「さて、改めて。お互いに自己紹介をしようか、マスター」
あれから。
救護騎士団の人たちや正義実現委員会の人たち、トリニティ自警団の人たちが救助に来てくれて、私とアズサちゃんはすぐに、救護騎士団管轄の大きな病院に入院という運びになった。
そしてモモトークを返す暇もなく簡単な検査と問診を受けて、「とにかく安静に」と送られた先は白と目に優しい桃色を基調にした病室。
今ここにいるのは、そんな風にして送り届けられて全身湿布や擦り傷を塞ぐガーゼ、そしてそれを固定する為の包帯に塗れた私と。
「僕はセイバー。君に召喚された、そう、サーヴァントだ」
そう言ってこちらを見る鎧姿の彼だけだ。
鎧、トリニティというかキヴォトス広しと言えど普段から着用している人はそうそう見かけない、博物館にでも展示されていそうな古めかしいそれ。
一見すればコスプレ、なんて言葉すら頭を過ってしまう。
けれど、この人のはそんな風にはとても見えない。
使い古されたそれには幾つもの細かな傷を残しながら、けれど丁寧に磨き上げられていて。
歴戦の風格、その鎧が道具として日常遣いされて彼の身を守ってきたという歴史をまざまざと見せつけてくるのだから。
何より記憶に新しい、彼があの女性から私達を守ってくれた姿。
そのあまりにも鮮烈な記憶が、彼が本物の騎士であるのだと確信させていた。
暫し、気まずい空気が流れる。
今、改めて自己紹介をと告げる目の前の彼は、私達の窮地をどこからともなく現れて救ってくれたらすぐに姿を消していて。
私が病室で一人になった途端、こうして姿をまた見せてくれていた。
正直に言えば、これだけでも頭がパニックにでもなってしまいそうで。
けれど、何も返事をできない私への対応に困ったようにしている彼を見ていたら、流石に申し訳なくて。
「わ、私はトリニティ総合学園2年生の!阿慈谷ヒフミです。……その、あの、昨日は助けてくださってありがとうございました」
自己紹介と、助けてもらった御礼を。
まずはそれから始める事にした。
「無論、構わないとも。それが僕の役目であり務めだからね」
そう告げつつ、ヒフミと呼んでも?なんてさらりと言ってのける彼はどこかあの人*1を想わせるスマートさだった。
「さて、ある程度の事情は理解している、というより今までの時間で様子を見させてもらって理解したつもりだ。……君は恐らく正規のマスター、というよりそもそも魔術師の類ではないんだね?」
セイバーさんから語られたのはあまり聞き馴染みのない言葉。
魔術師、そして正規のマスター。
魔術師、と言われて思い当たるのは古書館の彼女*2ぐらい。
正規のマスターに至ってはその言葉が意味するところを一つも推測出来ない。
だから、正直に自分のことを話した。
「その……私本当に普通の女子高生で、なんかすごい
慌てて釈明のようになったが、本当にそれで全てなのだ。
私はただの高校生。
トリニティ総合学園に通う、補習授業部*3の部長で、どこにでもいる少し*4ペロロ様とモモフレンズのみなさんが好きなだけの本当に普通*5の高校生。
それが、阿慈谷ヒフミなのだから。
その事を告げれば、言葉だけでなく雰囲気からも察してか「うん、本当に知らないみたいだ」と納得したように彼は納得するように頷いた。
「その反応だけで十分だよ。……さて、マスター。僕の話は君にとってかなり酷な話かもしれない」
思わず、どきりとした。
思わず、全身に響く鈍痛も無視してベッドの上で居住まいを正した。
「だけど、これからについての大切な話だ。しっかりと、どうか聞いて欲しい」
「聖杯戦争、ですか……」
「ああ、ヒフミは聖杯を巡る戦いに巻き込まれた。そう認識してもらえたのなら僕としてもこの先を話しやすい」
セイバーさんの話はまるで御伽噺のようだった。
それこそ、漫画やアニメの世界のような、どこか現実離れした話。
聖杯と呼ばれる不思議な魔法のアイテム*6とそれを奪い合う7人のマスターと彼女達によって召喚される、過去の英雄の現し身である7騎のサーヴァント達。
そして私は、その最後の
「はっきり言って状況は悪い。本来マスターに選ばれるのはある程度、魔術に精通した人間だ。当然だけど、ヒフミのようにまるっきり状況が分からない子がマスターに選ばれる*7のは珍しい」
努めて淡々とそうするように、静かにセイバーさんが説明を続ける。
その事実が本当であるなら、どうしてまた自分がと思ってしまう気持ちがないわけではない。
魔術回路*8……なんて物は生まれてこの方、一度も聞いた事がないし自分の中にあるとも思えなかっただけに、選ばれた偶然に驚きでいっぱいになる。
「本来なら聖杯戦争には監督役がいて不測の事態や棄権したマスターの保護をするんだが……その役目を担っている人間が誰かも分からない上、どうやら君はあの槍使いに命を狙われている」
命を狙われている、そう聞いて心臓がどくと耳障りな音を立てた気がした。
ついさっきまでしていた、彼女との冷たいやり取りを思い出して、思わず肩を抱いてしまう。
氷柱を脊髄に捩じ込まれるような、そんな悪寒が私の体と記憶に鮮明に刻みこまれていた。
そんな私の姿に少しだけ、セイバーさんは言葉を詰まらせてから、話を続けた。
「状況がハッキリしない以上、無闇な棄権はハッキリ言って無謀に近いだろうね。僕はそれを君におすすめはできない」
「だからこそ、ヒフミ」
「しばらくの間でもいい、僕と行動を共にしマスターとして振る舞って欲しい」
僕がいれば君を守れるからね。
そう告げられた言葉は幼い子をあやすように目線を合わせて、安心させるように落ち着いた声で優しく唱えられた物だった。
時計の針の音なんて気取った物はこの病室には当然ない。
それでもセイバーさんから告げられた言葉へ返事するまでの間に流れた沈黙は、まるで世界から急かされるような、一分一秒が流れていくのをまざまざと見せつけて脳内に刻まれるような。
そんな感覚になるほどに、重い沈黙となった。
───この決断は、きっと私にとって重要な物になる。
セイバーさんがこちらを思い遣って
その言葉には真摯に私の身を案じ想う物がきちんと載っていた。
けれど、私は何故か感じてしまう。
この決断を口にする事は決して安易な気持ちで行なってはいけない、と。
だから少しだけその直感を信じて、自分なりに考えて。
結論を伝えた。
「分かりました……私、マスターになります」
「……ヒフミ、そうか。うん、ありがとう。君のその決断と選択に心からの敬意を」
言葉にすればなんて呆気ない物だろう。
マスターになる、ただその一言だった。
けれど、それを絞り出す為に体感で30分は時間を必要としていたのではと思ってしまう。
それだけの時間に匹敵すると感じるほどに彼を待たせてしまったけれど、私にはきっと必要な事だった。
前を見据える。
室内灯が消されて、月明かりだけが差し込んでいるこの部屋で。
なお眩しく輝いていると錯覚させる蒼銀の騎士、その彼の二つの翡翠をまっすぐに見つめる。
正直状況なんてちっとも分からない。
私はただの高校生だ。
別に特別な何かすごい事が出来るわけじゃない。
セイバーさんの言う魔術とかいうマジックもそうだし、友達のような戦える力だって彼女達に比べれば見劣りしてしまう。
そんな、ごく普通の高校生だ。
だけど。
それでも、こんな私にも出来ることがあるというのは分かった。
思い返すのはあの時私を守る為に戦ってくれたアズサちゃんの様子。
ミネ団長*9から集中治療を行うから安心するようにと告げられてなお、私を守りながら戦って、最後は列車から落ちる時まで私を庇って傷ついた
思い出して、あの情景を、心に奔る痛みを、忘れてはならないと脳裏に焼き付ける。
あの場では何もできなかった。
でも今度からはできる事がある。
それは今、そしてこれから
その為に、私はこれからの道を
だから。
「これからよろしくお願いします、セイバーさん!」
「ああ、こちらこそ。よろしくね、僕のマスター」
手を差し出した。
あの時、セイバーさんを召喚した時に熱を帯びたこの
痣が出来ているとかで包帯に包まれたその手を出して、これから共に戦ってくれる目の前の彼に握手を求めた。
それに対して彼が見せたのは、
「あ、あれ?せ、セイバーさん?あの……握手のつもりで……その膝なんか全然大丈夫ですからぁ!?」
まるで絵本で見る騎士のような仕草。
膝をつき私の手を取るセイバーさん。
恭しげな仕草はなんだか私がお姫様にでもなった気がしてあれなんか顔近くないですかってぇえっ!?
「ひぅ!?!?」
「ああ、すまない。戦うことを決めた君への敬意を忠誠で示したかったんだ……若く未だ幼く、そして恐怖を味わったばかりであってもなお、気高い君にせめて形だけでも騎士らしく、ね」
茶目っ気たっぷりにそう言いながらウィンク一つ。
包帯越しで別に肌へ触れたわけでもないというのに、つい頬に熱が集まってしまう。
どうやらこのセイバーさんという人は、先生とはまた違う方向でキザ*10なのだとこの夜、私はしっかり理解しました。
「……さて、気を取り直して。これからの動きについての話をしようか。よく、聞いて欲しい」
「っ!……はい」
こちらがあたふたしている様子を苦笑しつつ眺めていたセイバーさんは何食わぬ顔で再び口を開く。
その真面目な顔付きを見て、私の心も冷静さを取り戻し、改めて聖杯戦争について学び、考える時間が始まった。
「今回の槍使いとの戦い、君の友人達の目にはどうにも騒がしく映ってしまったようだ」
現に今も扉の向こう少し離れた場所で待機してる子がいるようだしね、そう目線を送る先にあるのは病室の扉、そしてそこを出た先にある廊下。
考えてみると納得してしまう。
このキヴォトス*11で銃撃戦や電車の爆破やハイジャックだってそこまで珍しい話でもない。
けれど悪意を持って誰かを殺そうとする、そんな話は決してあってはいけない話。
不慮の事故でもなく、故意に命を奪おうとする。
それも
きっと今も心配してくれてこうやって警戒を敷くよう厳命してくれているのだと、紅茶を愛する彼女*12の姿がぼんやりと浮かんだ。
「でもヒフミはそれだけ、多くの人に愛され、そして大切にされているんだね……それは得難く、本当に素晴らしい愛だと想う」
愛と告げられれば照れてしまうが、思わず頷いてしまう。
取り柄のない私ではあるけど、何よりも自慢できる事。
私は周りに恵まれている。
大好きで頼りになる、大切な友達がたくさんいる。
それが、きっと私の一番自慢できる宝物だから。
だから。
この後に続いたその言葉に。
思わず息を呑んでしまった。
「だからこそ、今回の事やこれからの事も考えて彼らと聖杯戦争の期間中は距離を置くべきだ……大切な人達を傷つけない為にも」
そう、真剣な表情でセイバーはそれを私に伝える。
考えて見れば、当たり前なのかもしれない。
セイバーさんからの話で、私はこれからマスターとして戦うというのは分かった。
それを自分で選択した。
そしてその戦いの相手はセイバーさんのような方だけじゃない。
あの女の人のように、容易く命を奪おうとする人もいるかもしれない。
危険だから友達とは離れるべきだ、それは当たり前の話で。
でも、それなら。
私は、どうすれば。
今は決められない。
分からない。
だからこそ、冴えたやり方ではないかもしれないけど。
「あの、セイバーさん……」
「どうかしたかい?ヒフミ」
躊躇いがちになってしまう。
けど恥ずかしがらないで。
声をあげる。
「お話し、しましょう!」
思わず大きな声になった私の声に、セイバーさんは目をぱちくりさせている。
当たり前のその反応に思わず慌てて説明を始める。
「あ、あの!そのですね!やっぱりこれからのこと考えたらセイバーさんとしっかりお話しなきゃって……!いきなりお友達から離れるっていうのは!いえ、危険なのはすごく分かって!……でもその……私一人で決められないからセイバーさんと色々話す中で
少しだけ間があってから。
彼は笑顔を、フードの下でその口元を嬉しげに緩めてくれた。
「ありがとうヒフミ……確かにきっとその通りだ。僕たちはきっと話し合う必要がある、さっきの話も……少し、性急すぎたかもしれない。すまない、ヒフミ。怖がらせてしまったね」
「いえそんな!……セイバーさんが心配してくださってるのは、すごく伝わりましたし……あの、それで、その。そういう事なら……その、お話を「ただし」……?」
「もういい時間だし今日は君も疲れただろう?話すのは1時間だけ、名残惜しくても続きはまた明日に……いいかい?」
窓から見える月明かりに照らされて、こちらを気遣ってセイバーさんはそう告げてくれた。
そのやり取りで少しだけ、不安だったのも落ち着いてくる。
彼の柔らかな対応に、心の中に安堵が生まれる。
私もちょっと色々聞くのは緊張はあるがそれでも、空回りするような事はなさそうだった。
気になる事、聞きたい事、聞かなくてはいけない事。
色々な考えがが頭を掠める。
その中で。
「はい!まずはセイバーさんについて、聞かせて下さい!!」
私は彼自身の事について尋ねた。
聖杯戦争の細かいルールやあの女性の正体だとかそういう話ではなく。
純粋に、これから共に戦ってくれる彼の事について知りたいと思ったから。
「僕、のことかい?」
とはいえその問いはきっと想定外だったのかもしれない。
ほんの少しだけ、驚いた様子のセイバーさん。
その姿を見て慌てて私は言葉を続ける。
人に名を、為人を尋ねるなら。
幼い頃にプロフィール帳*13交換をした時のように。
まず私の自己紹介を改めて始めた。
「わっ私は!トリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミです!補習授業部っていう部活に所属してます!好きなものはペロロ様で、あっ!ペロロ様っていうのはですね、モモフレンズに登場するとってもかわいい鳥さんで!今度セイバーさんにもちゃんと時間をとって*14教えますから!あと趣味はペロロ様グッズ集めに、それから放課後にお友達と遊びに出かけたりとか、紅茶を飲みながら大事な人達とゆっくりお話ししたりすること……です!!」
その言葉に彼は目をすこしだけぱちくりさせている。
端正な顔立ちの彼がそんな幼さすら感じさせる反応を見せる物だから、少しだけ緊張も解けて。
すらすらと言葉は続いてくれた。
「もしよかったら、セイバーさんのこと……」
「セイバーさんが好きなもの、どんなところから来たのかとか、普段はどんなことしてるとか……」
「あとあと、好きな食べ物とかお友達の話とか!」
「そういうことを一杯教えて下さい!」
頭を下げて、彼の反応を待って。
暫くして頭を上げてほしいと頼まれた先で見たのは。
納得したと頷くように、軽く首肯してから静かな口調で語り始める彼の姿。
「てっきり、もっとサーヴァントについてだったり、この事態についてだったり。或いは聖杯戦争に勝利することの意味だったりとかを聞いてくるかと思った……けど」
「あ、うぅ……その……そういった事も勿論聞きたいですけど、でも、けどぉ……」
「いや、いいんだヒフミ。うん、少しだけ。まだ知り合ったばかりではあるけれど」
「君の為人が見えた気がする───ありがとうマスター、僕を、知ろうとしてくれて」
そう彼は笑ってくれて。
そして、話が始まった。
僕の事を知ってもらうのには、恥ずかしながら予備知識みたいな物も必要でね。
今日の話の中で僕は、君が望んだ問いに全て応える事は難しい。
吟遊詩人ほど話上手ではない、僕の不明に恥じるばかりだ。
どうか赦しを、そして約束させてほしい。
いつか必ず、君が
……ありがとう、ヒフミ。
では、簡単に説明していこうか。
僕はセイバー、サーヴァントだ。
先ほど簡単に説明した通り、サーヴァントは過去に存在した英雄や偉人の現し身だ。
英雄や偉人、だなんて自分で言うのは気恥ずかしいけどね。
ただどうやら、君から聞かせてもらったこのキヴォトスという土地では縁遠い存在のようだから、御伽噺に出てくる存在のそっくりさん程度に思ってくれて今は大丈夫だよ。
勿論、僕達はただのそっくりさんで終わらずにその力も余す事なく再現されているけれどね。
さて、僕自身のことだったね。
……実は好きな事へ関心がそれほどなくてね、無趣味な男だと思ってもらっていいよ。
恥ずかしながらね。
できたらいつか、君の好きなペロロ様だったかな、そういった物や君の友人達について教えてほしい。
きっと君の愛する人達の事なら、僕も好きになれる気がするんだ。
少々込み入った、でも大切な話をしようか。
まずサーヴァントとは存在は、人に似てはいるけれどその力の本質は
それも自ら意思を持って自律行動できる、現行兵器を遥かに凌駕する存在だと。
実際私のステータスを見て貰えば分かりやすいかもしれないね。
この事については、またあとで説明するから明日にでもゆっくり見てもらいたい。
僕達が現行兵器を凌駕すると言った理由は三つ。
一つは神秘を伴わない攻撃を遮断する事。
もう一つは常人離れした肉体と生前得ていた体質や技能をスキルという形で昇華しその身に宿している事。
そして最後に、僕らサーヴァントは宝具と呼ばれる
「宝具、ですか?」
ああ、人の祈り、願いが形となったモノ。
僕達サーヴァントが、生前に成した武勲や伝説の象徴が物質化した物だ。
……言うなればすごい『武器』ってところかな?
私がこの手に持つ見えざる風、
「もしかして、銃を使わずに……アズサちゃんを傷つけたあの槍も……」
……恐らくは、そうだろうね。
彼女、アズサと言ったね。
ヒフミも彼女も、君たちは我々サーヴァントから見ても高い神秘を宿した存在だ。
そんな君たちを傷つけ、死の間際に追いやる事が出来るのは……そうだね、宝具のような神秘の結晶であれば容易だと思うよ。
「(しかし、本当に君たちが宿す神秘は。恐らくこの世界の霊長……いや人類は
っと、すまない。少し考え込んでしまっていたよ。
さて続き「あのセイバーさん……」どうしたんだい、ヒフミ?
「あの赤い槍を持っていた、女の人も……セイバーさんの言うサーヴァントなんですよね」
そうだね。
「セイバーさんはその、彼女について何か知ってたりしますか?」
……まず前提として、私は『生前に』彼女自身と関わったことはないよ。
本来サーヴァント同士の知り合いなんていうのはごく一部の例外を除けば、生前に交流のあった同郷の存在か。
それぞれの生前より古い時代に伝説を残した存在をたまたま知っていた場合か。
もしくは『座』*15……いや、英霊になった後に情報として知らされるほど名前が広く知れ渡った存在ぐらいだ。
だからこれから話すのは、僕が生前住んでいたあのうつくしい国で伝え聞いた伝説と、たまたま『知り合い』が彼女の縁者であったからたどり着いた、推測になる。
推測である以上、もしかすれば、君を余計な混乱に陥れるかもしれないが……それでもいいかな?
「大丈夫です……セイバーさん、教えて下さい」
もちろんだよ、マスター。
彼女は恐らく、僕のいた国に、そして時代にも知られていた古き女王。
その武芸は、彼の光の御子が師事したとされ人の身でありながら数多の戦士を、魔獣を、神霊を、討ち取った偉大な先達。
畏るべき影の国の支配者。
名を───スカサハという。
彼女に師事した光の御子。
彼とは、うん、それなりに因縁浅からぬというやつでね。
彼女の立ち振る舞いと聞いていた話、そして彼女の持つ
「真名、ですか……?」
そうだね、君にはまだ伝えていなかった。
サーヴァントにはクラスを与えられる。私のセイバーという名もそのクラスの一つだ。
そしてその名とは別に、生前の名前もある。
……我々サーヴァントは強力だ。
その
この地だと自治区と言ったかな、それを陥すのもごく短時間で可能だろう。
サーヴァントによっては、ほんの一瞬、宝具を使うだけでそれをなす事も可能なんだ。
「っ……!」
けれどね、そんな僕たちには致命的な弱点がある。
それは、僕たちが既に一度その生を終えた『死者』であること。
つまり、一度死んだのなら『同じ方法で殺すことが可能』───という事なんだ。
「あ、だから名前を……!」
ヒフミは賢いね。その通りだ、僕達の名前を知られればそこからその過去の遍歴を辿れてしまう。
そうなれば、そうだね雑多な言い方にはなるけれど『弱点』を知られてしまう。
そしてヒフミ、酷な言い方にはなるけれどまだ君に僕の名前を伝える事はできない。
……ありがとう。声も荒げず、待っていてくれる。君は本当に聡く、優しい子だ。
言った通り、僕の名前も含めてまだ隠しておかなくてはいけない物は多い。それは今後の戦いで、君に余計な憶測や心配をさせた結果、傷ついてほしくない……そんな僕のワガママだ。
どうか許してほしい。
「今後の……戦い」
そうだね。
僕らはこれから戦いの中に飛び込む。
その果てに『聖杯』を得る。
……ヒフミ、君はどうしたい?
「っ!……それは」
今すぐに全てを答えてほしい、だなんてことは言わない。
異国であれど、君は本来守るべき幼い民草だ。
そんな君に頼むのは騎士として恥ずべきことだろう。
けれど君は『戦う』、そう言ってくれた。
「はい……私は、あんな風に」
「怖い思いも、傷つくのも嫌です。でも───」
「でもっ、アズサちゃんが傷ついた時みたいに」
「すごく、すごく嫌だった。ですから……」
「私は戦います。」
「もうあんな気持ちになるのも、アズサちゃんみたいに誰かが傷つくのも嫌だから」
「私が戦えるなら……私のやるべき事をします」
……ありがとう。
だからこそ聞かなくてはいけない。
この話を始める前に君に伝えた、友と離れるべきだという事も含めて。
君をマスターと、共に戦う仲間として僕が想うのなら。
君は
「私は───」
「まず話をしたいです」
それは、誰に?
「補習部の……私の大切で頼りになる大好きなお友達に、です」
それは、どうして?
「セイバーさんのお話もよく分かりました……でも私一人で決めちゃダメなんです」
「ううん───」
「イヤなんです。だって私は、一人で考えて正解に辿り着けるほど強くもありません、賢くもありません」
「平凡で普通でどこにでもいる、そんなトリニティ生なんです」
「でもそんな私でも。困った時、大変な時。これまでずっと、みんなで一緒に考えて沢山の難しい問題を乗り越えて来ました」
「私は───」
うん。
「これからもみんなと、そしてこれからはセイバーさんとも力を合わせてこの戦争終わらせたい」
「だって、私一人では出来なくてもきっと皆一緒なら」
「必ず最高のハッピーエンドに辿り着けるから……!!」
「分かったよ」
「セイバーさん……」
私のちょびっとだけ心配な気持ちを察してか、それとも声にソレが乗ってしまっていたからか。
セイバーは心配しないでと言うよな微笑みを浮かべながら伝えてくれた。
「一緒に戦おうヒフミ───私と君と、君の大切な友人皆んなで」
「……はいっ!」
その時私は鏡なんて見なくても、溢れる笑顔を浮かべたのを自覚した。
月明かりが病室を照らしている。
私とセイバーさん、二人で今。
スタートの一歩目を踏み出したんだって。
なんとなくですけど、私はそう思ったんです。
この頃は(まだ)かっこいい好青年なセイバーさんを書いていたなぁとしみじみ修正しながら思ったじゃんね☆
ヒフミちゃんとの関係は近所に住んでるちょっと憧れな大学生お兄ちゃん……ぐらいを目指してたじゃんね☆
次回はお見舞い回やって、ハナコちゃん達に会いに行くじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる