監督役の介入、か……
面倒な事になったね、社長。
まあでも仕方ないよ、これまで邪魔してきたアサシンのマスターが分かっただけでも御の字。
大丈夫。
───ここからは私達の番だよ
一夜を明けて
微睡の中で静かに花の香りが鼻をくすぐった気がしました。
「……あさ」
瞬きを繰り返しながら毛布を被り直そうとする自分を抑え込みつつ上体を起こします。
アルさんとの戦闘。
その後の黒服さんとの遭遇。
連続して起こった二つの出来事で私も、そしてセイバーさん達も正直言って限界でした。
黒服さん達が立ち去ってから、なんとか居住フロアのある地下まで戻った私は、先に拠点に戻っていたアリスちゃん達の様子を見て。
疲れ切って自室に戻るのもなんだか億劫で、結局食堂のソファで寝てしまったのを思い出します。
「んっ……ん」
食堂にはまだ誰も来ていませんから、少しはしたないですけど気にせず伸びをします。
疲れは殆ど残っていませんでした。
その事を不思議に思いつつ頭を軽く振って、シャワーを浴びに立ち上がって。
ふわりと頭の上から何かが落ちてきたのに気づいた。
慌ててそれを手に取ってみると。
「……そういえば、そうでした」
淡いピンクに染まる白の花、それはきっと夢の世界で出会った彼女の物。
『君が必要とした時、一度だけどんな形でも助けてあげよう。ただし一度だけだよ』
なんて言葉が聞こえてくるような気がしました。
ところでこの花、切花みたいですけど持ち運ぶとしたらどうしたらいいんでしょうか?
まあ、今はいいでしょう。
ほら、ばたばたした足音を聞こえてきましたし。
「ヒフミ!?すまないけど、なんだか嗅ぎ慣れた香りというか残り香というか気配というかそういうのを感じてね!?君、何か知らないかい?!」
すごい焦り具合です。
どうやらマーリンさんとは因縁浅からぬご関係、みたいですね。
アーサー王、といえばアーサー王物語でしたか。
昔の御伽話なのは知ってますけれど、
その単語を知っているのだって以前古書館でアサシンさんについて調べた時にそういった古書を見かけたから。
少なくともアーサー王という存在はこのキヴォトスでは教養の範囲外にある、それこそ古書や考古学の専門家の方の分野にありますから。
一度調べに行ってもいいかもしれませんね。
それはさておき。
「はい、どうされました?私、これからシャワー浴びてくるので朝ごはんはまだです。よかったらレタス千切って、炒り卵作っておいて下さい。サンドイッチにしちゃいますから」
とりあえず二人きりですし、花は髪に挿して。
「あ、ああ……いや、ちょっと待ってヒフミ。その髪に挿してるの「それから」……い、あ、うん」
とびきりの笑顔を作って、この人をからかっちゃいましょう。
「おはようございます、
「あ、うん……おはようヒフミ……いやちょっと待ってほしい。一体どこで僕の真名……やっぱりまさか!?」
「それじゃあ私、シャワー浴びてきますね」
「あ、こら!ヒフミ待ってくれ!やっぱり彼女と───」
たまにはそんな悪戯もいいですよね?
ブロッコリーは茹でるより電子レンジで済ませた方が栄養が落ちない、らしい。
よく分かってはいないけれどそうやって聞いてからレンジで温めるようにしています。
「いいかい、ヒフミ。真名という物は本当に大切な物でね。先ほどのようにみだりに口にしてはいけないし後マーリンの言うことを鵜呑みにするのもとても危険なんだ」
アーサーさんの用意してくれたスクランブルエッグをトーストした食パンの中ほど、その切れ込みにマヨネーズを塗ってから軽く押し込んで入れていく。
「大体マーリンはね、ようやく旅を終えたかと思ったら僕をまた理想郷から追い出すし、挙句に自分は好き勝手色んなところに遊びに行くような魔術師なんだ」
今度はベーコンとついでにその油で目玉焼きを焼き始める。
あまり無駄遣いはよくないけど、自分のお財布じゃない*1という事で、ちょっぴり厚切りにさせてもらっちゃいます。
「彼女の性質は夢魔なのもあって本当に僕も若い頃から寝ている時にちょっかいをかけられてばかりだから分かるけど。いいかい?決して彼女に気を許しちゃいけないよ。彼女、その気になったらヒフミだって全然、いやむしろ彼女の性格を考え……ヒフミ、聞いてるかい?」
ベーコンの焼けるいい匂いがする。
昨日の腐った海鮮丼か古くなった牛ホルモンみたいな臭いのオートマタに比べると全然いい。
というより比べちゃいけない気がしますし、調理中に思い出しても気持ち悪くなるだけですから努めて忘れようと思います。
それにそんな事を考えていられる余裕はないでしょう。
なぜって、それはもちろん。
きっとこの匂いにつられて。
「もちろん聞いてますよ、アーサーさん」
「だからね、ヒフミ。真名はそんなに「だめ、ですか……?」くっ……」
みなさんもそろそろ起き出すでしょう。
珈琲良し、紅茶も良し。
そういえば今日からドリンクバーも来るという話でした。
朝食を食べ終えた頃には届くでしょう。
今後は手軽にコールドプレスジュースが飲めるのはありがたい話です。
でもその分、夏だからといってお腹を冷やさないようにしなきゃですね。
「二人でお話しできる時、そんなにありませんから。ちゃんとお名前で呼びたかったんですけど……だめですか?アーサーさん」
「……はぁ。アズサやナギサが苦労しそうだ。君の好きにして構わないよ」
「はいっ!好きにしちゃいます!アーサーさんっ!」
そんな風にアーサーさんとお喋りしていたら、足音が聞こえ出す。
昨日はたくさん色々あった。不安な事もたくさんある。それは私だけじゃない。
だからこそ。
「みなさんっ!おはようございますっ!」
そんな不安を吹き飛ばすぐらい素敵な朝ごはんと笑顔で、一日のスタートを切ろうと私は思ったんです。
「うわぁん!モモイがアリスのベーコンサンド取りましたぁ!」
「へっへーん!早い者勝ちだよ、アリスぅ!」
「バカやってないで早く食べちゃいなさいよ、モモイ。この後の予定話すんだから……ほらアリス、私のやつあげるから」
騒がしい、かもしれないけどいつもの調子の二人を眺めつつ私はアズサちゃん達と食後の紅茶を楽しむ。
三人ともも、昨日の怯えた様子は見られません。
一晩ぐっすり寝て、落ち着かれたようでした。
正直あの様子を見てかなり心配をしていましたから、今日こうやって食堂で顔が見れてホッとした。
「モモイ達もそうだが、お前も大事なく目覚めてくれて安心したぞ、アズサよ」
「心配かけた、すまないキャスター……もう大丈夫、次はあんな事にはならない」
「うむ。そうならない為にも我も何かしら対策を練らねばなるまい」
あの時感じた音による重圧。
全身に鳥肌が立って、まるでライオンか何かの前に丸裸で立たされているような、そんな捕食者を前にしたような感覚。
恐ろしいと、本能が訴えかける『声』。
その対策となると、どんな装備になるのでしょうか。
「私達も駆けつけれたら良かったのですが……」
「いや、休めれる時に君達がしっかり休息してくれていたのは正直助かったよ。全員グロッキー……なんてのは目も当てられない」
「うむ。ライダーだけでなく、あのオートマタも厄介だ。見た目こそオートマタだが、その実中身は魔物の類であろう。臭いだけでなく、存在自体が毒になり兼ねん」
中身が違う。
そうキャスターさんは断言されました。
では一体、あのオートマタの正体はなんなんでしょうか?
「そういえば、遅くなってしまいましたが……」
そう言ってハナコちゃんはレポートを取り出した。
今すごい自然にスカートの中から取り出した気がしましたが私はスルーします。
「こちら、ウイさんから預かった『ゴルゴネイオン』についての追加調査結果です。これに少しでも何かヒントがあればいいんですが……」
中に書かれているのはゴルゴネイオン、そしてそれ関連するとある女神の事。
「やっぱりライダーって人の真名はメドゥーサ……なのかな?」
「反英霊*3か、或いは女神であった頃か。どういった側面かまでは断定はできんが……真名についてはほぼ間違いないだろう」
コハルちゃんの言う通り、どうやらメドゥーサ、さんというのが彼女の真名らしいです。
ただ短い情報の中に書かれた彼女の物語を読む限りだとなんだか、悪い人というより、被害者な感じがします。
「おじ様、セイバーさん。そのメドゥーサっていう英霊の方は強いんですか?」
「
「……かつての聖杯戦争で、彼女を討ったペルセウスと戦ったことがある。彼はとても強く賢く、そして何よりも手強い英霊だった。流石はギリシャ二大英雄の一角、というべき戦士だった」
セイバーさんは手こずったとはっきりと言われて、そんな彼が死力を尽くして倒したとされるライダーさんの強さが想像以上なのを再確認します。
「とはいえ問題は奴の真名ではあるまい。令呪を宣言してからの戦闘はほぼないに等しかったが……あれはまともサーヴァントではないな。少なくとも我々が単騎ではそれこそ奴のマスターが言っていた通り、
「けど……この前もれ、令呪使って、今回の分も合わせたら残り一画……そんなに使ってたら」
「ユズちゃんの言う通り、トドメを刺し切るわけでもないのに、あぁも使い込んでいる。それなら、何かしらの絡繰はありそうですね」
右手の甲で僅かに光る刻印、私の令呪を見る。
昨晩こそ使う判断まで追いやられたけれど、果たして三度しかない令呪をそんなに使えるんだろうか。
「やっぱりさ、私ゲヘナ調べるべきだと思うよ」
そんな風に考えていると、モモイちゃんから提案が出されました。
「……アリスも、ゲヘナに行くべきな気がします。アルの言動はいつものじゃありませんでした!アリスはちゃんと調べに行ってみたいです!」
「……っていうのもあるしね。まあとりあえずゲヘナにアポ取って調べてみたいんだよね。あの報告書にあった教会」
報告書の教会、というと先生から頂いた資料の中にあったカイゼリン・ブリッツ記念教会、の跡地のことなんでしょうか。
確かに気になりますが、ユウカさん達から止められているんですよね。
「……ゲヘナについて調べるなら、何も現地行かなくても大丈夫じゃない?ここにも図書館あるし、なんならトリニティの古書館はゲヘナについての資料もあったはずだし」
「そっか、トリニティとゲヘナって結構……」
「まぁ、あんまり仲良くないというか仮想敵というか……そんな感じらしいからその手の機密情報?なら案外分かるかもだし……」
古書館に行ってそういう資料をスムーズに貰えるかは……いえ。
昨晩夢の中で古関先輩を頼りにするようアドバイスを頂いたばかりです。
彼女ならきっとなんとかしてくれる筈です。
「ですが今日はセンチュリオンさんの改修があるんじゃなかったでしたっけ?そうなると移動に関しては公共交通機関を使う必要がありますから、私は……ミレニアムから出なくてもいい気がします」
「私もハナコに賛成だ。……昨日の戦いで感じたけどこの一帯に少しずつでもいいから調査をして罠を仕掛けておきたい。次はもっと優位に戦闘を進められるように」
ハナコちゃんとアズサちゃんはミレニアムで。
「でもD.U.あたりにはいけるし……それならミノリさんとお話しできませんかね?」
「バーサーカーのマスターか。ミレニアム内でも話せるけれど、D.U.に呼び出すとなると」
「その後、先生のところに行ったりしてもいいのかなって。もしかしたら他の陣営の情報があるかもしれませんし……」
ミドリちゃんはD.U.でミノリさんと会ってみたい。
─── いつでも古聖堂へ。
黒服さんとも一度しっかりどこかで話す必要がある気がします。
けどそれはあまり急がなくてもいいと言いますか、
少なくとも今は手元にある情報の整理や他の場所で調べるべき事が山積みです。
朝食を取りながらみなさんと一緒にする作戦会議。
色々な案が出て来ましたが私達は───。
古書館の主人は定時連絡と称して送られてきた小包、いや資料を眺めて、ため息をつく。
どれだけ頼まれようと己の力ではどうする事も出来ないのを彼女は理解している。
伊落マリーも、そして恐らく阿慈谷ヒフミもこのままいけば間違いなく
その事実を浦和ハナコと共有した昨日、結局彼女は逃げるように帰ってしまった。
「もう……ここには来ないでしょうね」
思わず口に出た言葉に何を馬鹿なことをと言うように不快そうに顔を歪める。
古関ウイはシスターフッドの、伊落マリーの協力者だった。
ハナコ達の敵であり、それをずっと黙っていた。
それなのに、ハナコ達にも協力してしまっていた。どちらにも公平と言えば耳障りはよいが、彼女達にとっては裏切りと捉えても可笑しくない。
そんな相手をこれから先、あの浦和ハナコが信用する筈ないだろう。
何より。
「(友達、それも二人ともが死ぬかもしれない……か)」
古関ウイはマリーともヒフミとも交友関係も面識もあっても深い関わりがあるわけではない。
いなくなったら寂しさを感じる。
涙だって出るかもしれない。
けれどハナコのように日頃から付き合いがあったわけではないのだ。
だからこそどこまでいっても彼女はこの舞台に上がる事が出来ないでいた。
いっそのこと───。
「……馬鹿馬鹿しい」
或いは自分がマスターであったならもう少し力になれたのではなどという軽挙な妄想が頭を掠めた事実を、彼女は口に出して否定する。
聖杯戦争への参加。
それを自分がしたらなんて、あまりにもあり得る筈もないと結論付けた事をまた考えてしまったのだから。
第一、話を聞いた限りこのキヴォトスにおいて聖杯戦争のマスターになるなぞ、とんだ貧乏くじだとウイは認識していた。
「(サーヴァントと生徒の認識には齟齬がある。そしてその齟齬を乗り越えられないキヴォトスの人間が聖杯戦争に参加したって碌な末路は迎えられない)」
ウイの考えはある種、とても正しかった。
サーヴァントはごく一部の例外を除いて、その殆どが自らを
故に、戦いに敗北して願いが叶わない事を悲しむ事はあっても、死する事そのものに臆す事もなく、そして『今』を生きる者とは必ず一線を引こうとする傾向にある。
仕方がないのだ、彼らは死者なのだから。
だが生徒は違う。
魔術知識という前提のないキヴォトスの人間にとってサーヴァントは、自分で思考し、意思も願いも持っていて、温かな体温を宿す彼らをほぼ必ず
「(キヴォトスに魔術は存在しない。その体系化された技術も、そして技術に付随して存在するべき価値観すらない。だからキヴォトスの生徒がマスターになってもサーヴァントとの認識の齟齬を
この齟齬は、あちらの世界とキヴォトスで起こる聖杯戦争とで大きな隔たりを生むのを古関ウイは理解している。
サーヴァントを犠牲にする儀式その物への極度の抵抗感、倫理的・道徳的な忌避感。
それらがある故に割り切れない、だから碌な末路にならないと彼女は気づいていた。
その上での魔力供給による悪性症状。
即ち、魔力供給による拒絶反応。
「(ハナコさんが阿慈谷ヒフミに言えるわけがない。貴女が信頼を寄せるパートナーのせいで貴女は死にます……なんて)」
その事実を知って、それを伝えた二人と当事者である伊落マリーが
そしてその顛末を恐らくはハナコは推理しているのだろう。
だから彼女は余程のことがない限り、その事実をずっと胸の内に留めて秘密とする筈だとウイは直感している。
それを抱えて彼女は今日を生きている。友達がいつか死んでしまうと怯えながらきっと気丈に振る舞っている。そんな彼女が裏切り者の自分なんかに会いに来る時間も余裕もないと自嘲して。
その痛みがどれだけの物か。
その苦痛がどれほどの物か。
察して余りあってもどうしてあげることも力になる事もできない無力感を同時に感じて。
結局、古関ウイは。
「はぁ……本当、嫌になる……」
今日もただどうにもならない現実に歯痒さを感じながら絶望するしかない。
───助けて。助けて下さいウイさん。マリーさんがっ……私の後輩がっ!
「……ごめんなさい、ヒナタさん」
─── 聖杯戦争のマスターに残された時間はあとどれぐらいですか?
「……ごめんなさい、ハナコさん」
何の役にも立てない己を呪いながら。
けれど今日も古書館の時計は針が進むのを止めてくれはしない。
誰もいない部屋で一人、古関ウイはもう顔を合わせる事もないのだろうと諦めている友人二人の泣きそうな顔と嘆願する声を思いだしながら。
息を、溢して。
「こ・ぜ・き・ウ・イ・さん♡」
背後、それをしなだれかかるように抱きすくめられながら耳元で囁き掛けられた馴染みのあるそれに。
「なああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?」
奇声を返した。
わなわなと拳を震わせてウイさんは信じられない物を見た時みたいな眼をしている。
そ、そんなに急に来たら不味かったんでしょうか?一応お土産にアンテナショップで『ハートサブレ』*4とついでに近くで売ってたレッドウィンター銘菓の『赤い恋人』*5も買ってきたんですけど。
「……な……っ?」
「な♡んでしょうか?古関先輩♡」
「……っ……何しに来たの?」
「あはは……実はまた色々調べて頂きたくて。あ、これ今回のお土産です」
「うふふ、そうなんです。ですからぜひ、
その言葉に顔を伏せたウイさんの表情は前髪で隠れてしまって見えない。
何か、気に障った事を言ってしまったんでしょうか。
ハナコちゃんが大丈夫だと妙に自信ありげに言うので特にアポも取らずまた裏口から入ってきましたけど、やはりお忙しかったのでしょうか。
「信じられない……馬鹿じゃないの?」
「そうですか?私は
「っ……本当に、どうしようもない子ね、貴女」
「はい。そんなどうしようもない後輩ですから……色々教えて下さい♡」
そんな風にハナコちゃんとウイさんは少しだけ、お二人にしか分からない話をしてから、ウイさんは顔を上げた。
「分かった。なら勝手にすればいい。それで?今日は何を調べたいの?」
「それなんですけど、まず「ま、まず……?」あはは……その一つ目は」
そう言ってからちらりとモモイちゃんを見ると彼女は頷いて言葉を引き継いでくれた。
「私達が調べて欲しいのは、ゲヘナ自治区のある教会」
頬杖をついて聞いていた彼女はゲヘナと聞いてうんざりした顔をしましたが、次の瞬間。
モモイちゃんがその場所の名前を口にした時。
「───ゲヘナ自治区・旧カイゼリン・ブリッツ記念教会跡地。それを調べて欲しいんだ」
ウイさんの表情から血の気が引いた、そんな気がしました。
最初に見せたのとも違う、明らかに動きと表情から動揺が見え隠れしていた。
「カイゼリン、ブリッツ……!?待って、待ちなさい。貴女達、
椅子から立ち上がり、問い詰めるように私達へ告げてからすぐに自分の中で答えが出たように呟いて。
頭を抱えながら彼女はまた座り込んでしまった。
「やっぱりダメ、かな?ミレニアムでも止められたんだけど」
「……そうでしょう。ミレニアムの誰に聞いたか知りませんけど、そんな物を後輩が調べようとするなら私だって止める。ええっと、貴女」
「あ!私、才羽モモイ!よろしくウイ先輩!」
モモイちゃんの元気一杯な自己紹介に、いつもなら声が大きいと注意しそうなのを一切せず押し殺すような声でウイさんは続ける。
「では、モモイさん。どこでそんな物知ったのか気になるけど、悪いことは言わないわ。今すぐに全部忘れなさい」
「……やっぱりダメ?何も全部知りたいとかじゃないんだ。せめてカイゼリン・ブリッ「その言葉を」……うん」
「その言葉を安易に口にするのはやめなさい。別に怒ってるわけじゃない。私だってその単語自体に思うところはあっても、直接的な被害に遭ったわけじゃないから別に気にならない。でも古書館は問題なくても、人は慣れる生き物だから……下手に外で口にして大事になるなんて嫌でしょ?」
きっぱりと、いつものウイさんから信じられないほど厳しい言い方で注意をして、それから彼女は諭すように補足した。
その言葉に私は、まるで小さい子が危ない事をしたのを、それがどれだけ危険か説明する母親のようだと思ってしまった。
「あの、ウイ先輩……私達それでも知りたくて」
「コハルさん……貴女、確か正義実現委員会でしたね?」
「あ、はい……あの、そうですけど……?」
「……その様子だと本当に
呻くようにウイさんは確認をしていく。
どう見ても尋常な様子ではなくて、もしかして聖杯戦争とはまた違う形でマズい事を調べようとしているのではと胸が早鐘を打ち出す。
「あの古関先輩、どうしてもお願いできませんか?姉の不躾なお願いになりましたけど……私達、今どうしてもそれについて少しでも知りたいんです」
「ぁ、ぁわ、私も……その、お願いします!……それが今その、追っている事と……その関係があって……」
「ウイ!お願いします!友達が……アリスの友達とも関係があるかも知らないんです!」
ミドリちゃん達からの言葉を受けても苦虫を噛み潰したようなウイさんの表情は変わらない。
むしろ余計に酷くなっていった気がする。
「……まさかとは思うけど、現地調査するつもりだったわけじゃないでしょうね?」
「そのつもりでした……と言えば交渉材料になりますか?」
「馬鹿みたいに分かりきってることを聞くのはやめなさい。無断でそれに関わったなら下手すれば卒業まで勾留されるわよ」
思った以上に大きな話のようで思わず私の口から重い息が出そうになる。
間違いなくアルさん達の手掛かりになりそうなんです。これだけ上級生が触れられたくない『立ち入り禁止区域』に指定されている建造物とその周辺一帯。
何か関連があってもおかしくないと、実際にモモイちゃんは考えてる。
けれど、廃墟やカタコンベ以上に厄介ごとであると直感がするんです。
「……とはいえ私が教えなきゃ貴女達、勝手に調べ出しそうだし。はぁ……本当に最悪です」
とはいえウイさんは納得してくれたのか、眉間を抑えつつ了承に近い保留の言葉をくれました。
「紙には残しません。口頭でのみになりますが……構いませんね?」
「勿論です。よろしくお願いします、ウイさん」
「……可能な限り、お調べします。それで?他には何が聞きたいんですか?」
その言葉に私は、思い切ってリュックサックに入れていたそれを取り出しました。
「とりあえず、こんな感じのことを教えて頂きたいんです……」
私はおずおずとウイさんへ『メモ用紙』と『メモリーカード』を渡した。
「……なに、珍しい。正式なレファレンスサービス利用じゃないんだからメモじゃなくて口頭でいいんで、す……けど!?」
①ハナコが用事で忙しいと言っていたが何かしらあったのか
②アーサー王の本を借りるまたは読む
③ゲヘナ、トリニティ間にある地下通路について
④メドゥーサ、ゴルゴーンについて調べてもらう
⑤腐敗したオートマタについての考察や対策(腐臭漂うオートマタの様子やそれが召喚される様子についても話した上で)
⑥スカサハのもう一つあるっぽい宝具の考察
⑦アーラシュやスパルタクスについて調べてほしい
⑧銀の薬莢とアンプルについて
⑨マリーやヒナタ、シスフの様子について聞く(特に、マリー関連で何かしらなかった)
⑩聖杯戦争についてある程度(マーリンから聞いた”自害なんて許されない。必ず殺し合いをさせる。それ以外の決着がルールにないから、その結果以外になったらやり直しになるんだ”という仕組みも含めて)話せる範囲で話してウイの所感を問う
絶句、さています。
いや、はい、すみませんウイさん……。
でもマーリンさんも頼りなさいって言っておられましたし。
せっかくの良い機会でしたから、つい。
「待って、は?また映像分析?ミレニアムで頼みなさいって私言いましたよね?スカサハ、スパルタクス、アーラシュ?なんでこんな時代も場所もめちゃくちゃで調べにくい人達でそれも揃いも揃って大英雄?え?は?そういう事なんですか?おかしいでしょ……というかゲヘナとトリニティ間の隠し通路?知りませんよいやそもそもそんな物は古臭い噂話の筈……え?私これ全部調べるんですか?」
「あはは……午前中でお願いします」
「……紅茶淹れて下さい。あと今日じゃなくていいからまた今度、ミレニアムロールケーキ買ってきて」
「はいっ!勿論ですっ!」
白目剥いて今にも叫びそうなウイさんでしたが、なんとか飲み込んですべて調べてくれると頷いてくれました。
やりました!流石マーリンさんのアドバイスです!*6
「ウイ先輩、ウイ先輩!アリスは質問があります!」
「……どうぞ、アリスさん」
立ち上がりかけたウイさんへ、アリスちゃんから質問の声があがった。
「古臭い噂話とはなんでしょうか?アリスのデータベースにはその『噂』についての情報はありません!」
その質問へウイさんは少しだけ目を細めてから深々とため息を一つ吐き出して、答えてくださいました。
「……なんて事はありません。昔はトリニティでよく聞いた、今はもうあまり聞かなくなって久しい噂話です。だから貴女達の学年、ましてや他校の生徒が知らないのは無理もありません……ゲヘナとトリニティの関係性は知っていますか?」
クラシカルな銅縁の眼鏡を取り出して私達に聞く姿はまるで講師の方のように思慮深さを感じさせます。
「はいっ!トリニティとゲヘナは仲があまりよくないと聞きました!」
「あ、アリスちゃん……直球すぎるよぉ……」
「ユズさんでしたね?大丈夫ですよ、事実ですから。トリニティとゲヘナの両校は実際に仲が
結局御破算となりましたけどねと気まずそうにウイさんが語る言葉に少しだけドキリとする。
エデン条約。
それは私にとっても、そして私達補習授業部にとっても、決して忘れられない出来事だったから。
「仲が悪い、今よりずっと酷い頃があったんですよ。その頃に流れた噂話の一つがゲヘナの隠し通路」
「曰く、ゲヘナは秘密裏にトリニティ侵攻の為の地下壕を作っている。その隠し通路はトリニティの中心地区に繋がっている……そんな出来の悪い噂話が抗争が酷かった時代に流れたんですよ。当然、今ではゲヘナ側もトリニティ側も否定してますけどね」
そんな風にウイさんはいうけれど、私達は前回の自治区境界線の調査で物的証拠は集められなかったけど状況証拠からそう推測した。
だから、思わず聞いてしまった。
「もし、そういう物があるとし「ありません」……ぅぅ」
けれど私の仮定と推理は、ぴしゃりと古関先輩に一蹴されてしまいました。
「そんな物を我々は作らせなかったし、作っていたのなら確実に破壊されています。何より古書館にも資料が残る筈です……あの時、
そう言って気まずそうにウイさんは目を逸らした。
「続きについては、また教会について調べてからお知らせします。それからアーサー王についての資料でしたね、そういう物でしたらすぐ用意しますからご自分達で確認して下さい」
背後でなんとなくセイバーさんがバタバタしている気がしますけど、とりあえず今は無視します。ウイさんが書庫の奥に行かれたらきっと霊体化を解かれるでしょうし。
「それじゃあ私行くから」
「ぁ……そういえばウイ先輩って用事があるとかでお忙しいんじゃなかったっけ?……あれ?私達やっぱり無理させちゃったんじゃ……?」
資料を探しに行こうとしたウイさんにぽつりと独り言をコハルちゃんが漏らす。それを聞いたウイさんは動きを止めてから、くるりと背中を向けて。
「ああ、このメモの一番上に書いてあるのはそういう」
「その話はもう気にしなくていいよ。だって全部終わっちゃった話、だから」
危機的状況です。
どうしてこんな事になっちゃったんですか。
ウイさんが『アーサー王物語』の文献を9冊ほど用意してくれてからまた奥に引っ込まれて。
霊体化を解除したセイバーさんが現れてから私は。
「さて、ヒフミ?お話しようか?」
カーペットの上に正座をしています。
「……うむ、我はその、なんだ。外に出て警戒しておこう」
「あー私達も出とく?」
「気遣い感謝するよ。けれどこの際だ、いてもらって構わないよ」
ま、まずいです。
いや違うんです。
私もその折角マーリンさんから聞いたわけですし、ここで調べとこうかなぁって!
「大方、夢を見たか或いは夢を見たから彼女が介入したかなんだろうけどね」
やばいです、笑顔です。
セイバーさん、完全にお叱りモードになってます……!
た、助けてハナコちゃん!アズサちゃん!コハルちゃん!
「あれほど朝に真名については隠すようにって言ったよね?僕」
「あ、あはは……ほら?直接は言ってませんし……」
「この場で全く関係のない英雄の名前調べたらどう考えても消去法で僕かキャスターの真名になるのぐらい分かるよね?」
……ダメです、皆さん目を合わせてくれません。
「え、ハナコ……セイバーさんの真名分かったの?」
「みたいですねぇ……どうやら話の感じ、夢の中で知る機会があったみたいです。サーヴァントとマスターの関係、契約するとそういった現象も起こるんでしょうか」
「それはいいな。私もみんなの事を夢の中でも沢山知る機会があるなら是非そうしたい」
「……アズサちゃん。それ、私達以外の他の子に言っちゃ駄目ですよ」
「む?そうなのか、分かった、気をつけよう。教えてくれてありがとうハナコ」
「……まあヒフミに限らずだけれど、真名についての話になるから皆も聞いて欲しい。真名はそのサーヴァントの正体だ。僕達が過去の存在であり、英雄として語り継がれる以上、何かしらの形で情報が残っている」
確か以前もセイバーさんはそんな風に戦車の中で仰っていた、筈です。
「その名前が分かればスキルや宝具、或いはその死因まで判明される可能性は大いにあり得る。実際僕らはこれまでもそうやってこの場所でランサーやアサシンの真名から情報を集めたりしたし、この後もアーチャー達について調べるんだからね」
そう言われると私も少し気持ちが逸ってしまったなと反省してしまいます。
ただ、ふざけるつもりなんてなくて、しっかりセイバーさんについて自分で調べて知りたいなと、そう思ってしまって。
駄目だったかなぁとつい顔を下に向けそうになったら、彼の細いのにごつごつとした指が私の頬に触れた。
「つまり。決して安易に口にしないで欲しいって話なんだけど……さて、この口は本当に分かってるかな?」
「いひゃいいひゃい!ほっへ、ひっはらないへふははい!」
怒るのはおしまいと言うように、仕方ないなぁと言わんばかりに。彼は私の頬をこねくり回す。
その小さな心遣いが嬉しかった。
それから彼は私の手を引いて椅子へと座らせてから。いたずらっ子のような笑みを浮かべ。
「まったく……この場所で明かすつもりはなかったけど仕方がない。改めて名乗るとしよう」
言葉だけなら渋々と、でも胸を張って力強く。
誇るようにこの場にいる私達へ。
改めてよろしくねと、彼はその名前を告げた。
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香るひとひらの花飾り
説明:花の魔術師から贈られた花、それをヒフミが髪に挿したことで存在が固定された髪飾り。
どんな時でも最高のキューティクルと優しい香りを届けてくれる。
どうやら一度だけ、もしかすると花の魔術師が助けてくれるかも……しれない。
効果:戦闘イベント含め、あらゆる状況で一度だけ無償で戦闘域から味方陣営全員が確実に、そして即座に拠点まで戻る事が出来る。
1話ごとの文字数で望ましいのは?
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3000文字〜4000文字
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4000文字〜5000文字
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6000文字〜7000文字
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8000文字〜90000文字
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9000文字〜10000文字
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10000文字〜12000文字
-
12000文字〜15000文字
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15000文字以上