阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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おっと、これはこれは。
こんなところで会うとは思わなかったな。
何をしてるのかだって?

そうだね……ちょっとした。
いや、それを語るのはよしておこうか。
何せほら、まだお話は途中も途中。
ネタバレにはご遠慮下さい、ってやつだよ。



花の魔術師

 

 ヒースと青い葉の薫りが風に乗る。

黄金色と菫色が混ざり合って青色が静かな余韻を残す不思議な空模様。

トリニティでもなければキヴォトスでもないその場所に、また一つ。

甘い香りが囁いた。

 

 

 

それを手にしたが最後───君は人間ではなくなるよ

 

 

 

 それはどこまで不思議な声でした。

首に手を回して耳元で囁くような細く小さな音なのに、夏に響く遠雷のように遥か遠くから聞こえてくるようにも聞こえる。

清廉な聖歌のようでありながら淫靡な誘惑のようだった。

揶揄うようでありながら心配しているようだった。

無関心であるようなのに確かに愛していた。

希望を願うような祈りでありながら正解を知りたがる問いかけのようだった。

そして、どこまでも淡く甘い鈴の音なのに。

どこまでも冷たく昏い黄昏の鐘に似ていた。

 

 セイバーさんはそんな彼女の問い掛けに、一瞬だけ瞠目する。

その時の表情を私はなんと表現すればいいのだろう。

苦渋も悔恨も慚愧も憐憫も。

過去と未来。

凡ゆる苦悩が後悔となって押し寄せてくるのをただしっかりと噛み締めるようなお顔。

その上で手放す現在()に別れを告げて、一抹の寂しさ、その余韻を最後に味わっている、そんなお顔だった。

それがどうにも私には見ていて苦しいのに、だけれど決して冒してはならない神聖な物に思えたんです。

そうして逡巡を終えた彼はゆっくりと目を開いて。

前を向いて答えられました。

 

『いいや』

 

張り詰めた表情がほんの僅かに綻んだ気がして。

彼は剣の柄を手に取って。

 

『多くの人の笑顔を見た』

 

首に回された腕を振り払うように。

 

 

 

『ならきっとそれは───間違いではない筈だから』

 

 

 

そう言って。

セイバーさんは黄金の剣を引き抜いた。

青空へと掲げられた剣は何処までも真っ直ぐで、彼の心を映しているようで。強く、靭く。高く、貴く。彼は剣を掲げて言葉にせず誓いを立てる。きっとこれが彼の原点。彼の始まり。

 

『嗚呼、アーサー。君はそれを選択したんだね』

 

 アーサー、彼はそう呼ばれた。

きっとそれが、彼の名前。

なんとなく、すとんと落ちた気がしました。

彼によく似合う、彼にこそ相応しい名前なのだと感じます。

 

 同時にアーサーと呼ばれた彼がたった今、選択をしたのだと分かったんです。

これから始まる戦いの日々を、誰かの笑顔を守る為に。

全てを棄てる、そんな選択を。

 

 きっとこれがセイバーさんの、いいえ、アーサーさんの始まりの物語。

それはなんだか尊くて、だけどとても、寂しい気がして。

私は妙な違和感を感じました。

私の知っている今の彼と目の前にいるこの人の間に、何か()()()()()があると。

けどその思考は、囁くような微笑みと共に風に吹かれてしまいました。

 

『でも奇跡には代償が必要だ。君はきっとそう……一番大切なものを引き換えにすることになる』

 

くすくすと妖精は笑う。

楽しそうにたまらないといった風に。

何処までもいつまでも、晴れ渡る黄金の空の下を駆け抜けながら。

彼女は笑い続けて。

 

『そしてそれは君もだよ』

 

 勘違いなんかじゃないんです。

その瞳が今度こそ真っ直ぐに。

 

『だろう?───阿慈谷ヒフミちゃん

 

私の方を見ながらそう呼び掛けたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁやぁ、初めまして。会えて光栄だよ、異なる星で異なる歴史を歩んだ最果ての子、その末裔の一人よ』

 

 気取って冗談めかした口振りはまるで上等なお芝居でも聞いているような気分になりました。

だって本当にそうなのです。

彼女が私を視認して声をかけてきたその瞬間に。

 

『それとも楽園の霊長、とでも呼ぶべきかな?嗚呼、自己紹介が遅れたけれど構わないでくれ。何せボクはただのしがない魔術師なんだ。君達の物語にとって私はどこまでいっても部外者さ。星読み達の旅路でもない今回に至っては本当に()()()()()()()()()()()だからね』

 

 息を顰めた(潜めた)ように世界から色が喪われていく。

ただの直感でしかないけれど、なんとなく理解するんです。

今この瞬間にセピア色に色付いたこの世界は、遠い過去の記憶なのだと、目の前の人と他ならぬこの夢の世界がそう私に教えてくれているのだと。

 

『とはいえ顔合わせが随分と遅くなってしまって申し訳ない気持ちだけは一杯さ。せめて言い訳の一つぐらいは言わせてくれ給えよ。何せ』

 

 いつの間にか彼女は、停止ボタンを押された画面の向こうの俳優のように一場面を切り取られたアーサーさんの傍から離れていた。

そのまま軽い足取りで私へと向かって話しかけながら歩いてくる。

つかず離れず、確実に近くに来ているというのにその声量は変わらず、けれど耳には確かにはっきりと届いている。

 

『ボクは、君にも()にも。そして()()()()()()()にも私の介入を観測されるわけにいかないからね』

 

そうして彼女は私の目の前まで来られました。

改めてフードを被るその姿をまじまじと見てしまう。

人の顔を食い入るように、だなんてトリニティの生徒として恥ずかしい振る舞いです。

けれど、どうしても我慢なりませんでした。

それほどまでに彼女の容姿は美しかったから。

 

彼女はその恐ろしいほど整った美貌に艶然と弧を描いていた。

薄く小さく、それでいて柔らかさと瑞々しさを感じさせる唇。

ふさりとした睫毛の下から覗く瞳には叡智と妖艶さを湛えていながら、何処か遠くを見ている浮世離れした神聖さを。

硝子張りの温室外に出ない百合のような繊細で白い肌は、俗世の汚れを知らないと言わんばかりにきめ細やか。

ほっそりとした肢体は羨ましさすら感じさせるほど滑らかで、だというのにどこか退廃的な欲を誘う。

 

 人が美しいと、そう感じる物を並べ立ててそこに一匙だけ背徳的な色を載せた真っ白なヒト。

ただただ純粋に美しい存在。

そんな方が今、私に笑いかけていました。

 

『特に君達の世界を観測して万が一でも親切な彼らが介入を始めたらそれこそ御破算、何もかにもがバッドエンド。そら、誰も()()なんて見たくないだろう?……嗚呼だから、気にしないで構わないよ。ボクはそうならない為に、私がこうやって夢の底に訪れたんだからね』

 

ふわりと微笑んで、彼女は私の頬を撫でる。蜜のような静かな吐息を、鼻と鼻が触れ合うような距離で感じる。芸術品のような美しさは触れたら最後、何処までも沈んでいく、そんな気がする。

 

『だからそう、安心して。私が君に会いに来てもなんの心配もない。ボクが君と接触するのを()()は随分と嫌がったけどね』

 

それだけ言って、彼女は距離を離した。

人一人分、ちょうど空いて。

白いドレス、黒いタイツ、金細工のヒール、そして真っ白な髪と杖。

御伽話に出てくる魔法使いとも違う、浮世離れした美女。

そんな彼女は上品に私へ寝物語でも語るようにように、小さな子を諌める母親のようにこれからの話を聞かせてくれました。

 

『さて、ヒフミちゃん。我が愛しき竜の記憶は今回はここまでだ。なぁに心配はいらないよ?だって考えご覧なさい、もう彼の真名は知ったんだ。ならあとは、君が直接話をするだけでいい。朝の食卓でも夜の寝屋でもお好きなようにね?……だからここからは』

 

 くすくすと彼女は笑っている。

古い鈴のように優しく角のない穏やかな声で、夢の中なのに眠りへと誘われるような心地がする。

それを気づいてか、知らない振りをしてか、そもそも気にしてなんかいないのか。

 

 

 

『君がこれから歩む物語について話をしていこう』

 

 

 

 彼女はぱちんと指を鳴らしました。

 

音と共に世界が変わる。

マーブル模様に空が、地面が。

空間が混ざり合うように溶け合っていく。

それは時間にすればきっと一瞬です。

その一瞬で、世界は様変わりしました。

 

 いつの間にかアーサーさんの姿は消えていて、そこはさっきまでいた場所とは変わっていた。

そこは風もなく、人もなく、家もない。

遠くに見える白亜の塔と、一面の花畑。

そんな世界が私の目の前に広がっていました。

 

『ようこそ、我々の星の内海へ。この場所に棲まう住民の一人として、楽園の霊長を歓迎しましょう。とはいえここは夢の世界。この内海の景色も、あくまで影みたいな物だけどね』

 

 先ほどまでとは心地良い空気だけがありました。

青空には変わらず不思議な色が混ざっていて、見覚えだって何一つない景色。

だというのに私は、不思議と懐かしさすら覚えて、まるで自宅に帰って来たような安心感を覚えて、そしてそれに一切の違和感なんて感じませんでした。

 

 私が浸るように耽ってしまうのを彼女は咎めるだなんて事はせず、それどころか嬉しさと興味深そうな好奇心を滲ませて喜んでおられました。

 

『他ならぬ楽園の住民に気に入ってもらえて何よりだ。お茶は如何かな?何の心配もいらないよ、少なくとも私が出す食事に限っては体重も魂にも何の影響も与えない。だってこれはただの夢でしかないからね』

 

 今度は指を鳴らす事はありませんでした。

代わりにその手に持った純白の杖を一振り。

淡い桜色の花弁が舞ったかと思えば、気がつけば彼女は精緻な編み込みが施されたガーデンテーブルと椅子を用意して、そこに座っていました。

 

『さぁ、どうぞ。ついぞ来客が……最近一人増えたけれど基本的には誰も来なくてね。よければ君達の好きなお茶会の席を、私とも囲ってもらえると嬉しいな』

 

 断る理由なんてありませんでした。

彼女に招かれるまま、私も倣うように席に着きます。

それに彼女はまた嬉しそうな顔をして頬を綻ばせました。

 

『君の星、君達のいる場所と同期させようとすると我々の人類史だと此処を除けば少々厄介でね。第一、漂白済みなあの世界にぽつねんと誘う、なんていうのは味気ない物だから。それなら此処に、というわけさ。とはいえ何もない場所だけれど、ゆっくりしていって欲しいな』

 

 そう言いながら淹れてくださるのは、薄いラベンダーに星散りばめたような不思議な色のお茶でした。

温かな春のような優しい香りがして、思わず頬が綻んだのが自分でも分かります。

それを彼女は見届けてからふわりと話し始めた。

 

『さぁ、改めて自己紹介だ。私は……そうだね。他ならぬ君にだから此方にしようか?私はマーリン、花の魔術師』

 

 マーリン。

名乗られたそのお名前にどこかで聞き覚えがあったような気がするのを、私の脳の片隅にある物置から笑い声が教えてくれた気がしました。

 

『君の旅を見守るナビゲーター。素敵で可憐なお姉さんさ!なぁに、呼び方に困るなら気軽にお・姉・ちゃ・ん♡……って呼んでくれても構わないよ?』

 

 お、思った以上にぐいぐい来ますね。

さて、どうしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───じゃあ、その……マーリンさん……って呼んでもいいですか?

 

『ふふっ、勿論さ。でも出来るなら愛を込めて呼んでくれと嬉しいな、ヒフミちゃん』

 

 不思議です。

口に出して、声にして喋った筈なのにこの花園に響く音はどこかいつもと違う気がする。

まるで念話でもしているようで、それともまた違っていて。謎めいた夢のような、そんな感じです。

マーリンさんはそんな私へ絶やす事なく微笑みを向けながら、おかわりのお茶を注いでくれました。

 

『さて、ヒフミちゃん。君の疑問に一つずつ答えなきゃいけない』

 

 カップの中で星屑のようにきらきらと輝く何かが、ティースプーンでかき混ぜられてははしゃぐように踊るのを目にしながら彼女の声に耳を傾ける。

 

『まず君が見たアーサーの姿。あれはね、彼の始まりの物語だ。サーヴァントと契約したマスターは、彼らの見る生前の記憶、その回想に引っ張られて夢の中で彼等の記憶を垣間見る事がある』

 

 生前。

そして記憶。

それはつまり。

 

『先程までのアレはそういう事なんだよ』

 

やっぱり、そのなんだとぼんやりと思います。

アーサー、さん。

その名前をしっかりと記憶に刻む。

大事なお名前だから。

 

『さて次に、君をどうして私が此処に招いたか。それはとても単純でなんの他意も建前も大義だってありはしない。さてさて回りくどい言い方はやめようか。だって話はこんなにも単純なんだ。要するにね……君と話をしてみたくなったんだよ、私は』

 

 思わず苦笑が唇から溢れてしまいます。

回りくどい言い方をやめる、だなんて仰っておきながら芝居がかって結論を言うまで随分遠回りだったものですから。

それにどうやら私が笑ってしまったのはマーリンさんとしても正解だった様子。

私のその反応に満足そうに彼女は喉を鳴らしました。

 

『ハッピーエンドを目指す。本当ならお兄ちゃんの方がこういうのは似合うのだけれど、今回ばかりは私が出張らなきゃいけない。何せ、君はアーサー王を召喚したのだから』

 

 此処に来ての新事実。

どうやらアーサーさんは王様だったようです。

そういえば、時代こそ違えど同郷だと仰っていたキャスターさんが時折丁寧な話し方をセイバーさんにされていたのを思い出します。

もしかするとお二人とも、もしくは少なくともキャスターさんはアーサーさんの正体に気づいていたのでしょう。

 

 そしてマーリンさんにはお兄さんがいる、らしいです。

なんとなくそちらの方とも会ってみたい気がします。

 

『おや、彼と会いたいのかい?うぅん……私が言うのもなんだけど、それはやめた方がいいね。きっと君は気に入られてしまうから。だからボクぐらいがちょうどいいのさ』

 

そんな風に告げられると俄然気になりますが、けれどマーリンさんはその話をなかった事にするように続けてしまう。

どうやら本当に、あまり気にしてほしくないようです。

 

 

 

『いいかいヒフミちゃん。この物語に初めからハッピーエンドは用意されてない』

 

 

 

 底抜けに明るいわけでもかと言って絶望的に暗いわけでもない。

ただ単調に明日の天気でも諳んじるように私達の未来にハッピーエンドはないとマーリンさんは仰いました。

 

『あるのはバッドエンドだけ。そんな物語を君は歩いて行く、ハッピーエンドという未知の可能性を目指して歩いていく』

 

 ありがたかったのはその話し方。

押し付けるわけでも、怖がらせるわけでもない。

どこまでも淡々とした言葉が水面にそっと葉を置くように穏やかに流れていく。

 

『その価値は計り知れない、その痛みは理解されない、その苦しみはただ君の首を締めていく』

 

 事実、なのでしょう。

このマーリンという方と知り合ったのはついさっき。

為人もこれまでの事も何一つ分からないけれど、少なくとも今話されているのは真実なのだと直感が教えてくれます。

 

『この交差点はただ君を追い詰めるだけかもしれない』

 

 だけれど不思議と怖くはありませんでした。

彼女の言葉に色がなく、何処までも穏やかだったから。

辛い現実が待っているんだと伝えられても、動揺したりせずゆったりと受け止められます。

 

『それでも君はその道を歩いていくと決めたから』

 

何より、彼女ははにかんでいたから。

微笑みが雄弁に語っているから。

 

───(ボク)は君を応援してる、と。

 

『ボクは君を応援して、私はそれを見守る事にした』

 

 マーリンさんはカップを傾ける。

ゆっくりと味わうように舌でお茶を転がしてから。ほっと息をついた。

 

『だから今日は無事に折り返しまで辿り着いた君と話す事にしたんだ』

 

 言うなればファンがアイドルに会いに来たって奴だよ、とマーリンさんは説明を付け加えてくれました。

随分世俗的な譬え話ですけれど、私もよくペロロ様に会いに行きますからなんとなく気持ちが分かった気になりました。

 

 そんな風に考えていると彼女が流す視線に少しだけ真剣な色が混じりました。

 

 

 

『君が乗り越えなくてはならない物を知らせる為に』

 

 

 

 そして、そう言われた時。

これは忘れてはならないと頭の中で警鐘が鳴った気がしたんです。

これを取りこぼしてはいけない、これと向き合わなくてはいけないと。

 

『この聖杯戦争に用意された秘密は三つ

 

 今から聞く話は恐らくこの聖杯戦争で決して忘れてはいけない物なんだと強く直感したんです。

 

一つ目の秘密は代償。これは君の友人が既に辿り着いている。異なる世界の法則が交差した事で生まれた弊害だ

 

二つ目の秘密は選択。これからの戦いの中で知るだろう。それはきっと何を選ぶのかという事。誰を犠牲にするのかという話さ。君と相対した者達は誰も彼もが持っている情報は違うけど、何を犠牲にしてどの願いを叶えるか決めている

 

三つ目の秘密は……そうだね、それの名前は()()。これこそが本当の罪。遍くすべての始まり。きっと一番最後まで分かっちゃいけない。言うなれば黒幕、というより真犯人ってやつかな。そしてその秘密の鍵を手にした時、君は必ずどんな形であれ答えを出さなきゃいけない

 

 マーリンさんがしてくださった三つのお話。

それはまるで謎かけのようにとても抽象的で、けれどその中から確実な情報を拾い上げて頭の中で組み立てる。

 

一つ目の秘密は私たちの中の誰かがもう気づいているらしい。言わないという事は隠さなきゃいけないと思わせてしまったのでしょうか。でも誰が知っているんでしょう。

二つ目の秘密は少しだけ理解できる。きっとアルさんやトキさん、そしてマリーちゃんが戦わなきゃいけないと決めた理由。

そして三つ目は、よく分かりませんでした。

けど多分。

今は気にしなくていいのかもしれない。

 

『君の考えている通り、三つ目は自ずと知る事になるから気にしなくて大丈夫。これからの物語は二つ目を探す事に専念するといい』

 

どうやら私はこれから二つ目の秘密を調べていくのが大事になるらしい。

でもそれって、どうやって?

 

『四つの陣営の痛みを知る事』

 

 簡単だろう、と彼女は微笑う。

 

『誰が何を知ったのか、それを受けて何を考えたのか、その果てにどんな願いを抱いたのか。それが肝要なんだ』

 

少しだけ安心しました。

それはこれまでもやって来た事。

誰かの想いを、本心を理解しようと探して言葉を尽くす。

これから私が頑張っていこうと決めた事だったから。

 

『勿論、君がどんな風に探していくのかは好きな方法を選べばいい』

 

 マーリンさんも私の考えを見通しているのか、頷いて肯定してくれました。

 

『始まりの夜から7日目までの足跡を辿るのも』

『彼女達の仲間にコンタクトを取るのも』

『そして夜に訪れる彼女達と戦う中で聞くのも』

 

 

 

()()7()()()()()()()()()()()

 

 

 

どうやら、彼女達がいた場所やそこでの足取りを調べていけばいいらしい。

そして、それをするのもしないのも自由なのだという。

 

『さて、ここからはもっとシンプルにいこうか』

 

さくりと、彼女はお茶請けのクッキーを齧る。

小さな割れた音が合図のように花畑に広がっていきます。

 

『君が知りたい事を三つまで答えよう。とはいえ残念ながら私は全てを知っているわけじゃないし、答えられない事もある。何故なら君が自分でそれを知らなきゃいけない事だからね。それでも君が真実に近づきたいとするなら私も助力は惜しみたくはない。だから』

 

 

 

『さぁ───何が知りたいかな?』

 

 

 

「知りたい事は、沢山あります」

 

『いいとも、何でも聞いてごらん』

 

「……この聖杯戦争は必ず犠牲者を生むシステムだと聞きました。どうして、そんなシステムになっているんでしょうか?」

 

『それはねヒフミちゃん。他ならぬ聖杯がそういう風に決めたからだよ。例え何度自害させようが関係ない。サーヴァント同士が戦って、倒されて、そうやって必ず勝敗を決着させる。それこそが聖杯戦争であると聖杯は定義付けられたんだ』

 

「定義づけられている。まるで本当にシステムのようなんですね」

 

『そうだとも。だから自害なんて許されない。必ず殺し合いをさせる。それ以外の決着がルールにないから、その結果以外になったらやり直しになるんだ』

 

 殺し合いの強制。

必ず勝者を生むシステム。

それがキヴォトスで発生した聖杯戦争の大原則なのだと彼女は言う。

 

『もし君が理屈や理由をシステムに求めるのなら……そうだね君達は優先度を変えるべきだ。会うべき者は君達とは違う視点でこの戦争を見ている人だよ』

 

 違う視点。

私の視点はセイバーさんのマスターで、聖杯戦争の参加者。

願いはハッピーエンドで。

 

『そう、君はその願いの為に戦う選択をした。それが君の視点だ。だけれどその選択をしなかったものもいる。それだけじゃなく、マスターやその関係者に限らなければ他にも沢山、友達がいる筈だろう?』

 

 私の周りにたくさんの方が力を貸してくださるように。

アルさん、マリーちゃん、飛鳥馬さん、ミノリ先輩、黒服さん。

そしてモモイちゃん。

他のマスターさん達にもそれぞれの人間関係があるのは当然の話です。

その中には聖杯戦争と無関係な人もいるでしょう。

でも無関係だから、マスターになってしまったから、だからと言ってその関係がなかった事になるわけじゃない。

 

『本当にこの聖杯戦争について、三番目の秘密を知りたいなら沢山の場所を歩いてごらん。どんな選択もきっと何かに繋がるとボクは思うよ』

 

「それなら、他にも聞かせて下さい。」

 

『さあどうぞ。君の言葉に答えよう。君が紡ぐ物語に彩りを加えられるように』

 

「この聖杯戦争でサーヴァントを倒され敗北したマスターや令呪を奪われたマスターはどうなりますか?」

 

『敗北したマスターも令呪を奪われたマスターもその事が原因で死亡する事は決してないよ。それだけは安心してほしい』

 

良い視点だよと彼女は仰ってから少しだけ、表情を暗くしました。

その色はなんと言えばいいのか、まるで大好きなおもちゃが壊れてしまった子どものよう。

 

『けれど、私は。そうだね。君だけは令呪を棄てるのをおすすめしない』

 

 

 

『───君はマスターである責任から逃げてはいけない

 

 

 

『なんて、言い方は少し酷かもしれないけれど。私はみすみすお気に入りの子が死に至る選択を取らせるつもりはないんだ』

 

「……私は、マスターを降りたら死ぬんですか?」

 

『いいや違う。君がマスターを降りたら、最後の最後で君は自分のヘイローを砕く事を選ぶ』

 

なるほどと、私は納得します。

だってそうなんです。

 

『……そういう選択をするかもしれないって話さ』

 

「人任せには、できませんもんね」

 

『そうだね。君はそういう子だ。だから私は、君が誰かに戦いを託す選択を選ぶのは正真正銘最後になると思うよ』

『どうしようもなく時間が足りなくなって、それでも足掻いたビターエンド。それが君が唯一、誰かに己の夢と願いを託して舞台から降りる時だ』

 

 なら、まだその時じゃありません。

降りれません。

私はハッピーエンドを目指したいんです。

だから……。

 

「教えて下さい。誰の願いも犠牲にせず進む道は本当に不可能なんでしょうか?」

 

『いいや、それこそまさか。君達の本当の願いはハッピーエンドを目指すなら必ず叶えられる』

 

その言葉に私はいつの間にか少しだけ力の入っていた肩の力を落としました。

 

『けれど君はまだ、誰の願いも知らない』

 

「……誰から知っていけばいいんでしょうか?どんな風に探せばいいんでしょうか?」

 

『それは内緒さ。今この場全てを話しても、この物語はハッピーエンドに決してならない。其れ等は全て君達が選択した先で知らなくてはいけない。そうしないとバッドエンドになるからね』

 

知る事。

選択する事。

それをしないといけないのだと彼女は言う。

 

『そうだとも。聞くべき人も場所も君達はもう十分に手に入れた。これから先を知りたいならそこからまずは探していくべきだ。勿論、これからの戦いに備えるのも大事だろうけどね』

 

 重ねるようにマーリンさんは仰られる。

知る事、探す事。

他のマスターの本心を見つけるのが大切なのだと何度も糸を紡いでは布を織っていくように。

これから私がすべき事の中で大事にするべきだという要素についてのアドバイスを私は心のノートにしっかりと記録する。

忘れないように、勘違いしないように。

 

 つい、考え込んでしまったのかもしれません。

マーリンさんは私の気持ちをほぐすように軽い調子でその名前を口にしました。

 

『それから。どうしてもこれから先の選択で悩む時は───古関ウイを尋ねるといい』

 

 ふいに見知った方の名前が私は目を丸くしてしまいます。

その表情を見てか、マーリンさんはおかしそうに声を殺した。

 

『ああ。彼女は君の先輩なのだから、きっと導いてくれる。だからどうか怖がらずに』

 

「そうですね、その時は古関先輩に色々聞いてみようと思います」

 

古関先輩は頼りになる方です。

これまでも何度も助けてもらってきました。

また彼女の都合がよければ、力を貸していただきたいと改めて考えていると。

 

『……さて、この聖杯戦争にタイムリミットがあるように、この夢にも終わりはある』

 

どうやらお茶会のお開きの時間が来てしまった事を知らされました。

 

『またいつか、この戦争が終わるその時に会おうね。君の旅に幸いが在らんことを』

 

「色々教えてくださってありがとうございました,どうかマーリンさんもお元気で」

 

『ありがとう。ああ、そうそう最後に一つ』

 

 立ち上がった彼女は私の傍まで来ると、そっと私の頭を撫でてくださいました。

優しく、母親のように。

そっと壊れ物を扱うように。

そうして最後に付け加えるようにしてマーリンさんはその言葉を告げられた。

 

本当に困って辛い時は一人で遠出をしてご覧。その時は───甘いお土産を忘れないようにするといい

 

そう言われたのと同時に、私の意識は浮上していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出てきたらどうだい?」

 

「───情報、出し過ぎですよ」

 

そう、むくれて咎める声にマーリンは笑う。

鈴を転がす音が花園に響く。

 

「心配性な事だ。それもまた仕方ないけれどね……ところでどうだい?お茶でも如何かな?」

 

「結構です、この後にまだ計測しなきゃいけませんから」

 

「それは残念。まあ頑張りたまえ、私はこの(うてな)で彼女達の奮闘を見守っているよ。勿論、君の事も、ね?」

 

そうマーリンは二、三度手を振って。

また一人きりになった。

 

 

 





1じゃんね☆
えー……遅くなりましたじゃんね☆
とりあえずこれで第一部はしゅーりょー!
新キャラとしてマーリンことLAちゃんに登場してもらいつつざっくり今後の流れを話したので、ここからは第二部に突入じゃんね☆

第一部は聖杯戦争について知る時間。
そしてここから先の第二部はマスターの願いについて知る時間になるじゃんね☆
四つの陣営の願いを知っていくお話になるじゃんね☆

……最後に登場した子?
あの子は所謂ただのゲスト、本作に限ってはまったく気にしなくていいじゃんね☆

さて、ここからはいつものこぼれ話じゃんね☆
大体ケセド戦のあたりからスレの方の読者様から聞かれていた質問。
『この聖杯戦争には予備システムがあるか否か』についてじゃんね☆

Fateシリーズの一つ、『Fate/Apocrypha』をご存知ない方用に説明するとFateシリーズに登場する冬木の大聖杯と呼ばれる物には、戦線が一定期間膠着した場合や有事に備えて追加で七騎のサーヴァントを召喚するシステムがあるじゃんね☆
その結果生まれるのが七騎vs七騎の聖杯大戦ってやつじゃんね☆
要するに上の質問は聖杯大戦になりますか?って話じゃんね☆

最後に結論と回答をするじゃんね☆
本作には大戦√を用意しています、ただし大きなデメリットが発生しますがそれはハーメルン版には一切関係ありません!……じゃんね☆

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