阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

44 / 155

Clematis L.
原種は百鬼夜行、山海経を始めキヴォトス全土に分布し、現在は鑑賞価値の高い品種を指して言う。
百鬼夜行で採取されとある植物学者によって発表されたそれは鑑賞用として喜ばれ、多くの人工交配種が作られた。
花言葉は精神の美、旅人の喜び、創意工夫。

そして───策略。


!⸮ WAS IT A CAT I SAW ?!

 

 暮れ六つ。

ウェストミンスターの鐘が、時計台から鳴り響く。

青がまだらに残る夕焼け空。

人々に黄昏を知らせている。

誰ぞ彼。

昼と夜の狭間。

魔が魔を呼び合い嗤いあう。

そして、またここにも。

人を殺す()が降り立った。

 

 

 

 

 

 

声が、はっきりと聞こえた。

間違える筈がない。

だってその声と、私はさっきまで楽しくお喋りしていたのだから。

 

私の、右腕を、落とせと───。

 

 

 

「ヒフミ……ッ!」

 

 

 

 甲高い音が鳴る。

金属同士がぶつかる音です。

それを耳にして、私は惚けたように後ろを向いた。

セイバーさんがいました。

ほんの目と鼻の先に、数センチ手を動かす距離に彼の背中がある。

その手にいつものように剣を構えていて。

それが今。

 

「下がれッ!早く下がるんだッ!」

 

鍔迫り合いになっている。

どうして。

そんな事は簡単な理由です。

だって彼の正面にはランサーさんがいて。

私の右腕目掛けて彼の槍が振り下ろされようとして、それをセイバーさんが止めてくださっていて。

 

だから、それって、つまり。

 

 

 

「……まりー、ちゃん?」

 

 

 

その命令を降したのは、にこやかな笑みを絶やさないでいる目の前の彼女だという事に、他ならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめん、ヒフミ」

 

 謝罪と共に行動は起こされた。

少女がぐんと、背後から襟を掴まれて引っ張られる。

ほんの一瞬、ヒフミの息が詰まる。

痛みを伴わないその衝撃は、けたたましい銃声と共に景色を加速させて剣士との距離を離した。

 

8m。

先ほどいた場所から真後ろへ。

人並外れた脚力、そして有翼の生徒らしく大腰筋に繋がった翼によっめ一気に距離を離す。

そうして軽い音と共に固いアスファルトの上に再び足が乗った。

軽く、咳き込んでいると、ヒフミを掴んでいた相手がその背を摩る。

 

「あず、さ……ちゃん?」

 

返事はなく、目線もヒフミを向かない。

その目線の先を、ヒフミはつられて辿る。

辿ってしまう。

果たしてアズサの視線の先。

ただ真っ直ぐ、ヒフミ達同様に先ほどの銃撃でセイバーの正面から距離を取ったランサーと。

彼の隣に立つ少女を。

微笑みを湛える彼女を。

 

 

 

───伊落マリーを見据えていた。

 

 

 

「……です、か?」

 

 ヒフミには未だ理解が追いついていなかった。

 

「……ヒフミ、やめよう」

 

あれだけたくさん話をした。

あれだけ楽しい時間を一緒に過ごした。

 

「……どういう、事……なんですか?」

 

今度はお菓子を自分達が作ってくるから。

だからその時は。

一緒にまたお茶会をしようと。

 

「ヒフミ、いいからっ……気にしちゃ駄目だ」

 

───約束した筈なのに。

 

「なんでっ、どうして……っ……どういうことなんですか……っ!?」

 

 油断なく片手で構え続けていたアズサの声に焦りが滲む。

アズサは既に切り替えが出来ている。

この状況で()()()()()()()、それを理由に動きを乱す事は最低限に抑えられる。

 

 だが、ヒフミは違う。

ヒフミは───。

 

「なんで……っ!なんでマリーちゃんがっ!」

 

叫ぶ。

冷静になんていられない。

つい数瞬前まで笑い合っていた相手が、槍を向けてきた。

腕を斬り落とすと、キヴォトスにあっても取り返しの付かない傷を与えようとしている。

その事実に半狂乱になりながら、必死に叫ぶ。

 

「聖杯戦争のマスターだからですよ、阿慈谷ヒフミさん」

 

 対するマリーは平然と返す。

何を当たり前の事をと。

軽やかな笑顔のまま、夕陽にその頬を染めて、オレンジ色の世界で白いマスクを浮き出すようにして。

平然と告げられる言葉。

そしてそれは、ヒフミの頭の中でそれはこう変換される。

 

即ち───殺し合いの参加者だから、と。

 

 理解が追いつかない。

口の端から泡を飛ばして、溺れて夢中で水面に顔を出したように荒く息を吸いながら。

ヒフミは激情を吐き出す。

 

「だって……だってさっきまであんなに楽しくっ!」

 

───主は言われた。

 

「はい、楽しかったです。でも、それとこれとは話は()でしょう?」

 

───わたしがあなたがたに対していだいている計画はわたしが知っている。

 

「ぅ……っ!おっ、おかしいです、なんっ、で……だって私達お友達でッ!」

 

───其は災いを与えようというのではなく、平穏を与えようとするものであり。

 

「はいっ!お友達です!そして───」

 

マリーは言う。

その通りだと。

お前と私は友達だと。

その上で、今この状況は何もおかしくないのだと言う。

 

 

 

「貴女と私は聖杯戦争のマスター(殺し合いの当事者)です」

 

───あなたがたに将来を与え、希望を与えようとするものである。『エレミヤ書2()9():()1()1()

 

 

 

友達である事と聖杯を奪い合うマスターである事は別に両立し得るのだと、そう言い切った。

 

「ぅ……ぁぁ……ひ……ぇ……」

 

 全力疾走の後のように喉を何度も忙しなく空気が往復している。

それなのにヒフミの肺には何も満たされないように。

浅く、荒く、痛さを伴い心臓が早鐘だけを打つ。

否定したいのに出来ない現実を脳が拒もうと必死に理屈を考える。

 

「……ぃます」

 

「ふふっ、そんなに息を荒げてどうされましたか?大丈夫です、話すのはゆっくりで構いませんからね。その令呪を頂きましたら、その後はまたお話をしましょう?───()()()()()()()()()()()

 

「違います───ッ!」

 

最早それは悲鳴だった。

理解できない現実から遠ざけるように必死に両腕を前に出して、目を瞑る。

幾度もの金属音が鳴り響く中、ヒフミに出来るは怯える幼子のように無駄な抵抗だけだった。

 

「違う……そんなの違います!間違ってます!マリーちゃんはこんな事ッ!」

 

「おかしいでしょうか?誰もが己の願いがあって、そしてその願いを成就させたいと、その為なら誰かに害を成しても構わないと思う者に聖杯は令呪をお与えになるのですよ」

 

 私にだって願いはあって貴女もそうでしょうと。

課題はやってきたかと登校中の友人に尋ねるような気軽さでマリーは言う。

令呪を、サーヴァントを召喚する為の権利を配られたのなら、お前も同じ。

どうしても叶えたい願いを抱いているのだろう、と。

 

 その言葉はヒフミには受け入れ難く、幼い子のように首を振る。

だってヒフミがたどり着いた結論はつまり、マリーはだれかを殺してでも願いを叶えたいと言っていて、自分も同じ穴の貉だとせせら嗤われているという事なのだから。

怖い、否定しなきゃ、私は、マリーちゃんはそんな筈ない。

だってあんなに優しくて、あんなに私の為に祈ってくれて。

そんな風に自分自身に言い聞かせて懸命に脳を動かす。

そう、否定しなくてはいけない。

大好きな自分の友達が、願いの為に自分を殺そうとしている。

自身の欲望の為に、他者に犠牲を強いろうとしている。

あまつさえ、殺し合いに進んで参加しているなぞ。

 

 そんな悪夢のようなお話を、阿慈谷ヒフミは否定したかった。

 

そして、必死に散らかった頭の中で一つの希望に縋り付く。

他ならない彼女の言葉から。

 

「……令呪」

 

「はい?」

 

「マリーちゃんの手に、令呪はありませんでした」

 

「ええっと……どういう」

 

「マリーちゃん、冗談なんですよね!どっちの手にも令呪なんてなくてだからマスターだなんて……あっ!もしかして誰かに脅かされてッ!ま、任せて下さい、私がマリーちゃんを脅してるそんな人ッ!」

 

 嘘なのだと、何かの間違いなのだと叫ぶ。

ヒフミは見ていた。

会う人々のその両手に令呪が、殺し合いの参加者の印はないかと。

コンシーラーで厚塗りしたって隠せないその証拠を、必ず確認する癖がついてしまっていた。

だから、マリーの手も度々見て、だから安心していた。

そして、それがヒフミが考え得る今この場で、この悪夢みたいな現実を否定できるたった一つの希望で。

 

「嗚呼、そういう」

 

 徐にマリーはマスクを外す。

白い不織布のマスクは風に飛ばされていく。

同じように、ヒフミの希望も。

 

 

 

「私の令呪を見せればいいんですね?」

 

 

 

()()()()()()()()()()

小さく形の良い、淡いピンク色が今このオレンジ色の世界でグロテスクな程に艶かしく、ヒフミの脳を刺激する。

そう、その舌に。

 

「もういいでしょうか?あまり人前で舌を晒すのは恥ずかしいですから……さあ、ランサー」

 

少女が秘めた奇跡はあった。

淫靡に舌の上に転がされるようにして。

外界にそれは晒された。

艶やかに煌めくクレマチスの花が。

令呪が。

伊落マリーの舌に刻まれていた。

 

「人払いは済ませてあります」

 

微笑う、微笑う。

どこまでも泰然と、粛々と、ごく自然な風に。

シスターフッドが、そしてその前身組織がそうしていたように。

 

「必要であれば救護騎士団にも話はつけてあります」

 

彼女達がそうであったように。

 

「では今度こそ」

 

その伝統に則って、マリーは。

 

「阿慈谷ヒフミの腕を斬り落としなさい」

 

眼前のを討てと命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE  1/3

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は微笑う。

舌を隠して、うっそりと。

目の前の少女の腕が欲しいと囁いて。

従者は洛陽を浴びるその手の槍に力を籠めて。

飛び込む。

だからこそ愚直なまでに、少女を背にして。

守る戦いを得意とする彼が果敢にセイバーを攻め立てる。

 

「ランサーッ!君は一体何をッ!」

 

ランサーの猛攻と奇襲に、本来セイバーにない動揺が生まれる。

先の一戦、そして映像に記録された彼の言動。

 

「我が主が選び、そして私はそれを受け入れた。ただそれだけのこと」

 

何よりその真名、レオニダス一世。

いずれも彼が一角の人物であるとセイバーは認めていた。

強く、気高く、慈悲深い。

まさに英霊と言わんばかりの男だと、彼のような男と武を競い合えるのなら次もまた、あの晩の続きのようになんの憂いもなく気持ち良く戦いたいと。

そしてそれはきっと叶うと、自分でも驚くべき事にセイバーは信じていた。

 

「彼女はヒフミの良き友だと、私は今も……そう思っているッ!」

 

ヒフミは殺し合いを嫌い、だが戦い自体は決して忌む事はなかった。

そしてランサーが佳き主人だと言っていたマスターもまたきっとそういう少女なのだろうと思っていた。

実際にその主人もまた、霊体化して傍に控えていたセイバーから見ても先ほどまで持っていた印象驚くほど清廉であるという物。

直接の邂逅は一度きり、そして今回の茶会での様子だけだが、友を愛し、言葉遣いは美しく、品があり、己が属する組織に誇りを持つ。

そんな素晴らしい女性だと考えていた。

 

「……そうですか」

 

だからこそ、この凶行とそして今、槍を振るうその合間にも一切の油断なくセイバーの隙を伺いながらヒフミを狙っている事実に理解が及ばない。

 

「くッ……君だってこんな奇襲まがいの事はッ!」

 

その戦い方は、三百の王らしからぬ猛攻振り。

攻め手を緩めず、首を、脚を、眼を。

『魔力』で生み出した焔を矛先へと載せて、セイバーがしてみせたように間合いを惑わせ、僅かでも掠めれば火傷を与えんとする。

嫌らしく攻め立てて、少しでも傷をつけて戦況を優位に。

痛みを、傷を与えて、隙を作る為に。

 

「驚きましたな、セイバー。殺し合いに、小綺麗な礼儀作法を求められる……とはッ!流石は道なぞ重んじる騎士と言ったところでしょうか……ッ!」

 

「下手なッ挑発を……ッ!」

 

舌鋒、絶やさず。

同じくして、その矛先もまだ絶えることなくセイバーへと襲いかかる。

劫火の刃は舐めるように空気を焦がし、剣士の身を焼く刻を今か今かと待ち侘びる。

 

そしてそれら全てはヒフミへとその矛先を向ける機会を作るための戦い方。

その刃が向かわんとしているヒフミは。

 

「なんで……どうして……」

 

 俯いて呟くばかり。

それでも、その手に銃を握っている。

セイバーが戦っている。

その事実と、突然のしかかった状況に、必死に抗う為に。

縋るように愛銃を構える。

震える銃口で如何程の事が出来るかなぞ、考えもしないで。

ただ、ひたすらに撃つ事でその胸の痛みを吐き出そうとする。

 

「ヒフミ……くッ!」

 

 精神の衰弱、それが見て取れる。

あまりにも強烈すぎる、伊落マリーからの強襲にヒフミの心がへし折れかかっているのがアズサには手に取るように分かった。

 

「(見てきた事だ……こうなった者達をッ……!)」

 

 白洲アズサは知っている。

経験している。

アリウス自治区で生まれ育った彼女は、こういう風な裏切りを何度も見てきた。

そうして傷つき折れて砕けて、立ち上がれなくなった者を何人も見てきた。

あの地獄を経験して、なおもアズサは砕けなかった。

そして砕けなかった分だけ、砕けた少女達の末路を見てきた。

だからこそ。

 

「(まだ大丈夫……大丈夫、ヒフミは折れ切ってない)」

 

 ヒフミの瞳は揺れている。

脚にだって力は入っていない。

それでも彼女の心の芯はまだ折れていないのを感じ、それを信じてセイバーへ援護射撃を行う。

二人がかりの『攻撃』。

それは偶然にもヒフミの指が漫然と動いた為に、波状攻撃となってセイバーの隙を埋めていく。

 

「何が理由でヒフミを狙うッ!答えろレオニダス王ッ!」

 

揺さぶりをかける言葉に、ランサーは反応しない。

ただその恐ろしいほどセイバーを手負いにさせて動きを阻害させんとする連撃を幾重にも混ぜ込みながら淡々と答える。

 

「ははっ……何を今更ッ!元より我らは聖杯欲しさに参加した愚か者ッ!」

 

内心の一切を押し潰す声に色は乗らず。

事実を告げるようにただ愚者であると。

 

「であれば敵を討つのに、それ以上の理由が要りましょうか……ッ!」

 

「くっ……!」

 

そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE  2/3

 

 

 

 

 

 

 

 

剣戟一閃。

セイバーの刃が十と閃けば、ランサーの槍もまた十と火花を飛ばす。

 

「(ッ!埒が開かない……ッ!)」

 

───すると彼女は「ヨナカーンの首を盆に載せて、ここに持ってきて頂きとうございます」と言った。

 

「(膂力は互角、だが攻め難い……この男はこんなにも嫌らしい動きをする戦士だったか……!?)」

 

───王は困ったが、いったん誓ったのと、また列座の人々の手前、それを与えるように命ず。

 

セイバーの喉笛を掻き切らんと振るわれる横薙ぎ。

それに寸手で躱しては同じく横薙ぎを放つが、容易く盾で逸らされる。

その勢い殺さぬままに敵の矛先が向くはセイバーの足元、即ち爪先。

 

「ッ!随分とッ……形振り構わないじゃないッ……かァッ!」

 

───そうして人を遣わして、獄中でヨナカーンの首は落とされた。

 

「そういう其方はッ!随分と余裕が……ありませんなぁッ!」

 

───その首は銀の盆に載せられて運ばれて、少女はそれを母のところに持って行った。(マタイ19:25)

 

防ぐ、逸らす、弾く。

盾持ちの戦い方の基本であるそれら。

王道たるその戦い方を好んだはずの武人が今振るうのはより苛烈。

左の盾を真横に、縁を全面に出すようにして構えて殴りつける。

僅かでも傷も、少しでも隙を。

鋭く磨がれた鋭利な縁すら武器にしてセイバーへと襲いかかるは人外の膂力を全力で駆使する盾による殴りつけ(シールドバッシュ)

大きく、左右に揺らすようにして槍と盾を振るい、黄昏によって視界が徐々に制限される中、ランサーが放出する魔力の余波()で作られた陽炎がはためき、その姿を掠めてセイバーの思考を無駄に奪っていく。

 

それらは全て、阿慈谷ヒフミという敵に辿り着く為に。

 

たった一瞬でも隙を見せれば、その次の瞬きを済ませた時にはセイバーの横を擦り抜けてランサーはヒフミの目の前に立っている。

切先と矛先を、そして盾と剣をぶつけ合う中、それをまざまざと理解させられて、セイバーに極大の緊張が奔る。

 

 そんな攻防の中で、困ったように溜息を溢す少女が一人。

 

「人払いを済ませていても、()()()()()しまってはいけませんから……使いましょうか?ランサー」

 

 艶かしく舌を垂らして、恥じらいなく息を荒げて。

マリーは嗤う。

 

早く、早く、腕を頂戴。

銀のお盆に載せて、私の元へと届けて頂戴。

そんな風に微笑う。

そうしてマリーからランサーへと魔力の譲渡が始まる。

予想していなかったのか、ランサーはこの場で初めて焦りを口にする。

 

「……ッ!ご無理はぁッ無用です!マスター!」

 

盾で剣を持ったセイバーの手首ごと押し潰さんと叩きつけながら叫ぶランサー。

だがそうしている間にも、マリーからの魔力はじわりじわりと彼へと送られ続けていく。

 

「(まずいな……アレは僕でも危険だ)」

 

宝具発動の予兆を感じ取ったセイバーの脳裏に、過日のランサーとアサシンとの戦い、その記録が甦る。護りを旨とし、最後にはカウンターを行う攻防一体の宝具。

 

「(下手に動けば、手痛い反撃を貰うだけか……ッ!)」

 

その概念的なカウンターは、ランサーが守り抜きさえすれば、その分だけ苛烈となる。

下手な一撃を与えれば、残った盾の数だけ迎いの一手は増強する。

カウンターの余地なく完全に破壊しきらなくては、こちらが敗北しかねない。

故にセイバーは『回避』を選択した。

 

それを、マリーは静かに見守りながらランサーへ判断を降した。

その手に握られたのは落ち着いた鈍い金細工が施されたマリーの愛銃、「パイエティー」。

その意味は信仰深さ。

その口径は0.5インチ。

キヴォトス全土を見ても使い手の少ない、高威力の拳銃。

それを撃つ。

硝煙を纏い、楚々と唇に弧を描いて。

セイバーの手や脚を狙って回避の『妨害』を試みる。

 

「マスターッ!貴女は何もッ!」

 

セイバーの狙いを理解して、妨害をして無理矢理にでも攻撃を、宝具を誘おうとするマリーの動きをランサーは咎める。

そんな事をすれば刃が向くかもしれないという焦りを込めて。

だがやはり、その笑みを崩さずにマリーは言う。

 

「ふふっ、私は大丈夫です。それより早くヒフミさんを」

 

そんな彼女へ、ランサーの動きを『妨害』しながらヒフミは問う。

何故と。

何故こんな事をと。

 

「なんで……なんですか!?」

 

つい数刻前まで茶会を楽しんでいた。

あんなにも他愛無い話で笑い合った。

当たり前のヒフミの守りたい時間がそこにあった。

あった筈だったのだ。

 

「マリーちゃん、がマスター……なら!お話しましょう!こんな事しなくたっていい筈ですっ!きっとお話すれば……だからっ!」

 

振る舞うのは初めてなのだと、この場所を教えるのは秘密なのだと本当に嬉しそうにしていた笑顔が。

自分の辛いところに気づいて、苦しい事はきっと晴れると両手を握り祈ってくれた時間が。

 

「はい、その腕を切り落としたら沢山お話しましょう!」

 

そんな優しい彼女がいるトリニティ、そしてキヴォトスを守る為にハッピーエンドを目指して戦うと改めて心に刻んだ誓いが。

 

「ちがっ……違うんですっ!そんなの……そんなの変です!おかしいですっ!」

 

全てゴミ箱に投げ捨てられるのを、ヒフミはどうしても信じたくなくて。

許せなくて。

 

「答えて下さいマリーちゃん!なんでこんな……ッ!」

 

ただ、何故と。ヒフミは悲鳴を上げた。

 

「何故、ですか?大丈夫です、ヒフミさんにそれを知る必要はありませんよ。」

 

 ふわりと微笑う。

枯れた花を手折り、その次が育つのを楽しむような普段通りの声で、笑顔で。彼女の友であれば誰もが、愛するあの笑顔を貼り付けて。

伊落マリーはちょうだいと強請る。

 

「だから安心して───その腕を私に預けて下さい」

 

その言葉に愕然とするヒフミへ、アズサは被りを振ってから改めて銃を構え直す。

 

「もうよそう、ヒフミ」

 

「……っ!で、でもっ!!」

 

「今はきっと、何を言っても……」

 

 アズサとて、マリーの事は友人だと心から思っている。

思っている上で、無理だと理解した。

今の彼女に何を言っても駄目なのだと。

僅かな未練がヒフミと共に声をかけ続ければと囁くのを、ヒフミの命を守るという現実的な判断で捩じ伏せて。

アズサはその未練を振り切るように苛烈にランサーへと銃弾を叩きつけていく。

 

 その二人の声と、援護は確かにセイバーへと届いた。

届いたからこそ、心を痛める。

先ほどまでと違い回避に専念し、マリーからの妨害を受け流しながら。

まだ若い少女達が、友である筈の二人が傷つけあうという事実に歯噛みして。

 

「どうしました……やけに逃げ腰、ですなァッ!」

 

だからこそ、その思考を僅かに割いた愚かな行為をランサーは『幸運』と捉えて、セイバーへ槍をもって咎めた。

空気を燃やし、煙を上げて。

僅かでもアスファルトを掠めれば、それを熔かして。

槍は飽くなきままに、セイバーの五体へと迫り続け。

僅かに、マリーからの弾丸を受け損ねて、ほんの一瞬、『隙』が生まれて。

ランサーはその鎧ごと矛先を捩じ込まんと槍を。

 

「まだまだ……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE  3/3→ Interruption

 

 

 

 

 

 

 

 

「───砲手、支援を

 

 

 

 

 

 

 

轟音。

ランサー目掛けて飛び込むは118mmの榴弾砲。

その数、実に3発。

トリニティでの蛮行を咎める一撃である。

 

「ぬぅぅぅ……ッ!!」

 

ランサーがその身に盾を構えて爆発を防ぐが、それでも手酷い痛手を与えてみせる。

神秘を有し、神秘を成立させる現代兵器。

汎人類史とは異なる進化を辿ったこのキヴォトスで成立した、有り得ざる技術。

そしてそれを振るうのはトリニティ砲兵隊、否、それを率いる彼女だからこそ。

L118牽引式榴弾砲より放たれた福音は、トリニティへの蛮行を許しはしない。

 

「時間切れ、ですか……残念です」

 

爆風とアスファルトだった物を粉塵が漸く落ち着きを見せた時、ヒールの音は鳴り響く。

 

「この場所で」

 

彼女が来たのは必然であった。

あの列車事件から一体どれだけ『準備』し続けたか。

あの事件があった晩に、事後処理へと駆けつけた『シャーレの先生』と極秘裏に協力関係を結び、各分派へ越権行為なのも厭わずに指揮を出し続けこの地を守護し続けた桐藤ナギサが来るのは突然なのだ。

 

「このトリニティで」

 

そうして今この場を支配する。その瞳には冷徹な光を湛え。亜麻色の髪を靡かせ、沈みゆく夕陽よりもなお力強く存在を世界へと刻みつける。

 

フィリウス分派が君主にして、このトリニティ自治区の三人の盟主が一人。

トリニティ総合学園ティーパーティ主宰生徒会長『桐藤ナギサ』は。

 

 

 

 

 

 

───私の大切なひと(ヒフミさん)に何をしているんですか?

 

 

 

 

 

友の心を傷つけた者達への裁きを伝えに、そして純白の羽根を広げてその背にいるヒフミを守るようにして。

毅然と言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発を盾で受け、その勢いを殺しながら隣へと降り立ったランサーの姿をちらりと確認してからマリーはナギサへと静かに言葉を放った。、

 

「……貴女直々に出向いて下さるとは思いませんでした」

 

 驚いているのだろうか、その表情は変わらずだが、その声には僅かな焦りがあった。

それを気にした様子もなく、同じように、否。

より鋭利に唇に弧を描いてナギサは、言葉にしていないマリーの思惑を咎める。

 

「逃すとでも?迷子の伊落マリーさん」

 

「……さすがです、ナギサ様。もう退部申請書の件についてもご存知とは」

 

 退部、そして迷子。

マリーの言葉から、つまりはそう言う事なのだろうと、突然の音と衝撃に惚けた頭でヒフミはぼんやりと考えた。

今ナギサと対峙している伊落マリーは最早シスターフッドの所属ではない、と。

そしてナギサもまたマリーの言葉に反応する。

心の底から嗤うように、微笑んで。

 

「シスターフッドの情報網と隠蔽には舌を巻かれますが、いつまでも我々ティーパーティと正義実現委員会が後塵を拝んでいると思っていらしたのなら……貴女の古巣もどうやら知れたほどですね」

 

 この時初めて、ヒフミの目にマリーの笑顔以外が映る。

血を一滴を余さず抜いたような白い無表情と怒りとも悔しさとも悲痛ともが相混ぜになった瞳の色を、ヒフミは見た。

 

「ッ!……行きましょう、ランサー」

 

「御意に、マスター」

 

 ナギサへの返事はない。

それだけ言って彼女達は姿を消した。

未だ火薬の臭いが立ち込める駐車場で、夕陽を浴びる純白の彼女はその姿を静かに見守り、暫くしてヒフミ達へと向き直る。

 

 

 

「我々には時間が必要です」

 

 

 

こつりとヒールを鳴らしてヒフミへと近づく。

決して声だって大きいわけではない。

だがその声に秘められた重さは、あまりにも大きく力強い。

 

 

 

「説明と釈明を」

 

 

 

元よりナギサの愛は大きく、広い。

自校の顔も知らぬ生徒を、まだ見ぬ未来のトリニティ生の為に、そしてたった一人の幼馴染を守る為にかつて彼女は全てを捨てて戦いに挑むほどだった。

その愛が今、真っ直ぐにただ一人へ向けられる。

いつの間にかへたり込んでいたヒフミを見下ろしながらこのトリニティの地における為政者は告げる。

 

 

 

「では、少しお時間を頂きますが、構いませんね?」

 

 

 

強く、されど優雅に。

虚偽も拒否も許さぬとそう告げられた言葉へ。

ヒフミとアズサは頷く他なかった。

 





1じゃんね☆
というわけで当時『トリニティで騒ぎ起こしたら来るんじゃ?』という意見とダイスの判定結果で3ターンある戦闘の2ターン目で乱入してきたナギちゃんがダイナミックエントリーじゃんね☆
次回はナギちゃんとのお話じゃんね☆

それから本スレでも(多分)してないこぼれ話しとくじゃんね☆
マリーちゃんは最初からマスターにする気だったけど、ランサーは元々今のレオニダス一世にするつもりなかったじゃんね☆
結構迷って、えいやっ!って感じで今の彼になったじゃんね☆
その前の候補は三騎。
自然派な子とほっぺが可愛い子と1が大好きな物語の子達だったじゃんね☆
自然派な子で開幕宝具で更地にしたり、ほっぺが可愛い子とセイバーの掛け合いしたり、1が大好きな物語の子達とマリーちゃんが穏やかに話す聖杯戦争もやってみたかった……けどセイバー召喚でプロット崩壊した関係で今のレオニダス王になったじゃんね☆そこら辺、色々調整があったじゃんね☆
そういうの一切関係ない趣味枠はバーサーカー陣営だけじゃんね☆
そのせいで1がミノリちゃんのエミュと役回りに頭抱える事になるはまた別の話じゃんね☆ミーカミカミカミカミカ


……セイバーとヒフミちゃん、アズサちゃんだけしか戦闘してない?
この場にいる筈の生徒が二人足りない?
……二人は戦車の中、じゃんね☆
何があったかはまた次回、じゃんね☆

ヒントは以下の4つじゃんね☆
①浦和ハナコは伊落マリーの友人である
②浦和ハナコはブルーアーカイブ原作で頭がいいという設定がある
③本スレではTUFダイスロールが設定されていて、アイデアロールに成功した場合、浦和ハナコは真実に気づいてしまう
④本作には登場時点から阿慈谷ヒフミに対して嘘をついていた人間がいる

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。