Fragaria × ananassa。
古くから野生種の採取と利用が行われてきた、人の営みに非常に近い植物の一つ。
かつて多くの信徒がその花と果実を聖なる方へと贈ったとされる。
その瑞々しい果実が意味する物が、死者への鎮魂と慰撫に起源がある事を知る者は少ない。
花言葉はあなたは私を喜ばせる、幸福な家庭、尊重と愛情、 先見の明、そして。
───完全なる善。
硝子の向こうに光が見えた。
色とりどりの表情は店外にいる私からも視認できる。
お友達と並んで楽しそうにしている。
私はその姿を───守りたいんですっ!
「買います」
「駄目だ」
「買います」
「駄目だ」
「買うって言ったら買いますっ!」
「いい加減にしなさいっ!」
セイバーさんに止められたって私はめげませんっ!
「私はぜぇっっっっったい買うんですっ!!」
「駄目だって言ってるだろう!ここ数日、毎日じゃないか!」
周りが少し騒ついてきましたけど、関係ありません。
ここで今、見つけた期間限定モモフレンズカップケーキ全7種類を必ず購入する義務が、モモフレンズファンである阿慈谷ヒフミにはあるんです。
誰か一人なんて選んでしまったら、寂しがる子が出てくるかもしれません。
必ず一人残らずお迎えして、きちんと並べて食べてあげなきゃいけないんですっ!
「ひどいです……どうしてそんな(ケーキを買っちゃ駄目なんて)酷いこと言うんですか!しかも勝手に(霊体化解いて)出てきて!」
「僕だって(不審者扱いされるから)出てきたくなんてないさっ……けどヒフミ、僕はもう、(連日ケーキ食べまくって朝昼晩もしっかり食べてる)君に(注意をするのを)我慢できないんだっ!」
「だからって……!ただ少し*1、ご褒美を買おうとしただけじゃないですかっ!」
「駄目だ、流石にカップケーキ(を一度に7個食べようとする)なんて買っちゃいけない。君は今日まだこの後やるべき事(マリーとのお茶会と古書館で情報収集)があるんだ」
「それでもっ!私は諦めませんっ!」
「……っ、(体重が出会った時より明らかに)重いんだよ、今の君は……っ!」
ひどすぎます……。
こんなの、あんまりです……。
私はただモモフレンズカップケーキ*2*3を7個買おうとしてるだけなのに……。
これが世の理不尽なのでしょうか……
「なに痴話喧嘩?」「あれ、阿慈谷さんじゃない?」「あ、SNSで出回ってたコスプレの人じゃん」「え、もしかしてそういう事?」「うわぁ経済DVってやつ?」「ひど……」「ヒフミちゃんかわいそう……」「じゃんねじゃんね」「ケーキ一つ買わせてあげたらいいのに」「てか、あれ別れ話なんじゃ……」「は?ヒフミちゃんに男いるとか解釈違いなんだが」「ヒフアズ一点掛けしてましたのに」「ヒフコハでしょ?」「ヒフナギ!ヒフナギはありまぁす!」
気がついたら、周りがちょっとずつ騒がしくなってきました。
いけません、もしかして、ちょっと人の目が集まりすぎでしょうか。
そう思っていたら、ハナコちゃんがちょうど良いタイミングで取りなしてくれる。
「まぁまぁ、セイバーさん。ヒフミちゃんもお小遣いの範囲で買うみたいですし、値段もリーズナブルですから。それにちゃんと食べ切るって言ってますし」
「しかしね、ハナコ。ここ最近、ヒフミはここ毎日ケーキを食べているんだ。不摂生は体によくないよ……せめてどれか一つにするとか」
言われてみると確かにここ連日のようにケーキを食べている気がします。
この前もセイバーさんに抱えてもらった時に突っ込みが入りました。
けどあそこにはペロロ様達が私を食べてとお願いしているんです。
私は、諦められません!
「ほ、ほら!ヒフミもケセド戦頑張ったしご褒美って事で!……折角、ヒフミの好きなモモフレンズのやつだし、許してあげて……下さい」
「私もヒフミと一緒に食べたい。出来れば……全種類並べて……駄目だろうか、セイバー」
コハルちゃんとアズサちゃんのコンビプレーによる身長差30cmからの上目遣いコンボですっ!
これはセイバーさんに大ダメージのはず……っ!
そう思っていたら、セイバーさんから大きなため息をもらいました。
これはもしやっ!
「……分かったよ。そこまで言われて僕が意固地になるのも変な話だろう」
普段の礼拝中はペロロ様のことばかり考えていますけど今日ばかりは主に心から感謝します*4。
やりました、ありがとうございます、トリニティご当地モモフレンズカップケーキ*5を手にする事ができます!
「ただしっ!食べたらしっかりその分は運動、それから暫くは毎食しっかり野菜を食べること、い「はいっ!」……はぁ、調子いいなぁ」
セイバーさんも納得してくれましたし、これで意気揚々、堂々と買いに行けます。
思わずお財布を握る右手に宿る令呪も熱くなりますね!*6
「それではみなさん!買いに行きましょうっ!」
この一悶着の前にウイさんと、マリーちゃんへのお土産は買い終えてますし、カップケーキを買ったら大聖堂に直行。
その後は楽しくお茶会して、ウイ先輩のところで情報を集めるだけ。
だから私は帰ってから味わうペロロ様カップケーキの甘さを想像して、私は満面の笑みで、露天へと歩き出した。
指定された駐車場にしっかりクルセイダーちゃんを停めて、大聖堂の入館受付に向かう。
今回は事前にマリーちゃんへ話をしているからきっとすぐ通してもらえます。
手ぶらでという事でしたが折角なので幾つか焼き菓子を包んでもらいました。
私達が帰った後に、マリーちゃんがシスターフッドの方達と楽しんでもらえたらいいのですが。
そう思って待っていると、軽やかな足音が聞こえてくる。
きっと彼女だろうと思うと、ついつい胸が弾む気持ちになる。
そうして足音は近づいて、廊下の角から私達を出迎えてくれたのはホワイトリリーの香りだった。
「みなさん、お待たせしました!」
柔らかな声と同じぐらい優しげな微笑み。
治ったばかりだからか白いマスクはあるけれど、この前会った時よりずっと健康そうな血色。
傍にいるだけで落ち着くような心地にさせてくれる、伊落マリーちゃんがそこにいました。
長胴式の教会ということもあって、大聖堂は荘厳な光が降り注いでいる。
ステンドグラスから溢れる午後の日差しは燦々と教会内の装飾や束ね柱の美しさを色めかせている。
奥に見える礼拝堂では今も讃美歌が響き、オルガンの音と共にまるで別世界に来たような不思議な感覚に、思わず足を止めて聞き入ってしまいそうになるほど。
そんな、シスターフッドの本部であり由緒正しいトリニティ大聖堂の袖廊を、百合の甘やかな香りを追って私達は歩いていく。
「ごめんなさい、少し離れの方に準備をしていたので」
「大丈夫です!普段は礼拝堂の方にしか行きませんでしたけど、こちらにも色んなお部屋があるんですね」
「はい、幾つかは時代の流れや戦火と共に無くなってしまいましたが、今でも談話室や応接間、来賓の方が来られた際の宿泊室、そして私達も使っている寝室もあるんです」
昔は厨房が三つもあったんですよと、こちらを振り返ってマスク越しに手を口元に当てながら可笑しそうに彼女は話してくれる。
その仕草もどこまでも女性的で品があって、このお友達がとても一つ年下とは思えない奥ゆかしい佇まいがあって、思わず見惚れてしまう。
「本当は折角ですから、まず礼拝堂の方でみなさんとお祈りをしてからと思ったのですけど、今の時間は聖歌隊の方達がちょうど使われてて」
「あはは……また帰りとかでもいいですし、あんまり気を落とさないで下さいマリーちゃん」
「ありがとうございます、ヒフミさん。……ではまた、お帰りの際に御案内しますねっ」
その言葉の弾み具合でどれだけ彼女が人の為に祈るのが好きなのかがよく感じられる。
一度でも彼女と関わりを持てばきっとよく分かる。
伊落マリーちゃんという子がどれだけ誰かの為に心を砕いて、誰かの想いに寄り添える人なのかを。
ハナコちゃんが信頼しているのもすごくよく分かる、表裏なく真っ直ぐな献身の姿勢。
そんな美徳が、前を歩いて案内してくれる年下の女の子は持っている。
「(しっかり頑張らなきゃ……)」
せめて、この後のお茶会でしっかり楽しんだらまた聖杯戦争について情報収集。
トリニティでも被害にあった子達がいました。
次、誰がそうなるかは分かりません。
もうこれ以上、あの病院で戦っていた子達のような辛い目にあう人が出ないように。
そして、マリーちゃんのような優しい子が傷つく事がないように。
私は強く、心に刻む。
今できる事を、そしてハッピーエンドを。
ひだまりのような彼女達の学園生活を守るんだと、たったこれだけの時間でしみじみと感じてしまいます。
「さぁ、着きました。シスターフッド自慢のテラスガーデンです!」
そっと廊下から外へと私達を連れ出して、何も刻まれていない白い手を重ねてマリーちゃんは言う。
本当に嬉しそうに案内してくれたそこは、石造りの小さな東家と鮮やかな緑に囲まれた、ひっそりとした佇む小庭。
外という事もあってもっと暑さを感じるかと、日陰になっているのを差し引いても心地いいです。
シスターフッドとの付き合いが以前からあるハナコちゃんまで驚いた様子を見るに本当にシスターフッド内の人間だけが知っている、職員専用の場所の憩いの場、みたいな場所なのでしょうか。
そんな場所に案内してもらうだなんて、なんだかくすぐったい。
そんな私達の反応にマリーちゃんは小さな子がいたずらに成功した時みたく、目を細めながらころころと笑う。
「随分涼しくて驚かれました?実は数代前のシスターフッドの方が夏でも外で楽しくお茶会出来るようにって、元々薬草を育てていたこの場所にグリーンカーテンを始められたんです」
その涼しさに驚いてしまったけど、よく見ると東屋を清涼感のあるテラスライムが天蓋のように覆ってしっかりと淡い光と影を生んでいます。
「元々、修道院だったのもあってスクエアの水路と同じ水源からこの大聖堂にも地下水を汲んでいるんです。この石畳のちょうど真下、なんですけど。そこや奥にある貯蔵庫から気持ちいい冷えた風が流れてきて、とっても涼しいんですっ」
自慢げに、いえ、本当に自慢なんでしょう。
大事な宝物を教えてくれるように、シスターフッドの先輩達とのこの場所での思い出話をしつつ、彼女は席へと案内してくれます。
「それじゃあ、すぐお茶とお菓子をご準備しますから」
そう言って黒いウィンブルを揺らして中へと戻っていかれました。
待ち時間は決して長くありませんでした。
二重に重ねられた硝子のボウル。
一方には紅茶を、もう一方にはそれを薄めないようにと氷が敷き詰められている。
それをお玉で一杯ずつ丁寧にグラスへ注いでくれる。グラスもさっきまで冷蔵庫にあったのだろう、気遣いの温もりと冷たさを指先で感じ取れた。
そっと、一口飲む。
そして驚いてしまいます。
私だってトリニティ生です、紅茶のいろはだって学んでいるし、ティーパーティでのお茶会だって何度も体験してきました。
それでも、このアイスティーの香り高さはその中でも格別の部類でした。
口いっぱいに広がる落ち着いた渋みはミントのような爽やかさがあって、喉にするりと落ちていく。
鼻から抜ける空気に僅かな香りを確かに感じます。
「これ、実はまだお出しした事ない特別な物なんです」
「茶葉をブレンドして、蒸らし時間や抽出時間も決めてあるシスターフッド秘蔵のアイスティー。今日の為にサクラコ様と何度も練習してみた自信作なのですが……」
「いかが、でしょうか?」
いじらしく、緊張した面持ちで聞く彼女に私達は顔を見合わせてからはっきりと、
「「「「美味しいですっ!」」」」
その言葉に彼女の表情は綻んでくれた。
「それなら良かったです。どうしてもあの日、折角会いにきて下さったみなさんへのお礼がしたかったですから」
「お菓子も用意したんですよっ!おすすめはその、少し早いですけど美味しい無花果を分けて頂けたので、それでタルトを作ったんです」
「自信作、だなんて言うのは少し恥ずかしいんですけど……」
ナパージュでお化粧をしてより一層その瑞々しさを象徴するイチジクのタルト。
プレーン、胡桃、チョコ、それから紅茶を練り混んだスコーンと角のたったクロテッドクリーム。
ジャムを詰めて宝石みたいに可愛らしい輝くステンドグラスクッキー。
軽食もと数は少なめに、でもしっかり用意されたサンドイッチ。
どれも手作りのようで一体どれだけ準備をしてくれてたのかと今日何度目か分からない驚きが生まれる。
「うん、すごく美味しそうだ。マリー、ありがたく頂く」
「た、食べるからね!……ありがとう、マリー」
二人からの言葉にマリーちゃんは嬉しそうにしながらタルトを切り分けていく。
「本当に美味しそうなお菓子ばかり。マリーちゃんの秘密の特技、見つけちゃいましたね」
「もうっ!ハナコさんはこれまで何度も私のクッキーを召し上がってくれたじゃないですかっ」
怒ったような台詞には戯れつく信頼が二人の間に感じられて、なんだか見ていてほっこりしてしまう。
ただただ彼女の傍には優しい空気があった。
「はいっ、ヒフミさん……無花果、お嫌いでないといいんですけど……」
「ぜんっぜん、大丈夫ですっ。もう私、今から食べるの楽しみで!」
「まぁ……嬉しいです。頑張って作った甲斐があります」
ふんわりと微笑んで、
「では、どうぞ。召し上がって下さい」
「主の祝福と恵みに感謝して。どうか、みなさまに心と体を支える糧となりますように」
そう言って、私たちのお茶会は始まった。
喋るのも、食べるのも、口が止まるのを忘れているようだった。
最近の噂話や私達が留守にしていた間に起こったトリニティでの小さな話。
例えば礼拝堂に子猫が迷い込んだとか、シスターフッドに今度クロノススクールの雑誌担当の方が取材に来るとか。
今日までしていたチャリティーバザーであった幼い子達との交流、なんでも山海経の梅花園の子達が遠足で遊びに来たのだとか。
「ウィンブルが珍しかったようで、何度か引っ張られてしまいました……」
「そういう小さい子相手でも悪いことしたらちゃんと教えてあげればいいんだから!それで……その、破れたりしなかった?」
「大丈夫ですよ、コハルさん。あの子達もちゃんと手加減してくれたようですし……サクラコ様が止めて下さいましたから!」
マリーちゃんの話を聞きながら、タルトに舌鼓を打つ。
しっかり閉じ込められた果肉の粒感と濃厚でありながら後を引かない甘味を堪能しつつ、それに負けじと引き立てるアマンドクリームの優しい香ばしさ、そして果肉とクリームと共に口の中で踊り出すタルト生地の異なる食感。
食べ終えた後に残る静かな余韻。
決して高級菓子店のような華やかさはないけれど、とても基本に忠実で、そしてそれが丁寧に作られた事を裏付けている真心の籠ったタルト。
この甘さがあるからこそ、またアイスティーの痛くないのにしっかりとした渋みがよく合う。
「では、崩落事故が?」
「はい、痛々しい事件です……ナギサ様も憂慮されているようで……」
「まぁ……。彼女にも今度差し入れしてあげないといけませんね。ふふっ、ツナ缶でも持って行きましょうか」
次はクッキーに手を伸ばす。
ステンドグラスクッキーは見た目は華美な分、食感の差があってか、苦手な人も一定数いる。
ただ、マリーちゃんが用意してくれたこれは、その飴のようになったジャムの部分を小さくしてくれている。
誰が食べても喜んでもらえるようにという気遣いが感じれるた。
「いけませんよ、またそんな事仰ったら。幸い、昨日の件はもう片付いたようですけど、なんでも今度は転校がどうのこうので*7……結局ミネ団長に救護されたとか」
「なんだ、またナギサは救護されたのか」
「あはは……ナギサ様、お疲れなのでしょうね……」
「……本当に差し入れ、してあげた方がいいですかね?」
声が聞こえないなと気になってふと、横を見ればコハルちゃんがハムサンドを口いっぱいに頬張っている。
最初は上品に一口ずつ食べていたようだけど、どうやら舌にあってか幸せそうに口を膨らませている。
私も食べたけど、あのハムサンドはすごくいい。
クッキーもタルトもそしてスコーンも決して甘すぎるわけではない。
素朴で甘さも控えめで、紅茶によく合う味だ。
だからこそ、少しだけ、でもしっかりと塩味が聞いているハムサンドやトリニティ名物きゅうりサンドが本当に良い。
しっかりマヨネーズとマスタード、そして胡椒がかけられて、すこしだけレタスやきゅうりの水気を吸ってしっとりと味が染み込んだパン。
その塩気が優しかった甘味と比べて、ほんの少しだけ主張強めだから、口の中が喜びをあげてしまう。
コハルちゃんの手が止まらないのも理解できる。
「そうだ、マリー。私達は今、ミレニアムにいるゆだ。短期留学、というやつだな」
「まぁ、ミレニアムへ?以前、 晄輪大祭の時に良くして頂いたのですが、ユウカさんはお元気でしたでしょうか?」
「はい、とっても元気にされてますよ!今日帰ったらマリーちゃんが気にしてたって伝えますね」
マリーちゃんがユウカさんとお知り合いだったのを初めて知りつつ、意外とは思わなかった。
晄輪大祭という事はきっとお二人とも運営側にいた筈。それならきっと真面目でしっかり物な二人のことだ。
馬があったのでしよう。
「お忙しいようですけど、変わらず精力的♡に活動されておられました♡」
「ふ、不埒なことは言ってはいけません!」
「むぅぅぅう!んぐむぅぅぅうぅぅぅ!」
「あら、怒られちゃいました♡……コハルちゃんは飲み込んでからお話しましょうね」
コハルちゃんが胸を叩き出しので急いで紅茶をマリーちゃんが注いで渡してあげている。
静かで、でも賑やかで、涼しい風と木漏れ日を浴びるお茶会。
私は、ただただそれを満喫している。
別段と、重要な何かを話すわけではなくただ少し前までは『当たり前』に過ごしていた時間を。
聖杯戦争の事を考えずにただのんびり友達とお喋りする時間に呼吸をしている。
その事実がなんとなく、鼻の奥をツンと刺す。
気づいている、ずっとセイバーさんが気を利かせて一言も喋らないでいてくれている事を。
お腹が減らなくたって、意外と彼は食べるのが好きで、多分今日買ったカップケーキだって後で一緒に食べる事になる気もしてる。
それなのに、沢山のご馳走を前にしても何も喋らず、この時間を邪魔しないようにしてくれている。
その気持ちは分かっていて、感謝していて、彼と過ごす日常だってすごく楽しくて。
でもこんな風に『殺し合い』を考えなくて済む時間がただただ愛おしくて、懐かしくて。
悪い事だって、ずるい事だって、今だってモモイちゃん達は頑張ってるのに。
でも。
───ずっと、ここにいられたらと願ってしまう自分がいて。
そんな風にいじける私の心に。
「ヒフミさん?どうか、されましたか?」
彼女の綺麗な音が、飛び込んできた。
「あ、はは……す、すみません、なんだかぼうっとしちゃって!」
つい、誤魔化してしまう。
こんな小さな悩み、気にしていても仕方がない。
ただ、たまたま今日、こんな風にトリニティっていう自分の住む場所に帰ってきて、こんな風になんてことのないお茶会をして。
だからほんの少しだけ、ノスタルジーみたいな物に浸ってしまっただけなんだから。
時間だってもうそろそろいい頃合いになる。
この時期は日差しが高くて、昼間がすごく長く感じるけど、この東屋を出たらきっと、もう日の光に痛みを感じるような暑さは残ってないだろうから。
だからこんな最後の方で空気を湿っぽくしたくなくて、手を振って誤魔化して。
「主は───」
その手をそっと。
「あなたがたを耐えられないような試錬に会わせることはありません」
彼女の小さな手が包み込んだ。
「例えそれが荊の道をお与えになっても、貴方が越えられると主は知っておられます」
マリーちゃんはテーブルをいつの間に離れて私の傍へ。その修道服が汚れるのも厭わずに。
まだ免疫力が落ちているから、と付けているマスクをいつの間にか外して。
「そして必ずそれに耐えられるように、のがれる道も備えて下さるのです」
その声をきちんと私に届くように。
木漏れ日と髪がかかった影のコントラストがまるで一枚の絵画のように描いて。
本当に小さく、静かな声で祈ってくれた。
「私はあなたの心を救えません。ヒフミさんがどんな風に悩んでいるのかを察する事すらできない未熟さを恥いるばかりです」
大きく口を開いたわけじゃない。
微かに薄らと開かれたそれから漏れ出た音は静謐さを秘めていて。
「ただ、知っておいて下さい」
でもしっかりと芯の通った決意がある。
「夜はよもすがら泣きかなしんでも、朝と共に喜びが来る」
私を信じてください、そして貴方の苦痛が癒やされますようにと。
「辛い出来事も必ずヒフミさんなら歩けます。そしてその道には少し荷物を降ろして休む場所もあるんです。そうして歩いて、日が暮れて心を休めれば、朝日と共にきっと立ち上がれる力が湧いてきます」
その声は小さくとも染み渡るように。
私の心に注がれる。
「だからどうか、安心して下さい」
ああ、やっぱり今日無理してでも来てよかった。
「明けない夜はないのですから」
マリーちゃんに会って、お茶会もして、こんな風に祈ってもらえて。私はなんて贅沢なんだろう。また少しばかり硬くなっていた心がほぐれていく気がする。隣人愛。困っている人に寄り添い、傷ついた人を癒そうとする無償の愛に私は触れて。
「どうかヒフミさんの心に、一刻も早い平穏が訪れますように」
「───Amen」
涙ではなく、決意が溢れる。
こんなお友達が私にはいるのだから。
だから、私は戦えるのだと。
しっかりと心に刻んだんです。
涼しい石畳から蒸し暑さを残すアスファルトへ。
先に乗り込んでいる彼女達を追って、私も歩いていた。
「ごめんなさい、お見送りがここまでになってしまって」
振り返れば、すっかり夕焼けに染まった空の下、マリーちゃんは申し訳なさそうにしている。
マスクを付けていて口元は見えないけど、きっと固く結ばれている気がする。証拠に耳がへたっている。トリニティ大聖堂の裏口からセントラルを抜けて、私達がクルセイダーちゃんを停めた駐車場まで。ここまでだなんて言いつつ、着いてきてくれたのにだ。どこまでも真っ直ぐに誰かを想う彼女に、今回ばかりはへんてこな気持ちになって、だから。
「……また」
「え?」
「またお茶会しませんか?今度は私達もお菓子作ってきます」
ありがとうなんて感謝、でも、気にしないでなんて気遣いなんかより。
この時私は、次の約束の方がいい気がしたんです。
「ヒフミちゃん、お料理上手ですからね」
「なら私も何か作ってみよう。任せろ、野外炊飯は得意だ」
「それお菓子じゃないでしょ……わ、私も!サンドイッチ作ってくるから!」
キューポラから無理矢理顔を出したり、装甲の上に立ったりしながらみんながマリーちゃんに声をかける。
「マリーちゃんとのお茶会、すごく楽しかったですっ!だからっ!また……また今度もしませんか?」
心からの想いを、マリーちゃんがそうしてくれているように、私も真っ直ぐ伝えて。その返事は。
「……はいっ!楽しみにしてますね!」
夕陽に照らされて、私達の頬はマリーちゃんの髪色と同じに色に染まって。
会えて良かった、お茶会が出来て良かった。
───どうかこの優しい子が傷つかず、明日も笑顔でいられますようにと祈って。
そんな風に、笑い合って私達はお別れしたんです。
「第六のマスター、伊落マリーが命じます」
「今この場で」
「阿慈谷ヒフミの右腕を」
マリーちゃん大好きじゃんね☆(挨拶)
1じゃんね☆
マリーちゃん大好きじゃんね☆
というわけでセリフ周りは色々調べて睨めっこして書いたじゃんね☆
励ましシーンのセリフは大体元ネタありじゃんね☆
……ちなみに前のケセド戦でケセドが喋ってる数字もちゃんと意味のある数字、読める文章になってるじゃんね☆
一つひとつ文字を変換するの大変だった思い出じゃんね……
とはいえ、問題は1が元の文章忘れたってことじゃんね☆ミーカミカミカミカミカ
さて、前半でしっかり青春成分は補給したじゃんね?
それじゃあここからは、しっかりFateっぽいやつ、やってくじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる