①これは古関ウイ、彼女のファーストキス喪失までの一週間の記録である。
決着は一瞬の事だった。
『───火走り』
一言。
彼女が呟いたのが聞こえてそれに遅れて私の目が火矢を追う。
それが弾丸でない事ぐらいは認識できた。
石、でもないだろう。
掌に収まるかそれより少しだけ長い。
何か棒状の物を彼女は指揮するように杖を持った反対側の手から放った。
それが、全て。
それで、終わりだった。
『ぎぃぃ……がぁっ……っ!』
彗星のように冬空を流れたそれが幽鬼の心臓を貫き、その次の瞬間には。
『ぁ……あぁ……あああァァァァァァ───ッ!』
徐々に小さくなる叫びと共に幽鬼の全身、いえ。
その肌の裡から燃やすように溢れ出した黄金の炎が焼き尽くしてしまった。
残るのは、微かに何かが焦げて燃えたような香りと。
『───お帰りが遅かったので、鍵を開けたまま来てしまいました』
『お赦し頂けませんか?お嬢さん』
そう、月明かりの下で困ったように眉を下げる彼女。
そして。
『あ、はい』
間抜けな返事をする私だけだった。
「……ひっどい夢ね」
起きてまず思うのは酷い自己嫌悪だった。
ヒロイン願望なぞ小学生に上がる前には捨てた記憶があった筈だった。
その筈があんな三流小説のような展開を夢に見てしまうというのは、どうやらまだまだ自分は夢見る乙女のようらしい。
「……おえっ」
気持ち悪くて頭痛までしてくる。
偶然、自宅に戻る用事があった日に憂い顔の美女を拾って家に上げる。
その上、出不精の自分がわざわざ家に帰ってからもう一度コンビニまで出掛けて買い物をする。
そうして顔のない化け物に襲われて必死の抵抗虚しく絶体絶命の危機に陥ってしまう。
挙げ句の果てにさっき拾った美女が助けに来てくれて超常の力で化け物を退治するだなんて。
「なんて……無様……っ!」
無様、不恰好。
あまりにも酷い展開。
こうも透けるような自分に都合の良い物語なぞ、この世界で起こるわけがない。
まさに
めでたし、めでたし。
などと言ったところで笑い話にもなりはしない。
仮に己は司書。
読んだ書の数なら自慢ではないがそれこそトリニティでも比べられる相手なぞ片手で足りるような本の虫。
そんな自分が今更誰かを助けて、その人に助けてもらうような甘ったるい夢を見るだなんて───。
「……ほんっと、最悪ね」
気持ちが悪い。
自分自身に虫唾が走る。
人生全てに悲観したつもりはないが、自分の人生なぞに期待なんてとうに捨てている。
このまま草臥れるように書に埋もれて生きて死ぬ。
それが古関ウイ、それが私の人生だ。
「今更でしょ……あんな馬鹿みたいな話は……」
きらきらと輝くようなそんな明るい物は私には似合わない。
人生というのは何か一つ大切な物があれば良い筈だ。
なら私はとっくの昔にそれを持っている、見つけている。
だから今更なのだ。
今更、幼心に憧れたような物語の主人公に自分がなれるわけなどないのだから。
「……やめましょう……朝から無駄な事に頭を使うのは」
そこまで考えてしまった己に今度こそ愛想が尽きてしまう。
なんとみっともない話だろうか。
夢の中身に一々熱くなってそれに思索を耽る。
それこそ馬鹿な話ではないか。
夢如きで一々感情を揺らしてしまった自分自身の愚かさに朝から憂鬱になりながら、その時になって漸く重い腰をベッドから上げた。
「……とりあえず、顔洗ってさっさと家を出ましょう」
少しでも努めて冷静に戻れるようこれからの行動を口にする。
まだ夢と混濁してしまって昨夜の記憶が不確かな脳を働かせる。
少なくとも遅い時間ではあったが自宅に戻って来たというのは今いる飾り気のない寝室から理解できた。
文字通り寝て起きるだけの部屋にあるのはそれこそベッドと本棚、それを埋め切ってなお溢れる書籍の山程度。
間違いなく自分の部屋で寝ていた、というわけだ。
「今から出れば……誰かと通学路で鉢合うこともないでしょう」
学生寮街に一応の自宅があるのだ。
時間までに家を出てスクールバスに乗る、という手がないわけではない。
だが、時計を見ればまだ早朝と言っても差し支えのない時間だった。
遅刻の心配をする必要はない。
ならばわざわざ苦手な人混みに紛れる必要もまたないだろう。
何故か律儀に着替えていた数年前に買って徐々にほつれが気になり出したパジャマを脱ぎ捨てる。
「……さぶっ……あれ?」
ふと、脱ぎ捨てたそれが気になってクローゼットへと歩を進めつつ、我ながら器用にしゃがみ直してパジャマを手に取った。
一年の頃から大して変わらない貧相な下着姿を誰もいない部屋で晒しつつ、着替えながら片手間にを繁々とパジャマを眺める。
別に何か明確な形で変、というわけではない。
洗剤や柔軟剤だって変えていないから特段変わった匂いがするわけでもない。
長年の使用で色褪せた生地だっていつも通り。
愛想もへったくれもない無地の典型的なパジャマに間違いない。
だというのに制服に袖を通しながらも私が感じる違和感は消え失せない。
何か、喉に刺さった小骨のように小さく、けれど無視できないチグハグさ。
見慣れた筈のそれが普段とどこか違って───。
「やめ、ね。馬鹿らしい」
そこまで考えて私はパジャマを引っ掴んで寝室のドアへと歩き出す。
思えば、考えるだけ無駄な話なのだ。
一ヶ月帰っていなかったという事は、当然今右手に掴んでいるそれとの馴染みが薄れたっておかしくはない。
ましてや随分と長い期間、着込んでいるのだ。
経年劣化だってあり得るという物。
それを一々また長ったらしく考えたところで、文字通り無駄でしかない。
「早く出ましょう……」
朝から気が滅入る事ばかりだと、立ち止まって額を抑えたくなるのをグッと我慢する。
今立ち止まったら何もかにも嫌になって今日は自主休講と洒落込み兼ねないのを自覚している。
何せ単位は足りているのだ。
この頃だってほとんど教室に顔を出さず古書館に篭りきり。
休もうという誘惑に乗り出したらそれこそこのまま春まで私は冬眠し兼ねないという妙な自信すらある。
だから私は深々とため息だけついてから、廊下へと繋がる寝室のドアノブへと手をかけたのだった。
ほつれている筈のパジャマの袖口が綺麗に直されている事には、結局最後まで気づかなかった。
理想的な朝食という物は人によって違うだろう。
特に私の住むトリニティ自治区というのは矢鱈朝食と紅茶にこだわる気質がある。
昔は酷いという話だったらしいが近年は食育にも力を入れているだとかで、キヴォトス三大校の一角に相応しい食事環境が整えられているというのはいつだったか見たクロノススクールの記事でも見かけた話だ。
だから食が特別太いわけでもない自分でも、舌も目もそこそこ肥えている方だとは思う。
「如何でしょう?ウイさんはお若い方ですから朝餉は洋風が良いかと思いまして。それに昨日買って頂いた食材でしたから」
その上で、差し出されて今自分が食べている朝食をもう一度確認する。
「あっ、はい、あの、とても美味しい、です」
大振りにカットされたバゲットは食パンが売っていない物だから苦肉の策で買った物だが、それがどうだろう。
ワンプレートの中央に鎮座しながら、徐々に溶けていくバターで化粧をしつつ、それに負けない小麦の良い香り漂わせている。
小脇にはいつ買ったか自分も忘れている小皿にジャムを携えて、隙もない。
「まぁ……お口に合ったようでしたら何よりに御座います」
スクランブルエッグは半熟のようでとろりとした黄身へカーテンの隙間から覗く朝日を浴びて鮮やかに艶めいている。
色鮮やかなレタスに添えられて、映える赤色が眩しいミニトマトもあって栄養面も彩りもバッチリだ。
仕上げのカフェオレは無糖なのに口をつければミルクの豊かなコクとその奥にいる控えめな主張をする苦味で朝の景気付けにはもってこい。
何から何まで、完璧な朝食。
それが今、私が食べている朝ごはんで。
「食べながらで構いません。ウイさんもまだ混乱されているでしょう」
目の前で真剣な顔をしているキャスターと名乗った女性が作ってくれた物だった。
「ですが無礼を承知で、話させて下さいまし。この地でこれより行われる───聖杯
「(ど、どうしてこんな事に……)」
思い返してみても、何がどうなってこんな事になっているのか。
混乱しているというのなら、間違いなくその始まりは数分前の事。
『───あら?お早いのですね、ウイさん』
人間、驚くと口が開くというのは本当だった。
少なくとも私は人生で初めてその瞬間に体験した。
『朝餉でしたら用意をしております、その間に顔を洗ってきて下さいな。戻られたらすぐに膳をお持ちしますので』
静々とそう言って入居してから碌に使われて来なかったキッチンに戻っていった彼女の言葉たるや。
最早その衝撃は金槌どころか50AE弾をゼロ距離で頭部に叩き込まれたような物だった。
それもその筈なのだ。
───あの馬鹿みたいな話が夢じゃなかった、のだから。
そうして私は言われるがままに洗面所で顔を洗い、どうするべきか分からないままリビングへと顔を出して、流されるように席に着き、今に至る。
何がどうなっているのか。
まだ夢を見ているのか。
本当は今すぐ頬をつねってみたいところだが、流石に人前でそんな奇行ができる度胸は自分にない。
ただ自分の口の中で踊りながら訴える『美味しい』という味覚と換気の為に少し開けられた窓から流れ込む暮れの風の温度を感じるたび。
今見ている物は現実で、お前は起きているのだと世界にはっきり言い捨てられる気分にはなった。
「まず私は───この世界の者ではありません」
「はぁ……まぁ、そうですよね……」
「……もう少し驚かれるかと思っておりました」
「いやその……ヘイローとかもないですし……」
この世界の人間じゃない。
ヘイローもない。
つまりは
世間の話題に疎い私なのだ。
どうやらいつの間にかこのキヴォトスの外では、このキャスターを名乗る美人のように超能力の真似事まで出来るほど進化しているのだなぁと惚けた頭で納得した。
そんな私の様子に、彼女は深々と頷いてから言い放った。
「なるほど、理解致しました。どうやらウイさんは私がこの世界の人間だと、そうお考えになっておられるのですね?」
「は、えっ……と、それはその……さっきまでと言っている事が違うんじゃ……」
「
「さく、ばん……って……ッ!?」
思い出して、理解をしてしまう。
否、はっきりと分かってしまう。
今の状況に混乱していて目の前の現実を処理するので手一杯になっていた私の頭は漸くその事実を今と繋げてしまった。
「……一体、何がどうなって……っ?」
そう、彼女との出会いが現実で夢でないというのなら。
あの時私を襲った化け物の存在だって虚構ではなくなる。
「ウイさん、これから話すのは須く真実に御座います。魔術と縁遠く、ましてやその存在すらなきこの世に生まれ落ちた貴女様からすれば奇天烈な話に聞こえますでしょう」
真剣な彼女の眼差しを受けて、動揺していた私の脳も少しばかりの冷静さを取り戻す。
「ですが、どうかまずはお耳を貸してくださいまし」
状況はまるで分からない。
一体自分の身の周りで何が起きているのかなんてはっばりだ。
だからこそ。
「全て、全て。隠し立てずにお伝え致しますから───どうかどうか、聞いて下さいませ」
その言葉に私は結局また首を縦に振る他なかった。
おかわりに入れて頂いたカフェオレを一口啜ってから私は口を開いた。
「異世界、それに過去の英雄や偉人が形而上における高次元の情報生命体となった存在であるサーヴァント、そしてそんな彼らを使役して万能の願望器を賭けて奪い合い殺し合う聖杯戦争……」
自分で言っていてどこの伝奇小説の内容だと頭が痛くなりそうだった。
いや、どちらかと言えばサイエンスフィクションの部類にまで片足を突っ込んでいる事は想像に難くない。
そんな自分の重たい感想を気にせず、キャスター、さんは私を褒めそやす。
「御理解が早くていらっしゃいますね。概ねはそういう物となります」
「……状況証拠だけは見ていますから、あとは納得できるだけの理論があれば頷けなくはないです」
実際、とてもじゃないが信じられる話なんかではない。
だが、事実として昨晩見てしまったのだ。
あの化け物とそれをたった一言で倒してしまった彼女の姿を。
「……ふふっ。御若いって素晴らしいですわ。異なる常識、全く知らぬ未知に臆さぬ姿、誠に素敵ですよ」
「……別に、そんなんじゃ……」
事実、口にした通りなのだ。
別段、私は物分かりの良い素直な良い子、というわけじゃない。
今こうして話を受け止めたのは単純な話。
受け入れざる得ないというだけのことなのだから。
「お話した通り、今は逸れの身にはなりますが私はサーヴァントです。嘗て聖杯戦争で偶然生き延びてしまい、今日までおめおめと生きながらえてこの地に落ち延びた渡り鳥に御座います」
「……じゃあ、あの怪物とキャスターさんはなんの関係もない、そういう事でしょうか?」
ミレニアムあたりが協力した特殊撮影であると言い切れたら良かったが、少なくとも死を覚悟する程に走った怖気も、雪夜を赫赫と照らす黄金の劫火から感じた熱気も、そんな常識に沿った仮説を肯定はしてくれなかった。
だから少なくとも理屈立てて話してくれる彼女の言葉。
「いいえ。偽りなくお話しすると申しましたようにその点についてもきちんとご説明致しましょう」
異世界から偶然この地に来てしまったという目の前のキャスターさんの言葉を私は信じる他ない。
「あれらはサーヴァントの残滓となります。それを産み出しているのがこの
そう言って彼女が取り出したのその名の通り雫の形をした小さな黄金の欠片だった。
「魔術の世界での禁忌、お話した通り私が表の世界に出てしまった事で追われる身となりその中で見つけた物が───聖杯。そう呼ばれている魔力リソースなる物でした」
聞き馴染みは、ないわけではない。
非常に古いシスターフッドの関連書物の中でそう言った単語が出てきたのは知っている。
ただ、魔力。
それもリソースだなんて使われ方をしていた訳でなかった以上、似ている別物なのだろうと当たりをつける。
「聖杯の雫とは七篇に分たれた聖杯の欠片、そしてそれよって呼び出される物怪こそが昨晩貴女を襲った存在に御座います」
「そんな物がどうしてトリニティに……」
「……聖杯の雫を持ち込んでしまったのは私の落ち度です」
当然の疑問と思って口にした問いに彼女は悔しそうに唇を噛んで答えた。
言葉にはこれでもかというほどの罪悪感と後悔が煮凝りのように詰まっている。
「本来であれば元々の杯でかった頃の願望器としての質はそう高くありません。控えめに言って中の下、模倣品どころか粗雑な物。それでも私にとって、主なき身が繋ぐのには十分な糧を与えてくれる品でした。ですがあの晩、私は追手から逃げる際にこの品に少々無理を強いてしまいました……その結果、雫という形に分たれる事になったのです」
己の不手際であったと、彼女は頭を下げようとするので慌ててそれを止める。
別に優しさでもなんでもない。
ただ単純に私に謝られてもどうしてあげる事もできない、それだけだ。
「逃亡の際に破損した結果、不完全な形で願いは受諾されこの地に訪れました。当然、雫はバラバラにこのトリニティと呼ばれる地に落ちました」
「結果、その雫とやらからあの化け物が生まれるようになってしまった……っていうわけですか」
「我が身の不明、誠に恥ずかしながら仰る通りです……その上で改めてお願い申し上げます、古関ウイさん。昨晩お話した通り、私はもう貴女を守る為とはいえ巻き込んでしまっている」
そう、私がこの話を聞かなくてはいけない理由がもう一つありました。
それはとても単純な話。
「せめてもの報い、全てが終わった後でしたら如何様にお応え致します。ですが、どうかこれから私と共に」
私は昨日の時点でとっくにこの騒動に巻き込まれているということ。
そして。
「この聖杯戦争……いえ、言うなれば
彼女のマスターにならなくてはいけない、という重すぎる事情があるからだった。
───昨晩、貴女との縁の糸を紡ぎ契約を致しましたのは一重に貴女をマスターとして認識させる為です。
───散り散りになった聖杯の雫は嘗ての役目と同じようにシステムとしてサーヴァントを召喚します。
───ですがあの姿、恐らくはシステムが誤作動を起こしている。
昨晩倒した筈の敵はあくまでも本来聖杯が召喚する筈のサーヴァントの残滓、或いはその一部だけをなんとか現界した欠片でしかないのだという。
そしてそんな敵、そしてそれと繋がっている聖杯の雫その物に私は強く意識されてしまったのだという。
互いが互いを
両者の認識が合致した事による一種の
まるで鳥類の
あの幽鬼のような存在が現実に確かにあると認識した私。
私という人間を見つけてそれを餌か玩具だと認識した敵とそれに繋がる聖杯の雫。
双方向から糸を撚って紐にするように結びついた相互認識の呪詛によって片側からの解呪はできないのだとか。
なんでもセーヨーの
そうしてその結ばれた私達の縁を改竄する為に私をサーヴァントのマスターに仕立て上げて、怪物と人という概念上の不利を打ち消したとかなんとか。
「もう真面目になんだって言うんですか……」
嫌になるのは、理解できてしまう事だ。
前提として昨晩起こった出来事が紛れもない怪奇にして超常現象である場合。
朝食を食べている時にキャスター、さん、という方から聞いた内容と理屈は全てに説明が出来てしまう。
オカルトめいた話の癖にどこまでも理論が付き纏うのが癪な事だが私を納得させるには十分な物だった。
「もうちょっとフワフワしてて下さいよ、ファンタジー……」
古書館の司書机、年季の入ったそれに私は項垂れるようにして頭を伏せた。
結局私は彼女からの申し出に答えられないまま家を出た。
だからといってBDを見るだけの講義に身が入るかと言われればそんな事はなく、結局必修の一コマだけ出席したら後は古書館に籠っていた。
一応彼女は霊体化なる物を使って私の傍、というよりこの古書館の建物の外でずっと見守ってくれているらしい。
彼女が言うには敵と縁が結ばれたの夜だった為、恐らくは夜にしか現れないと思われるという話だったが、善意でまだ明るい時間だというのに警護に勤しんでくれている。
「どうすれば……いいんでしょうか……」
呻いてしまうのを誰に乞うわけでもないが、許して欲しいと思ってしまう。
昨日の今日でこんな事態なのだ。
目まぐるしく変わるそれに着いていける自信がない。
───
───残る
謎の美女と共に六つのオーパーツを集めて世界を救え!……だなんて。
自分にはとてもじゃないが荷が重すぎる。
古関ウイという人間はどこまで行ってもそんなにすごい事はできない。
決してスーパーヒーローには。
物語の主人公には慣れっこない。
別に運動が特別得意なわけじゃない。
正義実現委員会で頭角を出せるような優れた戦闘技術だってありはしない。
誰かを率いるようなカリスマがあるわけでも、思わず守りたくなるような愛嬌があるわけでも、神秘的なまで見通せる視点があるわけでもない。
自分の意思を貫く強さも、裏で全てを解決するような人脈もない。
古関ウイにある物なんて、本しかないのだから。
「でも……」
横を向けば、古書館に来てすぐに書架から持ち込んだ分厚い古書が山のように積み上がっている。
古関ウイには本しかない。
古関ウイは別に物語の主人公なぞには似合わない。
けれど。
─── 御心遣い有り難く、お誘いお受け致します……ありがとう、お嬢さん。
あの時、無我夢中で出した
何者にもなれないし、何が出来るわけでもなく、何も持っていない私だけれど。
そんな私が対して自慢できるわけでもない人との関わりという分野で、勇気を振り絞ったらそれに応えてもらえた。
ありがとう、という言葉を貰うことができた。
なら、そうであるなら。
「私に、私なんかに……それでも出来ることがあるなら」
怖いのはよく考えたらもう経験済みだ。
見知らぬ他人に差し出したあの
何より自分だって一応はキヴォトスの住民。
今更戦うのがどうこう言えるほど上品な生まれも育ちもしてきない。
だから。
「はぁ……本当に最悪……」
後ろ向きに頑張ってみる。
それぐらいの気持ちで私は並べてあった古書の表紙を手に取った。
深夜。
トリニティ自治区、某所自然公園。
夕食を済ませた古関ウイは無言のままその入り口にまで訪れた。
忌まわしき昨晩の記憶はまだウイの中に残っている。
あの時の恐怖もまたその場所に、同じ時間に訪れる事でより色濃く鮮明に脳裏で再生される。
その恐怖を、押し殺すわけでもなくウイは見なかった振りをする。
忘れる事はできない。
恐怖を捨てる事もできない。
ましてや乗り越える事なぞ不可能。
古関ウイにそんな器用な真似はできない。
だから見なかった事にして今やるべきことを考えて、ウイは一言だけ口にした。
「……
隣には誰もいない───否。
するりと景色が溶けるように滲み、そこから一人の女が輪郭を形作る。
異邦の魔術師にして、異なる星における英雄の影法師。
即ちサーヴァント、キャスター。
「ウイさん……」
「お返事、まだでしたね」
くるりとウイは後ろに立っているキャスターの方を向いた。
月下、少女は公園の入り口に立ち朱色の髪をした女の目を伏し見がちにだが確かにはっきりと見つめたのだ。
「私は、なります───貴女の、マスターに」
「だから、一緒に戦って下さい」
理由は単純だった。
正義感とか誰かの為だとかではない。
この人に一度感謝されたから。
自分が奮った勇気に応えて喜んでくれたから。
そんな至極単純で当たり前の返礼が、あまりにもウイの心に響いてしまったから。
だからこれは彼女なりの不器用なお礼。
もうちょっとだけ頑張ろう。
そんな後ろ向きな努力。
それを受けたキャスターは。
「貴女の覚悟、確かに受け取りました」
伏し目で緊張から揺れる彼女の視線が少しでも安心できるようにそっと屈んで。
「ひぇあっ!?」
優しく頬へ手を当て、ウイの瞳をしっかりと見つめながら誓いを口した。
「一茶の恩義に報いましょう」
「末永く、よろしくお願い致します───マスター」
そう言って顔を熟れた林檎のようにするウイへと告げたのを月明かり、この時になって漸く刻まれた右手の甲の令呪のみが見ていた。
1じゃんね☆
なんか続いたじゃんね☆
とりあえず本編よりもかなりライトな感じで進んでいくじゃんね☆
年内完結目指してがんばるぞー!……じゃんね☆
予定では26日中にお届けするつもりだったじゃんね☆
やっぱり普通に無理だったじゃんね☆ミーカミカミカミカミカ
あ、真名で?になるかもだけどこの子はちゃんとFGOの実装済みサーヴァントじゃんね☆
1話ごとの文字数で望ましいのは?
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3000文字〜4000文字
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4000文字〜5000文字
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6000文字〜7000文字
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8000文字〜90000文字
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9000文字〜10000文字
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10000文字〜12000文字
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12000文字〜15000文字
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15000文字以上