おや、もうお姫様はお休みかい?
……いいじゃないか、君も彼女も。
そして私もまだ学生なんだ。
たまの夜更かしも、少し羽目を外した夜の散歩も。
そしてこうやって目を真っ赤にした友を揶揄うのだって許してくれる筈だろう?
……ふふっ。
いやいや、笑ってないさ、笑ってないとも。
どんな腑抜けた面をしてるかと思えば、しゃんとしてるじゃないか。
これなら私一人で、なんて申し出る必要はないかな。
……そうだね、ここからは我々の仕事だ。
この柔い細腕でどこまでやれるか心配だが、少しばかりとて爪痕を立ててやろう。
───さぁ、時間だ。
アズサから返ってきたモモトークに情報ありがとうと気をつけてのメッセージを残して息を吐く。
───同じ学校の生徒、それもお茶会をしようなんて約束してた相手がマスターだった。
ヒフミの気持ちを考えると、胸が張り裂けそうになる。
私だって、もしミドリやユズやアリスがマスターでいきなり戦わなきゃいけないなんてなったら。
しかもお茶会に誘われてソレだ。
相手の子は勝ちたいからそうしたのか、それとも。
「(まったく別の、それこそ理由っていうか
少なくとも私はまだ良い。
多分恵まれている部類だし、手厚いバックアップだってある。
そしてこれはヒフミにも言える事だけど、私達が喚んだサーヴァントだって良い奴だ。
だからそう、私はこの聖杯戦争のマスターの中だったら恵まれている。
だから思うんだ。
「(あったのかな。私にも、そういう
たとえばどうにもならない状況。
たとえばどうしようもない実情。
たとえばどう足掻いても絶望しかない現実。
それを直視してしまって、戦って他のマスターを倒すって選択肢しかなくなって。
───その果てにヒフミと戦うっていう
……嫌だなぁ。
やめやめ。
やめよ、考えるの。
わからない事悩んでたって、進まない、進めない。
それよりも。
「お姉ちゃん、お夕飯買ってきたよ」
「ぱんぱかぱーん!アリス達は無事にお使いクエストから帰還しました!」
この子達と自分ができる事、やれる事を一個ずつ片付けないとだ。
「ありがとぉ!やっぱエンジェル24といえばホットスナックだよねぇ」
「私はAチキ、好きだなぁ」
まっ!とにかくはまずは買い込んだお夕飯を持ってちゃっちゃとセミナーに行くとしよう。
きっとユウカがお腹を空かして待っている。
うちの台所役*1がいないから出来合いのホットスナックだけど。
「じゃじゃーん!アリスはジャイアントビッグポークフランクフルトです!」
「からあげチャンのチーズ味かなぁ……あとアリスちゃん、それ多分コハルちゃんの前で言わないであげてね*2」
きっとみんなで食べれば美味しい筈だから。
料理ゲームの開発*3以来、かなり家庭料理とかマスターしてるユウカだけど、こういう差し入れも喜んでくれる筈。
口うるさくてもなんだかんだ優しい姉のようなあの人のそういうところが、私は好きだ。
ちょっと太ももがデカいけど。*4
「私Aチキ!!!!!!!」
『(モモイよ、はしたないぞ。夜、それも室内でそのような大きな声を出すでない)』
『(Aチキください)』
『(こやつ直接念話で……!)』
何はともあれ、今はユウカの元に行こう。
今からヒフミ達のところに向かったって時間はもう遅い。
こんな時間に別自治区に移動なんてしたら他のマスターに見つかったりして、また戦闘しなきゃいけなくなる。
「お姉ちゃんー!置いてくよー!」
「み、ミドリ……ま、待って、私のコートに、尻尾……ぁ、ちょっと……待って、引っ掛っ……ぁ、ちょっ、力、つよっ……!」
それにミドリ達だっているから置いていく訳にいかない。
だから今はトリニティには行けない。
このミレニアムでヒフミ達が帰ってくるのを待つターンだ。
「いまいくー!」
この場所で、私の大好きなミレニアムで。
私にできる事をしっかりやり切る。
そうやって一つ、ひとつ。
「……行きましょう?モモイ」
「……はぁ、そうだね。うん、行こっか」
歩くようにゆっくりと、勝ち残る為に。
───私達の願いを叶える準備をしよう。
「ユウカー!お夕飯買ってきたよー!!」
勝手知ったるセミナールームに入れば見慣れた顔は、一人しかいなかった。
「いらっしゃい、四人と……」
「うむ、霊体化を解き忘れていた。ユウカよ、失礼した」
「キャスターさんもですね、お待ちしてました」
ユウカが指先を動かしてホログラムモデルのパーテーションを起動させ、簡易的な応接間を用意してくれる。
いいなぁっ!あれ!うちの部室にも欲しい!
『(無理だ)』
『(無理かぁ)』
『(……いや厳密には無理ではない)』
『(おっ!マジで!?)』
『(……ただそうだな。恐らく我が作った場合は部室が常時湿度90%程度になるだろう)』
『(じゃあダメじゃん)』
また部室にキノコが生えかねない事態はごめん被りたい。
勿論食べれるやつなら大歓迎だし、多少の毒キノコなんかじゃ屁でもないけど、中々美味しいやつは生えてくれないのは経験則で知ってるからやっぱりダメだ。
何より常時湿度90%じゃ、ゲーム機壊れちゃうしね。
「悪いわね、差し入れまで用意してもらって」
「いいよいいよ……こっちこそありがとう、ユウカ」
「さぁ?何だったかしら?」
「んー、何だっかな?」
少しだけ照れてるユウカをもう少しからかってみたいし、まだまだお礼を。
本当はたっくさん言いたいけど今は我慢だ。
言うなら最後にまとめてドカンと気持ちよく!
全部きっちり終わらせて、この聖杯戦争なんてぶっ飛ばしてもらってからの方がいいに決まってるから。
にしても先生関係以外で照れるユウカなんて珍しい物見れて今日はラッキーだね!
「とりあえず、貴女達は食事しながらでいいからこちらで分かった情報と物資の話をしちゃいましょうか」
そう言われたら私たちも我慢する必要はないわけで。
ミドリはカップ麺にからあげチャン*5にパックのモモウォーター。
アリスは意外、なこともなくわんぱくな感じでハンバーグ弁当にコーラ。
私は女子力向上も兼ねてここ数日持ち歩き始めた水筒に入ってるお茶と、アリスが買ってきてくれたでっかい桃ゼリーを食べつつユウカが話を切り出すのを待つ。
……あれ?
「ちょっとなにさ、ユウカ?顔なんかついてる?」
「……ケセド戦の報告も、それから
「あーね……耳が早いじゃん。アズサから?」
「えぇ。アズサさんから連絡を貰ったわ……私だって伊落さん、とは知らない仲ってわけじゃない。けど、トリニティのあの子達にとっては……」
そう言って下唇を噛んでいるユウカに、胸がどきっとする。
そんな風に心配した顔をされると、やっぱりなんだか私まで悲しくなる。
だってそうだ。
そんな顔をさせたくて、私もヒフミも戦う事を選んだんじゃないから。
「だいじょーぶ!ケセドだってヒフミ達がボコボコにしたし!ね、アリス!」
「はいっ!アリス達は負けずに帰還しました!次も、これからもモモイの言う通り大丈夫ですっ!」
二人でにっと笑ってVサインだ。
ユウカにそんな顔してほしくない、だから誤魔化すみたいで嫌だけど、強がって見せる。
それにほら、その方が勇者っぽいしね!
「……トリニティでの話だって、大丈夫。だってあそこにはヒフミがいるんだから。ちゃんと帰ってくるってヒフミが約束したんだから……だから大丈夫だよ、ユウカ」
「……そうね、ちゃんと帰ってきてくれたんだもの」
なら小難しい顔してても仕方ないとユウカは切り替えるように、最近やけに肌艶の良い頬をぴしゃっと叩いてる。
「そうだよ、ユウカ。考えすぎて小皺増えるよ」
「なんですってミドリぃ!」
「ちょ、ちょっと!私、今カップ麺食べてるんだから!」
机から身を乗り出すユウカにカップ麺持ったまま避けるミドリとその汁が跳ねてあわあわしてるユズ。
うぅん、しまらないね!というわけでキャスター!
『(うむ……請け負おう)』
『(よっろしくー!)』
「して、ユウカよ。その情報というのは?」
頼んで正解だね!キャスターが軌道修正してくれて、咳払いしつつユウカは話を始めてくれた。
ところで、アリス?汁のかかったユズの肌舐めようとするのはやめなって!
誰にそんなの習ったの!?*9
「はい、それじゃあまずは───箭吹シュロ」
その名前に、ピリッとした空気が流れる。
私達はまだ直接対峙したことはない。
だけどヒフミ達の話から少なくとも碌な相手でもなければ、油断していい相手じゃないのも分かっている。
「彼女についての情報だけど、データベースから確認して百鬼夜行連合学園の陰陽部に問い合わせてみたけど、詳細は分からなかった」
「如何にも怪しいって感じだったからそんな気もしてたけど……やっぱり、そう簡単にはわかんないね」
「訳知り顔なポジションだからね。ユズちゃんの言う通り、簡単には尻尾を掴ませてくれないか……」
そう、箭吹シュロとかいう子は訳知り顔でこの聖杯戦争を俯瞰している。
マスターでもなんでもないのにだ。
きっと、私よりもずっと聖杯戦争についての詳しい事情なんかも知っているんだろう。
本当だったら今すぐとっ捕まえて色々聞きたいところだけど、そうもいかない。
「とりあえずうちにも、あちらでも足取りは追えないっていうのが現状ね」
一応手配書は保安部に回したけどというユウカの言葉に出会った事のないシュロという子の顔を想像で思い浮かべる。
とりあえず今すぐ捕まえるのは無理でも、どうやら指名手配こそされてないけど今後ミレニアムで職質されたら一発で詰所行きみたい。
ごしゅうしょーさまだ。
「トキについては……ヴェリタスであった話を聞いてる」
「結果から言うと、エリドゥに関してはこちら側からのアクセスは
「そしてその事実から、トキには恐らくヒマリ先輩*10*11が協力しているっていうのがセミナーとしての結論よ」
なるほど、やっぱりそっちかぁ。
でもヒマリ先輩が協力してるとなると、ちょっとキッツイなぁ。
あの人めちゃくちゃ頭いいし。
何より、ヒマリ先輩はミレニアム気質らしくちょっと*12悪戯っぽいけど基本的には正義サイドな人だ。
そういう人が、味方している。
身内贔屓、とかならまだいいけれど
「次にアルについてだけど……」
うんうん頷きつつトキとヒマリ先輩について悩んでる私だったけれど、ユウカはあまり気にした様子はなき。
というかそれよりも
「モモイ、
チヒロ先輩と同じように忠告されてしまった。
『───モモイ。ソレは駄目』
『ソレは下手につつけば外交問題になるの』
『だからそれを調べるなら、私じゃなくて自分達の端末とかで表側の部分だけ調べて我慢するか』
『問題にならない相手に頼みなさい』
さっきお願いした時に、すごく真面目な顔をしてそう言っていたチヒロ先輩の言葉を思い出す。
ちょっと気になって調べようと思った単語だったけれど、どうやら上級生達かそれとも。
「(ユウカも言うって事は、行政に携わる生徒にとって、かな?)」
そのワードはあんまり触れてほしくない……っていうのは今のユウカの反応で確信が持てた。
なら今はここでああだこうだゴネても仕方ないだろう。
だから私がするべき返事は。
「んー、分かった。ならアルについては」
「ええ、こっちで調べられる分はちゃんと伝えるから。早くて明日には色々と、ね」
「おっけー!じゃあよろしくね!」
どうやらこの対応で正しかったらしい。
もう少し、せめて簡単にでも知りたかったけど、今回は諦めよう。
「今はこんなところかしらね。レッドウィンターのの工務部とは接触したんでしょ?」
「顔合わせただけですけどね」
「アポイントまで漕ぎ着けれる段階なら上出来よ、場所が気になるならうちの部屋も貸すから自由に使いなさい」
「えっ!?ユウカの自室を!?」
「ばか、セミナーに決まってるでしょ」
レッドウィンターのミノリ先輩についてもどうやら調べてくれているようだ。
なんでも数日前に起こった、生徒会に向かってデモ行進の最中に何故か生徒会で軍事クーデターが起きたらしくて、それを何故かデモ隊とバーサーカーを率いたミノリ先輩が鎮圧した結果、バーサーカーの銅像が建った……なんて話もあるらしい。
どういうこっちゃ?
「それじゃあ物資の話、しましょうか」
「うおぉぉっ!待ってました!」
「うるさ」
「ゆ、ユウカ先輩……あの、お金とかは?」
「大丈夫よ、ユズ。今回は色々提供あったりしてるから、気にしなくていいから」
そう言いつつ、でけぇ太もも*13の横に置いてたA4用紙を私達に渡してくれる。
なんか皺が寄ってる*14けど、多分突っ込むと私の顔があの万力に挟まれるから黙っておこう。
「その中のリストから欲しい物をそうね……2個までなら明日の朝には貴女達の拠点に用意できるわ」
「7個全部ってなると発注先が違ったりして遅くなるから……ごめんなさい」
「それじゃあよく読んで、必要な物、私に教えて」
ユウカから渡されたリスト。
その中で私が選んだのは───。
「欲しい物資はハレのドローンと……分かってたけどゲーム機ね」
これ見よがしにユウカがため息をつくけど、そりゃ仕方ない。
だって私達。
「げーむ、開発部……ですから」
「流石にアバンギャルド君とかも気になったけどね、ユズちゃんのMk.Ⅲは……」
「無理させすぎてオーバーホールしてから、パーツバラバラで保管されてるしね……」
確かにアバンギャルド君も気になるし、なんかやたら名前の長いのもあるし……そういえばあの発煙弾のパッケージ、似たようなのをヒフミも持ってるな。
……ま、いっか!
とにかくまだ未発売のゲームガールアドバンスの復刻版!
多分サンプル品なんだろうけど、しっかり遊び倒さなきゃ!
「ユウカ、ハレのドローンは『アテナ3号』とは違うんですか?」
「私もハレからしっかりとは聞いてないけど、アテナ3号の姉妹機らしい……からそれ以上はまたハレとかに聞いてみて」
「えぇ……!ユウカが選んだ物資じゃん!」
どうやらユウカもよく分かっていないらしい。
まあ
ついからかいたくなって。
「私は選んでないわよ」
ユウカは微笑んでそう言い切った。
「このリストに載っている物品は全部、この学園の生徒達が提供できるって用意してる物」
「後でお礼言っときなさいよ。……みんな」
「貴女達の為なら、困ってる後輩の、友達の為なら、……仲間の為ならって好き勝手用意し始めたんだから」
まぁ買い取らなきゃいけないのもあるから、その分予算は増やさなきゃなんだけどね、なんてそう言って優しげに微笑んでユウカはリストを撫でる。
言わなくても分かってしまう。
きっとここに載っているのはユウカが色んな部活に頭を下げて回ってくれて、それに色んな人達が応えてくれた結果なんだって。
じんと、胸が熱くなった。
その嬉しいような恥ずかしいような気持ちを隠すように、私はグーサインだ。
「もっちろん!後で全部終わったらしっかりお礼言うから!」
「そっ。なら、ちゃんと怪我せず、毎日顔を見せに来て、それからやり抜くこと……いいわね?」
その言葉への返事はたった二文字で十分。
私達四人は声を合わせて、笑顔で応えた。
ちょっとだけ、檜の大きなお風呂に入ってみたかったのは私一人だけの内緒だ。
「お話終わりましたか、ユウカちゃん?」
「……ノア」
「ふふっ、また随分な頼まれごとされましたね」
「いつもの事よ、あとコユキ。準備は出来てる?トイレはちゃんと済ませた?」
「もうっ!そんな子ども扱いしないでくださいよぉ!」
「ふふっ、コユキちゃんったら」
「はいはい、貴女がもう少ししっかりしたら聞かないようにするから」
「それじゃあ───行きましょうか」
「急な呼び掛けにも関わらず、お集まり頂きありがとうございます」
ミレニアムサイエンススクール『セミナー』。
会計、早瀬ユウカ。
書記、生塩ノア。
補佐、黒崎コユキ。
同校、『Cleaning&Clearing』。
部長、美甘ネル。
計四名出席。
『問題ありません、我々としても早急にお話したかった案件ですから……彼女達はまだ?』
トリニティ総合学園『ティーパーティ』。
主宰生徒会長、百合園セイア。
助宰生徒会長、桐藤ナギサ。
同校、『正義実現委員会』。
委員長、剣先ツルギ。
計三名出席。
「いえ、きっともうそろそろ……通信の接続を確認しました。来られたようです」
『うへぇ、皆さんお揃いだ。遅くなってごめんね』
『すみません、巡回パトロールチームとの引き継ぎで遅くなってしまいましたっ』
アビドス高等学校『アビドス廃校対策委員会』。
委員長、小鳥遊ホシノ。
書記、奥空アヤネ。
計二名出席。
「それでは改めて、始めましょうか」
「トリニティ・ミレニアム、そしてアビドスの三校での」
───聖杯戦争非常対策会議を。
1じゃんね☆
というわけで次回は3校首脳陣と最高戦力交えたぷち会議じゃんね☆
不在のメンバー?
色々やってるじゃんね☆
本作の内容は
-
①Part6スレまで読んでる
-
②あにまんの過去ログまで読んでる
-
③ハーメルン版のみ読んでる