阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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もし、主があなたに与えて住まわせる町の一つで、よこしまな者たちが、あなたがたのうちから出て、「さあ、あなたがたの知らなかったほかの神々に仕えよう」と言って、町の住民を迷わせたと聞いたならば。
あなたは、調べ、探り、よく問いたださなければならない。
もし、そのような忌みきらうべきことがあなたがたのうちで行われたことが、事実で確かなら、あなたは必ず、その町の住民を剣の刃で打たなければならない。
その町とそこにいるすべての者、その家畜も、剣の刃で正しなさい。(devarim13:12-15)



無価値なる者、汝の名は

 

 まずヒフミが感じたのは、震動であった。

その地響きを、キヴォトスに住まう人間ならば瑣末な物と捨て置くほどに身近でよく知った物。

即ち───爆破。

 

 先に自室へと戻ったハナコに手を振って、食堂で洗い物をしていたヒフミ達とモモイが感じたのは僅かな揺れ。

ここ、食堂があるのは第三エリア、地下深く。

ましてやこの拠点があるのは、連邦生徒会から立ち入りを禁じられた『廃墟』の一角。

この場所で振動を感じたというのなら、違和感があるというのなら。

 

「……次は警報システムとか用意しなきゃかな?」

 

「みんな起こしちゃいませんかね?」

 

「じゃ、私達の部屋だけにしよっか」

 

 緊張が奔る内心を押し殺して軽口を叩く。

そうして一度、深呼吸。

阿慈谷ヒフミと才羽モモイ。

このキヴォトスにおいて僅か七人に与えられたマスターの役割を羽織る両者の、スイッチが入った。

 

 

 

「「───行こう」」

 

 

 

 言うが早いが、モモイは椅子に掛けていたコートへ袖を通し。ヒフミはエプロンを椅子へとかけてお気に入りのリュックを背負う。

お互いに顔を見合わせる。どう考えても招かざる客人だ、茶会に誘うにしてもお帰り願うにしても、それなりの覚悟が───戦闘への覚悟が必要。

だからこそ、戦友の目に怯えがないのを確認して、二人は食堂を出て駆け出した。

 

「セイバーさんっ」

 

「此処にいるよ。どうやら正面ゲートを爆破されたようだ」

 

「他の子達は?キャスター」

 

「自室のある第三エリアに簡易的な隔壁を敷いた。寝ぼけ眼では戦闘への参加は難しいだろう」

 

二人の声に応じて霊体化していた二騎もまた姿を現しながら、地上へ向かって走る主人達へ現状についての説明をする。

 

「敵はまだ正面ゲート、元は搬入口だった場所からの侵入に手こずっている。ヘルタースケルターの数は第一エリア10機、第二エリアにもう10機配備してある」

 

 ヒフミは頭の中で今回戦いになった場合に戦力を換算する。

全10機、とはいえ建造に使える資材や魔力も決して無限ではない。

10機のうち消耗、そしてセイバーやキャスターの動きの邪魔にならない形で戦列を組むとなると、最初から投入出来るヘルタースケルターの数は7 機。

万一破壊されたらその次の投入や、足りないのなら第二エリアにいる分も含めて導入も考えていた。

 

「もう着くよ、準備はいい?」

 

「はい!準備万端!武器スロットも装備済み!アリスはバッチリです!」

 

「はい、行きましょう!モモイちゃん!」

 

「よしじゃあ……あ、あれ?」

 

にこりと、いつの間にか足並みを揃えて一緒に走っていた少女を見て思わずモモイもヒフミも足を止めてしまう。

 

「アリス?」

 

「はい、アリスです!」

 

「あれ、アリスちゃんもう寝てたんじゃ?」

 

「食堂から良いにおいがしたので起きてしまいました……いけませんでしたか?」

 

「……ううん、ナイスタイミングだよ。手伝って、アリス」

 

「もちろんです!光の勇者にお任せあれ!」

 

そうして、ヒフミ達は再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「アルちゃーん、もう来ちゃったじゃーん」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 

「気にしなくていいよ、ハルカ。ああでもしないと、壊せなかったし……流石は元『ケセド』の軍需工場で、今はキャスターの工房、か」

 

少女達の声を背に、ようやくこじ開けた正面ゲートの奥から走ってくる()の姿を見つめて六八を冠する女王は指揮棒(その手)を振るう。

 

「二騎、ね。良いじゃない」

 

「社長……慢心し過ぎ。一応、相手だってサーヴァントだよ?」

 

「あら?カヨコ課長。それは正しくないわ───()()()()()()()()()、違くて?」

 

「……それでも二騎だよ。ライダーもムツキ達も言ってやって。第一、あのヘルタースケルター(使い魔)を見る限り、数の利だって……」

 

「いいじゃない、それぐらいのハンデ。それに数はたったの二騎……どっちにしたって六騎まとめて叩き潰す予定なのだから今更物の数にだって入らない」

 

 

 

「───そうでしょ?ライダー」

 

陸八魔アルは獰猛に嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上へと駆け上がったヒフミ達の眼前に広がる惨状。

そしてそれを作り出した張本人を前にして。

 

「アル、さん……」

 

阿慈谷ヒフミに動揺がないわけではない。

それでもその気持ちごと押し殺して覚悟を固定するように、静かな声でヒフミはアルの名前を呼んだ。

貴女がマスターかと。

 

「ええ。こんばんは、ヒフミ。いい夜ね」

 

 対して陸八魔アルの声はどこまでも冷ややかであった。

ワインレッドのコートを翻し、ヒールの音をわざとらしく鳴らす。

威嚇でも警笛でもない。その音は言葉なき宣告。

今目の前にいるのは()なのだと、そう獰猛な捕食者が生き餌を前に唸りをあげるのに似ていた。

 

「遊びに来たってわけじゃないんですよね?」

 

「そういう風に見えたなら、少し残念だわ───貴女がそんな節穴だって見抜けなかった自分にね」

 

 はっきりと悪辣に言ってのける。

陸八魔アルという少女は今この瞬間に、ただ一つの動揺もない。

 

「……聖杯戦争の参加者、なんですね」

 

「随分と遠回しね。時は金なり(Time is Money)。何か確認したいなら迂遠にじゃなくて、もっとスマートに。そういう勿体ぶった言い方、()()()()敵わないからやめてくれないかしら」

 

 リードを急かす淑女のように、下卑た冗談を口にする。

だが、その挑発に、ヒフミは動じない。

阿慈谷ヒフミは既にあの晩、一度心をへし折って焼き直した。

吐き出すべき事を吐き出して、ぶつけ合うべき想いをぶつけ合って。

何度だって言葉を尽くす。

難しい事だ、時間もかかるだろう。

迂遠で分かりにくい事もあるだろう。

時には相手とぶつかり合って互いが傷つく事もあるだろう。

それでも相手の気持ちと触れ合うことで、互いに想いを口にして、理解し合えると信じれば。

一番大切な部分を。

本心を分かり合えるのだと、友人や恩師から教わった事を思い出したのが今のヒフミだ。

 

 故に、友人を信じないという道は最早ない。

ただしっかりと嗤う陸八魔アルを真っ直ぐに見ていた。

 

「私は聖杯戦争を止めたいんです。誰にも傷ついてほしくありません、悲しい気持ちになってほしくありません……だから」

 

「だから?」

 

繰り返された言葉にしがみつくような想いでヒフミは返す。

 

「アルさん、貴女の戦う理由を教えて下さい」

 

戦う理由を、殺し合いに参加する理由を。

知らなくては止められない、言葉を重ねなくてはわからない。

だからこそ、阿慈谷ヒフミはただ拳を振り上げるのでも声を上げるだけなのでもなく。

『知る』事を、相手と『対話』する事を選択した。

相手を理解して相手と手を取り合う為に。

その理屈を陸八魔アルは理解して。

 

「理由なんて聞いて……って分かりきったことね。ヒフミが考えそうな事だものね、いいわ。貴女が勝てたら教えてあげる」

 

理解した上で艶然と契約を口にした。

 

「……戦わなきゃ教えてくれないんですね?」

 

「ええ、代わりに安心していいわ。いいこと?覚えておきなさい」

 

 雲に隠された月明かりが僅かに隙間を縫ってアルを照らす。

それはさながら舞台女優を煌びやかに輝かせるスポットライトのように。

この場にいる誰が主役なのかを世界に見せつけるように。

 

 

 

「良い女と悪魔はね、契約を守るのよ」

 

 

 

 そう言ってのけたその瞬間こそが、戦闘の合図。

これ以上の問答は不要とセイバー、そしてキャスターは己の直剣と大槌を握る手に力を込める。

その後ろには7機のヘルタースケルターが戦列を成し。

ヒフミの隣にはモモイとアリスが各々の愛銃を構える。

ヒフミ達とアル達との数の差は単純に考えても実に2倍以上。

 

その事実に、この現状に。

 

「いーじゃん!いーじゃん!お喋りもいいけどさー!」

 

嗤うは一人。

 

「やっぱりコッチの方が分かりやすいよねー!」

 

けたけたと楽しそうに、愉快そうに、小馬鹿にするように。

玩具の剣を見せて強がる子どもを前にした悪意のように。

その様子を見て陸八魔アルもまた、悪魔らしく笑みを深めて。

 

「少し足りないけれど、前哨戦にはちょうどいいでしょう」

 

睥睨。

静かに、この場にいる誰もを見下した。

 

「ムツキ、後ろは任せるわ」

 

「おっけー!いち、にぃ、さぁん……って全部でたった7個だけぇ!?それじゃあ全然遊べないじゃん!」

 

「任せたわよ。カヨコ、ハルカ、貴女達はバックアップよ」

 

「分かった」

 

「は、はいっ!お任せください……アル、様」

 

 淡々と指を振って一人ひとりに一つひとつ指示を見せつけるように出す。

その姿を、モモイは咎めた。

 

「敵の目の前で、随分油断してるじゃん、いいの?ライダーのマスター」

 

 敵前で作戦会議、ブラハであったとしても馬鹿にしているとしか思えない幼稚なやり方。

その意図をモモイは指摘して。

 

「油断?違うわ、おチビちゃん。これはね───」

 

アルはただ当たり前のように、つまらなそうに見下す。

 

「余裕と言うのよ」

 

そうして刻印が描かれた右の手の甲を晒して告げるだ。

 

「さあ、一人残らず」

 

開戦の時を。

 

 

 

 

 

 

「───蹂躙よ」

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 1/3

 

 

 

 

 

 

 

 

片や二騎のサーヴァントが手を結ぶ同盟陣営。

片や苛烈な勢いで他陣営との戦闘を繰り返しているライダー陣営。

両者共にキヴォトス最大級の陣営である両者の戦い。

その火蓋を切って落としたのは。

 

「くふふ、それじゃあ……遊ぼっか?」

 

 先駆け。

便利屋68室長───浅黄ムツキ。

陸八魔アルに命じられたのは、全七機のヘルタースケルターの足止め。

その命を叶える為に、彼女は軽く爪先で地面を叩く。

瞬間、地面が滲む。

彼女の足元を魔力が赤々と照らし、そこから現れるのは、六頭のオートマタ。

 

「よぉっし!それじゃ皆……ぜぇんぶ食べちゃえ!」

 

まるでヘルタースケルターの数に合わせたかのように、否。

悪戯好きなムツキらしく、事実としてそうなのだろう。

ヘルタースケルターと同数となるように、彼女はソレらを呼び出した。

 

「ヤメテ、ヤメテ」

 

 ライダーの攻撃を阻害せんとその銃を構えたヘルタースケルターへとソレらは殺到する。

なんら普通のオートマタと外見上は変わりない。

だが、その動きと臭いは───異様だった。

 

「……ぅぷっ」

 

 腐臭。

ヒフミ達を守るように前面へと展開しているヘルタースケルター達へ接敵したソレ等は、数メートル離れた場所にいるモモイの嗅覚を殴りつける。

 

強烈なまでの、生き物が腐った臭い。

 

 臓腑を抉り、脳に指を突き立て、眼に針を刺す。

そう誤認させるまでにこびり付いた、空気を冒す澱んだ毒。

科学全盛のキヴォトスにおいてまず嗅ぐ事のない、けれど人の遺伝子に、本能に刻まれた知りもしない記憶を想起させる香り。

『生きながら死んでいく』、腐乱死体にならんとする者、そんな臭いであった。

 

 当然、免疫のないヒフミ達はその臭いを漂わせて現れた、見慣れている筈のオートマタに動揺を隠せず。

 

 まず、モモイがその強烈な悪臭に耐えかねてライダーへの『妨害』をしていた引き鉄から、その指を離して口元を手で覆った。

 

「モモイ……!?大丈夫ですか!?」

 

 悲鳴に近い声をあげて、アリスは援護射撃を続けながらモモイへと駆け寄る。

幸いだったのは天童アリスにこの手の物への耐性がある事、今も銃口をヘルタースケルターへと向けて、腐乱臭を放って感情なく前進するオートマタに『敵』以上の感想は持たなかった。

 

「アルさん……っ!」

 

 ヒフミもまた、決して影響がないわけではなかった。

 

臭い、臭い、臭い。

腐れた刺激臭が鼻を割かんとする。

それを無視して、ライダーの行動に対する『妨害』を行い続ける。

ヘルタースケルター達の銃撃は確かに邪魔をされている、妨害されている。

だがライダーへと届いている。

ならば重ねがけるようにヒフミもまたそれに続く事でセイバー達を援護せんとした。

 

 そしてセイバー達もまた、その異変を感じ取っていた。

 

「……ッ!一体何をッ!?」

 

 敵味方の銃弾入り乱れる戦場において、『筋力』を活かしてライダーへと痛撃を加えていく。

 

 袈裟斬り。

跳ねる背筋と廻す大腰筋。

間合いを知らせない鋭い巧手、風の剣舞。

一撃で終わる事はなく、一手ずつ重ねていきライダーに小さくとも確実に傷を残していく。

だが、強烈な違和感。

 

 腐臭、だけではない。

ムツキの呼び出した機械の兵士、それらがケセド戦で見た物と同規格であるにも関わらず、『何かが違う』とソレ等を目の端で捉えてからずっと警鐘が頭の中を鳴り響く。

 だが、当然。

 

「───戦いの中で考え事だなんて、随分と余裕があるのですね?」

 

その思考をライダーは咎める。

鉄杭による強襲。

そしてしなやかな四肢からの乱打。

風王結界によって見えない筈の剣の間合い、それを『知っている』かのように『魔力』を杭に纏わせて隙間を縫ってセイバーへと牙を剥く。

スウェーバック、ヘッドスリップ。

ただ素早く、ただ軽やかに。

されど空間移動を錯覚させる、ヒットアンドウェイによる高速戦は周囲のアスファルトを砕き、抉りながら、迎撃するセイバーと火花を散らし合う。

 

 

 

「なればこそ、我がいる」

 

 

 

 剛力一擲。

その速さに追い縋り、見事な横槍を入れて魅せたのがキャスター。

その『筋力』たるや、スキルを合わせたその伸び代はこのキヴォトスに集ったサーヴァントの中でも最高峰。

 

キャスターは特異な宝具、そしてスキル『機関の鎧』によって、凡そ通常の聖杯戦争で召喚できるサーヴァントの中でもトップクラスのステータスを誇るのだ。

 

 無論、彼の生前は戦士ではない。

ライダーのような人間とは一線を画す運動神経も、セイバーのような戦いに明け暮れた騎士としての技量も持ち合わせない。

 

 故に、鈍器。

2mの身の丈と並ぶ、円錐の大槌による打撃。

それを演算によってライダーの予測位置に合わせて置くように振るう。

腕部、そして背部と脚部より蒸気を吹かせた科学技術。

経験も技術もなく、されど計算と科学によってキャスターは見事にトップサーヴァントの戦いに並び立っていた。

しかし演算、その一部では。

 

「(……ゴーレム、いや……使い魔か?ライダーめ、何を考えている。まるでヴィクターの……いや、違う。目の前のアレはもっと『悍ましい』ナニカだ)」

 

脳裏に過ぎるのは、かつての生前にその存在を知ったとある 麗しい花嫁(フランケンシュタイン)の姿。

虚な彼女に似た物を感じ取り、その計算結果を己自身で否定する。

計算材料が足りない。

だがゴルゴネイオン、もしライダーがギリシャ神話の縁者であり、何より本当にゴルゴネイオンと繋がりがあるのならば。

 

「(嫌な予感がする……これは宝具を出し惜しみできないかもしれないね)」

 

「(……最悪の想定がいるな)」

 

奇しくも、『直感』と『演算』によって二騎のサーヴァントは目の前で対峙する敵への不吉な予感を募らせていった。

 

「アル様、あの……」

 

「ねぇ、様子見してていいの?社長」

 

「別に構わないわ。だって───必要なら令呪を使えばいいんだもの」

 

 陸八魔アルは悠然と嗤う。

左手に構えた銃を下ろして、右手の甲に口付けをする。

そこには六八の数字を冠す獣の頭骨が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 2/3

 

 

 

 

 

 

 

「キケン、キケン」

 

「モモイチャン、アリスチャン」

 

「マモルゾ、マモルゾ」

 

 電子音と共にヘルタースケルターは行動を開始する。

なりふり構う必要はないとライダーへの妨害を中断して、ひたすらに大口径の閃光を撒き散らす。

それにオートマタも迎撃の姿勢を見せた。

 

 けれど、彼らの動きは緩慢で、何より有機的だった。

最短距離を計測して的確に撃つ。

オートマタのその特性が何一つない、まるで調子の合わないまばらな連射と、狙い。

故障でもしたかのように、よたりよたりとヘルタースケルターへと歩く姿は産まれたての子鹿を思わせ。

そんな動きでは当然迎撃になぞなる筈もなく。

弾丸は鈍いを立ててオートマタの装甲を食い破る。内部から腐食していたのだろう、本来よりも遥かに早く引き千切れるようにして装甲は砕かれて。

 

「あーあ、ぜぇんぶ壊れちゃった……じゃっ!私休憩しよっと」

 

内部から黒く濁ったのような液を撒き散らしながら倒れていく。

全六頭の機械の兵士、言うなれば『腐臭漂うオートマタ』。

ここでその全てがその機能を停止して、暗がりでよく見えない内容物を溢していく。

 

そうして一段と、腐臭が強くなる。

戦場の中心となるセイバー達の激しい動きで巻き上がるように、肺を冒し嗅覚へと爪を立てる毒はこの場にいる生徒達に『死』を確かに予感させるには十分であった。

 

 

 

 

「……大丈夫、やれるよ」

 

 

 

 それを、才羽モモイは今度こそ振り切る。

未だ手元はブレるが、腹の中の物を吐き出して頬を叩き、太ももに力を入れる。

その姿に、アリスもまた感化されて、ライダーへの『妨害』となる攻勢へと躍り出る。

 

「モモイっ!……分かりました。それなら!アンデッドには───光属性の攻撃です!」

 

 モモイ()がまた無理をしてでも立ち上がった。

それを理解したアリスはその背を摩るのをやめて、光の剣を強く握りしめる。

光の剣はその出力から一撃は大きく、されど連射には適さない。

故に一撃。

故に一射。

渾身を込めた粒子の砲撃によって、影を踏む事すら叶わぬ三騎の戦場に風穴を開けんと狙いを定める。

 

『(キャスター!アリスが撃つ気だから、タイミング合わせて!)』

 

『(承知したッ!……モモイよ、お前もあまり無理をするな)』

 

『(……えへへ、だいじょーぶ。まだ、いけるよ)』

 

 だが当然、戦場で待ってくれる筈もない。

チャージという隙で、そしてモモイ自身まだ完璧に復調しきったわけでない以上。

どうしても攻めの手は緩まる。

どうしても攻めあぐねてしまう。

そう、このままならば、だが。

 

「───撃ち抜く」

 

ヒフミには足音が聞こえていた。

 

「来てくれたんですねっ!───アズサちゃん!」

 

 後ろを振り向く必要もない。

聞き馴染んだ5.56mmのマズルフラッシュに合わせた軽快な足音。

そのまま勢いをつけて滑るようにヒフミの横へと降り立ったのは彼女達の中ではアリスと並んで抜きん出た戦力であり。

 

「お待たせ、ヒフミ!……間に合って良かった!」

 

 単独での対サーヴァント戦経験すら有する阿慈谷ヒフミの親友。

補習授業部、白洲アズサ。

愛銃「Et Omnia Vanitas」。

それにエンジニア部が手掛けた『精密スコープ』を装備し、いつもの制服姿での参戦。

 

 即座にそのスコープ越しにライダーを見据えてからの、息もつかせぬ『攻撃』。

弱点、人体の急所への的確な攻撃によるセイバー達二騎へのアシストとなり、アリスの砲撃を待つ時間を確実に確保する。

その銃火は戦況を優勢へと運ぶ福音。

誰の目から見てもその筈。

だが、

 

「一人増えた……面倒だね」

 

「カヨコ課長、あのっ、やっぱり私達も……」

 

「いいっていいって、ハルカちゃん。アルちゃんどころか本当はライダーちゃん『一人でも十分』なんだから」

 

 オートマタの全滅を受けて、いつの間にか後方のカヨコ達へと合流したムツキは軽く言ってのける。

朝日は東から昇るのと同じように、時が経てば夜になるの同じように。

セイバーとキャスター、二騎を相手取ってたった今も劣勢を強いられるライダーこそがこの戦場で最も『強い』と確信していた。

 

そして、その言葉は少しずつ。

だが確実に事実という形で姿を滲み出す。

 

「驚きました、その身体でよく動きますね」

 

 キャスターの大振りな攻撃。

跳び、叩き、振るい、砕かんとする鉄塊。

本来スキルによってその敏捷は下がってしまうが、それでも付与された二重の補正。

そしてモモイが施した『魂の改竄』によって、重装甲な見た目から想像できないほどの『敏捷』さを見せつける。

だがそれはライダーにとって言葉ほどの驚愕を与えはしない。

 

「ぐッ……ご、おぉ、……ォッ!」

 

 瞬間の挙動。

それだけならばキャスターのそれはセイバーどころかライダーすら凌ぐだろう。

だがその速さをライダーは埋めてのける。

スキルでも宝具でもない。

純粋な戦闘の『勘』。

 

 時に、格闘技経験者であれば一度は体験した事があるであろう。

思考よりも早く身体が反応して最適な一撃を放つ……そんな『勘』任せの攻撃を。

勘とは即ち、積み重ねた経験、体に覚えさせた体験による超高速の脊髄反射。

あの時はこうした、あの時はああしたら上手くいった、この時はこうしてしまったから敗北した。

そうして人は累積した過去の経験に基づいて、時として思考するより早く、最適な選択肢を手に入れる。

それが、戦闘における『勘』。

 

 ライダーのそれは戦士としての鍛錬から生まれた物でも戦争で磨いた技術でもない。

ただ迫り来る侵略者をたった一人以外、皆殺しにし尽くす戦いを経て培った最適な己の肢体の動かした方。

身体内適応力、或いはボディコントロール。

その長い手脚を、優れた体幹を、高い身体能力を、どんな時・場所も問わず発揮できる程に完成されたコントロール技術と蓄積された『敵との戦い』の経験。

それによってライダーは己を圧倒するステータスのキャスター、その直線的な動きを封殺し、172cmという恵まれた体躯から放つ重たい一撃を鎧の奥へと通して確かに打ち込んでいく。

このままいけば、躍起になって蝶を捕まえようとする幼童のように、疲れ果て、いずれはキャスターの敗北となるだろう。

そう、一体一であるならば。

 

 

 

「……ッ!彼女と同様に!つくづく貴方達セイバーは面倒ですね……!」

 

 

 

 風王、凱旋。

ライダーの踊るような一撃離脱とその動きに合わせて周囲を取り巻き肌を斬り抉らんとするかの如き鎖の包囲網。

それらを『敏捷』により掻い潜っての牽制。

ライダーの喉笛を切り裂かんと閃く風に、即座に彼女も後退。

 

「キャスターッ!そちらはッ!?」

 

「問題───ないッ!前を見よ、セイバー!」

 

 睨み合いはごく短時間。

蒸気を連続して噴き上げてじぐざぐと低空飛行しての突貫を敢行するキャスターに合わせてセイバーも動く。

その挙動の大きさと出力から夜霧を生むキャスターに合わせて、風王結界の出力を調整し自身の視界を確保しながら駆け、斬り込む。

 

 一閃、逆風。

重ねて、右薙。

転じて、左斬り上げ。

踏み込み、斬る。

ライダーの点から点へと移り動く超高速の機動に対して、確実に合わせ鋼鉄同士の悲鳴を廃墟に響かせる。

そして、受け回し。

火花を逬らせての攻防の最中、立ち位置を替えてキャスターの一撃を当てやすいように誘導。

ヒフミ達の援護、そして。

 

『(撃つよ───今ッ!)』

 

『(承知……ッ!)』

 

『(セイバーさんっ!)』

 

『(ナイスタイミング……だッ!)』

 

 天童アリスが引き鉄を引く刹那、二騎は念話による指示を受け合わせて反転。

キャスターは蒸気の逆噴射で僅か上空に。

セイバーはくるりと回転しながら身を投げて後退。

瞬間。

ライダーの居る空間に『空き』が生まれ。

 

「この一撃でッ……光よッ!」

 

 放たれるは奔流。

光の剣:スーパーノヴァの一撃。

それに包まれること数瞬。

全身に火傷痕を残すライダーへと、キャスターは再度の吶喊。

 

「鉄槌───一撃ッ!」

 

「くっ……か、は……ッ」

 

 剛打。

ついにその一撃は届く。

確実に芯を捉えたそれはセイバーとの連携、アリスの砲撃、そしてアズサの追討によって更なるダメージを重ねていく。

 

けれど。

 

 

 

「(このまま押したいけば勝てる……その筈なのに。なんだこの、胸騒ぎは……?)」

 

 

 

 セイバーの脳裏に、胸中に。

痛むように焦りが奔る。

『直感』するのだ、何かが可笑しいと。

 

 サーヴァント二騎、それに匹敵するキヴォトスの生徒による猛追。

間違いなくライダーの霊基へ痛打となった。

消滅と行かずとも、同じ状況ならセイバーは撤退すら視野に入れると考えて。

だからこそ焦燥感が、不安感で彼は苛む。

目の前に対峙し幽鬼の如くふらつく女が、未だ戦意を失っていない事を。

 

その『直感』は果たして。

 

「まだ踊り足りないけれど……そろそろいい頃合いかしら?」

 

()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 3/3

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!ヒフミ、急いで拠点へ……ッ!」

 

「アリスよ、モモイを連れて離れよッ!」

 

 軋む。

稲妻を撒き散らして騎兵から溢れる魔力。

瞬間、念話を使う事すらせず、はっきりと二騎は口に出して撤退を指示した。

 

「あら?」

 

だが。

 

「宝具なんて使う必要はないわ」

 

騎兵の主人は嘲笑する。

 

「所詮はサーヴァント。どうせまだ、()()()()()()()なのだから」

 

馬鹿らしい。

まだ誰も、このキヴォトスで()()()()()()()()()()()()()というのに。

今のライダーの宝具程度の出力に怯えてどうするのかと。

そう嗤って。

 

「それよりも格の違いをきちんと教えてあげましょう?」

 

 この地の全てを見下すように背筋の正し、だらりと右手を掲げる。

雲の切れ間より注ぐ月明かりの下、それ以外の光源はなく。

青白い月明かりと重い影のみが合わさる中で、彼女は戦場全てに響き渡る号令をかけた。

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

 

───文字通りその身一つで蹂躙しなさい

 

 

 

 

世界が、悲鳴を上げた。

 

ヒフミ達の判断は正しかった。

令呪。

その単語を聞いた瞬間に、切れるスキルを全て使用し、その恩恵によって向上した『耐久』を以ってして凌げという指示を念話で出しつつの後退。

この上なくマスターとして正しい状況判断、そして一瞬の行動。

 

何人も─── 」《/big》

 

正しい選択だった。

その命を受けた二騎は魔力を、蒸気を放ちながら吶喊する。

間違いなく、今宵最高の出力であろう。

既にライダーは棒立ち。如何に優れた『耐久』であっても凌ぎ切れるはずはない。

 

 

 

 

 

 

─── 私の前に立つな

 

 

 

 

 

 

ただ一言。

静かな声が紡がれて、ヒフミ達の考えは捻り潰された。

 

「ぁ……ぇ……?」

 

ライダーの行動を咎めんと『妨害』の一手をしていた人差し指に力が入らなくなる。

引き鉄にかかったまま、動いてくれず。

そのまま、ヒフミ達を強烈な『圧力』が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 そしてこの夜。

阿慈谷ヒフミはセイバーを召喚して以来初となる。

 

「───ぅそ」

 

明確な敗北を喫する事となった。

 

 

 





1じゃんね☆
7日目夜、そして本作1部のラストバトルじゃんね☆
長くなるからちょっとわけたじゃんね☆
続きはまた今夜、じゃんね☆

クリスマス用のIF短編?
ほぼゼロからお話作り直し、設定練り直しだからなーんにもないじゃんね☆
今必死に書いてるじゃんね☆
二時間あれば五千字分ぐらいの軽いやつ出来るじゃろ!
……って考えなしの1はまーたこうやって浅はかな事をやるじゃんね☆
いつものことじゃんね☆ミーカミカミカミカミカ

……今日、明日中には必ず投稿しますじゃんね……

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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