【
【
【あらーとは無視、事象展延傘展開、情報遮断範囲指定】
【MAC起動……
おや、大変そうだ。私も何か手伝おうかな?
【……結構です、邪魔しないでください】
やれやれ。お姫様は虫の居所が悪いみたいだ。それならボクは邪魔にならない程度に見学するとしよう、黙って、ね?
【はぁ───声は願いに、私の指は世界を繋ぐ】
【……特異点との接触を確認……おーるいえろー】
【
【これより観測を】
【いいえ】
【修正を開始します】
【それでは皆様】
【良き閲覧を】
【⬛︎日⬛︎午前/回⬛︎⬛︎⬛︎ン⬛︎⬛︎⬛︎】
【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎自治区・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎】
【Recommend BGM……〈記憶の回廊〉】
道を、歩く
木々の香りは優しかった
空気は柔らかくて陽射しが気持ちが良い。
いつもと同じように小鳥達の歌がこの道には流れている。
囀りだけが、耳を震わせる。
おはようと、声がする。
今日も一日頑張りましょうね、と。
しゃきっとしなさい、と誰かが笑っている。
宿題のどこそこが分からないんだと、普通の話に花を咲かせる。
友達がいる
友達が笑っている。
大好きな人が、ここにはいる。
ありふれた当たり前。
まだ未熟で不確かな明日。
私はあまりにも、幸福だった。
この道を歩いていく。
ちっぽけで当たり前で、だから愛おしい。
平凡な私がいつも通り今日の中で足を動かす。
見慣れた景色へ混ざるようにして流れていく。
通り過ぎる時間に幸福を噛み締める。
暖かな言葉と優しい友達。
ずっと欲しかった物が此処にはあるのだから。
今日は何をしよう。
どんな事をしよう。
胸が期待に膨らんでいく。
希望が燦々と視界を照らしている。
これから先に続く道にはきっとたくさんの笑顔が溢れている。
ああ、私はなんて幸せなんでしょう───。
【人理漂白⬛︎日目午後/特殊イベント導入】
【次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー・司令室】
【Recommend BGM……〈アージェンシー〉】
結論から言えば、だ。
この世界は一度ならず二度滅んだ。
というのは有り体に言ってしまえばこの船にいる誰もが知る事実でしかない。
少なくとも彼らはそう認識し、だからこそ抗う為に戦う道を選んだ。
誰が知るわけでも、誰に褒められるわけでもない。
ただ、生き残る為に。
この世界に残った人類は生存競争に挑んでいる。
その前線基地こそが、次元境界穿孔艦ストームボーダー。
地表全てが漂白され、凡ゆる生物の生存圏が剥奪された地球白紙化問題を解決する為に奮闘する善き人々。
人類最後のマスターを擁する、人理継続保障機関ノウム・カルデアという小さな希望の光が其処には灯っている。
地球の白紙化と時を同じくして出現した七つの異聞帯を踏破した最先端の人類の防人。
最後の戦いに向けて南極へと最後の航海を辿っている、そんな彼らのある日の昼下がりの事だった。
→「お待たせしました!」
→「藤丸立香、到着しました!」
アラート音が鳴り渡る廊下を駆け抜けて司令室へと飛び込んで来たのは一人の
そんな何処にでもいる、ごく普通の若者。
だが、そんな
───瞳である。
色ではない、そんな生態由来の持って生まれた特性の話ではない。
特別に目力が強いだとか目つきが悪いだなんて容姿の話ではない。
輝きだ、その瞳に映る生物として溢れんばかりの生命力。
死地にあろうと必ず生き抜かんとする逞しい人類の輝きが瞬いている。
若者の名前は藤丸立香。
数多の特異点を修復し、七つの異聞帯を踏破してきた、汎人類史上最も
「うむ。来たか、藤丸」
「アラートが鳴ってからジャスト一分。さっすがー」
そんな人類最後のマスターが足を踏み入れたのはストームボーダー内の舵輪が置かれた司令室。
これまで幾度も藤丸の戦いを見守り支え、指示を出し続けてきたもう一つの戦場であった。
→状況を教えてください
「うむ……まあ、なんだ。ちょっとばかし厄介でな……ううん、詳しい事はそこの技術顧問に聞きなさい」
駆け込んできた藤丸に声をかけてきたのは二人。
険しい顔をした恰幅が良い男の名はゴルドルフ・ムジーク。
錬金術の大家「ムジーク家」の当主にして見事な口髭が特徴の「人理継続保障機関ノウム・カルデア」の現所長である。
そしてもう一人が。
「おっとご指名だ。いやぁ、休憩中だったのにごめんね、立香
にこやかな表情が愛くるしい小柄な少女の銘はレオナルド・ダ・ヴィンチ。
汎人類史に燦然と輝く万能の人が手掛けた終生の作にして艶やかな栗毛が特徴の「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の愛娘。
そしてその小さな体でノウム・カルデアを支える技術顧問である。
→「大丈夫、しっかり休めたから」
→「ううん、書類片付けてたところだからむしろラッキー!」
→「カレー、パスタ、サルミアッキ……うっ、頭が……」
「君ぃ、あれほど私が報告書は溜めるなと言って……っと今はそんな説教をしている暇はなかったな。何せ我々は少々不可解な問題に直面しているのだから」
再度、ゴルドルフはそう呟くと目頭を抑えた。
頭痛かな、頭痛だろうなぁと藤丸は思ったがなんとなくそれを言うのはやめておいた。
流石に、第一級警戒体制を敷く為の
まさかそんな事はない、と藤丸は湧き立つ微妙にやるせない空気感を腹の底に抑えた。
それが徒労であるのもまた、数々の
「うん、大きなって程ではないけれどね。どちらかと言えば奇妙な、なんて枕詞がつくけれど……それでも問題は問題さ」
とはいえ、だ。
再度言おう。
藤丸立香は人類最後のマスターなのだ。
これまで人の身では到底抗えぬような天災と呼ぶべき事件を、ただ前を見て仲間と共に最前線で駆け抜けてきた
ダ・ヴィンチの言葉の端々から滲むものを読んで、自身が呼ばれた状況が只事でない事はとうに察しをつけている。
戦士にあらず、英雄にあらず。
されど生きる為に果敢に前を向く人類は、気持ちの切り替えを済ませている。
遊びのつもりは一切ない、ないったらない。
「……奇妙な、なんて言い方は本来であればナンセンスですが、今回に限っては間違いなくダ・ヴィンチの言葉が正しいでしょうね」
藤丸とダ・ヴィンチの会話。
奇妙、という言葉に疑問符を浮かべた藤丸に薄い笑みを浮かべて答える者がまた一人。
→「シオンから見てもそうなんだ」
→「よっぽど特殊なケース、って感じかな?」
「ええ。カルデアのデータベースを攫えば類似したケースは見つかるかもしれませんが……いやぁ、ナイナイ。今は考えるより先に口を動かした方が効率的でしょうし」
シオン・エルトナム・ソカリス。
魔術協会三大部門が一つ「アトラス院」が誇る才女にして霊子演算システム「トリスメギストス」「トリスメギストスⅡ」と次元航行機関「ペーパームーン」を創り上げた錬金術師。
彼女の言葉に、藤丸もただ頷く。
まずは状況の確認。
やるべき事、そしてできる事を考えるのはそれからだと判断した。
「お待ちしていました先輩!」
そして藤丸が最後に顔を向けたのは、そして司令室に入ったまず最初に目線を合わせた相手。
→「お待たせマシュ!」
→「おはよう、わたしの可愛いナスビちゃん」
霞色のショートカットが静かに揺れる下に咲いた笑顔。
とびきりの喜色に灯るのは溢れんばかりの信頼。
柔らかな微笑み共に白く滑らかな指をたわわに育つ実りの前で組む姿は、令嬢を思わせる貞淑さ。
そう、彼女こそが藤丸立香のファーストサーヴァント。
カルデアの堅き盾。
天寿の担い手。
始まりの妖精騎士。
最新にして最後に座す円卓の騎士。
カルデアが選ぶ春の盾持ち英霊選定委員会委員長。
世界一法螺貝が似合う可愛い後輩。
「はい!先ほど食堂でお別れしてから47分27秒振り……ではなく!んんっ、では僭越ながら現在の状況について私、マシュ・キリエライトの方からご説明します!」
驚くべき事であろう。
時間を覚えていた事ではない。
そんな事はマシュ・キリエライトからすれば些事でしかない。
───瞳である。
47分27秒。
たったそれだけしか離れていなかった。
たったそれだけの時間振りにまた顔を合わせただけなのだ。
だというのにマシュの目には純粋な歓びがあった。
心から信を置き、大切だと思えるパートナーと目を合わせて声を交わすその一瞬一瞬に愛しさを感じていた。
それほどまでの純粋無垢で丁寧に積み重ねられた絆が二人の間にはあるのだ。
「今から三十分ほど前に
とはいえ今は緊急時。
マシュも藤丸も気持ちをスムーズに切り替えて事態の把握と報告に努める。
しかし藤丸の中にまたしても疑問符が浮かぶ。
ノウム・カルデアの任務対象の一つである特異点。
人類の歴史の中で何らかの原因によって発生する
正常な時間軸から切り離されたその染みと呼ぶべき
そこに藤丸の疑問はない。
嘗ては
だから疑問を抱くとすれば、別の話だ。
→「あれ?微小?」
→「てっきりレッドアラートだったから大きめかと」
「はい、先輩。特異点自体の規模自体は大体数キロメートル程度の物です。ちょっとした市場、ぐらいでしょうか」
「おまけに反応は微弱だし特異点自体もかなり不安定みたいなんだ。魔力の流れだって計測する限り、
マシュとダ・ヴィンチが答えるように、「近未来観測レンズ・シバ」が観測した特異点の分類は
その名の通り規模は極めて小さく、放っておいても大型特異点とは異なり、基本的には人類史への大きな影響を齎すことがないとされる存在。
これまでのカルデア側からの対応を考えれば、少なくとも
では、警報を誤って鳴らしたのかと一瞬滑り込んだ思考を藤丸はそのまま流す。
誤報であったのならば真っ先にマシュがそう伝えることぐらい理解していたからだ。
ならば何故、微小特異点というリソース確保に赴く程度の危険性が低い案件で、藤丸は呼び出されたのか。
「だからもう少し精査して、それから君に知らせようと思ってたんだけど……
単純なこと。
事情が変わったのだ。
「ストームボーダー内で魔力反応が感知されたんだ。それについては偶然手が空いていたサーヴァント
「不安定だった微小特異点がゆっくりとですが安定化及び活性化を始めました。ダ・ヴィンチちゃんやシオンさんの考えでは成長中と言う他ない状態だそうです」
今まで反応が無かったものが急に動き出したのと同タイミングで起きたカルデアの異変。
確かにそれはたかが小規模と切り捨ててしまうにはあまりにもリスクがある。
だからこそ、念には念を入れての緊急招集となったのだ。
「トリスメギストスⅡからの回答でも我々が感知した魔力反応の持ち主と特異点の安定化には密接な繋がりがあるとあった」
「というわけでだ、藤丸。貴様には準備が整い次第、直ちに現場へと向かい微小特異点の調査及び問題解決に動いてもらう」
→「了解!」
ゴルドルフの言葉に藤丸は二つ返事をする。
現状、直面している把握は出来た。
ならば後はブリーフィングの後に行動に移るだけ。
既に歴戦のマスターの心の備えは出来ている。
「さて、じゃあ今回のレイシフト適性があるサーヴァントに関して説明していこうか。今回特異点に同行できるサーヴァントは一騎だ。どうやら今回の微小特異点は安定化した事でちょっと
「本来なら私も含めてかなり数のサーヴァントの方が適性ありと判断されていたんですが、安定化してからは限定されてしまって……レイシフトが可能な方のうち、最適となると
マシュはそう言って残念ですと萎れるが、宜なるかな。
彼女は藤丸立香のファーストサーヴァントであり、
藤丸と共に特異点に出向くことが出来ないのを歯噛みしてしまうのも仕方なかった。
「その内の一騎についてはこの後私の方から話を通して合流してもらうよ……さてさて、以上になるけど何か質問はあるかい?」
とはいえ、マシュの事を思えばそれこそ迅速に特異点を修復してしっかり無事に帰還する事が必要。
ならば、今すぐにでも準備を整えてブリーフィングを、と普段の藤丸立香なら動くのだが。
→「ええっと、じゃあ……」
→「とりあえずさっきから聞こえているし」
もう一度言っておこう。
宜なるかな。
こればっかりは仕方なかった。
→「そこの泣いてる子について教えてもらっても良い?」
【Recommend BGM……〈Operation☆DOTABATA〉】
「た、たしゅけてくだしゃぁぁぁぁい」
だって、司令室に入った時から部屋の隅っこでずっと泣いているものだから藤丸も気になって仕方ないのだ。
しかも、だ。
カルデアに所属する全サーヴァントと契約している
→「多分自分の知らないサーヴァント、ですよね?」
→「
一言で言うならば、そう。
誰だコイツ、である。
「そうそう、その子がさっき言ってたストームボーダー内で突然確認された
「ついでに言えば目下、微小特異点発生と関わりがありそうな
不安定状態だった微小特異点が緩やかにとはいえ活性化するのと時を同じくして現れた魔力反応。
その正体が今司令室の隅っこで体育座りをしている未確認のサーヴァントであった。
→「じー……」
もうどう考えたってコイツが黒幕かその関係者だろ、と司令室内のスタッフ一同の考えは見事に一致していた。
「ごか、ごかいなんですぅぅぅぅぅぅ!」
「ええい!何が誤解であるものか!いきなり食堂に現れて無銭飲食を働いていた不届者め!というかタイミング!もう関係者だって行動で言ってるじゃないの、君!」
何が誤解だと怒るゴルドルフの言葉に肩をびくつかせつつ、しゃくり上げながら不審者サーヴァントは釈明を始めた。
そう、不審者としか言いようがなかったのだ。
「ぇぐっ……ひぐっ……だ、だってぇ……」
身長はセイバーのサーヴァントで言えばアルトリア・ペンドラゴンと同じかやや高い程度。
紺襟のセーラー服の上から白いカーディガンを羽織った現代風、というか丸っきり学生服。
極め付けが顔に被った覆面であった。
顔に被っているそれは、如何にもその場でくり抜きましたと言わんばかりの覗き穴が施された
おまけにどんな意味があるのか手書きで大きく額のところに5と書かれている。
そして終いには頭の上にある霞んだ謎の円環と、鶏と河馬を足して割らなかったような意匠のリュックサック。
もう、どこからどう見ても完全に不審者であった。
「お腹空いててぇ……しかも紅茶の良い香りもしてぇ……案内してくれたスタッフのお兄さんとぉ、赤いコックさんとぉ、ひっく、優しい赤髪のお姉さんがぁ、たべっ、食べてもいいよぉって……!」
違う、そっちじゃない。
そんな風に司令室内のスタッフ一同は思ったが、口には出さなかった。
その動機を一言で言うならば、情けだろう。
→「ええっと、君は?」
→「どこから来たか、お名前とお家言えるかな?」
藤丸はぐっと堪えた。
ここでツッコミを入れると絶対に収拾がつかなくなるとわかったからだ。
故にこそ、まずは名前から。
サーヴァントであるのなら真名、無理ならせめてクラス。
そして召喚された目的は言えるだろうと踏んで。
「わ、わかりましぇぇぇん……わ、私は一体」
藤丸の判断
問題があるとすればただ一つ。
「どこの誰なんでしょうかぁぁぁぁぁぁ……!」
完全にパニック状態かつ
→「お巡りさーん!迷子の不審者ちゃんがー!」
「いやですぅぅぅぅぅぅ!通報しないでくださぁぁぁぁい!」
お巡りさんだって迷惑である。
なんだったらカルデアにお巡りさんはいない。
仮にいるのだとしたら、真っ先にしょっ引かれるサーヴァントがそれこそ何騎もいる事だろう。
「というわけで此方が、現時点ではクラス、真名共に不明の、カルデア内で発見されたサーヴァントの方のようです。ええっと確認した限りでは敵対するような意思や行動は……」
「なぃっ、ひぐっ、ないでぇすぅぅ……だからぁぁ……」
紙袋から覗く薄茶色の瞳から涙を滝のように流して釈明する不審者に皆が思う事は一つ。
不憫、であった。
→「ちなみにその紙袋は一体……?」
「わかっ、わかりませぇぇぇん……目が覚めた時からずっとこれでぇ、脱げなくてぇ、なんなんですかぁ!?この紙袋ぉぉぉ……」
君に分からないなら我々に分かるわけないだろう、と言いたいのをゴルドルフはぐっと堪えた。
彼は大人だった。
→「うーん、この感じ……」
腕を組んだ藤丸は天を仰ぐ。
そう、司令室に入ってマシュと目を合わせたその瞬間、というか耳に飛び込んできた啜り泣く声が聞こえてきたあたりで抱いていた不安。
それが今確信を伴って脳裏にはっきりと四文字を描いた。
「ひうぅ……一体全体、私どうなるんですかぁぁぁぁ……!」
→「久しぶりにぐだぐだしてきたぞぉ!」
即ち、ぐだぐだである。
あとどうなるかなんて、こっちが聞きたい。
【人理漂白⬛︎日目午後/特殊イベント導入】
【次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー・食堂】
【Recommend BGM……〈ありふれたメロディ〉】
「はぁ……美味しい」
あれから、と言うほどの時間は経っていない。
仮称不審者サーヴァントが現れた時には、昼休みということもあって慌ただしかった食堂がすっかり人の波が落ち着きを取り戻した頃。
藤丸とマシュは謎のサーヴァントを連れたって食堂で休憩をしていた。
→「エミヤが淹れてくれるお茶、すごい美味しいよね」
→「検査終わりの一杯は格別だね」
「はい、本当に落ち着きます……とっても丁寧に、それに茶葉もすごく香りが良くて……あっ、それからこのクッキーも!とっても美味しいです」
手に持ったクッキーを紙袋の中へと入れて食べる不思議な光景も少しずつ見慣れてきたのか藤丸もマシュも何も言わない。
なんだったら腹に口のような孔あるサーヴァントだっているのだ、今更である。
→「落ち着いたみたいで良かったよ」
「あぅぅ……お騒がせしました……」
ぺこりと小さく頭を下げる少女と思わしきサーヴァントは、司令室での騒ぎが嘘のように落ち着いていた。
それもその筈、あまりにも泣くものだから見かねた藤丸とマシュの案で、一先ずは休憩を兼ねた霊基の検査をする事になったのだ。
無論その間にはカルデアや今の状況についても軽くではあるが、検査を担当した医療スタッフサーヴァントから情報提供も受けている。
突然の召喚に、食堂から戦艦の司令室にいきなり連れてこられたりで自分の置かれた状況を把握しきれなかった彼女も、それでやっと一息つけたのだ。
そして今、検査結果の話をするために食堂へと戻ってきたという話である。
「おかわりは必要かな?お嬢様」
「クッキー、まだまだいっぱいあるから沢山食べてってね!」
少しばかりアフタヌーンティーに早い時間の、細やかな茶会。
食堂でしているとなれば、対応するのも必然的にそのスタッフ達であった。
「ええっと、エミヤさんとブーディカさんでしたよね……?お食事と紅茶、いえ今もですけど!その!ありがとうございました!あの時は本当にお腹ぺこぺこだったのですっごく助かりました!」
英霊エミヤ、そして英霊ブーディカ。
現在のノウム・カルデアがまだ本拠地を南極に置きフィニス・カルデアと呼ばれていた頃。
つまり魔神王ゲーティアによって引き起こされた人理焼却の解決のため、藤丸達が特異点修復に奮闘していた頃より厨房と戦場を担ってきた古参のサーヴァントである。
「構わないとも。聞けば記憶喪失だとか、突然の召喚で君も驚いただろう。私も覚えがある、あれは中々に焦るものだよ」
「どういたしまして。泣きべそかいて食堂に現れるもんだから驚いちゃったよ」
必死に何度も頭を下げる少女の姿に、二騎は微笑みを返す。
見た目はどう繕っても不審者だが、よくよく見てみれば小柄な体躯に紙袋から流れる亜麻色の髪。
そして明らかに幼さを残す声と瞳。
敵意の一つも感じさせない、それどころかサーヴァントとは思えないほど普通さを感じさせる少女にしか見えないのだから。
もっとも、頭に被った紙袋で台無しだが。
→「あれ?食堂に現れたとかなんとかって」
→「確か新所長が……」
「あはは……最初は廊下、なんですかね?意識がハッキリしたと思ったら周りに人はいないですし、窓を見たら空の上だし地上は真っ白ですし……」
→「やっぱりビックリするよね……」
→「じゃあ召喚されたのも」
「うぅ……自分が
がっくりと肩を落とす彼女は申し訳なさそうだが、藤丸達は気にしないで良いとしか言えない。
むしろ少女の気持ちを思えばパニックになるのも仕方ないと言えるだろう。
明らかにサーヴァントである自覚意識が薄く、召喚された経験と
おまけに生前と思われる記憶すら、医療スタッフの問診を通して思い出せない状態だと診断を受けている。
「気を落とされないで下さい!
「あの鳥さんみたいなマスクつけたお医者様が……そうですか、ならちょっと安心かもです。ありがとうございます、マシュさん!励ましてくださって」
その医療スタッフは非番で不在にしていた白衣の
「私本当になんにも分からなくって、とにかく目が覚めてから廊下にいて、ここがどこかも分からなくって……それで廊下を歩いていた眼鏡をかけたスタッフのお兄さんに会って……」
つまり彼女は目を覚ましたら知らない場所で、しかもはるか上空を戦艦で飛行中で、挙句に知らない人間に連れ回された、というわけだ。
普通の人間なら、普通の感性なら、パニックにならないわけがない。
→「それでそのまま食堂に?」
「はい、その方はとっても良くしてくださってマスターさんの所にまずはって。でも私、その時どうしてだかすごくあの、ちょっとはしたないんですけど……」
眼鏡、お兄さん、スタッフ。
この三つの単語から頭の中に何人か候補を挙げようとした所で藤丸は考えるのをやめた。
いつだったかの
なんだったら人間のスタッフにも眼鏡の職員はいる。
「お腹減ってたから食堂まで案内されて来たんだよね?本当、お姉さんも最初見た時はびっくりしちゃったなぁ……でも美味しそうに食べてくれて嬉しかったよ」
「はい!だってとっても美味しかったですから!ご馳走様でした!……あ、あの、ええっと、それで、そのぉ……」
ブーディカ達と楽しく喋っては紅茶とお茶請けについてもっと詳しく味の感想を言おうとしたタイミングで少女の視線は二騎から外れる。
何やら思い出しようにして、躊躇いがちに藤丸とマシュの方を見た紙袋に対して二人は顔を見合わせてから小さく頷いた。
→「そうだね、マシュ」
→「お願いできる?」
「分かりました、では検査結果の方のご説明をしていきますね」
「はい!よろしくお願いしますね、マシュさん!」
背筋を伸ばした少女の姿に微笑ましさすら感じながらマシュは端末に届いた検査結果を読み上げていく。
「幾つか霊基の検査を行ったところ、間違いなくサーヴァント、それも
「み、みたいです!ただ、
疑似サーヴァント。
カルデアにいると忘れがちになるが、通常は召喚される事自体がまずあり得ない
通常魔力で構成される霊基とは違い、依代となる人間の肉体を器として召喚される特例である。
→「無理しなくて大丈夫だよ」
→「自分のペースで良いんだよ、ゆっくり行こう」
「あぅ……ありがとうございます、マスターさん」
本来であれば依代側であれ英霊側であれ、どちらかのパーソナリティを軸にしつつ記憶も保持されるのが一般的、とカルデアは記録している。
だが目の前の少女にはどちらの記憶もないのだと言う。
「記憶に関しては先ほどもお話した通り、これからゆっくりと治療を。私の持つ医療関係の知識はあくまで応急処置程度の物ですが、カルデアの医療チームはどの方も世界最高峰です」
「マシュさん……」
「ですから大丈夫です、きっと良くなられますよ!それにチームの皆さんも急いで治療計画を策定されているご様子でしたから!」
「はい!ありがとうございます!」
その状態がどれだけ不安か、藤丸もマシュも推し量った上での気遣いを選択した。
ちなみに厨房スタッフは二騎揃って腕組みをして頷いていた。
後方保護者面とはこの事である。
「じゃあ、続けますね。召喚時の一般知識及びカルデアについての
「ええっと、多分使えるかなぁって……ホウグ、って言うのはちょっとやってみなきゃ分からないですけどぉ……」
「ええ、きっと使えますよ」
→「それぐらいならよくある事だしね」
スキルは使用可能。
ただし宝具については不明。
通常の聖杯戦争なら困るどころか噴飯物だが、カルデアのマスターは場数が違った。
宝具が封印状態なのも何故かスキルが使えない時も、折角こつこつ魔術やスキルで強化したのを呪詛で弾き飛ばされるのも、もう慣れっこなのだ。
「召喚に関しましてもこちらの召喚システムが起動した痕跡はなく、ダ・ヴィンチちゃんの推測では特異点ではぐれサーヴァントとして召喚される筈だったのが弾かれてしまってカルデアに来た、と」
「あはは……らしいですけど、私はそこら辺の記憶が曖昧というか朧げというか何にも覚えてないというか……でも」
改めて、と少女はそこでまた肩を落とした。
別に誰かに言われたから傷ついてだとかではない。
「聞けば聞くほど私って怪しいですね……」
客観的に見ても少女はどうしようもなく怪しかったのだ。
魔術的な観点となるがサーヴァントというのはそれ自体が神秘の結晶である。
そんな物がほいほい自然に現れるわけなんて、通常あり得ないのだ。
ましてや特異点と連動するように、その特異点を唯一解決できる組織の懐に現れる。
誰がどう見ても怪しい事この上ない。
そう思って少女がしょんぼりするのを、藤丸は明るく笑い飛ばした。
→そういう事もあるよ
→「バレンタインとかだといつの間にかサーヴァントが増えてるとか稀によくあるし」
「あはは……まっさかー!……えぇ、本当にそんなことあるんですか?」
あるのだ、カルデアでは。
大体夢の中だったりバレンタインの時期だったり、そういう時に何故かサーヴァントがふらっと立ち寄るように現れる事が稀によくあるのだ。
そんな話にエミヤ達も交えて花を咲かせたところで、藤丸は初めて少し困った顔をした。
そろそろ、聞いておかないといくらなんでも
→「それでええっと」
「そうですね、そちらについては自己紹介という事でよろしければ……」
察したマシュも苦笑を浮かべながら、少女へ申し出る。
真名とまではいかなくても、せめてクラス名だけでも言ってもらえないと呼びにくくて叶わなかったからだ。
そんな二人の様子に少女は慌ててながら手を振った。
「へ?……あ、ああ!私ったらうっかり!クラスと真名ですね!」
→「あれ、真名は分かるの?」
「あはは……なんとなく頭に浮かぶので。って言っても名前だけなんですけどね……」
頭、ではなく紙袋を恥ずかしそうにかいた少女は咳払いをしてから立ち上がる。
その拍子に机に膝をぶつけて痛がってるのを見て、藤丸の頭のメモ帳に「不器用」の三文字をメモした。
「と、とにかく!改めまして!」
再度、照れつつも胸を張った少女はカルデアに来てから、問診でも
「カルデアのみなさん、初めまして!」
それが、その瞬間が。
少女が召喚されてから世界に初めて届いた名前。
世界に刻みつけられた最初の記録。
「私のクラスは
本当に短くて、青空に輝く向日葵のように鮮やかな。
ファウストと名乗る紙袋の少女と。
「よろしくおねがいしますね!カルデアのマスターさん!」
人類最後のマスターが過ごした小さな小さな物語の始まりであった。
1じゃんね☆
とりあえず本編の補完の補完の補完……ぐらいのノリな短編じゃんね☆
本編時空だと黒服相手に「お話」してるヒフミちゃんだけど、こっちはこんな感じで楽しい夏休みというかモラトリアムでバカンス気分じゃんね☆
1的にも懐かしい子やら懐かしいスレでの書き方出来て楽しかったじゃんね☆
それでは改めてまして、アンケートへのご協力ありがとうございましたじゃんね☆
次回(奏章Ⅳクリア後から執筆開始GW中に納品予定)、維新のライダーさんには登場してもらうじゃんね☆
ひねってたから真名、分かりにくかったらごめんなさいじゃんね☆
……FGO的にてっきりキャスターかバーサーカーあたりになると思ってたから焦ったじゃんね☆
今日のお昼からの更新は本編の続き、まーた黒服と話していくじゃんね☆
よかったらまた読んでやってくださいな!じゃんね☆