【監督】かん-とく
名詞。
1.取り締まったり、指図をしたりすること。また、それをする人や機関を指す。
2.グループやチームをまとめ、指揮・指導する役の人。
3.⬛︎⬛︎国教会系列に属する教会における⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎大戦前の職制名。
4.法律で、人または機関の行為が、その守るべき義務に違反していないか、その目的達成のために適当か否かを監視し、必要なときには指示・命令などを出すこと。
トリニティのカフェ街、そこから少し外れた通りにあるナツちゃんおすすめのお店*1。
シックな外観通りに内装や調度品はとてもトラッド、それでいて所々に散りばめられたアクセントで全体の雰囲気は古さを感じさせないモダンさを演出しています。
トリニティ生向けのお店が多いカフェ街の物と比べると老成された大人な方向けな店構え。
ですから大人である黒服さんがいるのも違和感はないんです。
雰囲気にだってあっています。
そう、違和感はないのですが、彼がやたら日当たりのいい席に座って大きな果実が乗った如何にもなタルトを口に運んでいるのを見ると、いる事自体がとてつもない違和感になっています。
「ふむ。まだ決められていないのでしたら期間限定パフェか、この時期でしたら桃のタルトをおすすめしますよ」
リーズナブルな値段の割に丸ごと大胆に桃を使っていて素晴らしい一品ですからね、と席に着いてしばらく沈黙していた私達へと彼は声を掛けてきた。
「それとも、もしや紅茶一杯で粘るつもりでしょうか?学生の皆さんにあまり酷な事は言いたくはありませんが、店舗に迷惑がかかるのでやめるのがいいでしょうね。特にこういう個人経営のお店は特に双方、嬉しい事はありません……あまりトリニティの方にこのような事は言いたくありませんが、入用でしたら実入りの良いアルバイトを幾つかご紹介しましょうか?」
「……お気遣いだけ受け取っておきます」
「それは残念」
表情の分かりにくい顔で、すごく倫理的に真っ当な諭され方をされてしまい、胸中は困惑の感情で塗り潰されてしまいます
「クックックッ、難しい顔をされていますね。仕方ありません、どうしても懐が厳しいというのでしたらここは私が支払いましょう。ああご安心を、対価は結構ですよ。あくまでリップサービスを兼ねた未来への投資と……強いて言えば
「あはは……結構です」
そう言って、予想に反さない黒革のマネークリップ*2を取り出す彼へ。
本気で言っているかどうかは分からないが、とりあえずの返答をしておきました。
「クックッ……それは結構。さて」
フォークが置かれて、彼の深い穴のような目線が私達を、正確にはモモイちゃんへ向けられました。
「こんにちは、モモイさん。第三のマスターである貴女とこうしてお会いできて安心しましたよ。見たところ大変お元気な様子……良いことです。ええ、本当に」
「……どうも」
「クックッ……嗚呼そういえば、貴女とお話しなくてはと思いましたから今日会えたのは僥倖でした。本当はもっと早くにと思っていましたが、どうにも暴れ足りない方がおられるようで……恥ずかしながら私も彼女達の後始末に追われてしまって。挨拶がまた遅れてしまって面目次第もない限りです」
彼女達、後始末。
取ってつけたような印象を何故か感じてしまうぐらい気取って語る彼の言葉は相変わらずだ。
嘘はないだろうけど、もやついている。
意味深で、なのに大切なところがわざと欠けている話振りは聞いているだけで気疲れしてしまいそうです。
とはいえ、僅か足りとも取りこぼしてはいけないと頭の中で直感が警鐘を鳴らす。
『(ヒフミ───)』
『(……大丈夫です。万が一があった場合に備えましょう)』
端末をポケット内で弄り、いつでも通報できるよつに。
万一の時はすぐ飛び出せるように。気を張り詰めながら、モモイちゃんと会話をする大人の動きを見守る。
───彼の黒い手に、令呪はありませんでした。
「……とりあえずさ、質問とかしてもいい?監督役は聞いたら色々教えてくれるんでしょ?」
「勿論構いませんよ」
「じゃあ───貴方はヒフミの『敵』?」
彼女の隣に座るミドリちゃんの息を呑む音が聞こえました。
真っ直ぐに、まずこの場で最も知るべき、そして聞きにくい事を直球でモモイちゃんは尋ねてくれます。
明らかに不審な出立ちで監督役という聖杯戦争に通暁した立場。
昨日も交換した覚えのないモモトークに連絡が着ただけでなく取引をしたいと仰られていますから、出来るならこの場で彼の立場をはっきりさせておきたかったところです。
「……なるほど。実にユニークな質問ですが、さて、どうでしょう。敵と仰りますがそれは定義によっても変わる物では?」
「例えばどんな風に?」
タルトを突きつつ煙に撒くような物言いをする彼に対して、モモイちゃんもまたはぐらかされまいと最短距離で尋ねていきます。
はっきり言えば、お互いの相性というのはどちらにとってもあまりよくないのでしょう。
モモイちゃんは真っ直ぐな方です。まだ知り合って間もないですが、決して、所謂腹芸とかそういうのが得意な方ではないと私は思っています。
対して黒服さんはそういう事がお得意の様子です。
だから相性は良くないんです。
『(必要ならセイバーさんも霊体化を解いて
『(承知した。ああいう手合いは生前も嫌でも対応した物さ……煙に撒かれるようなら数で攻めるとしよう)』
『(ありがとうございます。こういう時、やっぱり念話は便利ですね……キャスターさんともお話しできたら良かったんですが……)』
『(大丈夫さ。彼は恐ろしく鋭い、そして頑迷ならざる賢い男だ。僕らの考えぐらいは読んで、必要な場面で話し合いに参加してくれるよ)』
モモイちゃんの直球な言葉は、断定を避けようとする黒服さんに逃げる場を用意せず追い込んでいくでしょう。
逆に黒服さんも言葉巧みに話題をすり替えたり、心理的な罠を敷いてこちらが聞きたいことを隠したり誘導したりしてくれば、その手のが恐らく得意でないモモイちゃんは深みに嵌って軌道修正できなくなります。
幸い、今は彼女が先陣を切り質問を重ねる事で、会話の主導権自体はこちらが握れています。
このまま彼女の直球勝負を私達がフォローして、会話の中で霧隠れしようとする
「そうですね、例えば───貴女方の中にこのキヴォトスを聖杯を
「……障害、じゃなくてさ。ヒフミの敵かどうかの話じゃなかったっけ?」
「クックックッ……これは手厳しい。では言い切りましょうか。我々は、聖杯戦争の参加目的が『キヴォトスの破壊』とするマスターについて聖杯戦争を監督する上での明確な『敵』と定義しています。そして阿慈谷ヒフミさんがそうでない以上、我々は彼女の敵にはなり得ず、勿論私は彼女に剣を向けない」
「……そっか。ならさ、今日は何しにこの自治区に来たの?」
その質問に彼は唇を吊り上げた。
まるで黒塗りの画用紙を引き裂いて作ったようなその笑顔からはその裡にある物は何も透けてきません。
「この自治区に来たのは仕事の都合です。もっとも、この店に立ち寄ったのはたまたまです。単にこのタルトを食したいというだけですから。ましてや貴女方とこんなにも早く再会することになるとは思ってもいませんでした」
ここの店主のクリーム作りと旬の果実の目利きは間違いありませんからね、彼はそう言って歪んだ笑みを浮かべつつもパフェスプーンを持ち上げてみせた。
……し、締まりませんね、なんだか。
「ぁ……あの!」
少し緩みそうになったタイミングで、コハルちゃんが声を上げてくれました。
驚いて思わず彼女の方へと目を向ける。
こういう場面でコハルちゃんから見知らぬ、それも大人に質問するというのは普段の彼女からすると珍しい事です。
だけど、彼の方から見られない机の下を見て納得しました。
彼女の手にはそっと二人分の手が握られている。
「おや、どうかしましたか?下江コハルさん」
「あ、私のこと知って……じゃなくて!あの!……ううん、まずは、横からその……ごめんなさい」
「……クックック。まだ話の途中、だなんて野暮な事はやめましょう。構いませんとも、なんなりと聞いてください」
「ぁ、ありがとう!……ご、ございます……それでその……仕事ってあの、どんな事……です、か?」
黒服さんからの言葉にはなんというか驚くほど棘がなく、言葉通りの意味しか籠っていないと感じた。
気兼ねなく聞いてくれて構わない、内心の含みも一切ないのが見て取れるほどゆっくりと穏やかに話すその姿はとてもじゃないですが
こういう言い回しが気遣いが出来る大人だとは、あの時のバス停であった事を思うと到底予想出来ませんでした。
「仕事……ですか。なるほど貴女は今回私がトリニティに訪れた事についても含めて我々の監督役の務めについて尋ねたい、そういう事ですね?」
こくりと小さく頷いたコハルちゃんの顎にストローが当たって、小さな滴が跳ねる。
それを慌てる彼女に苦笑するように頬を歪めた彼はハンカチ*3を差し出しながら説明を始めました。
「聖杯戦争の監督役とはつまりその戦いが規範に沿って正常に運営されているかを監視する事です」
「あの、規範っていうのは?」
ミドリちゃんの質問に黒服さんは一瞬瞠目してから、片目だけ開きました。
「ふむ……才羽ミドリさん、貴女方と阿慈谷ヒフミさんがそこにいるであろうサーヴァント達からどの程度の話を聞いているか知っているかは分かりませんが、本来聖杯戦争が行われる地で監督役を担う人間は神秘の秘匿を第一に優先します。それが本来の聖杯戦争という殺し合いにおいての数少ない明確かつ不文律、絶対的であり最低限のルールです」
「だが、貴方とこのキヴォトスでは役割が違う筈だ……そうだろう、黒服」
「ええ、その通り。本来秘匿しなくてはいけない神秘はテクスチャの関係でこの地では問題ありません。したがって、我々が規範として掲げているのは一つ───聖杯戦争の被害を最低限に留めること」
アズサちゃんからの問い掛けに黒服さんはフォークを刺すようにしてタルト生地を砕きながら答えます。
彼の言葉は人道的には理解できますが、今一つ釈然としない物でした。
だからでしょう、それが私達の顔に出ていたのか彼は皮肉げに頬を吊り上げた。
「おや?驚かれましたか、それは残念。我々とてこのキヴォトスで生きる人間です、このようにその様は随分と変容してしまってますがね……私としても心が痛むのですよ。聖杯戦争というイレギュラーによってこの世界にダメージを与えてしまう、というのは」
「イレギュラー、ですか……」
「えぇ。サーヴァントの方々から聞いているのでは?本来、聖杯戦争とはその術理も含めてこのキヴォトスには存在し得ない技術体系の上に成り立つ神秘。異邦の儀式であり、この学園都市とは相容れない殺し合いの祭典です。それが生じたというのは、この地に根差した文化や歴史から発生したのではなく、文字通り隕石でも降ってきたような話。青天の霹靂とはよく言った物です。私共としてもそんな
黒服さんの説明でようやく私の中にあった微妙な違和感に得心がいきました。
監督役、つまりは聖杯戦争の運営をする立場の人間でありながら、何故その被害拡大を懸念しそれを唯一のルールとして掲げているのか。
運営という立場なら聖杯戦争こそを至上として、それこそセイバーさんから伺った最後の一組が聖杯を獲得するというゴール地点への到達、その達成こそを目論見そうな物です。
「では、改めて言葉にしましょうか。キヴォトスで発生した聖杯戦争の監督役、その役割は少なくとも今次に限っては被害状況や戦闘の実態を調査、補填し、極端に大規模な被害の発生を抑制する。何より、聖杯戦争というとびきりの異物がどういう形で推移し幕を閉じるのかを全て記録する」
でも彼の言う
それはまるで聖杯戦争の運営を監督するのではなく、
だからこそ尚更に疑問は浮かびます。
どこまでも中立な彼の在り方。
「今に限って言えばそれが『監督役』としての仕事であり責務です。ですから今回トリニティに足を運んだのもその一環ですよ」
では───。
そう思って口を開こうと思った私を制するように彼は配膳を始めた。
まるで執事か何かのように恭しく、いっそ慇懃なぐらいに見える手つきで彼はお皿を手に持ちました。
「元々私はこう見えて研究者でして、以前まで親交の
そしていつの間にか、届いた桃のタルトやチーズケーキ、シフォンケーキを受け取って私達の前に並べながら。
「それからこのトリニティとゲヘナとの境界線の様子を見に行ったから、でしょうかね」
彼もやはりゲヘナという言葉を告げるのだった。
ゲヘナ学園、そしてゲヘナ自治区。
聖杯戦争が始まってからその言葉を聞くのは一度というわけではありませんでした。
「なんでゲヘナとの境界線なの?別にトリニティだったらアビドスだって乗り継ぎなしでいけるし、大体境界線ならD.U.だってあるじゃん……ですか?」
「クックックッ……難しければ敬語は結構ですよ、モモイさん。我々は言語を獲得し高度なコミュニケーションを得てその中で立場や階級に応じた言葉を産んだ。ですが、時に氾濫した言葉ではその源流や……今回で言えば『本質』に辿り着けない事があるというのはご存知のはず」
「ならさ、もっかい聞くけど。なんでゲヘナ自治区との境界線を見に行くのが『監督役の仕事』なの?」
トリニティとゲヘナ。
両学園の隔たりは大きい*4。
勿論、個人間での交流がある生徒は決して少なくありません*5。
バーゲンセールをしていたD.U.のショッピングモールで取っ組み合いの争奪戦をして、最終的に仲良くなってお茶をして連絡先を交換した生徒……なんて話を聞いた事もあります。
第一、私もアルさんやイズミさん含めゲヘナの方と関わりを持つ事はあるし、当然お友達にもなったりだってしています。
とはいえ学園同士ではやはり仲良しとは決して言えず、その為にナギサ様が連邦生徒会から引き取るような形で主導していた『エデン条約』*6も、最終的には有耶無耶となってしまいました。
だからいまだにゲヘナとの境界線あたりは治安が悪いですし、ヘルメット団の方だったりが拠点としていたり、トリニティ生の身代金誘拐が起きやすかったりもします。
でもだからといって、わざわざそこへ行くのが『聖杯戦争の監督役』の仕事でしょうか。
きっと、違います。
あるはずです、そこに行かなくてはいけない理由が。
「最近、聖杯戦争を探ろうとしている人物がいましてね。彼女達に対して忠告を……と思ったのですが」
そしてその答えは、思っていたより意外な物でした。
「残念ながら会う事は叶いませんでした。せめてヘルメット団ではなくスケバンの生徒でもいれば話は違ったのでしょうが……残念です」
スケバン、と言えばどこかで聞いた覚えがあるような。
今は誰から聞いたかは思い出せない、ですが。
「ああ、その彼女の名前についてはこの聖杯戦争には関わりはないので気にする必要はありませんよ。」
彼はパフェの最後の一口を食べ終え、それに併せて頼んでいた食後の珈琲を愉しみ始める。
適度に効いた空調で外の日差しを忘れる冷えた室温の中、彼が手に持つカップからは白い湯気が踊っています。
「さて、私はこの一杯を飲んだら帰りますが。どうでしょう。まだこの聖杯戦争に関する質問があるようでしたら、お答えしますよ……勿論、それ以上を、より踏み込んだ話を。そうお求めになられるのでしたら、以前お伝えしたように……クックック、お分かり頂けるでしょう?」
そう嗤う彼に対して私はわざと目を閉じました。
『(君に任せるよ、ヒフミ)』
『(あはは……助かります)』
それっきり彼は黙っていました、
まるで、さも念話で話し合いをしている、そんな風に思わせる所作。
ですがその実態はただ無言で一人、私が深く考えを整理しているだけ。
聞くべき内容を、問わなくてはいけない事柄を、思考の中から掬い上げる時間。
聖杯戦争のマスターだから出来る念話の使用、それに見せ掛けるように敢えて態とらしいカモフラージュまでして。
あちらの思考をふらつかせられるように。
「黒服さん」
暫くの時間、彼の持つカップと私達の前に並べられた紅茶の香気だけが流れてから、私は眼と口を開きました。
「なんでしょうか、阿慈谷ヒフミさん。質問であればどうぞご自由に」
「……ありがとうございます。昨日、それから3日前の夜」
その言葉に、少しだけ黒服さんの肩がぴくりと揺れる気がした。もしかすると……彼にとってもあの場所は何か思う物があるのかもしれないと『直感』する。
「アビドス自治区で二度、サーヴァントと思われる存在が確認されたそうです」
「……なるほど。貴女はミレニアムと協力関係を敷いている。あるいは彼から、ですか。素晴らしい動きです。実に聖杯戦争のマスター
変わらぬ声だが、どこか呆れたような言葉にも聞こえるのはきっと錯覚ではない。
彼はこう言いたいのだろう、『殺し合いの参加者』として素晴らしい動き、だと。
だが今更、『その言葉』では止まらない。
今はそれで心を腐らせている暇はない、私は。
「……ありがとうございます。ではお聞きします。」
ハッピーエンドをみんなと目指すのだから。
「アビドス自治区にいる生徒、住民、或いは『土地そのもの』に聖杯戦争と関わりがある、聖杯戦争の運営者として『重要な物』はありますか?」
だから私は、その一歩を踏み込んだ。
「……運営者、ですか」
なるほどと微かに笑い声を漏らしてその言葉を繰り返す。その仕草は、まるで思ってもなかった点を指摘されて悦ぶ研究者を思わせる。
「えぇ、確かに私は監督役である以上、運営者というのもあながち間違いではありません。どれだけ不本意な
「事故、ですか?それなら降りられては?」
「クックックッ……いえ、
今この場で咄嗟に仕込んだ、彼の立場を明確にさせる為の問いは、私の言葉を借りる形で避けられた。
それでも、反応は見れました。
だからまた後でみんなで話し合えばいい。
そう思って、私は黙ったまま話の続きを促す。
「クックックッ……いや実に賢い方だ。えぇ、本当に。
「あはは……穏やかじゃないですね。ところで、監督役にはそんな
別に脅しではなく、純粋な感想であり、同時に私達に対するちょっかいなのは分かっています。
そして分かっているなら、わざわざそれに一々動揺しても仕方がありません。
ただ情報だけを受け取っていく。
「えぇ。聖杯戦争の監督役という立場は、著しく規律を乱したマスターとそのサーヴァントを討伐対象として、討つように他のマスターへ勅令を出す……そういった事が可能です」
もっとも、初めてのことばかりでその強制力がどれほどかは私にも分かりませんがね。
そう言って珈琲を啜る彼に疑問をぶつけたのは。
「その規律って……なんでしょうか?私たち、急に参加した形だから、そんな話は聞いてませんっ」
ミドリちゃんの詰問する声でした。
「なるほど、その心配は御もっともでしょう。確かに貴女方にはその説明を明確にお伝えしていませんでしたか……いいでしょう、今回の質問とは別に
これもまた監督役の仕事ですから。
彼はそう言ってゆっくりと、人差し指を立てた。
「結論からお伝えすれば、今次聖杯戦争において明確に討伐対象となり得る規律から外れる行為、言うなればルール違反はただ一つ───学園都市キヴォトスに対して大きな禍根を残すことです」
「具体的には……どういった物になりますか?」
「今貴女が想像している通りですよ、浦和ハナコさん。例えば無関係な民間人の虐殺、マスター間の闘争外での自治区への大々的な攻撃、戦闘を除くサーヴァントの私的な運用、聖杯戦争についての情報を大々的に漏洩する事で社会的混乱を招く行為、そして」
「連邦生徒会、いえ。
「……お見事。ええ、貴女が確信と
ハナコちゃんの言葉に黒服さんは神妙に頷きつつ片手をあげる。
その動きに合わせて店員さんが現れて黒服さんに何かを手渡したかと思えば彼もまた同じように懐から取り出してやり取りをしつつ、ちらりと私達の方を向いてから私とモモイちゃんに話しかけました。
「阿慈谷ヒフミさん、そして才羽モモイさん。貴女達はもう理解している筈です。聖杯戦争は純然たる殺し合い、遅かれ早かれマスターに選ばれた人間は好むと好まざるに関わらず必ずその手を赤く染める時が来ます。そしてその手が振るう指揮に応える剣は異邦の英雄───極めて本当に頭が痛くなる話で私も困っていますが、残念ながらこの地に根差していない彼女達は先生という極めて貴重かつ枢要なファクターに対してばかりかこの地における殺人という行為の重要性について理解が乏しい方ばかり。下手な事になれば……これ以上は言わなくてもお分かりになりますね」
「……っ」
「他の物については言葉通り。あまりにも大きな被害は我々の財力や人脈があっても揉み消すのが難しい。私的な感情で無関係の人間に無闇にサーヴァントの力を振るってもらっては早々に各学園や連邦生徒会が動き出して、最悪マスターとキヴォトスとでの全面戦争に成り果て兼ねない。そうなれば必然、監督役である我々にも
聖杯戦争に対する認識。
殺し合いなのだと、危険な物なのだと、そしてお前はその当事者だと囁くその言葉は私の頭の中でとぐろを巻いて居座る。
「そうそう、それから聖杯戦争の情報漏洩について。これは昔の名残り程度に思って頂ければ。それほど過敏になられなくて問題ありませんよ。なにせかつてあったとされる聖杯戦争が行われた地とこのキヴォトスとでは土地そのもののルールが異なりますからね」
そう言って愉快げ口元を歪め、今度は私の方を見る。
「少なくともかつての聖杯戦争を管理していた彼らの言う神秘の秘匿を破るような形が起こったとしても討伐対象にはなりません。たとえば聖杯戦争についてクロノスあたりを使って知り得る情報全てをキヴォトス全土に流す……その程度でもしない限りは問題なしと我々は判断します。事実、嘗てと同様にもう少し厳しいようであるなら、私は阿慈谷ヒフミさん、クックックッ……貴女を真っ先に討伐対象にしていますよ。随分とSNSで拡散されましたからね」
独特なその笑い声は完全にこちらを嘲笑っている。
私は、当然言い返せません。
けれど、きっとセイバーさんやハナコちゃんなら!
『(それはちょっと無理かな)』
「ヒフミちゃん……」
な、仲間が。
仲間がこの場にいません!?
「あ、あはは……じゃ、じゃあっ!キヴォトスの聖杯戦争でどういう形であれ討伐対象になるマスターやサーヴァントは!」
「今のところはまだ対象となる陣営はいませんね」
さらりと彼はそう言って。
「初日に大きく動いたアサシンにしろ、今次の台風の目であろうアーチャーにしろ、後は随分と消極的なバーサーカーにしろ。彼らは私の『敵』には現段階ではなり得ません。もちろん、あなた方も含めて」
珈琲を飲み干してからその真っ黒に沈んだ眼を瞬きもせずに私へと向ける。
「ただしライダー、そしてここ直近で言えばやけに動きが激しくなりだしたランサーの両陣営に関しては注視しています。ですが、それも結局は勝ち進んだらの話でしょう。今は現状維持でお互い良いかと……さて、私は帰りますが。最後に一つ───初めの質問に答えましょう」
淡々と告げられるのはちぐはぐな真実。
「アビドス自治区に聖杯戦争に関わる重要な物はあるか否か。答えは否。あるとすれば、それこそ侵入したサーヴァントについての情報ぐらいでしょう」
それだけ言って彼は席を立った。
彼が自分の分だけでなく私達の分まで支払いを済ませてくれていたのに気づいたのは、後になって帰る時でした。
1じゃんね☆
……すみません、普通に体調崩したといいますか溶連菌からのインフルエンザコンボで完全にぶっ倒れてました……
とりあえずまた更新頑張ります……
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
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②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる