませんがと言い切られた彼に何と言って返せば良いのやら。
少なくとも。
『(セイバーさぁん……ってあれ?)』
『(……ああ、すまない。ちょっと考え事をしててね、二重霊基、だったかな?言い得て妙だね。それについては後でまた詳しく僕が分かる範囲で説明するよ。流石は監督役だ、何かしらあるとは思っていたが、まさかの隠し球だね)』
とにかくアサシンさんが私達の想定以上にお強い事が今回でハッキリしましたね。
「他には何か?お聞きになりたいようでしたらお答えしますが」
仕切り直すような問い掛けに、今度はアズサちゃんが手を挙げました。
「聖杯戦争のルールについては誰が決めた?」
「アサシンと私、それからもう一人の友人が」
「……例の蜥蜴、つまり
「クックックッ……さてさて、どうでしょうか?ですがルールと言っても原則は聖杯戦争とサーヴァントの悪用を禁じる程度の話。大それたルールなぞ、我々にはとてもとても」
蜥蜴、についてはてなマークを浮かべるコハルちゃんの頭を撫でつつ、やっぱり改めて聞いてもルールやシステム周りに関して、黒服さんは関わっていないという答えは変わりません。
「ルールと言えば7日目、あの夜にライダー陣営との戦いを仲裁しに来てくださったという話でしたが、ああいったことはこれまでも?」
「それはもう数え切れないほどに。ライダーもランサーもアサシンも、どうにも血気盛んなご様子でしたので」
「……詳しく聞いても」
ハナコちゃんからの質問に相乗りする形でものは試しと私が深掘りしようとしてみます。
黒服さん視点から残る三つの陣営について話を聞ければ、なにかまた攻略のヒントにと思ったのですが、やはり黒服さんが首を横に振るのを見るに難しいですね。
「お答えしかねますね。何せ結果的に他の陣営の動きを教える形になりますので中立性が損なわれてしまいます。当然、接触したタイミングも彼女達に確認したそれぞれの願いについても、ましてや拠点についてもお話するとなれば……お分かりですね?」
力尽くで、という選択肢以外ではそれについて話すつもりは一切ない。
それが私たちもわかって小さく頷くほかありません。
別に私たちは黒服さんと敵対したいだなんてこれっぽっちも考えていませんから。
「結構。それ以外ですとアサシンが街中で食べ歩きにハマった程度の話であれば出来ますが?」
「あはは……興味はありますけど、それはまた今度でぇ……じゃあ、先生とはいつから?」
「聖杯戦争が開始した時点。もっと言えば貴女がマスターになったあの晩ですかね。不幸な事故とはいえ謝罪と説明が必要でしたから、彼が一人になったタイミングで」
「じゃあ先生とは……」
「全てを明らかにしていたわけでも誰がマスターなのかもお伝えはしませんでしたが、ある程度……聖杯戦争のあらましは最初から。今後もマスターとなった生徒の身に何かあれば」
そこまで言ってから一拍置いて、黒服さんは私達の目を見つめました。
「───たとえ最悪の事態の場合でも私からお伝えすると約定を交わしています」
重たい、一言でした。
最悪の事態、それがこの聖杯戦争という殺し合いの舞台で何を意味するのか。
言われなくても分かります。
そしてその約束とやり取りをされた二人の間でどんな会話があったのか。
考える事も出来ません。
「……以前もお話しましたがシャーレの先生をこの聖杯戦争に関わらせることは我々監督役としてはどうあっても避けなくてはいけませんでした。それは私個人としてもそう、ですが……」
「それは……」
「政治的な意味だけでなく魔術的な意味も大きい。それを納得して頂くのは大変苦心する形となりましたが……それでも彼を死なす訳にはいきませんでしたから」
「魔術的……かい?」
「……シャーレの先生は
切り札。
この言葉がキヴォトスで彼ほど似合う人間はきっといない。
けれど黒服さんはそんな私達の想像よりずっと、物事は複雑だと仰ります。
「それこそ今あなた方が想像するより遥かに、彼はこの学園都市にとって、
「それはッ!「ええ、ですから」……っ」
「以前から重ねてお伝えしていたのです。万が一でも彼に必要以上に関わらせてはいけない、と。彼によって聖杯戦争が解決したのならば……それはもう、その後の彼の人間性を我々は保証できない。聖杯戦争の解決に彼を頼るというのは、そのまま───彼を殺すということになるのです」
多分それをしてしまったら文字通りバッドエンド。誰が許しても私が許せなくなります。
「……話を変えましょう。私達は先生を傷つけるつもりなんてこれでもこれからもありませんから」
「賢明ですね。ぜひその選択を最後まで続けて頂けることを願っています」
「……こちらの古聖堂には他のマスターの方も来られたんですか?」
「ええ。お誘いしていたのに袖になさったあなた方や聖杯戦争に関与しないと決め込んでいた安守ミノリさんを除けば全陣営が。一度は来て、きちんと私からルール等を確認されていますよ」
うぐっと言葉に詰まってしまいました。
とっても警戒してましたし、それから他の陣営について調べるのに一生懸命だったりして全然此処には来られませんでしたから。
なんだかバツが悪いです。
「あはは……それはぁ……そのぉ……」
「……詳しい言及はおいおいにしましょうか。彼女達が特に気にしていたのは規則違反について、その処罰はどんな物かという点でしたね」
「僕達も聞いてない話だね」
「聞かれませんでしたし、聞きにも来られませんでしたからね」
「ははは……参ったなぁ……」
セイバーさんも笑顔で頭を掻いてますけど、もうこればっかりは全面的に私たちが悪いですね。
次回、なんていうのはあってほしくはありませんが。
早いタイミングで監督役とお話すべきだったかもしれません。
もっとも今私が考えている黒服さんと協力関係を結んで云々については、
「今次聖杯戦争にある唯一のルールはキヴォトスへの取り返しのつかない損失に繋がる行為をしない、その一点。それをしてしまった場合には当然話し合いを以てマスターとしての権限を剥奪しますが……駄目なようでしたら武力での対処。即ちサーヴァントの討伐になりますね」
「サーヴァントに限定しているんだね」
「ええ、私は別に先生と敵対したい訳ではありませんから。話を戻しますが規則違反陣営が討伐対象となった場合は皆さんにもお声がけをする手筈になっています。是非奮って協力して頂けると我々としても有り難い」
規則違反者。
つまり聖杯戦争中や聖杯を獲得した時のお願いごとでキヴォトスが壊滅的な被害を負う事態。
「あはは─── そうなる前になんとかしますよ」
「それはそれは─── 楽しみですね」
そんな事にはさせない、と啖呵を切ります。
当然です、だってそうならない為に、そんな未来が嫌だから、私たちは戦っているんですから。
1じゃんね☆
なんだか段々暑くなってきて、去年このSSをハーメルンに投稿し始めた時のことやスレを初めて建てた時のことを思い出したじゃんね……もうすぐ150話、こんなに長くなるとは思ってなかったじゃんね☆
追記:投稿時間の予約設定を1が間違えて遅れました……ごめんなさい……じゃんね☆