映像 ヲ 再生 シマス
トリニティの中心地より少し離れた尖塔の街。
分校舎内に置かれる形で建てられた聖モイラ病院。
誰もが既に消灯している時間。
「防火扉ぜん⬛︎閉⬛︎たよっ!」
「ソファでバリケー⬛︎作れたけど……」
「連絡はっ!?」
「EC⬛︎受けてるのっ!」
「なんでもいいから皆んな構えてっ!!」
非常灯の薄い緑だけが照らす中、5人の少女達が慌ただしく動いていた。
それほど大きくはないその入り口、本来は病室へと続く廊下は、今は分厚い扉で全て封鎖されて密室という様相を示す。
今5人が立っているのは、そういう場所だった。
「……大丈夫、⬛︎⬛︎とか⬛︎とかは救急車が来たらいけないから用意出来なかったけど……」
「うん、セントリー⬛︎⬛︎だって起動させたし、何が来たって大丈夫だよ!」
「長い槍を持った不審者だっけ?……見間違えかもしれないんだから、そしたら片付けなきゃだね」
「そうなっあら⬛︎⬛︎ちゃんのせいだからねもうー!」
「えぇらひどいよぉ」
そんな風に笑い合っていても、彼女達の肩は震えていた。
当然だ。
槍を持った大人が、トリニティの生徒を殺そうとした。
ティーパーティーが混乱を防ぐためにその情報は一般生徒達には伏せられていたが。
彼女達は病院での夜勤を担当する『救護騎士団』の生徒。万が一という事もあって、昨晩あった事件については特例で知らされていて。
だからこそ、彼女達はその女が病院の敷地内にいるのを見た瞬間に行動していた。
たった5人、他の夜勤の子達より銃の扱いに慣れているから。彼女達に防火扉の先で入院している人々を託して。何故か通信が繋がらない中で、必死に迎え討とうと待ち構えていた。
硬い音が鳴る。
歯と歯が叩き合うように鳴っているのを、そしてそれを自分の意思で止められない事を少女達は自覚している。
いつものように冗談を言い合っていても、無人迎撃用の機器がけたたましく外で音を鳴らしていて、そしてその音が少しずつ小さくなっている。
間違いなく誰かが近づいている。
硬質な音が鳴る。
靴の音だろうか。
彼女達が履く革靴やスニーカーのソレではない。
もっと重々しい軍靴の音だ。
入り口の硝子戸越しに聞こえる筈はないのに。
それは確かに響いていて。
喉輪を掴まれたように呼吸は荒くなり、後悔は募り。
それほど動いてもいないのに汗で冷えるその小さな体を必死に動かして。
ソファで作った簡易的なバリケード、その向こう側を除き続け。
「うむ……使い走りに来てみれば、随分と歓待の準備をしてくれたな」
そうして、その女は現れた。
旧式なのは否めないセントリーガンではあるが、それでも十分な成果を発揮した筈だ。
真っ当な生徒ならそれこそ6基も用意されたその弾丸の嵐を受ければ、ただでは済まない。
丸1日は寝込んでもおかしくはない。
だというのに、正面入り口前に現れた深い紫の戦衣装に身を包んだ女に怪我はなかった。
「……ここはっ、病院です。救急ぉっ、方でしたら……夜間受付、をしてください……っ」
努めて冷静に。
一人の少女が震える声を無理矢理に抑えつけてそう言った。
歯根も合わず、息だって荒々しい。
舌もいつものようにきちんと動くなんて事はない。
それでも
女はそれを受けて一切の表情も変える事なく、飄々とした態度を示し続ける。その肩に、真紅の魔槍を乗せながら。
「いやなに、ちと見舞いにな」
「……お見舞いでしたら夜間は受け付けておりませんっ!お引き取り下さい……っ!」
鼓舞するように、力強く少女は言う。
退けと、帰れと。
ここは通さないと。
必死にそう言い切った少女へ。
「……うむ、決めた」
───女は嗤った。
「元よりつまらん命令だったのだ。そんな事よりお前達のような娘と踊った方がよほど楽しかろう」
からからと笑い、彼女は槍を肩から下ろして。
一振り。
たった一振りで。
入り口の自動ドアの硝子は全て風圧によって砕き散らかされ。
建物との境界線だというかのように深い爪痕が地面に描かれた。
「さて、儂は今から見舞いに行かねばならん。何せどの病院にいるのかあの間抜けはわざと言わなかったのでな。ついでに釣り出してこいとは全く面倒な奴よな」
「とはいえ命じられた以上は責任果たさねばならん」
「故にだ、騎士を冠す娘達よ」
「その震える足で私を足止めしようというのなら、この線を越えさせんとするなら」
けたたましい音が鳴る。
5人の少女達はその手に握る火器を奮って女の侵入を防ごうとしていた。
防衛戦が始まって、28分が経っている。
女を外へ外へと追いやろうと、なりふり構わずに戦い続けていた。
「負ける……もんかぁっ!!」
「撃って!とにかく撃って!!」
ソファで作ったバリケードに身を隠して銃弾を、手榴弾を叩きつけていく。
必要なら力自慢の娘が椅子や机を投げ込んでいく。
冷えた汗を迸らせながら、少女達はまだ欠ける事なく戦い続ける。
結果は。
「うむ、いいぞ」
瞭然と現れていた。
女は先程までいた入り口から8メートルも離れた場所に立っている。
「よく狙えよ、そうすれば敷地の外まで逃げ込むはめになって、儂も思わず諦めてしまうかもしれんからな」
嗤っていた。
無傷では決してない。
人の手を介さない弾丸ではなく、個人差はあれど確かな神秘が込められた銃弾が掠めた事で僅かに血を流している。
貫かれたように手榴弾の爆風を受けて傷を負っている。
だというのに、堪らないと言わんばかりに笑っている。
だがそれは、
「痛ぅっ……!」
「⬛︎⬛︎ちゃん!?駄目だよ前に出す⬛︎ちゃ!?」
少女達も同じ事。
弓で、三叉棍で、短刀で。
放たれるそれらを頼りない遮蔽物に隠れながらも合間を見計らうように、試すように放たれるソレらに少なくない傷を負っている。
今声を上げた少女も肩を掠めた短刀で、浅くない切り傷を作る。
よく見れば投擲に専念している少女は片手を真っ青に染めて歯を食いしばりながら立っている。
額から流れる血でろくに前が見えずともそれを無視して、ひたすらに引き金を引く少女もいる。
誰もが満身創痍だった。
28分。
時間にすればたったそれだけ。
だが彼女達はひたすらに戦い続けた。
8メートルという距離を稼いだ。
サーヴァントという規格外の存在を相手取って、その背にあまりに多過ぎる守るべきものを背負って。
それでもまだ助けは来ず、その為の連絡は取れず。
既に全員がぼろぼろで、予備の弾薬すら底を突きかけている。
当然だった。
彼女達はあくまで『救護騎士団』であってここは病院なのだ。
戦うという選択を取る事自体が稀な、誰かの傷を癒したいと願った子達なのだから。
備蓄もなく、増援もなく、ただ少しだけ銃の扱いが上手くて、病室で待機している彼女達より上級生で、この病院をあの蒼い翼から託された自負があるから。
だから、こうなることは必然だったのかもしれない。
「ぁ……ぅ……ぅあああああっ!!!」
まず手のひらを骨折して引き鉄に指をかけられない少女がバリケードを飛び越えた。
手に握るのは愛銃、その銃身をまだ折れてない方の手で硬く握りしめて走り出す。
ここで止める、ここで防ぐ、任せられたのだから。
ここは病院で体の弱いみんながいるのだから。
こんな奴に負けられないと。
私が守らなきゃいけないと。
怪我をして苦しんで、なのにこれ以上辛い想いをする人がこれから目の前の女を止められないせいで増えるなんて。
ましてや殺されてしまうかもしれないだなんて。
そんな事を許せる人間はこの場には誰もいない。
何故なら彼女達は救護騎士団。
傷ついた人を救いたいと。
そう願う心優しい少女達なのだから。
「うむ、いいぞ。その在り方はやはり私の好むところだ」
だからこそ、勇気を振るう。
剣なき突撃は、その甲斐もなく足払いで転がされる。
けれど、少女の心は折れない。
また立ち上がり、何度も挑まんと銃を振るい続ける。
「⬛︎⬛︎ちゃんががんばるんだっ……わたしだって!」
「ヒフ⬛︎ちゃんを怪我させたおまえなんかにまけるかぁぁっ!!」
「アズサちゃ⬛︎がどれだけ痛かったか分かってるの……ッ!?」
捨てがまり。
もう彼女達は誰もが我慢せず駆け出す。
乱射をしながら、折れた椅子やガラス片を握って。
「病院なんだよぉぉぉ!!もうっもうぉッ!こないでよぉぉっ!!」
叶わぬ相手へと、立ち向かう。
「そうだ!!病院なんだ!!遊びの⬛︎⬛︎⬛︎でくるなぁぁ!!」
怖さがある。
泣いている。
血だって流している。
目の前の女がとある少女を昨晩殺そうとしたという事実も聞いている。
それでも彼女達は立ち向かって、必死に組み付いて、敷地の外へと追いやろうとして。
職務だ、だから踏ん張るのだ。
役目だ、あの気難しくも気高い人に任せられた。
友達が傷つけられた、けれど報復ではなくこれ以上犠牲になる人を増やさぬ為に。
守るのだと、己を鼓舞して何度だって銃を手に取る。
投げられ、殴られ、何度も立ち上がって。
唾を吐いて、噛みつこうとして、持っている破片を握りしめ過ぎて己の手から血を流して。
もんどり打っては這いつくばってでも必死に近づいて。
斬られて、傷つけられて、蹴り飛ばされて。
どれだけ痛くても苦しくても、かまわない。
敵の足にしがみついて敵を少しでも敷地から追い出そうとして。
最早戦いの体ですらなくなっても涙なのか血なのかも分からなくなっても。
それでも少女達はそうして、戦い続けたから。
「なにを───ッ」
空に炎が舞った。
溢れんばかりの怒気が熱の唸りを齎した。
赫怒燃ゆ。
その熱は概念にあらず。
益荒男の憤怒、その具現。
「貴様はッ!!」
月下、息も絶え絶えな少女達と嗤う女との間に降り立つは一人の男。
筋骨隆々たるやまさに芸術。
その兜の奥に爛々と燃え盛るは義憤の灯火。
「しているのだッ!!」
その手に掲げるは黄金の盾。
かつてスパルタを護り抜いた、その象徴。
彼こそが護国の英雄。
彼こそがスパルタ。
彼こそが───。
人類史上、例を見ない大決戦を制した戦士。
その偉業、未だ並び立つ者なし。
セイバーとの戦いを終えたレオニダス一世がこの地に降り立った。
「……お嬢さん方、⬛︎⬛︎ますか?」
ランサーはその背にいる少女達に向かって声をかける。
突然の衝撃。
大人が、しかも鎧姿の男の大人が頭上から降ってきた。
最早、少女達の理解の範疇を超える事態でただ呆然とする他ない。
それでも、なんとか意識を正して、一人の少女は言う。
「……ぁ、の、動けま「ならばっ!!」……ひゃぃ」
少女の身体では決して出ない、低く力強い声。
けれどその声に少女達は恐れを抱かず。
確かに低い、確かに力が込められている。
だが決して怯えさせないよう、優しく幼子へ言い聞かすように気遣って。
そうして赤い外套をはためかせながら、ランサーは宣言をする。
もう大丈夫だと。
よくぞここまで耐え抜いたと。
ここらか先は───己の役目だと。
「今すぐに施設へ。ここから先は私が引き受けましょう」
「大丈夫。もうこの先へは」
一閃。
槍を、振るう。
それはただの偶然であろうが、奇しくもアサシンがした事と同じ爪痕。
大地に刻まれるは一本の境界。
「一歩たりとも踏み越えさせません」
戦場と護るべき人々との間に敷かれた境界線であった。
そしてお前を護ると力強き言葉を聞いた少女達は、先ほどまでの狂乱を忘れて、
「……ひゃぃ」
熱に浮かされるように病院へ向かって駆け出した。
「やれ、随分といけずな真似をするではないか」
少女達が立ち去るのをその背で感じ取っていたランサーの耳へ咎める声が届く。
ここまで黙って成り行きを見守っていたアサシンは、不満そうに唇を尖らせた。
「……大きく出るではないか、ランサー?」
出来るのか、という問いと折角見つけた心清き少女達とアサシン目線での心温まる交流を邪魔された事への不満を、その態度に一切隠さず。
それを鼻で笑いながら、ランサーは淡々と事実を告げるかの如く言い放つ。
「
「事実か、うーんそうかぁ……そうだなぁ……ここで殺すか」
「出来ると思ってか?」
「出来ないなどと騙る口があるのか?」
両者、立ち昇るように殺意が揺らめく。
ありもしない音すら聞こえてきそうなほどに、槍を握りこむ互いの掌に力が籠る。
戦線が開かれる寸前。
誰が見てもそうだと感じる中、男は口を開いた。
「……アサシン、お前も英霊の末席を汚すというなら答えるがいい」
「応さ、答えてやろう」
「……何故だ。一体貴様はマスターでもない少女達をどんな理由で甚振った……ッ?」
ぎりりと奥歯を噛み締める音の大きさは英霊の霊基でなければきっと砕いてしまうほどの力が込められていることを示唆する。
虚偽は許さぬと、兜の奥で瞳は告げていた。
「甚振るとはまた人聞きの悪い。この娘達が自ら戦う意思を示した。ならば応えなくては女が廃るというもの。違うか?」
「ふざけた事を……!ならば何故この地を狙うッ!この自治区に立ち寄るッ!何故マスターが不在のこの場所へわざわざ来るッ!……どういう了見と申し開きするつもりだ、アサシンッ!」
「それこそ不幸な行き違いだ、許せ」
「何を馬鹿なことを……!」
憤る声は彼の実直さを示し、女の飄々とした声は現代、そしてキヴォトスともまた違う価値観を持つ事を示す。
そう、勘違いしてはいけない。
いくら呼ばれた時代の知識を聖杯から与えられようと、彼ら彼女達はサーヴァント。
古き時代、殺し殺されが当たり前な時代に生きた英傑。
価値観のすり合わせや言葉を尽くして交流を果たさねば、そもそも生きる時代という大きな隔たりによって制御する事すら難しい存在なのだから。
故にこの反応の差も、実に当たり前だったのかもしれない。
「そもそもだ、今日は手荒な真似をするつもりはそもそもないのだがな……とはいえああも勇気ある歓待を受けたのだ。例え
「あれを……!あんな物を歓待と!?彼女達のそれは幼な子の必死な抵抗でしょうがッ……!」
「そうであってもやはりこの地の娘達は愉快だぞ。抵抗に闘争を選択するのだ。まるで我らが生きたあの頃のようではないか」
嗤う、嗤う。
楽しいと、素晴らしいと。
その眩い輝きに望郷の感傷すら抱いて、女は嗤う。
戦うという意思と手段を持ち、彼女の知る霊長よりも遥かに剛き肉体を持ち、されど未だ幼く導き手を必要とする少女達を。
その神聖に思う事はあれど、それでもその在り方を認めているが故に。
彼女は手放しで褒めるのだ。
「まぁ良い。結果的に釣り出せたのなら、やる事は一つだ」
「貴様、まだ私は───ッ」
槍が真っ直ぐに向けられる。
その矛先に鈍い光が湛えられる。
死棘を冠するその槍は、主人の命を待っている。
「私は教え子にただの一度も戦場での勝利を口舌で掴むような方法を教えた事はなくてな」
「どれ、あの娘達も遠巻きに見ている。この都市に準えるなら、そう折角だ───」
「授業参観と洒落込もうではないか、ランサー?」
今宵二戦目となるサーヴァント同士の戦い。
その開戦の火蓋がたった今切られた。
さぁ───授業の時間だぞ?
その言葉を合図にアサシンは空中に指を走らせる。
折角構えた槍を下ろす。
その仕草は、慢心か。
否である。
虚空に描く塗料は魔力
即ち。
「魔術かッ……!」
描かれるのは原初の言葉。
古き神秘。
北欧より伝聞されし恐るべき力。
───ルーン魔術。
だが既にその神秘は掘り尽くされたとされている。
では、アサシンの使う物もそれであろうか。
違う、彼女のそれは原初にあった言葉。
それ故に、智慧の泉は未だ枯れず。
たった一工程に極大の神秘が宿る。
「私とて洒落はわかる。華麗に踊ってみせろよ?───
その指先から水滴が垂れ、土へと還り。
泥濘む。蠢く。渦めく。
lagu、即ち水を示すその一文字が齎した水滴は根を張るように教会の土地を浸食して。
今、神代の魔術はこのキヴォトスに蘇る。
「は、ははっ……暗殺者だてらに器用な事ですッ、なァッ!!」
土石流。
ランサーの目の前に、そして今まさに襲いかかってきたの隆起した大地。
ルーン魔術によって引き起こされた液状化現象によって土地そのものが波濤の如き蠢くナニかへと変貌しランサーへと覆い被さるように前方より押し寄せる。
「よろしい……ならばスパルタの心意気、ご覧にいれましょう!」
このままなら押し潰されるのは間違いなく。
故に、ランサーが取る選択は己が肢体を信ずる事。
即ち、筋力
つまりは吶喊。
盾を全面へ構え、その腕で迫り来る土砂の濁流へ備え。
「ぜぇぃッ……りやぁァァッ!!」
轟音。
まさに鋼鉄同士がぶつかったかのように、土砂を片手で堰き止める。
そのまま姿勢を前へ、前へと。
一本ずつ前進し、槍を突きだし。
「薄着の女に随分と手荒なやり方だな」
「戦士の戦いに華なぞ不要でしょうが」
突進。
液体と化した術式が浸透している土砂の中を切り裂きながら走り、その奥へといるアサシンへと槍を突き立てる。
理屈は通る───対魔力だ。
槍で裂いた場所を己の五体を強引に捩じ込んで術式そのものを乱す。
だが、そのやり方は正に荒武者。
勢いが削がれていた槍はアサシンへと触れるが、本来の一撃よりは遥かに与えた傷は少ない結果と終わる。
「力比べを望むか……では次はこれだ」
アサシンは手に持つ槍を離し、旋回。
勢いそのままに振るわれるは三節棍、いや三節槍。
その剛撃たるや先程の濁流が生優しく見えるほど。
壊滅的な風切り音を靡かせて、大気の息の根すら止めにかかる。
されどまたランサーも強者。
濁流を容易く制した男の五体は地面を捉え、その構えた盾は揺るがず。
見事にアサシンの振るう三節槍を防いでみせる。
「はッ……!」
「ぬぁんのォッ!!」
一度で足らぬなら二度振えばいい。
そう言わんばかりに槍はまた振るわれる。
鉄輪で繋がれながら鞭が如きしなやかさ。
生きていると錯覚させる予測不可能な鞭の軌跡。
正しく神業と呼ぶべきアサシンの手腕。
そしてそれを『耐久』してのけるランサー。
捌く、防ぐ、逸らす。
驚くべきは一切躱わすという動作がない。
ただ一歩ずつ前へと前進していくだけ。
前へ、また一歩前へ。
来たるが故に、その手は捉えるのだ。
───そして。
「っ……よもや、なッ!」
「捉ォえた……ぞッ!!」
目にも止まらぬ速さの槍へ、己の槍で絡め取り、
「───噴ッッ!!」
引く。
同時に。
叩きつける。
シールドバッシュ。
高重量の円盾、その側面。
絡めた槍ごと女を自身の方へと引きずりこんだ上で、
「ぐぅ……がぁっ……カハッ……ぬかったかッ!!」
衝撃。
その柔らかな腹部へと、盾を叩き込んだ。
呼吸を奪う一打。
それを受けて鞠の如く、地面を女は転がり『衝撃を殺した』。
受け身である。
武道、そして武術で投げ技を用いる流派であればまず最初に習うそれ。
だが幾ら基礎であって字の如く受け身であっても、外に住む生身の人間が受ければ内臓どころか腹部丸ごとが破裂四散するよな一撃を受ける事はまず不可能。
だが、アサシンはそれを容易く成し遂げた。
彼女は暗殺者、そのクラスを与えられてはいるが。
その本質は戦士にして教師。
遍く者を殺し尽くしたその武芸の完成度は最早人の域を越え、故にランサーの重撃すら体術のみで凌いでみせた。
「いいぞ……流石はスパルタの豪傑。鳴り響く名声に違わぬ実力かッ!!」
「そういう貴女は一体何処の出か。女だてらにその身こなし……ただの暗殺者と捨て置くにはあまりに危険だ」
既に立ち上がり、女は己についた土汚れを払う。
一見すれば侮りにしか見えぬその仕草にも男は決して油断なく見据え、警戒を顕にする。
「なんだ、女の秘密が気になるか?ランサー」
「笑止。戦の途中で女を漁る男がいてか」
英傑、その心に曇りなし。
女が誘う退廃的な色香も冗談にもブレる事は一切なし。
その姿は正しく快男児。
女はわざと撒いた色香なぞすぐに霧散させ、けらりと嗤う。当然である。無粋であるだのなんだのと問う以前に、今この瞬間にある闘争こそが女の血を滾らせ、どうしようもなく冷めてしまった魂が熱を帯びるのだから。
「くくっ……諧謔とまでは言わんが女の戯言程度、付き合う度量は見せよ」
「語るに及ばず」
嗤う。嗤う。嗤う。
いいぞ、愉しいぞ、愉快だぞ。
お前は随分良き勇士だ、と。
故に、
「なればそうだ、お前の目を惹く物をくれてやろう───使うぞ、マスター」
有無を言わせぬその物言いは正しく女王。
そしてこの局面で何を使うかなぞ、言うまでもなく。
「ッ!宝具か……ッ!マスター!!」
くるりと宙を跳ね、空を舞う女の姿を視認し。
ランサーもまた迎撃の態勢へと移る。
「確か、ここから先は一歩たりとも踏み越えさせんと言ったな」
月光を背に受け、女は艶然と唇を歪ませる。
言葉にしたのだならば、二言はなかろう。
やってみせろ、と。
「ならばその言葉通り」
「背中の娘達を守りきって魅せよッッ!!」
真紅の魔槍がその真価を発揮する。
対するランサーは備えを二つ、そして宝具開帳の猛りを見せる。
その姿に彼のマスターもまた、『補填済み』の魔力を流し、祈りを紡ぐ。
『( )』
「お任せを、マスター。必ずや
「誰一人欠けることなくッ!!」
『( !?!?!)』
両者共に、同じ時。
「影の国へ連れて行こう……」
片や臓腑を腐らす死の冷気。
「ゆくぞッッ!これが……これこそがッッ!」
片や全身を焦がす焔の闘気。
魔力が現出し、空間を侵し、至高の幻想は結実する。
轟音。
蹴り放たれた魔槍の質量は空気抵抗という常識すら破壊し尽くす。
対する構えられた盾、その数、実に三百。
鳴り渡った衝撃の余波は周囲一体を巻き込み破壊が及ぶほど───否。
それすらも、ランサーの護りから逃れる事はなく。
かつてスパルタの地を死守した盾は、向かってくる魔槍から放たれる46の鏃、否、分裂した死棘も衝撃も何もかもを迎え撃ち。
決してその背より後ろには、何者も通さず。
───着弾。
「ぬゥゥッッ……お、雄ォォォオッッッ!!!」
削れ砕け、脱落していく46の盾。
違わず撃ち抜き、その役目を喪う46の槍。
ランサー自身も細かい傷を負い、全身が燃え千切れるような圧力を受け。
それでもその盾を構える腕は下がらず。
「見事───」
盾を、払う。
全ての投槍を防ぎきり。
ランサーは、次の一手を打つ。
炎⬛︎の⬛︎⬛︎⬛︎。
ランサーの誇るその宝具は彼の伝説の再現であり、同時に耐え切った盾の数だけ、痛烈な反撃を行うカウンター型の宝具である。
それは嘗て
奇しくも対峙する女が放った物と同じ投槍という形へと収斂し。
アサシンのその命へ。
その身を維持する霊核を真っ直ぐに捉え。
それが、今。
アサシンを穿ち───。
横から放たれた、莫大な熱量がアサシンを今まさに貫かんとした槍を熔かしきった。
「むぅ……年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたか」
「……退きますか、アサシン」
「名残惜しいがな、ランサー」
軽い音を立てて、地面に降り立った女は唇を尖らせ幼子のように不満を垂れる。
「ライダーか……一体どこから」
放たれた投槍に確実に当てる技量。
近くにその存在が見受けられない。
そして最後に微かに聞こえたマスターの声。
基本クラスの中でもとりわけ宝具を持ち込める数の多い傾向にあるライダー。
ならば長距離からの砲撃といった手段も持ちえるかとランサーは当たりをつける。
その様子と言葉に首をひねりつつ、アサシンは答えた。
「ん……?ああ、奴ならそこにいるぞ」
「んぬぁにぃ!?どこだ!?い、いない……はっ!霊体化か……くっ!!幽霊にカァァムォフラージュするなぞ!お、ぉぉぉおのれぇぇ!!」
先程までの益荒雄振りはどこにいったのか。
慌てて右に左に、果ては自身の外套まで捲って慌ただしく騎兵の姿を探すランサー。
その姿に呆れた様子でアサシンは声をかける。
『ほれ、そこだそこ。なぁ───騎兵?』
霊体化、ではなくいつから伺っていたのか。
ランサーによって文字通り斬り分けられた土砂によって生まれた物陰。
そこから、長身のサーヴァントが現れる。
黒いスーツの上から胸元まで閉じられた黒のレザーコート。
そして桜色のサングラス。
高身長である事以外、遠目では男か女かも分からない出立ちのサーヴァントがそこにはいた。
「まだやるには、ちと疲れたが……全てのサーヴァントと相手をしろと命令されているのでな。望むなら踊ってやるぞ、ライダー?」
その言葉を受け、騎兵はなんの返事もなく。
「ふむ……であれば私も退くとしよう。良い夜であった。またいずれ、そうだな今度は縛りなくやり合いたい物だ」
「ならば私も帰るとしましょう。マスターから買い物も頼まれておりますし」
「買い物……だと……?お主がか?」
「ええ、確か特大ミルフィー……むっ、マスター?いかがされましたかな?」
『( ! !!)』
「ぬぅっ!し、失敗したぁぁっっ!!今すぐにっ!まだ閉店には間に合う筈ぅ……」
ランサーのそのマスター、彼か彼女からの連絡を念話で受けたランサーは慌ただしく、踵を返し。
「それからアサシン。初めから治すつもりなら、あのようにするべきではないのでは?」
「ふんっ……不幸な行き違いと言ったではないか」
ランサーの視線の先、いつの間に傷が『癒えて』いる少女達が様子を窺っている。
「……しかしどちらにせよ、次は気持ちよく討ち合いたいものですな」
「全くだ……次が最期だぞ───ランサー」
「こちらの台詞だ───アサシンよ」
そう二人が最後に視線を合わせて。
どちらからともなく二騎の姿は夜のしじまへと消えていった。
映像が終わる。
戦いの果てを見て、胸中を占める物は。
ただ、茫然とした物だった。
あの声は。
そうだ、何回も聞いている。
間違えるわけがない。
だって一緒に『歌った相手』なのだから。
嘘だと叫びそうになる気持ちと、もしかしたらまたモモイちゃんの時みたいにと思う気持ちが、そして何故トリニティという気持ちが。
考えはまとまらず、気持ちは空回りをし続けて、煮詰まるようにただただ心の中でないまぜになって。
「アルさんが……ライダーのマスター?」
ただただ行き場のない感情が漏れただけの、形容し難い呟きだけが私の口から落ちていったんです。
1じゃんね☆
というわけでランサーvsアサシンの二日目の戦闘だったじゃんね☆
救護騎士団の子達?
わりと元気ではあるけど様子見で入院中じゃんね☆
次回は……遅くなったら明日の夕方になります、じゃんね☆
最後になりましたが。
アノロン在住の銀騎士様、銀刃様、D.D様、高評価本当にありがとうございます。
また新たにお気に入り登録して頂けた方、ここ好きを押してくださった方、そして感想をくださった方。
本当にありがとうございます!
元気いっぱい、これからも頑張って加筆と新作書くじゃんね☆
消えちゃった内容を大急ぎでコピペして送ってくれた優しい人がいたり、1は本当にたくさんの方に支えられてるじゃんね☆
なんにも出来ないけど、せめて少しでも読んでくださる方がちょっとでも楽しかったなぁと思っていただけるよう今後も頑張ります!……じゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる