阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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原始、言葉とは()()である。

人類が手にした叡智の始まり。
言語という形での意思疎通は、野を駆ける獣と人とと大きく隔てる技術であり、その獲得は正に進化であり、また同時に大いなる神秘を宿した。
その神秘性はサーヴァント達の知る、神秘の荒廃した現代でもなお強く残っている。
ならば、そう。
ただ一言。
たったそれだけのが。
空気を揺さぶり耳を冒せば。

言葉が世界その物を支配するのだって、そう難しくはないのだ。



敗北、そして再会

 

 阿慈谷ヒフミ、才羽モモイ。

両者の判断は間違いなく正しかっただろう。

少なくとも、アルが宣言をしたその瞬間に念話を通して全スキルの使用を己がそれぞれのサーヴァントへと命じる。

鉄火場慣れしたキヴォトスの学生らしく、それは懸命かつ最善手とも言える判断だった。

 

 だからこそ、サーヴァント二騎が受けたダメージを抑える事が出来たのだから。

 

「……ぁ」

 

 まずオートマタの腐臭で気分と体調を悪化させていたモモイが意識を刈り取られた。

 

「……ぅそだ……こんな、いや……ちが……ごめ、んなさい……まだむ……さお、り……だめ……し、て……」

 

 次に全身を掻き抱くように、今この場にはいない見えない何かに対して怯えた眼をしたアズサが震えながら意識を手放した。

 

「あ、ずさ……ちゃんっ!……もも、いちゃん……っ!」

 

「くっ……これは空間自体、に?……損傷、なし……ですが測定値に、異常……がっ!」

 

 残る二人、ヒフミとアリスにも異常はあった。

呼吸が出来ない。

まるで粘性の高いプールにでも沈められたかのように、胸の上に高重量の重石でも重ねられたように。息をして、吐く。

その単純動作すら早々に許されない程の強烈な圧迫感。

否───()()

生物として、非捕食者としての本能的な畏怖を呼び起こす一声に、誰も彼もが異常をきたす。

 

「……ッ!この、重圧……はッ!?」

 

「くッ……もたん、かッ」

 

 セイバー、そしてキャスター。

共に膝を着く。

ライダーが何事かを口にしたその瞬間に彼らの身に襲いかかった強力な重圧。

宛ら高位の魔術師、或いは精霊が言祝ぐ呪詛のように全身の動きを抑えられる。

立つ事は許されず、顔を上げる事すらままならない中、蛇の尾のように振り降ろされた視認できない何かを叩き込まれた彼らは地面に伏していた。

 

「(サーヴァント……いやこの規格は……ッ!?)」

 

それでもなお、届く物はあった。

全てのスキルを切るというヒフミ達の判断、そして。

 

「ガンバレ、ガンバレ。マケルナ、マモレ、マモッテ」

 

 気付け薬のようにセイバー達の背中に放たれた弾丸。

ライダーからの干渉を、()()受けなかったヘルタースケルターからの援護射撃で、その脚に活力を漲らせ、もう一度踏み出さんとしそれぞれの得物を頼りに彼らは立ち上がる。

 

「残念です───もう少し早く令呪を切るべきでしたか」

 

最後の攻防、それを制したのはセイバー達同盟陣営だった。

相手には手痛い傷を与え、モモイとアズサが失神した以外、セイバー達は無傷。

間違いのない勝利。

である筈なのに。

 

「動かん……かッ!」

 

「(魔眼、じゃない……これは神霊やその類の『権能』に近い……ッ)」

 

両騎共に、今度こそ片膝を突く。

全身を苛む痛みと不安感。

呪詛の類か、否。

セイバーの推測通り、これは神域のスキル。

文字通り生物種としての規模の違いが形となった言葉という形の支配。

 

 故に勝者は膝をつき、敗者が頭上を見下ろすという構図が生まれる。

そして。

 

「えー、もう終わり?なんかさぁ。つまんなくない?」

 

けらけらと嗤う声。

もっと遊びたいと、少女は言って。

がりり親指を噛んで、千切れたそこから一雫。

血を地面へと注ぎ。

魔法陣が描かれて、九頭のオートマタが呼び出される。

 

「……ムツキ、使いすぎ。勿体無いでしょ?」

 

「いいじゃん!いいじゃん!けちんぼな事、言いっこなしだよー?カヨコっち!」

 

 

「それにこの大きな拠点、()()()()()()()()()()()()()?きっと中には山ほど資材も、オートマタの材料(血と肉)もあるだろうから少しぐらいコイツら使い潰したって大丈夫だよー!」

 

血泥から九頭の腐臭漂うオートマタが生まれる。

どくりどくりと黒い脂を垂れ流して。

 

「7日間かけて用意した物よ。ムツキ、あまり無駄遣いはよしなさい」

 

「もー!アルちゃん!だって考えてみてよ?こーんな広いとこ見て回ったら大変でしょ?だったら怪物くん達に任せちゃおうって話!」

 

その言葉に溜息を漏らしたアルは右手を振り。

 

「もう……仕方ないんだから」

 

その影から八頭分の腕が伸びる。

『魔術』による簡易的な召喚。

 

「それにほら、ミレニアムのちびっ子ちゃん倒れちゃったけどセイバーとキャスターはまだ元気そうだし───やるならきっちり()()()()()

 

「ムツキ課長……そ、そうですよね!殺さなきゃ、殺されちゃう……だから殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ……ッ!」

 

叫ぶハルカは足を鳴らして、それに呼応して血のぬめりを見せる魔法陣から十頭のオートマタが召喚される。

 

「───そうね」

 

「社長……止めてよ」

 

「よく考えてみれば大した無駄遣いにはならないわ。もう妨害できるのはヒフミとそこの機械だけなら数ですり潰してからゆっくりライダーで始末すればいいもの」

 

その言葉に眉根を寄せてから、疲れたように肩を落としてカヨコもまた愛銃を空へと向けて空砲を一つ。それに呼応して、影がどろりと形を変えて六頭の悪意がまた産み落とされる。

 

 

 

「───さて、悪いけど」

 

 

 

総勢四十二の悪鬼、その軍勢。

腐臭を漂わせ、膝をつく両騎にじりりと迫る。

その手は無論、ヒフミ達へも伸びんと近寄る。

 

「貴女の願いはここでおしまいよ、ヒフミ」

 

それは濡れた決別だった。

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 3/3 → FAILED

 

 

 

 

「……ぅそ」

 

 勝利した筈でした。

スキルだって全て使いきって、間違いなく優勢で。

私達は勝てた筈だったんです。

 

「ヤメテ、ヤメテ」

 

「タベナイd、タベn……i……デ」

 

「ニゲ……テ、ニ……g……」

 

「go……めん、n……あ……りs……ちゃ……」

 

 咀嚼音が聞こえる。

四つ這いになったオートマタが本来あるはずのない口を開いて、ヘルタースケルターさん達を『食べている』。

私たちを守ろうと動けなくなった囲まれかけた私達とセイバーさん達を庇って前にでた七機の彼等は。

後詰にいた三機のヘルタースケルターさん達に私達を託して壁となってくれて。

そんな彼等が食べられている。

 

「えー!?これだけの数しかいないの?7日しかなかったなら、もっと作ってるよね?」

 

「どうせまだいるでしょ……この場にいるのが十機……ああ、残りはもう四機だけだけど。それなら後詰合わせて20機か、それともその倍ぐらいかな?」

 

「あ、ああぁぁぁアル様っ!やっぱり()()()呼び出しましょうか!?壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ!」

 

破壊される。

必死に抵抗する。

銃を撃つ。

銃を撃つ。

 

「やめて、やめて下さいっ!アル、可笑しいです!こんなの、いや……!アリスのお友達を!ヘルタースケルターさん達を食べないでっ!!」

 

撃つ、何度も、何度も。

アリスちゃんの大砲も、私の銃も。

撃って、何体もいつものようにオートマタを破壊してるのに。

 

「やめて?馬鹿ね、アリス。いい?これは戦争なんだから、止めてと言って止まる馬鹿なんている筈ないでしょう?」

 

「……ひぅ」

 

 息を呑む。

また新しく、彼女達の足元から38機のオートマタが生まれる。

這い出てくる。

地面を這って、前が見えないように周囲を見渡して、動物のように四つ這いで駆け出して、壁となってくれてヘルタースケルターさん達へと群がる。

 

「やだやだやだっ!やめて、助けてヒフミっ!助けてキャスター!助けてモモイ!起きて!起きて下さい!怖いです!アリスを助けてっ!!」

 

 駄目です。

さっきまでの圧力もまだ消えていない。

なんとか動いていたけど、このたった数分の出来事で完全に足がすくんでしまった。

アズサちゃんもモモイちゃんも意識がない。

私は圧力で動けない。

アリスちゃんは完全に錯乱し始めてる。

まずい、まずいまずいまずい、まずい───!

 

 

 

「すま、ない……ヒフミ。ようや、く……落ち着いてきた、かな」

 

「う、む……この重さにも慣れた、ところ……だッ」

 

 

 

「お二人とも……っ!」

 

2分足らずの惨劇に、対応しきれずにいて。

それでも銃を撃ち続けたのは功を成しました。

セイバーさん達が立ち上がる時間を稼ぐ事が出来たのは幸い以外の何物でもありません。

 

「えー!立っち上がれてるじゃーん!ちょっとちょっと!ライダー!」

 

「追撃をしませんでしたからね。カヨコ、回復感謝します」

 

「うん、もう大丈夫そうだね。ほら社長、もう十分でしょ?さっさと宝具でもなんでも使って終わらせようよ」

 

その言葉に私も頬を思いっきり叩いて立ち上がる。

 

「ヘルタースケルターさん達、三人をお願いします───アリスちゃん、逃げて下さい」

 

「ぁ……ぇと、えと、……ひふ、み、?……ヒフミ助けて、下さい……?」

 

混乱してる、もう何を言ってるのかも分かってない様子です。

無理もありません。

あの七機の残骸が転がって、それを目の当たりにした。

まるで飢えた野犬が久しぶりの肉を食べたように、汚らしく、惨たらしく彼等は機械兵に咀嚼され続けている。

最後の一機も必死に抵抗しているのをねぶるように少しずつ壊されていって、そうしている間に私達が壊した23機のオートマタなんて物の数でもないと言わんばかりの数が、少しずつ、包囲網を狭めている。

時間が、もうないんです。

 

「キャスターさん、退くタイミングはお任せします……『モモイちゃん』と皆んなをお願いします」

 

『(セイバーさん……宝具の準備を)』

 

念話と声、どちらもでこれからの事をお願いする。

最悪の場合、私はここで『脱落』だ。この前のマリーちゃんとの戦いの映像でアルさんが言った言葉。

 

『───ここで伊落マリーを殺しなさい』

 

 あれが本当なら、きっと私も危ないかもしれません。

それでも『モモイちゃん』がいるんです。

同じようにこの聖杯戦争を止めたいと言ってくれた、ハッピーエンドを目指そうと言ってくれた友達がいる。

 なら、ここは。

 

「……アルさん」

 

()()()()()()()()()()()()

 

「あら?何かしら……ヒフミ」

 

アリスちゃんの声は遠ざかっていきます。

ちょうど三機ヘルタースケルターさんが残ってくれてよかった。

キャスターの指示で彼女達を連れて下がってくれました。

これで、この場に残るのは私とセイバーさんとキャスターさん、だけ。

 

「どうして……いえ、どんな願いがあってアルさんは戦うんですか?」

 

「あら愚問ね。マスターの願いなんてたった一つでしょ?───聖杯、アレが欲しいのよ」

 

魔力を回す。

私の中を流れているという魔力、それから持っているまだ名前の知らないオーパーツ。

それらの魔力を感覚頼りにですけれどセイバーさんへと強く流していきます。

 

「ただ、欲しいから……私の知っているアルさんはそれだけの理由で馬鹿みたいな真似、しませんよ」

 

「今際の世迷言、有り難く頂くわ。では返礼よ。知らなかった?貴女の知っている陸八魔アルは()()()()()()()()()

 

「……っ!……そうだとしても……!私は友達を信じてます……アルさんが!私の大好きなお友達がそんなつまらない理由でこんな事する人じゃないって!」

 

それでも僅かに足りません。

 

「……だとしたら?どんな理由なら納得するの?御涙頂戴の三文芝居がお好みかしら?素敵ね……理由があれば『殺していい』だなんて」

 

「御涙頂戴、結構じゃないですか。アルさん達が泣かなきゃいけない理由があるのなら、私は納得して───それから止めます。その行動も、涙も」

 

「……ッ」

 

深呼吸する。

隔壁が降りた音がする。

恐らく簡易的な物でしょうけど、それでもこれで暫くは後方の安全は確保されました。

この場にいる57機のオートマタ。

アルさん達4人。

そして、ライダーさんを相手取るのに後ろを気にしてはいられない。

魔力が足りないからなんだというんでしょう、ここで何とかしなきゃいけないんです。

 

「……もう、やめよう社長。あの子、多分ここで脱落させないと面倒だよ」

 

「アル様……私がっ!」

 

 勝たなきゃ、ここで。

守らなきゃ、皆を。

止めなきゃ、アルさんを。

 

間違いなくまだライダーさんは手の内を隠してる。

なんの躊躇もなくオートマタを呼び出してるのもそうだし、アルさんは令呪使用後のライダーさんの戦闘能力をセイバーさんとキャスターさんを合わせても上だと見積もってる。

それなら、私だって───!

 

 

 

『(セイバーさん……令呪、使います)』

 

 

 

『(君に任せる……大丈夫、必ず切り抜けて君を友達の元へと返す)』

 

『(えへへ……はいっ信じてます)』

 

───令呪を切ろう。

 

それなら宝具は打てる、この状況を打開できる。

宝具も令呪も初めて使うんです、はっきり言って一か八かでしょう。

でも自分の決断を信じて試してみない事には何も始まりません。

 

 私は、まだ使った事のない右手の甲に刻まれたその刻印を左手でそっと隠すように包んで、決意を固めます。

 

「黙っていなさい、ハルカ、カヨコ……どちらにせよ、敵は全員殺し尽くさなきゃいけない。私のすべき道はただそれだけよ」

 

「させません。アルさんに人殺しなんて……私が止めます」

 

「……出来るのかしら?数の利ぐらい、理解できるでしょう?それとも……打開できる宝具でも?」

 

 宝具を打たせたい狙いがあるのでしょうか?

カウンターのような宝具なのか、それとも宝具発動自体がデメリットかあるいはこちらの宝具ではこの状況を打開できないと知っているのか。

でもそんな事を考えても今はどうしようもありません。

打てる手札はもう今考えている物しか残っていない。

ならどちらにせよ、やる事は変わらないんですから。

それに───。

 

「分かりません……でも」

 

まだ私は何も知らないんです。

 

「まだ本当のアルさんの『気持ち』を聞いていないのに、こんなところで止まれません、負けません。私は……必ずアルさんの本当の気持ちとちゃんとお話しして向き合って、こんな戦い終わらせたいんですっ!」

 

 お友達の事を何一つ分からないまま敵だからなんて理由で片付けて、諦めてしまうなんて絶対に嫌なんです。

 

だから、深呼吸をする。

スキルがなんですか、宝具がなんですか。

サーヴァントが怖いとか負けるかもしれないとか死ぬかもしれないとか、そんなの悠長な事を今この場で私は言ってられないんです。

友達がずっと暗い顔してるんです。

人を、殺さなきゃと言っているんです。

私の後ろにも守りたい友達がいるんです。

 

だからもう、恐怖なんてない(怖くなんかない)んです。

 

右手の甲が疼く。

左の掌で隠したそれに僅かに光が灯り出す。

熱く、痛く、鋭く。

全身に魔力が駆け巡り始める前兆を感じる。

 

「もうさぁ、やめよーよ。ドル友だかなんだか知らないけど、あの子、()()()()。多分終わらせてあげなきゃ、いつまでも私達の邪魔になる」

 

「……分かってるから、黙りなさいムツキ」

 

「はぁ……分かってないからさぁ……言ってるんじゃんッ!!」

 

 だんと、ムツキさんが足踏みをして四つ這いだったオートマタが立ち上がり整列を成す。

まるでそれはストックを持ち、鈍器のように構えている。

 

「ここで殺さなきゃ駄目だよ、アルちゃん。アルちゃんがやらないなら、私がやる」

 

「ムツキ室長……いいえ、私がっ!」

 

「やめなよ、二人とも……でも、社長。私もムツキに賛成だよ。殺すかどうかはともかく、あの子はきっと、ここで脱落させなきゃ駄目」

 

 その言葉にアルさんは。

 

「……そうね。話はお仕舞い。第二ラウンド、始めましょうか」

 

 右手で顔を覆いながら、そう小さく。

でもはっきりと私に届くように言った。

 

「……ヒフミよ、問答は十分か?」

 

「すみません、キャスターさん。お待たせしましたか?」

 

「問題ない……お前は何も臆するな、必ず我がモモイの元にお前を連れて帰る」

 

「ありがとうございます」

 

 雲海のように群れを成した赤黒く脈動するオートマタの軍勢。

その先陣にいて静かにこちらを見ているライダーさんは眼帯をするりと取り外し、目を瞑っている。

資料にあった魔眼の用意、ですね。

相手も先ほどは出し惜しみしたスキルも全部使うつもり、ですね。

ライダーさんからは紫電が溢れる。

セイバーさんは風の勢いが徐々に弱まってまるでその剣の周りの空気が解けるように、でも反対に彼の周りは渦巻くように魔力が漲って。

 

 互いが臨戦体制を取る。

 

『(……いきます)』

 

一声、セイバーさんに声をかけて。

私は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

令呪を以て、第一のマスターが命ずる

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは、この場で聞く筈がない声。

私はその声を、知っていました。

だって、この()()()()は。

 

「宝具でライダーの従僕を討て───アサシン」

 

 

 

「ああ、承知した───()()()()

 

 

 

そしてそれに続く、女性の声は。

忘れたくても忘れられない。

どちらの方もこの聖杯戦争で知り合った印象深い方の声。

 

「特別だぞ?ちょっぴり……本気だッ」

 

 雲を裂いたように輝き出した月明かりの下、誰かが跳ぶ。

御伽話の兎のように軽やかに月と重なるようにして。

至極色の戦衣装を纏った誰かが真紅の槍を携えて、夜の空に舞って。

 

「さあ、久方振りだ。影の国へ連れて行こう」

 

その宝具()は。

 

 

 

蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)─── ッ!!

 

 

 

幾十にも矛先を増やしながら、まるで流星のようにオートマタへと襲い掛かりました。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土煙が晴れた先。

そこには、百舌鳥の早贄のように胸部を串刺しに、いえ、胸部だった場所にぽっかりと穴が空いて地面に倒れ伏したちょうど五十機のオートマタ()()がありました。

 

「おや?少し逃したかな?」

 

「久々でしたからね、()()()を使われれば良かったのでは?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クックックッ……それはそれは。さて」

 

 思わず、腰の力が抜けてしまいました。

いつの間にかアルさん達はいなくなっていて、代わりにそこにいたのは。

私に向かって相変わらず表情のよく分からない顔で笑っているのは。

 

「お久しぶりですね、阿慈谷ヒフミさん。いやはや、お元気そうで何よりです」

 

「こら、マスター。儂より前に立つでない……久しいな、セイバーのマスターよ。壮健であったか?」

 

聖杯戦争の監督役だと名乗った黒服さんと、彼をマスターと呼び、あの夜に私を殺そうとしたアサシン、さんでした。

 

「感謝するぞ……アサシンとそのマスターよ」

 

「うん?おお、貴様もいたか、蒸気の賢者。あの騒がしい娘も元気か?嗚呼、それから気にせんでいいぞ?ライダー共が少々目に余ったからな。お主らはついでよ、ついでよ」

 

「ヒフミ、立てるかい?」

 

「あはは……ちょっと力抜けちゃっ……ひぅっ!?」

 

ま、ままままたです!

この人ったらまた横抱きです!

乙女に!了承なく!

信じられません!

 

「悪いけど、文句は聞かないよ───敵かどうかも分からない相手の前、だからね」

 

 けれどセイバーさんは有無を言わさない様子で、私を横抱きにしつつも、しっかりと逆手に剣を持ったまま警戒していらっしゃいます。

 

「ふむ、随分と警戒されていますね。そういえば貴方と言葉を交わすのは初めてになりますか。初めまして、私はこの聖杯戦争の監督役を勤めます───『黒服』とでもお呼び下さい」

 

「アサシンを引き連れて随分な挨拶だね───監督役がどういう了見だ、アサシンのマスター」

 

「クックックッ……これはこれは。私と彼女の関係はあくまでビジネスパートナー、必要に迫られて『マスター』の(role)を被っただけ。聖杯戦争での立場に限って言えば、監督役こそが本業なのは間違いありません」

 

黒服さんの態度は相変わらず変わらないです。

表情も雰囲気も何一つ崩れる事なく、独特なペースで言葉をかき混ぜていかれます。

 

「さて、今宵はもう遅いですから、我々も引くとしましょう……アサシン」

 

「ん?お前はもう帰るのか?私はセイバーのマスターともだが、アズサと言ったか、あの勇ある少女の顔を覗いてから帰る。分かったらお前も気をつけて帰るといい」

 

「クックックッ……貴女も帰るのですよ、アサシン」

 

しっしっと犬かなにかを相手にするようにアサシンさんは手を払って、それに黒服さんは疲れた声を出している。

表情や雰囲気が変わらない、と思いましたがアサシンさんを相手にする時は少し抜けたような空気になるみたいです。

 

「……まったく、軟弱な男だ」

 

「ええ、お恥ずかしい事ながら。では帰りをお供しても?」

 

「うん、許そう。というわけでだ、折角来たばかりだが、また来るとしようセイバー、キャスター。そしてセイバーのマスターよ。次会う時はゆっくりと語らうとしよう」

 

「あはは……勘弁して下さい」

 

思わず本音が出ちゃいます。

いやだって私この人に殺されかけているんです。

なんでこんな何もなかったと言わんばかりに爽やかに対応されているのでしょうか。

 

「さて、それではそろそろお暇しましょう……とはいえ、戦い疲れ極度の緊張にあった貴女に止めを刺すように現れてしまいましたからね。どうでしょう、お詫びと言ってはあれですが一つ、或いは二つ。その程度であれば質問を受付ましょう」

 

彼はその罅を広げて弧を描きながら。

 

「それで、監督役()に聞きたい事は何かありますか?」

 

試すように、探るように。

そしてその孔のような瞳に確かめるような意思とひと匙の好奇心を混ぜ込んで。

 

「阿慈谷ヒフミさん」

 

彼は笑顔を作って尋ねてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急な事です。

アルさんと戦っていたかと思えばアサシンさんと黒服さんが現れて、そうだと思えば黒服さんは監督役なのにアサシンさんのマスターで。

そして今、私に質問はあるかと嫌らしく聞いている。

この混乱しているのが当然な状況で試すようにです。

なら、私が今この場で聞かなくてはいけない事が彼の中には確固たる答えとしてあるのでしょう。

そしてそれはただの生徒としてではなく、聖杯戦争のマスターとして聞かなくてはいけないことが。

 

 だから焦らず、まず深呼吸をして考えます。

取り乱しちゃ駄目なんです。

恐らく、目の前のこの大人は『嘘はつかない』が『全ては言わない』。

なら、一つは大きく枠を取って少しでも情報を、もう一つは具体的に逃げ場がない事を。

だから───。

 

「質問したい事は二つです。一つは聖杯戦争のシステムについて……他のマスターの方達の動向が通常の聖杯戦争と比べて奇妙なんです。こちらのシステムに不備や裏はないのかどうか。もう一つは」

 

 あまり気持ちの良い言葉ではない。

出来るなら、その言葉や聞くのも口にするのも……そんな未来を考えるのだって嫌です。

それでも聞かなきゃいけません。

 

「契約したサーヴァントを自害させるメリットがなく、私達マスターは『殺し合い』を強制させられる……その事実の確認を」

 

その二つの質問私は彼へと投げ掛けます

それに対して彼の反応は。

 

「クッ……クックックッ。なるほど、なるほど。それはまた、随分と調べられた物ですね。情報戦ではライダー陣営が最も優位かと思いましたが、いやはや、やはり貴女は侮れない」

 

笑っていました。

わざとらしく手を叩きながら痛快だと。

心の底から嬉しそうに。

 

「いいでしょう。まず一つ目の質問についてですが……私にも分かりません」

 

 ひとまずはお眼鏡に適った、そう思ってホッとします。

あまり適当な事を、そして彼の予想の範疇を越えないような事を聞いても多分美味しい情報は引き出せなかったでしょうから。

 

「まずこのような不誠実な解答をせざるを得ない理由をご説明したいところですが、とかく時間が足りませんから。ですから明瞭に一つだけ」

 

 とはいえ、彼からの返答は要領を得ません。

ただ少なくとも暈したいというよりも彼本人の言葉通り全てを今この場で説明するには、文字通り()()()()()()()

何故だかそんな風に感じましたが、私はその直感を信じて、話の続きを待ちます。

 

「この聖杯戦争で用意されたルールと聖杯について、我々の組織、ゲマトリアの人間はそのシステム構築に一切関与していない。謂わば自然発生した『事故』の副産物」

 

そう言う彼は、表面上こそ変わらない言葉の中に、どこか苛立たしげな棘を潜ませているようでした。

 

「故に私は何も分かりません……ですが、それをよく知る研究者については知っています。もっとも彼を追うのは時間の無駄でしょう。我々の呼び掛けに応じないほどですから……ただ」

 

 

 

「彼、フランシスは失踪後に一つだけ手掛かりを残しました……それが第七のマスター

 

 

 

「恐らく彼自身が召喚の手解きを行った最初にして最後のマスターである飛鳥馬トキさん。彼女()ならば何かを知っている、かもしれませんね」

 

 そう言ってから彼はくるりと背中を向けた。

理解する、恐らくもう一つの問いの答えはもっとシンプルになると。

 

「さて、次で『監督役』としても『大人』としてもお答えできる物は最後となりますね……サーヴァントを自害させる事のメリットはないのか、ですか……クックックッ」

 

彼は顔だけ振り向いて、嘲笑うように、諦観したように。

 

「勿論、()()()()とも」

 

メリットはあるのだと、はっきりそう告げました。

少なくとも私達が得た情報と食い違う話ですが私が訝しむより先に彼は答えを言ってしまいます。

 

「サーヴァントを『自害』させた場合のみ、そのマスターは『次』のサーヴァントを召喚可能……いえ」

 

そしてそれは少なくとも歓迎し難い内容。

いいえ。

 

 

 

「強制的に再召喚されます」

 

 

 

一度マスターになったからには逃げられない。

そう通告されているようにも聞こえました。

 

「この聖杯戦争のシステムは決してマスターを逃す事はありません、必ず犠牲者を生む。そういう風に出来ているのです」

 

それだけ言って彼は顔を背けた。

 

「む?もう話はよいか?……よし、ではな、セイバーとそのマスター。そしてキャスターよ。次は戦場で相見えよう」

 

「……今晩のはあくまでも今の質問に答えたのも含めて監督役としての勤め、取り立てて何か返礼を求めるつもりはありません───ただ」

 

立ち去ろうとあまりにも無防備に背中を向けた彼等は言葉を一度区切ってから。

 

「『取り引き』」

「それをお望みでしたらいつでも古聖堂へ」

「私は確かにアサシンのマスターですが、可能な限りは監督役としての『義務』を果たす……そのつもりです」

 

そう言って彼らは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒々しい息が聞こえる。

粘ついた嘔吐、否、血を吐く音がする。

繰り返し、繰り返し。

痛みに呻く男の声がした。

 

「……どれ、薬だ」

 

「クッ、クックッ……これ、はこれは……感謝しますよ、アサシン」

 

息も絶え絶えといった様子の男は震える手で女から注射器を受け取り己の首筋を刺す。

一秒、そしてまた一秒と、力の込められない指先で必死に針管が折れぬようにとプランジャーをのろのろと押し込んで。

 

「……ハァ」

 

数秒かけて息を整えた。

 

「やれやれ。よくもまぁ、あれだけセイバー達の前で取り繕ったものよ……魔力の流入による拒絶反応、それが宝具発動してすぐに発症したというのにな。うん、その点は褒めてやろう」

 

「……クックッ、貴女にそう言って頂けるのなら、十分に誤魔化せたでしょう」

 

「うむ、及第点をくれてやろう……貴様が私のマスターになると名乗り出た時はどう縊り殺すか悩んだ物だが……まあ今宵の態度に免じて猶予はやってもよい」

 

「クックックッ……それはまた、なんとも恐ろしい」

 

彼らは笑う。

痛みもある、苦しみもある。

死の予感すら感じ取っている。だが、それでも。

 

「とはいえ猶予を頂けたのは幸いです……私はまだ死ぬわけにはいきません」

 

「ふむ……聞こうか。何故だ?」

 

その問いに、男は笑いを止め、どうしようもなく焦がれるようにして。

男は切望するように、空の星に手を伸ばすように。

 

「クックックッ……彼の真似事、ですよ。えぇただの『大人の責任』……いえこれは」

 

「───大人の⬛︎⬛︎、ですからね」

 

そう言い切ったのを、女だけが聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちる、堕ちる、墜ちる。

たくさん戦って今日は疲れたから。

たくさんお話して今日はもう何も考えたくないから。

だから布団にくるまって。

どっぷりと疲れに浸り、微睡みに包まれて。

ゆらり、くらり、ぐずり。

底のない場所へと墜落していく。

どこまでも深く、ただ深く。

落ちて、堕ちて、墜ちて。

 

 

 

───気づいたら私は其処にいた。

 

 

 

 まず最初に思ったのは、空が広いということ。

トリニティは古い建物が多いけれど、やっぱりそこそこビルもあって。D.U.にも高い建物は多い。

だからこんな風に広く、どこまでも見渡せる空を見るのはアビドスに行って以来で。

けれどここはあの砂漠とは違いました。

 

 小高い丘の上、ヒースが風に吹かれて踊っている。柔らかい風が頬に当たれば瑞々しい新緑の香りを教えてくれて、それにどこか潮騒の名残りもある。

森が、海が近いのだと。そう感じた。

何処なのか、なんてのは分からない。ただ夢なのだという自覚だけはあって。

 

 私は、丘陵を歩き始める。

息は切れず、ただ疲れは知らない。はてと、思う。ここに来る前、私は何をしていたのだろう。

確かすごく疲れ切っていたような気がする。だというのに、今は体が驚くほど軽かった。

足首にも届かないような柔らかな葉の絨毯を進んでいく。

誰にも会わず、一人歩いて、歩いて、その先で。

 

 

 

───彼がいた。

 

 

 

 いつもの鎧は着ていません。

その代わりに簡素な服を着ています。

古めかしいチュニックに長ズボン、そんな衣装です。

こちらから見える彼の横顔は緊張しているけれど、今よりどこか幼く見えました。

まるで、私と同級生なんじゃないかと、そう思わせて。

それから、じっくり彼の顔を見ていた事に気づいてなんとなく気恥ずかしさを感じて、視線をずらすとソレが目に入りました。

 

 多分、剣、なのだと思います。

豪奢な装飾や宝石が嵌め込まれた、一目で貴重な物だと分かるそれ。

そんな物が無造作に地面……いえ、岩へと突き刺さってセイバーさんの前に鎮座している。

彼はそれを緊張と諦観と希望と、そして『覚悟』が入り混じった表情で見つめている。

それは神聖な雰囲気で、どこまでも厳かで。

そして何故かすごく寂しかった。

彼が、どこか遠くへ行ってしまう。

そんな気がした。

だから、私は声をかけようとして。

 

 

 

それを手にするのなら、きちんと考えたほうがいい

 

 

 

 小さな声が、澄んだ青空の中で一つ。

いつの間にか背中から抱きすくめるように彼の首に細い腕が回されていて。

真っ白な妖精が一人、彼の耳元で囁いていた。

どこまで清楚で、潔白で、清廉で。

それでいて淫靡で、退廃として、嬌艶で。

祈るように喘ぐように、語るように歌うように。

彼女は言祝ぐ。

 

 

 

それを手にしたが最後───君は人間ではなくなるよ

 

 

 

そう告げたその時、彼女のは。

私を見つめていました。

 

 

 





1じゃんね☆
ヒフミちゃんの初敗北にここまで影も形もなかったアサシンのマスターが登場!じゃんね☆
ちなみに黒服の乱入なかったら?
そりゃこのままBADエンドじゃんね☆ミーカミカミカミカミカ

ちなみにサーヴァントを自害させると強制的に再召喚されるっていうのメタ的な元ネタは、所謂リセマラじゃんね☆

次回はサーヴァントの生前の記憶をチラ見しつつ、夢の世界でお茶会じゃんね☆
……最後に出て来た子?
本スレの便利屋枠その2じゃんね☆

本作の内容は

  • ①Part6スレまで読んでる
  • ②あにまんの過去ログまで読んでる
  • ③ハーメルン版のみ読んでる
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