阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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ᓀ‸ᓂ「入院中で暇だな」
ᓀ‸ᓂ「ヒフミから連絡が来た」
ᓀ‸ᓂ「明日は私の退院祝いをしてくれるらしい」
ᓀ‸ᓂ「……たのしみだ」

そうか

ᓀ‸ᓂ「そうだ」

楽しんでこい

ᓀ‸ᓂ「……ありがとう、サオリ


初戦

 

「(ん……)」

 

 冷えた寝室で目を覚ます。

少女は覚め切らない頭で何も考えないまま、もぞりと布団の中で身体を動かす。

 

「(あー……そうでしたね……)」

 

暫く惚けてから、ここが自宅のベッドではなく合宿所であったと認識してから、少女は小さな欠伸を漏らした。

まだ身体から寝起き特有のそれなのか、若干の気怠さを感じている自分をどこか醒めた場所から見つめて理解し、そんな身体が訴える要求に少女が気づくのはそう時間はかからなかった。

 隣から聞こえる二つ分の寝息を確認してから、己に掛けてある薄いブランケットを剥ぐ。

時計を見れば、時間設定しておいた冷房が消えてからだいぶ経つというのに、冷え切っている。

寝ている分には快適だが、少しばかり乾燥しているし、起きる以上は肌寒い。

だからハンガーに掛けてある薄手のカーディガンを音もなく手に取って。

ヒフミは寝室を出た。

 

「(喉、渇いちゃいました……)」

 

 湿布の固定用に巻いてある右手の包帯を無意識にさすりつつ歩く。

随分と大仰に巻かれているが、大振りな痣が手の甲に出来ているらしい。

処置を終えてから今まで痛みを感じた事は、怪我をしたと思われるあの線路の上でだけだった事もあり、ヒフミには大袈裟にも思えてしまっていた。

とはいえ、処置をしたのは救護騎士団*1団長その人の手である。

その事実に、この包帯で巻かれているのも過不足ない処置の結果なのだとヒフミは納得していた。

 

「(あ、そうだ……)」

 

 一度冷えた寝室を出て廊下を歩き出すと、その俄かに残る昼の名残りを感じてか、ヒフミの喉は俄然渇きを訴える。

寝ている二人を起こさないように物音を立てず廊下を歩き、キッチンへ。

寝る前の自分がきちんと洗い物を済ませた事実を、その流し台を見て確認する。

自分がやった事ではあるが、朝起きてまた面倒な後片付けから一日を始めなくて済む事に、ほんの少しだけ得した気分を少女は一頻り味わい。

 そして『二人分』のペットボトル飲料*2を取り出して、()の元へと歩いていく。

 

「(せいばーさん、いるかな……?)」

 

玄関を出て辺りを見渡すと、彼の姿は見られなかった。

だが不意に自分の頭上より何かが動く気配を感じる。

その気配は、ヒフミへと挨拶を贈った。

 

「こんばんは、ヒフミ」

 

「はい、こんばんは。せいばーさん」

 

眠気眼なまま、屋根の上から飛び降りたセイバーへとヒフミは挨拶を返す。

華麗な身の熟しで着地する彼へと何の疑問*3も抱かず、ヒフミは手に持っていたペットボトルを彼へと手渡す。

 

「眠れないのかい?」

 

ありがとう、そう言いつつ受け取りながらセイバーは静かに尋ねた。

 

「あはは……なんだか喉が渇いちゃって……」

 

そう答えて二人してキャップを回す。

硬く削れる無機質な音が、静かな森の中で微かに響く。

会話は途切れる。

僅かな水音が、彼女達しかいない世界を支配している。

 

「……よかったら、しばらく一緒にいてもいいですか?」

 

 ぽつりと、ヒフミが呟いたのは仕方ない事だろう。

起きて、歩いて、水を飲んで。

少しずつ眠気眼にも理知的な光が宿り、脳は覚醒を知らせていく。

だから少女が呟くのは仕方ないのだろう。

一人の夜に小さな不安を覚えてしまうのだから。

 

「勿論だとも。僕でよければ是非、御相伴に預かろう」

 

男は続けて笑う。

君のような美姫と過ごせるのだから、なんてことを照れもせずさらりと言ってのけてみせる。

セイバーはそういう男で。

 

「あはは……恥ずかしいですよー」

 

若干頬を赤らめつつもその賛辞を軽く受け取る娘もまた、そういうものであった。

甘い何かがあるわけでもない、どちらかといえば少し歳の離れた兄妹のような。

そんな雰囲気が二人の間にあった。

 暫し無言で、喉を潤す。

その静けさを、破ったのはセイバーだった。

 

 

 

「───ねぇヒフミ……この世界は、美しいね」

 

「ほんと……ですか?」

 

「ああ、本当だとも。召喚されてまだ2日ほどではあるけれど……僕はこの世界に、君に召喚されて良かったと───そう思うよ」

 

 自分の住む世界を、そして自分に呼ばれた事を急に肯定され、思わずヒフミは聞き返す。

ヒフミは普段の大人しい姿とその時折見せる突拍子のない行動とのギャップこそあれど、だからといって他者の心に寄り添えない人間ではない。

バスジャックするだけしておいて、その片棒を担がせた事を気にしていないなんて事はないのだ。

それでも必要なら彼女は再びするだろうが、それはそれとして、彼を引っ張り回して報道デビュー*4させてしまった事に、キヴォトスという割と荒々しい土地にあっても罪悪感がないわけではなかった。

そんな彼女の心を透かしてみせるように、ただ微笑んで。

 

 雲が薄くたなびく夜空。

微か遠くに見える星の光と、地上の輝き。

夜風に葉を震わせ歌う木々。

それらを見つめながらセイバーは言う。

 

「美しい世界さ。この場所も、そして君たちもまた」

 

「……それなら、よかったです。私も、セイバーさんが()()()()()よかったです」

 

美しいと語るセイバーの言葉が、単純な容姿の話ではない事ぐらいヒフミには理解していた。

自分たちのやり取りが歩みが、そしてそれを受け入れてくれるこの世界が。

美しいのだと彼は語ってくれている事実に、ヒフミの胸に温かさが満ちた。

 

「叶うなら、彼女にも見せてあげたかったと……そう思うほどに」

 

 決して大きな声ではない。

遠くに見えた星へ届かぬ声を贈る。

そんな言葉で、そこにあるのは甘く切ない、僅かな郷愁だけ。

叶わないと、分かりきっている。

それでも星に手を伸ばした、セイバーの言葉はそんな幼い子どもの想いに似ているとヒフミは感じる。

 

「セイバーさんの、大切な方ですか?」

 

ヒフミは思わず、でも()()()()にそう聞いた。

この男と少女が過ごした時間はまだたったの一日が経ったところ。

その信頼の積み重ね*5もまだ足りない。

それでも、今この場でセイバーがふいに告げた胸のうちは、この()()にとって触れられてもきっと大丈夫な物の筈という信用と勘がヒフミにはあった。

 

「うん、僕の───そうだね、紛れもなく大切な朋であり、友人であり、そして……」

 

そしてセイバーもまた、躊躇わず答える。

幼き日の思い出を、若き日の宝物。

苦心してなお誇りであると真実、疑わずに。

ただただ隣にいる少女にこっそりと、自慢するかのように。

優しく告げるその言葉の先。

二人だけ、星空が見守る中での秘密。

それは───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歓談中、失礼 ─── セイバーと見受けるが、如何に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()を携えた偉丈夫によって遮られた。

 

 

 

***

 

 

 ───熱波。

 

 ヒフミの脳裏に過ったのはそれだった。

黄金の兜、真紅の戦装束。

磨き上げらた盾と槍を携える凝縮された筋肉。

だがそれ以上に、ヒフミの全身に乗し掛かったのは熱き熱風。

ヒフミは知る由もないが所謂は魔力放出、などのサーヴァントが有するスキルでもない。

何らかの魔術ですらない。

ただ其処に『有る』。

それだけで、吹き荒れるような他者を圧倒する純然たる存在感。

その剥き出しに躍動する存在感こそがヒフミが感じる重圧であり。

目の前にいるのが。

 

 あの酷く寒々しい冷気を思わせる妖艶な女傑とも清涼な薫風を纏うセイバーともまた違う焔の如き益荒男、即ちサーヴァントであると証左に他ならなかった。

 

「ヒフミ、()()()()

 

圧倒されていたヒフミへ端的に告げられた言葉。

それにすべての思考を放棄し、爆ぜるよう、ヒフミは応える。

 

「はいっ!よろしくお願いします!セイバーさん!」

 

 即座の後退。

サーヴァント戦である。

寝起きで銃を持っていないヒフミではどうしても足手纏いになってしまう。

故に、即座に任せる判断と同時に言葉と身体は放たれていた。

 

その様子を、使い込まれた証である小さな傷を残す兜の覗き穴よりじっと、彼らの前にいるサーヴァントは見つめている。

まるでそれは見守るようでいて、微動だにしない。

 

「待たせてしまったかな?()()()()

 

「いいえ、構いませんとも───随分と動けるマスターだ、善い縁を結ばれましたな()()()()

 

 

()()()()もない。

ただお互いが構えを取りながら。

静かに言葉を交わす。

 

「ありがとう。そういう君のマスターはどうだい?」

 

「無論のこと。この地の娘子達は、我が祖国の者にも劣らない」

 

溢れる言葉と溢れる熱気。

穏やかな語らいにしか見えないその先で、仄暗く灯る闘気。

敵を殺すという意思。

狂気じみたそれを押し殺す静かな声は、二つ重なって夜の帳に響く。

 

「全くだ。まだほんの数人だか、良き人々と感じるよ。仮に()()()()であれば召し抱えたい、なんて思わないかい?」

 

「はて、貴殿のような異国の()()であれば女性に優しく……そう在るべきでは?」

 

その様子を、()()()()()()()()()()を胸元に掻き抱きながら、ヒフミは見守る他ない。

 

「やれやれ、これは一本取られたかな」

 

「ははは、それはそれは───して、」

 

そう言い切って、途端。

ランサーの立つ場所に熱が灯る。

燃えたつ熱気でアスファルトがぐずりと熔けていく。

溢れるコールタールの泥は悲鳴をあげて、黒い涙を広げていく。

ランサーがいるその場所、その空間が歪に霞む。

蜃気楼。

ランサーの滾る闘志は、噴煙の如く立ち昇る。

 

「腹の探り合いはこの程度にしましょう……あまり()()()なぞに若い娘を付き合わせては、忍びないですから。それに」

 

 

 

───我らの()()()はこちらで十分でしょう?

 

 

 

槍を掲げる。

それは決して決闘の構えなどではない。

それはそう、意志の表明。

即ち、

 

「なるほど、道理だ。ならば此処からは───剣で語らうとしようか」

 

 開戦の合図である。

 

 

***

 

 

 剣での語らい、その始まりは。

 

「それではまず───」

「この1手からッ!」

 

セイバーの踏み込みからであった。

 

 豪剣、一閃。

風を巻きつけるように、周囲を抉るように裂きながらの吶喊。

セイバーが手にする剣は未だ風王結界(インビジブル・エア)によって秘匿され、その長さも幅も知れない。

その恐ろしさは戦闘を嗜む者なら言わずとも分かるだろう。

 ()()()()()()

それは近距離戦闘だけの概念に留まらない。

銃や弓矢で言うならば有効射程距離。

では何が有効なのか。

言うまでもない、相手を殺せるかどうか、ただそれだけだ。

間合いを測るとは、戦いの基本。

近接戦闘においては相手に触れ、傷つけ、死に至らしめる距離を互いが測り、その距離を取り合う。

だが今それは消失している。

他ならぬ、セイバーの手によって。

その有利な状況と自らの『耐久』を加味し、カウンターを考慮もしない飛び込み一閃。

どこまで弾くべきか、どこまで距離を維持するかの取捨選択を無理強いする一手。

 その選択を迫られたランサーの返答は。

 

「なんのォッ!!」

 

純然たる防御姿勢。

 ランサーの返し手、それは盾を大きく構えた物。

受け止め、受け流し、返す槍で穿つ。

ただそれだけ。

酷く単純な手段。

半身となって盾を前面に構え、自前の筋力、その剛力をもってセイバーを止める宣言の現れであった。

 

「はァッ!!」

 

「ほう───ルァッ!」

 

轟音。

鉄と鉄。

疾風と熱波の衝突は剣と盾という形で現出し、地面に亀裂と重い空気の伝播を齎す。

数瞬、力が拮抗し───

 

 

「憤……ッ!!」

 

「ぬぅああぁオォォォッッ!!!」

 

セイバーの豪剣が盾を押し返し、そのままその衝撃をランサーへとぶつける。

後退。

ランサーのその地面を踏み締めた両脚がアスファルトを割り砕き、轍を作りながら距離を離していく。

盾で防いでなお。

それほどの衝撃、それほどの威力。

恐るべきはセイバーの膂力か、それともそれを耐え切ったランサーの五体か。

仮にその武器が鈍器であれば、只人であれば内臓ごと文字通り爆発させられる。

それほどの一撃が放たれた。

ランサーは確かに、それを見事に盾で防いで見せた。

 だが、

 

「……ぐぅゥッ!」

「……」

 

膝こそつかないランサーだが勢いは殺せなかった。

暴力的な衝撃をその身に受けて、全身が僅かに軋み肺が握り込まれたように呼吸が浅くなる。

間合いがまた開き、姿勢は崩れた。

 

 戦時の幸運

即ち、隙が生まれた。

それをセイバーの直感が感じ取り。

 疾った。

 

「さあ!行こうか……斬り伏せて、みせるともッ!!」

 

勝鬨一つ。

吼えて進むは蒼銀の騎士。

敵が見事に体勢を崩した幸運に言葉と共に駆け出して、その首を刎ねんと跳ぶ。

 なれど───

 

「これだ……ッ!!ここで攻めるッ!!」

 

侮るなかれ。

対するのもまた、歴史に名を刻んだ英雄。

ヒフミもセイバーも知らぬことではあれど、彼は()()にこそ輝く。

 

「どぅぅアアア───しッ!!」

 

焔の如きか、喝を入れて槍と盾で応戦。

体勢を整える為に距離を離すよう防戦を───否である。

そのまま、その場でだ。

その身のコンディションを建て直しつつ戦うという荒技をキヴォトスの地で魅せる。

一合、二合、重ね合い、火花を散らす。

剣を叩く、盾で逸らす。

首を裂かんとす、槍を合わせて臓腑を狙う。

互いが一撃必殺を望む剣戟の応酬、その速さは止まる事を知らない。

それもその筈だろう。

 

クイック・ドロウ、という早撃ち競技を皆様はご存知だろうか。

合図で互いに銃を抜き合い、どっちが先に相手を撃てるかを勝負するガンファイト。

今となっては正面を向き合って撃ち合うといった勝負は無くなった。

だが現在でもそれは形を変えて、根強い人気を有している。

そこから派生したスポーツ競技の一つがクイック・ドロウだ。

 

そしてその歴史の中には、あまりの速さに指先の速さは『音速』にまで到達した……という記録がある。

 

そう、フィクションではない。

小説でも漫画でも御伽話でもなく、キヴォトスに住まう新たな霊長とも違う。

ただのホモ・サピエンスが、その身に音速を宿したのだ。

 

ならば、道理なのだ。

人類史が誇る戦士達の頂き。

だれもが幼き頃に夢見て、憧憬を懐き、祈りを捧げる英雄。

その英雄に至るほどの武芸を有した彼らが振るうその剣は、槍は。

 

───とうの昔に、音を置き去りにした。

 

振るう、弾く。

喉笛を食い破らんとす、盾の縁で流される。

眼球を穿たんとす、身こなし一つで躱してみせる。

横薙ぎ、袈裟、唐竹、喉笛、籠手。

風纏う見えざる剣が周囲の空気を引き裂けば。

焔宿す燃ゆる盾と槍が火花を散らして押し返す。

 

最早、余人には触れる事すら叶わない剣戟。

 

その百を遥かに越えた応酬は、ついにセイバーへと軍配が上がる。

 

セイバーの背でそれを見守るヒフミにそれは、完全に把握できたわけではない。

或いは各学園の最高戦力、またはそれに準ずる実力者であれば同様の動きには見切る事なら容易だろう。

とはいえ、ヒフミの真価は直接戦闘ではない。

彼女の才は戦いの場で輝く物ではない。

 

だが、それでも。

 

 ここを好機と、そうヒフミは直感した。

心の中で友人の顔が過ぎる。

ここで攻めきるのだと、告げられた気がした。

故に。

 

「セイバーさん!───宝具を!」

 

その声に導かれ。

 

「ああ!決着をつけよう!」

 

セイバーの右手、そこを中心に嘶きが噴き上がる。

 

「風よ───吹き荒れろッ!!」

 

重低音と空気を裂く甲高い叫びが合わさり、セイバーの宝具『風王結界(インビジブル・エア)』は一時的にその姿を変える。

姿を隠す為の()()()()から、吹き荒ぶ颶風へ。

セイバーへと流れ込むは、潤沢な魔力。

マスターであるヒフミからの魔力供給は十全な形で達成され、彼の右手が掴む乱気流はついにその真価を発揮する。

 

 

 

風王(ストライク) ─── 鉄槌(エア)ッッ!!

 

 

 

 疾風の暴威。

鉄槌の名に偽りなし。

宝具『風王結界』の変則使用。

それは周囲の景色を捻じ曲げるほどの風に一時的に指向性を持たせるという技術。

そうして放たれた一撃は堅く閉じた老城を突き破る突風。

即ち、破城槌となる。

 

 だが───

 

「計算通りだッしゃおらァッッ!」

 

相対するランサーに驕りも油断もなかった。

セイバーもヒフミも、未だ知らない事実。

そう、彼こそは。

歴史上類を見ない驚くべき戦力差を覆してみせ、人類史に輝かしき戦歴を刻んだ防衛の妙手。

護ること、それにおいては数多いる英霊達の中でも五指に入るだろう事を。

故に。

 

「……なッ!?」

 

彼が最も信頼する己が耐久をもって、宝具という暴威へ立ち向かう。

その結果は、セイバーの驚愕を持って現実となる。

そう、その五体が構えた盾と風王鉄槌とか衝突したその先。

 

「ぬんッ!はッ!とぅあァッ!……ふッ!」

 

砕けたアスファルトと砂利が構成した粉塵が風に巻かれ煙となる中。

刀傷を僅かに残しつつ、宝具を受けてなお五体欠けることなく万全な姿の英雄があった。

 

 

***

 

 

月夜を背にして、双方睨み合いが暫し続く。

どれほどの時間か、見守るヒフミの脳裏に焦りが生まれる。

宝具を破られたという事実。

絶対の切り札なのだと告げられたそれを己の肉体のみで返してみせた、敵に対して。

自分はどうすれば()()できるかを頭の中で計算していく。

決して諦めず、緊張から肩で息をして、口内に溜まる唾を飲み込んで。

 

 そして。

からんと、軽やかな金属がヒフミの耳に届いた。

 

「ふむ……今宵は此処まで、ですかな?」

 

 脱力。

それは戦時に行われる全身の筋肉を緩め、得物を持つ手や拳にのみ力を籠めるそれとは違う。

完全な隙、戦闘行為の放棄を意味する態度に他ならない。

 

「夜遊びはもう良いのかい?ランサー」

 

 セイバーも警戒は忘れずとも目の前の強大な戦士に倣って力を抜く。

僅か数刻にも満たない時間だった。

だが彼はその短い時間の中で万の言葉にも勝る語らいを済ませたが故に。

 目の前の男が油断を誘っているなどとは、とても思えなかった。

 

「はははっ私としてはもう少し貴殿と語り合いたい……叶うなら()()()でも。ですが」

 

 兜で見えないその表情。

だがヒフミにはなんとなしにその先にある快活な笑顔が見えた気がした。

 

「我がマスターはいたく心配性でして……この身には少々擽ったいですが、彼女の気遣いを無碍には出来ませんので」

 

私には勿体ない御方だと、心底堪らぬと喜色の浮かんだ声で自慢するようにランサーは言う。

 

「───()()()()()?」

「はて、()()()()()()?……此方だけ歓待を受けて。ましてや屋敷の主人の顔まで覗いておきながら手土産もなしでは我が主人の顔に泥を塗ってしまいますからな」

 

 そう言ってランサーは踵を返す。

堂々と背を向けるも、セイバーは追う事はない。

騎士道に悖るのもある。

だが何より、目の前のこの気持ちの良い漢が魅せた背中を討つのは。

自分もヒフミも品位を下げると理解していた。

 

「では良い夜をセイバーとそのマスターよ……とぅわッ!!」

 

掛け声一つ、ランサーは夜の闇に消え。

ヒフミ達の本当の意味での初戦は、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ふむ……再三の呼び出しに応じない、かと思えばこれはまた奇妙な客人を招きましたね」

 

 深夜。

教会の扉は開かれた。

その扉の向こうにいたのは一人の少女。

その視線の先にいたのは、振り向かず声を掛けた大人。

 

「嗚呼、構いませんとも───そちらの方が七人目、という事で宜しいですかね?」

 

教会、否。

正しくはこう呼ぶべきだろうか。

───()()()()()()、その跡地と。

 

「これはこれは御丁寧に。嗚呼お構いなく、私はただの監督役ですから」

 

先のエデン条約の傷は癒えず、瓦礫が未だあちこちに残り、辛うじて屋根のある廃墟。

その聖堂に備え付けられた長椅子に脚を組んで座ったまま、大人は語り続ける。

 

「そうですね、私のことはそう───」

 

 

 

 

 

 

「黒服」

 

 

 

 

 

 

「そう、呼んで頂ければ幸いです。それではどうか宜しくお願いしますね、お嬢さん」

 

 大人、黒服は可笑しそうに嗤う。

この場に訪れた最初で最後の少女へと、まさかまさかと、嗤っている。

少女は自ずと気づくだろう。

その笑いは───嘲笑だと。

 

「さてさて、しかしこれはまた随分と……クククっ」

 

 立ち上がり、少女の方を見やる。

その異形故に表情は分かり辛い。

だがその瞳には怒りが、悦びが、狂気が、理性が。

そしてそこ口元は醜く吊り上がり歪む。

砕くように罅は入り、笑顔という形を作り出す。

 

「嗚呼いえ、貴女はご存知なくとも我々は知っているのですよ」

 

 瞬間、その場の空気の支配者は黒服ではなくなった。

───殺気。

あまりにも鋭いそれに、殺気の主人である筈の少女すら、瞬間呼吸を忘れるほどに。

 

()を知る我々は」

 

だがその殺気を気にした様子もなく黒服は講釈を続ける。

 

「その御仁が成し遂げた伝説、いえ───輝かしき()()を」

 

 にわかに殺気が強まる。

霊体化中、姿を現さない限りサーヴァントは物質や物理現象へ干渉する事が出来ない。

それだけは確かである。

 

「クックックッ……なるほど、()()()()は僅かにズレてはいるとは思いもしましたが……。貴女が歩んだ道のりを考えれば、勇壮な獅子こそが似合いの様子。ならば確かに貴女にその方は相応しいサーヴァントと言えるでしょうか」

 

だというのに、己が主人へ弓引くやもしれんと判断し、そうして真名にまで近づかんとする目の前の大人に対して放たれた七番目のサーヴァントを殺意という警告は。

聖堂内の空間を震わせているかのような錯覚すら少女に覚えさせた。

 

「嗚呼失礼を……そう殺気立てないで頂ければ有り難いです。()()()()()()でも私は貴方がオソロしいのですから」

 

どこが恐れているというのか。

黒服は変わった様子もない声でそう言い返す。

 

『(    、    )』

 

 念話があったのか、殺気が嘘のように霧散する。

それと同時に少女は教会に背を向けた。

黒服は僅かに目を細め、その背中に最後の言葉を届ける。

 

「おや、もうお帰りに?……ではにもし会う事があれば伝言を……そうですね、では」

 

 

 

「これ以上の介入を私と彼は認めない」

 

「もしこのキヴォトスが『破壊』される事になれば、我々ゲマトリアに残る戦力を持って対処をする」

 

 

 

 

「もっとも、そのつもりがないからこそ……手をこまねいていた貴女達に接触したのでしょうが。全く困った方ですよ、本当に」

 

少女からの返事はなく。

黒服は、けれど気にした様子もまたなく。

肩をすくめながら、別れを告げた。

 

「それでは、お気をつけてお帰りを───第七のマスター」

 

少女の背が消え、夜は更け。

ただ一人残った男は聖堂に祝詞を響かせる。

訥々と。

朗々と。

語りかけるように、労わるように。

妬むように、憎むように。

怒りを込めて祝福を謳う。

 

 

「これで7人のマスターの()()と7騎のサーヴァントの()()が完了しました」

 

───そこで、主は言われた。

 

「第三のマスターはその意義を知らずと友と共に青春を謳歌し」

 

───剣を鞘に納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる

 

「第四のマスターは困惑から道を定められぬまま歩き始め」

 

─── それとも、私が父に願がって天の使いを、今遣わして頂けないと、

 

「第五のマスターは己が道を違える事なく従者と共に歩み」

 

─── あなたはそう思おもうのか。

 

「第六のマスターは流石といった様子でぎこちなくも既に動き出し」

 

───しかしそれでは、そうあれかしとされた言葉が。

 

「そして第七のマスターは理解をもって()()に挑まんとする」

 

───どうして成就されようか。

 

 

 

「今宵からいよいよ本格的に聖杯戦争は始まる……()()()()()()()

 

「さぁ、貴女はどうしますか?」

 

 

 

───阿慈谷ヒフミさん?

 

 

 

*1
トリニティ総合学園の公認部活動団体。トリニティ内でも最古の部活動であり、主な活動内容は日々の銃撃戦で傷ついた学生達の救急医療活動や自治区内内での感染症等の予防・蔓延防止、医療ボランティア、生徒達の健康診断や健康相談等である。設立期からヨハネ分派と大きな関わりを持つ。今次の団長は三年生の蒼森ミネ

*2
Fresh Rain+。キヴォトスで販売されているアイソトニックタイプのスポーツドリンク。特に自治区内に砂漠地帯や火山地帯のある学園の生徒からの支持が厚い。なお某温泉開発部の某部長は、温泉での入浴後に当商品とお好みのエナジードリンクを混ぜたモクテル「Fresh Rain+Portion」、通称フレポを飲む事を流行らせ一大ムーブメントを築き、飲料メーカーから特別学生アンバサダーとして選ばれたという。当然風紀委員長は頭を抱えてシナシナになり、先生セラピーを受ける事になった

*3
キヴォトス人のフィジカルエリートはビルの側面を駆け降りたりするのだ。今更屋根の上から飛び降りても少女は動じない。いつだったか彼女の友人であるとある少女も「うへ〜おじさんも歳だからそんな風にはしゃいだら疲れちゃうよぉ」と言いつつ華麗なパルクールをヒフミの前で披露した事からも、彼女の中では運動が得意な人であれば屋根やビルから落下しても問題ないという認識だった

*4
指名手配はとある少女の尽力で免れた。とはいえ彼の端麗な姿は当然映されたわけで、ネットではにわかに盛り上がりをみせている。謎のヒーローXことセイバーの明日はどっちだ

*5
絆レベル





1じゃんね☆
ようやく初戦闘が書けたじゃんね☆
the battle is to the strongを延々と流してたじゃんね☆
ずっとバサスロットの顔がチラついたじゃんね☆
困るじゃんね☆

言い忘れてたけど本作のマスター候補の子達は安価で募集したじゃんね☆
1じゃ思いつかなかった展開になってくれそうで、とってもありがたいじゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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