阿慈谷ヒフミは聖杯戦争に参加するようです   作:1じゃんね☆

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あー!?
ライダー、またハルカちゃんで遊んでるー!
ずっるいー!
私だってハルカちゃんと遊びたいのに我慢して、おじさん達とお喋りしてたのにさー!
……ふぅん。
まぁ、いいよー。

ほら、ハルカちゃん。
次はムツキの番だからね?
いっぱい、いっぱい!
お話、しよ?



夕暮れに大翼を広げて

 

「ええ、そう。いいわ、自治区境界線ね。それじゃあ1時間後に」

 

 電子音が鳴り、少女はその細い腕を下ろした。

この前出来た幼い友人からの電話は、以前のような誕生会の誘いと違って随分と物々しい物だった。

助けてほしい。

話を聞いて欲しい。

どうか力になってほしい、と。

どうするべきか、どんな行動に出るべきか。

僅かな逡巡の後、少女は苦いだけの珈琲で唇を湿らせてから立ち上がった。

 

「アコ」

 

「はい、ヒナ委員長」

 

少女の一声に、副官である天雨アコは静かな声で応える。

 

「……少し、出掛けてくる」

 

「では残りの書類と当直への対応は私が」

 

「うん、お願い」

 

 副官の何もないかのように自然な対応に少女はやはり考え過ぎたかという苦笑いとほんの少しの寂しさを感じながら、立てかけてあった愛銃を手に取り、そのロングコートに袖を通して。

 

「ヒナ委員長」

 

「なに?」

 

()()()()()()

 

背を向けて資料整理を始める彼女の肩が震えている事に目を見開いてから、すぐに瞠目して微笑んだ。

 

「ええ、すぐに済ませて帰ってくるから」

 

「はい、いつも通りお待ちしております」

 

「早く帰れたのなら、夕食でも一緒に摂りましょうか」

 

「……それは、楽しみにしております」

 

「そっ」

 

それだけ伝えてから少女は、ゲヘナ最強と名高い空崎ヒナは執務室を出て一人廊下を歩き出す。

随分と長い付き合いになったのだ。

今更、これ以上の会話は二人には不要だった。

 

 

 

「───()()()()()()

 

 

 

 口から静かな気炎と共に漏れたのは名前。

空崎ヒナは知っている、その存在を。

確かにゲヘナ学園は数日前に行われた3校での聖杯戦争非常対策会議に欠席した。

 

 だが果たして、ゲヘナ学園が。

あの三大校は元よりこのキヴォトスでも屈指の強者揃いと謳われるゲヘナ学園が。

聖杯戦争について、その情報戦で遅れをとる事があるだろうか。

 

 無論、答えは否だ。

情報部が、そして風紀委員会が、それぞれ独自の経路でトリニティやミレニアムに勝るとも劣らぬ量と質の情報を極秘裏に入手している。

特に風紀委員会は既に数度のサーヴァント戦を個人、集団を問わず経験していた。

そしてそれは言わずもがなゲヘナ最強たる彼女も同じく。

 

 幾度も手痛い抵抗を受けたのだから。

まだ未熟でも懸命に風紀委員の職務を熟す後輩を傷つけられたのだから。

何よりその脅威を知っている。

 

空崎ヒナは、ゲヘナ学園は、既にサーヴァントという存在へ最大限の警戒を敷いている。

 

『助けてほしい事があるんです』

 

()()小鳥遊ホシノが万全でないとはいえ、勝ちを拾えなかった。

 

()()()()()、アリス達のお願いを聞いて頂けませんか?』

 

その事実を、空崎ヒナは重く見ている。

 

「どういうつもりか分からないけれど、必要なら」

 

 みしりと空間が、静かに漏れ出た怒気に悲鳴をあげる。

 

 

 

 

 

 

「───私が相手してあげるわ、サーヴァント」

 

 

 

 

 

 

 空崎ヒナ、現ゲヘナ自治区における単体戦力の頂点(ハイエンド)

最強と名高く、犬猿の仲と知られるあの万魔殿の羽沼マコトをしてその戦闘能力だけはただの少しも過小評価する事はない特例(イレギュラー)

そして現在のキヴォトスで既に対サーヴァントとの交戦で()()()()()()()()() 最速記録保持者(レコードホルダー)

 

 最も位貴き嵐の王は、軍靴を鳴らして友の待つ場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲヘナの風紀委員長と連絡取れました!あと1時間もしたら来てくれるそうです!合流からの交渉フェイズ、突入です!」

 

「よぉっし!とりあえず教会関係で今日出来そうな事はこれで全部片付いたね!」

 

「問題はゲヘナ側が例の前任生徒会長やそれに関連する施設を探ることに対して、そして聖杯戦争自体そのものに対してどういったスタンスを羽沼会長達が取っているかが不明な点……ですね?」

 

 今回はバスを乗り継ぎつつの移動。

流石に自治区境界線という事もあって遠隔地だからかバスの本数も少なくて中々来ません。

 

「でもさ、ハナコ。ゲヘナの生徒会長も結構聖杯戦争気にしてるみたいな話、ユウカがしたなかったっけ?あの……羽……羽なんとかって会長」

 

「羽沼マコトさんだよ、お姉ちゃん」

 

「あーそうそう、マコト会長。聖杯戦争とかの情報もトリニティとやり取りしたり、情報とーせー?とかもきっちりやってるし結構協力的なんじゃないの?」

 

 モモイちゃんの言葉の通り、ナギサ様やユウカさんが言うにはこの前の非常対策会議こそ参加されなかったけどホットラインで連携を取り合っている、という事らしい。それなら協力出来るし何も心配する事ないんじゃという思考がありますけど、反面ハナコちゃんが危惧しているのも理解できます。

 

「ユウカちゃん達から聞いた限り、羽沼議長の今回した学外への対応はどれも『消極的な協力』だけです。その意図が少し気になります」

 

「協力姿勢、は見せてくれるけど……内情を全部共有したりしたくない……みたいな感じ、なのかな?」

 

「それも十分考えられますね。トリニティやシャーレで聞く限りですが、羽沼議長の評判は()()()()()()()()()()()。数多くの事業を手掛ける行動力、市井の意見に耳を傾ける柔軟性、良くも悪くも自由奔放な自治性で有名なゲヘナ自治区の手綱を握る優れた感覚。いずれにせよ決して愚鈍な裸の王様、というわけではない筈」

 

 あまりゲヘナについては知りませんでしたけど、ハナコちゃんが言うには羽沼議長はどうやらとてもしっかりした方のようです。

今度イズミさんに会った時かフウカちゃんとお話しする機会があったら聞いてみてもいいかもしれませんね。

 

「それなら、消極的な立ち回りを続けるのは……」

 

「考えられるのは絞って三つ、でしょうか。一つはライダー陣営が学園の生徒達で彼女達が比較的交戦的かつ反政府側の動きをしている、その生徒達を理由に内政干渉が少しでも及ぶ事を嫌った。もう一つはゲヘナ自体が彼女達を庇護する判断をしたから」

 

そして残りは、恐らく今日の午前中に聞いた事。

 

「最後の一つ、ってもしかしてウイ先輩が言ってた前のゲヘナの生徒会長に関連してるから、とかなの?でも……その生徒会長ってとっくにいなくなったって……」

 

 コハルちゃんの言う通り、例の雷帝さんという方が関わってるから動きを見せられない、大々的に動けない、のかもしれません。

 

「今いなくても()()が問題なんです、コハルちゃん」

 

「よく分かんないけど、でもそれって昔の話なのにそんなに大事なわけ?」

 

「残念ながら……もし仮に雷帝という方が地下に隠し通路を作っていた、そうじゃなくても何かしら他自治区に知られたくない物があって、それをライダー陣営が利用しているのなら……ゲヘナ側は他自治区へ協力できないし協力を申し入れられない。謂わば過去の内々で処理したい秘密その物を人質に取られているような物なんです」

 

 そうなってくると、やはり今回の風紀委員会の委員長さんとのお話で何かしらの結果が欲しいところです。

 

「となると、どの程度、それからどんな風にその風紀委員長さんにお話しするべきなんでしょうか?政治的な問題が絡んでくる以上、上手くお願いしないと……」

 

 とはいえ悩んでしまって、みなさんの顔を見渡してしまいます。

ウイさんのように何度も無理を聞いてもらっている相手でも、ナギサ様のように全部お話しした相手でもありません。

 

 今回の話し合いには、私達の話を聞いた彼女が力を貸してもいいと納得できるだけの理由

そしてあちらが話したり譲歩してくれるだけの()()()()

これら二つが必須かつ重要な部分になるのではと思います。

 

 ですが私達はマスターとはいえあくまで立場は一般生徒、生徒会からの正式な申し出ではありませんし、そもそもウイさんから生徒会を経由するのはやめるべきだと忠告を頂いています。

頭を悩ます問題だと感じて、頭痛も走りそうになったそのタイミングで。

 

 

 

「アリスは素直に言うのがいい気がします!」

 

 

 

アリスちゃんが手をまっすぐに伸ばしてそう言った。

 

「ヒフミは前に自分がセイバーのマスターだと正直に話してくれました!それで今はヒフミもハナコもコハルもアズサも私達の仲間になってくれました」

 

 彼女はバス停の屋根から漏れる陽射しを受けてその綺麗な髪に天使の輪を乗せながら、はにかんで話す。

嬉しかったと、あの時した『マスターである事を自分から明かす』という選択を、今彼女は思い返して心から喜んでくれていた。

 

「風紀委員長はとっても優しい人です、アリスのお友達です。きっとアリス達を助けてくれます……なら、アリスはちゃんと正直にお話ししたいです」

 

「アリスちゃん……」

 

「教会を探索したい、そうやって素直にお願いする。ヒフミがそうしてくれたあの時と同じで、きっと良い結果が待っています!アリスは()()()()()です!」

 

 そうしたいんだと、アリスちゃんは胸を張ってそう言う。

私があの日した選択を振り返って、自分もそうしたいのだと笑ってくれる彼女に、何故だか救われたような気すらします。

そして、アリスちゃんの言葉にもう一人、声が隣から。

 

「私もアリスの言葉と同意見だ。政治的な問題は絡むのかもしれない、確かに雷帝という存在について触れるのはウイの言っていた通りゲヘナの生徒相手には危険かもしれない。でも、初めから分かってくれる訳ないと耳を塞いでしまったら、何も聞こえない、何も話せない」

 

 アズサちゃんがしっかりと前を向いて、私達一人ひとりの目を見てそう言います。

笑顔のアリスちゃんとはまた違う、力強い意志を灯した表情で。

 

「私達の想いを、ヒフミの想いを、まず真っ直ぐに伝える。戦闘で用意や準備を怠らないのは大切だけれど、最後に必要になってくるのは相手の懐に飛び込む勇気だ。それはきっと戦いだけに限らない……誰かと話す時もきっとそうだと私は思う」

 

 その言葉に私は、勇気を貰います。

これからお話しするゲヘナの風気委員長さん。

今まではシャーレの併設カフェでお見かけするぐらいで、しっかりお話しする機会はありませんでした。

でもだからと言って、尻込みしたり悩んでたりしても仕方ありません。

 

 出来る事を、素直に相手に気持ちを伝える事を。

これまでそうしてきたように、今回も頑張ろうと気持ちは前を向いて。

それに合わせて、自治区境界線へ向かうバスが到着しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日陰となっている瓦礫の影の下で、生温い風が肌に触れました。

制服の下にじわりと汗をかく嫌な感覚をいやに鮮明に感じ取ってしまいます。

最後のバスに揺られてから一時間、私達が自治区境界線に到着して15分ほどが経っていました。

 

「……そろそろ、ですかね?」

 

「うん。約束の時間になる」

 

 アズサちゃんの声もいつもより少しだけ固いものがあります。

緊張している、私と同じようにです。

ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナさん。名前はよく伺っています。

 

曰く───ゲヘナ学園『最強』。

 

先生からの信頼も厚くて、日々ゲヘナ自治区で発生する襲撃や銃撃戦やテロ活動を鎮圧している風紀委員会の方達の頂点。

 

「やっぱりウイ先輩と同じ学年っていうのが気になりますね」

 

 そして、ミドリちゃんの言う通り、彼女はウイさんと同じ三年生。

つまりそれは二年前にい『雷帝と呼ばれるゲヘナ学園の前任生徒会長と関係している可能性があるという事。

ウイさんがあれだけ警戒していた以上、正直な話、今回のお願いに対してゲヘナの、それも実働部隊の要職に就いている方が良い反応を見せてくださるのは難しい点もあります。

 

「でもここで話さなきゃ!……調べるの難しくなっちゃうし……」

 

「と、トリニティだけじゃなくて……ユウカ先輩が警戒網敷いても廃墟に来れた……なら、きっとライダー、とそのマスターは地下通路かそれに類似した移動方法を持ってるはず…… 」

 

 ウイさんの言っていた教会に資金提供があったのと地下通路を含めた複数の噂が流れたのも同時期。

確かに地下通路の計画自体はゲヘナ旧政権時代に考えられていました。

それなら何かしらの繋がりはある、と考えても無理はありません。

だからこそ、ここでヒナさんに一連の情報の裏取りを、事実確認をした上で。

 

「アルさん達との繋がりは間違いなくある筈なんです。ならここでヒナさんに確認と許可を得なくちゃいけません……!」

 

アルさん達が何故戦う選択をしたのか、何故殺し合いに積極的な立場にいなきゃいけないのか、そして、どんな願いを抱えているのか。

彼女達の考えている事に繋がる為にも私達は。

 

「……あっ!ゲヘナの風紀委員長です!」

 

 アリスちゃんの声で私達は前を向きました。

嫌になるほど青く、けれど少しずつその色にグラデーションが生まれ始める空の向こうから。

静かな足取りでネイビーブルーの外套を翻して、空崎ヒナさんは私達の前に姿を見せてくれました。

 

 

 

 

 

 

「(……八人、と()()ね。相変わらず、良い腕)」

 

少女は荒れ野を進む。

慣れた場所というのもあって考えごとをしながら、拳大のコンクリートの破片を軽々と踏み砕きながら悠然と歩いていく。

目の前、500メートル先には己を慕ってパーティにも誘ってくれる他校の友人が、天童アリスが手を振っているのが見える。

その傍に、()()補習授業部がいるのも見える。

 

「(サーヴァントの姿は見えない、か)」

 

もし仮に、天童アリスに、補習授業部に。

自分の友達に、そしてかつて先生が守ろうとした娘達にサーヴァントという前代未聞の脅威が降りかかるのであるなら。

 

「(───それを、見極めなくちゃ)」

 

 それ故に空崎ヒナはここに来た。

トリニティ・ミレニアム・アビドスの連名による情報提供とゲヘナ学園の裏取りによって彼女達が聖杯戦争に、殺し合いに関わっているのは、関わらなくてはいけないのはわかっている。

 

 だからこそ、見極めなくてはいけない。

彼女達に悪しき影響はないかどうか、友人が傷ついてはいないか。

空崎ヒナは、一人の少女としてアリスからの『助けてほしい』『教えてほしいことがある』という言葉に応える為に。

 

「(必要なら……何度だって叩きのめして、私が殺してみせる)」

 

此処に来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自治区境界線、それを示す鉄条網は力無く垂れ下がってその意味をなくしている。

それでもその鉄の棘が這う一本の線こそがトリニティとゲヘナを分け隔ていて、私達と空崎ヒナさんはそれを挟んで対峙していた。

 

「久しぶりね、アリス……随分とお客さんが多くて驚いたわ」

 

「お久しぶりです!ヒナ!また会えてアリスは嬉しいです!」

 

「そう……なら来て良かった」

 

 薄く微笑んで空崎さんはアリスちゃんに答えた。

聞いていたゲヘナでの活躍からはとても想像できないほど優しい表情は、とても慈愛に溢れておられました。

そんな彼女は、アリスちゃんから視線を外すと私達を、正確には補習授業部のことを見て言われます。

 

「そして、こうしてちゃんと顔を合わせるのはあの夜以来かしら?トリニティ総合学園の補習授業部」

 

実はシャーレでお見かけしたというのを抜きにしても私達は風紀委員長さんにお会いするのは初めてではありません。

あの日、あの夜。

先生が美食研究会の方を引き渡す為に行った自治区外郭にある大橋で遠巻きながら私達も彼女を見ていまひた。

 

「はい、こんにちは空崎先輩。以前はその……お世話になりました」

 

「あの子達、うちの学生だから。大体あの人が考えた事だし……それに、貴方達が退学にならずに今も元気にしているのを見れて私も嬉しい」

 

 ヒナでいいわ、とひらひらと手を振る彼女は冷めた口振りだけれど、あの時の私達の事情を知っているらしくどこかほっとしたような温度が言葉に乗っています。

 

 見た目以上、そしてその重責ある立場以上に、優しい先輩なのだと思っていると、彼女は鋭い目で空気を切り替えるように静かに喋り始められまひた。

 

「急な呼び出しだったから貴女達がどんな話をしたいのかだとか、どういう物を私に求めているかは分からない」

 

 

「あは、は……そっ、そうですよね!急にお呼びだてし「だけど」……はい」

 

 彼女の目が細まり私達を、いいえ。

私の方を見定めるように見つめられます。

 

「自治区境界線なんてデリケートな場所呼び出すのは少し考え物かしら。人の手も目も少なくて、政治的にも触り辛い場所にゲヘナの風紀委員長を呼ぶなんて───()()()()、そう言っているような物よ」

 

 淡々としていながら、どことなく先生と似ているような間違った答えの箇所を丁寧に説明する時を思わせる態度でヒナさんから指摘を受けてしまいました。

 

「あはは……すみません、でも、大事な話なんです」

 

 とはいえ、これは確認です。

裏がある話、そういう認識でいいんだなという彼女からの問いかけに私は頷きます。

 

 実際、多分D.U.じゃ無理でした。

トリニティ自治区内というのもある、だけど本当の意味で信じてもらうには『こちらがゲヘナ自治区にいる風紀委員会の委員長に攻撃したら大問題になる』自治区境界線でなくては。

私達が何があっても絶対に手を出せないこの場所でなきゃ、それぐらいの安全を担保しなきゃいけなかったから。

そう、だから。ここで話を……。

 

「……ヒナさん、来て頂いたのは理由が「話してくれるのは構わないけど、その前に───」……へ?」

 

変な声が、私の喉から漏れて。私の目の先には。

 

 

 

 

 

 

「きちんと貴女達のサーヴァントは出しておきない」

 

 

 

 

 

 

厳しい重機関銃を片手で構えるヒナさんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 静かな声。

ここに来た時から一度も変わらない、涼やかなその声。

それなのに、何も出来ない、何もさせてもらえない。

喉輪を潰されたような強烈な威圧感。

唾を飲み込むことすらやっとの私達に、彼女は続ける。

 

「私は少なくとも、サーヴァントが現れる前にこの場にいる人間の()()は制圧できる」

 

事も無げにそう言うのはきっと事実でしょう。

ちらりと見ればユズちゃんは完全に腰を抜かしてコハルちゃんに支えられてますし、平気そうなのはアズサちゃんと驚いた顔をしているアリスちゃんぐらい。

そのアズサちゃんの顔にだって冷や汗が一筋流れている。

きっとこの場の()()()()()()()なんて、セイバーさん達が霊体化を解くより前に意識を持っていかれ兼ねない……そういう説得力があって。

 

「必要なら私は平気な顔で貴女達を撃つし、サーヴァントを引き摺り出す」

 

脅しでもなんでもなく事実になるぞと、彼女はそう言う。

 

「そうならない内に貴女達のサーヴァントを出しなさい」

 

 理解は、出来ます。

その意図もアリスちゃんの友達でゲヘナの風紀委員長という立場を考えれば、なんとなく分かる気がしました。

サーヴァントについてだってナギサ様やユウカさんから話が入ってるのかもと思えば知っていても不思議じゃない。

だから。

 

『(───お願いします、セイバーさん)』

 

 返答はなく、彼らは姿を現してくれました。

光が集まり、虚空が歪むようにしてセイバーさん達はその姿で空間を塗りつぶすように、いつの間にか立っておられます。

そして現れた彼が最初に言ったのは、私が考えていた物と同じでした。

 

()()()()()()()の提案、感謝する。僕はセイバー、この子達と共に聖杯戦争に参加するサーヴァントだ」

 

「慧眼な事だ、アリスの友よ。我はキャスター。短い間となるが、よろしく頼む」

 

 会って少し、だけれど私はヒナさんがアリスちゃんのお友達で先生からもとても信頼されている方だと知っています。

これまでの話の中でも決して暴力的な人でないとも分かっています。

なら、きっと何か考えがあって私達にサーヴァントを出す事を要求した。

それはきっとそれは、自分の為でなく、『私達の為』な気がするんです。

 

 けど、その答えは返って来なくて、代わりに彼女は静かにお二人を見据えて。

 

「───便利屋の子と同じで『喋るタイプ』、か」

 

 小さくそう、呟きました。

 

「その口振り、我ら以外のサーヴァントに心当たりがあるとみて、相違ないか?」

 

「ええ、もしかするとゲヘナ側から映像が提供されているかもしれないけど風紀委員会、そして私はサーヴァントとの交戦経験がある」

 

ヒナさんもまたアズサちゃんやホシノさんと同じようにサーヴァントの方と戦った事がある、そう言われます。

 

「だから確認が必要なの。貴方達の存在が……私達にとって明確な脅威かどうか。そしてアリス達に何かしらの悪影響を与えていないかどうか」

 

 重々しい音を響かせてその銃口をセイバーさん達へと向けられる。

それにセイバーさん達は何も構えず、むしろ少しだけ私達から離れた場所に立ったまま無抵抗でいる。ヒナさんの考えは分かって、だから抵抗の意思一つ見せずに静かに待つセイバーさん達の気持ちも分かる。

それでも心臓に良くない光景を見て、早鐘が打つ。そして直感するんです。

もし仮にヒナさんが脅威だと判断して今この場で戦いとなれば、数は決して不利ではないけれど。

 

───私達はこの人を相手に敗北し兼ねない、と。

 

暫く、睨み合う時間が続いて。

 

「それで、採点結果は如何かな?」

 

彼女は銃口を上に向けてから目を逸らさず言った。

 

「……私には判断できない。少なくとも私の知っているサーヴァントは有無を言わさず戦闘を仕掛けてくる連中だから」

 

「……なるほど、それならここから先は僕の役割ではないかな」

 

 彼はそう言って、だけどやはりその場から動かずに会話を閉じてしまう。

役割、つまり脅威ではないと説明するのはセイバーさんではなく、私の出番だ。

 

「空崎ヒナさん、お話しがあります」

 

「……良いわ、ゲヘナ学園三年生の空崎ヒナとして話を聞きましょう」

 

彼女の目を見て私ははっきりと言います。

 

「陸八魔アルさんの件についてです」

 

きっとここから先こそが分水嶺。

信頼を勝ち取れるように話をしなくちゃいけません。

 

「私は聖杯戦争の参加者です。巻き込まれる形での参加となりましたけど、今の、そしてこれからの目的は聖杯戦争の……平和的、な解決です」

 

ハッピーエンド、を少し畏まった言い方にして伝える。

 

「ゲヘナ学園の陸八魔アルさんが聖杯戦争に参加しているのは先ほどの口振りからご存知の筈です。そして彼女達は今、トリニティやミレニアムでも戦闘行為をしています」

 

そう、ハナコちゃんも言っていたようにゲヘナ学園の立場は消極的な協力姿勢です。

それでも完全に無交渉ではありませんでした。

多分ですけどゲヘナは聖杯戦争とサーヴァントが脅威である事を理解しています。

そしてそれについても私達と最低でも同程度、或いはそれ以上に何か知っていてもおかしくありません。

それなのに『消極的』だったのは関われない『理由』がある。

それを私は分からない以上考慮も配慮もできない、なら。

足をすくめて私まで消極的にいたら何も分からないままで終わってしまう。

 

「……私は、アルさんと友達です。一緒にアイドル活動だってしました、アビドスにも一緒に遊びに行く事だってあるんです」

 

だから下手な小細工や交渉なんてしまけん。

信頼してもらえるように胸襟を開く、素直に相手の懐へ直球で飛び込んでいきます。

 

「大事な友達が殺し合いに参加していて、戦っている。私とも最後には殺し合わなきゃいけないかもしれない」

 

 私の素直な気持ちを伝える為に言葉を尽くす。

 

「そんなの嫌なんです……どうしてアルさんがそんな戦いをしなきゃいけないのか、知って、その上で止めたいんです」

 

目を逸らさずに、殺し合いの舞台に参加している、その為の武器を持っている私が何をしたいのか、それをきちんと伝える。

 

「アルさん達が各自治区にどうやって移動しているかを調べた時……地下を通っている可能性が考えられました。そして以前のゲヘナであったオークション会場の爆破事件……その最後の現場だった『旧カイゼリン・ブリッツ記念教会』」

 

その言葉に僅かにヒナさんの目が見開いた気がした。

 

分かって、いました。

ウイさんからあれだけ忠告された内容に触れる、きっとそれはとても重い意味があります。

それでも下手な誤魔化しなんて私には出来ません。

 

「その教会とアルさん達が使っている地下通路に関係があるかもしれないんです」

 

 見極めるといった彼女は測りかねるとそう言ってくれたんです。

なら嘘も小細工も必要ない、ただ知っている事、教えて欲しい事をきちんと全て言う。

 

「私達は教会について調べたい、叶うなら現地に入って調査したい。そして、教会と秘密の地下通路に関係があるかも知りたいんですっ」

 

 きっと、アリスちゃんの事を心配している彼女に、どうかこの戦いを終わらせたいと伝えられるように。力強く、精一杯の気持ちを込めて私は言う。

 

「ゲヘナの方にとってその教会が触れられたくない過去なのは知りました……でもどうか、教えて下さい。私の大事な友達に繋がる手掛かりなんですっ」

 

 ヒナさんがアリスちゃんを心配するようにわたしも同じようにアルさんの事が心配だから。あの映像で泣いていた彼女の姿を見た。私の友達が泣いていた。そんな彼女が殺し合わなきゃいけないなんて見過ごせない。

 

 

 

「お願いしますっ!空崎ヒナさん……っ!」

 

 

 

 信頼してもらえるように、どうか力を貸してもらえるようにと。私は頭を下げた。

ほんの少し、それとも思ってるより長くか。じりじりと頭の後ろに暑い日差しを受けながら待つ時間があって。

それから静かに息を吐く音が聞こえた。

 

 

 

「顔を上げなさい。トリニティの子が、それもティーパーティのお気に入りの子が軽々しくゲヘナの人間に頭なんて下げちゃ駄目よ……桐藤ナギサも、()()()も、貴女のそういう所が気に入っているのかもしれないけど」

 

 

 

おずおずと顔を上げると、一本線の向こうにいた彼女はその線を踏み越えて私の目の前に立って。

 

 

 

「この子達に例の爆破事件の話まで教えて……まったく仕方ない人なんだから」

 

 

 

優しく微笑んでいた。

 





1じゃんね☆
なんか原作ソラちゃんのミニストでも登場して共働き夫婦感出してるヒナちゃんがここで登場じゃんね☆
うちのシャーレでもよくマノントロッポしてもらってるじゃんね☆……つよつよ先生のヒナちゃんをお借りして、じゃんね……

続きは長くなるからまた夜に、じゃんね☆

……スレで投稿してた当時は最後までヒナちゃんとのイベント戦するかどうかで悩んでたじゃんね☆
キヴォトス最強クラスの実力者と戦うイベント、やってみたかったじゃんね☆

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