阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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そして音が降り、音の間に火がひらめき渡った。音は恐ろしく大きく、エジプト全国には、国をなしてこのかた、かつてないものであった。
音はエジプト全国にわたって、すべて畑にいる人と獣を打った。音はまた畑のすべての青物を打ち、野のもろもろの木を折り砕いた。
(出エジプト記9:23-24)


幕間:魔の眼、星の瞳

 

 深夜。

荒涼とした砂漠地帯が嘗ての栄華すら呑み込んだアビドス自治区、その32番地。

そこにあるのはアビドスと他自治区を繋いでいた道。

踏切に描かれる文字は『通行止め』。

此処は行き止まり。

遠くに見える摩天楼は正しく砂上の楼閣。

そんな景色を眺めながら、少女は一人ガードレールに小柄な体躯を預けて調子外れの鼻歌を震わせる。

流行りも廃りもないような、ありふれた曲が夜のアビドスに響かせながら。

少女は歌って、語って、囁いて。

 そして唐突に振り返った。

 

 

 

 

「……やあやあ。やっと来たんだ」

 

 

 

 

 当然、誰もいないその場所───否。

一人きりだった筈の少女が声を掛ける共に何もない筈の空間が揺らめき、()が現れた。

夜闇に溶けるような仕立ての良いスーツ、艶やかな脂が塗り込まれたパンプスは天然革か。

紫紺の髪は滑らかに風に揺れる。

そしてその整った顔立ちには、夜だというのに小振りな()()のサングラスが掛けられていた。

 

「いやさぁ、おじさんも歳だからね〜。こぉんなに待たされるとさ……()、草臥れちゃうよ」

 

 力の抜けた調子の声は気安い雰囲気のまま目の前の女へと向かって放たれる。

 

「随分、足が速いんだね?私これでも足の速さには自信あったから……()()()()時は結構ショックだったなぁ」

 

独り言のように呟かれるそれへ反応はなく、それを気にした様子もなく少女は担いだ散弾銃で数度、肩を叩く。

夜遅くまで自治区をパトロールして疲れた体を労る為か、それこそ否である。

 

「でもまあ、土地勘ないならやりようはあるわけで。ま、こんな風に先回りできちゃうんだよねぇ」

 

 これは正しく、警告。

『女』はそう認識した、次の瞬間には。

 

「それでさぁ……アビドスに、うちに来てるお客さんに手を出しておいて無事に帰れるとかさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

───お前、本気でそう思ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が軋んだ。

その言葉()が世界が流れると共に一歩、少女は跳んだ。

空間ごと押し潰すように、互いの距離は駆け出した少女小鳥遊ホシノによって塗りつぶされ、『女』が気づいた時にはそのくびれのある腹部へと黒鉄色をした大盾の側面が叩き込まれる。

 

「───ッく!?」

 

 気づくのが遅れた女はその事実に驚愕しつつも、衝撃に合わせて()()

 

「へぇ……」

 

その一跳び、ホシノの膂力も合わさった結果、一瞬にして大きな距離を生む。

その筈だった。

 

「逃すわけないよッ……ねェッ!!」

 

 小鳥遊ホシノ、再びの跳躍。

人は自らが放った矢に追いつけるかと問われれば、限りなく不可能に近いという解答が多くの人から寄せられるであろう。

だが、小鳥遊ホシノはその豊富な実戦経験と極めて高い身体能力で風となり、それを成し遂げる。

 

 地面を蹴り、翼なく宙を疾走。

衝撃を殺す為に後ろへと跳んだ女へ迫り、撃つ。

叩きこむは12ゲージの()()

暁を冠するホシノのEye ofHorus(愛銃)が唸り声をあげて散弾という名の爪を振るう。 

回避不能の一撃。

それを女は。

 

「……なるほど」

 

着弾、しかし致命に至らず。

女は急所のみを手早く守る姿勢によって見事に防いでみせた。

それを見届けながらホシノは横蹴りを女の腹部へと叩き込みながら反転、空中で宙返りながら見事に着地する。

だが、その表情は険しい。

 

「チッ……距離あるとはいえ結構痛いと思うんだけどなぁ」

 

 再び距離を開いての対峙。

ホシノの銃撃は空中であっても正確であったが僅かに有効射程に届かず。

女はそれを悟り、咄嗟に頭部と心臓というサーヴァントの霊核(急所)を守る事で見事に防いだ。

その代償に四肢は赤く染まるも、女が呼吸を整える間に傷は塞がり始める。

 

 ───高速回復。

学園都市キヴォトス、そこに住まう者は屈強な肉体とその身に神秘を宿す。

無論、そんな彼女たちとて銃弾を浴びるように撃たれたならば怪我は負うだろう。

血も流すだろう。

だが、それでも生身の人間が受ければ挽肉に成りかねないソレすら基本的には死には届かず、多少の怪我であれば数日経てば平気な顔になる。

怪我だけでなく病気すら、それなりに身体が弱くとも一週間もあれば復調する。

中には 当たった側から回復する者(剣先ツルギ)当たるのも関係なしに戦い続けられる者(美甘ネル)といった継戦能力に長けた破格の逸材もキヴォトスには存在する。

 

 だが、と。

だが、否であると。

ホシノは直感するのだ。

これは違う。

目の前の女のそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それ故に油断なく、ホシノは相手を見据えながら口を開く。

そしてその手は、その動作には目も向けないまま、されど澱みなく薬室へと伸びていた。

 

「ふぅん……()()()()()()なんだ。お前達って」

 

互いに距離もある。

だからホシノのこれは一人言。

苛立ちの籠った納得、即ち次の行動へ移る前に自分の中での整理。

 

 

 

 

───どう倒すか、その算段。

 

 

 

 

 同じく、女もまた口を開いた。

 

「……()()()()()話よりもずっと厄介、でしょうか」

 

 小さく溢れるそれはホシノに聞かせる意図はない。

ただ純粋な驚愕。

小鳥遊ホシノというキヴォトス屈指の強者、その実力は異邦の英霊から見ても驚きと共に受け入れられる。

だからこそ静かな声には恨めしそうな文句も宿るというもの。

 

 

 

───倒すにも一苦労だと、疲れを滲ませて。

 

 

 

 

「まぁ、どうでもいいか」

 

「……いえ、構いません。」

 

 お互いの一人言が交差する。

相手を見ている。

目線がぶつかり合う。

なのに言葉はすれ違う。

 

「私の友達に、私の街に、私の街を守ろうとしてくれた子達にお前は喧嘩を打った……取っ捕まえてシャーレまでとか考えてたけど、もうどうだって良い。結局、最後は倒すんだ。だから今此処で」

 

「潜在的脅威であると認められたという話に偽りはなかった。事実、いくら小石とはいえこれだけの実力者がいてはいずれ私達の計画に支障が出かねない。ですから」

 

理由なぞ知れた事。

愛もない、情けもない。

理解し合う事もない。

あるのはその身と手にした殺意。

生きる時代も、住まう世界も異なる二人だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

─── さっさと潰れろよ、お前

 

 

 

 

 

 

 

─── ここでリタイアして頂きましょう

 

 

 

 

 

 

 此の場、此の時。

目の前の敵を斃すのだという意志のみだけが両者が理解し合える最後の余地であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Sword, or Death───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対峙するは最新と原初。

神秘と真名、互いに理由は異なれど秘匿されるその神聖(神性)はいずれも強大。

互いに万全の整いとは言えぬ今宵の一騎打ち。

その先手は。

 

「先ほどは()()をし損ねましたから……改めて貴女から頂きましょうか。もっとも」

 

スーツ姿の女から。

呟くような一声と共に、姿を消した。

敵前逃亡だろうか、否。

 

「───あまり美味しそうではありませんね」

 

「くゥ……ッ!」

 

 強襲(ストライク)

魔力の放出による紫電を放ちながらの超加速。

その敏捷性たるや掠める吶喊だけで盾越しのホシノの腕ごと持っていかんとするほどに凶悪その物。

衝撃、ただそれだけで踏鞴を踏む事すら許さずにホシノの両足はアスファルトを砕きながら後退。

対する女もまた初撃を去なされた事へ胸中に驚きを抱きながらも次の一手へ移る。

 

「……へぇ」

 

 思わず、ホシノの口から漏れたのは偶然にも女が懐いたソレと同じ。

感嘆。

金切り声を上げる空気は処刑台。

人外の敏捷性によって成立する鋭角かつ三次元的な機動によってホシノの周囲を女は駆ける。

 

「これッ、またッ……おじさんにはキッツイなぁ……!」

 

だが見惚れていては待っているのはカロンの導き。

続け様に鳴り響くは金属の嬌笑。

囃し立てるようにして四方から飛び出す鋼鉄の鉄杭はホシノのその小さな身体へ風穴を開けんと殺到してはその手に構えた大楯に弾かれては、杭はその姿を()()

時刻は深夜。

人気がなく、ぽつねんと立つ街灯と星明かりだけが頼りの夜道では、その速度も相まって視認性は最悪、駆ける女の姿は勿論、彼女が放つ鉄塊を捉える事さら不可能に近い。

 

「速いね〜……でもさぁ」

 

 音すら殺す超高速の疾走。

その速さで移動をしながら放たれる鉄杭は弾丸の速度を与えられた対戦車誘導弾か。

それが一秒と置かずに幾度も闇夜から降り注ぐ。

元よりその敏捷値はサーヴァントという人類種の頂点に立つ存在の中でも最上位に位置するAランクに位置する女の攻勢は最早人の域にある動体視力を置き去りにする。

 

 紫電。

それこそが少女の目に映る、そして五感で捉えてなおそう認識せざるを得ない敵の全て。

だが対峙するホシノもまた、一廉の猛者。

 

「足が速いだけじゃあッ……ねぇッ!」

 

機関銃と見間違えんばかりに殺到しては高らかにその脅威を告げる鋼鉄の雨、全てを叩き落としては自らの愛銃に咆哮を命ずる。

1秒、また1秒と女の動きに確実に追随し始め予測を立てては確実に一手を潰していく。

桁の外れた経験の蓄積から来る圧倒的な戦術眼。

今を生きる孤高の天才は人類史が誇る英雄へと迫り始め。

 

 ホシノの首筋にじりりと熱いナニカが奔った。

 

「ええ、存じています。ですからほら、冷たいほどに鋭く、()?」

 

「───ッぅ!?」

 

直感、虫の知らせと言うべきか。

咄嗟に背後を見る事なくホシノはその場を跳び出す。

見送るは女が一人。

櫛が通ったように艶やかな紫髪を揺らし、気配なくホシノの背後へと降り立ってはその耳元へと(嘲り)を囁いた女は妖美な溜息を溢した。

ホシノの首筋へと突き立てんとしていた鉄杭が虚空を捉えてしまったが為に。

 

「残念。あと少しで夢見心地だったでしょうに」

 

「……悪いけど、おじさんは寝るならお昼寝の方がいいかなぁ」

 

背中越しにかけられたその挑発(言葉)に大様に返したホシノは、けれどその頬に冷えた汗が流れている。

ほんの一瞬でも反応が遅れたならば、自身の首には鉄の塊が埋め込まれていた。

その事実に肝を冷やしながらも、ホシノの中で一つの覚悟が決まる。

 

「見せ物はこれでお仕舞い?ならおじさん、ガッカリかなぁ」

 

見え透いた挑発を口にしながら、くるりと弾倉内を撃ち切った銃身を回して逆手、本来持つべき握把(グリップ)ではなく長い銃身を握り締める。

数分間の戦闘、このごく短時間で把握した相手の動き。そこから導くのは極めて単純な解。

 

「(……面倒だね)」

 

 強い。

小鳥遊ホシノの17年間、その中で技量ならば上を行く人間は他にもいた。

だがこれ程までに速く、そして鉄杭などという凶器を使用する相手はいなかった。

それもその筈、銃社会であるキヴォトスにおいて剣や槍、ましてや鎖付きの杭などという変態染みた設計思想の前時代的な武器を使用する人間なぞ何処にもいない。

射程も威力も利便性も銃の方が遥かに優れている。

このキヴォトスで格闘術を習う事はあってもそれはあくまでも制圧の為か、はたまた本当に趣味の範疇。

射程という名の圧倒的な間合いを有した銃火器を用いての戦闘こそが本命であり、戦闘の基本。

だがその基本が、これまで培ってきた経験が通用しない現状。

 

 理解したのだ。

目の前の女を今ここで倒さなくては必ずアビドスに、自分の大切な友達を傷つける脅威となる事を。

 

 

「(長距離だけならまだしもこの機動力……ちょっとしんどいかな。出来るならこれからの事も考えて少しでも情報集めたかったけど、あんまりゆっくりしてると首を掻かれる)」

 

 何よりもそんな変則的な武具を万全に使い熟す強者を前にしていつまでも伺うように戦っていては、未だ余裕があるとはいえ埒が明かないどころか、一手間違えれば敗北の二文字すら予兆させる。

 

「こちらの誘いを手酷く振ってしまったのは貴女ですよ、お嬢さん。誘いに乗って上手に動く、というのが良い女。もっとも……その矮躯では経験がないのかもしれませんね」

 

 対する女もまた、ホシノの挑発へ軽口を返しながら思案し警戒する。

 

「(足の速さ、単純なソレなら私が上。ですが反応速度は私以上と見積もっても可笑しくありませんね。なにより初見での対応力。できれば半月ほどは床に伏せて頂きたいと思っていましたが、あまり加減するとこちらが沈められますね)」

 

 小鳥遊ホシノ。

マスター達から命じられるまま、威力偵察と先日アーチャーの姿と戦闘が確認されたアビドスへと訪れた彼女が唯一警戒するよう厳命された戦力。

曰く、三大校が一つでありマスターの出身地でもあるゲヘナ学園の最大戦力『風紀委員会』、彼女達とぶつかっても勝ちを拾える存在がいる。

 

 その筆頭戦力にしてかつてゲヘナが最大の警戒を敷いた少女こそが目の前にいる小柄な娘だと気づいた時は、決してそうは見えず。

けれど女はこの数分間の戦闘ではっきりと理解していた。

目の前の少女が、かつて自身を討たんと剣を手に取っては散っていった戦士はおろか、綺羅星の如き英雄にも比する程の戦上手である事も。

そして自覚なしに張り詰められたその神秘と神聖は、ともすれば全盛期の自身にすら匹敵しかねない最高位のソレである事を。

 

「(厄介ですね……)」

 

 理解したのだ。

小鳥遊ホシノを今ここで倒さなくては必ず自分達の目的の邪魔となる事を。

 

 故に、両者は。

 

「……あっそ。なら教えてもらおう……かなッ!」

 

「ええ、その短い手足で踊るのは大変でしょうから……リード、してあげますよ……ッ!」

 

 

 

 

───得意を捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Turn 2───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盾を背負い振り向き様に拳銃を撃つホシノとそれを掻い潜っての女の前進。

奇しくも両者が選んだのは。

 

「スカした調子、もう置いてきちゃったのかなッ!?」

 

───超接近戦(インファイト)

近中距離からの制圧を得意とするホシノ。

持ち前の()を活かした中距離からの一撃離脱(ヒット&ウェイ)を得意とするサーヴァントの女。

両者共に得意の戦法と距離を封じ、最短、そして確実に敵の打倒を目指す形となる。

 

 そしてその結果は。

 

「……逃がさない、よッ!」

 

 小鳥遊ホシノ───優勢。

左手に拳銃の握把を握り、引き鉄へと指を番えて牽制の一打を放つ。

右手に愛銃の銃身を掴み、迫る鉄杭を弾き飛ばしながら打突を繰り出す。

射撃と格闘戦を高次元に織り交ぜた脅威的な技量と持ち前の高い身体能力によって、身長差25cmというハンデを悠々と突破し女を圧すようにして攻め立てる。

 

 アビドス高等学校の校章が刻まれた純白の銃床は流星の閃きとなって女の身体へと放たれる。

乱打。

そして拳銃による精密な射撃。

言い表すならば猛攻。

息をするのも惜しいと言わんばかりに打ち込まれていく打撃は純白の軌跡で夜を彩る。

正に芸術。

小鳥遊ホシノに不得手なし。

アビドス自治区における最高戦力はこの日、夜に眠る街とそれを見下す月にまざまざと眠らせていたその実力を魅せつける。

眠れる大鳳、開眼。

 

「あまり乱暴は好き、ではないのですが……!」

 

 だが、女もまた英霊の一角。

 

「……ッ!どの口が───ッ!」

 

 顔面へと向けられた超至近距離からの投擲。

寸で顔を傾けたホシノは、頬に感じる熱さとは真逆の更なる追撃の気配に背筋を冷やす。

ホシノの柔らかな肌に浅い傷を作った杭は、彼女の脅威的な反射神経によって通り過ぎた。

だが、まるで意思を持つようにすぐさまに反転しホシノの背後から襲い掛かる。

 

「良い腕だねぇ……大道芸人にでもなったらッ!」

 

理由は単純明快───鎖だ。

両の手に握られる鉄杭、その片端はそれぞれ地面に垂れるほど長い鎖が繋げられている。

それを手繰り振る事で女は自在に鉄杭の軌道を導いてはホシノへと絶え間なく牙を剥く。

 

「お生憎様ですが……笑うのには事欠かさない生活が送れていますので」

 

 恐るるべきはその技量。

超接近戦(インファイト)、吐息がかかるほどに密着しての至近距離での戦闘。

拮抗状態から一撃で相手を仕留めんが為に両者が選択したその間合い(バトルフィールド)は一手の過失が命取り。

 

 だからこそ、その巧みな手練手管、しなやかな身体操作は人間の域を越えているとホシノに理解を強制する。

迫り来るホシノの打撃と射撃、それらを 身熟し(スウェー)一つで躱し、片手では鋭い突きを、もう片方の腕で鎖の操作を。

その攻勢をホシノに慣れさせない為に予兆なく左右の動きを交換(スイッチ)

鎖を引く動作を手首の小さな動きから腕を引き絞る大きな動きまで織り交ぜつつ、躱す動作によって半身の構え、その際に生じるホシノの死角で刹那の時に操作する事により次の動きを予測なぞさせない。

 

 変幻自在、千変万化とはこの事か。

ホシノの動きが戦場での芸術ならば、女のソレは妖艶さすら醸し出す官能。

滑らかに過ぎる動きは見る者の情動を掻き立てんばかりに艶やか。

しかして無念なのは彼女達の演舞、その舞台の観客が月明かりと星屑だけな事か。

それほどまでに見事な戦闘。

片やキヴォトス最高の神秘にして天才と謳われた少女、片や汎人類史において人類最高の決戦兵器として用意された英霊の座に召し上げられた古き神聖。異なる世界における一つの到達点は、血潮を湧き立てる武の舞踏会を可憐に演じる。

 

 故にこそ。

 

「……ハッ」

 

敵の両手から鋭く放たれる兇器(まがきもの)は牙を剥き出しにしてその先端でホシノの躯体を穿たんと迫るが、 銃床で去なす(パリィ)

隙を見つけてはその流れのまま手首の丸みに沿わせて銃身を反転。

目にも止まらぬ勢いで銃口から放ったのは18.5mmの薬莢、その内に押し込められた無数の鉛を叩き込む。

 

「どう!しったのかなぁ!……おじさんッ、そろそろさッ!そっちの動き……そろそろ慣れてきちゃったよぉ……ッ!」

 

 破裂音と金属同士がぶつかる鐘の音が夜のアビドスに響き渡ること百を越えたか。

優勢を保ちながらホシノは臍を噛む。

 

「(嫌な動きだな……習ってどうこうとか実戦で磨いてとかでもない。根本的に人間のそれじゃ……っ!)」

 

 女の動き、それはホシノの知るどの生徒のそれとも違っていた。

見かけで言えば直線的かつ直角的な機動。

だというのに踊るように滑らかな体捌き。

跳ねる、走る、振り抜く。

漲る活力に突き動かされる四肢の動作は、まるで扇情的な舞姿。

それは戦闘での効率を突き詰めるそれとは逆、溢れんばかりの獣性。

人の形をした野の獣、それも四つ足の生き物ではなく。

ホシノの思考にあるのはとある生物の姿。

地を滑り、毒牙を突き立て、獲物を丸呑みとするいと古き神秘の象徴。

───即ち、蛇の如き戦いであると。

 

「(ショーケーケン、ってやつ?よく知らないけど……あーもうっ!こんな奴が出てくるなら一回でも見て勉強しとくんだったッ!)」

 

 頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られながらホシノは攻撃の手を休める事はなく、女の実力に焦りを覚え。

 

 そして、それは女も同じ。

 

「それはそれは、ではギアをあげましょうか?ですが雛鳥相手、加減は必要でしょう?……大人の余裕をッ!見せてあげなくてはあまりに哀れッ、という物ですからね!」

 

 女はサーヴァント。

遥か太古に生き、人類史に刻まれた存在であり、霊長という枠組みの限界値に位置する精霊の一種、そして嘗ての英雄の精髄を写し取った影法師たる英霊

 

「(見かけによらない技巧派。洗練された動きに躊躇いも隙も見当たらない……これが噂の天才、ですか)」

 

 そんな彼女が唇を噛む。

目の前の少女の強さ、その実力の高さに、脅威を感じ敬意を抱く。

嘗てアビドスという小自治区の出身かつ1年生でありながら、当時のゲヘナ学園が()()と称して畏れた理由を、その実力をもってまざまざと脳裏に叩きつけられる。

 

 銃社会で凡そ初見であろう動きや戦い方に対して完璧に合わせてみせるのは積み上げられた技術と応用力。

ほぼ独学でありながら最高効率を叩き出してみせる完成された体術と戦闘術。

苦手なぞ一つもない、器用貧乏ではなく器用万能

なにより恐ろしいまでの動体視力は見ただけで凡ゆる動きに対応を、そしてそれを己の中に落とし込んで再現してのける。

そして内包されるその神秘の()()

女が世界の現代社会によく似たキヴォトスにあって、あり得ない妄想だと切り捨てたくなってしまうまでの出力と霊格。

 

「(世が世、いえ、世界が世界なら座に招かれても……なんて事までつい考えてしまいますね。それほどまでにこの少女は……!)」

 

 間違いなくこの時代、そしてこのキヴォトスにおける最強の一角。

それこそが小鳥遊ホシノという少女。

 

 だからこそ、互いの手は緩まず。

一撃を。

確実に此処で目の前の敵を斃すとその四肢が唸りを上げて叫ぶ。

 

「減らず口……叩く余裕があるかなぁッ!」

 

「聞いての通りですよ!お嬢さん……ッ!」

 

 鈍色の鋼と重々しい鉛と純白の輝きが交差するのはこれで幾度か。

数えるなぞという生温い話をとうに置き去ったぶつかり合い。

空気を振動させる余波だけで僅かな灯りを齎す街頭を恐怖に震わす。

足踏み一つで粉塵を広げて、それを互いの武器を振り抜き様に巻き上げては秘めるようにしてカーテンとする。

漆黒のパンプスが、紺色のスニーカーが、それぞれアスファルトを蹴り、爪先で捉える度に油の焦げる臭いを漂わせ激化する戦闘と共に熱を帯びていく。

 

「邪魔───!」

 

 その瞳はいと古き神性。

伝承に曰く、真実を計る物。

最も貴き一柱、その神秘を宿す末裔。

 

「そちらこそッ……!」

 

 対するは遥か古き神体。

掠れ、薄れ、奪われた。

人の、神の営みが産んだ被害者。

原初の在りし一柱、その残滓が形成す英雄。

 

「だからッ慣れたって……言っただろッ!!」

 

 両者共に譲らぬまま、けれど戦況はホシノへと傾き始める。

 

 猛攻(ラッシュ)追撃(ラッシュ)痛撃(ラッシュ)───!

過酷極めたその攻め手、ホシノは絨毯爆撃染みた攻撃の手を緩める事なく息を吐かせぬ勢いで女の懐へと踏み入っていく。

女の身体操作、鎖の不規則な軌道、鉄杭の刺突。

それら全てを紙一重にして完璧に、そして最小限に躱す見切り(グレイズ)

 

「ほらほらいくよぉ〜……ぶち抜いてやるから覚悟して───ッ!」

 

 押されていく、女の動きが。

潰されていく、女の初動が。

鉄杭が叩き落とされ、鎖が弾き飛ばされ、女体に鉄球が埋め込まれる。

 

「くぅぅ……ッ!?」

 

 元よりその結果は必然だった。

⬛︎⬛︎⬛︎の瞳。

真実を見徹す神秘を宿したホシノの動体視力は常軌を逸し、そしてその瞳が捉えた動きに対する最善かつ最高の戦術をホシノは既に組み上げ終えた。

神秘と積み上げられた経験と技術に掛け合わせた高次元の戦術眼。

 それこそがホシノの真骨頂。

たとえ初めて相対した敵、初見の動き、経験にない武器、得意な間合いでない戦闘であっても。

天才と呼ばれた少女は時間さえあれば十二分に対応し勝利を掴み取らんとしてみせるのだ。

 

 故にこそ。

確実に、着実に、ホシノの勝利が目前へと迫りつつあった。

 

「(……やむを得ません、ね……)」

 

 ()()()()

 

 

 

 

 

 

「───は……痛ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 ───女はその()を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───Last Turn───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血飛沫が、舞った。

後退りと共に肩を押さえるのは───小鳥遊ホシノ。

痛みからだろうか、荒く息を吐く。

左手で押さえた制服の肩口は赤く滲んでいる。

 

「……痛ぅ……」

 

「おや?肩を抜こうと思いましたが……浅かったですか」

 

「……くそッ」

 

 互いに有効打を与えられずにいた激戦を制したのは意外にも劣勢にあった女。

 

 その手に握られているのは───()()()()

黒漆に染め上げられたその小ぶりな刀身は短剣と称すべきだろう。

対し護拳や柄に施された華奢な装飾は厳かな黄金。

決して派手さはなく、荘厳と輝くは至宝と言わんばかり。

そして夜より昏き刃からは鮮血が滴っていた。

 

「さて形勢逆転、と言ったところでしょうか?」

 

 その血を振るって拭う女は、先程の一閃で外したのか、サングラスに閉ざされていた()()()()()が夜空の星々を映すようにして瞬いていた。

 

「まさかッ……まだまだ、これから……でしょッ」

 

圧迫止血を終え、左にべたりとついた血をスカートで拭い、片膝をついてしまっていたホシノは立ち上がると、迷いなく()()を手放した。

 

「(血は止めた、けどこの肩じゃ多分上手くは構えられない。なら多少大振りになっても確実に叩きのめせるコッチを……結局、最後に頼るのはこの子、か)」

 

 肩に掛けていたスリングを下ろして、そのまま盾を手に取った左腕を振るう。

大盾は今代の主人に応えるが為に、重々しい音を響かせながらその身を顕とし。

そうして盾の展開を終えたホシノは、ゆっくりと、 最も信頼を置くそれ(IRON HORUS)を眼前に敵へと突きつけるように水平へと構えた。

 

 その姿に女もまた愛する剣を掌の内でくるりと回すと逆手へと持ち直しては内心で安堵を漏らす。

 

「(……ようやく盾を構え直してくれましたか……今宵は随分と遊びが過ぎてしまいましたし、()()()()()()()()()()()のならそちらの方がありがたい、ですが)」

 

 本来の()()から大幅に外れてしまったホシノとの戦闘。

仮想敵である以上、ある程度ぶつかって未だ慣れないこの地おいて実力者と囁かれる少女の力量がどの程度か測っておこう、その程度の心持ちで始まった戦い。

だが、いざ蓋を開けてみれば出てきたのは雛鳥どころか想像を遥かに凌ぐ怪鳥。

未だ手札を全て切ったわけでない、というのはホシノもまた同様。

 

「出し惜しみして帰りが遅くなっては、マスターに怒られてしまいますね」

 

「……マスター、って呼んでるんだね。自分の雇い主のこと」

 

 この娘を放っておけばいずれ必ず大きな障害となって自分達に立ち塞がる、そんな予言めいた確信が女の中にはある。

だからこそ勝利を、今この場で確実な無力化を。

そう思い全身の筋肉へ緊張を奔らせた最中のホシノの一言。

 

 素性の分からぬ女から少しでも情報を得る為か、それとも未だ痛みの止まない肩口のこともあって少しでも時間を稼ぎ息を整える為か、それとも単なる軽口めいた挑発へと繋げる為か、その思惑は女には分からない。

そしてホシノの一言は決して不用意な発言などではなかった、通常ならば。

 

「……なるほど」

 

 そう。

 

「……んー、なにかな?おじさん、変なこと言っちゃった?」

 

聖杯戦争中でさえなければ、マスターという当たり前の単語が極めて重要な意味を持つ時期でさえなければの話。

ホシノの『雇い主をマスターと呼んでいるのか』などという、まさにマスターという存在について知識がないと自分から宣言してしまった発言に女は。

 

「いいえ、こちらの話です。随分と噛みついてくる物ですからてっきり()()なのかと思いましたが」

 

()()()()()()()艶然と微笑んだ。

 

「これで憂いなく貴女を殺せそうです」

 

その一言にホシノもまた警戒を一段階強めつつ、鼻で笑いながら挑発を口にする。

 

「……()()()()()()こと、言わない方がいいんじゃない?お姉さん」

 

風に吹かれて流れたそれは女の耳へと届き、何を想ったのかは夜の暗がりに吸い込まれるようにして輪郭を見せないまま。

けれど女は笑みを消してつまらなさそうに呟く。

 

「……本当に、面倒な子」

 

その一言を最後に、互いに僅かな沈黙が流れて。

 

 

 

 

 

 

 

「─── とっとと潰れろ

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてこの夜、アビドスで神話の再演というべき二度目の戦いが再開された。

その結末は、今はまだ夜空だけが知っている。





1じゃんね☆
元がおまけ程度の文章量だったからめちゃめちゃ時間かかっちゃったじゃんね☆
本スレの方がちょうどとあるサーヴァントについて話すところで消えちゃったから……少しだけ、気持ち程度だけど未解禁情報の開示じゃんね☆

次の更新は本当に小ネタじゃんね☆
お話の続きは明日になります、じゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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