阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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【彼が選ばれましたか】
【ということは現地で汲み上げられるのは】
【……彼女になりますね】
おやおや、弱気な発言だ。いくら私も君も干渉出来ないとはいえ、お相手は百戦錬磨のマスターと維新の英雄に神代の忘形見。そんな彼らエスコートではご不満かな?
【不満なんてありません】
【修正は恙無く終わるはずです】
【ただ……そうですね】
【感傷と、後悔はあります】
そうだね、その通り。君はそれを感じ入る権利がある。他の誰が否定したとしてもね
【これは私のミスです】
【彼が選ばれたという事は恐らく縁】
【或いは】
【……そういうことでしょうから】





★123話突破記念短編「ヒフミちゃんinカルデア」(2)

【人理漂白⬛︎日目()()/特殊イベント導入】

【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎】

【Recommend BGM……〈Colorful Beach〉】

 

 燦々と降り注ぐ太陽。

じりりと肌を焦がす熱は痛みにも似て、滲む汗が垂れて肌を滑るたびにこの場にいる誰もが()を思い出す。

 

「みなさん揃いましたよ〜!マスターさん、お願いします〜!」

 

 砂地、砂浜、或いはこう呼ぶべきだろう。

即ちビーチ、海水浴場。

夏の陽射しを受けるその下に響いたのは軽やかな甘い声。

呼びかけに答える少年(少女)もまた心躍らせながら首にぶら下げた()()()()()()()()()を手に取る。

マスターとして幾度も修羅場(トンチキ)を乗り越えてきた歴戦の少女(少年)だ。

 

「おっけー!任せて」

→「はーい、それじゃあ笑って笑ってー」

 

 というわけで、だ。

ぶっちゃけ今自分がしていることに人類最後のマスター(藤丸立香)はなんの疑問も持っていない。

なんだったら彼と契約し、この特異点に同行しているカルデア所属のサーヴァントも、そしてこの場所を今も観測しているノウム・カルデアのスタッフ一同も同じ。

彼らは、特異点でカメラを使って問題を解決する、というのも経験があるのだ。

 

→「へいよー!」

 

「「「「かるでらっくすー!」」」」

 

 なので、比較的順調かつ問題なく彼らはファインダー越しに収まった。

仲良く海に入っている三騎と一人。

サーヴァントとは、そして微小とはいえ特異点にいるとは思えない姿が、マスターの手でシャッターを切られて記録として収められる。

 

→「うん、いい感じに撮れたんじゃないかな?この」

 

 そして、小さな駆動音と共にインスタントカメラから吐き出されるのは、言わずもがな。

 

 

 

→「みんなが海で泳ぎの練習してる写真」

 

 

 

 一夏の思い出を焼き付けた、写真である。

 

「ああ、ありがとうマスター。水練なんて本当に久々だから、なんだかウキウキするね」

 

「龍馬もお竜さんも、夏の特異点でも泳ぐことはそんなにないからな」

 

「えぇ!?そっ、そうなんですか!?なら暑いですし折角のこの機会に「その代わり、田んぼにいる蛙を捕るのでずぶ濡れになるからね」……あはは……」

 

「以前田植えの経験はありましたが、泥だらけになる……というのも中々に新鮮で楽しい体験でした!ファウストさんも次の機会にぜひ!」

 

 霊基に紐づいているのもあるのだろう、紙袋を一切濡らすことなく浜辺へと戻ってきたファウストと水着姿のマシュ。

そして彼女達に続いて歩いてきたのは、同じく海辺で泳ぎの練習、という体で手を繋いでバタ足をしていた一組のサーヴァント。

ノウム・カルデアよりマスターと共にこの特異点へと派遣されたライダーである。

 

→「なにはともあれ」

 

「はい!お疲れ様でした、マスターさん!」

 

→「うん。これで()()()()()()はオッケーかな?ちょっと順番が前後しちゃったけど」

 

「あはは……ありがとうございました!さあ、それではマスターさん!改めて行きましょうか!」

 

 人類最後のマスターである藤丸立香とそのファーストサーヴァントであるマシュ・キリエライト。

そんなマスターと契約している二人一組のライダー、そしてアヴェンジャークラスで召喚されたファウスト。

二騎と二人の組み合わせで始まった微小特異点修復の任務が。

 

 

 

 

 

 

ウィッシュリスト(タイムカプセル)を埋めに───!」

 

 

 

 

 

 

こんな形になってしまった理由は、少しばかり時間を巻き戻す必要があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【人理漂白⬛︎日目午後/特殊イベント導入】

【次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー・食堂】

【Recommend BGM……〈妖精たち〉】

 

 サーヴァントとしての意識や自己認識に欠ける、そう話しつつもアヴェンジャー、そして真名“ファウスト”を名乗った少女。

聞き覚えのある、もっと言えばある意味で()()()()()()()()()()()()()()に立香達は目を見開いてしまう。

 

 藤丸立香というマスターは一般的な聖杯戦争に臨む魔術師達と違って、クラスに対して思うところというのがない。

生まれついての魔術師ではないのだから価値観も違えば、そもそもサーヴァントや聖杯戦争に対する目的意識すら真っ当なそれとは違うのだ。

当然と言えば当然だろう。

 

 ただし、目の前に座って紅茶とスコーンを楽しんでは幸せそうにため息を吐いた少女が復讐者のサーヴァント(アヴェンジャー)というエクストラクラスであったことには、流石に驚いてしまっていた。

アヴェンジャーという苛烈な生涯を送った者達が座すクラスには少々〈red〉似つかわしくない〈/red〉ほど穏やかな表情に、まるで裏表のない年頃の少女のようだと感じてしまうのは仕方ないことだろうから。

 

「あ、あぅ……私の真名、というかそのお借りしてる霊基のご本人さんはあんまりメジャーじゃないというか有名人ってわけじゃないですけど……あのえっと!」

 

 だからつい、藤丸(立香)もマシュも。

この場に同席していたエミヤとブーディカも少しの間だが意表を突かれて戸惑ってしまった。

それを何を勘違いしたのか、ファウストは慌てるように釈明を始める。

 

「ファウスト……さんっていうのはその、マジュツシ?とかレンキンジュツシ?みたいなことしてた人で!それで!」

 

  これに同じく慌てたのは立香(藤丸)達だった。

何もファウストという名前を知らないわけではない。

無論、ファウストという英霊本人がカルデアに召喚された事例はこれまで一度としてないが、ファウストの関係者自体はそれこそ今のカルデアがノウム・カルデアとして新設されるより前から付き合いがあるのだから。

 だが、それを釈明しようとするよりも早く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()さんみたいでして!と、とにかく!何も出来なかった無能な私と違って歴史に名を残したすごい人、みたいです!私もそんなによく分かってないんですけど……」

 

 気になる言葉がファウスト本人の口からこぼれ落ちた。

 

→「ゲヘナ?」

「どこかで聞いた事があるような、ないような」

 

 たった一言、だが気せずこぼれ落ち重要なヒント。

長く人理修復に尽力してきて魔術世界についても多少なりとも明るくなった人類最後のマスターは、その引っかかりを当然のように頭の中のメモ帳に書き加えた。

 

「ええっとゲヘナって言うのは、ゲヘナって……()()()()()()()()()()()おかしいな、私今、ちゃんとドイツのって言おうと……えと」

 

 その間、マスターからの問い掛けにファウストは答えようとするものの、戸惑うばかりでいた。

まるで何故そんな風に口から出たのか自分自身理解できないと言わんばかりに、自覚ない発言へ困惑を極めている。

 

→「マシュ、分かる?」

「ゲヘナって言うと確か……」

 

「……ふむ、ちょっと待ってもらおうか」

 

 だから、マスターとマシュが答えを出そうとして、それを遮る形でカルデアが誇る調理スタッフ兼ドンファンが助け舟を出してやることにしたのだ。

 

「ゲヘナというのは、古代エルサレムにあったとされる谷の名だ。十字教においては地獄を指す言葉であり、尽きる事のない業火の池で罪人を永遠に罰し続けるという、悪性の処刑場。歴史上ではエルサレムがカナンと呼ばれいた時代に城門の外に広がるヒンノムの谷の事で、ゴミの焼却場として活用されてきた」

 

→「え、エミヤ……?」

「急にどうしたの?」

 

「ふっ……いやなに、たまにはと思ってね。村正ばかりに良い顔をさせてはいられないのだよ」

   

 エミヤのおかげでマスターは思いがけず得難い情報を手にした。

記憶喪失の疑似サーヴァント。

英霊側の生前の記録どころか、依代側の記憶すら持たない少女の生来の姿を辿る道標になるべあろう言葉であることに違いはないのだから。

 

→「と、とりあえず」

「なにはともあれ」

 

 まあ、少しばかり早口だった為に余計な混乱を招きそうになったのはご愛嬌と言ったところだろう。

なんの話だという突っ込みを今更するのも野暮というもの。

長いカルデアでの生活でマスターは英霊という、人類史でも稀に見るような際立った性格の持ち主達との共同生活を過ごしてきたのだ。

今更些細な疑問で話を止めたりしない、というかスルーして元の話題に修正する技術を得ていた。

かつて右も左も分からなかった少女(少年)は大人になったのだ。

 

→「ファウストって呼んでも良いかな?」

 

「はい!勿論です!……あんまり、やっぱり……お恥ずかしながらそのファウストっていう英霊さんだって自覚はないんですけどね……」

 

「孔明君とか磯良ちゃん達なんかもそうだけど、疑似サーヴァントって難しいからねー」

 

 無意識にだが腕を組んだことでたわわに実った果実を強調しているブーディカの頭の中に浮かぶのは時計台の名物講師とカルデアキッチンのウェイトレス。

どちらもサーヴァント側より依代となった人物の意識が主体となっていることもあってか、特に後者の少女二人は初めて召喚された時はサーヴァントだという意識が全くないという事例もあったのだ。

ファウストもまた同様に、自身がサーヴァントの依代である事どころか、疑似的にではあれサーヴァントとして霊基と霊核を有している今の状態すらあやふやな理解しか抱けてないのだという。

ブーディカの悩ましげな顔も然もありなんというところだ。

 

「んー、ファウストかぁ。確かあれだっけ?ほら、メフィストフェレスの」

 

「ブーディカさんの仰られる通り、ファウストという英霊とメフィストフェレスさんは切っても切り離せない関係です。メフィストフェレスさんが言うには生前は卓越した錬金術師ではありましたが、名声欲が強く……で、ですが!」

 

 そう、メフィストフェレス。

道化師の装いそのままに奇異で奇想で奇妙な言動には常に冷徹な狂気を潜ませる、カルデア要注意人物の一騎。

そんなキャスタークラスで人理修復に際し召喚されたかの英霊とも、カルデアはそこそこと呼ぶには長過ぎる付き合いがある。

言ってしまえばそれなりに個人的(パーソナル)な部分の話もある程度聞いていて、だからこそマシュは言い淀んでから慌てて訂正の為に口を開いた。

どう考えても、メフィストフェレス本人の口から聞いた生前の主人(マスター)評は、目の前に座る紙袋を被って今もなお少しばかり不安げにしている少女へ告げるには少しばかり不相応だったからだ。

 

「ファウストさんはとても穏やか方ですし、あまり似ておられないように思います!ですからその、私達が聞いていた話や史実の情報というのは当てにならないと私は判断します!」

 

「あはは……気遣って下さって下さってありがとうございます、マシュさん。ええっと、そういうわけでマスターさん……?」

 

 力強く頷いてみせるマシュの勢いに押される形でまた笑みを浮かべると、ファウストはマスターの方へ視線を向けた。

もっとも、紙袋越しなので分かりにくかったが。

 

→「はい、マスターです」

「うん、どうかした?」

 

 それでも人類最後のマスターは彼女の視線を受けて至極和やかに落ち着いた様子で言葉の続きを促して待つ。

静かな姿に乱れはなく、その青空(太陽)の瞳を見て召喚されてこれまで焦燥と不安と嫌悪に揺らめくファウストの内心まで凪のようになるのを彼女も自覚し、紙袋越しにはにかんで。

噛みながら伝えることにした。

 

「私はそのぉ、カルデアのサーヴァントってわけじゃないですし、ダ・ヴィンチちゃんさんって方の話だとどうやら魔力供給だったりの心配もいらないとかなんとかなんですけどぉ……」

 

 おっかなびっくり、恐る恐る。

ゆっくりと回り道をしながら話すのはファウストの生来の性だろうか。

無論、その話にどこまでも付き合うつもりが藤丸立香(マスター)にはあるが。

 

→「そうなの?てっきりカルデアからしてると思ってた……」

 

 マスターだからこそ確認しなくてはいけない、聞き逃してはならない箇所を見過ごせなかった。

 

「先輩、先ほどお伝えしそびれてしまいましたがファウストさんの霊基は確かに十分な強度を備えておられますが……ただ、()()()()()()()()()

 

→「不安定?どういうこと?」

 

 強度はあるのに不安定。

特殊な召喚という事からもあまり嬉しい話ではなさそうだと立香(藤丸)が改めて座り直したところで返ってきた答えは、マシュからではなかった。

 

『本来であれば特異点の土地に召喚される筈だった彼女が今いるのは 特異点の外(ストームボーダー)だからね。辛うじて土地から細々と魔力の供給はされているんだけど、召喚時のトラブルが霊基の形成に幾らかの影響を与えてしまったようなんだよ』

 

→「ダ・ヴィンチちゃん!」

「もう準備は良いの?」

 

『やっほー!みんなのダ・ヴィンチちゃんだよー!調子はどうだい?ファウスト』

 

 明瞭、簡潔、尚且つ明るく。

カルデアの技術顧問、レオナルド・ダ・ヴィンチからの通信であった。

 

「あ、はい!もうすっかり!お食事もご馳走になって元気いっぱいです!」

 

『それは重畳。検査結果を見るに戦闘は可能だろうけど記憶障害が残るようなダメージを召喚時に君は受けているようだからね。何か不調があればすぐに言ってほしい、特に()()()()()()()()()()()()

 

「これから、ですか……?」

 

『うん。それについても説明したいところだけど、その前に。立香(ちゃん)の問いに答えを返さなくてはいけないね』

 

 何用か、言わずとも知れた事だろう。

前置きの必要はない。

何せ、修正すべき特異点は確認されているのだから。

ならば答えは一つ。

 

『諸君、司令室に集まってくれたまえ。レイシフトの準備が整ったよ』

 

 戦場への出立の支度が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【人理漂白⬛︎日目午後/特殊イベント導入】

【次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー・司令室】

【Recommend BGM……〈刃の影〉】

 

 ダ・ヴィンチからの指示を受けた藤丸(立香)、マシュ、そしてファウストの二人と一騎はエミヤ達と別れて食堂から再び司令室へ。

 

「まずは君達がこれから向かう特異点についての説明をするね」

 

 そこで始まったのは、特異点修復に向けてのブリーフィングであった。

 

()()()()()()()()()()()()()()。基本的にはかなり小規模な特異点だ。想定される占有面積も予測される最大で小さな町程度。測定する限り脅威と呼ぶべき魔力反応も存在しない」

 

「魔力反応が小さい、ということは聖杯が?」

 

「流石歴戦のサーヴァントだ。すっかりこの手の状況もお手のものだね、マシュ。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 困ったというように軽くため息を吐いたダ・ヴィンチはモニターに映し出した魔力反応の数値を今し方司令室へと来た三名に見せる。

そこにあったのはこれまでカルデアで対処してきた特異点と今回の微小特異点の含有魔力量の比較。

グラフを見る限り、数値は微小特異点である事を踏まえてもこれまでの特異点より明らかに小さい事が見て取れた。

 

「だからこそあくまでこの微小特異点の発生は他の特異点等が発生したことによる偶発的な連鎖だと我々は結論付けた。それぐらい、この微小特異点の危険性もそして特異性もある一点を除いて今なお低い」

 

「一点、ですか……ダ・ヴィンチちゃん、それは?」

 

「徐々に特異点の規模が拡大していることだよ。ただこれは特異点の崩壊事象に伴う一時的な現象……という可能性がないわけでもない。なにせ」

 

 ダ・ヴィンチが悩ましげに眉根を寄せつつ腕を組む横で、眼鏡の位置を直しつつシオンが言葉を引き継いだ。

 

「ない袖は振れない、というヤツです。つまり、あの特異点は拡大はしているけれど、どこからか魔力を産み出して純粋に大きくなっているわけじゃない。薄平たく引き延ばしている……とでも言いましょうか?」

 

「正直トリスメギストスⅡからの回答も()()()()()()()()()()()()、だからね。聖杯もないし今すぐに赴く必要性と優先度はかなり低い」

 

 カルデアの介入の必要性がない特異点。

言うなれば放っておいても人類史になんの影響も与えずに消え去るだけの汚れ。

ならばどうして今、わざわざブリーフィングを開くのか。

 

「とはいえ、これまであまり見られなかったレアケースなのも事実だ。そういう訳だから今回はリソース回収ではなく、あくまでデータ収集に専念してほしい」

 

 言ってしまえば理由はそれだけ。

そもそも危険性も低いことがほぼ確約されている無害な特異点。

とはいえ珍しい、想定外の事象が起きている事も事実。

だから内部から調べて記録を取ってきてほしい、そういう事なのだと立香(藤丸)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ならば、彼女()がする返事は一つだろう。

 

「了解です!」

→「藤丸立香、いつでもいけます!」

 

 二つ返事にダ・ヴィンチや控えてるゴルドルフ新所長含めカルデアスタッフが頷きを返してから慌ただしく動き出す。

そうと決まれば、予定通り特異点調査への出立、その最終チェックを済ませなくてはいけないのだから。

 

「うんうん!良い返事!それじゃあ早速ぅ……今回の微小特異点調査に同行してくれるサーヴァントを紹介しようか!」

 

→「待ってましたー!」

 

「今回の同行サーヴァントの選定はかなりむずかしくてね。幸いマシュには適正があったけど、どうやら今回の微小特異点が不安定なのが原因してか適正のあるサーヴァントが極端に少なかったんだ……だからそれを加味して、彼らなら力になってくれると私達は判断したよ」

 

「ダ・ヴィンチちゃん達がそう判断したなら問題ないよ」

→「大丈夫、きっと上手くいくよ!」

 

「頼もしい反応だ!ありがとう、私達のマスター!それじゃあ私も気合い入れて案内しよう!おーい、入ってきてー!」

 

 掛け声に合わせて司令室の扉が開けば、一人分の足音が三名の耳へと届いた。

手入れの行き届いた上等な革靴が硬質な床を軽く叩く音は、静かでいて澱みもない。

そうして現れたの一対のサーヴァント。

 

「いえーい。お竜さんが来てやったぞ」

 

「やあマスター。新しい特異点の調査らしいね?ああ、概要なら説明を受けてるよ。どうやら僕達向けらしい」

 

 一言で言うならば白と黒。

白い詰襟に中折れ帽の伊達男は緩やかな笑みを蓄えて飄々と足取り軽くマスターへと片手を上げる。

そばに寄り添う濡れ髪の美姫、こちらは大正復古の趣きを感じさせる黒いセーラー服を纏って気怠げな目をしている。

 

「坂本さん!」

→「坂本御夫妻!!」

 

 そんな一組を見て喜びに声を大きくしたのは他ならぬマスターであった。

坂本、と呼ばれた彼らは照れるように頬を掻く。

 

「いやいや、照れるなぁ」

 

「今回はリョーマとお竜さんが一緒だからな、大船に乗ったつもりでいいぞ」

 

「あくまで調査だからね、お竜さん。そうそう、ええっと君がファウストさんかな?」

 

「は、はいっ!ふぁ、ファウストです!」

 

 肩をびくつかせつつ思わず大きな声で返事をしたファウストに苦笑を浮かべつつ、男は目線、と思われる覗き穴へと視線を合わせつつ自己紹介を始めた。

 

「そう、固くならなくても大丈夫だよ。僕はライダー、真名は坂本龍馬。こっちは相棒のお竜さん」

 

「……ふぅん、よろしくな鳥娘」

 

「こらこら、そんな風に他所のお嬢さんを呼ばないの」

 

「こっ、こちらこそです!よろしくお願いします、坂本さん!おリョウさん!」

 

「……ん」

 

 相棒だと紹介した翠髪の美女の軽口へ、肩をすくめる坂本龍馬にダ・ヴィンチは頃合いだと言うように切り出した。

 

「さて、夫婦漫才はそこまでにして。ファウスト、彼らが今回君が本来召喚されるはずだった特異点の調査に同行してくれる頼もしい助っ人だよ」

 

→「坂本さんは帝都で探偵してましたもんね!」

「坂本さんの宝具はすごいからね!」

 

「ははっ、こいつは参ったね。そうまで言われたのならいつも以上に戦働きを頑張ろうか」

 

「通常であればせめてもう一騎、と思っていたけれど、本当に適正の関係でね……というわけで坂本龍馬とその相棒に頼むことにしたんだ。これなら出力は別にしても実質二騎分の戦力で換算できるからね!」

 

 ダ・ヴィンチはそう言ってから一瞬だけ人類最後のマスター(藤丸立香)に視線を合わせてから、にやりと笑ってまたその細い腕を愛らしく上へと掲げた。

 

「それじゃあ準備が出来たら早速レイシフトだ!しっかり調査してたくさんお土産話、持って帰って来てくれたまえよ?」

 

 こうして、藤丸立香、マシュ、坂本龍馬とその相棒であるお竜さん、そしてファウスト。

都合五名による微小特異点の調査が開始されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燦々と降り注ぐ太陽。

じりりと肌を焦がす熱は痛みにも似て、滲む汗が垂れて肌を滑るたびにこの場にいる誰もが()を思い出す。

立香(藤丸)達が 疑似霊子転移(レイシフト)で降り立ったのはまさにそんな場所であった。

 

→「というわけで」

「特異点に辿り着いたんだけど……」

 

 砂浜、ビーチ、もっと言えば海水浴場。

パラソルにまばらに置かれたクーラーボックス。

飲食スペースと思わしき真っ白なテーブルと机。

立ち並んでいるのは店員のいない古ぼけた海の家。

 

 ほどほどに整備されたそこはほんの少し前まで現代日本で暮らしていた藤丸(立香)からすれば、如何に都会っ子とは言っても見慣れた景色である事には違いない。

つまりはよくある海水浴場だ。

 

→「来たはいいけど……無人?」

 

「誰もいない、は予想してませんでしたね……それに」

 

「通信も繋がらないな、つまりいつも通りだ」

 

「あはは……いつも通りなんですね……」

 

「お竜さん、そんなこと言ったら駄目だよ。ほらファウストくんも、そんな風に気落ちしない」

 

 立香(藤丸)達は周囲を見渡しつつ各々現場を把握していく。

ストームボーダーとの通信は途絶え、降り立ったのは何処とも知れぬ砂浜。

本来レイシフトで時代は中世、場所はロンドンを予定していた。

少なくとも日本語で書かれた写真付きのメニュー表や幟が立て掛けられているような海の家が並び立っている海水浴場が、ロンドンの筈がない。

そもそもロンドンは内陸、海に面していないのだ。

ここまで言えば誰もが理解するだろう。

 

「さて、と。マスター」

 

 藤丸(立香)も龍馬も()()()()()()()()()()、明らかなイレギュラーである、と。

 

→「うん、索敵をお願いしようかな」

「ファウストは一緒にいてくれる?」

 

 龍馬の言葉に藤丸立香(マスター)は頷きを返しながら自然体で指揮を出す。

行動範囲と機動力に長けたライダークラスである龍馬とお竜さんには周囲の索敵、守りの要であるマシュはその間のマスターの護衛。

不測の事態が起きたとしても最も長く、そしてマスターに次いで特異点修復に携わってきたマシュ・キリエライトが傍で守りを固める。

龍馬から文句の一つだって出るはずはなく、すぐさま諒承の返事があった。

 

「了解したよ。それじゃあマシュ、ファウストさん。軽く僕達だけで見れる範囲を調べてくるから、マスターのことをよろしくね」

 

 まずはこの浜辺の調査。

予定していた特異点には間違いなく到着している筈なのだから、ロンドンを示していた座標が何故こんな海辺の潮騒を奏でる浜辺に変貌しているのか。

その手掛かりを探す為に龍馬は足を踏み出そうとした。

 

 

 

「───リョーマ

 

 

 

 

「なんだい?お竜さん」

 

 静かでありながら石のように重い一声。

相棒からの()()へ、龍馬が返事と共に抜いたのは左腰に吊るした愛刀であった。

彼のその背にいるマスターとマシュもまた、異様な雰囲気に泡を食っているファウストを置き去りにして臨戦態勢へと流れるように移行している。

 

 周囲に漂う空気は張り詰めた。

()()()()()()が強く砂地を照らす中、焦れるようにマスターの頬を汗が伝って落ちる。

 

()()()()()()が来たぞ」

 

 その時であった。

ソレが現れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぺろぺろー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【人理漂白⬛︎日目()()/特殊イベント】

【⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎】

【Recommend BGM……〈Dive to the Fes〉】

 

 それを、何と形容すべきか。

砂浜の奥より煙のように現れたソレらは、まさしく名状し難き姿であった。

大きく丸く、そして()()()

幽鬼を思わせるその体色はどことなく血の抜けた死体を思わせて。

まさに、そう。

 

 

 

→「に、にわとりの幽霊……?」

「舌を出したカバ……?」

「シャンタク鳥の親戚……?」

 

 

 

丸々と太ってだらしなく舌を垂らした、鳥の幽霊の軍勢である。

 

 

 

「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺーねろぺー」「じゃんねじゃんね」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」「ぺろぺろー」

 

 

 数にして十五体程度。

決して多いわけではないが敵の戦力は未知数。

そしてその大きさも大の大人よりずっと巨漢、それこそ成人がすっぽり中に入れる入れる着ぐるみほどもあるのだ。

それがまるで隊列を組むように近づいてくる、威圧感は相当の物だろう。

ましてやこの場にいるのは、たったの五名。

数の差は凡そ三倍。

数的不利も状況の把握すらも後手に回らざる得ない状況。

 

→「それじゃあ」

 

 ならば、だ。

 

→「普段通りに」

 

カルデアのマスターはどうするのか。

決まっている。

 

→「気合いれて行くよッ!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 1/1

 

 

 

 

 

 

 

「前に出ようか、お竜さん」

 

「ああ!やってやるぞ、リョーマ!」

 

 マスターとサーヴァント。

両者の関係において、こと戦闘において圧倒的な埋められない溝が存在するとすれば、それはまさしく戦闘能力の格差に違いない。

 

「ファウストさんは私と一緒にマスターの護衛を!」

 

「は、はいっ!」

 

「ご安心を。大丈夫です、お二人が……いいえ」

 

 人類史に名を刻んだ英雄と只人の身ではどう足掻いても同じ戦場を共有する事が難しい。

下手な指示出しはただの子供の茶々入れか喧騒にしかならない。

ましてやただの青年、ほんの少し前まで魔術と何の関わりもなかった藤丸立香に何が出来るというのだろうか。

ああ、なるほど確かに。

それは実に真っ当な指摘である。

 

 

 

人類最後のマスター(私のマスター)がいてくれますから……!」

 

 

 

ここに、たった一つ。

この場にいるマスターこそが、生き残った仲間達と共に走り続け、遂には最前線で人理修復を成し遂げ、七つの異聞帯を攻略した人類最後のマスターであるという例外を除けばの話ではあるが。

 

→「よし、っと」

 

 既に抜刀して先陣を駆け出した坂本龍馬の背を見つめながら藤丸立香は(エネミー)を観察する。

特殊な守りや加護はない。

毒や呪詛を施してくる様子もない。

幸運や因果への干渉、果ては武芸によって致命の一撃(クリティカル)を連発してくる気配もない。

それらの様子を瞬時に把握し、何が坂本龍馬を補助しこの戦況を打破するのに最適かを己が経験から検索する。

 

→「()()()()()、かな」

 

 コンマ一秒。

そして、答えは確認するかのようにすとんと落ちてきた。

 

→「頼むよ(お願い)───オレ(わたし)のキャスター」

 

 簡易召喚。

契約しているサーヴァントから“抽出”した力を一時的に実体化させ戦闘に対応する即時召喚技術。

召喚されるサーヴァントはあくまでも力の具現化でありシャドウサーヴァントにも近いが、スキル・宝具共に十全に運用可能。

そして祈るように右手を強く握りしめて小さく呟けば、迸るは赤い閃光、黄金の粒子。

此度、令呪を基点に双方の魔術回路を繋いで現れるのは。

 

 

 

お任せを、合わせていきましょう

 

 サーヴァント階梯第五等級、群青の外套を翻すは楽園の妖精───アルトリア・キャスター。

 

 

 

 力の抽出時に組み込んだ指示に従い、アルトリアは淀みなく支援の魔術を前線で刀と拳を振るう坂本龍馬とお竜に向かって贈る。

月明かりのように清廉な輝きを放つ魔力は奔流となり、マスターとの繋がりを辿って龍馬達へと注がれる。

 

 

 

→「───坂本さんッ、頼みます!」

 

「お竜さん、出番だッ!」

 

「わかった、本気出す……ッ!」

 

 

 

 触れるか否かであった。

魔力が注がれたタイミング。

坂本龍馬達が丁度第一陣の攻勢を撃破し互いが距離を開いた、まさにその瞬間に合わせて。

 

「いぇーい。お竜さんの出血大サービスだ」

 

アルトリア・キャスターの支援は届いた。

 

「さぁ、海援隊の本領発揮といこうか!」

 

故に、するべきことはただ一つ。

 

「応ともッ! 天駆ける(あまかける)───」

 

 真名解放。

宝具に刻まれしその秘奥たる銘を謳い上げることで真価を発揮する奇跡。

そして坂本龍馬が担いしそれはランクにして規格外(EX)

現れるは神代よりまつろう大いなる龍蛇。

変じるは墨色の出立ちに身を包んだ黒髪の乙女。

 

 

 

 

 

 

「「───竜が如くッ!」」

 

 

 

 

 

純白の軍服を纏う男を背に乗せて、神代の龍蛇へと転じたお竜は目の前にいる小太りの鳥もどきを一掃せんと牙を剥いて襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂本龍馬の宝具『天駆ける竜が如く』。

お竜を本来の姿である龍蛇へと変じさせて、竜種特有の強大な力を振るうというもの。

通常の現界時には霊基に制限を設けられるほどの出力と影響力を持つ宝具による猛攻によって、三倍以上もあった数の差は瞬く間に塗り潰された。

その結果、ビーチは荒れ放題になったものの、鳥の幽霊達は綺麗に消え去っていた。

 

「……なんだったんでしょう、今の」

 

 戦闘は終了した。

損耗はほぼなし。

完璧な勝利を収めたと言えるだろう。

ならば次することは考察であり反省。

一体全体、先ほどまで相手にしていた敵は何者だったのか、ということだ。

 

「初めて見ましたね……あれ、でもどこかで見たことがあるような、ないような……」

 

 巨大化する謎の微小特異点。

レイシフト先は座標からは考えられない様相の場所。

果ては謎の『ぺろぺろ』とばかり鳴く血色の悪い鳥。

それを思い出してか、マシュの言葉に先ほどの戦闘では完全に置いてけぼりだったファウストも、困ったように頭を傾げている。

あんなもの、見た覚えがちっともないと言わんばかりに。

そして、この後どう動くかについてマスターが口火を切ろうとした。

 

 

 

 

 

 

「彼らの名前はペロロシェ、或いはペペローニ」

 

 

 

 

 

 

 まさにそのタイミングのことであった。

 

「マスター、下がって。お竜さん、頼むよ」

 

「任せろ。けど、アイツ……」

 

「よりその本質を辿るのならば、秘められし深奥たる哲理とは即ち───複製された過去(ミネシス)

 

 声に熱はなかった。

冷えているわけでもなく、ただ漫然とそこに漂う霞のように静謐で化粧をした音であった。

声の主はいつからそこにいたのか、長い金色の尾と耳を揺らしながら、いつの間にマスター達の背をとる形で瓦礫の上に腰掛けている。

 

「……ふむ」

 

 突然の声に臨戦態勢へと逆戻りしながら振り向いた彼らが目にしたのは、自分達を意にも介さずサングラスの曇りを袖で拭く少女の姿であった。

 

「どうやら、ああ努めてこのような言い方をする事に哀しみを禁じ得ないが、私は歓迎されていないらしい」

 

 目線は合わない。

腰の得物やその手に持つ盾に力を込めているというのに、何一つ気にした様子もなく少女は淡々と続ける。

 

「驚嘆を覚えさせるつもりはなかった、当然さ。何せこの出会い方に好意的な解釈の余地が残されているか否かに私の思惟は与しないのだから。であるならば、だ。私は今、正しく君達へ告げるべき言の葉を積み上げる必要があるだろう」

 

「おい、リョーマ。こいつ面倒臭いぞ」

 

「駄目だよお竜さん、そんなこと言っちゃ」

 

 長々と見向きもせずに一頻り喋り終えてから、小柄な少女はゆっくりとその瞳を藤丸立香達へと向けた。

 

【人理漂白⬛︎日目午後→午前/特殊イベント】

【常夏休暇記録・無為ヶ浜】

【Recommend BGM……〈Shining Seaside〉】

 

「曠古の邂逅なのだ、まずは……そうだね。こう言うべきだろうか」

 

 どこまでも静寂に満ちた声は先ほどまであった喧騒を幻想に帰す。

ただただ枯れ葉が落つるよう、彼女の声は沁みるように沈んでいく。

 

「待ち侘びたよ、カルデアのマスター。漸くだ、漸くこの茶番を終わらせられる……さぁ」

 

 喜びも哀しみも苦しみもそこにはなく。

もし色があるとするならば。

 

「───泡沫のひと時を楽しむとしようか」

 

 もしかするとそれは───安堵だったのかもしれないと特異点修復後に藤丸立香はぽつりと漏らしたという。

 

 

 

 

 

 

 





1じゃんね☆
活動報告でお伝えしたように入院中で中々書けないでいたじゃんね☆
……本当に遅くなってごめんなさい。
またこうして皆さんにお話を読んでいただけるようになって嬉しい限りです。
お待たせしてしまって、そしてご心配をおかけしてしまって本当にごめんなさい、これからはなるべく更新頑張っていきます。
今後とも何卒よろしくお願い致します……じゃんね☆

さて、告知じゃんね☆
というのも明日は後書きない、というか多分こういう形式じゃないから今日のうちにお知らせしとくじゃんね☆
明日8月23日土曜日の夜20時〜21頃に新スレをあにまん掲示板の安価カテで建てるじゃんね☆
またURLは貼るじゃんね☆
みんなに安価を募ってヒフミちゃんの行動を決めてもらって前回の続きからハッピーエンドに向かって物語の続きを作っていくじゃんね☆
よかったら遊びに来てみてほしいじゃんね☆
ご参加お待ちしております!じゃんね☆







気づいた人はエデン条約編好きすぎるじゃんね☆

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  • 3000文字〜4000文字
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