Away to the window I flew like a flash,
Tore open the shutters and threw up the sash.
The moon on the breast of the new-fallen snow
Gave the lustre of mid-day to objects below,
When, what to my wondering eyes should appear,
黒服さんが退席されてから暫くして。
私達は結局紅茶だけ頂いてから、重い足取りでお土産のケーキを持って帰り、再び古書館へと戻ってきました。
「はい、あの、その……とりあえず今回拝見した映像と画像、それからご希望されたゴルゴネイオンについてはある程度調べました……」
外もすっかり蝉時雨が遠くなって夕焼けが落ちつつある中、変わらない様子で私達を出迎えてくださった古書館では、これまた私達と同じかそれ以上にげっそりと疲れ切った様子の古関先輩が待っていてくれました。
「とりあえず3時間近く、はい、映像の方に注力したのもあって……どうしてもゴルゴネイオンについては触りだけになります。もし、もっと詳しく知りたいなら」
そう言ってモモイちゃん達のいる方をちらっと見ながらウイさんは言葉を続けられます。
それにモモイちゃん達は不思議そうな顔をしていますが、心当たりのある私やコハルちゃんはついバツの悪さを感じてしまいます。
「監視カメラの映像については……ええ、もう何度も、なんども!お話ししましたが!……最新設備のある場所へ出向けばもっと詳細で、それこそ古書館の設備では出力しきれなかった音声や映像が分かるかもしれませんね……あと、ゴルゴネイオンについては今夜一晩頂ければより詳細にお調べできます。まぁ私はどっちでもいいですけど……」
つまり、映像に関しては以前言っていた、シャーレか、ミレニアムの方にお願いする形でより鮮明な再生が可能になって情報が新たに獲得できる可能性がある、といったような感じでしょう。
そう考えていると古関先輩の心の底から不思議そうというか疑問でいっぱいと言った、声が耳に届く。
「というか
なるほど、と思わず苦笑いが浮かんでしまいそうになりました。
聖杯戦争に参加している立場ならあれが事実として起こった事と感じます。
けれどそうでない方にとって、突然炎が燃え上がるは、指一本で土石流が平地で発生するは、挙句にただの槍がミサイルのように爆風を伴って放たれるなんて事が映像に映っていたとして。
私がそういう立場なら、きっとドラマの撮影かなにかだと感じてしまうでしょうし、古関先輩がそう感じてしまうのも仕方ありません。
「あはは……そんな感じです!あ、でも!とっても大事なデータでして!なので、その……遊びとか、そういうわけじゃなくて、あぅ……えと、揶揄ってるってわけでもなくてですね!」
とはいえ、だからと言ってそれで古関先輩の時間を悪戯に浪費させてしまっている、そんな風に思われて心を痛められてしまうというのは避けたい話です。
「だからその……ありがとうございます。すごく大切な、私達にとって大事な手掛かりに繋がる物なんです。無理を言って調べて頂きましたけど、でも本当に助かりました!だから、ありがとうございます、古関先輩!」
なので、精一杯。
細かな説明こそ出来ませんが誠意を込めてお礼を私が口にすると気難しいそうな表情を浮かべてから古関先輩は深々とため息を吐き出しました。
「……まぁなんでもいいですけど、くれぐれも
「あはは……ぜ、善処します……」
「はぁ……ったく」
もう一度ため息を吐いてから、古関先輩は背もたれに身体を預けて暫く黙ってしまう。
ただその吐息は仕方ないと言わんばかりで、彼女の人の良さが見え隠れてしていました。
「それじゃあ今回の解析結果です……」
ぐっと背伸びをするようにしてから、そう言って彼女はまた前回と同じように調査報告書を差し出してくれた。ほんの少し揺れた髪からインクに混じって優しく主張する椿の品の良い香りが漂います。
「ありがとうございます!古関先輩!」
「はいはい、もう聞いたから」
渡される紙は変わらず几帳面な文字が踊っている。とても急ぎとは思えない、丁寧で手書きの温もりがあって、だというのに整った字形と読み取りやすい間隔はまるで機械を使ったかのように正確。
美しい字、というのはまさにウイさんの書かれる物のような字なのでしょう。
「補足というか……まぁ簡単な説明ですけど。そういうの、しておきますね」
渡し終えてからいつもの司書机へと戻り、定位置で珈琲を舐めるように一口楽しんでから彼女は再び口を開かれます。
透明なグロスが淡く濡れて、柔らかい室内灯を反射して艶やかさを増している。
私の持つ書類を流し目で見るのも相まってとっても大人っぽいその姿は、古関先輩が
たった一歳の違いですし普段はあまりそういう様子を見せない分、気づいてしまうと私なんかよりなん大人の色香もみたいのがあって、ちょっとドキドキしてしまいました。
「まず映像についてです。映像を……あの」
私のミスでした*1。
ちょっとです。
ほんの少しだけ色っぽいなぁ、なんてちょっとだけ思って、少しだけ*2見惚れてしまっただけなんです。
だから今思いっきり左手を力一杯握りしめられている事に私は頑として抗議しなくてはいけないと強く思うわけです。
「むぅぅぅ……」
「……いちゃつくなら後にしてもらえますか?」
「あはは……ご、誤解です……」
どちらに、どっちの事を言ったのかはさておき*3。
私の左隣で急に*4手を握って無言で抗議しつつ上目遣いで睨んでいる*5アズサちゃんとジト目の古関先輩になんとか言い訳をします。
「あずっ、あ、アズサちゃん?な、なんでしょうか?」
「……ひふみ、今、ウイのこと考えてた……しかもちょっとかわいいって思ってた」
「ちが、というかですね!別に私なにも口に出してないというか……!」
「……目線。唇……あと喉と髪」
お、おかしいですね。
何も言ってない筈なのに的確に目線だけで何を考えてたかを当てられています。
そんな他意というか普段全然関わりがなかったけどよく見たらすごい美人だしちょっと暗めの雰囲気が落ち着いた色気になってるなとか考えてたぐらいですから別に問題ない筈なんです、なんですが。
「むぅぅぅ……」
「あらあら♡ヒフミちゃんったら♡」
「ミドリ!?ユズ!?どうしてですか!どうしてアリスの目と耳を塞ぐんですか!アリスもシュラバが見たいです!」
「はーい、アリスちゃんにはちょっと早いからねー」
「えっ、ぐぐぐ……ちぃ、なのはぁぁぁ……!」
「うん、え、偉いよ、コハルちゃん……図書館で大っきい声出しちゃダメだもんね……」
おかしいです。
だってこれから真面目な話をって思ってましたし実際ちょっとそういう雰囲気になってましたけど、今はなんだか生暖かいのと呆れた感じのが混じった目線とアズサちゃんからの強い圧しかありません!
た、助けてください!モモイちゃん!
「はぁ……貴女達、いつもこうなの?」
「いやぁ、私達もつい昨日からだからなぁ」
「そっ……なら覚悟しときなさい。どうせこういう感じよ───楽しい事は出来るうちにしておくのが肝要、ですから」
「まぁ、良いんじゃないかな?私、これぐらい緩い方が好きだし───ウイ先輩も、ね?」
だ、ダメです……。
すっかり呆れられちゃってますし何やら意味ありげにため息を吐いておられます。
どうして、こんな事に……。
『(つくづく君も、だね)』
『(あは、あはは……ど、どういう事でしょうか……?)』
『(……くれぐれもあまり火遊びはしないのと、ご婦人に恥をかかせないようにね)』
『(どっ!?どういう意味ですか!?)』
セイバーさんも意味深な事を言ってますしアズサちゃんからの視線は圧がすごいですしハナコちゃん達は無言で微笑んでますし、く、空気が。
空気が痛いです!
そんな私の胸中を察してくださったのか*6古関先輩はもう一度深く。
「……話、戻しましょう。お互い、時間はありませんから」
深く、呼吸を整えるように下を向きながら。
ため息と、それから深呼吸を一つしてから話し始めました。
「とにかく映像を早回しでって思ったけど、これだと速過ぎて何も分からなかった……から、コマ回しで見ました。えぇ、時間がかかりましたよ、とっても、大変、すごく。まず二種の映像に映っているスーツの女性らしき人物はその骨格等から考えて恐らくは同一人物で間違いないでしょう」
まず、その確認から。
つまり病院の監視カメラでアルさんと思われる女性の声で『ライダー』と呼びかけられた人と、ホシノさんが戦った人物は同一人物。
つまり彼女こそがサーヴァント、ライダーであるということ。
「確認できた二種の映像を古書館に記録されているデータと比較してある程度、映っていた彼女の動き、特に素早さについては数値を出しておきました」
ありがたいです。
これでその数値と比較して『敏捷』のステータスをある程度算出する事が出来ます。
「あと、なんですか、この短剣?アビドス自治区の方のデータで女性が手に持っていたこれについては少し意匠が特殊でしたから……それとなく調べておきました。どうやらアカイアと呼ばれる地方の民族が用いる祭儀用の短剣に酷似していました」
そう思っていればどうなら、かなり真名に近づけるヒントがウイさんの口から飛び出してきました。
アカイア、といえば以前ランサーさんと戦った日にセイバーさんが仰っていた筈。
だとすると、ライダーさんはランサーさんと同郷の方なんでしょうか。
「あと皆さんが気になっていた『ゴルゴネイオン』と呼ばれる物ですが……ゴルゴネイオン自体は旧分類として現在はオーパーツの指定から外されています……この中で連邦生徒会が規定するオーパーツの対象から外される理由をご存、知……の方はいるでしょうっ!ハナコさんっ!」
「……まぁっ♡折角ですからそのままどうぞ♡」
そんな事を考えているとウイさんから質問が投げかけられたと思えばシームレスにツッコミへと移行している。
どうやらオーパーツの分類についてらしいが、あまり私もよく分かっていない。
「ほんっとに!ほんっとにもうっ!はぁ……はぁ……分かりました、説明を続けます。オーパーツが指定から外されるのは大体3種類です。それが贋作だと認定される。その原理や造られた製造技術が判明する。そして───」
「そのオーパーツが規定数産出されなくなる、です」
キヴォトスでは見慣れたオーパーツ。
あれが産出されなくなる事があるのだなぁと、思わず驚いてしまいました。
基本的に市場に出回るのはよく出来た贋作、或いは非常に高価な本物、らしいです。
「オーパーツは採掘時はそれほどではありませんが、一定数を集める事で有益な効果を齎します。要するに連邦生徒会や多くの企業にとってあれらは好事家が愛でるコレクションや学術的な価値のある研究対象ではなくレアメタルなんかと同じ資源として扱われるんです」
私自身、トリニティではさほど見ず、ブラックマーケットやそれか先生が回収した物なんかを見させてもらった物。
後はハナコちゃんが愛用というか大事に持っている水晶埴輪*7さんぐらいでしょうか。
「ですからその資源が枯渇した、もしくはこれ以上の採掘はコストに見合わないと判断された場合にもオーパーツリストから外されます。ゴルゴネイオンもそうした物品の一つです。以前はオデュッセイアが回収していたそうですが、今はもうまともな市場には出回っていません。それが貴女達が知りたがっていた、キヴォトスにおけるゴルゴネイオンという物品の正体となります」
意外と、というか思いの外あっさりとその正体は分かってしまった。
もしかして、例のゲヘナで起こった連続爆破事件と関わりがあるかと『思いましたが』、本当は関係なく偶然オークションに出展されていただけなのでしょうか。
「それから、仮説にはなりますがなんです?ライダーと呼ばれている女性が何故アサシンという女性を救ったかについてですが……一つは単純にアサシンと協力関係にあった或いはランサーと敵対関係にあるから。どちらかに恩を売りたいというパターンもあります」
この場合はライダー陣営とアサシン陣営が『同盟関係』にある、またはそれを結びたいと考えているパターン。
正直あまり想像したくありません。
「二つ目は彼女の主人が極端な享楽主義……という感じでその時思い立った行動を命じたから。例えば戦場に謎の第三者として割り入ってかっこよく立ち回りたい、とか」
小説の読み過ぎかもしれませんが、という彼女の言葉だったが私はちょっと否定できないとも思ってしまう。
もしアルさんがライダーのマスターであった場合。
彼女は基本的に決断力や行動力がある人ですけど、時々おっちょこちょいだったり、彼女の価値観的にかっこいい物というのを好んでいらっしゃいますから。
「三つ目はそもそも勝利条件が違うパターン。相手を倒す事を望んでいない、とか」
これについては、私の『考え』が正しければ、もしかしたらアルさんも聖杯戦争自体に参加して誰かを傷つけるのを嫌っての行動なのかもしれません。
「話は以上です……何か他にありますか?」
ウイさんからそう尋ねられますが、私達から声は上がりません。
たくさんのお話を聞けましたし、今はその情報を持ち帰って一度ゆっくり考えたいところ。
ちょっと質問らしい質問は思いつかなくて私達は顔を見合わせてから、ハッとしました。
「……あっ!そうだ、お、お土産!ちょっと待っててください……!」
わたわたと慌ただしくしながらアリスちゃんに持っていてもらっていたケーキ箱を古関先輩がいらっしゃる机へと広げる。
真っ白な箱を開けば、黒服さんが帰られた後に私達が選んだケーキが整然としつつクリームの柔らかな香りを漂わせて並んでいました。
「いえ、別にそういう催促したというわけではないんですが……」
不満げに、けれど少しだけ口元を綻ばせた古関先輩の前に広げられたのは私たちが選んだ4種類のケーキ。
粉糖の
上品な香りをふわふわとしたスポンジに纏ったシフォンケーキ*9。
帽子のような愛らしいビスキュイ生地のシャルロットケーキ*10。
そして。
「───ぁ」
───それでも私は、貴女の
「……これ」
ウイさんが漏らした声。
彼女の視線の先、箱の中の端っこにあるロールケーキ。
風味豊かなスポンジに滑らかなクリーム、まるで初雪のように彩られた粉糖、そしてふんだんに使われた旬の果物が特徴なのだというナツちゃん一推しの品。
それは以前、ナギサ様にもお出ししたケーキでした。
「ミレニアムロールケーキって名前らしいです。由来は知りませ「あの店」……え?」
ふいに、前髪が重くかかるようにして視線をロールケーキから離さないまま古関先輩が口を開かれました。
「ミレニアムで修行してたパティシエが独立したの。だからミレニアムロールケーキ……ほんと、バカみたいに安直な名前」
「あっ!もしかして古関先輩……!」
あの店に行った事がと聞こうとした時、誰かにそっと肩を叩かれた。
その遠慮がちで、内緒話のような叩き方に、振り返るのではなく言葉を止めて目線だけを送ると。
「多分ですけど……あんまり聞くと野暮、かもしれない、かもです」
そうこっそり教えてくれたミドリちゃんの言葉を聞いて改めて彼女を見る。
普段と別に変わりはしない。
けれどその瞳だけは、ひどく懐かしい物を見るような暖かな目をしていて───。
お礼のメモ書きだけを残した私達はそっと、古書館を後にしました。
もっしもーし☆
っあー、そんな大きい声出さなくたって聞こえるよ、
……へぇ。
ヒフミちゃん達が……ふぅん、そんな事あったんだ。
惜しいなぁ、もう少し早く終わればそっちに
え?そりゃあ会いたいよ!
折角コハルちゃんもいるんだし……何より、ね?
あーあ!本当嫌になっちゃうよ!
あの
……ううん、こっちの話。
大丈夫、大丈夫!頼れる仲間?もいるしさぁ。
あぁもうっ!はいはい、遅くなる前に帰るから。
だいじょーぶ、だいじょーぶ。
心配しすぎだって。
もういい?切るからね。
あぁもう分かったから!
……ほんとにもうっ。
心配しすぎだよ、ナギちゃん。
……大丈夫。
ナギちゃんもセイアちゃんも、先生もコハルちゃんも。
ぜぇんぶ、私が。
───守ってみせるから。
さて、と。
おっ待たせ☆
まぁだ口はひっらかない感じかな?
……あっ!そうだった!
私が顎砕いちゃったから喋れないんだっけ?
もう!早く言ってよね!
本当そういう所、とろくさいのどうかしてるって感じ☆
あ、別にいいんだよ?逃げても。
残ってる子に聞けばいい話だしね☆
……ふぅん、まっ!いいけど。
それじゃあ、続きいってみよっか!
そうそう、私ね。
実は細かい事とか苦手だからさ。
あんまり、
ほら?これでも私、ティーパーティだし?
この手のは
だからさ───
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる