そして、希望は失望に終ることはない。
なぜなら、わたしたちに賜わっている聖霊によって、主の愛がわたしたちの心に注がれているからである。(ローマ人への手紙5:5)
ハナコちゃんのお話がひと段落したみたいですね。
そう気づいて私はアズサちゃんの耳から手を離しました。
……何故かアズサちゃんが残念そうにしていましたが、きっとアズサちゃんもこの前みんなで一緒に見た『ペロロジラvsニコラ』のラストシーン*1を思い出していたからでしょう。
私も思い出す度にあのシーンの余韻に浸ってしまいますから……*2。
肩で息をしながら、ハナコちゃんの机の前にあるお冷をふんだくり、一気に飲み干してから。
シュロさんは疲れたように声を絞り出しました。
「もういいです……そもそも
「まぁまぁ♡共演者以外とは話すつもりはないと?あぁそれとも───壇上の『演者』を観覧しに来ただけとか?」
だらりと、今にも机につっぷして不貞寝でもしそうだった彼女の雰囲気が変わった。
「……そこまで話したつもり、ないんですけどねぇ」
「こちらで何と言ったでしょうか?……確か、語るに落ちるというやつでは?」
「阿呆ですか、手前は?分かってる相手が仕掛けた鎌掛けなんぞ、乗ろうが乗らまいが今更でしょぅに」
怠そうに喋りつつもいつの間にかその口元は皮肉気に歪んでいる。
「まったくです。……では『聖杯戦争への参加者ではない』、という言質も頂いたところで最初の質問に戻っても?」
「えぇえぇ、よぉございますよ。まぁ、その前にぃ?手前が『マスターじゃない』と思った理由を御教授願えますぅ?……その出来次第で答えてあげましょまうかねぇ」
「ではまず。貴女は初めから、随分とヒフミちゃんへの関心が強かった」
ぴんと小指を立てながら*3ハナコちゃんは説明を始めました。
「それこそ、最初は接触してきたマスターかとも思いましたけど……それにしては情報が随分と
「エデン条約、ティーパーティーの失脚、公会議から始まったアリウス分校との確執……確かについ最近の出来事ですし、ヒフミちゃん含めて私達補習授業部はそれらの件にそれなり以上には関わりましたが……」
息をついて、お冷*4を一口飲んでから。
「少しエデン条約絡みに
ばっさりとハナコちゃんはそう言い切りました。
言われてみれば、シュロちゃんが喋った内容はどれもセイバーさんを召喚するより前の話ばかり。もし聖杯戦争のマスターである私を脅して優位に話を進めたいなら。
「私が貴女なら、プロフィールや過去の動向なんかではなく。まずヒフミちゃんが聖杯戦争のマスターになってからの情報。つまりここ数日間の動きについての言及する形で揺さぶります」
その動きを監視している、全て把握している。
またはその監視した情報に誤りがないかを確認する為に、小出しにしつつその言葉で攻める*5、というのが王道かもしれません。
それなのに彼女の語る情報はそういった聖杯戦争に関する話は一切なかった。
過去の話、それも私と関わりはあるとはいえエデン条約にまつわる一連の騒動だけに偏りすぎていると。
「そしてそれは、シュロさん、貴女がヒフミちゃんへ関心を持って情報を集めていたのは聖杯戦争以前、もっと言えば聖杯戦争とは別に……貴女が潜在的な脅威に対して情報を集めていたから」
違いますかと軽く告げる言葉への返答は先を促すかのような沈黙。
「貴女は恐らく何らかの事情でヒフミちゃんに関する二種類の情報を知っている。それを何故知っているかまでは分かりませんが……その内容は分かります。一つは『エデン条約』で起こった各事件の経緯とそれに関わった人物。もう一つは聖杯戦争のマスターにヒフミちゃんが選ばれた事」
両手の小指を、何故か立てて二つの情報を指し示すのに、何も言わないというか言えないのか目を逸らしている箭吹さん*6。
「それから、客席側で騒がれるのが嫌な噺屋はいるでしょうが……反応がないのはそれはそれでお嫌では?そもそもヒフミちゃんだけが役者だというなら、脚本家であろうと舞台の上に貴女の席はありません」
ぱちりとウィンク一つ。
ハナコちゃんは口元に笑みを湛えつつ、けれど犯人を追い詰めるように、言い放った。
「あるのは舞台袖か、はたまた客席だけ。そして私に言ったの客席で騒がれては迷惑だという……まるで隣に座った観客へ注意するような会話」
どちらにせよ貴女が座っているのは客席であって、舞台に───マスターとして壇上に上がっているようには見えない。
そう言いながらさりげなくまたお冷をすするハナコちゃん*7。
「あとはまあ、猥談をしてみても妙にヒフミちゃんへの執着がありましたから───まるで見世物を愉しんでおられるみたいでしたよ、ほんとうに」
そう、言って答案用紙が返ってくる前のような面持ちでハナコちゃんは待った。
「ほんとまぁペラペラと。どうですハナコちゃん?いっそこのまま講談師にでも転向なさるってぇのは?」
「うふふっ。私は今で十二分に満足してますので」
その反応に箭吹さんの反応は、深々とした溜め息。
心底反吐が出るとでも言わんばかりに顔を歪めて吐き捨てられた。
「……あぁそうですかぁ。ほんと、そういうのは言えちまうんですねぇ。───気色悪いったらありゃしない」
「お褒め預かり光栄です♡」
「まぁ合ってますよ。手前は聖杯戦争とはなぁんにも関係ない。大体誰かが始めちまった祭に知った顔で乗っかるだけなんて……風流じゃないですからねぇ」
そんな箭吹さんの反応にも柳に風、ハナコちゃんは自然な対応で返答をすれば、余計苛立つように彼女はその骨ばった指で机を小突き始めた。
「やるなら初めから自分の手でやってこそ、他人の祭で袴取るほど手前から言わせてもらえば風情に欠ける」
風流じゃない、風情に欠ける。
その真意は分かりかねますが、少なくとも彼女が聖杯戦争に対してあまり
それだけは確かに理解できました。
「今日はたまたま見知った阿慈谷ヒフミちゃんを見つけたから構いに来ただけ」
「おっしゃる通ぉり、知ってたのも手前のいる部活で例の一件について調べててたまたま名前が目について覚えてたから」
「まぁバレちまいましたからねぇ。花丸回答に今の話じゃ駄賃も足りないでしょぉ」
喉の奥で引き攣った笑いを一つ。
彼女はにたりと嗜虐的に目を細めて。
「そうさなぁ……一つ」
「手前様達が喉から手が出るほど欲しいもの、教えてあげましょうか」
「例えばそう、今回の聖杯戦争の成り立ち……なんてのはどうでしょう?まあ、それもほんの一欠片だけ、ですけどねぇ……イヒヒッ」
私達も、そしてセイバーさんも知らない、このキヴォトスで始まった聖杯戦争の経緯について語り始めました。
さてさて、何から話しましょうか。
嗚呼、そうですねぇ。
なぁんで、ヒフミちゃんが人殺し競争なんてもんに参加しなくちゃあいけないのは……おや?
おや、おやおやぁ!
気づいてませんね?
気づいてませんでしたか?
いけませんねぇ、ヒフミちゃん。
手前さんが参加してるのは人殺し競争ですよ。
聖杯ってぇ賞品欲しさに死人を墓から掘り返して殺し合わせる。
実に滑稽、実に無様っ!
浅ましい欲望を一丁前に抱えて獣みたいに餌に群がるっ!
手前の好みからはちと外れますが、いやいやどうして、人間らしい。
……ああ、睨まない、睨まない。
いいですよぉ、ちゃんと本題、話しますとも。
この聖杯戦争が起こった原因はとある実験によって。
彼らは『聖杯』という神秘について研究していた。
その結果、サーヴァントという存在に辿り着いてしまった。
その後はまぁ、御本人曰く紛れもない事故らしいですよぉ。
その日、たまたま事故が起きて……聖杯戦争は始まった。
ただそれだけ、ハナコちゃんは分かりやすい黒幕なぁんて物を期待なさってましたか?
ざぁんねん。
この聖杯戦争に
『今ある』のはただただ偶然が積み重なって起きた不幸な事故だけ。
誰がそれを始めたのか?
そりゃあ言えませんねぇ……手前はなんでもかんでも話をして事をアレと事を構えたいわけじゃありません。
あとはそう、本当にこの話が気になるなら監督役にでも聞いてみたら良いんじゃないですかねぇ……イヒヒッ。
まぁでもそれを知ったからと言ってできる事はありませんよぉ。
手前は病になりました余命は半年ですでもなぁんにも治療できません……なんて聞いたところでやる事は死を待つだけでしょう?
嗚呼でも一つだけ。
夜道を歩く時は───怪物に、ご注意を。
それだけ言って、私達が瞬きした時には。
もう、シュロちゃんの姿はどこにもありませんでした。
大ぶりな鐘の音が店内に響き。
何やら店員と話すような声がして暫く。
軽やかな足跡が二つ連なって聞こえてきた。
「うわーん、遅くなりました!ヒフミ、ごめんなさい!アリスは今到着しました!」
「おっまたせー!ごめんね遅くなって!!あなた達が補習授業部の人?」
久々に会う長い黒髪の少女。
そしてその傍にいるのが、快活さを絵に描いたような子。
座敷に新たに通されたその二人こそ、本来の待ち人。
「私はミレニアムサイエンススクール1年!ゲーム開発部のシナリオ担当!」
その目線はやはり、
「才羽モモイ!よろしくね!」
しっかりと私に向けられていた。
「ヒフミにアズサにハナコにコハルね!うんうん、よろしくっ!こう見えて私すっごいインドア派だから全然友達も知り合いも少なくてさぁっトリニティの子達とこんな風におしゃれなカフェで話すとかすごい楽しみだったんだぁっ!!」
モモイちゃん。
そう名乗った目の前の女の子は本当にこれがインドアなのかなぁと思わせるぐらい明るい様子の子でした。
トリニティではあまり見かけないミレニアム製の猫耳型ガジェットを頭に乗せ*8、その髪色はお日様のように鮮やか。
注文した抹茶パフェ*9を頬張りながら喋りつつ、桃色の瞳には隠しきれない喜色が浮かんでいる。
「モモイ!このかき氷*10、とっても美味しいですっ!アリスはとってもとっっても!気に入りましたっ!ぜひ持って帰ってミドリ達のお土産にしましょう!」
「いやいやアリスぅ……かき氷は溶けちゃうよ」*11
そう言ってわいわいと隣座る黒髪の少女、一時期アイドル活動を共にしたアリスちゃんとの会話を楽しむどこにでもいるような小柄な少女。
ただ一つ。
その手に輝いている二重円に四つ並んだ雫状の四角形───マスターの証である令呪以外は。
「あはは……それならゼリーとかはどうですか?ちょっとかき氷とはかなり違いますけど、同じように冷やして食べたり、百夜堂のは凍らせてシャーベットにしても美味しいって」
「聞きましたかっ!モモイ!アリスはお土産にシャーベットを選択します!!」
「アリス、ゼリーね、ゼリー」*12
和やかな、さっきまでシュロちゃんとしてた会話とはまるで違う雰囲気に包まれた座敷。
でも時折、モモイちゃんの視線がちらりと一点を。
私の右手の甲に巻かれた包帯を気にしていることは感じ取れた。
「ヒフミのとこの講義は今日休み?」
「えと……トリニティは臨時休校中なんです」
「へ〜最近物騒だもんねぇ」
抹茶クリームをぱくつきつつ、時折餌付けかまるで姉のように隣にいるアリスに美味しいから食べなよと自分のパフェをシェアするその姿は、聖杯戦争の関係者だと思われるのにどこにでもいそうな空気で。
アサシンさん、ランサーさん、黒服さん。
これまで関わりのあった聖杯戦争に関与している人達を前にした時の緊張は今回ばかりは感じなくて。
この子とは『戦いたくない』と感じてしまう。
「そうだっ!モモイちゃん達はゲーム開発部なんですよね?よかったらみなさんが普段どんなゲーム作ってるとか聞いてもいいですか?」
一応以前アリスちゃんから聞いてみたら、「ゲーム開発部のみんなが作ったゲームは神ゲーなんです!」と嬉しそうに答えてくれたのを思い出して聞いてみる。
ただ、返ってきた反応は……。
「……聞いてくれるの?ヒフミ」
「も、モモイ……」
「止めないでアリス───私は言うよ」
あまりにも重々しい。
顔に影がかかり、思わず心配して無理しないでもと声を掛けようとして、
「もぉほっっっっっんと大変なんだよー!!!」
悲痛なクリエイターの嘆きが返ってきた。
「それでさ!聞いてヒフミ!!ひどいんだよユウカったら私達がちゃんと良い姿勢で作業したいから椅子を新調したい*13って追加予算申請だしたら即却下!*14あんなんじゃいつまで経ってもゲーム作れないよぉー」
「あはは……ちなみにそれどこの椅子だったんですか?」
「あーどこだっけ?ミレニアムの企業が作ってて……そうそう「Alien Thronos」*15ってやつ!」
よかった、聞いた事はありませんけど流石に「ヨハンナチャールズ」*16みたいなちょっと高め*17のブランドの椅子とかだと予算書だされたユウカちゃんも困ったでしょうから。
そう、ちょっとだけ安心していると横からハナコちゃんが補足してくれた。
「モモイちゃん?そんな高い椅子急に頼んだらびっくりされてしまいますよ」
「ハナコ?アリスはモモイ達がお願いしていた椅子の値段は興味がなくてよく知りませんでした。あれは一体幾らぐらいするんですか?」
「そうですね───ミレニアム製の市販されているゲーミングチェアの中で一番高い*18とだけ」
思わず天井を仰いで、遠くミレニアムにいるユウカちゃんへ黙祷を捧げる。
頑張ってユウカちゃん。私は何にも手伝えませんけど応援してますからね!
「はいっアリスは理解しました!あの予算は通らないと!」
「なんでよー!!やはりあの算術太もも大魔王のせいかっ!」
少しダボつかせた袖を振り上げて、私よりずっと細い腕を覗かせながらモモイちゃんは嘆きの声を上げていた。
「(ユウカちゃん───頑張ってください……)」
ミレニアムサイエンススクールの会計担当であり自治区の財政を支える友人が以前話していたゲーム開発部の子達が予想以上に自由奔放だという事実に、今度どこかのカフェに誘ってそれとなく愚痴を聞いてあげようと、私は固く心に誓いました。
彼女達が来てから、時計の長針が1周と少し。
その間にもゲーム開発部と先生が出会ってからの話、ミレニアムプライスという特別な品評会で見事入賞した事、この前はメイド服を着て怪盗相手に大立ち回りした事。
そんな話を楽しんでいた。
モモイちゃんもアリスちゃんも邪気のない子達で、自分達の思い出を宝物のように自慢して、そして大切に話してくれた。
だから。
『(ヒフミ。どうするんだい?)』
セイバーさんの問いかけ、それは私に選択を求める物だった。
このままの時間が過ぎてしまえば、私達は新しい友達として仲良くなったまま、今日はお別れして、またモモトークでお喋りして今度は別の場所に遊びに行って。
そんな風に普通に過ごせる。
それは分かる。
だけど、もし聖杯戦争について、その左手の甲にある令呪について触れれば。
私達は友達であっても、マスターという関係として話をしなくてはいけない。
それがすごくなんだか───。
「(私は、どうしたらいいんでしょう……)」
セイバーさんから、サーヴァントの気配は少なくとも店内には感じられないと言われる。
だから、『辛い』なら無理をしなくても良い、と。
楽しい時間です。
普通のどこにでもある、いつもの日常です。
モモイちゃんと話すのは、すごく楽でした。
余計なことなんか考えないで、補習授業部のみんなでお話してる時みたいで。
セイバーさんとお買い物したりした時みたいで。
「でさー。今私のシナリオ待ちなんだけど全然書き上がらなくて一昨日から部室に泊まり込みでさぁ」
「はい!アリス達は今合宿クエストの真っ最中です!しかも!今日は序盤の修正作業でデスマーチ中のミドリ達からお土産入手のお使いクエストも依頼されてます!」
他愛もなければ裏もなんにもない。
普通の時間で、普通の会話で、普通の女の子。
モモイちゃんはそんな女の子だった。
「こっちから誘ったけど……モモイ達、今日来て大丈夫だったの……?」
マスターの資格である左手の令呪は見えているけれど、別に腹の探り合いなんてせず、今までみたいに互いの言動を注意深く注視しあって、隙を晒さないように必死になるなんて事もない。
今だって彼女は口の端に生クリームをつけていて*19。
大きな身振り手振りでこれまでの事や、これからの事を話していて。
「たはーっ!コハルは良いとこ気づくね!さっすが自称エリートじゃん!……ただいま言い訳ぼしゅーちゅーですお知恵を拝借、こはるさまぁ……」
私の魔力はそれなりに多いらしいけど、モモイちゃんからは何も聞いてこないし、キヴォトスでは銃撃戦に巻き込まれて湿布や包帯巻くことなんて日常茶飯事。
令呪のある私の右手の甲が包帯で隠れているのはきっと気にされていない。
「全然ダメじゃない!!!……あと自称じゃないから!!エリートなの!!正義実現委員会の!!」
この後、きっとこのまま解散してしまって。
私達はトリニティへ。
彼女達はミレニアムへ。
それぞれがそれぞれの場所に帰ってから、交換した連絡先を通してまた夜遅くまでお喋りして。
ゲーム開発の愚痴や進捗を聞いたり、トリニティの美味しいカフェを紹介したりして。
なんならナツちゃんが昨日教えてくれたお店にみんなで買いに行く予定を立てたり。
それでいつの間にか寝落ちしてしまって、また朝が来る。
そんな風に今日は何事もないまま終えてしまう事を選択してもいいのかもしれません。
「アリスは自分の分を終わらせてから来ましたがモモイは帰ったらお説教の予定です!モモイのモモトークに大量の不在着信がある事を勇者は見逃しませんでした!」
モモトークだって交換したからわざわざ今日、色々話を聞いて探りを入れなくてもいいかもしれない。
会う人会う人を疑い続けるなんて『辛いこと』はしなくてもいいかもしれない。
大体、よく考えたらモモイちゃんの手にある令呪だって、それらしいだけのタトゥーシールかも。
セイバーさんだってサーヴァントの気配がないって言ってました。
「まぁまぁ。お呼びしたのはこちらからでしたし、よかったら私たちもモモイちゃんの言い訳を考えてあげましょうか」
「は、ハナコ大明神さまぁ〜!!」
そもそもモモイちゃんがマスターだなんていうのは私達の勘違いかもしれません。
それならわざわざマスターや聖杯戦争の話なんてしたってゲームかなにかの話を脈絡なく突然し始めた変な子扱いになってしまいます!私にも恥じる気持ちぐらいはありますからやっぱりそうです。
それがいいんです。
そう、した方が『楽』なんです。
ほんとうに?
……それでいい気がしてきました。
それがいい気がするんです。
だから、もう。このままなんにも喋らないで。私もマスターだなんて隠したまま。
今日は聖杯戦争の事なんて後回しにして。
殺し合いの話なんて今は忘れてしまって。
モモイちゃんには悪いけど、私がマスターだっていうのは隠して。
───それは、駄目なんです。
楽な方が絶対に良い。
マスターだなんて突然明かして何になる。
もし彼女が聖杯戦争となんの関わりもなければ意味不明な会話でしかなく。
もし関わりがあるなら、彼女と敵対する事になるかもしれない。
見ず知らずの人から自分がマスターである事をわざわざ言いふらしたりせず、隠しているのだってマスターへの攻撃を未然に防いで生き残る当たり前の事だ。
だけど、今それは駄目なんです。
仮にもし目の前にいるモモイちゃんがマスターだったとしても。
「モモイちゃん」
この後、敵対して戦うことになっても。
「おっ!なになにヒフミ!なんかミドリ達にする良い言い訳思いついてくれた?」
真っ直ぐな笑顔を向けてくれる彼女に。
どんなマスターが見ても分かるぐらい令呪も明かして、なのにサーヴァントは連れずに現れた彼女に。
友達に、これから仲良くなりたいなと思った相手に。
───楽だからという理由で、誤魔化すままの私でいたくない。
『もしかしたら。私がセイバーさんのマスターだと知っているかもれない』。
そうかもしれません。
『仮にそうだとしたら。実はあの笑顔の裏にだって実は何かあるかもしれません』。
考えたくないけど、それだってあり得ないわけじゃありません。
『最悪の場合。この店を出たら背中を刺されるかもしれない』。
願いの為に殺し合いをするなら、そうされる覚悟がいるのかもしれません。
最悪の予想は尽きません。
でも、私は。
どんな意図とか、裏とか。
そんなつまらない事をいつまでも考えたまま、自分だけ隠すなんてできません。
私は───。
「私がセイバーのマスターです。聖杯戦争に参加、している、マスターなんです」
友達に誠実であれないままなんて、嫌なんです。
「……っ。モモイ!」
アリスちゃんから聞いたことのないような鋭い声がする。
座敷に平置きにされていた巨大な砲塔をこちらへ向けながら、モモイちゃんを庇うように立っている。
それにコハルちゃん達が焦る仕草を見せているのが視界の端に映る中、頭の片隅でアリスちゃんの行動に納得する私がいた。
突然マスターであることを言うなんて、よく考えれば相手がマスターなら宣戦布告と捉えられてもおかしくないのかもしれない。
……ばかだなぁ、私。
コハルちゃんの驚きながらも辛そうな顔を、アズサちゃんが焦りを感じさせながら銃を構えるのを、ハナコちゃんの苦しそうに下唇を噛む顔を。
そしてアリスちゃんが泣きそうな顔で睨んでくるのを。
視認してしまって、私は顔を上げれなくて。
言わなきゃよかったかもしれないと、今更な後悔が浮かんで。そうして……
「……やめようよ、アリス」
「でもっ!……モモイっ!また『昨日』みたいにっ!」
「いいの、私はここに喧嘩しにきたわけじゃない。そりゃ私もさ、こんな時期の連絡だし?『噂』のトリニティの子だしさ。聖杯戦争絡みかなぁとか少しも思わなかったわけじゃないよ。……でもね」
深呼吸をする音が聞こえた。
誰かが勇気を出して、一歩進んでくれた音が。
「私がここに来た理由は『それ』じゃない。私はただアリスの大事な友達と」
「───私も友達になりたくて来ただけから」
その言葉が聞こえて、じっと下を見ていた私の視界に差し出された小さな右手が映る。
顔を上げた先、
「私は才羽モモイ。キャスターのマスターだよ」
名前と同じ桃色の瞳が真っ直ぐに向けられている。
何故だか、それが霞んで見える。
よく見たら少しだけ表情が喋っていた時より固い気がするのはきっと気のせいじゃなく、彼女の緊張の証。
「ちゃんと言ってくれてありがとう、きついのに自分から言ってくれてありがとう、勇気を出してくれて、自分から先に言ってくれてかっこよかった!」
「だからそんなの関係なく……ううん。そういうの丸ごとぜぇんぶひっくるめて改めて!」
今日一番のとびきりの笑顔。
怖いと思っているのは彼女だって同じかもしれない。
もしかすれば、私が告げたマスターであるという言葉にだって何かしらの思惑があるのではと、同じマスターという殺し合いの舞台に上がってしまった彼女ならそう考えていたって不自然じゃない。
それでも、彼女もそういうのも全部飲み込んで、
「私と友達になってよ、ヒフミ!」
私を信じて勇気を出してくれて。
だから私は。
「はいっ!……こちらこそ、モモイちゃん!」
その手を掴めたんです。
1じゃんね☆
モモイちゃん、参戦じゃんね☆
安価してた当時、ファインプレーの嵐で1は頭抱えたじゃんね☆
読者さんが優秀すぎたじゃんね☆
今回はなんとか脚注色々書けたじゃんね☆
前話にも追加してみたじゃんね☆
よかったら……見てくれたら嬉しいじゃんね☆
あとお知らせじゃんね☆
活動報告でも書いた通り、本作の元ネタ?というか安価スレ版の『ブルアカキャラがマスターの聖杯戦争』Part5スレ、本日から再開じゃんね☆
またよかったら覗いたりしてくれたら嬉しいじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる