そう、お願いしたいんです。
必要なら費用は全てセミナーが受け持ちます。
詳しくは説明できない……けど、モモイ達は今とても大きな問題に立ち向かってる。
それは当事者達にしか解決出来なくて、どうやらシャーレにも頼れない。
だから、お願いします。
───どうか、私達の後輩の力になってあげて。
その日珍しく、桐藤ナギサは穏やかな1日を過ごしていた。
昨晩、トリニティ自治区境界線付近で
「(いけませんね、昼下がりというのもあってつい、うとうとしてしまいます)」
このところばたついていたり、夜間に飛び起きて処理する案件が頻出したり、挙句日中でも戦車がカーチェイスしていたりで心の平穏といえば数日前の愛するヒフミとのお茶会と、顔を合わせば喧嘩しつつそれぞれ羽と尻尾で内心をしっかり表現している友人達の会話を眺めるのと……心から信頼する殿方との定期連絡ぐらいの物であった。
意外とある。
とはいえ、ほぼ毎日3時間睡眠という地獄のような連日連夜の激務をこなしているナギサである。
それを考えればささやかな平穏であろう。
ちなみに巷で対となるように呼ばれるゲヘナ学園の盟主はといえば、実はこのところナギサと似たり寄ったりなスケジュールだったりする。
そろそろ吐きそう。
「(どうか今日は穏やかな一日を過ごせますように……)」
それはなにも自分一人だけではない。
この学園で、この自治区で生活を送る人々の安寧を願う為政者としての精神性。
桐藤ナギサ、17歳。
その若さにして卓越した政治手腕と、人々の上に立つだけの強い心を持つ稀有な学生。
故に今もこうして、昼下がりに一人きりの茶会を楽しみながらも、その頭脳は───
「なっ……ナギサ様!」
「───どうなさいましたか?」
すぐさま切り替わる。
幼馴染から推薦されその働きに自らも信を置き、昨晩も働き詰めだった
だからこそ、努めて穏やかに、そしてナギサ自身も極めて冷静さを保ったまま聞く。
そう。
「な、ナギサ様のご友人の」
その言葉を聞くまでは。
「阿慈谷ヒフミ様が突然ミレニアムサイエンススクールに転入されました!」*1*2
「ミレニアムに宣戦布告します」
「ナギサ様!?」
「正義実現委員会に召集を。それからパテルとフィリウスにも声を」
「ナギサ様!?」
「新参の癖に三大校に祭り上げられてさぞ気分がよかったのでしょう。飼い犬、いえ、野良猫に噛まれるとはこの事ですか」
「ナギサ様!?」
「前から気に入らなかったんです───どうして私のヒフミさんとアイドルグループを結成したのが私ではなくミレニアムの学生なのかと」
「ナギサ様!?」
「ああそれから、アビドスに連絡を。今代は会長はいませんが副会長ならいる筈です───三大校の席が一つ空きましたよ、と」
「ナギサ様!?」
───桐藤ナギサ、乱心。
これは愛する少女を取り返す物語である。
「っと、それじゃあ私達こっちだから」
自治区境界線から少し行ったところ。
3機のヘルタースケルターくん達が出迎えに来てくれたのを確認するようにひょっこりと、モモイちゃんがセンチュリオンちゃんの展望塔から顔を出して言う。
「はいっ!もう大丈夫だとは思いますけど……」
「大丈夫、大丈夫!ヘル助*3達も残してある程度調べたけど、ケセドの影も形もなかったし!」
お互いにキューポラから顔を覗かせながらの会話。
それがなんだか、少しだけ新鮮な気がして。
顔を見合わせて何もないのにくすくすと笑ってしまう。
「気をつけてね、ヒフミ。何かあったら飛んでいくからすぐ連絡して」
「モモイちゃんもですよ、緊急時はすぐに知らせて下さい」
モモイちゃんは軍需工場を改めてキャスターさんの拠点として改造。
私はトリニティに行って、マリーちゃんと少しばかりお茶会をしてから、おそらく重要だと思われる『ゴルゴネイオン』についてウイさんに話を聞きに。
ミレニアムに本拠地を移した以上、なんどもトリニティに行くのは大変な部分もあります。
だから毎回が最後だと思って、しっかりウイさんから貴重な情報を聞いてこなきゃいけません。
前回会った時よりも沢山の情報が手に入りましたし、今回はいつも以上に具体的な事も聞けるかもしれません。
「それじゃあ、行ってきますモモイちゃん」
「うん、行ってらっしゃい。帰り、ミレニアムで待ってるからね、ヒフミ」
左手をぐっと上げて令呪を見せる彼女に、私も少し恥ずかしがりつつ右手の令呪を見せて。
どちらからともなく笑い合って、私達はその場で別れた。
「というわけで、早速拠点?工房にしていこうか!」
「「おー!」お、おー……」」」
ヒフミ達と別れてから、戦車を降りた私達ゲーム開発部はちょっと調子は合わなかったけど、ちょっと調子は合わなかったけどやる気を出していく。
午前中の探索で大まかなマッピングは出来たし、後は各所にあるケセドの兵器製造ラインを確認しながら素材や部品、そのまま使えそうな建造用の大型機械なんかを流用して新しく私達の拠点にする。
なんだか、そういうゲームみたいでワクワクしてしまい勇足で一歩踏み出そうとして。
「だが、その前に我のスキルについての復習といこうか」
「ぐぇぇ……」
キャスターにとんと軽く肩を掴まれて思わず変な声を出してしまう。
復習も予習も苦手なのだから、勘弁して欲しい。
「アリス、覚えてます!キャスターは『陣地作成』を持ってません!」
「生前が魔術師じゃなかったから……ですよね?」
「だ、だから……工房?っていうのを作れない、んですよね?」
「そうだ、今はどうあれ生前の我はあくまで科学者。科学的検知に基づいた魔力と魔術の運用しかできん。だからこそ『道具作成』しかなく、結界等を構築する『陣地作成』の獲得はなかった……それは建築家の仕事なのだ」
出会った時から口酸っぱく魔法……ではなく魔術師ではないと告げていた彼の言葉を思い出す。
「だが、魔術的結界ではなく、科学に基づく『工房』いや、工場や『要塞』ならば作る事は可能だとも」
ぱちんというか、がきんというか。
かなりどでかい音を立てながらキャスターが指を鳴らす。
明らかにとんでもない量の機材を積んだトラックが私達の後ろにある搬入口から入ってくる。
そのトラックから響いた聞き覚えのある声に私は悟る。
あー、この工場たぶん終わった、と。
「酷いじゃないかモモイ。ケセドの工場を完全に解体してミレニアムの管理下に置く……そんな素敵な話に私達を噛ませないなんて」
「ごめん、モモミド。部長もキャスターさんからこの話聞いてから有無を言わさない勢いだったから……とりあえず他の子達に部の方は任せて私達だけ手伝いにきたよ」
「おおっ!こちらがあのケセドが支配していた軍需工場!ミレニアムに記録されている限りではケセドの工場は、ケセド撃破後もAIとのホットラインが繋がっているリスクや未知数の技術が使われている事、他にもそもそも『廃墟』の中でもかなり奥まった場所の工場を選んでいる事からこれまで接収する事が出来ませんでしたがこんなミレニアムの境界線に面した謂わば表層域を拠点しているなんてとっても珍しいんです!そもそも『廃墟』についての話になりますがそもそも……」
うぅん、元気いっぱい。
この人達こそ、ミレニアムが誇るマイスター率いるエンジニア部のスーパーエリート達。
アリスの言う技術スキルカンスト勢、白石ウタハ先輩、猫塚ヒビキ、豊見コトリの三人だ。
「いつ呼んだのさ……?」
「先ほどだ。手空きなら面白い物があるぞと言えばすぐに来た」
「いいんですか、おじ様?こういうのって……」
「構わん。いずれ我らの同盟関係も含めてバレるであろう。それに」
そう言ってちらりとユズに目線をキャスターは送った。その意図は分かるけど、なぁんで私じゃないのさ!
いや、何を言わせたいのかあんまり分かんないけど。
「トキさんの件もありますし、今ならみ、ミノリっ!……先輩、の事もありますもんね」
「そうだ、今トリニティには4つの陣営がいる。今更隠し立てして動くより、多少漏れても構わないから信の置ける友を動員して早く安全な拠点を設けるのが重要だ」
正直に言えば助かるメンバーなのは間違いない。
アリスのレールガン作ったほどだし、その技術力だって伊達にこのミレニアムで『エンジニア』なんて看板を背負ってるわけじゃない。
じゃないんだけど……不安だ!
「さて、教授。まず、我々はどうしたらいいのかな?」
「ふむ……まずこの場所で出来ること、そしてしなくてはならぬ事を伝えよう」
そう言っていつの間にか近づいてきたヘルタースケルターの頭にキャスターが触れると、ヘルター……やっぱり長いからヘル助の目から映像が投射される。
その映像に映っていたのは三つの階層で区切られたマップ、恐らくこの施設の物だった。
「現在13機のヘルタースケルターのうち10機をこの工場内に放ち安全確認をさせている。この工場はケセド、あやつにとってもやはり仮宿のような物なのだろう。聞いていた奴の規模と比べると、大きさとしてはそう広くはない」
言われてみると確かにこの工場、先生と一緒にケセド退治で潜った工場よりは狭いなぁと改めて思う。
こじんまり、とまでは言わないが一つのエリアはせいぜいが大きめの自治区体育館……いやちょっと大きいスーパーマーケットぐらいだろうか。
「今いる搬入口からすぐ地下に入った今この場所を地下1階として。二つの隔壁、つまりケセドのいた第三コントロール室のある『地下3階』までがこの施設の全容となる」
「幸いにも、今回の戦闘で大きな被害があったのは地下3階だけだ。修復はヘルタースケルターに任せておけば2日後には完了するだろう」
思ったより早いなぁと思う。
中々派手な戦闘だってアリスから聞いていただけに改めてキャスターの技術力には驚かされてしまう。
「我はこの拠点を作る上でヘルタースケルターの量産だけでなく、大型魔力炉……のような物を作ろうと思う。そしてそれが完成すれば、セイバーを含め、我らにかかる拠点内での維持コストはほぼ考えなくても済むようになる」
要するに私を経由した魔力供給で追いつかなかった怪我なんかも、その魔力炉が出来れば、この施設にいる限り自動で回復してくれる……らしい。
RPGでいう、宿屋……みたいな物だろうか。
「我々は地下一階から地下三階までの三つのエリアの安全を確認して「確保」、使える『物資の回収』、『各エリアの要塞化』、そしてそれを運用する上で必要な我々だけが使える『逃走経路』を作る」
そう言って、キャスターはそれぞれのエリアで元々どういう事をしていたのかの映像を流してくれる。
私達が今いる搬入口から入ってすぐの第一エリアは資材置き場だったらしい。物資を探すならここからだろうか。
その下の第二エリアは所謂工場。ここを自由に行き来できるようになれば、ひとまずはヘルタースケルターも元の生産台数に戻せる、かな?
第三エリアはケセドがいた通り、演算室。大型魔力炉を作るのもここにするらしい。
「それが我らがやるべき事だ」
だ、そうらしい。
「なるほど、そういう事なら我々の雷ちゃん湯煙エディションを貸し出そうか」
なんだって。聞いた事ない名前が飛び出てきた。
「ん?ふふっ気になるって顔だねモモイ。そう、この子はキャスターこと教授からインスピレーションを受けてね!この子は超小型蒸気タービンを搭載してるのさ!精密な電子制御を排したことで高負荷な環境でも運用に耐えうるというわけだね」
無論Bluetooth付きだよとにこやかに笑うウタハ先輩はご機嫌な様子だ。うん、これはあんまり突っ込むと長くなりそうだし、黙っておこう!
「教授、それじゃあ階層ごとに手分けしてするの?」
「いや、ウタハの作った発明品とて台数は「今日持ってきたのは5台だね。明日以降なら追加で5台は貸し出せるよ」……ふむ、なら人海戦術で全員で探索するのがいいだろう。人数がいればそれだけしっかり探しつつ、修復や要塞化を進められる」
「なるほど、人海戦術!!多人数を動員し次々に繰り出して、仕事を成し遂げようとするやり方、または戦術のことですね! 本来の意味としては多数の兵員を投じて、数の力によって敵軍を破る戦法のことらしく、そのやり方はミレニアムでも保安部などではドローンと共に「おっけーコトリ、私聞くからねー」ありがとうございます!それでは……」
「というわけでだ、モモイよ。我らは今から三つのエリアから一つずつ選んで『拠点』へと改造していく」
「お前なら、まずはどのエリアを選ぶ?」
なるほど、そうきたか。
私に聞かれると思ってなくて少しぼうっとしてしまっていた。
どのエリアから優先して始めていくか……。
地下一階、この第一エリアなら『物資』を回収できる。それにまずは入り口周辺から安全を確保していくのは大事かも。
地下二階、第二エリアは『ヘルタースケルターやお助けアイテムの建造』が可能になる。純粋に兵力が増えるし、今この場にいる3機のヘル助と5機の雷ちゃん以外の人手も増える。
地下三階、第三エリアを優先して改造すれば『魔力炉』を作れる。そうすれば毎朝必ずキャスター達もHP満タンになるメリットがある。
う〜ん。
どのエリアから選ぶべきかな───。
「いやぁ、意外とさくさく進むもんだね!」
「そ、うだね……大きくて広いけど……人手は結構あるし、お掃除するみたいで楽しいかも……」
施設の拠点化……なんて聞かされた時は一体どんな重労働が待っているのやらと恐々してたけど、思ったよりずっと簡単に作業は進んでいく。
というのもやっぱり、ヘル助や雷ちゃんがガンガン物資や機材を運んでくれてるし、ウタハ先輩達もこの手の物には詳しいようで、改造工事も急ピッチな様子。
「ミドリぃ!そっちはどーお?」
「うーん、なんの機械かさっぱりだけど、罠とかもないし……」
「やはり、仮宿。急拵えだったのであろうか……」
「でしょうね。明らかに一から用意したのではなく全く別の製造ラインで無理矢理動かしてオートマタ達を作っていた痕跡があります」
徹夜仕事かと思いきや、案外あと数時間もあれば第二エリアは完全に蒸気機関と近未来的なエンジニア部製のアイテムで埋め尽くされた工場へと変貌するのは間違いなさそうだ。
「とりあえずはこのまま、雷ちゃん達に任せておいても進むかな。そういえばモモイ。君、随分と
「えぇ?面白いって……んあぁ、戦車のこと?」
「そう!戦車!実はさっき少しだけ足回りを見させてもらったけど、あれは横流し品なんかじゃない。確かにトリニティで正式に運用されているセンチュリオン戦車だ!」
ウタハ先輩がいやににこやかに近づきながら肩を組んできた。
「い、いやぁ……あれ実は友達からの借り物で……」
「なぁに!あとで(多分)原状回復できる程度のことしかしないさ(きっと)!どうだいマイスターである私達、そして君のところの教授の手があれば、きっと素晴らしい物が出来上がると思うんだ……!」
「ほう。それはいいな、我もあれはまだまだ改良の余地があると思っていたところだ。まずはエンジンを改造できるか」
あ、やばい。
これは止まらないかもしれない。
「装甲どうする?私、もう少し前面とか厚めにしてもいいと思うんだけど」
「足回りもいいですねぇっ!いっそのことナイトロあたりも積んでいきませんか!!」
ごめんね、ヒフミ。
ヒフミ達のセンチュリオン、もうどうにもならないかも……廃棄予定を貰った*4って聞いたし、セーフかな!?
「いやいや君達、やはりここは火力強化だよ、主砲に手を加えよう。ほらちょうどアレがある」
「でも実弾の浪漫、捨てるの勿体ないかも」
「それなら両方乗っけますか!!」
「「そ れ だ !」」
そんなわけで、センチュリオンの強化改造は始まって、どうやらあと5日後、この第二エリアの改造が終わればさらにそこから3日短縮して新センチュリオンが爆誕するらしい……。
ヒフミ……もう少しゆっくり帰ってきていいからね。
「センチュリオンを持っていきたい?ああ構わないよ」
「センチュリオンのデータ自体はこちらにもありますし、後はエンジンやらを新造したりですから完全に丸一日か半日使えない日は最終日だけですから安心下さい!」
思ったよりも順調に第二エリアの改修作業は進んだのもあって、別行動はどうかってミドリから話が上がった。実際この調子でいけば、今日終わらずとも明日は間違いなく次のエリアにはいけそうだ。
だから、キャスターも交えて話し合って、ひとまず現場をウタハ先輩達に任せる事にした。
「こっちの事は任せて……話、詳しくはないけど聞いてるから」
「へ?」
「あれ聞いてないかい?ユウカがね、今色んな部活に頭下げて回ってるんだ。どうにも厄介ごとに巻き込まれているようだから、君達に頼まれたら助けてあげてくれって。その分遅れる納期や抱えてる仕事やらについては予算手当や折衝をセミナーが担当するつもりらしい」
流石に任せきりは嫌だから、どの部活もある程度は他の部員に任せて回るよう調整しているけどねと続ける言葉に、胸がじんとする。
「ユウカが……」
今は忙しいだなんて言って、結局ユウカは私達の為に今も出来る事をしてくれているのだろう。
政治的に全面的にはなんて、どの口が言うのだろう。
本当に、胸の奥と顔がくしゃってなる。
「モモイ、私達には君達がどんな難題に挑んでいるのかは分からない。実際、コトリの言った通りケセドの工場跡地をこうやって弄るのだって連邦法違反ギリギリのラインだ」
「それでも、君達にはこれが必要なのも分かる。私達で支えられる事は技術者の誇りにかけて必ず成し遂げてみせる。だから───」
「君達も思い切り難題に挑んでおいで。なに、君達含めて我々はミレニアムの生徒。『難題』に挑むのは義務であり、宿命である。そしてそれを支えるのもまた我々の始まりがそうであったように『当たり前』なんだ」
「「「「はいっ!」」」」
声を揃えて、胸を張る。
ヒフミと共にハッピーエンドを目指すと『決めた』。
そんな私達を、私を、応援してくれる仲間が学校中にいる。
こんなに心強い事はない。
私達は、顔を見合わせて力強く手を繋いで走り出す。
次の行き先はヴェリタス、情報収集だ。
そうだ、きっと大丈夫。
まだ大丈夫。
私は必ずハッピーエンドに辿り着くんだと、戦車に乗るために、この地下から地上へと走り出した。
「教授。あの子達をよろしくお願いします。無茶を、とてもする子達だから。見守って下さい」
「───任された。必ずその願いに応えよう。お前達も何かあれば第三エリアへ行け。ここにいる三機と、地下の『避難路』を用意している残る十機がそこにいる」
「ええ、助かります。それではまた」
「うむ、また夜に」
「しっつれーしまーす!誰かいませんかー!」
「……もう少し静かに入ってくれないって、もう何度目?モモイ」
「えっへへ、おっ邪魔しまーす!チヒロ先輩!」
まだ昼間だっていうのに、というかそもそもこの部屋に窓も太陽光も機材の関係から全く縁がないわけだけど、暗くてモニターの明かりだけが灯る部屋。
ヴェリタスの部室にいたのは、
「今日は外回りじゃないんですね」
「通常業務。ハレ、あの子から聞いてるでしょ?うちのぽんこつ美少女ハッカー様がまぁた行方晦ましてるの」
その癖、仕事だけはエイミ経由でぶん投げてくるから敵わないとぶつぶつ愚痴を吐きつつ珈琲を飲む姿には哀愁を漂わせている。
うぅん、これは20代OLの風格だね!
「それで、ここに来たって事はユウカからのお願い事関係でしょ?」
「はい、チヒロ先輩に幾つか教えてもらいたい……いえ、調べて頂きたい事があるんです」
うんうん、流石うちの妹!
ヒフミやハナコも交渉上手だしユズだって部長らしく前に出てくれるけど、この手の事を任せるとなったらやっぱりうちだとミドリとアリスのツートップだね!
「はいはい、どこの監視カメラ?ある程度、日数ならそれこそ4日前まで漁って「エリドゥ」……は?」
「エリドゥについて調べて下さい。多分、そこに私達の知りたい人が」
「トキさんがいると思うんです」
少しだけ、時計の電子音がはっきり聞こえる気がした。
「……エリドゥなんて、随分物騒ね。……ああそういう事。血相変えてユウカがあろう事か私に、『ヴェリタス』に向かって頭を下げるんだから何事かと思ったけど、また厄ネタか」
「駄目ですか?」
「『無理ですか?』って聞かなかったのには50点あげる。教えてあげるからミドリ、貴方イラストだけじゃなくて外商も担当してみたら?多分伸びるんじゃない」
「全部……全部きっちり片付けたら、ぜひ」
ミドリが褒められてるのを見てによによしてたら思いっきり足を踏まれた。解せぬ。
「とりあえずエリドゥについて調べるの自体は出来るよ。今はセミナーが管理してるけど、あの騒動から閉鎖して今日までの監視システム自体は私らが管理してるしね」
「それならっ「ただ」……はい」
「全部とは言わない、ぼかしていいからある程度説明しなさい。トキって事はバックにいるのは会長かうちの部長、どっちかはいるでしょ。まさか『一人』で動いてるとは思えないし」
そういう事なら、と私は念話で霊体化中のキャスターに声をかける。
『(キャスター!ここはかっこよく!)』
『(うむ……そうだな、少しばかり見得を切るとするか)』
というわけで、今度は私が前に出る。
そういう説明をしなきゃいけないなら、当事者がしっかり話さなきゃいけない。
私の決意を感じ取ったのかアリスが完全にスタンバイモードだ。
ふっふっふ!さぁ!見さらせい!
「分かりました、ちーちゃん部長」
「誰がちーちゃんよ、バカモモイ」
「それではご覧下さい……!我がゲーム開発部が誇る最大戦力を!」
「は?」
蒸気が迫り上がる。
「わーばかばかばか!なになに!?何してんの!?」
暗闇の中に赤い瞳がぐぽんと輝く。
「ちょっとユズ!ミドリ!何しようとしてるか分かんないけどあの馬鹿止めて!ここ部室!」
関係ない、ずっとこういう感じで登場してみたかったんだ。
前回はヒフミ達と喫茶店だし、ヒフミは完全にグロッキーだし。
アサシンと戦った時は結構気持ちよく出来たけど。
というわけで、狭かろうが機材があろうが(万一でもキャスターが直すから)関係なし!
さぁ!ご唱和ください!我の名を!
「キャスター!Show time!」
左手の令呪を掲げて叫ぶ。
後ろからもくもくと上がるスモークに焚かれてキャスターがゆっくりと姿を現す!
「……」
「すごい!かっこいいです!モモイ!キャスター!」
かんぺき〜!これこれ!この外連味ある登場したかったんだよねぇ!
ど、どうじでぇ……。
「はい、雑巾。しっかり拭いてね」
「じょ、女史よ。我が除湿しているから問題はな「そういう事じゃないって分かりません?いいですか!人の!部室で!しかも!精密機器あるのに!スモーク!」……いや、我がその……直せばいいかなって「直しゃいいってわけじゃないんです!そもそもねぇ!」……うむ」
キャスターは廊下越しに除湿機と化し。
「モモイ、そこ、お昼にハレがエナドリ溢したから一応もう一回綺麗に拭いといてね。虫、来たら困るから」
「びぇぇぇえ!な゛ぁ゛ん゛て゛ぇぇ!!」
「ほら喋らず働く」
私は大して濡らしてないのに、ヴェリタスの部室の床を雑巾で拭いていた。
うぅ、この雑巾、うちの部室にあるのと違って生乾きの匂いしない……*5。
「すみません……チヒロ先輩」
「もう良いって。私もこのおバカがやる事予想できてなかったし」
「ほ、ほんとにごめんなさい……」
「アリス、学びました!電子機器のある場所でスモークを炊いて登場してはいけないと!」
立つ背が……立つ背がないよぉ!!
そんなわけで、私はせこせこと掃除をしつつ、キャスターは除湿に励んで。
その間アリス達は手伝いという事で一緒に部室掃除したり、チヒロ先輩の事務仕事をして。
「とりあえず、はい。エリドゥについての情報。ぶっこ抜いたから」
ずっとキーボードを叩いていたチヒロ先輩がくるりと私達の方に椅子を向け直してから、モニターを指差して見せてきた。
「もう……ですか?」
「当たり前でしょ。誰がここの管理ソフト用意したと思ってるの?……『改竄』された映像記録ぐらいさくっと該当箇所だけピックアップするのに半日もいらいの」
「おぉ!流石ヴェリタスです!見ましたかモモイ!ワザマエ!一本です!」
まぁた変な言葉覚えててと思いつつ、報告してくれるアリスの頭を撫でながら私も聞いてみる。
改竄というけれど、結局のところ。
「トキは、いましたか?」
その言葉にキャスターが買ってきたドリップ珈琲に口をつけてから、一拍置いて、チヒロ先輩は告げた。
「
「……っ」
そんな気は、していた。
相手はあのトキだ。
C&Cの部員の中でコールサインを貰って、あの会長の傍に起用されたある種の
こういった直接的でない事にしろ戦闘に関する分野で、特殊部隊のエリートである彼女が自分の姿を監視カメラに残すわけがない……。
「ま、だから別のところから調べたけどね」
「へ?」
間の抜けた声が出てしまうけどチヒロ先輩は気にせず話を続ける。
「そりゃ相手が特殊部隊の、それもミレニアムの最高戦力なC&Cの数字持ち。監視カメラに映るなんて馬鹿な真似する筈ないのにわざわざ『改竄』してるだなんて……意味ありげでしょ?」
「言われてみれば……」
「だから調べるのは別の場所。例えばエリドゥ近くで大量の物資が搬入された形跡。あとは発電所からエリドゥに送電されたりしてないか。勿論これらは全部白だったけど」
かたりと、チヒロ先輩の指が止まって椅子が動く。
彼女が少しだけずれるようにして見せてくれたモニターには私には分からないグラフが映っている。
けど、その中で一際赤く伸びた表示があった。
「対デカグラマトン用にうちとエンジニア部が開発してる振動ソナー。元はビナーやケセドが動きを見せた時に即応できるようにする為なんだけど……テスト中のこれに微弱な反応がある。つまり───」
「誰かがエリドゥの隔壁を動かしている」
ミドリの言葉にチヒロ先輩は頷いて。
「そして、それを動かす管理権限の所持者はうちの部長と今は不在の会長と」
「───私だけですね」
氷のように温度のない、けれど聞き覚えのある声が響いた。
一度、深呼吸をする。
頭に酸素を届けないとちょっと展開についていけない。
さっきまでいよいよ犯人に迫るぞー!って感じだったのに、その本人がすぱんっと出てこられちゃうと頭がパニクっちゃう。
「久しぶりじゃん、トキ」
「ええ、ご無沙汰しております、モモイ」
平然と澄ました顔でそう言ってくる。
相変わらずくーるびゅーてぃだ。
『(キャスター、アーチャーの反応ある?)』
『(感知できん。少なくともこの建物内にはおらん)』
『(そっか)』
珈琲を買い終えてから霊体化していたキャスターに声をかけて、確認する。
どうやら危険自体は、今すぐにはないって感じらしい。
「最近見かけないから心配してたんだ。元気してた?」
「貴女に比べれば遥かに健康的な生活を送っていますから」
「はは……そりゃいいね」
目的は、ヒフミにもした勧誘というか提案なのかな?
とりあえず探る、というよりそこをはっきりさせちゃおう。
「私のとこにも
「はい。モモイ、貴女の令呪とサーヴァントを頂戴に参りました」
おお、ストレート。
トキは顔色一つだって変えてない。
はっきりと、令呪とサーヴァント。マスター権を寄越せと言ってきた。
アリスが悩むように光の剣を抱きしめて、ユズが心配そうに見守って、ミドリが一歩前に出た。
「ッ!トキさ「ミドリ、待って」……でもッ!」
「いいから。お姉ちゃんに任せて」
「……ッ、ほっんとそういうとこ嫌い……っ」
嫌われちゃった。
まあ仕方ない、この言い方がずるいのはよく分かってるんだし。
しっかし参ったなぁ、これは『やっぱり』ヒマリ先輩が後ろにいるか、もしくは。
「それでさ、その勧誘。うまくいってる?」
「残念ですが、
「そっかそっか。ねぇトキ」
さて、どうしよう。
出たとこ勝負もいいところだけ、直球で聞いてみようか。
「貴女はどんな理由があって令呪とサーヴァントが欲しいの?」
「───教えれば、貴女は譲ってくれますか?」
「いやぁ難しいかなぁ……私にも願いごと、
そう、願いがある。
この身を賭けても叶えたい、願いが私にはあるんだ。
だから、私も譲れない。
「必要ならばその腕を貰う、などと物騒な真似をしたくはありません」
「へぇ、
「それも含めて私の『命題』であり、賭けの内容ですから」
命題、か。
思う事がないわけではないけど、今は考えたって仕方ない。
というか流石にしてこないと思うけど即死系ボスみたいにエンカしたら問答無用だと困るんだよなぁ。
多分しないとは思うけど、ここにアーチャーがいないなら、遠距離からこの部室ごとぶち抜くとか。
そういうBADエンド、ゲームなら間違いなくあり得るし。
とりあえずトキの来た目的は分かったから、次は、ついでにお土産でも貰っていこうか。
「聞いてもいい?っていうか聞くね。なんか他のサーヴァントとかそういう感じの情報ない?ほら、ぴょんぴょん跳んでさ」
「馬鹿正直に答えるとお思いですか?」
「え、友達だし」
「……馬鹿でしたね、貴女は」
心底疲れたため息を吐いてるけど、こっちだって緊張してるからさっさとやめてコーラがぶ飲みしたいぐらいには疲れてるんだけどなぁ!
「エリドゥ」
「ん?」
唐突にトキが呟いた。
エリドゥってなんだっけ。
「……私が今拠点としているのはかつて私達が敗れた地、エリドゥです」
「あぁ……言ってよかったの?」
「……
今更ですと事も無げに呟くけど、不確定でふわふわしてた情報だから本人が認めてくれるの結構ありがたいんだけどね。
とりあえず、一人、拠点が分かった。
ヒフミにいい知らせを持ち帰れるかな。
「待って、逆探したって事?」
「まさか、貴女の得意とする分野で私が敵うはずはありません。ただの推理です。高度なセキュリティを施したエリドゥ、その情報に誰かが接触した……なら後は探すまでもないでしょう?各務副部長?」
「無人のセキュリティに
「……勿論。篭りきりで少々心配になりますが、エイミと共に元気に過ごしていますよ。これで宜しいでしょうか?」
「そりゃお気遣いどうもっ」
「必要でしたら、『ご案内』しましょうか?」
「……トキの拠点にってこと?」
「えぇ。ゆっくりと話し合いが出来れば、それに越した事はありませんから」
「それ、平行線にならない?」
「えぇ、ですからゆっくり話し合いが出来る場所にご案内するのです」
───『廃墟』は少々五月蝿い輩がいますから。
「……っ!モモイッ!」
アリスが光の剣を構えた。
「やめなよ、アリス」
「……やめません。私が守ります」
「いいから、降ろして……ね?」
そんな事したって動きはしないけど、アリスが大事にしている光の剣、その銃口の前に立って銃身に少しだけ体重をかける。
……やっぱり、アリスは力持ちだなぁ。
「……わかり、ました」
「うん、いい子いい子……さて、待たしちゃってごめんねトキ」
トキは、うん、目をつぶって黙ったままでいる。
そうだね、待たせちゃったんだから、仕方がない。
さて、どうしよっかな。
「とりあえずさ……空いてる日ある?」
「ご希望があれば、お迎えに参りますが」
「いいよ、うちにもすーぱーかーあるし」
「
参ったなぁ、筒抜けだこれ。
「見ててって!めちゃかっこよくなるんだよぉ!」
「……ああ、なるほど。早瀬ユウカが走り回ったのはそれです「ねぇ?」……っ」
「───ユウカは関係ないでしょ?」
「……それは失礼を。
「いいよ、私の
「それはいつもの事でしょう、慌ただしいモモイ」
さて、約束を取り付けなきゃね。
私も彼女も、段々とこの話し合いが終わる予感はずっとしているのだから。
「遊びに行く日さ、そっちの都合でいいから。だからまたモモトークして……待ってるから」
「……分かりました。歓待の用意を、万全に整えておきます」
「言うねぇ!それじゃ楽しみに待ってようっと!」
「ではまた夜に」
「うん、待ってるから。あ、ヒフミ達も連れてっていい?」
「はい。たくさんの馳走を用意しておきますから」
それだけ言って、トキはブーツの音を廊下に刻みながら出ていった。
それを見届けて、私も息を吐く。
いくら友達相手とはいえ、一応敵対しているわけで。やっぱり緊張してしまう。
とりあえず、約束は取り付けた。
最悪も想定しなきゃだけど、まずは『話し合い』は出来る。
ただあの様子だと今日明日すぐにってわけじゃないかな。
用意、あるだろうし。
実際に会えるのは早くても明日の夜かな。
さて、後は。
「チヒロ先輩、やっぱりもう一個お願いしてもいいですか?」
「……なに?」
「ええっとその───」
さて、こっちはもう一仕事。
帰ってきたヒフミが喜んでくれるように情報収集、頑張りますか。
ヒフミ達、今頃どうしてるかな?
私達は、いいえ、私は戦っていました。
「どいて下さい!!私は……私は……っ!」
味方はいないです、でも挫けちゃいけません。
アズサちゃんが、私を見守ってくれています!
「いいやどかないよ、ヒフミ。僕は───君のサーヴァントなのだから」
セイバーさん……どうして、どうして分かってくれないんですかっ。
「……っ!だからって!私は諦めません!私は必ず……!」
「そのモモフレンズカップケーキを全種類買うんですっっっ!!!」
「体重計に乗って悲しむのは君だ!君なんだヒフミ!」
いいえ、全種類買って一人で食べるんですっ!
あ、アズサちゃん達の分は別で買いますよ、勿論。
1じゃんね☆
というわけで安価結果でエンジニア部も同盟チームに加入じゃんね☆
お、大所帯になってきたじゃんね……
1はここら辺からこの人数を捌くのに悲鳴を上げ始めるけど、実はまだ序の口だったじゃんね☆ミーカミカミカミカミカミカ
すっかり言いそびれてたけど、今はもう消えてなくなっちゃったPart6スレを読んでくれた人向けにちょっとした小ネタを仕込んでるじゃんね☆
そういう事、とだけお伝えしとくじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる