阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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②古関ウイは聖杯の雫を6つ集めなくてはいけない


★もしも古関ウイがサーヴァントのマスターだったら(−5.9)

 

 私とキャスター、さん。

二人分だけの足音だけが静寂に包まれた世界に響いている。

自然公園の中は驚くほど静かだった。

木々の葉もすっかり落ちて久しい季節。

微かに聞こえてくるのは細い枝が頼りなく風に吹かれて擦れ合う音ぐらいな物。

それすらも、はらはらと空から落ちてきては地面を白く化粧する雪が音を吸ってしまって意識しないと聞こえてこない。

 

 冬の夜。

現実離れした昨日とは打って変わってあまりにもごく普通の森の中。

それでも私はいつも肩に下げてばかりいる、この時ばかりは教習中のように愛銃を固く握りしめる。

恐ろしい、というのもある。

だがそれ以上に、既に警告を受けていた。

 

『マスター、これよりこの森は戦場となります。そして既にこの場は異界となっている、そうお考え下さい』

 

 自然公園の入り口前でキャスターさんに言われたことを思い出す。

警戒しろ、という話だった。

だから銃を構えている、ただそれだけの話。

 

 最も嫌われるのは指示通りに動かない人間だという話を聞いた事がある。

私とキャスターさんの立場は、契約上の関係性だけで言えばマスター()が上位だろう。

だがどう考えたって力関係は彼女が上だ。

所詮、体育の実技成績が下駄を履かせる必要があるような私に対してあちらは英雄。

 

 何より今は仮にも戦場。

巻き込まれてしまった以上、もし少しでも彼女の機嫌を損ねて愛想を尽かされてしまったら。

そしてこの場に私を置いて去っていってしまったら。

 

「へぇあぁ……」

 

 考えるだけで気分は憂鬱になり前に進む足取りが重くなる。

走る必要がある、ということだけ考えて革靴でもなく体育の授業用として買ったスニーカーを履いてきているというのに。

雪で徐々に濡れ始めたそれはどうやら私の気持ちと同じで軽やかに駆け出す様子にはとても見えない。

 

『(どうなさいましたか?ウイさん。何かありましたら念話で伺いますが……)』

 

 思わず、肩が跳ねた。

念話というのは聞いていたが実際に脳内に聞こえてくるその感覚は慣れろという方が無理だと言う話だ。

 

 何より今更見栄を張ってスニーカーにするのではなくホームセンターで買った長靴にすれば濡れずに済んだなどと下らない考えていたところなのだ。

余程、パーソナルスペースの狭い人間でもない限りは一人言のような思考までは読まれない*1という話だから良いが、それでも本当に慣れないし不安で仕方ない。

 

『(なっ、なななんでも!……ない、です……)』

 

『(そうでしたら良いですが……緊張もあるでしょう、少しでも御辛い時はどうぞ鶴めに御声がけを。枯れ木のような老骨ですが、見事背負ってみせますので)』

 

 済ました顔で力瘤を作るように腕を持ち上げる物だから構わない。

本当に勘弁してほしい。

こちらは対人能力という物が落第点な人間なのだ。

冗談なのか、それとも本気で言っているのかまるで判断できない。

そのせいで返事が遅れてしまい、ほんの一瞬だけ無言が流れてしまう。

 

「(やっ、やらかした……っ!)」

 

 これだ、これは本当に最悪なのだ。

読書好きの人間が恋焦がれる何も語らずただページを捲る音だけが聞こえる時間と似て否なる邪悪。

要は相手の言葉に咄嗟の返事ができなくて妙な無言が流れる虚無の時間。

 

「……あ、いえっ!?!その!そそっそんなことさせ……あぅ……」

 

 だから取り繕うように、せめて背負ってもらうだなんて大丈夫だということだけは伝えようとした。

気持ちだけは一丁前だ。

だが、常日頃から読書と書庫整理(重労働)に励む目や指と違って、賞味期限の切れたパサついた菓子パンを日に一度喰む時以外は碌に使わない下はまるで動いてはくれない。

ましてや咄嗟に念話なぞ使える筈もない。

 結果として、私は。

 

『(ふふっ、こーら。またお口が開いておられますよ?)』

 

『(す、すみません……)』

 

 優しい彼女に嗜められつつ、冬だというのに顔の火照りを隠せず押し黙る他なくなってしまった。

 

 また二人分の足音だけが取り残されて聞こえてくる時間が流れる。

愛銃の手入れは済ませてきた。

予備のマガジンもコンビニで呆れる数を買い揃えて持ち込んでいる。

チャンバーチェックだって、映画に出てくる女優や、それこそ正義実現委員会の生徒のように上手くはないが下手くそなりにもたもたしながら何度も確認している。

やるべき事は備えている。

だからこの無言の時間。

考えるのは、この森に入るまでにあった会話のこと。

 

『現在の聖杯の雫は六つに分たれ、それぞれが別々に点在しております。そして恐らくその稼働状態は誤作動を、聖杯戦争が起きていると誤認してサーヴァントを召喚するという誤作動を起こしてとしているのでしょう』

 

 今朝方、一般的な聖杯戦争について履修し終え、夜になってやっとマスターになると宣言した私にキャスターさんがしてくれたの今回の聖杯戦線の状況についてだった。

 

『ですが所詮は欠片、呼び出そうにも完璧な霊基にはなりません。むしろ大幅に劣化している……その結果、霊基が定っていないのです』

 

 聖杯、ではなくそれが七分割された聖杯の雫を奪い合う亜種聖杯戦線。

それが私が巻き込まれた戦いを

キャスターさん元々呼ばれた時の物のような一般的と呼ばれる聖杯戦争のそれより格段に規模感は小さくなるだろうという話だった。

 

 実際、斃さなきゃいけない相手は六騎ではなく四騎で良いという話だ。

おまけにもう一つ、私としては大変ありがたい話があった。

なんでとその四騎とやらも随分と劣化しているらしい。

 

『ですがそれこそが問題なのです』

 

 ただ上手い話には当然のように裏がある。

私だって伊達にトリニティに学籍を置いているわけじゃない。

阿呆のように砂糖菓子を貪っては茶会に勤しんで帰って課題もせずに寝るような、そういうキラキラした学生達とは違う。

優しい顔した人間が裏で何をしているか、たとえばあのシスターフッドを思い出せば気が引き締まるという話だ*2

だからそう、劣化して倒しやすい敵などと嬉しがるのはぬか喜びになる。

 

『喚び出されるのは影なるサーヴァントにもならぬ、半端者。召喚しようとしている対象のサーヴァントの逸話や伝承、それを仮初の形でごく一部のみ形にした木偶人形。故に、其れ等を倒したところで誤作動は止まりません』

 

 聖杯戦争中だと誤認して暴走している 聖杯擬き(聖杯の雫)

その癖、七分割された事で出力が下がってまとも召喚すら出来ないらしい。

結果として出てくるのは、本来喚ぼうとしているサーヴァントの一部だけ。

そして最悪なのは聖杯は自分でそんな不始末をしておきながら喚び出した擬き連中をサーヴァントだとは認めないらしい。

 

 結果として、サーヴァントじゃないから斃したという認定を受けない。

だから擬き連中を倒してもまた一部だけ出力されるが魔力が枯れるまで繰り返す、というのがキャスターさんと私の見解だ。

はっきり言える、最悪だ。

 

『如何するか。定まらぬ形を固定できぬ以上、やれる事は一つに御座います……ウイさん。私がこれからしようとしているのは』

 

 おまけにもう一つ最悪な知らせがあった。

キャスターさんは確かにそのクラスは魔術師と言われる物らしい。

だが彼女をしても誤作動状態の聖杯の雫を正常に戻す事は叶わないらしい。

言ってしまえば今の聖杯の雫は壊れたプリンター。

紙がなくなるまで頼みもしてない印刷物を吐き出すのだという。

既にその指令がプリンターの中で受け付けられてるから今更中断を送っても暫くは吐き続けるのだとか。

だから早急な解決をするとなると。

 

 

『マスターに引き連れられているサーヴァントによって攻撃を受けて敗北した、そういう形で事実を突きつけ、誤作動を起こした雫が納得するまで殴り続ける、という方法です』

 

 

相手が納得する(黙る)まで殴り続ける。

という物理的な手段しかない、というわけらしく。

 

『些か不恰好になりますがお赦し下さいね?』

 

 もうどうにでもなってくれと、ウィンクする彼女に頷く他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 1/3

 

 

 

 

 

 

 

 蓋を開けて見れば当然だったかもしれない。

 

ぎぃぃ……っ!

 

 純白の光が地面より柱となってあの幽鬼、敵である仮称()()()を空に縫い付ける。

かつて映像資料で見た間欠泉のように、在らん限りに噴き出した光はその勢いのままモドキを焼き尽くした。

 

「次───!」

 

 すぐさま油断なく杖を構えるキャスターさんは普段の淑女振りとは打って変わって歴戦の猛者という立ち振る舞い。

サーヴァント。

異世界の英雄。

 

 そう聞かされた時は言葉をそのまま鵜呑みにしただけだった。

英雄なんて物、少なくとも自分の人生の中で小説の中以外で登場する事なんてなかった。

自分自身、別に昔から外を走り回るのが好きな子どもだったわけでもなく、運動神経だって良い方なわけじゃない。

だから銃撃戦に巻き込まれる事だって他の生徒に比べれば格段に少ないだろうし、そもそもが出不精。

戦いの場に身を置くという経験に乏しかった。

 

みぃぃっけぇぇ……っ!

 

 だからだろう。

彼女の戦い方振りを見て、私が如何に浅く英雄という物を受け止めていたのかを痛烈に理解した。

 

「次から、次に……というやつですね!」

 

 キヴォトスではあまり見ない武術。

キャスターさんのそれは杖術、というべきか。

この場所に来るまでに自分はさほど戦うのが得意なサーヴァントではない、と聞いていた。

卜占よりも針仕事を。

対魔力による抵抗によって七つのクラスの内、四つのクラスに相性不利となるキャスターというサーヴァント。

それも相まって決して強い、英霊ではないと彼女は正直に話してくれていた。

 それが今───。

 

「(どんな前振りですか……それ……!)」

 

 ()()()()()()()()()に向かって杖の先端から放たれる光。

別にその光景自体はキヴォトスでは珍しくない。

トリニティでは伝統的に歴史ある銃火器が好まれる傾向だが、ミレニアムあたりに行けば手持ちできる程ではないが 光線銃器(レーザー)のような物、幾らでも目にする。

 

オマエッ!邪ァァ魔ァァッ……ッ!

 

 それだって別に希少というわけじゃない。

ただ実戦に耐え得る火力を追求しようとすると冷却等の問題から小型化という課題が立ちはだかったり、コストの問題をクリアできないというだけ。

そもそもそれなら既存の銃で良いだろう、とそんなインタビュー記事が載っていた雑誌を読んだ覚えがある。

 

 だけど、今絶え間なく放たれる文字通りの魔力、という物による()()はどうだろう。

放たれる度に森の木々を焼き払い、瞬時に炭化させていく。

時にガラス質のように変化しては散弾のように相手へと向かっていく。

正しく規格外。

通常の火器で言うなれば、FT*3やRL*4の威力を併せ持った散弾銃や突撃銃といった様相で()()()()()モドキを殲滅していく。

 

アアあアたラたらたラたらァァァなァァァいッ!

 

 モドキも負けじとその砲撃を掻い潜り、キャスターさんの懐に潜り込もうと迫る。

森の中で暗いとはいえ、もう随分破壊されてきているのもあってか、月明かりを雪面が照り返して周囲は濃い陰影を作っている。

それもあってキャスターさんの視界は確保されているのだろう。

 

 躱して、迫る敵影を捉えて離さない。

確実に近づこうとその青白い翅を蠅のように羽ばたかせるモドキへ、彼女は砲身から光を()()()()()()にした。

 

「粗断ちッ!させて頂きますッ!」

 

 一刀両断。

違う、あれはもう一刀()()だ。

言うなれば光の裁ち鋏。

垂れ流しにしている魔力の照射。

彼女は振りかぶったその熱量を、刀でも振るうように敵へと叩き込む。

 

ぎぃぃぃい痛ぃぃぃぃぃッ!

 

 断末魔が聞こえる。

これでもう二十は越えただろう。

森の奥深くに入って、モドキが私達に襲いかかって来てからかれこれ30分は過ぎたか。

未だ余裕綽々といった様子の彼女は疲れも見せず大立ち回りをしている。

 

「すご……」

 

 思わず、そんな無様な感想擬きが出たのは甚だ不本意だったが仕方ない。

昨日だって、たった一撃で倒していた。

だったらこんな風に文字通り無双するような光景を見る事になるのは予想して然るべきだったのは私の方だろう。

 

 だから私は。

 

『(マスター、敵はまだ数が知れません。恥ずかしながら非力な私では一体ずつ倒すので精一杯。もう暫しお時間を下さいな)』

 

「あ、はい……どうぞ、というかよろしくお願いします……」

 

『(承知致しました、お任せを!)』

 

 いつの間にか銃のグリップに力と緊張を込めて握っていた筈の掌を緩めて、惚けるように彼女の蹂躙劇を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

Sword , or Death

BATTLE 2/3

 

 

 

 

 

 

 

 役に立とう、という気持ちがないわけではない。

だからと言ってその気持ちが何か結果に繋がるのかと言われれば話は別だろう。

 

「(やること……なんて、あるわけないでしょう)」

 

 今もまたキャスターさんが手から放った杼に撃ち抜かれたモドキが燃え上がりながら消滅していった。

もう数えるのもそうなら、自分が何かしようという気持ちを抱くのも馬鹿らしい。

 

「(これが英雄……これがサーヴァント……これで、最弱……)」

 

 笑いが込み上げてくる。

何が『私なんかにそれでもできる事があるのなら』だ。

いざ意気揚々とまではいかないまでも戦場に出てきてみれば援護射撃すら必要ない。

なんなら私の下手くそな狙撃では却って邪魔になるだけだろう。

 

「(……なにを、馬鹿みたいにはしゃいでいたんでしょう……)」

 

 古関ウイという人間はどこまで行ってもそんなにすごい事はできない。

決してスーパーヒーローには。

物語の主人公にはなれっこない。

そんな事はとうの昔に分かっていたというのに。

 

「(本当に……もう……帰りたい……)」

 

 キャスターさんがまた一人、モドキを倒した。

私は下を向く。

唇を噛む。

リップなんてまともに付け方だって知らないその乾燥したその味は苦い鉄だった。

 

 キャスターさんが高らかに術式を使う宣言が聞こえる。

私は銃を下ろした。

構えてたって仕方がない。

敵がこっちに来る事もない。

大方、聖杯の雫はキャスターさんが見据えている眼前にあるのだろう。

モドキもそちらから出てくる。

マスターであっても魔術師ではない私にはそれしか分からない。

私には何もない空間から連中が湧いてくるようにしか見えない。

 

 キャスターさんの方から何か声が聞こえる。

私は目を閉じた。

キャスターさんの役に立てるんじゃと思ってマスターになりますだなんて格好つけた一時間前の自分を縊り殺してやりたくなる。

そんな風に浅はかにも自分自身に一瞬でも期待を持った己を見たくない。

 

 だってそうだろう。

古関ウイには本しかない。

友達も、戦う力も、弱い己を我慢して前を見据えている勇気も。

何もないんだから。

 

そんな風に考える己の態度こそが浅はかであったというのに。

私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ウイさん……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は、ぇ……?」

 

目の前で私を庇うように両手を広げて。

そうしてその純白の衣装に身を包んでいる筈の背中を真っ赤に染めている彼女を見上げて。

 

そうなるまで気が付かなかった。

 

 

 

 

*1
???「へくしっ!うぅ……なんだか急に寒く。あっ、セイバーさん!おこた出るならついでに玄関の蜜柑取ってきて下さい!……あー!またそういう事言ってー!ハナコちゃんに言いつけますからねーっだ!」

*2
???「へくちっ……うぅ、お恥ずかしい。どうやら冷えたようで……まぁ!半纏を私に?よろしいのですか?ふふっ、いいえ、とても嬉しいです。いつもありがとうございます、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎さん」

*3
Flame Thrower。フレイムスロワー、火炎放射器。キヴォトス広しと言えど使用者は少ない

*4
Roket Launcher。ロケット弾発射機。高火力ながら戦術的な使用に専門性と市街地では過剰な威力、何より弾薬が馬鹿にならない為、こちらも使用者は少ない





長くなるから二分割!

1話ごとの文字数で望ましいのは?

  • 3000文字〜4000文字
  • 4000文字〜5000文字
  • 6000文字〜7000文字
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