クックックッ……おはようございます、アサシン。
昨晩は随分働いて頂き私とし、て……も……。
……クックッ。
書き置き……これはまさか。ペラッ
『あほのマスターへ。散歩がてらお前の秘蔵していた酒は貰っていく。どうせ蔵に仕舞い込んでおるのなら儂に飲まれた方がこの葡萄酒とて喜ぶだろうて。あとついでに今日も財布は借りていくぞ。慈悲だ、1000円置いていくからそれで昼飯を買って食え。それから夕飯は肉にせよ、すけばんの娘共も連れ来るからそうさな、20人前は用意しておけ。ではな』
くっ、クックック……もしもし?診察の予約をお願いしたいのですが。
はい、ええ、胃痛が酷くて。
ええ、多分、ストレスです、はい。
ではまた……はぁ。
───アーサー王物語。
成立年は『不明』。
外の世界から流出してキヴォトス成立期以降には既に存在していたらしい古い御伽話。
内容としては所謂『貴種流離譚』。
前王の遺児である主人公アーサーが岩に刺さった剣を引き抜き、各地を統一し異民族達と戦い───。
『そして、カムランの丘で槍に貫かれた後、湖へと聖剣を返還し共に理想郷へと渡る。それがかつて在りしいつか蘇る未来の王、美しき我が祖国に伝わるアーサー・ペンドラゴンの物語だ』
そう読み聞かせるように通話越しという体で話していたキャスターさんは締め括った。
ウイさんが用意して下さった九冊の古書にあったのは少しずつ内容は違いましたけど概ねはそういうお話でまとまっていました。
どれも剣を引き抜いた少年が魔術師に導かれて王となり最後には死して理想郷へと送られる……そういう話。
ハッピーエンド、と呼ぶにはあまりにも寂しいお話でした。
「僕の生涯についてのあらましはそんなところかな?途中に出てきた聖剣、
知らない人からすればこれはただの御伽話。
だけどセイバーさんにとって、それは紛れもなく彼の人生。
たった今それを読み終えた、話を聞き終えたというのに彼は少しも何か思う事はないように軽い調子で話をされます。
それに意識してつられるように私も沈みかけた考えを外に追いやる事にしました。
悲しい、と私は彼の物語を聞いて確かに感じました。
国の為に、そこに生きる人達の未来の為に頑張ったセイバーさんに待っていた結末に私が思うことがないわけではありません。
だって私にとってセイバーさんは物語の登場人物じゃなくて今目の前にいて、いつも私を揶揄って、そしてこれまで何度も助けて支えてきてくれた彼だから。
私にとってアーサー王物語は御伽話ではなく、お友達の過去なんです。
でもきっと。
「(それは……私が口にしちゃいけない)」
駆け抜けた。
彼は何度もそう私達に言いました。
彼の人生は彼の物です。
彼の過去を聞いて何を思うのもそれは聞いた人の自由でしょうが、同じように彼の人生を彼がどう考えるのも、セイバーさんがどう受け止めているかも自由です。
悲しいとかそういうのは全部あくまで私の感想。
セイバーさんが自分の過去を伝えたのは必要だから。
感想を聞きたくて話したとか、誰かに慰めてほしいとか、そういう安直な物じゃないんです。
誰だって自分の人生を勝手に決めつけて欲しくなんかない。
自分が生きている物語は自分で決めて、周りの人と助け合って、そうやって自分だけのエンディングを作っていく。
それをし終えた彼に、今更どうこう言うのは私にはできません。
だから私はまだ本で読んだだけの彼の人生を、ハッピーエンドじゃないとか頭の中で色々と結論判断したり、ましてやそれを口にするようなのはやめました。
「……せっ!聖剣!……って聞くとなんだかとってもお強そうですね!あ、でも文献の中だと『千本の松明を集めたような輝きを放ち、どんな物でも断ち切る』……ってありましたし、やっぱりすごい光って切れ味がいいとかですか?」
だからといって、はいじゃあ話はお仕舞い次に行きますとならないのが会話なわけで。
私は今言えることの中からなんとか捻り出したんです。
「流石は僕のマスターだ。良い目の付け所だね」
「あはは……褒めたって夕飯のおかず増えるだけですよぉ」
実際、気になりはしていました。
宝具とはそのサーヴァントの方が成し遂げた逸話の具現化。
言うなれば一番頑張った事を象徴したり、その時支えてくれた力が武器とすごい力って感じになったやつです。
セイバーさんが自信満々に言う聖剣。
特に銃社会のキヴォトスでは刀剣類は美術品ぐらいでしかお目にかかれませんし、それだって本当に希少な物。
それにセイバーさんがお持ちの剣はこれまでどんな困難も斬り伏せて、風の鞘に覆われた下で私達の事だって守りながら見守ってくれた存在です。
一体どんな宝具なのか、とても気になった、というのはごく自然な事ではないでしょうか。
もっとも。
「いやいや、でも実際そういう物だからさ。分かりやすくざっくり言うと、ビームが出るんだ」
セイバーさんがお出しされた物は随分と予想からズレた物でした。
「びーむ」
「うん、ビーム」
途端に胡乱な単語が出てきて思わず繰り返してしまいました。
「いや本当にビームなんだ。魔術的な理屈はあるんだけどそういうのを全部無視して君達に分かりやすく説明するとなると……ビームなんだ」
「びーむ」
「うん、ビーム」
困りました。
上手い反応が分かりません。
この場の空気がとにかく変な感じになりつつありません。
「こうね、なんと説明したら魔術的な知識のない君達が納得してくれるか……こう、なんというか星のね、そのパワーをね集めてこう、どかーん……って」
「ぱわー」
「うん、パワー」
なんでしょう。
こう言ってはなんですけど、すっごく頭悪い説明にハナコちゃん達も頬を引くつかせてます。
なんなら当人のセイバーさんもすごい困った顔をしています。
「ひ、光がさ。僕の魔力をね!こう光という形で変換するわけだけど……いやとにかくこう魔力を光にして刀身内で集束する形で指向性を持して打つんだ……ビームを」
「びーむ」
「うん、ビーム」
とうとうセイバーさんも諦めるように結論を言います。
「……とにかく我が剣ながら強力な宝具であるのは間違いないよ。時が来れば、君達の力になると約束する。それが僕の宝具」
胸を張って力強く。
唯一無二の相棒を心から誇るように。
その銘を口にしました。
まあ雰囲気が緩々なので台無しですけど。
とはいえ、その剣の銘、
「……ところでキャスターさん、物凄くさらっと大事なこと言いませんでした?」
すごいナチュラルに言う物ですから流してしまいましたが、かなり大事な事を仰られていた気がします。
『うむ、薄々と勘づいていたであろうが我とセイバーは同郷だ。もっとも、我はセイバーが生きた時代から千年以上先の人間。おまけにセイバーのような伝説を遺す英雄だったわけではない。恐らくこの古書館にも名は残っていなかろう』
「……良いんですか?」
思わず聞いてしまいます。
セイバーさんも言っていたけどやっぱり真名は大事な物です。
それに繋がるような物をこうも簡単に明かしてしまって大丈夫なのかと私は心配して、それにキャスターさんは呆れた声を返した。
『ヒフミよ。セイバーも言っていたが他ならぬお前達がかつて言った事だ。我らは同盟を結んだのだと、ならば機会があれば隠す必要もあるまいて』
はっきりとそう言うキャスターさんの言葉に同調するようにモモイちゃんも頷いて言う。
「まあ本当はかっこいいタイミングとかで話したかったんだけどね!でも今を逃すとこの先も言えそうにないしさ」
『うむ。故に我が真名もまた同盟者たるお前達に倣って明かすとしよう』
そう言ったキャスターさんは姿を霊体化を解いてから、居様よく名乗りあげた。
「セイバーと同じくブリテン島、そこに栄えし大英帝国に生きて死んだ、空想世界を夢見た一人の科学者である」
誇示するわけでなく厳か。
けれど確かな誇りが口にされた名前からは感じられて。
蒸気をゆらめかせるながらキャスターさんは私達に真名を教えてくださいました。
「階差機関なる技術の父にして、数多の科学技術発展に大きく寄与した偉大な数学者にして天文学者。更には政治にも詳しい正に凡ゆる学問に精通した碩学の徒、それがキャスター、僕達の心強い味方である君の真名という訳だね」
「貴方ほどのサーヴァントに言われては恥ずかしさよりも先に申し訳なさが来る。我なぞ所詮は学者、神話に語られる強者達とは比べるべくもない。ましてや業績なぞ」
「そんな事はないさ。僕らは確かに戦士であり騎士だった。けれど君は、誰かを傷つけるのではなく科学という普遍的な技術と学問で新たな未来を切り拓いた。他者が成した偉業に僕は優劣を付けれるつもりはないよ。貴公の成したそれは間違いなく人類史に残すに値し、そしてそんな貴公と沓を並べられる事を誇りに思う」
「……まったく、本心から言っておるのだから
「「「「「「「「はーい、おぼえておきまーす」」」」」」」」
「あっ、あれ?結構真面目に言ったよね!?僕!?」
赤いランプの目を器用にジト目にされつつ不満を、けど嬉しそうに口にされます。
そんな彼を見つめるモモイちゃんも、セイバーさん揶揄いつつもそのお顔は自慢するように嬉しげです。
「して、だ。話を戻すとしよう。我もセイバーもその名を明かし、その宝具の銘を語った───故にだ」
「サーヴァントの宝具についてお前達に話す事がある」
真名を開示し終えたキャスターさんは私たちをじっくりと眺めて改めてそう告げられました。
「君の宝具についてかい?」
「否。
「……どうやら込み入った話のようだね。君の気づいた事をぜひ教えて欲しい、キャスター」
その疑問に答えるようにまずとバベッジさんは前置きをしてから宝具について話し始められました。
「本来であれば拠点で話すべきだが、人の気配もアイギス7号から受け取った情報の限り問題ない。故にまず結論から言おう」
「今回の聖杯戦争で我らサーヴァントはその宝具に著しい『制限』が掛けられている」
その結論への実感は、私は乏しかった。
実際目にした事のある宝具はどれもすごい炎が出たり槍がたくさん分裂したりと凄まじいものでした。
それにどんな制限があるのか今一つ理解出来なかったんです。
「我の宝具
気づいたと言い切ってから彼は少しだけ迷うように、声を抑えて言う。
「外部へと出力される際に、内部で稼働した時の物と比べて極端に低下する……凡そ十分の一程度にまで落ち込んでいるのだ」
まるで空気抵抗を受ける飛翔物のようにな、と言う言葉になんとなく思い当たる節がありました。
あの時、初めてランサーさんと戦ったあの晩にセイバーさんが放った風王鉄槌。
傍目から見ても凄まじい暴風であったのにランサーさんは確かに防いでみせて、それをランサーさんが強いからだと納得していたけれど。
「……気が付かないのは減衰するタイミングかな?」
「であろう。恐らく条件は様々だが、最も考えられるのは敵に接触した瞬間に減衰される。我の霊基に異常はなく、なれど宝具を外部出力した際に威力が数値上で間違いなく落ちている。ならば原因は我ら自身では無く」
「異なる世界の法則その物……ってところでしょうか?」
ハナコちゃんが言葉を引き継ぎ、それにキャスターさんは深く頷いた。
その言葉に気になるのは一つ。
「でもあの時……スパルタクスさんが放ったのは……」
そうあの時、私達が見たスパルタクスさんが叫んでいた
ケセドの外殻も中身も完全に炭化させてみせた大出力の雷撃。
それからランサーさんの盾の宝具。
あれらは到底私達が生身で受けたらそれこそ致命的と言えるぐらいの破壊力でした。
あれでもまだ出力は低かったのかと恐る恐る問うと、キャスターさんはどことなく困ったように答えて下さいました。
「お前達と共に戦ったヘルタースケルターに記録されていた映像と計測データから我も確認し、驚いた。あれは恐らく本来の宝具出力からほぼ低下しておらん」
キャスターさんの含みのある言葉にセイバーさんは反応した。
その言葉通りならば、バベッジさんは既に別の方法を思いついているようだから。
「だが君のことだ。スパルタクスの件とは別に、既に解決案は用意してあるんだろう?」
「……昨晩、奇妙な事に出力が僅かに向上した。元の出力から比較して現状のそれはまだ二割ほどだが、恐らくは戦闘を通してモモイとの霊的なパスが強化された事が原因だろう。それも魔力の供給としての意味合いではなく、存在その物の結びつきが強固となったのだろう」
存在そのものの結びつきと言われても今一つピンとこず、当の本人であるモモイちゃんも含めて私達は首をかしげてしまいます。
けれどセイバーさんには馴染みのあるというか、理解できるようで要約して聞き返していました。
「ヒフミやモモイはこちらの世界の住民。彼女達と結びつきが強くなる事で同時に僕らの存在、ひいては宝具その物が世界か或いは抑止力に受け入れられた……そういう解釈でいいかな?」
「恐らくは、だが。未だ仮説にすぎんが、異物であるサーヴァントはこの星の抑止力に相当する『法則』によって何かしらの弱体化を受ける。それを掻い潜るのであれば、我々の霊基その物が元よりキヴォトスの住民であるマスターとより強固に結びつくか……概念的な『逸話の再現』が必要となるのだろう」
思い出すのはランサーさんの宝具、その眩いばかりに燃え盛る盾の陣形とその圧倒的な威容。
自国を守る為にたった三百人で大軍を迎え撃った逸話が形となった宝具。
私達が確認できる限りでランサーさんがこれまでその宝具を使った二回はどちらも自分だけでなく誰かを守る戦いでした。
それを考えると、もしかするとランサーさんは知らずに逸話の再現をしていたのかもしれません。
「まさかそんな事になるだなんて……星や天上に当たる属性であればまた状況が違ったかな?」
「分からん。我は人。セイバー、お前は……大方は地であろう。いずれも我々の星に根差した歴史や伝承に由来する属性を与えられた霊基。天や噂に聞く星であれば或いはだが、今ここでない物について考察したところで詮無いことだ」
それにと続けてキャスターさんは古書館の奥を見て呟いた。
「あの者の調べ事も終わった以上はここではもう話せれん」
その言葉と共に足音が聞こえてきて、アーサーさんとバベッジさんのお二人は靄のように霊体化して姿を消してしまいました。
戻ってきたウイさんの表情は浮かなかった。
少しだけ唇をまごつかせて、それからやはりため息を、いえ緊張を紛らわすように深呼吸してから言った。
「ゲヘナ自治区、旧カイゼリン・ブリッツ記念教会についての情報について調べ終わりました……と言っても簡単な概要のみになります」
「十分です、ありがとうございますウイさんっ」
お礼を言ってぺこりと頭を下げようとすると彼女は嫌そうに手を振ってその動きをやめさせてから、どっかりと椅子へ持たれかかるように沈み込んだ。
明らかに気疲れしたという様子だったからだろう、ミドリちゃんがいそいそと冷えた珈琲を持ってきてそっと机に置いてくれます。
彼女はその黒い水面を暫く見つめてから、からりと氷を鳴らしてから一気に飲み干した。
「……美味しい」
「ありがとうございます、ウイ先輩。お代わりは?」
「悪いわね。なら、氷少なめで……少し長くなるから」
そう言われて給湯室へと急ぐミドリちゃんの後ろ姿を見送りながら、流し目で彼女はじとりと残っている私達を見た。
「貴女達がどうしてこれを聞きたいのか、私は
その言葉を受けて私達も居住まいを正す。
これまで聞いたウイさんの話の中でも特に気をつけて扱うべき話だと頭の中で直感する。
「この案件にティーパーティは関われない。それは貴女達ミレニアムの生徒会も同じ。貴方達が調べようとしているのはシャーレや連邦生徒会が強権を発動してやっと介入できるような、そういう類の物。だから絶対にここで見聞きした事を他の子に教えない、ここを出たら安全な場所以外では絶対に口にしない……約束して」
その言葉に給湯室からちょうど戻ってきたミドリちゃんも含めて私達は静かに頷く。
それを見届けたウイさんはゆっくりと口を開いた。
昔話です、そう前置きをして。
「今から二年前、ゲヘナの生徒会長で雷帝と呼ばれた
彼女は、二年前の話を語り出した。
「貴女達が調べたがっている事はその雷帝に関連する話よ。彼女の話を率先してする三年生は少なくともゲヘナにはいないだろうし、今のトリニティでも要職についている三年生は下級生が安易な好奇心で調べようとしたら、撃ってでも止めるでしょう」
それだけの禁忌なのだと、二年前を知る彼女は言う。
「だから両校の自治区で、しかも三年生の前で絶対にその単語を口にしないよう肝に命じなさい……彼女の名前は人によっては銃口を突きつけてるのと何ら変わらないんです……だから他所では絶対にやめて」
また一口、彼女は珈琲を口に含んでから。
苦み以上の何かを噛み締めるように話を続けた。
「今でも……特にゲヘナは。学校を去った彼女の存在を非常に警戒している。もちろん、その『遺産』も」
遺産、と彼女は言う。
その意味は言葉通りなだけではないのが、ウイさんの表情を見れば容易に分かった。
「雷帝はその化け物染みた政治手腕と異常なカリスマ性だけでなく、発明の分野でも悪魔的な才があった。あの女はあらゆる分野で頭角を現して、だから当時、そんな雷帝に傾倒する学生は少なからずいた。分かりやすいまでの力と言葉はゲヘナ内外を問わず若者を魅了したんですよ……その実態はどうあれ盲目的にね」
私だってこの自治区の出身です。
二年前と言われてなんだかゴタゴタしていたのを覚えている。
ただ情報封鎖はあったのでしょう。
まさか当時中学生だった私が過ごしていた日常の裏でそんな話があったとは思ってもみなかった。
「そして、例の
彼女が取り出したのは少し煤けた茶封筒。
幾つか赤い判が押されているそれから取り出したのは、所々が黒塗りになった何かの報告書と何枚かの写真。
その写真を私達に見せながら、彼女は報告書の中身を読み始めた。
「雷帝が失脚する少し前、彼女達は雷帝の治世を讃える為の教会兼雷帝の為の研究所の建造を始めた。それが貴女達が知りたがっているカイゼリン・ブリッツ記念教会の正体。少しでも、最高権力者である雷帝に立場的にも、そして科学者としても近づきたい……そんな浅はかで、当たり前に誰もが抱える憧れから始まった願いが動機だったのでしょう」
浅はかと言いながらウイさんの顔に浮かぶのは馬鹿にしたりするような物ではなく、憐憫のそれ。
何故そんな事を、と咎めるのではなくただどうしようもなかったと悔恨するように呻く言葉だった。
「実際、権力も地位もないただの学生達が始めたのだから、その動きはとても遅々としたものだった……けれどある時を境に当時、富裕層の大人達が挙って建築資金を出資し始めた」
少し嫌な気分になります。
この話の流れからどう考えてもその大人達の意図は優しさとかではないでしょう。
あからさまに汚い流れがあったのが読み取れます。
私達学生を食い物にしようと、そういう意図があったのが分かるんです。
「その勢いに乗って彼女達は小さな礼拝堂どころかトリニティ大聖堂に匹敵するような巨大な高層ビルの建築を始めた。けど、雷帝自身は自分のシンパが作り始めたそれに費用を一切拠出しなかった……当時彼女は政争の真っ只中でしたから。ただ、興味がなかったわけではないでしょうね、実際、度々建設現場には視察に足を運んでいたっていう報告がありますから」
教会と聞いていたから、その実態が高層ビルだと聞いて面食らってしまう。
トリニティやD.U.にある教会にもビルの一室に入っている物もあるけれど、だからといって高層ビル丸ごと一つ教会というのは聞きません。
古めかしい印象すら教会という単語に抱いていたから、あまりイメージと結びつかないです。
けど、そんな私の惚けた感想なんて気にしないままウイさんは話を続けていかれます。
「結局、雷帝は竣工を眼にする事なく失脚してした。だからこの話は他の遺産や雷帝派閥の人間達の最後と同じようにここで終わる筈だった……けれど」
ウイさんの話しぶりから、雷帝という人と教会自体に直接的な関係はない。
そういう言葉が読み取れる。
「建築は極秘裏に行われ続けた。曳屋、ユニット工法、後は解体移築。とにかく新体制になって混乱している
彼女達が何を思って、どうしてそれを続けたのか、まるっきり私にはわかりません。
失脚した生徒会長にどんな想いを抱いていたのか、少なくともウイさんの口振りでは決していい物ではないのだけは察する事ができれけれど。
「そうして雷帝の治世と功績を記念し、その失脚を偲ぶ『カイゼリン・ブリッツ記念教会』は竣工して、そのタイミングで現生徒会によって破壊された。結局、竣工式に立ち会った主導者達とその場にいた自治区住民は誰一人の例外もなく収監、もしくは矯正局や留置所に送られた」
新政権に反する物をそこまで徹底的に隠してまで作り切ったのは、どうしてなのか、と思ってしまう。
それはきっと多分、教会だけじゃないんじゃないかと、悪様な想像が頭を掠めます。
「そうして破壊された旧カイゼリン・ブリッツ記念教会はあまりにも悲惨なほど破壊されて、それでも骨組みまでは破壊仕切れなくて残骸だけが残っている」
当時調査した人員の報告では『口紅』だなんて呼ばれてたそうよ、とウイさんはつまらなさそうに補足してくれた。
「この記念教会は直接雷帝が指示して作った物じゃない。その開発もあの女の手による物じゃない。その裏取りも含めて破壊した跡地は当時、あるゲヘナ生の主導で調査が行われて、その調査結果もきちんと連邦生徒会に報告された」
一呼吸置いて。
「報告者の名前は───鬼方カヨコ」
ウイさんは彼女の名前を告げた。
「ここまでがティーパーティが秘密裏に調べた情報よ。現在はその教会一帯の再調査すら禁じて、ゲヘナが定めた特別立ち入り禁止区域に指定されているからその一帯1kmにはバリケードも張り巡らしてあるとか」
それからウイさんは訂正を入れました。
「そしてトリニティとゲヘナ間に作られた秘密通路の噂だけど……そんな物は存在
まるで知りたくなかったとでも言うようにして。
「当時、トリニティにもゲヘナにも意図して多種多様な噂話が流れた。雷帝側の工作と当時のトリニティ上層部は判断して、それでもやはり捨て置けないから情報部門の子達が調査した」
努めて淡々と、そういう気持ちが伝わるぐらい押し殺して。
「ある時を境に流れ出したその噂は病のように伝播して、誰もが疑心暗鬼に陥った。まるでいっそ悪夢のようだった。離間工作目的か、それとも本命を隠したかったのか、今となっては分からない」
ウイさんは喋り続けている。そのカップを握る手は震えていた。
「そうした噂の一つだった『トリニティとゲヘナの秘密通路』の実態はゲヘナからトリニティ、ミレニアム、D.U.それ以外も含めてほぼ全ての大型自治区へ侵攻する為の隠し通路を作る計画だった。そしてそれは頓挫した……けれど」
はっきりと、けれど目線を逸らしてながら。
「今、調べて分かったんです。あの時、恐らくティーパーティはこの話をなかった事にした。政治的な理由で揉み消したのか、雷帝が失脚した事で捨て置く事にしたのかは分かりません……でも」
彼女は私達が知りたいと願った事をしっかりと調べ上げて、その上で一つの結論に辿り着いていた。
「ほぼ同じだった」
「記念教会の建築費用への出資が増えたのと、隠し通路の噂が流れ始めたのは」
「示し合わせたように同時期だったんです」
それはつまり、記念教会と秘密通路の関係性がある、そう感じさせる事実だった。
1じゃんね☆
長くなるから今回はここまでじゃんね☆
続きはまた夕方に、じゃんね☆
1話ごとの文字数で望ましいのは?
-
3000文字〜4000文字
-
4000文字〜5000文字
-
6000文字〜7000文字
-
8000文字〜90000文字
-
9000文字〜10000文字
-
10000文字〜12000文字
-
12000文字〜15000文字
-
15000文字以上