私は、たとえ悪徳に堕ちようと。
たとえ、愛する友を裏切ろうと。
───この世界を救います。
ヘルタースケルター10機の同乗。
使い魔である彼女達の主人以外が聞けば、泡を喰う話なのは間違いないだろう。
何せ現在同盟陣営が有するヘルタースケルターの数は119機、そのうち半数以上がトリニティに送られ、拠点に残されているのは48機。
だというのに2割弱がアリスと共に敵地に乗り込もうとしている。
前代未聞である。
「じゃあヘルタースケルターさんはスキーニングミッション中なんですね!」
が、そんな事はアリスからしてみれば特に問題視する話でもないわけだ。
この場にいるのがハナコなりユズなりリオであれば頭を抱えるだろう。
もしくはすぐさま拠点に逆戻りするところだが、一人きりのつもりだったアリスにとっては心強い仲間がパーティに加わったの朗報でしかない。
『シー、シーダヨー』『バレタラ、オコラレチャウ』『デモ、デモ』『ゲヘナ、イカナキャ』『ワタシ、オシゴト』『シナキャ、シナキャ』
「ヘルタースケルターさんは頑張り屋さんのタンクですね!」
腕を振りながら順番に答えていく声は、アリスが出会って初めて会話した時から変わらない。
いつも通り可愛らしい少女のようなそれ。
「アリスはゲヘナに行ったらギルドを訪ねて、それから新たな街を探索するつもりです!」
ハイタッチをしたりハグをしたり、後方格納庫の中でアリスは
ゲヘナに橋頭堡を作る、とまで堅苦しい話ではないが前乗りする以上、少しでも先にできる事をしたい。
それがアリスがゲヘナ行きに志願した理由なのだ。ギルド、つまりはリオが話を通した担当者と接触後は午前中いっぱいを使ってゲヘナ市街地を探索。
ミノリ達と合流してからは旧記念教会跡地付近まで足を運ぶ、その予定だった。
「アリス1人だとアル達のところまではって思ってました。でもヘルタースケルターさんがいるなら……そのもしよかったら!」
だが予定とは違う人員、それも1機だけでも相当な戦力であるヘルタースケルターが10機もアリスと共にいるのだ。
アリス自身、同盟陣営の生徒の中ではアズサと並んで高い戦闘能力を持つのもある。
思いがけない増援にアリスの心を映して、浮かれたように言葉がするすると飛び出る。
ヘルタースケルターがこれだけいれば、ミノリとの合流を待たなくても、多少の
そんな考えがアリスの中で芽生えていた。
ではなぜ、そんなにも焦り急ぐ必要があるか。
「アリスと一緒に先生を……!」
決まっている。
モモイの、ヒフミの、ミノリの時間が迫っている。
それなのに
そして、今朝確認された事だがシャーレの先生まで行方が分からなくなったのだ。
幼いアリスからしてみれば、焦るなという方が無理がある。
『モチロン、モチロン』『イッショ、イッショ』『サガソウ、サガソウ』
その気持ちを、ヘルタースケルターは痛いほどに理解していた。
目の前の少女の強い焦燥と、健気なほどに誰かを想う気持ちを。
それもあってこの場にいるのだから。
「ヘルタースケルターさん……!」
皆まで言うなと告げる鉄の腕にアリスは大きくはないが息が詰まるほどの気持ちを込めて、ヘルタースケルターという名前を呼ぶ。
アリスとヘルタースケルター。
同じ造られた者同士だからだろうか、とりわけ仲が良い彼女達だからこそ通じ合うものがあった。
『先生、シンパイ』『イッショ、イッショ』『ダイジョウブ、キットミツカル』『ライダー、タチモ』『シラベヨウ、シラベヨウ』『先生ガ、キットナニカノコシテル』
「はい!ありがとうございます!」
一緒にいるよ、大丈夫だよ。
なんて事のない言葉だ。
だが時にはそういった飾らない言葉が誰かの気持ちを温かくし、冷めてしまった心臓の鼓動に熱を焚べる。
昨晩だってそう。
アズサから聞いた、誰かを好きだから頑張るという言葉。
どれだけの困難があってもそれを理由に自分が諦めてやる理由になんかしなくても良い。
ありふれた言葉がアリスの心に熱となって注がれて。
『───ウン、ヨカっタ』
「はぇ?良かった、ですか?」
『ウン、ソウダヨー』『ヨカッタ、ヨカッタ』『マカセテ、マカセテ』『ミツケル、ミツケル』『ヨカッタ、ヨカッタ』
ヘルタースケルターは喜んでいた。
無邪気に自分達同士でハイタッチし合ったり、怪我をしないようにと気遣ってか慎重にアリスの身体をハグしたり。
表情の変化なんて機能はなく、声質以外はどこまでも平坦な発声機能に最大限の気持ちを込めて。
それにアリスは首を傾げる。
「どうしてでしょう?アリスのお願いを聞いてもらったから、ヘルタースケルターさんが喜ぶ事なんてありません」
『ソンナコトナイヨー』『ソウダヨー』『ウレシイ、ウレシイ』
ますますアリスの顔に疑問が浮かぶ。
それにヘルタースケルターは鋼鉄の奥から響く電子音を鳴らす。
軽やかで涼やかな風鈴の音に似た透き通った音はアリスへと話しかける。
『アノネ、アノネ』『聖杯戦争ハ、タイヘン』『アリスチャン、アリスチャン』『ダカラ、ミンナ』『クルシイ、クルシイ』
今更な事かもしれない。
誰もが苦しい思いをしている。
ヒフミやモモイ達マスターは心身を削っている。
アリス達だってそんな姿を間近に見ている。
苦しいのに支え合うのではなく銃と令呪を掲げて殺し合いに臨む者達がまだいる。
そしてそれは友達だった。
辛い、苦しい。
殺し合いという、
戦うことを強制されること。
息が詰まりそうなぐらい、呼吸をしているのにただ喘ぐような息苦しさだけが肺を満たしていく。
「っ……はい。アリスは、聖杯戦争がイヤです」
少しずつ前に進んでいるようで。
ハッピーエンドに向かうと決めて歩いているようで。
でもまだ仲間になれていない陣営がいる。
本当だったら友達の筈の相手を、仲間に
何より、才羽モモイには時間がもう残っていない。
それがアリスには途方もなく怖くて仕方なかった。たとえキャスターやヘルタースケルター達との出会いがあっても、それでも聖杯戦争に対して肯定的な気持ちは抱けない。
『先生モ、レンラクトレナイ』『ダカラ、ミンナ』『フアン、フアン』
「……っ、はい……っ」
アリスにとって出会ってきた全ての人と過ごしてきた時間は宝物だ。
幼く、まだ自分という存在を確立していく途中の彼女にとって、先生も含めて多くの
だというのに、それが今手からこぼれ落ちてしまいそうになっている。
先生の件に至っては、誰もそれを口にしないようにしているけれど、本音は不安で一杯だ。
だって彼は、本当に身体が弱いから。
アリス達とは違うから。
「ヘルタースケルターさんも、ですか……?」
『ソウダヨー、フアンダヨー』『イッショ、イッショ』『コマッタネー、コマッタネー』『ドウシヨウ、ドウシヨウ』『私モ、マヨッテルヨー』
「アリスと、一緒です……だから動いて、ちょっとでも早くって。でも、やっぱり不安です」
何で今こんな事を話すのか、アリスには検討もつかない。だ
けど同時に良い機会でもあり、偶然にも幸いだった。
それは昨晩のアズサとの会話で、少しだけ緩んできていた心の蛇口。
もしもあと一日早かったら、きっとアリスは何も言えなかったかもしれない。
実際、泣き言を吐いて戦う拒む少女は、同盟陣営には誰もいない。
皆が皆、友達の為にできる事に必死になっている。けれど、今のアリスは───。
『ダケどネ』
きっと他の人間がこの場にいてもそれには気づけないだろう。
『イエナイ、モットモット……辛いカラ』
セイバーであってもバーサーカーであってもきっと無理だろう。
だけれどアリスには不思議とその電子音が発した一言が、何故だかとても柔らかく聞こえた。
『言エナイコト、苦シイコト』『セイハイセンソウ、イッパイ』『ケド、ケドネ』
辿々しい音声はどこまでもぎこちない。
温度なんて感じられない鋼鉄の駆体と無機質な目線からは何も感じ入る物なんてない。
録音を再生するようなどこまでも平坦で生身の情動なんてあるはずがない。
それがヘルタースケルター。
ただキャスターの宝具とスキルによって生まれただけの存在。
『ココロノ、ナカ』『イヤナキモチ』『ズットアルト』『モット、モット』『クルシイ、クルシイ』『カナシイ、カナシイ』
だというのに。
『ダカラ───良いんだよ』
今この瞬間、アリスに伝えるその言葉にだけは確かに友達だと己を呼んでくれる大好きな子を慰める為に。
真っ直ぐな想いが込められていた。
『自分の素直な気持ちを言葉に乗せて口にする。それは誰かを笑顔にする形ではないのかもしれないけれど』
それはもしかするとアリスの勘違いなのかもしれない。
ヘルタースケルターにそんな機能なんてあるわけない。
喋るのだって黙認されているだけで、それ以上なんて出来ない。
『だけど口に出来た人はきっと最後に笑顔になれるから』
けれど今日まで戦ってきて。
ヒフミも拒絶反応の症状を発症して。
モモイ達がこの場にいなく。
アズサと二人きりで昨晩話したから。
そして、
『聞いてくれた大切な人はきっと貴女を助けてくれるから』
ヘルタースケルターからの贈り物は、この一週間をかけて少しずつ緩んできた心の蛇口のバルブを。
ほんの僅かに、けれど確かに、また緩めていく。
『気持ちを込めて誰かを笑顔にする為に歌うのなら、その反対だってあったっていいんです』
アリスの口がわななく。
肩が小さく揺れる。
水を蓄えた視線が所在なさげに彷徨う。
「良い、んですか……?」
『イイヨー』『ダイジョウブダヨー』『ドント、コーイ』
一段とアリスの声が震えて掠れる。
それがそのまま彼女の心に入っていた罅から漏れる物だと気づいているヘルタースケルターは、茶目っ気を込めていつものように言う。
「アリスは、アリスは……わた、私……」
言っていいのだろうか、相談して良いのだろうか。
ずっと秘めていた不安をちゃんと言葉に出来なかった気持ちを、ヘルタースケルターの言うように口に出して良いのかと。
「でも、でも私は勇者で、モモイはマスターになって、だから……だから」
『……だからって弱音を吐いちゃダメ、なんて事ないですよ?ほら、私達二人ぼっちで今空の上だから。だから』
同じ
アリスはその心に抱えた重さから滲む物を。
もう一人は彼女がこれまで贈られてきたたくさん宝物を。
それぞれの
『ありったけの気持ちを乗せて空に向かって歌えば良いんです!』
アリスに届いた。
「なんで、どうして……?」
震える声が今度こそ濡れる。
ずっと、ずっと。
あの夜の出会いからずっと続けてきた心の防波堤の増築工事。
目を耳も塞いでがむしゃらに続けてきた作業の手が止まってしまう。
『そんなの決まってます。アリスちゃんはキヴォトスに来た私のはじめてのお友達で、だから私は』
ヘルタースケルターは怯える少女に向かって、半歩だけ前に踏み込んだ。
大丈夫だよ、良いんだよ、と。
軽やかなに心をくすぐる初夏色の風に気持ちを乗せて。
『アリスちゃんにまた笑ってほしいですから!』
その言葉にアリスが。
口を開いて返事をする一音目を奏でるのと、耳に突き刺さるような
『モモイ!キャスター!ウタハ先輩になにをお願いしに行ったんですか!?』
ゆめをみる。
『ふむ、気になるか。なに、大したことではこれ、アリスよ。我のバルブを捻るなといつも言っているであろう』
『にひひ!気になる?アリス……実はね……じゃじゃーん!』
『わぁ!小さいキャスターがいます!キャスター、育て屋で生んできたんですか?』
はじめて、あった日のことです。
『アリスよ、アリスよ。そんなはしたない事を口にしてはならん。淑女たるもの『あーっはっはっは!ほんとだー!キャスターの子どもみたいだよねー!』……モモイよ、大きな口を開いて笑うでない。まったく』
『こやつは我のスキルと宝具を併用する事で作り出す事の出来る使い魔だ。銘をヘルタースケルターと言う』
彼女はきゃすたーよりずっとちいさくて、でもアリスとおなじぐらいおおきくて。
『このミレニアムなる土地で見かけるオートマトンとは違い、自我のような物はプログラミングしていなければ音声機能はあってもほぼ警告音に近い……常の聖杯戦争であればそれで良いがお前達を相手にするとなれば、それもちと不便だ』
『そうそう!だまーってこんな大っきい子がいるのも寂しいしね!だからさ、ウタハ先輩のところに行ってちょっと色々分けて貰ってきたんだ!』
モモイがそれをみせて、うれしそうにうでをくんでおしえてくれて。
『随分と科学技術が進んだ地であった事には驚いたが基本の物理法則にもそれを土台としてきた科学も我の知る物と相違ない。故にだ、少しばかり手を加えてからヘルタースケルターに組み込んだ』
『……ハジメ、マシテ』
はじめてきいたその声は鈴のようにしずかでかわいらしくて。
『モモイ!キャスター!この子喋りました!』
『うむ。多少の受け答えが出来るようインプットしておいた。サンプリングされた音声はなんでもウタハ達にも思い入れがある物らしくてな、大事にするよう念押しされた……アリスよ。叶うならお前も』
『はい!アリスはヘルタースケルターと仲良くします!』
きかいの、ヘルタースケルター。
アリスはなんだかふしぎと、自分と似てる気がして。
炎が弾ける音をアリスは知覚して、目を開いた。
何が起きたのか、何があったのか。
何一つ分からないまま衝撃に包まれて、今自分が炎の中を静かに進んでいるのだけは分かった。
「い、た……い……です」
視界と同じように霞むアリスの思考が先程までの情景を思い出そうとする。
ヘルタースケルターの言葉に誘われて、一歩踏み出す為の言葉を口にしようとしたその時の事だった。
「ありすは……たしか、ヘリが……へり、に……」
調月リオが改修を指示しエンジニア部一同が組み直した戦闘捜索救難ヘリ。
中身は勿論、外装にも時間も手間も金もかけている。
そんな装甲の隙間すら縫う事なくただ粘土細工をそうするように、鉄板を押し潰しながら何かがヘリを射抜いた。
防弾硝子を叩き割って粉微塵と化した。
装甲板は容易く貫かれ、空だというのにピンで留められるように槍襖となった。
そうしてエンジンルームもティルトローターも何もかも、48本の矢撃ち抜いて。
「ありす、は……それで、そらから……」
思い出す。
あの瞬間、アリスが何かを反応するより早くヘリは制御を失って黒い煙を吐き出しながら失墜していった。
急速に全身へと襲いかかる強烈なGを感じていたのも束の間の事。
アリスは墜落し地面へとぶつからんとする機内から逃げる事はできなかった。
それを実行する為に思案する事すら許されなかった。
ただ地面へと叩きつけられる衝撃を───。
『アリスちゃんッ!手を───ッ!』
「そう、です……アリスは、あの時……っ!」
違う、とアリスは気付く。
確かにアリスはあの瞬間、何も出来ぬまま落ちていった。
だがその刹那に何者かが自分を守ろうとしてヘリより飛び降りていくのを。
そして衝撃の最中に自分を覆うようにして飛びかかった何かの影を見たのを。
思い出したから気づいて、アリスは立ち上がって見た。
自分を背負って燃え盛る爆心地から遠ざかろうと進むその背中を。
『……eガ、サmえ、tA……?』『ヨカ、っTア、ヨカッ……a』
「ヘルタースケルターさんっ!?」
覚醒した思考と視界で認識した状況は最悪だった。
言うなればスクラップ、そう呼称しても相違はないのかもしれない。
打撲と軽いむちうちで全身を痛めたアリスと違う。
落下の衝撃を殺す為に蒸気を吹かしつつヘリを支えながら墜落して
アリスを背負う機体すら片腕がひしゃげ、装甲の各所に墜落地点にあったビルの鉄筋やヘリの鋼板が刺さっている。
他の三機は直接
『ゴメ、n……nエ……ニモ、ツ……ha、ダメ……』
何があったのかは明白だった。
午前中だから、昼間だから大丈夫だと。
これまでだって何度も空路を使ってきたから大丈夫だと。
そう考えてきた同盟陣営にとって最悪の事態。
『私モ、イマnォデ……チョット、チョウshィガ……』
見て分かる通り不調だから喋れないのだと、そして通信機材やリオが直筆した書類の入った荷物も全てないのだと。
ゲヘナという頼れる人間といなければ、ライダー陣営が拠点を敷く土地でアリスがたった一人になるのだと。
残酷な真実を、ヘルタースケルターは告げた。
「(考えます、考えなきゃ……!まずはアリスが今いる場所、いえ!とにかくリオ先輩やモモイ達と連絡……あった!)」
痛む体をおしてスカートのポケットを弄ったアリスの指先に硬い感触が希望を知らせる。
奥歯を噛み締めて無理やり肩ごと動かしてポケットから引き抜いた希望は。
「あ、アリスのスマホが……」
画面が砕け電源がついても操作一つ受け付けない状態であった。
必死に画面をタップまでしても真っ暗になった画面は何も応えはしない。
それに気落ちして次の手を考えようとしたタイミング。
「……ぅ゛」
思わずアリスは口を塞いだ。
覚えている、忘れるはずがない。
───くふふ、それじゃあ……遊ぼっか?
かつてそんな呼び声と共に血を啜った影より這い出た存在。
機械の裡に肉を植え付けることで増産され続ける悍ましく忌まわしき使い魔。
腐臭漂うオートマタ、ライダー陣営の兵士である。
ヘルタースケルターを貪り嬲って壊した悪夢のような時間。
七日目の夜、ライダー陣営との戦闘で嗅いだ脳に指を突き立てて掻き混ぜるかのような刺激を齎す死の臭気。
自身の嗅覚と
腐臭漂うオートマタが近くまで来ていることを。
「どうしたら、どうしたら……っ!?」
姿はまだ見えない。
だが、既にあの腐臭と共に足音までアリス達の知覚が及ぶまでに至る。
爆炎の煙から徐々に逃れたアリス達が今いる場所は廃墟の立ち並んでいる。
当然土地勘はなく、どこに逃げるか以前に、どこから敵が近づいているかすら分からない。
『っ……Se……ごめ、……マスター、私……!』
ましてや今は午前中。
暗闇に乗じて逃げるなんて事は不可能なだけではない。
遮二無二に逃げれば、この時間帯であれば人のいる場所に出る確率だってある。
更に現在のゲヘナは昨晩の戦闘によってピリついているのだ。
そんなゲヘナで正面から戦闘行為をする、なんて事をしてしまえばどんなトラブルに発展するかも定かではない。
少なくともアリスにとって良い結果を生むはずはなく。
「どうしたら……ッ!」
「……こっち、急いでッ」
炎と喧騒、そして腐臭。
混濁する空気に包まれて暗澹とするアリス達の思考を静かな声が切り裂く。
「え……?」
「いいから早く。あいつらに見つかったら大変だよ」
建物の影。
一際臭気の少ない風が流れるその先から聞き覚えのある声がした。
「来ないなら別に良い。あいつらを相手にするなら、もう私は助けられない。けど今ならまだ間に合う」
「っ……!ヘルタースケルターさんっ……!」
『wぁ……っ……タ……i……コ……ゥ』
迷っている暇はなかった。
こうしている間に益々と腐臭は強くなり呼吸する事すら辛くなり始めてきた。
だからアリスとヘルタースケルターは、声の主がいる建物へと駆け込んだ。
「……ここなら多分バレない。あいつらの巡回が終わったら移動しよう」
アリスが駆け込んだ建物の階段前で待っていた声の主は、フードを被ったままアリス達を二階へと案内した。
「地図はこれ、万が一私と逸れたらこのポイントを通ればゲヘナの中心市街地でも風紀委員の詰所でも、なんなら私との合流場所にも行けるから」
「ありがとうございます、えっと……」
その後、逃走のルートまで丁寧に説明までし始める。
「……ああ、そっか。会った覚えはあるけど、声だけじゃ分からないよね」
突然すぎる状況に戸惑うアリス達に声の主は皮肉げに嗤ってから、フードを脱いで。
「……一応、言っておくけど馴れ合うつもりはないから。好きに利用してくれていい、私もそうする」
肩まである真っ白な髪を揺らした。
そう言って、赤い眼がアリスを見つめていた。
1じゃんね☆
とりあえずここまででストックはおしまいじゃんね☆
毎日3回更新はきっつかったじゃんね☆
次スレはまたいつか、建てたらあらすじと活動報告とこのお話(152話)の後書き追記って形でお知らせするじゃんね☆