阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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【……漸く、ですか】
【些か疲れましたが今回もなんとか繋がりましたね】
【これでどうにか彼らに───】

「やぁやぁ、お疲れ様。こちらの調子はどうだい?」

【……冷やかしに来るなら少しは手伝って下さい】

「ははは、それは無理だよ。だってほら、私はしがたないただの観光客、だからね」

【はぁ……】

【それにしても幾ら裏口からとはいえ】
【こうも接続が不安定になるとは】
【全く面倒な……】

【いえ】
【そうですね】
【……あの子が、あの子達が面倒なのは以前からでしたか】

「驚いた。自己分析が的確だね」

【……年頃の女の子に向かってなんてことを言うんですか】

「いやいや、どうだろう。鏡に向かって喋る気分をお聞かせ願っても構わないかな?」

【……私はいいんです。これでも一応とはいえ長い付き合いですから】

「……それはまた」

【そういう可能性もあった、それぐらい言わなくたってどうせ観ていたでしょう?】

「……ああ、確かに。“今”見たとも。それならこれは、紛れもないボクの失言だね。謝罪をさせてもらってもいいかな?」

【結構です。言ったでしょう?長い付き合いだと】

「これはこれは、ふふっ。ああ、そうだね、一本取られたと言うべきかな」

【無駄口は結構です】
【分かったら早く向こうで続きを読んできて下さい】
【私たちには、いえ】

【───彼女達には時間なんてもう然程も残されてないのですから】





★123話突破記念短編「ヒフミちゃんinカルデア」(3)

 

【⬛︎園⬛︎⬛︎聖杯⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎か⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎日目⬛︎昼⬛︎/追⬛︎イベント】

【常夏休暇記録・無為ヶ浜】うそをつくな

【Recommend BGM……〈星空のヴェール〉】

 

 形だけ拵えられたビーチチェアは薄汚れていて。

きめ細やかな肌に煤けた砂が着くのも厭わず細い足を投げ出しながら一人座るのは金紗を揺らす小柄な影。

少々の行儀の悪さも今更と、ショウジョは欠伸をしながらサイドテーブルに置かれたグラスに手を伸ばした。

 

「飽きもせず、というわけか。それとも飽きられるのが先か……ああ、そうだったのならマシだったのに、ね」

 

 焼け付くように輝いても温度の一つもあげられない偽物の日差しの向こうから()()()()()()()が透けて覗くのを見て、嘆息を一つ。

いつも通り変わり映えしない日々のタイムリミットは少しずつ迫ってきている。

 

 変わらない、変われない。

そんな特異点にあって、けれど着実に色を薄れ始めさせる予兆にショウジョは今日も変わらず観測を続ける。

色を、景色を、空間を、そして音を。

聴き続ける。

 

「しかし、よくもまあ騒ぐことだ」

 

 五月蝿い、とショウジョが感じなくなったのはこの地で産み落とされて幾許もしないうちにであったという。

潮騒に混じって鳥とも河馬とも言えない怪生物の濁声がけたたましく響くだけの寂しい土地。

かつてあった喧騒は幻想に過ぎず、ただ狂おしいまでの郷愁だけが泥濘のように塗りたくられた場所。

 

 反吐が出る、とショウジョはずっと思っていた。

仕方ないことだった。

どうあってもショウジョはその生まれから主観(記憶)を元にしていて、だからどうあっても元いた彼女とは決定的に違う紛い物。

サーヴァントらしく用立てながらも、その実態は過去の残滓どころか記憶の一部に過ぎないのだから。

この地に想うことなぞ、下らないと自身が一蹴するような感傷以外には何もなかった。

 

「それで、だ」

 

 ただ日々を漫然と眺めて過ごす。

そんな名ばかりの管理が彼女の務め。

同じ時間。

同じ動き。

そして同じ音。

ずっと同じことを繰り返す茶番劇に欠伸以外を忘れる毎日。

 

 

 

「───いつまで独り言を喋らせる算段かな?」

 

 

 

 だから、その下らないルーティンワークの中に紛れ込んできた聞き覚えのない音には人一倍敏感であった。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 霞みの如き音はとても砂を踏んでいるとは思えない。

ともすれば風に吹かれて立ち消えるようなか細い煙を思わせる。

そんな小さな足音を狐のような耳で捉えたショウジョが声をかけた先。

夏の陽射しで影を伸ばすそこにもまた、一人のショウジョがいた。

 

 歳の頃は先に声を掛けたショウジョと然程変わりはないだろう。

背丈もまた同じく、精々が行儀悪くビーチソファに寝そべる彼女と比べて幾分か小柄なほど。

鏡面加工のレンズは海色に光を映しては燻んだ桃髪に乗せられている。

腰丈まである桃色を二つおさげに纏めるのは赤珊瑚。

丁寧に伸ばされているのに、けれど何処までも手入れが行き届いていない、そんなアンバランスさが嫌に目につく髪であった。

 

 そして同じように、血の一滴も通ってないかのような白い素肌に身につけるは同じ白く華奢な水着。

それを上から覆うのは濁った空色のジャケットと小脇に抱えられた鯨の浮き輪。

人気の全くない閑静さにこそ不釣り合いだが、ビーチという一点においては相応しい格好だけはしている、そんな不健康そうなショウジョがそこにいた。

 

「それは結構。いい御身分なことだ」

 

「うへー、言うねぇ」

 

 現れた鯨のショウジョに対して、呆れた吐息を一つ。

皮肉気に片目を細めたかと思えば「座るといい」と何ら見当たらない、強いて言えば贅沢にもクリスタルグラスが置かれたサイドテーブルぐらいだろうか、ビーチを指差しながら先にいたもう一人は声を掛けた。

 

「いやいや、本心だよ。一先ずの務めは終わったのだろう?」

 

 そんな彼女の仕草に疑問の一つも浮かべることなく、むしろ淡い笑みすら浮かべたまま「ありがとう」と口にした鯨のショウジョは虚空に手を掛けて。

 

「どうなんだろうねー」

 

 その指で摘むようにして引かれるその先にはいつの間に現れたのだろうか。

隣でくつろいでは海岸線を眺めている、先に居た狐のショウジョが座っているソファと瓜二つの物が現れていた。

 

「どっこいしょっと……お、今のはだいぶオジサンっぽかったかな?」

 

 不自然。

不可思議。

紛う事なき異常。

今この瞬間に形ある椅子が確かに何もない空間からずるりと、まるで今さっきからそこにあったと言わんばかりに現れた。

 

「それと例のアレね……まあ、ちゃんと届いたよ。って言っても余計なお世話だろうけどさ。なんだって今更、って言うのは流石にかぁ」

 

 これを異常と呼ばず何を異常と呼ぶか。

そしてそれは、ショウジョ達のいるこの地から遠く()()()()場所にいるサーヴァントの目からしても。

 

「まっ、どっちにせよかな?一応の保険、にはなるかもだしねー」

 

「無用の長物となるならそれに越した事はないさ。結局選択するのはいつだって今を生きる者の特権さ」

 

「おー、珍しくかしこそーな発言だー」

 

「賢いんだよ、こう見えてね。忘れたのかい?その昔、君にも机を挟んで教えた筈だよ、数ⅢC」

 

「うへー、懐かしー……んー、でもそこでその例え持ってくるのはちょっとヘボくない?」

 

 超常の存在たるサーヴァントであっても、異常と(そう)認識せざるを得ない事象であることを。

この場において二人は確かに理解していた。

 

「……まあ何とはあれだ。無事に済んだのなら重畳。そういう事なら君も暫くは余暇を楽しむといいさ。私達の中で君には随分と働いてもらったからね」

 

 だというのに、ショウジョ達は何一つ意に介した様子もなく、並んで寛ぎ始める。

自然。

ごく普通。

当たり前。

そうと言わんばかりの態度を咎める人間なぞ、この地にはもう誰もいないからだろう。

ショウジョ達は渇いた賑やかさだけが嫌に耳に劈くビーチで誰に憚ることもなく語り合う。

 

「んー、露骨に誤魔化した……でも、ありがとう」

 

 そしてショウジョは微笑った。

それにまたショウジョも笑みを返す。

だっておかしかったのだ。

どちらも同じように笑うのだから。

どちらも笑みを浮かべるというのには、あまりにも乾いていたのだから。

 

「どういたしまして。おっといけない、一言足りなかったかな?そうだね、こういう時「……でもさ」……ふむ」

 

 そしてそのまま終わるかと思った会話は、皮肉屋気取り(ショウジョ)からの謙遜と、何よりも感謝の言葉に、青褪めた痩せ犬(ショウジョ)が待ったをかける。

 

 

 

「“ランサー”ほどじゃないかなぁ」

 

 

 

 

漏れ出たのは呆れと微かな羨望が混じった、苛立ちにも似た呟きだった。

 

「……流石に()()()と比べるのは、ね」

 

 幾許かの空白がビーチに流れた。

喉の奥に詰まった物が流れ出るまで嫌になる程の時間でもかかったのか。

漸く口を開いた狐のショウジョからだらりと流れたのは、結局重たい同意からであった。

 

「流石、最優とまで評されたのは伊達じゃないよ。いやはや全く、艱苦に耐えるだけの身からすれば羨ましいほどだ。歯痒いほどに、ね」

 

 それでもなんとか口元を態とらしく歪めて、目の端を薄ら寒く細めて、いつもと変わらずと言った調子で皮肉を吐き出す。

無様も過ぎれば滑稽さすら見出す、というのは人類の醜悪な一面なのは間違いないだろう。

だが、悲しい哉。

 

「……なんか含み、ない?」

 

 長い付き合いだ。

鯨のショウジョには、彼女の早口に含まれる物が随分と複雑怪奇めいた色をしているのを何となくで感じ取った。

 

「そう聞こえたかい?なら結構。相も変わらずに耳がいいようで安心したいよー」

 

「うへー、それも言葉通りじゃないでしょ。やりにくいなぁ、もうっ……で、本音は?」

 

「……包み隠さず、というのは()()()()()()()()()のだけれどね」

 

 突かれると痛いということか。

皮肉のフックを掻い潜ってきたストレートに頬を引き攣らせながら今度こそ。

 

 

 

「彼女は我々の中でたった一人の離反者だ。流石に苦言の一つでも言わせてほしい」

 

 

 

狐のショウジョは憂うようにそうごちた。

重い、あまりにも重い独白にも似た毒であった。

元来の気質もあってか時折口にするモノよりなお、重く、鈍く、そしてずっと熱を持った毒。

 

「嘘はよくないなー。そーんなこと言ってずーっと心配してるくせに」

 

「……さて、どうだろうか。この私から言えることはそう多くないよ。何せほら」

 

 けれどその毒に嫌悪の一つも浮かんでいない事なぞ、鯨のショウジョにとっては百も承知で。

そしてそれが見抜かれることも分かった上で。

 

 

 

「仮初とはいえ我が身はエクストラクラス(アルターエゴ)を冠したのだからね」

 

 

 

 狐のショウジョは今度こそ誤魔化すように。

けれど何処までも、心の底から侮蔑するように。

その無様さを嘲笑うようにして呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【人理漂白⬛︎日目午前/特殊イベント】

【常夏休暇記録・無為ヶ浜】そんなものはない

【Recommend BGM……〈Vivid night〉】

 

「─── 私の銘は記憶のアルターエゴ

 

 波打ち際を遊ぶ細波混じりの静寂を破った声は、いっそ沈黙より粛としていた。

 

「不承不承ながらこの無為ヶ浜の管理人を任せられた、誰もが認める頭脳担当さ」

 

 自己紹介が始まったのは初めにカルデアと彼女が出会った場所から少し離れた空き家でのこと。

名も知れぬ小柄な少女からの「此処は些か陽射しが強い。如何だろう?河岸を変えるというのは」なんて提案を受けての移動先。

 

 朽ちかけて所々に破れのあるウッドデッキ。

一応の清掃こそしてあるようだが、全体的に薄らと埃を被った店内に人気も活気もありはせず。

だからカルデアのマスターはテラス席に疎に並ぶ、辛うじて生きていると呼ぶに相応しい様相の白化した籐椅子(ラタン)に腰掛けていた。

 

→「記憶?」

「おお、久々の真名隠しだー!」

 

 そんなカルデアのマスターの目線の先にいるのが件の自己紹介をする少女について(彼女)は。

 

「(特異点の管理……それだけじゃない)」

→「(このサーヴァント、結構目立つ特徴あるっていうのに)」

 

そんな感想を懐くのも無理はないという話だろう。

燻みがちながらもしっかり手入れの行き届いた稲穂髪は腰丈に、その続きには繋がるようにして地面に伸びる同じ色をした尻尾。

大きな狐耳の下にはクリアイエローが眩しいサンバイザー。

少々の汚れが目立つとはいえ明らかに 縫製が驚くほど丁寧(オーダーメイド)かつおいそれとは買えない高級品(ハイブランド)を思わせる作りの水着とジャケット。

これ以上ないほど外見的な特徴は多い、多いのだが。

 

→「(この子の真名が推測しづらい)」

「(アルターエゴって言ってるけど、少なくともカルデアに直接的な関係者は……いないのかな?)」

 

特徴と呼ぶべき特徴があまりにも異常を極めていた。

通常、サーヴァントが纏う霊衣というのは一部の例外を除けば生前身につけていたものであったり、その伝説や逸話における象徴的な姿だ。

 

「私としても真名を名乗ることが出来ないことが慚愧に耐えないよ。ただどうか許してほしい」

 

 ()()()()()()()

西洋美術で特に用いられる言葉である。

その意味は宗教画等で神や聖人、偉人を特定する為の持ち物や特徴的なシンボルを指し、そうしたシンボルから絵画の由来や背後のメッセージを探る学問を図象学(イコノグラフィー)と呼ぶ。

 

「この特異点と同様に、私というアルターエゴは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは……一体どういう意味でしょうか?」

 

「そのままだよ、盾の君。それともカルデアまたは円卓の騎士とでも?」

 

「あ、いえ!その宜しければ私のことはマシュ・キリエライトと」

 

 例えば『受胎告知』に描かれる聖母マリアや大天使ガブリエル。

彼女達のアトリビュートはその純潔性を示す白い百合だ。

他にも同じ大天使のミカエルともなれば戦いに勝利する者としての剣。

神話体系の違う所で言えば、エジプト神話で語られカルデアとも馴染み深い冥府神アヌビスのマアトの羽やジャッカルの頭。

それらが図象としての典型とも呼ぶべきアトリビュートとなるだろう。

 

「(名前のことはともかく……)」

→「(マシュのことも()()()()()()()()()恐らく知ってる、若しくは聞いてるんだ)」

 

 そしてこのアトリビュートは、サーヴァント達の姿にも時に反映されていることがある。

代表的なところであれば、ライダーで召喚される源頼光。

彼女が纏う大鎧と面頬は正しく、『酒呑童子絵巻』に名高い“首だけになっても噛みついた鬼からの一撃を防いだ”、そんな逸話の象徴とも言えるだろう。

また、『マハーバラタ』に描かれる大英雄カルナ。

彼もまた太陽神の象徴たる真紅の宝玉を胸に携え、同様にヒンドゥー教における太陽の威光を示す黄金が彼の宝具『日輪よ、具足となれカヴァーチャ&クンダーラ』に用いられている。

 

「マシュ・キリエライト……いと貴き輝きか。その盾を持ち、命の輝きに満ち溢れる君に相応しい名前だね。嗚呼……マシュ、か。君は、貴女は、マシュと言うんだったね。本当に良き名前だ」

 

「ええっと、そこまでお褒め頂くと恥ずかしいのですが……けど!ありがとうございます、記憶のアルターエゴさん」

 

「え?あの?アルターエゴってなんなんでしょう?私そんなクラス知らないんですが……!?み、みなさんは知ってる感じ……ですよね!」

 

 何せ英霊とは、英雄や偉人がその死後に人々によって祀り上げられることで成立する存在だ。

その成立において祀り上げられるとは、詰まるところ“信仰”である。

信仰という祈りを受ける以上、そこには人の想いが介在する。

当然ながら英霊というモノは生前丸のままではなく、人の祈りによって象られた存在となる。

即ち、アトリビュートなんていう単純明快かつ多くの人の共通意識としての指針は当然ながらある程度の影響を受けて然るべきなのだ。

そしてカルナの例のようにサーヴァントとはそもそもが各自の逸話や伝説そのもの象徴たる宝具を持つのだ。

殊更、サーヴァントというモノに対する図象的な見識というのは重要たり得るだろう。

 

「(……ただ、外見じゃ当てにならない事も多いからなー)」

 

 もっともそれはあくまでも、基本的な話。

有史以来、人々が捧げてきた祈りの数は果てしなく。

人々が歩み築いた人理の轍は果てしなく。

その時間分だけ、その世界分だけ、英霊は生まれた。

当然ながら、アトリビュートなぞ何の当てにもならないサーヴァントも数え切れない程だ。

その上で、だ。

 

「(ダメだ。全然分からない。というか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 件の少女にはそれら図象学の知識がまるで役に立たない。

確かに特徴(情報)は多い。

だが、()()()()()

カルデアのマスター自身が知らないだとかそういう次元ではなく、そもそも身につけた衣服等の意匠から人類が築き上げた図象学的見知から判断できる要素がまるでない。

マスターが感じた通り、高級品であるのは間違いないようだがどこまでも現代的な既製品に見えるのだ。

とてもではないが、英雄達が身につけた武具のそれにはとても見えない。

 

「(そもそも服装と言えば……)」

「(ファウストの格好も……もしかしてこの二人は)」

「おっと!残念だけどそこまでだよ、マイロード。今君に勘付かれると私どころか影にいる彼や妖精くんにも出張ってもらわなきゃいけなくなるからね。それは困る、すこぶる困るんだよ。流石に純粋な⬛︎⬛︎⬛︎相手はやり合いたくないのさ」

→「(それでも特異点に普段の姿じゃなくて、水着ってなると……)」

 

残る手掛かりは精々がその頭上にある大きな耳と腰から揺れる長い尾ぐらいだろうか。

こういったケースは確かにカルデアにおいて珍しい、というほどではないが。

 

→「これはもしかして夏のイベント……!?」

 

「はいはい、マスター。落ち着いて、落ち着いて。最近サバフェスに行ったばかりじゃないか。ところで、その記憶とやらについて僕たちに詳しく話をしてはくれるのかい?」

 

「……サバ、鯖?じゃあお魚さんのフェスティバルですかね?魚と言えば懐かしいです。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の合宿、私が夜に……あれ?私今なんて言おうとしましたっけ?」うそつき、ほんとうはおぼえてるくせに

 

 相手はよりにもよって水着霊基と思われる姿だ。

これはもう、まともに真名を予想しようというのが間違いとしか今の(彼女)には考えられない。

少なくとも、これまで数百のサーヴァントと決して短くはない時間を過ごしてきた(彼女)の目に映るその姿はそれこそ本当に、見た目相応の年頃に思えた。

 

「無論だとも。というより私の霊基とこの特異点の成り立ちは密接な関わりがあるからね。正しくとんだ貧乏籤を引かされた、そんな不幸自慢をこの後する予定さ」

 

「おっ、こいつがやっぱり黒幕か?」

 

「……何が()()()()なのかはさっぱりだが、取り敢えず話を続けさせてもらおうか」

 

 ちなみに間違っても私は黒幕じゃないよ、と疲れたというか遠い目をしつつ威嚇するお竜に返答した記憶のアルターエゴへ、いっそ不憫さすら感じつつマスター達は続きを促した。

 

「まず前提として、私は座に登録されるような真っ当な英霊でもなければそもそもサーヴァントでもない。あくまで疑似的に霊基を得た存在、ごく単純にこの特異点限りの限定お助けキャラぐらいに考えてくれたらいい」

 

「アルターエゴクラスというのはエクストラクラスの中でもとりわけ成り立ちが特殊です。ですが……」

 

「少なくともカルデアにいるアルターエゴと比べても、なんだったらこれまで特異点で確認されたサーヴァント達の中でもかなり不可思議な境遇のようだね」

 

「アルターエゴ……カルデアに戻ってからマスターかマシュさんか、それか()()親切にして下さった眼鏡のお兄さんか、それともエミヤさんかブーディカさんに……いえ、やはり今聞いて……!」

 

「不可思議っていうより不自然だぞ、コイツ」

 

「うぅ……た、タイミングが……」そう、あなたはいつもにげてばかり

 

 憮然と告げたお竜の言葉に、けれどマスターもマシュも反論は出来ない。

確かに、()()()であった。

 

 その異聞帯での成立したサーヴァント。

特異点での経緯を経て成立するサーヴァント。

時には英霊に至れぬ存在を無理やりにサーヴァントとして成立させる方法。

そういった事例というのは、人理が揺らぐこの世界にあっては度々確認された事案だ。

だが、疑似的にサーヴァントになる、というのはどういうことか。

 

→「ええっと、それって疑似サーヴァントってこと?」

 

「あ、あれ?そう言えば私って疑似サーヴァントらしいですけど……マシュさんのデミサーヴァントと何がどう違うんでしょう?……失敗しました、あの鳥のお医者さんにちゃんと聞いておけば良かったですね……」

 

「ふむ……これは私の言い方が不味かったな。君の言う疑似サーヴァントとは要するに生身の人間を依代にしたものだろう?私はそれじゃない、文字通り───ただの記憶なんだ」

 

 マスターの疑問に答えた少女の言葉に酷く穏やかであった。

記憶、つまりある主の情報体であると告げた彼女は、自らの存在を詳らかにし始める。

 

「私の霊基は大元のサーヴァントから分たれた、より厳密には()()()()()()()モノでね。一応その過程にはオリジナルの意思も意図もあったわけだが……まあ私の発生は本当に限定的かつその殆どが事故によるものなんだ」

 

 一種の分霊だよ、と肩を竦める少女はそれからすくっとカルデアのマスターの瞳を見つめる。

マスターの目に映る彼女の視線。

冷め切ったそこには自嘲混じりの呆れが見て取れたが。

 

 

 

「そしてその銘が示す通り、私は彼女オリジナルの“ 記憶”。それも最も大切なモノの一つから汲み上げられたモノだ」

 

 

 

どこか寂しげな痛みがあるように、そう彼女は感じた。

哀愁と郷愁。

本人の自覚すら置き去りにしているだろうと思うほどに、一見するととてもではないが分からない感情。

小さく、小さく、必死に噛み殺すように瞳の奥にひっそりと隠したその色に、どうしても人類最後のマスターは問わなくてはいけないと痛烈に何かが訴えかけるような気がした。

だから、それを聞こうとして口を開きかけた時。

 

「記憶のある……いえ、あのそのええっと、記憶さん!質問よろしいでしょうか!」

 

ぶち壊したのがここまで専門用語に置いてけぼりになっていよいよ宇宙が見えてきたファウストであった。

 

「……君は?」

 

「お、お話し中に遮って失礼しました!私はファウスト!カルデアのマスターさんと仮契約中のアヴェンジャー?っていうクラスのサーヴァント?……です……」

 

 少女からの胡乱げな視線を受けて狼狽えつつも何とかの自己紹介をするも段々と視線と自分のはてな具合に頭を抱えて、ファウストの語気が尻窄みになるのはご愛嬌。

だが、少女を詰るなかれ。

どう考えたってこの場で一番可笑しい格好をしているの、紙袋で顔を覆っているファウストなのだから。

少女の怪しむ視線も然もありなんと言えるだろう。

 

「疑問符が多い……!」

→「もっと自信持って大丈夫だよ、ファウスト。それから」

 

そんな二人のやり取りに苦笑しつつ、カルデアのマスターは少しだけファウストの前に出てから笑顔で告げた。

 

→「知ってるかもしれないけど、自分はカルデアのマスターです」

 

「では改めて私からも。私はカルデアに所属するシールダー、こちらのマスターのファーストサーヴァントのマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、記憶のアルターエゴさん」

 

「ああ、無論のこと。君のこと、君たちのことを知らないわけもないさ。オリジナル含めて我々は君達の勇気ある活躍と選択に心からの敬意を懐いているよ……とはいえ、自己紹介をありがとう。こうして人から受けるのも久々の事だ。うん、嬉しいものだね、こういうのは」

 

 そう言って噛み締めるように目を細めた記憶のアルターエゴが「それで」と、控えめにしつつも目線を流した先にいるのは二人で一騎のサーヴァント。

カルデアが選定した同行者であるライダー『坂本龍馬』とその相棒である『お竜』であった。

 

 その視線を受けて、彼らもまたちらりとマスターを見てから軽く帽子のつばを下げて、それから名乗ることにした。

当然、マスターの意図を汲んだ上で己の相棒の勘も信じて。

 

「そう言う事なら御相伴に預かろうか。折角だ、()()()()()()()()()()()()()()。そうだね、維新のライダー、とでも呼んでくれたらいいよ」

 

 真名。

人類史に名を刻んだサーヴァント達は逸話や伝説は勿論のこと、その生涯もまた記録されている。

つまりは死因や弱点も調べようと思えば簡単に調べられる、ということなのだ。

故にサーヴァントは己が真名、生前の名前を隠すというのが慣例であるのは最早マスターにとっては言うまでもない、のだが。

 

「お竜さんはお竜さんだぞ」

 

「いやいや、お竜さん……一応こっちも真名は隠そうとして「ああ!!うっかりしてました!し、真名って隠さなきゃいけないんじゃ!?!?」……やれやれ」

 

 片や自由奔放、天衣無貌の幻想種。

片や記憶喪失、挙動不審の新米サーヴァント。

真名を隠すなんて器用な真似なんて選ぶ事も、出来るはずもなかった。

 

「これは今回も中々にぐだぐだしそうかな?」

 

「さて、ね。私としては筒がなく終わってくれたらそれで構わないさ……それはそれとして苦労が偲ばれるね」

 

→「坂本さんが頼りです……!」

 

「マスター、言ってる、言ってる。まあ()()()()()()()、だろうけどね」

 

 二人の反応に軽く笑いつつ、その後のマスターの言葉にもさらりと返すのは出来た男。

坂本龍馬もマスターとの付き合いは長い。

主従ではなく互いが理解の上に友としての信頼関係もある。

共に特異点を駆け抜けた数もかなりの物だ。

だからこそ、しっかりと彼女の本音半分の言葉の意図を理解していた。

 

「……なるほど、また実に()()()()()()()をどうもありがとう」

 

 そしてそれは、きちんと少女にも届いたことに、安堵と警戒を龍馬は密かにあげる。

 

「今ので君達がどういう人間かある程度分かった気分にさせられたよ。いやしかし、これが真っ当な聖杯戦争で、そして私が敵であったのなら君達とやり合うの些か以上に骨が折れそうだ」

 

「その仮定は()()()()()()()()()()()と、受け取っていいのかい?」

 

 目の前の少女が何者か定かではない。

少なくともサーヴァントとして知覚できる限りでは敵対したとしても制圧は容易だと、龍馬は理解している。

その上で、龍馬は警戒を解かないでいる相棒の姿と己の直感を気にしていた。

この少女は中々に癖者だ、と。

 

「……やれやれ、維新のライダーと言ったかい?主従揃ってやり難い。私のような未熟で青い果実には少々荷が重い。嗚呼、勿論そう認識してもらって構わないよ。現状、君達の特異点修復という目的に対して」

 

 龍馬の内心を知ってか知らずか。

変わらず揺蕩うように冷めたまま語り出す少女の姿に動揺の一つもない。

ただ泰然と語りを続け、その言葉にもまた、澱みはない。

 

「私は敵になる事は決してない。私もオリジナル自身も含めて力にならずとも、白紙化地球という未曾有の問題に対する君達のスタンスについての理解だってあるつもりだ。何より私は頭脳担当、この細腕で敵対するなぞ」

 

 とてもとても、と細い首を緩やかに振ってみせた少女は龍馬から目を外す。

そして向かう先は、一人慌ただしくわたわたと手を振ったりして忙しないサーヴァント。

 

「さて、ファウストと言ったね。何か質問があるのだろう?話を始める前だ、折角だから今のうちに疑問は済ませておくといい」

 

「あ、ありがとうございます!ええっと、じゃあ……あの恥ずかしながら私はあまりよく分かってないんですが……アルターエゴというのはどういうクラスなんでしょうか?」

 

「……()()()()。確かに君の疑問はもっともだ。なら少し横道に逸れるが、君の疑問に答えよう。カルデアのマスター、君達もいいかな?」

 

→「もちろん!よろしくお願いします!」

 

 ファウストのごく初歩的な疑問に深く頷いた少女はマスターへの了解を取ると、またゆるゆると口を開いた。

 

「と言ってもだ、幾百のサーヴァントを率いるマスターの前で講師の真似事なぞみっともないから軽く触りだけ。さて、英霊はクラスという器に入れられることでサーヴァントとして現界を果たす。この際、英霊は各クラスに合わせた側面を切り取る形で召喚される」

 

 クラス、アルターエゴ。

その説明をすると言った彼女は、あくまでも簡単に、と釘を刺した上で話し始める。

 

「そのうち、バーサーカーのような基本七クラスとは別に、時折エクストラクラスと呼ばれるサーヴァントが召喚されることもある。ファウスト、君の復讐者(アヴェンジャー)もそうだ」

 

「なんならマシュの盾騎士(シールダー)もそうだぞ」

 

「そう、そしてアルターエゴもまた、そういったエクストラクラスに分類される。アルターエゴは英霊の自我から分たれた分体。サーヴァントが英霊の一側面を抽出した存在なら、アルターエゴは元になった存在から切り出され純化された感情そのものだ」

 

「ええっと、その……つまり?」

 

「ふむ……平たく言うのならアヴェンジャーが復讐心を自らの骨子とするように、元となった存在から切り分けられた一要素を自分の核とする者がアルターエゴだよ。だから基本クラスのように武芸による得手不得手ではなく、核たる物を持つか否かが我々のクラス適正となる」

 

 ざっくりとした説明だから真に受けないでくれるかい、と言う少女の言葉に、マスターも頷きをもって暗にこの説明で大丈夫だとファウストに答える。

脳裏にチラつくのはいつかの食堂で会話した時のこと。

あの時、カルデアの徐福はなんと言っただろうか、とマスターが思い返そうとしたタイミングで次の話は始まった。

 

「そして、ここからが実に面倒な話だ。先に言った通り、私の霊基はその誕生から歪なのもあってか……アルターエゴというエクストラクラスにあっても少々特殊でね。通常、アルターエゴは要素を切り分けられ、それが独立して自我と霊基を確立した時点で完全に元の存在とは別物として扱われる」

 

 これには話を聞いていたマスターもマシュにも思い当たる節があった。

ムーンキャンサー、BB。

そして彼女の感情から分たれて生まれた3()()()()()()()()()の事だ。

確かに彼女達は元となった、つまりはオリジナルと言うべきBBとは似ても似つかず、何より完全な別人として存在している。

 

「だが私の場合、分たれて成立してなお、未だにオリジナルと紐付けされてるんだ」

 

 けれど、少女の場合はそれとは話が違うのだと言う。

疑問を顔に浮かべたままマシュは思わずそれを声に出していた。

 

「紐付け、と言うと……」

 

「要するに本体と呼べるオリジナルに対して私というアルターエゴは子機なんだ。退去すれば座ではなく彼女の元に戻る」

 

 この特異点限定というのはそういう意味だよ、と呆気らかんに告げると少女は深々と溜め息を吐いた。

 

「イレギュラーな自体にはイレギュラーな結果が往々にして付き物さ。私達もその法則に違わず、その生まれからしてそうだった」

 

 自らの恥部をこれから晒すのが耐えられないと心底嫌そうに、気怠そうにしつつ。

少女は話を切り出した。

 

「さて、いよいよ本題に入ろうか。まずは……やはり、始まりが良いだろう」

 

 少女の様子は億劫だというのが空気越しにも伝わるほどで、本当に嫌なのがありありと分かって思わず聞き手にも申し訳なさが沸いてくる。

それほどまでに少女の言葉は重たかった。

 

「今回の特異点発生時、然るべき対処をすべくカルデアに先んじて召喚されたサーヴァントが二騎いた。そのうちの一騎が我がオリジナルというわけなんだが……」

 

 だからこそ、続く言葉にマスターもマシュも龍馬もお竜も。

 

「ああ、我が事ながら。そして我が不始末ながら実に恥ずかしい話になるが……うん。恥ずかしい話はささっと済ませるに限るから、ね。この特異点で何が起こったか、結論から言おう」

 

皆、揃って耳を疑う事となった。

なにせ。

 

 

 

 

 

 

「───召喚されたオリジナルが死んだんだ」

 

 

 

 

 

 

 それも勢い余って盛大な自爆をしてね、と少女は乾いた笑いと共にそう告げたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【⬛︎園⬛︎⬛︎聖杯⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎か⬛︎⬛︎日目⬛︎昼⬛︎/追⬛︎イベント】

【旧⬛︎リニ⬛︎⬛︎自治区・補⬛︎授⬛︎⬛︎合⬛︎所】

【Recommend BGM……〈偽りの輪廻〉】

 

───認めない

これは認められない

これだけは絶対に認められない

 

そうだ

決して認めてなるものか

決して許してなるものか

決して赦してなるものか

 

こんな始まりは容認出来ない

こんな贖いはあってはいけない

こんな浅ましい祈りは許される筈がない

 

だからそう───贄が必要なのだ

惨たらしい過ちを雪ぐ為には

何よりも清らかな白紙こそが相応しい

 

そうだ

私は間違っていない

間違っている、だなんてあってはいけない

だって私は、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎なのだから

誰よりも賢く強い、何よりも頑迷で愚昧な、どこまでも無様で愚劣な白痴の⬛︎⬛︎⬛︎なのだから

その銘に違わぬこと決して能わず

故に、ただただこの身を蒙昧のままに

 

───贖罪の奇貨を堆く積み上げなくてはいけない

 

 

 

 

 

 






1じゃんね☆
ごめんなさい……
2:20ぐらいに書き上げて滑り込もうとしたんですけど……メンテの時間把握してなくて完全に遅刻しましたごめんなさい……
……以後気をつけて再発防止に勤めます!じゃんね☆

というわけで!ほーんとに長い事留守にしちゃってごめんなさいじゃんね……なんとか生きて復活したじゃんね☆
お話ししたいことは山のように、だけどそれは活動報告の方で、今回はいつも通りの後書きやってくじゃんね☆
ただ一個だけ、お待たせしてしまってごめんなさい、待っててくださってまた読みにきてくださってすごく嬉しいです!ありがとうございます!じゃんね☆

というわけで!久々の記念短編の続きじゃんね☆
プチイベントのノリだから次回で説明終えて軽く戦闘して、その次ぐらいでファウストちゃんはおしまいの予定じゃんね☆
大切なところだけ話したらダイジェストでさくさくじゃんね☆
シリアスなんてぜーんぜんない、ゆるゆるふわっふわな夏の楽しい思い出作りをお届けできたらいいなって感じじゃんね☆

記憶のアルターエゴちゃんは今回限りの登場になる予定だし本編にはほぼ100%出てこないから可愛がってあげてほしいじゃんね☆
本編と比べて出てくるキャラは少ないけど……まあその分、本編では選択されなかったのもあって終盤まで出す予定じゃなかった子にもちょろっと顔出してもらう予定だから1も気合い入れるじゃんね☆

最後に出てきたオリジナルちゃんについては……まあ少なくともオリキャラじゃないし本編にも同名の子が出てるじゃんね☆
前にもお伝えした通り、本作は本編ラスボスも含めて全員既存設定・キャラを元にしてるじゃんね☆

1話ごとの文字数で望ましいのは?

  • 3000文字〜4000文字
  • 4000文字〜5000文字
  • 6000文字〜7000文字
  • 8000文字〜90000文字
  • 9000文字〜10000文字
  • 10000文字〜12000文字
  • 12000文字〜15000文字
  • 15000文字以上
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